デスバレス電撃戦~槍の戦

作者:廉内球

 《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングから万能戦艦ケルベロスブレイドに戻った番犬たちを迎えた数時間後、アレス・ランディス(照柿色のヘリオライダー・en0088)は次なる作戦への参加希望者を集め、その内容を話し始めた。
「《甦生氷城》の制圧、無事に終わってよかった。だがそこで戦っていたケルベロスから、聖王女エロヒムの声を聴いたという報告があった。……実は同じものを『グラビティ・チェインレーダー』で確認し、解析を行っている」
 万能戦艦によって強化された予知能力は、確保された突入口の先、デスバレスの情報、そして死神たちの防衛作戦の情報をもたらしたという。
「これはチャンスだ。万能戦艦ケルベロスブレイドでデスバレスへと続く魔空回廊を突破し、冥府の海への潜航能力を用いて聖王女エロヒムのもとへ向かうことができる」
 聖王女エロヒムが捕らえられているのは『デスバレス深海層』と思われる。死神たちの本陣奥深くにある以上、当然ながら危険な任務になるだろう。それでも、死神たちとの決着をつけるには、この作戦を成功させねばならない。
 
「このチームの目的は、ケルベロスブレイドの防衛。相手は死神の最精鋭とされるヴェロニカ軍団だ。主戦力は奈落の兵団・ヴァルキュリア“アビス”。そこに七体の幹部が付いている。……こいつらの戦法が厄介でな」
 というのも、ヴェロニカ軍団とは倒された軍団員をサルベージして戦い続ける、文字通り不滅の軍団なのだ。さらに「七大審問官」を従える「イルカルラ・カラミティ」の儀式により、その不死性が強化されているという。強化とは主に蘇生サイクルの短縮、つまり撃破されてもヴェロニカ軍団の幹部のもとで即座に蘇生され、再出撃してくるのだ。
「それだけじゃない。そのヴェロニカ軍団の幹部に至っては倒されたその場で蘇生するときた。一度ケルベロスブレイドに取りつかれれば被害は甚大だろう」
 ケルベロスブレイドを守るには、何度でも蘇る幹部の接近を許さず、足止めし続けるほかない。難しい戦いではあるが、作戦完了までケルベロスブレイドを守れなければ、万能戦艦を失うばかりか撤退も難しくなってしまうだろう。
 だが活路がないわけではない。この迎撃作戦と同時に、別チームがイルカルラ・カラミティを攻撃する手はずになっている。強化型ケルベロス大砲を用いてヴェロニカ軍団を飛び越え、冥府城イルカラルの儀式場に突入、イルカルラを撃破または儀式を破壊する手はずとなっている。
「そうすれば敵の蘇生は止まるはずだ。それまで耐えきれれば、俺たちの勝ちというわけだな」
 このチームが相手取るのは貫くゲイルスケグルという死神だ。美しい者が好きらしく、配下は皆、見目に優れるという特徴がある。
「とはいえほかの幹部の配下に比べて特別強いわけではないからな……そういう意味では気を張らずに挑んでくれ」
 貫くゲイルスケグルの得物はその名の通り槍だ。ゲシュタルトグレイブを用いるケルべロスに戦い方が似ているが、そこは幹部級の死神。威力はケルベロスのそれを上回る。
 また倒されたその場で蘇生できるためか、軍団員は防御を捨て、特に貫くゲイルスケグルは真綿で首を絞めるような戦法を選んでいるという。敵からするといつかは勝てる一方的な消耗戦を仕掛けているのだから、どれだけ時間がかかっても構わないということだろうか。
「美しいものには棘があるというが……棘が刺さっていい道理はない。なんとしても、ケルベロスブレイドを守ってくれ」
 美しき不滅の軍団との長い戦いが、幕を開けようとしている。


参加者
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)
紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ

