ケルベロスブレイド防衛戦~波間に消えゆく魂

作者:砂浦俊一


 兵庫県鎧駅沖の海上を大竜巻が荒れ狂っていた。
 天高く屹立する竜巻は6匹の龍の如く、洋上の『《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング』を取り巻いている。
 空は昼なお暗く、海は大波がうねりをあげ、漂流していた無人の漁船が木の葉のように揺れている。
 直後に漁船は竜巻に呑まれ、空中へ巻き上げられ、粉微塵に破壊された。
 破壊したのは竜巻の暴風ではない。
 数えきれないほどのザルバルクによるものだ。
 ザルバルクの群れが、これらの大竜巻を形作っていた。
 そして1本の大竜巻の中に巨大な死神の姿。
 この死神、『黄泉戸喫』の胴体では、無数の死者の顔が嘆きと怨嗟の声を上げていた。


「皆さんの尽力によりデスバレス大洪水を阻止できました、本当にありがとうございます」
 ケルベロスブレイドに駐機しているヘリオン。その機内で、イオ・クレメンタイン(レプリカントのヘリオライダー・en0317)がケルベロスたちに頭を下げた。
 地球の海のデスバレス化を狙った冥王イグニスの計画は崩れ、死神の拠点は『《甦生氷城》』のみとなった。
 この最後の拠点で、現在ある異変が起きていた。
「兵庫県鎧駅沖に出現した《甦生氷城》から半径数キロメートルに、巨大な竜巻が複数現れて大荒れに荒れています。竜巻の正体は無数のザルバルクです。竜巻内部に多くの死神が巻き込まれてザルバルクの制御を失っている状況ですが、そこに膨大な数の敵勢力がいることに違いはないので、放置はできません」
 ザルバルクの大竜巻、近づくだけでも恐ろしく危険だろう。
 しかし、こちらには万能戦艦ケルベロスブレイドがある。
「ケルベロスブレイドには『ザルバルク剣化波動』があります。効果が及ぶ範囲は半径8キロメートル、ザルバルクの大竜巻の完全な無効化が可能です。ケルベロスブレイドで《甦生氷城》に近づき、ザルバルクを剣化した隙をついての突入と拠点制圧が今回の目的ですが――皆さんには別の任務をお願いしたいのです」
 その任務とは、一言で言えばケルベロスブレイドの防衛だ。
 作戦開始後のケルベロスブレイドは《甦生氷城》を『ザルバルク剣化波動』の範囲に入れ続けるため、その場に留まる必要がある。
 ザルバルクを剣化した後は主砲の『雷神砲』で大多数の死神を撃破できるだろうが、特に強力な巨大死神はこれに耐え、ケルベロスブレイドに向かってくるはずだ。
「ケルベロスブレイドは『分解式魔導障壁』で遠距離からの攻撃なら防げます。皆さんの任務は巨大死神の迎撃、つまり敵をケルベロスブレイドに近づけさせないことです」
 続いてイオは背後の液晶ディスプレイに巨大死神の姿を映し出した。
 見た目は巨大なイカだが、胴に無数の死者の顔が浮かび、醜悪かつ奇怪極まりない。
「皆さんには『黄泉戸喫』の迎撃をお願いします。こいつはサルベージして取り込んだ死者たちの怨嗟と絶望に蝕まれて完全に理性を喪失しています。体長は触腕の先まで含めれば100メートルに達し、下手なドラゴンよりも強敵でしょうが、戦闘時はケルベロスブレイドから支援砲撃を行いますので勝機はあるはずです。また海上での迎撃になるので小剣型艦載機群を足場にして戦うことになります。敵の攻撃手段については、こちらの資料を」
 イオがケルベロスたちに資料を配布する。
 小剣型艦載機群を縦横無尽に飛び移って敵を翻弄しつつ、ケルベロスブレイドからの援護を利用すれば、巨大死神であろうと互角以上に戦えるはずだ。
「突入班が《甦生氷城》を制圧できるかどうかは、ケルベロスブレイドを防衛できるかどうかにかかっています。皆さんのご武運、お祈りします」
 空と海の狭間を舞台に、今、巨大死神との死闘の幕が上がる。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ


