海は荒れていた。
《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが浮かぶ、鎧駅沖の海域だ。
いくつもの大竜巻が、海上から柱のように立ち上がり、まさに災厄が訪れたかのよう。
《甦生氷城》は今、それらの大竜巻を従えて、海上に傲然とその姿を見せていた。
昼間だというのに、周囲は薄暗い。雲が空を覆っているのではない。無数のザルバルクが空を覆い、日光を遮っているのだ。そして大竜巻もまた、無数のザルバルクによって構成されているのだ。
この限られた海域に、どれほどの死神が溢れているというのか。
それだけではない。大竜巻の柱の中には、巨大な何かの姿があった。
――微かに見えたそれは、巨大な瞳。見つめたものに、明日は来ない。
●
「デスバレス大洪水は無事阻止することができた。作戦に参加してくれた皆が活躍してくれたおかげだね」
ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)は、万能戦艦ケルベロスブレイドの一室に集まったケルベロスたちに微笑みかけた。それからすぐに表情を引き締めて話を続ける。
「でも、作戦が成功したことによって、兵庫県鎧駅沖に出現した死神拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングで異変が起きているんだ」
ユカリによると、《甦生氷城》から半径数キロメートルの範囲に、複数の巨大な竜巻が現れて、大荒れとなっているらしい。しかも水柱のように見えるのは、海水ではなくザルバルクによるもので、その内部では多くの死神の軍勢が巻き込まれて制御を失っている。
「死神の軍勢は、現時点では制御を失っているため、戦力として機能していない。けれど、膨大な数の死神をこのまま放置することはできないだろう?」
ユカリに問いかけられて、ケルベロスは静かにうなずいた。
「もちろん、ザルバルクによる竜巻なんて、簡単に片付けられるものじゃない。ただ幸いなのは、今の僕たちには万能戦艦ケルベロスブレイドがあるってことさ。ケルベロスブレイドに備えられた『ザルバルク剣化波動』を用いれば、有効半径も8キロメートルあるから、竜巻のすべてを完全に無効化できるはず。
ケルベロスブレイドで《甦生氷城》へと接近し、ザルバルクを剣化した隙に《甦生氷城》を制圧してしまえばいい」
ただし、《甦生氷城》へ制圧部隊が突入した後も、ケルベロスブレイドはその場に留まらなければならない。そうしなければ『ザルバルク剣化波動』の効果が維持できないからだ。
「ザルバルクを剣化しても、死神の軍勢は残っている。その殆どは剣化したザルバルクに切り刻まれており、ケルベロスブレイドの『雷神砲』で排除できるだろう。問題は、それだけではとても撃破できそうにない、巨大な死神が複数確認されていることなんだ」
つまり、それら巨大な死神からケルベロスブレイドを防衛する必要があり、このチームではそのうちの一体、『魔眼のバロール』を受け持つこととなる。
「ケルベロスブレイドは『分解式魔導障壁』の効果で、遠距離からの攻撃に対してはほぼ無敵といっていい。接近だけはされないように、迎撃してほしい」
『雷神砲』はケルベロスにはダメージを与えないので、戦闘中の援護も期待できる。また、戦闘は海上で行うこととなるが、ケルベロスブレイドから射出される『小剣型艦載機群』が足場となるため、不自由はしないだろう。
『魔眼のバロール』は、巨大な一眼を持つタコのような姿をした死神で、飛行して移動する。全長は100メートルほどにも及び、一般人ならば魔眼で一瞥されるだけで命を失うだろう。ケルベロスであれば即死などはしないが、一点に集中された魔眼の力は十分に脅威だ。
また、威力は幾分弱いものの広範囲を石化させる視線や、死の幻影を見せつけて恐怖を刻む力をも持つ。
