●万能戦艦ケルベロスブレイドにて
艦内を走る足音が響き、すぐに顔を見せたのは信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)であった。
「皆お疲れさまやよ! 《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングの制圧に向かったケルベロスの皆も無事に帰還出来てるみたいやし、一安心ってとこやね」
笑顔を見せる彼女がすぐに表情を引き締めると、手にした大きめの手帳を開く。
「せやけど、まだうちらの戦いは終わってへんよ」
新たに得られた情報によると、《甦生氷城》の制圧に成功した事でデスバレスへの突入口を開く事ができたのだと、撫子がケルベロス達へと告げる。
そして、聖王女エロヒムの声を聞いたというケルベロス達からの報告と全く同じものをグラビティ・チェインレーダーにて確認、そしてその解析情報を元に強化された予知能力によって得られた結果――。
「突入口の向こう側、それからデスバレスの情報及び死神の防衛作戦についての情報を得ることができたんよ!」
これは我々にとって千載一遇のチャンスであると、撫子が頷く。
「これによってな、万能戦艦ケルベロスブレイドはデスバレス回廊を突破、冥府の海潜航能力を使って聖王女エロヒムが囚われていると予想される場所、デスバレス深海層を目指すことになったんよ」
危険な任務であると、撫子はケルベロス達の顔を見回す。
「せやけど、これは死神と決着をつける重要な任務でもあるんよ」
だから、どうか皆の力を貸してほしいのだと撫子が声を響かせた。
ケルベロス達が決意を秘めた瞳で頷くのを見て、撫子が話を進める。
「まず、《甦生氷城》いうんは地上とデスバレスを繋ぐ唯一の回廊なんよ。せやから、必然的に強力な防衛体制が整えられとってな」
それがヴェロニカの軍勢であり、死神達の最精鋭の戦力。更にはヴェロニカの軍勢は撃破されても復活して戦い続ける、不死の軍団なのだと撫子が言う。
「しかもや、今回の戦いでは更に厄介なことにな「七大審問官」を従える「イルカルラ・カラミティ」の力によって、その場での即再生が可能になってるんよ」
幹部である七体の死神はその場で甦生し、再びケルベロス達へ襲いかかることになるだろう。それだけではない、彼らが指揮するヴァルキュリア“アビス”達も幹部がいる場所で甦生し、再出撃が可能なのだ。
「いわゆる、無敵状態ってやつやね」
しかし、倒せぬからと諦めてしまえば彼らは万能戦艦ケルベロスブレイドに取りつき、ケルベロスブレイドを攻撃してくるだろう。そうなってしまってはケルベロスブレイドが甚大な被害を受けるのは間違いない。
これを阻止する為に、七体いる幹部を迎撃しケルベロスブレイドへの接近を食い止める必要があるのだ。
「無限に再生する敵を足止めするんや、激しい戦いになるんは避けられへんと思うんよ」
それでも、やり遂げる必要がある。それはこの場にいる誰もがわかっていること。
「勿論、無限に現れる敵を永遠に倒し続けるんも無理な話や。せやからな、この迎撃と同時にイルカルラ・カラミティを撃破する為のチームが編成されとってな」
彼らは強化型ケルベロス大砲を利用し、イルカルラ・カラミティの儀式場へ突入する。彼らがイルカルラを撃破するか儀式を破壊することができれば、敵の蘇生と再出撃は止まるはず。
「なんとしてもそこまで凌いで、反撃に繋げてほしいんよ」
このチームが担当するのは囀るゲンドゥルと呼ばれる死神の娘、そして彼女が指揮するヴァルキュリア“アビス”だと撫子が言葉を続ける。
「死んでも生き返るんがわかってるよってな、それなりの無茶も通してくると思うんよ」
この死神の娘は死神“嗤う者”の娘の一人であり、他の幹部とは姉妹でもあるのだという。臆病者で、ケルベロス達も姉も妹も怖いけれど、怒った父が一番怖いという理由だけで戦う死神だ。
「死ぬんは怖い、けど死んでも死なへんから全力でくるやろな」
パタンと手帳を閉じ、撫子が視線を上げる。
