東京都国立市。魔空回廊から現れたヴァルキュリアのうちの3体が、学生が住むアパートの立ち並ぶ住宅街に降り立った。
ヴァルキュルア達は光の翼を畳みぐるりと周辺を見渡した。周辺にあるのは小さなアパート、戸建ての住宅、自動販売機、電信柱。そして――道を行く人。
ふたりの少女が、ヴァルキュリアを見つけて小さな悲鳴を上げた。
「なにあれ!」
「ねぇ、手に持ってるのって……武器?」
「やばいよこれ……逃げよう!」
ヴァルキュリア達は武器を携えていた。ひとりは弓、ひとりは斧、そして最後のひとりは槍を手にしている。
弓のヴァルキュリアが優雅にも見える滑らかな動きで腕を持ち上げると、友人の手を取って走り出した少女の背に矢が吸い込まれるように突き刺さった。死とは程遠い若い健康な身体から、瞬く間に命の火が失われる。突然の惨劇に、少女が悲鳴を上げた。
「いやああ、たすけてー!」
眉根ひとつ動かすことなく、ヴァルキュリアは次の獲物に刃を向けた。男も女も、勇者となる魂でなくても犠牲が定められる彼女達の瞳は何の感情も映さない。
しかしひとつだけ、頬を伝う雫があった。
「――泣いて、るの?」
槍を突き付けられた少女が、驚き目を見開く。
ヴァルキュリアの頬を伝う雫が、雨のようにぽつりと落ちた。見れば3体とも同じように瞳から血色の涙を流している。そして涙を流したまま、槍で少女の左胸を貫いた。
それは声にならない慟哭の色。地面が鮮血に染まった。
「あのね、エインヘリアルに大きな動きがあったんだよう」
藤名・みもざ(ドワーフのヘリオライダー・en0120)は、普段の呑気な笑顔を引っ込めて眉根を寄せた。
彼女の説明によると、鎌倉防衛線で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球侵略を開始したという。侵略の手始めに魔空回廊を利用して人間達を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようとしているのだ。先鋒の兵はヴァルキュリア。元はザイフリートの配下である。
「方法はわかんないけど、ヴァルキュリアは強制的に従えられてるみたいだよ。相手は妖精八種族のシャイターン……初めての敵だよう」
今回の作戦では、ケルベロス達は同時多発的に各都市で起きるヴァルキュリアの事件に対処しつつ、シャイターンを撃破することが必要だ。
「みんなに行ってもらいたいのは東京都国立市。ここにヴァルキュリアが現れるの」
ヴァルキュリアは槍、ルーンアックス、妖精弓を使う3体だ。住民の虐殺を命じられている一方、邪魔者の排除は再優先することとなっている。そのためケルベロスが戦いを仕掛ける間に一般人が襲われることはないだろう。
「ヴァルキュリアがされてる洗脳は、同じ都市にシャイターンがいるとすごーく固いみたい。でも……もしかしたら、」
みもざはひとつの希望とふたつの事実を告げた。
シャイターンに向かったチームが敵を撃破した時、何か隙ができるかもしれない。しかしシャイターン撃破後の事について確かな情報はなかった。そして、事実として決まっている未来がある。
「もしもみんなが負けたら……その後に起きる惨劇から地域の人達は逃げられないよう」
多くの命を守るためには、心を鬼にしなければならない時もある。
そしてまた、状況によってはヴァルキュリア1体が援軍に飛んでくるのも厄介だった。注意を怠れば戦況は敵の有利に運ばれてしまうだろう。
みもざは強い感情を堪えるように、ぎゅっと両手を握りしめた。
「あのね。誰が来てもどんな敵でも、地球を好きにはさせないよって。みんななら敵と困難に打ち勝って、きっとそう言えると思うの」
だから、よろしくお願いします。ゆっくりと、ミモザ色の頭を垂れた。
参加者 | |
---|---|
アリッサ・イデア(藍夜の月茨・e00220) |
アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585) |
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887) |
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000) |
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829) |
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791) |
雨之・いちる(月白一縷・e06146) |
エルフリード・ファッシュ(猟兵・e16840) |
●戦いは誰が為
これから起きる戦いの苛烈さを何ひとつ知らない冬空は、雲ひとつなく澄み渡り穏やかな陽射し降らせていた。
「――誰のために、何のために戦うのかしら」
アリッサ・イデア(藍夜の月茨・e00220)が呟くのは、ぽつりと浮かんだ小さな疑問。音に出したそれは、波紋のように広がった。――もしもヴァルキュリア達がそれすら判ままに駆り立てられているのならば。そうして何も判らぬままに死するというのなら。
「……余りにも、憐れだわ」
跳ね返った先は、哀しい色に染まる。アリッサは影のように付き従うビハインドの銀の髪をそっと撫でた。それでも戦わぬわけにはいかないのだ。
「頼りにしているわ、わたしのいとし子」
リルヴァ、と優しい声音で呼べば、こくりと小さな頷きが返った。
「ふにゃ? 来たみたいだにゃ」
小首をかしげた深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)が指差す先には、空を飛ぶ3体のヴァルキュリアがいる。
「弓、槍、斧……予知の通りね。真っ直ぐこっちに来てる」
天色の瞳で空を見上げて敵戦力を測る雨之・いちる(月白一縷・e06146)の隣で、アンネリース・ファーネンシルト(強襲型レプリカント・e00585)が大きく手を振った。
「早くこっちおいでよー」
少しでも早く敵を追い込み、援軍を呼び寄せる。そして手薄になったシャイターンを他チームが撃破した後――エルフリード・ファッシュ(猟兵・e16840)には望みがあった。
「シャイターンから施された洗脳が変化した時が、本当の勝機だな」
眼前にいるのは敵。しかし、同区域のシャイターンを倒せば操られているヴァルキュリア達に変化があるかもしれない。不確かな情報でも、彼らはそれにかけるつもりだった。
「解放してあげたいんよ。だけど一般の人たちへの被害を黙って見てるわけにもいかへん。まずは、俺達の手でこの襲撃を止めとかんと」
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791) は決意を込めて拳を握る。
ばさりと音を立てて、3対の光の翼が折りたたまれる。到着したヴァルキュリア達が虚ろな瞳を彷徨わせるのを見て、ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は彼女達の前に立った。
「あなた達の相手はここにいるわ。無抵抗ではない、戦うべき存在がねッ!」
呼びかける声の主を探したヴァルキュリアが、ケルベロス達を正面から捕らえた。その瞳から、赤い雫がほろりと落る。
「人間どものグラビティ・チェインを……略奪し尽くせ」
「――この身、砕けるまで」
「……一匹でも多く、派手に殺せ」
「この身、砕けるまで」
呟き落ちた言葉が過酷な指令だと気付き、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は顔をしかめる。
「……ちっ、早く援軍を呼べ。正気に戻った時、涙の訳くらい聞いてやる」
粗雑な口調と裏腹に、ルースの紡ぐ優しい針は細く、深く、弓のヴァルキュリアの胸に刺さった。
