ご飯大噴火

作者:神無月シュン

 機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついた、小型ダモクレス。握りこぶし程の大きさの体を忙しなく動かし、電化製品を探し昼の住宅街をさまよう。
 小型ダモクレスが漸く見つけたのは、ごみ置き場に置かれていた壊れた炊飯器だった。
 すぐさま炊飯器との融合を試みる小型ダモクレス。機械的なヒールで炊飯器の体が作り変えられ融合を果たすと、そこに炊飯器のダモクレスが誕生した。
 炊飯器からホースの様なものが4本伸び、その先端には球体の手足が付いている。簡素な姿だが、本人は満足したのか炊飯器の蓋を開け閉めして喜びを表していた。
「ス・イ・ハ・ン・ジャー」
「ぎゃああああああ!」
 ダモクレスは早速、釜から大量のご飯を火山の噴火の如く噴き出させ、道行く人に浴びせかける。
 ご飯を頭から浴びた通行人は熱さと息苦しさに藻掻き、やがて動かなくなった。
 満足したダモクレスは次の標的を探して住宅街を進み始めた。


「という、炊飯器がダモクレスになってしまう事件が発生するのです!」
「とても熱そうね」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の予知を聞いた花開院・レオナ(薬師・e41749)が呟く。
 今のところ被害は出ていないが、ダモクレスを放置すれば、予知の様に多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
「これは早々に手を打たないといけないわね」
 レオナは対策を立てる為、ねむに話の続きを求めた。

「このダモクレスは炊飯器が変形したロボットの様な姿をしています!」
 攻撃方法は、予知で見たご飯を噴き出すものと蒸気を浴びせる攻撃のようだ。
「ダモクレスのご飯攻撃はグラビティによる見た目で、実際には食べられないのです!」
 ねむは「食べ物が無駄になるわけじゃなくて良かったのです!」とホッとした表情を浮かべていた。
 現場が昼の住宅街になる為、ダモクレスとの戦闘前に通行人の避難を行いたいところだ。

「できるだけ通行人に被害が出ない様に戦ってほしいのです!」


参加者
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
花開院・レオナ(薬師・e41749)
七宝・琉音(黒魔術の唄・e46059)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
 

■リプレイ


 昼の住宅街。ケルベロスたちは、張り巡らされた道路を目的地へと向かって歩いていく。
 複雑に入り組んだ道路に、初めて訪れる者ならば道に迷ってしまうことだろう。
「次の十字路、右です」
 しかし、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)は迷いなく目的地への最短ルートを指示していく。それというのも上空から送られてくる『レスキュードローン・デバイス』の情報のおかげである。
 最初は『ジェットパック・デバイス』を用いて上空から向かう事も考えられたが、急接近するケルベロスの反応に小型ダモクレスが姿を隠してしまう可能性があった為、断念した。
 こうして歩いて向かえば、予知通り融合を果たした後に対峙することが出来るだろう。
「わたしが予想していたダモクレスが本当に現れるとは驚いたわね」
 予想通りのダモクレスの出現に、花開院・レオナ(薬師・e41749)は心底驚いたと呟く。
「炊飯器か、毎日使うものだけどダモクレスになっちゃったら慈悲は必要ないよね」
 七宝・琉音(黒魔術の唄・e46059)は身近で使うものがこうしてダモクレスになってしまう事を残念に思った。
「炊飯器のダモクレスですか、まぁ食べ物が粗末にならないならまだ幸いでしたね」
「けど、昼の住宅街に現れるとは厄介ですね」
 中身のご飯が本物ではない事にタキオンは安堵した。それに同意しつつもミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は出現する時間と場所に、一般人が巻き込まれないかと心配していた。
 目的地へと辿り着くと、ミント、レオナ、琉音の3人が『キープアウトテープ』を取り出した。
「戦闘前に念のため人払いはしておきましょう」
「私も貼るのを手伝いますね」
 タキオンはミントについて『キープアウトテープ』を貼り始める。
「わたしも手伝うから遠慮なく言ってね」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)も手伝いを申し出て、5人はダモクレスに気付かれない様、周囲に人払いのテープを貼っていく。
「これで暫くは大丈夫でしょうが、人々に被害が出てしまう前に、早く倒してしまいましょう」
「まぁ、人々に被害が出る前に何とか出来るなら、早く倒すしかないわね」
「人々に怪我人が出る前に、早く倒しちゃおう!」
 テープを貼り終え、ミント、レオナ、琉音の3人は残った『キープアウトテープ』を片付けながら、ダモクレスを倒す事が一番の安全策だと口にした。
 そうこうしている間に向こうからダモクレスが歩いてきた。炊飯器にホースの様な手足。デフォルメしたキャラクターの様な姿にさほど脅威も感じられないが、相手はダモクレス。放っておいたらその姿に油断した一般人が近付いて餌食になりかねない。
「炊飯器のダモクレスか、白いご飯が食べたくなるわね。このダモクレスとの決着が着いたら、皆で昼ご飯を食べに行きたいわ」
 炊飯器で真っ先に連想されるのは、真っ白な炊き立てご飯。悠姫はこの後の予定を立てると、武器を構えた。
「さぁ、行くよ黒影。共に頑張ろうね!」
 琉音がボクスドラゴンの黒影へと準備はいいかと声をかけると、黒影は気合の籠った鳴き声を返した。
 こちらに気が付いたダモクレスが行動を開始するより先に、ケルベロスたちはダモクレスに向かって走り出した。