 兵庫県鎧駅沖。『ザルバルク剣化波動』により《甦生氷城》を取り巻く6本の大竜巻は消滅、続く巨大主砲『雷神砲』が死神勢力の大半を撃破した。
 だが主力の巨大死神たちは未だ健在、ここからが本当の戦いだ。
 小剣型艦載機群を駆り、ケルベロスたちは海面から数百メートル上空を飛行、巨大死神の迎撃に当たる。《甦生氷城》への突入班をサポートするためにも、ケルベロスブレイドを巨大死神から守ねばならない。
「あれは………おっきい、烏賊?」
「ダイオウイカも真っ青、いえ真っ赤なクラーケンの特大サイズでしょうか」
 エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)とマロン・ビネガー(六花流転・e17169)は巨大死神、黄泉戸喫の異形に困惑する。その姿はまさしく巨大な烏賊、想像の斜め上だ。
「鎌倉奪還戦の亡霊が今頃になって迷い出るとはな……!」
「あれほどのサイズなら攻撃を外しそうにはありませんね」
 小剣型艦載機上に仁王立ちで腕組みをするエクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)は不敵な笑みを見せ、彼女に付き従うような位置をファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は飛行する。
 黄泉戸喫との距離が縮まるにつれて、姿も鮮明になる。
 胴体に浮かぶ死者たちの顔が、はっきりと見える。
「俺を殺したデウスエクスが憎い……」
「助けてくれなかったケルベロスが憎い……!」
 風を切る音とともに聞こえてくる、死者たちの怨嗟の声。
「ボクたちもデウスエクスも憎んでいる、敵……」
「死者の怨念に理性を呑まれ、救えなかった命たちの集合体と成り果てた。これでは死神どころか悪霊だ」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は死者たちの嘆きの声に寒気を覚え、千歳緑・豊(喜懼・e09097)は冷静に受け止めようとする。
 こちらの攻撃の射程に入るまで、あと数秒。
 視界の端には巨大死神との戦いが始まった他の防衛班の姿、厚い雲に覆われた空は昼なお暗く、荒れる海は水平線の彼方まで万里の波濤が続く。
 空と海の狭間にはケルベロスたちと死神しかいない。
「かつて海の怪物クラーケンは数々の船を沈め、船乗りに恐れられていました。しかし荒れ狂う海の魔物を乗り越え海を越え、新天地に辿りついたのもまた、勇敢なる船乗りでございました」
「どんな巨大な敵であろうと! 臆さず立ち塞がり! 皆様を護るであります!」
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)はケルベロスブレイドを船に、死神をクラーケンに例えて味方を鼓舞。クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は敵の進行方向を塞ぐ位置へ小剣型艦載機を動かす。彼女の瞳が黄泉戸喫の巨大かつ真っ赤な眼球を見据える。
「俺たちを救えなかった連中が、今度はあの戦艦で殺しに来るのかあああ」
 無数の死者の顔が憤怒と憎悪に歪む。
 ケルベロスブレイドへと黄泉戸喫が増速する。


