至高のマスクは禁断の香り!

作者:雷紋寺音弥

●究極のマスク
 春。それは、暖かな風に乗って、街中を花粉が飛び交う季節でもある。
 風邪のシーズンが終わりを告げても、今度は花粉が気になって仕方がない。花粉症の者からすれば、できればこの時期は外に出たくはないのだが。
「諸君らも知っている通り、空中を舞う花粉というのは実に厄介なものだ。特に、花粉症の者にとっては死活問題である!」
 人気のない廃材置き場の中心で、声高に叫んでいるのは一羽の鳥。そして、その周りを10人ほどの人間が囲み、なにやら話に聞き入っていた。
「花粉の害を防ぐには、やはりマスクが一番だ。が、しかし……単にマスクをしただけでは、完璧であるとは言い切れない!」
 そこで、今回は究極のマスクを紹介しようと、その鳥……つまりはビルシャナが、何かの布を取り出した。
「マスクにするなら、やはり女性の下着が一番だ! もぎたてであれば、尚更良し! 花粉を防げるだけでなく、なによりこれには、男のロマンが詰まっている!!」
 いや、そんなロマン、誰も望んじゃいないだろう。この場に一人でもまともな思考回路をした者がいれば、そう反論していたところだが……悲しいことに、周囲の取り巻きはビルシャナの信者達なので、反論どころかヒートアップしながら賛同する者しかいなかった。

●やっぱり、いつもの鳥でした
「うぅ……春が近づいてきたら、やっぱりビルシャナが変な事件を起こそうとしています……」
 多くのデウスエクスが拠点を失って行く中、連中は最後まで平常運転。頼むから、もういい加減にしてくれないかと、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は大きな溜息を一つ吐くと、うんざりした様子で語り出した。
「花粉症のマスクには……女の人のパンツを使うのが最高っていうビルシャナが現れました。それも……も、もぎたてだと至高とか……は、破廉恥過ぎます!!」
 変態、ここに極まれり。この手の連中は倒しても倒しても、雨後の筍の如く湧いて出るのがお約束。おまけに、毎度のことながらパターンが微妙に違っているのが、なんというか本当にやっていられない。
「戦いになると、ビルシャナは……パ、パンツを被ってパワーアップしたり、花粉を撒いたりして攻撃して来ます。それと……パ、パンツを被せた相手を、洗脳することもできるみたいで……」
 これ以上は、ねむの口から説明させるのが可哀想になるくらい、色々と酷過ぎる攻撃だった。それだけでなく、戦いになると信者達もビルシャナのサーヴァントのような状態になって、こちらへ襲い掛かってくるので性質が悪い。
 彼らの数は10名程度。なかなか面倒な連中だが、しかし戦闘力は最弱なので、歴戦のケルベロス達による攻撃を食らった場合、グラビティが掠めただけで即死である。
「信者にされた人達の目を覚ますには、先に説得しておかないと駄目なんですけど……普通に説得したんじゃ、通用しないと思います」
 正論で諭したところで信者達は聞く耳持たず、反対にこちらのパンツを奪おうとして来るかもしれない。説得の際に重要なポイントとなるのは、内容以上にインパクト。彼らはパンツをマスクだと主張しているため、パンツ以上に優れた、それでいて普通のマスクとは違った奇抜なマスクを提案してやれば、勝手に納得して信仰を捨ててくれるかもしれない。
「こ、こんな人達が増えたら、ねむも歩いているだけで、パンツを狙われてしまうんでしょうか? うぅ……怖すぎて、花粉に関係なくお外を歩けません!!」
「うん……なんというか、とにかく滅ぼすしかなさそうな相手だね、今回も……」
 怯えるねむの横で、げっそりとした表情のまま、力なく呟いている成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)。世界は大きな変革の時期を迎えようとしているようだが、しかし一部のビルシャナだけは、最初から最後まで恐ろしいくらいにマイペースであった。


参加者
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●鳥さんは平常運航です
 女性のパンツをマスク代わりにせんとする、なんとも情けないビルシャナの出現。はっきり言って、そのまま信者諸共に抹殺してしまいたい衝動に駆られるが、それでも最後まで説得しなければならないのが辛いところ。
「むぅ、暖かくなってきたからやっぱり湧いてきたね」
「うん……というか、春夏秋冬関係なく、年中湧いているような気もするけど……」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉を聞いて、成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)が大きく溜息を吐いた。
 既に多くのデウスエクスがケルベロスの手によって撃退されている中、この連中は最初から最後まで、基本的に変わらない。筋が通っていると言えば聞こえはいいが、それで変態を増やされては堪らない。
「女性のパンツをマスクにするなんて、何て変態なのかしら」
「なんだろ……ふぉおおおって叫びそうなビルシャナだよね」
 春の日差しを背に受けて、パンツを被ったまま信者達に演説を続けているビルシャナの姿に、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)とステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)もドン引きだった。
 女のパンツを被るなど、変態としてはB級である。真の変態というものは、好きな女の子の上履きに牛乳入れて飲むくらいの存在だが、一般的な価値観の持ち主からすれば、B級変態でも十分に理解の範疇を越えた存在! お友達になれるかと問われれば、絶対に『No!』と答えるに決まっている!