 一番に飛び出したミント。ダモクレスへと接敵しパイルバンカー『青薔薇の稲妻』をその胴へと突きつけた。
「雪さえも退く凍気で、その身を氷漬けにしてあげますよ」
 凍気を纏った杭が『青薔薇の稲妻』から撃ち出されダモクレスを貫くと、杭を中心にダモクレスの体が凍り付いていく。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 銃の形へと形態を変化させる、悠姫のガジェット『不思議なポケット』。狙いを定め撃ち出された弾丸がダモクレスを撃ち抜いた。
「ドローンの群れよ、仲間を警護せよ!」
 タキオンの指示の下、小型のドローンの群れが最前線に配置されていく。
 ダモクレスは細い腕を器用に動かし炊飯器の蓋を開けると、釜の内部が爆発を起こし、まるで火山の噴火の様に、白いご飯が上空へと噴き出された。
 噴き出されたご飯が噴石となって、琉音たちへと降り注ぐ。小型ドローンの群れの隙間を抜けて浴びせられるご飯の熱さに、前線の者たちは慌てて貼り付くご飯を振り払っていた。
「あちちっ! けど、この程度ならまだっ!」
 ご飯の熱さに顔をしかめるも、琉音はひとまず仲間の援護を優先した。
 その横で黒影は心配するように琉音を治療する。
 ご飯が噴火する様子を遠巻きに見ていたレオナは、こちらに飛んでこなくて良かったと思いつつ、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させる。
「竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 ドラゴニックハンマーから撃ち出された弾がダモクレスの足元へと着弾し、小さな爆発を起こす。
「やはりご飯は熱くないといけませんよね」
 とは言え、浴びせられる時は堪ったものではない。熱々なのは食べる場合に限ると、ミントはお返しに炎を纏った蹴りをダモクレスへとお見舞いする。
 タキオンは回復を兼ねて、守りを厚くする為に更に小型ドローンを配置していく。
「援護するよ、強力な一撃をお見舞いしてあげてね!」
「任せて。この弾丸で、その身を石化させてあげるわ!」
 琉音の援護を受け、悠姫は『不思議なポケット』を再び拳銃形態へと変形させると、魔導石化弾を発射。
 銃弾を受けつつもダモクレスは炊飯器の天辺をケルベロスたちへと向けると、蒸気口から大量の蒸気が噴射される。
 噴射された蒸気は意志を持っているかのように左右へと二手に別れると、前衛を避けタキオンとレオナへと襲い掛かった。
「コホッコホッ……このウイルスカプセルで、その身を汚染してあげるわよ」
 高温の蒸気を吸い込み咽るレオナ。涙目になりながら、対デウスエクス用のウイルスカプセルを取り出すと、ダモクレス目掛けて投げつけた。