●操り戦乙女
狙う先は決まっていた。いちるは素早い動作で鎖を操り、敵を絡め取る。
「先手必勝、ってね」
腕を取られた弓のヴァルキュリアが体をよじって抵抗する隙に、アリッサが竜の幻炎を撃つ。炎は敵の首を絞めるように纏わりつき、同じ場所をリトヴァのポルターガイストが打ち据えた。
すかさず槍のヴァルキュリアが仲間の傷を回復させる。その様を見た雪斗は対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射した。
「ここからは早々には回復させんよ」
アンチヒールに蝕まれた弓のヴァルキュリアは機械的な動作で弓をつがえると、鋭い追尾の矢を放つ。
エルフリードが描く星座の光が前衛5人に守護の力を施す中、斧を構えた1体が雨音に迫る。ルーン輝く斬撃が轟音を立てて振り下ろされた。
「操られてるのはかわいそうだけど、こっちに迷惑かけるのは勘弁にゃ」
重たい一撃に唇を噛んだ雨音の金色の瞳が、間近に迫る斧のヴァルキュリアを覗き込む。相手の瞳はガラス玉のようで、何の感情も見て取れなかった。
返すのは2刀の衝撃破。普段の愛らしさはなりを潜め、まるで小さな猛獣のように低い唸り声を上げると踊るような軽い足取りで敵に攻撃を繰り出した。刀を振る動きに合わせ、星座の守護が破防を打ち払う。霊体のみを打つ強かな一撃は、肉薄する斧のヴァルキュリアではなく弓を持った1体を全力で殴りつけた。
「マスター・雨音、援護します。――目標、補足」
アンネリースの声に、雨音が大きく左に跳んだ次の瞬間。開いた射線をミサイルが走り斧のヴァルキュリアへ着弾する。もう1方向、弧を描いて飛んだ弾は槍を持つ1体を撃った。続くライドキャリバーのケーニヒが炎を纏い弓のヴァルキュリアへ突撃する。
「パラライズの累積付与、視認しました。アンネは牽制攻撃を継続します」
戦闘モードに思考を切り替えたアンネリースは事務的な機械口調で敵状況を報告し、次の砲撃のためにアームドフォート構えた。
「――略奪、を」
唇が小さく動くのに合わせて涙が散り、血色の雫がユスティーナの目の前でぽつりとアスファルトの上に落ちた。
「血の涙、か。その涙の意味、言葉にしてもらいたいものね」
メディックを狙う一矢を受け止めた彼女は、痛みを堪える仕草すら押し潰して敵の矢を折る。強い意志を宿した緑の瞳を毅然と前へ向けた。
●届かない声
初手の攻勢が成功した勢いに乗じて、ケルベロス達は猛攻をかけていく。目にも止まらぬ弾丸が弓のヴァルキュリアを翻弄し、竜の幻影がその脚に食いついた。対するヴァルキュリア達も流されるばかりではない。態勢を立て直すと、激しい攻撃を繰り出しながら狙われた弓のヴァルキュリアを癒していく。
斧と槍のヴァルキュリアへの牽制を一手に引き受けたのはアンネリースだ。
「ダマスカス、射出展開。目標を迎撃します」
高速で飛び交う強襲型誘導兵器が、ヴァルキュリアをズタズタに切り裂いていく。ダメージこそ大きくはないが、敵の動きを妨げる目的は十分に果たしていた。
そして戦闘開始から5分が経過した頃、常に耳を立て感覚を研ぎ澄ませる雨音は、冬空に輝く一対の光の翼に気が付いた。近づいて来るのは、星辰を宿した剣を携えた新たなヴァルキュリア。
「援軍が来たにゃ!」
到着した援軍のヴァルキュリアがまずしたことは、アンネリースの攻撃によって傷ついた前列の回復だった。星座の光が累積した状態異常に対抗する守護を施していく。
「援軍はディフェンダーかしら。長期戦になるわね……望むところだわ」
ユスティーナは強気に笑った。そして次の瞬間にすっと表情を消すと、心に浮かぶ旋律を追って癒しの音を奏でる。それは魂のアーツ。魂に刻まれた強い想いが、前に進むための力を与えた。