「ご心配には及びませんわ。いざとなったら、私が正義の味方として、悪しき変態を成敗してさしあげますから」
 ヒーロースーツに身を包んだルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が軽く胸を叩いて答えるが、本当は正義の味方云々に関係なく、速攻で殴り飛ばした方が早い気がしてきた。
 S級の変態でないことが幸いだったが、関わる者からしてみれば、そんなものは何の慰めにもなっていない。なんとも頭の痛くなる事件だったが……それでも、このままデウスエクスを見逃すわけにもいかず、ケルベロス達は仕方なく、信者達の説得に移ることにした。

●男の浪漫
 花粉症を言い訳に、己の欲望を満たさんとする不埒な行為。そんな連中を放置して置いたら日本が駄目になってしまうと、最初に動いたのはリサだった。
「そもそも、マスクと言う者は飛沫を遮断するための物よ。パンツだと隙間が出来て、飛沫や粒子を完全には遮断出来ないわ」
 目的から考えれば、パンツほどマスクに不向きなものはない。やはり、高性能なマスクといえば、完全遮断ができなければ。そう言って、リサが取り出したものは、有毒ガスの中でも行動できる完全防御のガスマスク。
「その点、最も飛沫の遮断に適したものと言えば、ガスマスクよ。多少重くても、花粉症を根絶できるのなら便利だと思わない?」
 そんなに花粉が気になるなら、これからはガスマスクを被って街を歩けば良い。多少、奇抜に見えるかもしれないが、それはそれ。パンツよりは性能が高いだろうと告げるリサだったが……信者達の反応は、思いの他に今一つ。
「う~む……ガスマスクかぁ……」
「確かに、遮蔽効果は高そうだが……なんというか、浪漫がなぁ……」
 ビルシャナの影響で脳みそのネジが外れまくっている信者達には、正論での説得は効果が薄い。ガスマスクのインパクトで多少は心を動かせたかもしれないが、それだけでは彼らを改心させるには至らない。
「えぇい、何をしておるか! 連中は、我らの浪漫を理解できず、あまつさえ花粉地獄に陥れようとする悪魔の使いだぞ!」
 そんな中、ドサクサに紛れてビルシャナが、こちらを悪者にせんと暴論を叫び出したから堪らない。それに感化された一部の信者達が……何故か、理奈に狙いをつけて、一斉に襲い掛かってきた。
「うぉぉぉぉっ! 貴様のパンツを寄越せぇぇぇぇっ!!」
「えぇっ!? ちょっと、なんでボクが!?」
 スカート姿でパンツを奪いやすそうな者は無視して、信者達は理奈へと一直線! サロペット穿いてるから、剥かれる心配はないと思っていた理奈だったが、そんなことはド変態信者どもには関係ない!
「ふん! こんな布切れで、我らの浪漫を妨害できると思うなよ!」
「え……ま、待って! そんなにしちゃ……きゃぁぁぁっ!!」
 哀れ、四肢を強引に拘束された挙句、サロペットを引き摺り降ろされてしまう。その上で、無理矢理にパンツを奪われてしまったことで、理奈は両手で前を抑えて蹲るしかなくなったしまった。
「ふふふ……随分と良い格好になったではないか。よし、貴様は見せしめに、その恰好で磔刑にしてくれる!」
 調子に乗ったビルシャナが、更にとんでもないことを言い出した。冗談じゃない。そんなことされたら、ある意味では全裸より恥ずかしい恰好を、町中に晒すことになってしまうではないか!