●不死の軍団を足止めせよ
 万能戦艦ケルベロスブレイドを背にしたケルベロスたちに相対するは、不死と言われるヴェロニカ軍団である。これらがケルベロスブレイドに取りつかないよう、足止めをする……八人のケルベロスは頷きあうと、ヴェロニカ軍団に向かって突撃を開始した。
「命知らずが来ましたね。お前たち、迎撃なさい」
 冷徹な笑みを浮かべるは貫くゲイルスケグル。その指示に従って、黒衣のヴァルキュリア“アビス”が進軍を開始する。
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)はケルベロスの先頭に立つと、大音声で名乗りを上げた。
「俺はオウガ、柴田鬼太郎!死神だかなんだか知らねえが、死の国へ送ってもらってばっかじゃ悪いからな、今日は俺らケルベロスが死と敗北を贈り物してやらあ!」
 目元を隠したヴァルキュリア“アビス”の表情はうかがい知れず、貫くゲイルスケグルもまた薄い笑みをたたえたまま。自らが完全な不死であると信じて疑わないがゆえの余裕だろう。
 上空から現れたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)が防御用の盾型ドローンを展開しつつ、ちらりと後方の万能戦艦を顧みる。
(「万能戦艦ケルベロスブレイド……しっかり守るっすよ」)
 腰のホルスターに手を伸ばしたレヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)は、そこに愛銃がないことを思い出した。ケルベロスが携行できる武装は限られる、今回は作戦のために置いてきたが……レヴィンにとって、どこにあっても心の支えであることに変わりはない。
 やがてケルベロスたちとヴァルキュリア“アビス”が接敵し、交戦を開始する。
「ケルベロスブレイドには近づかせません!」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)はテレビウムの安田さんとともに攻撃を開始する。ガトリングガンが火を噴き、死神たちを薙ぎ払う。
「守るべきもの、守るべき人がいるからね。僕たちも退くわけにはいかないよ」
 おっとりとした表情の奥に決意を宿した源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は、マインドリングを投げて牽制を図る。
「よし、敵味方の位置は把握した。俺も仕掛けさせてもらおうかな」
 ニケ・セン(六花ノ空・e02547)が用いるスナイパー用ヘリオンデバイスは。戦闘が始まってしまえば使用することができない。レーダーとしては少々不便だが、現時点での敵味方の布陣を知ることはできた。あとは、どれだけ足止めができるかにかかっている。
 ケルベロスたちは攻勢に出て一体のヴァルキュリア“アビス”を撃破するが……倒れた敵が光となって消滅した直後、全く同じ個体が貫くゲイルスケグルの傍らに現れる。
「なにぃ!?」
「そんな、復活するなんて……どうやって戦えばいいんだ……」
 大げさに驚いてみせるレヴィン、絶望の表情を見せる紺崎・英賀(自称普通のケルベロス・e29007)。二人をはじめとするケルベロスたちの反応に満足げに笑った貫くゲイルスケグルは、自らも進撃を開始する。
(「情報通りですねーぇ……上手く騙されたみたいですがーぁ」)
 人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は面制圧を図りながら、内心で舌を出す。ツグミにとってデウスエクスとは絶対悪。悪を騙すにためらいなどなく、悪と相対するがゆえに己は正義と信じている。
 貫くゲイルスケグルが放った槍がケルベロスたちを襲う。一同は一瞬怯んだ振りをしつつも、戦線の維持を試みる。