「まさに怪物だ。巨大なだけに、タフな相手でもあるだろう。制圧までの時間稼ぎができれば十分成功だと言える。ただ、ケルベロスブレイドからの援護も考慮すれば、撃破も可能なはずさ」
そう言ってユカリはニヤリと笑った。
「この先、デスバレスへ突入することになったときにも、ケルベロスブレイドの防衛は必要になるだろう。防衛戦の経験を積み、練度が高まれば、きっと役に立つ。そのためにも、存分にケルベロスブレイドを活かして戦ってほしい。じゃあ、よろしくね」
参加者 | |
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ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989) |
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598) |
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
副島・二郎(不屈の破片・e56537) |
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雷が戦場を奔るたび、死神たちが墜ちてゆく。
副島・二郎(不屈の破片・e56537)が身につけたゴッドサイト・デバイスの中で、まるで面ごと光っているかのように煌々と灯っていた光点もまた、死神とともに力なく消えていった。
そんな状況の中にあって、なおも力強く光る光点がいくつかあった。デバイスの透過スクリーン越しに見える巨大な一眼の怪物も、そんな光点のうちの一つだ。
死神たちを無情に切り裂いた剣化ザルバルクにも、万能戦艦ケルベロスブレイドから放たれた雷神砲にも耐えて、怪物は悠然と戦艦に近づいてきている。
「『魔眼のバロール』、ですか」
「団長さん、あの死神の事をご存じなのですか?」
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)の呟きに、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)が問う。
「名前だけは知っていました。……こんなに大きかったんですね」
「でっかいよね~。あのでっかい戦艦にも見劣りしないもの」
戦艦と怪物を見比べて、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は感嘆していた。さすがに全長3kmの戦艦に比べれば小さいのだが、それと比較できる時点で、すでに並の大きさではない。
「……たこ焼きにすればどれくらいの数が作れるのでしょう?」
しげしげと怪物を眺めていた優雨は、ふとそんな言葉を漏らした。
「……今なんと?」
「タコじゃなくて死神ですから食べたりしませんよ。……しませんよ?」
優雨は言い訳がましい言葉を口にして、眼を見開いた赤煙から視線を反らす。
「……そうですか。何にせよやる事は変わりませんな」
「あはは。そうだね、頑張って倒しちゃおう」
二人がやり取りするさまに、円が笑う。
交戦までの僅かな時間で、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は装着したジェットパック・デバイスを軽く吹かして、具合を見ていた。戦闘に不安が残らないように、小剣型艦載機を操作しつつ応答を確かめていく。
そんなことを続けている内に、たまたまウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)の傍に移動したスズナは、戦闘前の緊張をほぐすためにも、彼に気安く話しかけてみた。
「まだ戦艦の内部機能、全部は巡ってないんですよね」
「ん……? そうだね、ひとつの街に匹敵するような広さがあるから無理もな……」