 シルディとマロンがチェイスアート・デバイスを発動、牽引ビームで仲間たちを繋いだ。
 万一の時は、これが命綱になるかもしれない。
「ケルベロスブレイドは願う未来に近づくための船。しっかり守るよ!」
「鎌倉奪還戦……まだ我々の力が及ばない頃でした。でも今は違いますっ」
 両者のメタリックバーストと殺戮衝動に続き、クリームヒルトとエレが攻撃を仕掛けた。
「ここから先は通さないのでありますっ」
「行くよ、ラズリっ」
 投げられた氷結輪が黄泉戸喫の胴を裂き、その傷口へ霊弾が炸裂する。
「死にたくない、死にたくない!」
「お願い、助けて、何でもするからぁ!」
 黄泉戸喫の胴で若い男女の顔が耳を劈く悲鳴を上げる。
 だが小手先の攻撃では黄泉戸喫は止まらず、ケルベロスブレイドへと直進する。
「デウスエクスにも、ケルベロスにも、訴えたい事があるのだろう? 近くに元デウスエクスがこれだけ居るんだ、余所見なんてしてくれるなよ?」
 豊の上半身の装甲が展開、発射された小型ミサイル群が黄泉戸喫を包むように着弾する。
「熱い、息ができない、お父さん、お母さん……っ」
「ああっ、火が、火が!」
 ミサイルの爆発に死者たちの顔が弾け、吹き飛ばされる。その下から新たな顔が浮いてくる。いずれも黄泉戸喫が取り込んだ死者たちだ。
「ケルベロスもデウスエクスも……いなくなれ!」
 黄泉戸喫、いいや死者たちの意識が、迎撃に来たケルベロスたちに向けられる。
 小剣型艦載機群ごと薙ぎ払おうと触腕が振り上げられる。
「フレイヤは味方の盾。そう、催眠攻撃の盾になれ」
「弾幕を張って動きを止めます」
 サーヴァントへ指示を下したファルゼンの口から、濃い紫煙が吐き出される。けむにまく、真相は煙の中。煙が黄泉戸喫の真っ赤な眼球を覆い、視界を奪う。
 重武装メイドのテレサは上方へ、ライドキャリバーのテレーゼは下方の小剣型艦載機へ跳ね、上下からアームドフォートとガトリングガンを撃ちまくる。
 この煙幕と弾幕の中へエクレールはその身を躍らせた。
「従者よ、我に続け!」
 雷光の従者とともに跳躍した彼女は、煙幕と弾幕を突き抜けて黄泉戸喫へ肉弾戦を挑む。
「殺すならひと思いに殺してぇえええ!」
「どうして僕の町が戦場になったんだ!」
 死者たちの目から黒々とした粘液が流れ出す。粘液の一滴一滴に、死者たちの深い憎悪と怨嗟が宿っている。それが黄泉戸喫の外傷を塞ぎ、肉体を硬化させていく。


 ケルべロスブレイドを破壊せんと推し迫る6体の巨大死神と、これを撃滅せんとするケルベロスたち。海と空に夥しい叫びと爆発音が響き渡り、ケルベロスブレイドの雷光の如き支援砲撃のたびに周囲が明るく照らし出される。
 黄泉戸喫を迎撃する防衛班の戦いも熾烈さを増していく。
 敵のサイズがサイズだけにこちらが狙いを外すこともないが、巨体ゆえに生半可な攻撃は通らない。
「私の体、ドロドロに溶けていく……こんな死に方は、嫌ぁ……」
「もっと早く助けが来ていたら、俺も、妻も子も死ななかったはず……!」
 死者たちの嘆きを乗せ、黄泉戸喫が10本の腕で周囲を薙ぎ払う。ケルベロスたちは縦横無尽に飛び交ってこれを避けるが、回避が間に合わない時もある。掠めるだけでも全身に痺れるような痛みが走り、小剣型艦載機が撃墜される。
 勝利の要であるケルベロスブレイドを守るため、ケルベロスたちは10本の腕を掻い潜って胴を切り裂き、絶え間ない砲火で黄泉戸喫の注意を自分たちへ引き付ける。
 サーヴァントたちも攻撃の援護、味方の回復にと目まぐるしく動き回る。
「腕が多すぎる。少し減らしてやろう」
「燃え墜ち波間に消えるがよい!」
 ファルゼンの2本のチェーンソー剣が唸りを上げ、エクレールはグラインドファイアで黄泉戸喫を包み込む。これが普通の烏賊なら香ばしい匂いがするだろうが、両者が嗅いだのは人間が焼けるような猛烈な臭気だ。
「どうして邪魔をするの? 今更あんな船で誰を救えるの? あたしたちを救えなかった、あんたたちに!」
「デウスエクスもケルベロスも、生きとし生けるもの全てよ屍になれ!」
 黄泉戸喫から強烈な呪詛が周囲へ放たれた。
「あははは! 死ぬんだ! みんな死ぬんだ!」
「パパ、ママ、どこ……? 私の目、もう何も見えないの!」
 全ての死者の顔が一斉に叫ぶ。気が触れたような若い男の声、泣き喚く幼い子の声、戦場に響き渡る禍々しい呪いの言葉、断末魔の絶叫が、ケルベロスたちの心身を蝕み、死の衝動へ走らせる。
「……少し、口を噤んでもらえるかな」
 呪詛に晒された豊は、眉間に皺を寄せ、歯を軋ませながらも、リボルバー銃の早撃ちで死者たちの顔を潰していく。しかし、数が多い。
「戦線はボクが支えるであります!」
「ヒールドローン、展開します」
 最前線のクリームヒルトは味方へとエナジープロテクションによる盾を張り巡らし、テレサはジャイロフラフープを支援に飛ばす。
(ボクはデウスエクスとも仲良くして、それが難しくとも住み分けして、この宇宙で共に生きたい。それを追い求める上でボクらやデウスエクスへの恨みを無視するなんて、できない……)
 自身がケルベロスにもデウスエクスにも見えるように。シルディはケルベロスコートの裾や袖からオウガメタルと攻性植物をたなびかせた。
「みんなの恨み、ボクに刻んで忘れません。決して忘れないからっ」
「そうです、受け止めて、打開してこその猟犬です!」
 シルディの攻性植物が黄泉戸喫に毒を注ぎ、マロンのパイルバンカーが真っ赤な眼球に突き立つ。死者たちの顔が怒りと悲鳴の入り混じった叫びを上げる。放たれる呪詛も一際強くなるが、直後に黄泉戸喫の全身が閃光に包まれた。
 ケルベロスブレイドからの援護の砲撃だ。
 雷神砲の直撃に黄泉戸喫の動きも呪詛も止まる。
 全身は焼け焦げ、片目を潰され、腕も何本か失い、徐々に高度を下げていく。
 このまま波間に消えるか?
「痛いよぉ、熱いよぉ、怖いよぉ……」
「俺たちが味わった痛みと苦しみは、こんなものじゃない!」
 だが黄泉戸喫の残った目と死者たちの視線が、ケルベロスブレイドに向けられる。そして再び高度を上げようとする。
「憎しみは悲劇しか生みません。だから終わらせます……! 煌めく星の加護を、此処に。降り注ぎ、満ちろ!」
 エレの叫びとともに、天駆ける星の欠片の光が降り注ぐ。