●無限の軍勢
 ケルベロスたちの狙いは足止めだが、それを悟られて対策されては分が悪い。そこでケルベロスたちは突破を狙っているように見せかけ、積極的な攻撃を行っている。
 だが、それでも多勢に無勢。手負いのヴァルキュリア“アビス”が一体、ケルベロスの防衛陣を突破しケルベロスブレイドへと向かっていく。
「まずいっす……!」
 セットがデウスエクスを追おうとしたその時、戦場を揺るがす大きな雷鳴が響いた。万能戦艦に備えられた雷神砲が接近しつつあるヴァルキュリア“アビス”を捉え、撃破せしめたのだ。しかし貫くゲイルスケグルの横で即座に蘇生した死神は、再び戦闘を開始する。
「あの砲、なかなかの威力ですが、それも無限ではないでしょう。対してこちらは見ての通り、本物の無限の軍勢です。……諦めては?」
 肩をすくめた貫くゲイルスケグル。雷神砲に近接迎撃骨針、万能戦艦自体を守る機能はあれど、一度に多くのデウスエクスが取り付いてはそれらの運用にもいずれ限界が訪れる。分解式魔導障壁も接近しての攻撃には意味がない。だからこそこの場に、特に動くリスポーン地点となりうる貫くゲイルスケグルを留めることに意義がある。
「いいや、諦めない! お前ら全員、そこを動くな!!」
 レヴィンの用いるグラビティの麻痺弾が、カラミティ軍団に襲い掛かる。それでもできるのはせいぜい時間稼ぎ……そう見せかける。しかし、じりじりと進んでくる貫くゲイルスケグルに対して、焦りがないわけではない。
(「これは……俺も抑えに回ったほうがいいかな?」)
 ニケはハープをかき鳴らし、「グラディウス」を歌い上げてかく乱を図る。普通に戦うのであれば攻撃は十分。しかしゆるゆると歩を進めてくる貫くゲイルスケグルをその場に釘付けにするにはもう一工夫が必要だった。
(「くそっ、止まれよ……!」)
 ほんの少しの口の悪さがつい思考に滲んでしまった恭介は、唇を噛みつつ頭の花をむしりだした。そしてその花弁にオラトリオの力を込めて、貫くゲイルスケグルへと射出。でぃていんぺたるず(ディテインペタルズ)を受けた貫くゲイルスケグルの動作が一時的に緩慢になるが、敵は意にも介していないようだ。
「どうしよう、敵の数が減らない……!」
 瑠璃の時空凍結弾が敵の一体を貫くも、即座に蘇生され再出撃される敵の特性のために戦線は押され気味だ。憎い死神に後れを取る形となる悔しさが、瑠璃の心に影を落とす。
「まずい、突破されるっす!」
 身を挺して味方を守り続けるセットがシンクロデバイス(シンクロデバイス)で自らの傷を癒す。その隙を縫って数体のヴァルキュリア“アビス”がセットの横を通り過ぎていく。注意を引くためのグラビティは間に合わない。
「誰か、止められないかい!?」
 英賀は雷の壁を展開しつつ、味方に声をかける。それに応えたのは鬼太郎だった。
「任せろ!」
 最もケルベロスブレイドに接近しているヴァルキュリアに組みつくと、取っ組み合いの末にこれをを撃破。しかし鬼太郎自身も浅からぬ傷を負うことになる。止め損ねたヴァルキュリアは、ケルベロスブレイドの防衛機能で倒せることを祈るほかない。
「無駄だと知って尚戦いますか。何を狙っているかは知りませんが、そんなに死にたいのであれば、あの戦艦の前にお前たちを殺しておきましょう。どのみち時間は無限にあるのですから」
 すぐ傍にヴァルキュリア“アビス”を蘇生させ、酷薄な笑みを浮かべた貫くゲイルスケグルが自ら足を止めた。
「お前たち、ケルベロスどもを殺しなさい。せいぜい足掻かせるように。私の目にかなう者がいれば、配下とするのもいいでしょう」
 余裕を見せる貫くゲイルスケグルに、ツグミは舌打ちする。
「……じわじわじわじわと、随分と悠長な戦いがお好きですねーぇ? それでも余裕って感じですかーぁ?」
「言ったでしょう? こちらの時間は無限にあると」
「ではでは、ご静聴あれ! きっと楽しい時間になりますよーぅ♪ ええ、本当に。自分にとっては」
 呪奏と呪歌を無理やり融合させ、憎悪の念と共に放たれる音響。貫くゲイルスケグルは無限と言うが、その蘇生が止まる時は必ず訪れる。自らに言い聞かせるように、ツグミは耳障りな不協和音を唄う。
(「だが助かったぜ……突破だけを狙われたら、流石に防ぎきれねぇ」)
 前線に戻った鬼太郎はわずかに安堵する。これより先は防衛戦ではなく持久戦となるだろう。そしてそれなら、ケルベロス側にまだ分があるのだ。