ウォーレンは柔らかな笑みで応じてくれたが、その顔はどこか青白く、話している間に咳き込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、ごめんね。心配いらないよ、少し調子が悪いだけ」
心配するスズナに、ウォーレンは手のひらを向けて大丈夫だとアピールする。
「皆と一緒に、あの敵を止めなきゃ。その力には十分なれるよ」
「巨大な相手でも、力を合わせれば大丈夫です!」
そう、ここで倒れるわけには行かないのだから。ウォーレンは言葉を交わしながら、今一度、巨大な敵を見据えた。
(「もうすぐ死神との決着がつく。……それまでは僕の身体も持つだろう。今はただ、甦生氷城へ向かった皆が戻ってくるまで死力を尽くすよ」)
――そして、いよいよ間近に迫った怪物と対決のときが訪れた。怪物はケルベロスたちには目もくれず、戦艦を目指して悠々と飛んでいる。
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は、腰に提げた髑髏の仮面へと手を伸ばし――、触れることもせずに戻した。過去の彼ならば、仮面を被り、汚い言葉を吐き捨てていたところだろう。
(「……言えねえよな」)
周囲では、戦艦から次々と射出される小剣型艦載機が怪物の周囲を包むように飛び、幾層もの足場を形作り始めていた。風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)は抜き放った一刀を片手に提げて、身軽に艦載機上を飛び回り、距離を詰めていく。
●
二郎は母艦と怪物の間に広がる空間へと飛び込んだ。艦載機上に降り立って膝を付き、ドラゴニックハンマーの砲口を開く。
「……貴様らの好きにはさせん。ここで落とす」
狙いは巨大な瞳のど真ん中。トリガを引いた直後、放った弾頭の行方は追わずに、別の艦載機へと飛び移る。
「燃えちゃえ!」
別の角度からは、巨大な砲塔を携えた円が爆炎の雨を降らせていた。
それらの援護射撃を背に、ウォーレンと竜人が放ったオウガ粒子を鱗粉のように纏って、ケルベロスとそのサーヴァントから構成される前衛陣が怪物へと接近する。
「とりあえず、眼を狙います!」
スズナは巨大な杭打機を手に、自らが乗る艦載機を、怪物の瞳に吸い込まれそうな軌道で飛ばした。いっぱいに腰を捻って杭打機を振りかぶり、瞬間的に全開で吹かしたジェットパックの推力も乗せて、一息に力を解放する。
「深緋よ、魔眼を穿てっ!」
勢いよく突き出された杭打機から、凍気の杭が撃ち出され、巨大な瞳に突き刺さる。杭は瞳の大きさに比して、針のようにしか見えないだろう。けれど、その瞳を突き刺した一撃で、怪物はついにケルベロスたちをギョロリと睨めつけたのだ。
怪物の視線がもたらすものは死。ケルベロスたちは、見つめられずとも一瞥されただけで背筋を凍えさせ、やがて訪れるだろう死を幻視する。
「バロールじゃ弱ぇよ。ダムダムゾンゲルゲになってから出直して来な」
そんな怪物の前で、竜人は口を吊り上げて強がる。怪物が巡らせた視線に己が身を自ら晒して、他の仲間に向かうはずだったはずの呪いまで引き受けていてもなお、何てことはないと嗤う。
ルーンが刻まれたブーツに炎を纏わせて、巨大な怪物へと叩き込んだ優雨は、翼を広げ、怪物から離れるように滑空する。
「睨むだけなんですね。あの足は飾りでしょうか。目以外、いらないんじゃありません?」
呟きながら、艦載機へと降り立った。そこは防御を固めながら距離を詰める仲間たちの背後だ。怪物の視界から外れるように身を潜めながら、優雨はさらに別の艦載機へと飛び移る。
そうやって怪物から距離を取る優雨と交錯して、赤煙が怪物へと真っ直ぐに跳び出していった。
「ならばその、『目』にもの見せてやりましょう」
着物の裾を翻し、艦載機を踏み台にして、竜が飛ぶ。靴から零れる流星の輝きが尾を引き、
「おっと残念、そこでストップです! 戦艦には近づかせませんぞ」