 迂闊に攻撃できない以上、このままでは確実に辱められてしまう。正に絶体絶命の理奈だったが……そういうところへ颯爽と登場するのがお約束とばかりに、廃材置き場の上から声がした。
「あなたたちの無法もここまでですわ! 少女を狙った不埒三昧、許せません!」
「な、なんだと! 何者だ!!」
 思わず叫んでしまったビルシャナだったが、それは敗北フラグというものだ。振り返ってみれば、そこにいたのは黄色のヒーロースーツに身を包んだルーシィド。そして、同じく赤のスーツに身を包んだステラもまた、ゴテゴテに装飾した愛車のシルバーブリットと共に立っており。
「花粉症の対策に、女性の肌着が最適だなんて、笑止千万! そんな下品な欲望だけのロマンでは、花粉のムズムズを止めることはできませんわ!」
 そう言いながら、ルーシィドは廃材の上から飛び降りる。辱められた理名にタオルを渡しつつ、彼女を庇うようにして、改めて信者達の方へと向き直り。
「このヒーロースーツならば花粉症は完全にシャットアウト! マスク部分には取替可能なフィルターを採用していますから呼吸対策もバッチリです!」
 そもそも、男の浪漫というのであれば、男性はこういったものが好きなのではないか。パンツなど被って変態扱いされるよりも、ヒーローになって周りから称賛される方が、他の者にも理解されるだろうと。
「変態な信者の諸君! そんな下着マスクよりも、こっちのマスクがカッコいいゾ!」
 ダメ押しとばかりに、ステラが自分の身体を見せるようにして仁王立ち。その姿に、信者達の何人かは、思わず両目を見開いて釘付けになった。
 ステラからすれば、あくまでスーツの素晴らしさを教えようとしたのだろう。だが、彼女はスタイル抜群だったため、そのスタイルがスーツによって強調されて、信者達はステラの胸しか見ていなかった。
「なぁ……もしかしなくても、あっちのスーツの方が良くないか?」
「そうだなぁ……。あれなら自前でも頑張れば作れそうだしなぁ……」
 ヒーロー姿に感化され、一人、また一人とビルシャナの下を去って行く信者達。根っからの変態でなかった者は、これでなんとか撤退させた。残る信者は、後4人程度。ヒーロースーツの説得でも揺るがなかったということは、彼らは真正の変態である可能性が極めて高いが。
「むぅ、そんな薄いマスクで本当に大丈夫? どうしても、そういう形のマスクがいいなら……これなんかどうかな?」
 ここに来て、リリエッタが自らの鞄の中から、何故か自分の体操服を取り出した。しかも、セットになっているのはハーフパンツではなく、今や絶滅種となったブルマではないか!
「こっちでも伸縮性があってジャストフィットするし、パンツより格段に花粉を防げるよ?」
 少なくとも、布地の遮蔽効果という点では、下着などより格段に上である。そして、極めつけはその希少性! どうしても欲しいというのであれば、今、この場で限定1名様限りで、特別にプレゼントしてやろうと放り投げた。
(「ちょっと……あれ、あげてしまって大丈夫ですの?」)
(「ん、平気だよ。だってあれ、リリが旅団で買ったやつだけど、一度も使ってないからね」)
 要するに、その辺で売っているコスプレ品と大差ないというわけだ。信者達はリリエッタの使用済みブルマだと思っているが、当然のことながら、そんな付加価値はまったくない。
「うぉぉぉっ! 俺に、そのブルマを寄越せぇぇぇぇっ!!」
「なにを! 貴様こそ、その薄汚い手をさっさと放しやがれ!!」
 ブルマを奪い合い、醜く争う信者達。さすがにこれは拙いと思ったのか、ビルシャナが慌てて止めようとするが、もう遅い!