「せやけど、ここを乗りきったら聖王女エロヒムが居てる場所、デスバレス深海層に大きく近づくことができるはずやで!」
更には、この軍勢を突破できればケルベロスブレイドを阻止できる程の軍勢を再度編成するのは死神と言えど厳しいはず。
「皆やったら、なんとか出来るってウチは信じてるよってな!」
そう締め括ると、撫子はヘリオンへ案内する為に歩きだすのだった。
参加者 | |
---|---|
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
隠・キカ(輝る翳・e03014) |
スズナ・スエヒロ(流銀狐嘯・e09079) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320) |
●防衛戦線
万能戦艦ケルベロスブレイドのデスバレス侵攻、それに伴いケルベロスブレイドを落とさんと襲い来るヴェロニカ軍からの防衛――その一端を担うケルベロス達は囀るゲンドゥル率いる隊と攻防を繰り広げていた。
ジェットパック・デバイスにより仲間と共に飛翔するアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)がヴァルキュリアアビスに電撃を放ちながら、攻撃する自分達を無視するように前へと進もうとする敵兵にその可憐な眉根を寄せた。
「こうもケルベロスブレイドしか見ておらぬとはのう」
攻撃はしてくるけれど、進路に邪魔ではないと判断すれば進軍を優先するのだ。
「仕方あるまい」
デバイスで繋げた光りはそのままに、地面すれすれ……つまりは進軍の障害物たらんとアデレードが飛行高度を下げる。
「通せんぼ、且つ鬼ごっこってところだねー」
「ええ、全力でサポートします!」
チェイスアート・デバイスを繋げた平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)がアビス達の後ろに見えるゲンドゥルに御業を用いて、その場に押し留める。動きが鈍ったゲンドゥルを視認しつつ、スズナ・スエヒロ(流銀狐嘯・e09079)がチームの盾役を担うエレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)と彼女のウイングキャットであるラズリ、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)と己のミミックであるサイに向かって結界を構築していく。
「鳥居よ、彼の者を護る盾を成せ!」
スズナが稲荷の眷属たる狐の妖力によって戦場に巨大な千本鳥居の結界を張り巡らせると、サイが横を抜けようとしたアビスに喰らい付いた。
「行きはよいよい帰りは恐い……でも、あなた達には行きも帰りもありません!」
エレがエクトプラズムによる心霊治療により前方に立つ者へ癒しを与えると、ラズリが小さく鳴いて後方の仲間に清らかな風の流れを送る。
「死んでも生き返るたぁ、なんとも随分と景気のいい話だな」
そう笑って、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が己の身体からミサイルポッドを出し、前へ進もうとするアビスに大量のミサイルを浴びせながらコインを一枚真上に向かって弾く。
「互いにチップを削りあう消耗戦、コッチがベットするのは儀式破壊、相手は阻止。どっちが勝つか面白いと思わねぇか?」
オレはオレ達が勝つ方に張るがね、と笑った彼の手に落ちたコインの裏表は、さて。
「賭け事はあまり嗜みませんが、それでしたら私も勝つ方へ賭けます」
そう言うと、セレナが精神を集中させアビスを足止めするように爆破させた。
「……きぃも。ケルベロスブレイドは、希望の船なの。絶対、こわさせたりなんかしない」
レスキュードローン・デバイスを操りながら隠・キカ(輝る翳・e03014)が黄金の果実を実らせると、そっと手に取ったそれを前へと翳す。光の加護が前へ立つ者へ付与されると、果実が光に溶けるように消えた。