見開いた怪物の瞳――近接距離では全体が見えず、不気味なだけの別物――に衝撃を叩き込む。
その間に、恵は次から次へと艦載機を渡り歩いて、怪物の背へと回り込んでいた。一瞬たりとも同じ艦載機の上にはおらず、次の瞬間には空へと身を投げ出している。
視線の奥には、巨大なケルベロスブレイド。その一部を覆い隠す巨体が、手前にある。
振り上げた刀の柄に左手を添え、両手で握る。体内を循環する霊力を丹田に集め、刀へと移す。
「気の流れ、断たせて頂きます!」
最後の機上から跳び出して、怪物の背へと一撃を繰り出した。刃越しに触れた怪物の中に感じる、膨大な気の流れ。
「――ッ!」
その流れを一部でも堰き止めるべく、鋭い呼気を発し、霊力を込めて斬り裂いた。
「蓬莱、スズナちゃんを庇って!」
『魔眼のバロール』が瞳を細めた瞬間、その視線の先にスズナの姿を認めて、円は考えるよりも先に叫んでいた。怪物が漂わせる溢れんばかりの魔力が、一点に集中していく様子に怖気を覚えながら。
主による懸命の叫びに応えて、ウイングキャットの蓬莱が羽を広げて跳躍した。
狙われていることに気付いて身構えるスズナへ、怪物の視線をなぞって魔力が迸る。
そこへ身を丸めた蓬莱が割り込んで、死の奔流を自らの身で受けた。
その一撃は守備に専念していてさえも、体力の半ば以上を吹き飛ばす。
「……『魔眼』なんて大層な名を冠するだけはありますか。イチイもお願いしますね」
すかさず優雨が投げ放った試験管は、蓬莱の傍で破裂して優しい慈雨を振りまいた。ボクスドラゴンのイチイが放つ植物属性の力もまた、蓬莱の傷を癒やしていく。
「ゆうー! ありがとー!」
大好きな相方に感謝を伝えつつ、円は自らも回復に回った。
――やはり油断できない相手だと、ウォーレンは認識を新たにした。破壊力がある上に、タフで巨大な死神。けれど、それはわかっていたこと。
だからこそ防御に手厚い布陣にしたのだ。今を耐え抜けば、必ず天秤は此方へ傾く。
「この船は皆の希望! 皆の願い! これ以上は近づかせないよ」
本調子とはとても言えない体に鞭打って魔力を練り、生み出した光の盾を仲間たちの護りとする。ウォーレンは中衛に身を置いて援護に集中していた。怪物の力を削ぐことに専念する恵とは、真逆の動き。その何れもが、重要な布石となるだろう。
●
『魔眼のバロール』に勝機があったとすれば、当初の攻撃でケルベロスを何人倒せるか次第だったに違いない。それなのに『魔眼のバロール』は結局、竜人のテレビウム、マンデリンのようなサーヴァントたちさえ倒すことはできなかったのだ。
虚空から現れた獣が、二郎の身体を喰らう。あまつさえ、顔を引きちぎろうとする。何時かのデウスエクスがそうしたように。
強大な怪物によって生み出された幻影は真に迫り、受けるはずのない傷をも強固に具現化して、青黒い混沌の水が抉られる。
だが所詮は幻、この傷で死にはしない。二郎は軽く顔をしかめただけで、抱え上げた長大な銃の照準を定め、凍結光線を撃つ。
「……今の貴様は、図体なりの鈍重さだな」
姿を表したときの威容に比べれば、現在の『魔眼のバロール』に脅威は感じない。スナイパーとして動く二郎にとって、当てやすい的のようなものだ。
それでもなお戦艦に迫ろうとうごめく怪物に、竜人が問う。
「一応、聞いとこうか。退く気はねえよな? 退かねえなら、テメエは俺の敵だ」
怪物は応えないとわかっていた。退くこともないと、わかっていた。
(「俺がお前の敵なんじゃない。お前が、俺の敵なんだ。……違いは俺にだけ分かれば、いい」)
他者には理解されないだろう想いを胸に秘め、竜人は蒼焔を巨体めがけて放つ。熱を奪って燃え盛る蒼焔は、さらに怪物の動きを鈍く変える。
「まだ甦生氷城の攻略は終わらないようですからな。こちらも綺麗に締めるといたしましょう」
小柄な赤煙が、艦載機の上で巨大な槌を振り上げる。威力に偏った超重の一撃でさえも、今ならば。
怪物の直前で急上昇し、飛び降りた。自らの膂力に、落下の勢いを加えて振り下ろす。