●永遠の終わり
 もとより突破を図る振りをしていたケルベロスたちにとって、結果的に敵と正面からのぶつかり合いになったことは幸運だっと言えるだろう。しかし特にディフェンダーの消耗は激しく、周辺の全てのヴェロニカ軍団の猛攻の前に、崩れかけるところを懸命に持ちこたえている。
 そして、転機は唐突に訪れた。打倒したヴァルキュリア“アビス”が蘇ってこないのだ。
「止まったみたいだね、蘇生」
 ニケがもう一体ヴァルキュリア“アビス”を倒すも、こちらも即座には蘇生せず、突破していった個体も戻ってくる気配がない。
「必要がなくなったのでしょう。さあ、遊びの時間はこれで終わりです」
 貫くゲイルスケグルが、残る軍団に総攻撃の指示を出す。攻勢に出るヴァルキュリアたちだが、ケルベロスの戦意もまた衰えるところではない。
「いいや、違うだろうな」
 ブラックスライムを繰り出すレヴィンの目には、しかしいささかの絶望もない。初めこそただの虚勢と判断していたらしいゲイルスケグルも、全く戻ってこないヴェロニカ軍団のことをとうとう疑問に思うに至る。
「まさか……カラミティの力に対抗する術があったとでも?」
「さあ、どうだろうね?」
 英賀が冷たく微笑みながら、薬液の雨を降らせてケルベロスたちを癒していく。敵がこちらの撃破を狙った分、味方の損耗は激しい。
 ツグミは手近なヴァルキュリアを蹴り飛ばして仕留めると、その髪を乱暴に掴んで持ち上げ、その死を確認する。無論、蘇生はしていない。
「くふ、ふふ、ふ――ほぉら、やっぱり無限ではなかったじゃないですかーぁ♪」
 狂気的な笑みを浮かべて死神へ向き直るツグミ。一方ゲイルスケグルは口惜しさを滲ませつつも、戦意は残っているようだ。
「かくなる上は、お前たちの首だけでも持ち帰らせていただきましょう」
「そいつはさせられねぇな!」
 鬼太郎が組み付いて死神の動きを制限するも、ゲイルスケグルはその槍で鬼太郎の脇腹を貫く。
「倒させないっすよ、ドローン!」
 セットが多数展開させてあるヒールドローンに治療を命じ、鬼太郎の傷を癒させる。活力を得た鬼太郎がゲイルスケグルを投げ飛ばす形で距離を開ければ、死神が転がる先は瑠璃のグラビティによる大剣の刃の下。
「うん、ちょっと重いけど、行くよ!!」
 大きすぎる力を無理に扱うこの技、扱いづらいが破格の攻撃力を持っている。胴を両断された貫くゲイルスケグルはもはや虫の息だ。
「貴女は美しいものがお好きなようですが、こんな戦いが美しいと思います?」
「黙れ……!」
 鹵獲術士の魔法を唱える恭介が、地に伏したゲイルスケグルへと語りかける。
 倒れては蘇り、また倒されては復活し。彼女たちにとっては確かに「いつかは勝てる戦い」だったのだろう。だがそんな泥にまみれた戦法を、ケルベロスたちの戦いが上回った。その末路は確かに、美しいとは言えない。
「分かりました、おしゃべりは終わりにしましょう」
 ついに恭介の古代語魔法が発動し、石と化す貫くゲイルスケグル。そして死神は光となって消滅し……復活することはなかった。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。