 本物のご飯が使われず食べ物が無駄にならないのはいい事だが、グラビティである為に無限にご飯を噴火させられるという事でもあった。
 もう何度目かになるご飯の噴火に琉音たちは心底面倒な顔をしていた。一撃一撃、そう大したことがないとしても、こう何度も受けていればダメージは深刻なものになってくる。
「大丈夫ですか、緊急手術を施術しますね」
「我が魂よ、神秘の炎となりて、傷を癒す力となれ」
 タキオンと琉音はミントと悠姫を手分けして治療する。
「おかげでまだまだ戦えます」
「ええ。その硬い頭を、かち割ってあげるわよ!」
 治療を終えた2人が同時に飛び出す。ミントが『青薔薇の稲妻』を突き刺し杭を穿ち、ダモクレスの頭上へと跳び上がった悠姫は『月光天斧』を落下の勢いを乗せて振り下ろした。
「少しの隙も見逃さないわ」
 2人の攻撃を受け怯むダモクレス。その少しの隙にレオナはドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変え、竜砲弾を撃ち込む。
「薬液の雨よ、仲間を浄化する力を与え給え」
 ダモクレスが蒸気を噴射し反撃するも、タキオンは落ち着いて薬液の雨を降らせる。薬液の雨は前衛の仲間たちの元へと降り注ぎ、回復と同時に悪い影響を及ぼしていたものも一緒に洗い流していく。
「私も援護するよ、全力の一撃をお見舞いしてあげて!」
「任せて」
 琉音の言葉にミントが頷き答えると、ワイルドスペースから空鳴・無月(e04245)の残霊を召喚した。
「さあ、大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 ミントの合図と共に、2人が動き出す。無月が先陣を切り、手にした槍を縦横無尽に振るい乱舞を仕掛け、その合間を縫う様にミントの射撃がダモクレスを的確に撃ち抜いていく。それが数度繰り返された後、息の合った同時攻撃を叩き込んだ。連携攻撃を終え無月がワイルドスペースへと戻っていくと、ミントは一つ息を吐き呼吸を整えた。
「このタイミング、逃さないわ」
 連携攻撃が終わる瞬間を見計らっていた悠姫は、ここぞというタイミングでダモクレスへと弾丸をお見舞いする。
「わたしの中に潜む魔法の花よ、敵を取り巻き、その身を侵食しなさい!」
 繰り出された連続攻撃に動けずにいたダモクレスの元へレオナの魔力によって作られた蔓が絡みつきその体を縛り上げていく。それと同時、縛り上げられた場所から魔力がダモクレスの体を侵食していく。やがてダモクレスの命が尽き光の粒子となって空に溶けていくと、その場には妖しく光る青色の花が咲き誇っていた。


「壊れた建物とか無いか、調べておこうかな。ヒールは念入りにしておこうね」
 レオナは一息つくと周囲の損傷のチェックを始める。
 それを基に手分けして修復を行っていく。
 修復を行う過程で目についたのが、塀や地面にへばり付いているご飯だった。
「これはどうしましょう?」
「このまま放置ってわけにはいかないよね」
 タキオンと琉音の言葉に5人は対策を考える。そして出した結論は、とりあえず洗い流してしまう事だった。
「それじゃあ、いくわね」
「こちらも準備オーケーです」
「「メディカルレイン」」
 レオナとタキオンが手分けして薬液の雨を降らせていく。最初は変化のなかったご飯も、徐々に雨に濡れて塀や地面から剥がれ流れていく。やがてご飯は薬液と共に道路脇の排水口へ流れて消えていった。
「何とかなったわね」
 ご飯の処理と周辺の修復を終え、安全を確認した5人は手分けして貼ってあった『キープアウトテープ』を剥がしていく。
「ふぅ、炊飯器を見たからご飯が食べたくなっちゃったわね」
 全ての処理を終え、悠姫が一息つくとそう呟いた。
 そして、皆の視線を集める様に両手を胸の前でポンと合わせた。
「無事に事件も解決したし、皆でご飯を食べに行きましょう?」
 悠姫は戦闘前に立てた予定通り皆をご飯へと誘った。
「熱々のご飯が食べられるところがいいですね」
「私ももちろんご一緒します」
「動いた後だからご飯が美味しいでしょうね」
「いいね。私は何を食べようかな」
 皆、喜んで誘いに乗った。
「それなら、まずは駅前辺りに向かうのが良さそうね」
 ケルベロスたちはご飯の話に花を咲かせながら、駅前へと向かって歩きだした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月3日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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