円が投擲した痺れ薬が、優雨が投げつけた試験管が、怪物の瞳を灼いている。マンデリンが凶器を振るって打ち掛かり、イチイが吐くブレスが怪物を苛む種々の異常を増幅させている。
それらの上から、赤煙は巨大な、けれど怪物の前ではささやかな槌を叩きつけた。
――怪物の身体が軋む。声にならない悲鳴を上げている。
目いっぱいに開かれた瞳が石化の呪力を至近距離にバラ撒くが、狙いの精度が低く、ケルベロスを捉えきれていない。
「いきますよっ!」
「……!」
スズナの掛け声に合わせて、サイは艦載機から艦載機へと跳ねまわり、怪物への距離を詰めていく。同時にスズナが放った護符が怪物を惑わすように飛んだ。
不意に張り付いた護符が怪物の動きを止め、間髪入れず、サイが具現化した武器を叩き込む。
そこに一切の決め事はない。ただスズナとサイの双方によるアドリブだけによって成り立っている。これまでに積み重ねた信頼と経験が実を結んだ一撃だ。
続けて、唸りを上げるチェーンソー剣を手にウォーレンが真っ直ぐに、刀を手に恵が艦載機群の間を身軽に飛び移りながらジグザグに、怪物へと迫った。
すでにウォーレンも、援護から攻撃に軸を変えている。瞳の上部に切り込みを入れるようにしてチェーンソー剣を叩きつけ、そのまま下部まで一気に斬り裂く。
恵もすでに、最後の足場から踏み出している。
恵が怪物の真正面に飛び込んだのは、この戦いで初めてだ。最期の一撃で相打ちに持ち込もうとでもいうのだろうか、恵の姿を映し出した巨大な瞳に魔力が収束していく。
けれど魔力が収束しきるよりもわずかに早く、恵が突き出した刃が瞳へと届いた。磨き抜かれた切っ先が、達人の技量を以て瞳の中へと吸い込まれていく。
恵は柄まで貫いた刃をすぐさま引き抜いて、瞳を蹴り飛ばし、宙へと身を投げた。直後、行き場をなくした魔力が暴発し、爆発を引き起こす――。
●
それが『魔眼のバロール』の最期となった。怪物は瞳から体液を垂れ流し、蠢いていた足が、次第に力を失って垂れ下がった。高度もだんだんと下がっていく。
「言ったろ? バロール如きじゃどうにもなんねぇってな」
落ちゆく死神を見下ろして、竜人が嘯く。
(「……この命の使い時かとも思ったが、どうやらまだ早いらしい」)
二郎は自らの両手を見下ろした。残念なようでもあるけれど、少なくとも、この手はまだ人を守ることが出来る。それは悪くないことのように思えた。
「――サイ! おつかれさまでしたっ」
別の艦載機から飛び移ってきたミミックのサイを、スズナは迎え入れる。小刻みに跳ねるサイは、スズナの健闘を讃えているように見えた。
「やったね、ゆうー!」
円は、ぐっ、と小さく拳を握る。ここまで戦い抜いたのに倒しきれなかったら、きっと悔しい思いをしたに違いない。
喜ぶ円に優雨が微笑みかけた。
「最期はあっけないものでしたね」
脅威を排除して気持ちは軽くなったものの、それだけだ。それ以上の感慨は胸中に浮かばなかった。喜ぶ友人の姿のほうが、よほど優雨の心を動かす。
「後は、撃破班が上手くやってくれる事を祈りましょう」
赤煙は甦生氷城を見つめ、袂に手を入れた。
他の巨大な死神たちも、ひとつ、またひとつと墜ちていく。それでもなお、恵は艦載機上に仁王立ちになって気を張り詰めていた。
(「……ここは死神の本拠地。いつ何時、奇襲を仕掛けてきても不思議ではありませんからね」)
その用心深さが、勝利を呼び込む一助となったに違いない。
「あとは甦生氷城がどうなったかだね。……きっと決戦が近いのだろうな」
ウォーレンが生気の薄い顔に、おぼろげな笑みを浮かべて呟く。
今はただ、静かに勝利を信じて待つだけだ。
作者:Oh-No |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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