しかし、敵戦力が揃った後の戦いは、彼らが思う以上に熾烈な防衛戦となった。各自が負わされるダメージが深く回復が追いつかないのだ。しかしそんな中でも、集中して攻撃を重ねてきた弓のヴァルキュリアだけは追い込むことができていた。
全てを喰らい尽くす虚喰が弓のヴァルキュリアに喰らいつき、ダメージの累積を見て取ったケーニヒが目標を剣の槍のヴァルキュリアに変更する。トドメの一撃は、ユスティーナの手加減攻撃だった。慈悲の込められた一撃にヴァルキュリアが妖精弓を取り落して地上の伏せる。
「戦いを無理強いされた戦いを止め、ここで人々を害する気がないというのなら、私達も武器を収めるわ」
これ以上戦い続けることができないヴァルキュリアは、油断なく見据えるユスティーナの前でよろめきながら立ち上がり、何処かの空へ飛び去って行く。その瞳から変わらず赤い涙が落ちていたことに気づき、アリッサは今はその時ではないとわかりつつも残る戦乙女に言葉をかけた。
「こんな殺戮は、貴女達の本意ではないのではなくて?」
救うなど烏滸がましく、救いたいという思いは傲慢なものかもしれない。けれど、呪縛に捕らわれた相手を解放したい……その思いは本物だから。傷ついた仲間へ回復のオーラを送ったアリッサは、次の瞬間に迫った星座のオーラと続く妖精の矢を避けきれずに小さな悲鳴を上げる。
「アリッサ!」
ユスティーナが駆け寄るが、間に合わない。
「リトヴァ、皆を守って――」
紫水晶の瞳を閉じたアリッサの願いを叶えるため、小さなビハインドが前衛で奮闘する。
回復手が1人落とされた後は、更に厳しい戦いとなった。ヴァルキュリア達の唇が動き、時折言葉が漏れる。刃を潜り抜けながら拾う音は、小さく、苦しいもの。
「殺せ。この身、砕けるまで」
彼女達が望んで仕掛けている戦いではないと、言葉にならない悲痛な叫びは血涙となる。
「君達が本当にしたいことはなんだにゃ? 他人の人形で在るままでいいかにゃ?」
捨て駒のように扱われるヴァルキュリア達。忠誠を誓う王子を裏切ったままで良いのかと問う雨音の声は、斧の一撃に沈み込む。
続く槍のヴァルキュリアの突撃に、ユスティーナとリトヴァが膝をつく。特にディフェンダーとして献身的なほど多くの攻撃を受けて来たユスティーナの消耗は激しかった。アスファルトに倒れ伏す彼女の白い頬に流れ落ちるのは、一粒の血涙。
「くだらん洗脳なんてされとらんと、さっさと目ぇ覚ましいや!」
雪斗の声は、しかしまだ届かない――。
●涙の訳
幾度もの攻防が繰り返され、戦いは果てがないように思われた。
星座のオーラを宿した剣が宙に大きな銀線を描く。横一文字に薙ぎ払われた一撃に、前衛が打ち据えられた。続く最後のディフェンダーとして戦線を維持していたケーニヒが、ガチャンと音を立てて横倒しに滑る。ルースは気力を振り絞って、崩れ落ちそうな足を踏みしめる。
アームドフォードを構えるアンネリースの頭上には、飛び上がったヴァルキュリアの姿があった。アンネリースは素早く横に転がって頭蓋を叩き砕く勢いの攻撃を避けるが、わずかな差で間に合わずに大きく肩を引き裂かれた。代わりに雪斗の紅狼が牙を剥き、槍のヴァルキュリアの腕に風穴を開けるが、致命傷には至らない。
アンネリースは3人の戦闘不能者が出た時点で、状況の切り替えを始めていた。
「戦闘不能者多数。敵死殺やむなしと判断します。敵目標、変更。最優先は、槍――」
ドン、と後ろに体が吹き飛びそうになる程の強い反動。固定砲台の主砲が火を噴き槍のヴァルキュリアを狙うが、そこに剣を手にした1体が滑り込んで来た。援軍の1体はほぼ無傷なまま軽い身のこなしで攻撃をいなし、アンネリースに重力の斬撃を放った。長期の防衛線で無傷とはいかないアンネリースはアームドフォードに寄りかかるようにして膝を崩した。
すでに半数以上が戦闘不能な上、これ以上の追撃が加われば立て直しは危うかった。エルフリードは急ぎヒールを用意するが、それよりも早く槍のヴァルキュリアが動く。狙いは前衛――ルースだ。