その会話に笑みを零しながら、朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)が聖王女への祈りを口にする。
「偉大なる我らが聖譚の王女エロヒムよ、その恵みをもって我を救い給え、彼の者を救い給え、全てを救い給え」
聖王女への信仰を糧に、昴がその身体をワイルドスペース――混沌の水へと変えていく。
聖なるかな、聖なるかな。心で紡ぐ言葉は聖王女へと捧げられ、混沌の水を切り離しゲンドゥルへと投げ付けた。
倒してしまえば与えたダメージすら無かったことになってしまうというのなら、この場で相手の体力を削りつつ押し留めるが最善とケルベロス達が奮闘する。
けれど、後方から攻撃を仕掛けるゲンドゥルに、死をも畏れずこちらの防衛線を突破しようとするアビス達が相手では些か分が悪い。防衛線を抜け、ケルベロスブレイドに辿り着かんとするヴェロニカ軍の兵士もちらほらと現れていた。
「敵が……!」
誰かの声が上がる。しかし、ケルベロスブレイドには防衛機構があり、接近したヴェロニカ軍を次々と撃破していく。そして、確かにその場で消滅したアビス――、彼らが通してしまったアビスの一人も、ゲンドゥルの元で蘇生しているのを視認する。
●畏れるもの、畏れぬもの
「我らは死なないのです、あなた方に勝ち目はないわ」
死は畏れるものなれど、死を厭わぬ死神、囀るゲンドゥルが唄うように囁きながら前に立つケルベロスに向かって杖を振るった。
指揮官の元で再生する、つまりは最低限ゲンドゥルをケルベロスブレイドに近寄らせなければ、それだけ侵攻は遅らせる事が出来るということ。
「タネのある無限復活なんて、なんのその! 儀式破壊に行った味方を信じて、死守するだけの事なのだ!」
和が味方を鼓舞するように言い、ゲンドゥルに竜のような稲妻を解き放つ。
「はい、気張らず行きましょう!」
即再生する敵を何とか出来る力がある、それは不思議に思えたけれどスズナは躊躇わず加護の力を傷付いた仲間へと振るい、サイがアビスへ偽物の黄金をばら撒いた。
「死なぬ死神だと? 面白い! わらわは愛と正義の告死天使! 汝らの邪悪な試みも必ずや打倒し裁きと安らぎをもたらしてくれようぞ!」
アデレードが地獄の炎を纏った炎弾を放ちアビスを牽制すると、エレが自身を含む前衛にこの猛攻に耐え得る力をと願い、魔方陣を描く。
「無限復活とは、これまた……けれど、私たちだって護らねばならぬものが、譲れないものがあります」
エレの言葉に尻尾を揺らし、ラズリがアビスへと輪っかを飛ばす。
「どうしたって勝ちを譲れない勝負ってもんがあってな」
ゲンドゥルの嬢ちゃん、と泰孝が口元に笑みを浮かべて手にしたパズルから竜のような稲妻を放った。
「譲れぬもの……あなた達の命よりも大事な物、ですか」
不安気に杖を握りしめ、ゲンドゥルが零すと、アビス達がケルベロス達を障害物と認識したかのように攻撃を仕掛けてくる。守りを担当する者への攻撃にはエレとセレナが前に出て食い止め、それを狙う者にはラズリとサイが体を張って食い止めた。
「そうです、貴殿にはわからないかもしれませんが――」
乙女座の星辰を宿した、白銀の騎士剣を構え、セレナがゲンドゥルを見据える。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿らの企みを阻止します!」
セレナが肉体に魔力を巡らせ、瞬間的にその身体能力を限界まで引き上げるとゲンドゥルへと踏み出す。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
一閃、セレナの剣技がゲンドゥルへと届く。
「きぃにはこわがる気持ちがよくわかるけど」
ぎゅうっとキキを抱きしめて、キカが傷付いた仲間の傷を纏う白金の力で癒やす。
「人をきずつけるなら、きぃはあなたをゆるせないの」
そう言ったキカの言葉に、ゲンドゥルが瞳を逸らした。
「怯えも畏れも何もかも、聖王女の御身と共にあれば」