「お、おい! 何をやっているんだ、お前達!?」
 頭の中がパンツからブルマへと変わった信者達には、既にビルシャナの言葉も届かなかった。散々に争った結果、勝者である最後の一人がブルマを握り締めてガッツポーズを決めていたが……その背後から近づいたリリエッタが、いきなりビニール袋を頭に被せ、しっかりと首元まで塞いでしまった。
「むぐっ!? な、なにをす……ぐ、ぐる……じ……い……」
「変態なんて、ビニール袋を被って窒息してればいいんだよ」
 そんなに花粉を遮蔽したいのであれば、しばらくその恰好で反省していろ。冷めた視線を送りつつ、リリエッタは窒息して倒れた信者を横目に、改めてビルシャナの方へと顔を向け。
「さあ、残るはあの鳥だけだね。さっさとやっつけちゃおうか……」
 これでもう、容赦する必要はどこにもない。手駒を全て失ったビルシャナへ、ケルベロス達による情け容赦ない反撃の狼煙が上がったのだった。

●変態の意地 
 己の手駒を失い、後がなくなった変態鳥頭。もはや、ケルベロスの敵ではないと思われたが……それでも、最後の最後まで悪あがきを止めないのもまた、この手の敵のお約束。
「おのれ、よくも私の壮大な計画を邪魔してくれたな! こうなれば、貴様達を新たな信者に変えて、私の計画の礎にしてくれる!」
 ヤケクソになったビルシャナが、翼から大量の花粉を撒き散らしてきた。どういう原理なのかは不明だが、これでは目と鼻がやられて、戦いどころではなくなってしまう!
「うわっ! ちょ、ちょっと待っ……ゴホッ! ゲホッ!」
 両手で前を隠していたため、防御さえできない理奈が直撃を食らって涙目に。花粉はリサやルーシィドにも襲い掛かり、彼女達の視界を情け容赦なく奪って行く。
「まずは、この花粉をなんとかしませんと……」
 このままでは不利だと察し、すかさずルーシィドが幻視の力を解放した。途端に、彼女の袖から緑の茨が溢れ出し、それらは仲間達の身体を包み込んだかと思うと、ビルシャナの花粉を払い除けた。
「よし、反撃するよ、シルバーブリット!」
 蒸気の盾で愛車を保護しつつ、ステラが砲撃で牽制させる。そこを逃さず、リサとリリエッタが互いに頷き、大きく大地を蹴って飛び上がった。
「あなたの出番は終わったのよ。早々に退場してもらうわ!」
「ん、変態は蹴り飛ばしてお仕置きだね」
 炸裂する飛び蹴り、そして回し蹴り。一瞬、スカートの中からリリエッタの下着が見えたような気もしたが、それはそれ。
「おお! なんと素晴らしいパン……ぶべらっ!?」
 リリエッタのスカートの中身に、思わず見惚れてしまったのが運の尽き。顔面を蹴り飛ばされ、吹っ飛ばされたビルシャナが、その辺に置かれていた廃材に突っ込んだ。
「うぐぐ……やってくれたな。だが、まだだ! まだ、私は負けたわけではない!」
 それでも往生際悪く立ち上がり、ビルシャナは花粉ではなく、なんとパンツを飛ばしてきた。これを強引に被せることで、こちらを信者にしてしまおうという魂胆か。
「えぇっ!? なんで、またこっちに……んぐぅぅっ!?」
 哀れ、再び狙われ、理奈はパンツを被せられてしまう。やはり、両手が使えない状態で、戦いに参加するのは無理があったか。
 もっとも、ルーシィドやリサに関しては、理奈にように甘くはない。それぞれ、パンツを蹴り飛ばし、あるいは電撃でパンツを焼き焦がし、洗脳される前にしっかりガードだ。
「こちらは、私にお任せください。リサ様は、その間にビルシャナを!」
 パンツを被せられ悶絶している理奈をヒールで解放しつつ、ルーシィドが告げる。これは拙いと思ったのか、逃げ腰になるビルシャナだったが、そこはリサがさせはしない。
「この呪いで、貴方を動けなくしてあげるわ!」
「なっ……! なんだ、これは!? 身体が動かん!!」
 類稀なる美貌にて、相手の動きを封じる禁断の呪詛。一度でも魅入られてしまったが最後、見えない糸に絡め捕られるが如く、完全に捕縛されてしまうのだ。
「よし、今だ! 行くよ、シルバーブリット!!」
 続けて、ステラがガジェットガンで牽制しつつ、シルバーブリットを突撃させた。回転する車体に吹っ飛ばされ、再び廃材に突っ込むビルシャナ。そこを逃さず、リリエッタがルーシィドと魔力を循環させ、必殺の一撃を叩き込む!