避けられないタイミングに覚悟を決めるルースに与えられたのは、温かな癒しの力。
「!? ヒールか」
敵であるヴァルキュリアから施された回復にルースが目を見張る。彼の前には意志の光を瞳に宿したヴァルキュリアの姿があった。
「シャイターンが倒されたの?」
いちるの呟きに、雪斗が笑顔で頷いた。
「きっとそうやね!」
これでヴァルキュリアを救うことができるかもしれない。
「ヴァルキュリアよ、今は自らの意志で動けるか?」
エルフリードの問い掛けに、槍のヴァルキュリアがはっきりと頷いた。
「何が起きてるか、わかるか?」
「……いいえ。ただ、このような戦いは私達ヴァルキュリアの――」
槍のヴァルキュリアは不自然に言葉を途切れさせた。
「どないしたん。だいじょうぶ?」
心配した雪斗が覗き込んだヴァルキュリアの目には、再び血の色の涙があった。その目は茫洋と見開かれ、武器を持つ指にギリリと力がこめられる。
「リャクダツ、を。砕けるまで……」
「洗脳が、戻ったんか!」
ふわりと跳び上がったヴァルキュリアの槍が、上段から振り下ろされる。咄嗟に両手のライトニングロッドを頭上でクロスさせて一撃を受け止めたルースが、ヴァルキュリアの膝を狙って蹴りを放った。
「ちっ、手加減してやる間に、もう一度目を覚ませ!」
「気をしっかり持つんだ!」
エルフリードの鼓舞に応えるように再度彼女の瞳に意志の力が宿ったのを見て、ルースが問い掛ける。
「血涙は故郷の為か、自分の為か?」
まさかその口で罪なき殺生を嫌うなどとは言わないだろうと皮肉ぶって。答えられずにいるヴァルキュリアに共通する敵を示した。
「ひとつ言えるのは、あんたらの仇は俺達にも厄介事だって事だ」
「これ以上、私達が戦う理由って、ある?」
いちるは相手の目を見て、静かな口調で問いかけた。
「これ以上の交戦は、望まない。此処は退いて」
ヴァルキュリアはいちるに促されるままに槍を下す。
「待て……これを」
光の翼を広げ飛び立つ直前、エリフリードが持参した包帯を投げ渡す。受け取ったヴァルキュリアは、ケルベロス達に短く礼を告げてその場を去った。
残る2体のヴァルキュリアも、混乱の中にあった。雪斗は根気強く声をかけながら敵の攻撃を受け止める。
「ほんまはこんな事したくないんよね? だから、泣いてるんやないの?」
時折頬を伝う血の涙を拭った斧のヴァルキュリアが洗脳の中にいる1体を攻撃する。そうかと思えば、剣を持つヴァルキュリアがケルベロスの傷を癒し、また涙を流しながら武器を振るい襲い掛かってきた。
そして何の前触れもなく、その混乱が終わりを迎える。ヴァルキュリアが動きを止めたのは同時だった。ぴたりと止まった攻撃に、いちるは追撃すべきか束の間考える、相手の様子に魔導書を閉じた。
「もう、戦う意志はないようだけど……?」
「――」
ヴァルキュリア達は、見えない誰かに対してするよに小さな応えを呟く。洗脳が解けたのかと様子を見る彼らの前で翼を広げると、先ほどまでの苛烈な戦いを忘れたかのように身を翻して空へ飛び去った。
「槍のヴァルキュリアが行ったのとは、違う方角やね……正気には戻らなんかった」
雪斗は小さく肩を落とした。飛び去る前にヴァルキリア落とした小さな呟きを捉えていたエルフリードが、その背を見送りながら聴こえた言葉を繰り返す。
「了解、と言ってたようだが」
「何か他の命令を受け取ったみたいやね」
4体のヴァルキュリアのうち撃破したのは1体。1体は洗脳から解かれて撤退、残り2体は何処かに撤退していった。
「――とりあえず、これで終わりだな」
ルースは嘆息して、空を見上げる。
冬空はただ澄み渡っていた。そこに、涙の色はない。
作者:三咲ひろの |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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