怖いことなどないのです、と綺麗に微笑んだ昴がにゲンドゥル向かって竜の咆哮のような一撃を繰り出す。
「ああ、嫌、怖いものは嫌い」
全てが怖いけれど、あなた達も怖くて嫌い。でも、お父様が一番恐ろしいの。そう呟いたゲンドゥルが杖を翳すと、彼女の傷が癒えていく。
仲間がイルカルラ・カラミティの儀式を破壊するまで――そう信じて、ケルベロス達は改めて武器を構え直した。
●囀る鳥
激しさを増す戦いの中、ゲンドゥルがふっと後方を振り向く。
「そんな、まさか……? 冥府の神であるカラミティが、ああ、なんてこと……!」
怯えるように杖を握りしめ、ゲンドゥルが他の姉妹や父の姿を探す様に視線を彷徨わせる。
「勝負の最中に余所見とは、随分と余裕があるんだな? いいのか、オレを放っておいたらどんどん動きが鈍ってくるぜ?」
ゲンドゥルに向かって、泰孝の手の中から雷が迸る。にやりと笑った泰孝にゲンドゥルが視線を戻しながら、アビス達へ号令を飛ばした。
「行きなさい、おまえ達」
ゲンドゥルの言葉に従うように、アビス達がケルベロスブレイドへと向かう。仲間を通す様に手にした槍を立ち塞がるケルベロスへと向ける者、その隙を突いてケルベロスブレイドへと向かう者。アビス達がそれぞれ動くのに合わせて攻撃を避け、時に受け流しつつもケルベロス達がアビスへ攻撃を仕掛ける。
セレナが仲間を守るようにアビスへ星月夜の切っ先を突き付け、キカが癒やしの歌を口遊み、昴が手にした杖を小さな動物の姿に戻し、魔力を籠めるとゲンドゥルへと打ち出す。
そして気付くのだ、ケルベロス達を擦り抜けたアビスがゲンドゥルの元へ蘇ってこないことに。
「ああ……やはり」
ぐっと唇を噛み締めて、ゲンドゥルがケルベロス達を見遣る。
「てき、ふっかつしなくなったの」
「ええ、そのようです」
敵の位置や戦艦に近付いたアビスを把握していたキカとセレナが仲間に告げた。
それは、仲間がイルカルラ・カラミティの儀式を破壊したということ。
「とおせんぼは終わりかなー?」
ここから先は鬼ごっこ? と和がにぱっと笑う。
「はい、ここからは反撃です!」
スズナが頷き、檳榔子黒色をした古木の杖を構え直す。
「ああ、私、どうすれば」
怖い、そう震えながらゲンドゥルが全てを拒絶するかのように眠りの魔法を前へ立つケルベロスへとばら撒いた。
「させません!」
強烈な眠気にくらりとしたところへスズナのエクトプラズムが眠気を覚ます様に彼らを癒やしていくと、サイがアビスに向かって攻撃を仕掛ける。
「にがさないぞー! それー!」
和が半透明の御業によってゲンドゥルを鷲掴みにし、それに続くようにアデレードがアビスに向かって地獄の炎を放てば、それに飲み込まれたアビスが消滅していく。勿論、消滅したアビスがゲンドゥルの傍で蘇ることもない。
「本当に復活しない……!」
諦めずにこの戦線を守り通した結果にエレが笑みを浮かべつつ、前線に立つ仲間への守りを重ねていく。ラズリもその守りに合わせるように、翼を羽ばたかせた。
泰孝がアビスに向かって左腕のジャンクアームの廃材を分離展開すると、それを自在に操って向かってくるアビス達の不意を打つように攻撃する。
「イカサマ? いや、これも立派な戦術さね」
切り札の一つや二つ、用意しておくものだろうと泰孝が笑えばギリギリのところで持ち堪えていたアビスが崩れ去った。
「アビス、私を守りなさい」
仕切り直すしかないとゲンドゥルが配下に向けて自身を守るように命じ、自身は逃げを打つように後退る。アビスが攻撃をする間に戦線を離脱しようとしたゲンドゥルにセレナが凛と言の葉を飛ばす。
「恐れ、逃げる者を斬るのは騎士として気は進みませんが……せめてもの慈悲として、すぐに終わらせましょう」
ゲンドゥルを守るように立つアビスへ星月夜の白刃を煌かせると、キカが逃げるゲンドゥルへ釣鐘の花々を咲かす攻性植物irisを放ちその身体を締め付けた。
「にがしては、あげられないの」
嫌、と小さく叫んだゲンドゥルへ、昴が竜の力持つ大槌を構え、竜の咆哮たる一撃を放つ。