「ルー、力を貸して!  ―――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 荊棘の魔力を込められた弾丸が、ビルシャナの脳天を貫いた。これで、全ては終わったか。誰もが、そう信じて疑わなかったが……なんと、ビルシャナはギリギリのところで踏み留まり、再び立ち上がって来たではないか!
「な、なんてタフな鳥ですの!?」
 これには、さすがのルーシィドも驚きを隠しきれなかったが、敵は腐ってもデウスエクス。正直、ドラゴンでさえ退けたケルベロス相手に、ここまで奮戦できる辺り、生命力だけは今までのビルシャナと比べても強いのかもしれない。
「ま、まだだ……まだ、倒れるわけにはいかん! こうなったら……最後の手段を使うのみ!」
 満身創痍になりながらも、ビルシャナは1枚のパンツを取り出して、それを被ることでパワーアップを果たそうとする。そして、そのパンツを見た途端、理奈が思わず声を上げた。
「あぁっ! それ、ボクのパンツじゃないか!!」
 なんと、それは先程信者達が理奈から奪った、彼女のパンツに他ならなかったのである。
 目の前で、自分の穿いていたパンツを変態に被られる。これぞ正に、最高の屈辱。発狂して叫びたくなる理奈だったが、ここで攻撃の手を緩めては、ビルシャナに形勢逆転されかねない。
「ん、パワーアップなんて、させないよ」
 まずは、リリエッタが拳の強烈な一撃で、ビルシャナの被ったパンツを真っ二つに引き裂き。
「虚無球体よ、敵を呑み込み、その身を消滅させてしまいなさい!」
 続けてリサが、虚無の球体を発射して、ビルシャナの頭髪を削り落とす。ついでに、巻き込まれたパンツの残骸も消滅してしまったが、それはそれ。ビルシャナに被られたパンツなんぞ、回収しても穿きたくないだろうし、いっそのこと消滅させてしまった方が後腐れもない。
「往生際が悪いですわ! いい加減に、観念なさい!」
 それでも逃げようとするビルシャナに、ルーシィドが後ろから星形のオーラを蹴り飛ばして炸裂させた。後頭部に星が突き刺さり、倒れるビルシャナ。さすがに、ここまで追い詰めれば虫の息。後は、この性質の悪い変態を、欠片も残さず吹き飛ばすのみ!
「シルバーブリット、行くよ……。ターゲット・ロック! グラビトン・ランチャー、発射!!」
 最後は、愛車を合体武器よろしく変形させたステラが、ビルシャナに強力な重力弾を炸裂させた。銀色の銃弾を食らったビルシャナの身体は、どこぞの世紀末漫画の悪党の如く、醜く歪んでひしゃげて行き。
「ひゅ……ぶげぇぇぇぇっ!!」
 意味不明な断末魔の叫びを上げたかと思うと、木っ端微塵に吹き飛んで、跡形もなく消滅した。

●失われたもの
 ケルベロス達の活躍により、変態ビルシャナは討伐された。だが、ビルシャナが倒され、その野望が砕かれても、消滅したパンツは戻らなかった。
「うぅ……ボクのパンツ……。あれ、お気に入りだったのに……」
 リリエッタから予備の下着を渡されても、パンツを奪われた理奈の顔が晴れることはない。グラビティで完全に消滅してしまったので、ヒールで復活させることもできないからだ。
「まったく……変態は、最後まで碌なことをしないわね」
「というか、こんなに定期的に変態が湧くって……この国、大丈夫なの?」
 どこか遠い目で、日本の行く末を心配するリサとステラ。そんな中、ルーシィドはリリエッタがどこかへ連絡しているのを見て、思わず彼女に問いかけた。
「リリちゃん、誰とお電話されているのですか?」
「ん、警察だよ。ここに倒れている人達、保護してもらわないといけないから」
 そう、口では言っているものの、実際はブルマ欲しさに争った変態どもの身柄を、警察に引き渡そうとしているだけだった。
 これで、彼らも少しは反省してくれると良いのだが。願わくは、彼らの中から第二、第三の変態ビルシャナに目覚める者が、現れないことを祈るばかりである。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月4日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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