「聖王女への道、閉ざすわけにはいきません」
目の前の敵を倒し、聖王女エロヒムの元へ。その信仰心だけで昴はこの地に立っているのだ。
「嫌い、嫌いよ。怖いものは嫌い。ケルベロス達も、嫌いよ」
ああ、だから近付かないで、とゲンドゥルが杖を昴へと向ける。咄嗟にエレが昴を庇うように前へ出ると、杖から放たれた斬撃が彼女を襲う。生命力を吸い取られるような感覚にエレが眉根を顰めると、すぐにスズナが檳榔子黒を掲げ、彼女の傷を癒した。
ゲンドゥルを逃がさない、その強いケルベロス達の意志はゲンドゥルをその場に押し留め、残るアビス達を撃破していく。
●勝利と解放
己を守る兵を全て失い、逃げ出す事も叶わず、ゲンドゥルが杖を握りしめてケルベロス達を睨む。
「このままでは、私、お父様に叱られてしまう……!」
それだけは嫌、と拒絶を籠めてゲンドゥルが杖を振るう。それは破壊の力となってキカとスズナを襲った。
「させません!」
セレナがキカを背に庇い、スズナを彼女のミミックであるサイが庇う。
「ありがとう、サイ!」
即座にスズナとキカが癒やしの力を展開していく。スズナの千本鳥居が顕現する中、キカがセレナへ柔らかな光を放つ。
「その思い出を、きぃに貸してね」
セレナが幸せだと思う出来事を思い出させると、胸に灯った優しい記憶が傷と痛みを癒す。
「ここで! 渾身のー……っ」
気を溜めるような仕草から、和がゲンドゥルの頭上に一冊の本を出現させる。それはたかが一冊、されど一冊。和の知識の全てが詰め込まれた、ドラゴニックハンマーも斯くやたる質量の本。
「てややー!」
それを一気にゲンドゥルの頭上へと落とした。
火花散るようなその痛みにゲンドゥルが怯んだ隙に、アデレードが巨大な大鎌を構える。
「我らが同志の名を騙った兵を従えるなど……許せぬ巨悪よ! 汝らの行い、我が断罪の大鎌にて裁きを下してやろう!」
吸魂の大鎌に地獄の炎を纏わせ、アデレードが一気に距離を詰めると炎ごと大鎌をゲンドゥルに叩き付け、続くようにエレがミサイルポッドから大量のミサイルを射出するとラズリが尻尾のリングを飛ばす。
「そろそろチェックメイトみてぇだな?」
泰孝が手にしたスイッチを押せば、ゲンドゥルの身体が見えぬ爆薬が起爆したかのように爆発し、セレナが爆風をものともせず星月夜の刃で切りつけた。
「我らに聖王女の加護があらんことを」
祈りを捧げるように、昴が混沌の水へと変えた身体を切り離し――ゲンドゥルへ最後の一撃を放った。
「ああ、私は死んでしまうの……?」
嫌、そう思うけれど。死んでしまえば、もう何も畏れることはないのね。
最後にゲンドゥルが見せた微笑みは安堵か、諦めか。それを知る術はもう何処にも無かった。
「さよなら、死がこわくて死がきらいなあなた」
キキを抱きしめて、キカが呟く。
「私達の、勝利です……!」
エレが胸に飛び込んできたラズリを抱き留めて、笑顔を浮かべた。
「オレの占い通りだっただろう?」
「そういえばお主、コインを投げておったのぅ? 投げた後の結果は見えなんだが」
アデレードが泰孝に向かって小さく首を傾げると、和もそういえばと彼の手元を見遣る。
「コイツか?」
泰孝が小さくコインを弾き、小気味好い音を立てて右手でコインを左手の甲へと伏せる。
表か裏か、勝つか負けるか。
「表が勝ち、ですか?」
スズナが興味深そうに尻尾を揺らすと、泰孝がコインを見せた。
「表ですね」
セレナがそう言うと、昴が勝つと言ったのは当たりでしたねと微笑んだ。
そうだな、と笑った彼がポケットへとコインを仕舞い、ケルベロスブレイドに戻る為に歩き出す。
ポケットの中で揺れるコインは両面表――。
勝ちを引き寄せたのは、間違いなく彼らの覚悟と勝利を信じた心であった。
作者:波多蜜花 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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