 星屑の光、それは癒しの輝きであると同時に、敵を殲滅する力を与える加護。
 敵も味方も満身創痍、どのような結果になるにせよ勝負が決する時は近い。
「間に合わなくてごめんね……もう同じような恨みが起きない世界にできるよう、精一杯頑張るからっ」
「真上。そこなら届くとしても2本の触腕のみです。シールド、張ります」
 火力を極限まで上げるべくシルディはストライキングの力を豊へ注ぎ、テレサは味方の前面に光の盾を出現させる。
 そして残る仲間たちは編隊を組んで小剣型艦載機を急降下させた。
 先頭を飛ぶのは盾役のクリームヒルト。
「雷電皇帝アステリオス様もファルゼン様も、皆さんも、ボクがお護りするであります!」
 クリームヒルトの破鎧衝が黄泉戸喫の胴を穿つ。周囲の死者たちの顔もまとめて消し飛ぶ。残る顔の半数は苦痛に絶叫し、もう半数は憤怒に表情を歪ませた。2本の触腕が唸りを上げて振り回され、シールドと動力甲冑を砕かれた彼女は空中へ投げ出されてしまう。後続も触腕の一撃に巻き込まれて編隊が乱れるも、旋回して再突撃を試みる。
「まだこれだけの力を残して……?」
 敵は巨体故に体力も図抜けているのか、それとも死者たちの恨みの深さと激しさか。
 辛くも触腕から逃れたエレは癒しの風で味方を包む。
「です攻撃からも怨嗟からも逃げる心算はありません。皆さんの魂、今こそ救いますっ」
 マロンは落ちるクリームヒルトをデバイスの牽引ビームで引き上げると、甘き鹵獲術、グラニュー糖に似た質感の白い粉末を振り注ぎ、黄泉戸喫を抑え込む。
 足場の小剣型艦載機を破壊された豊も空中へ投げ出されていたが、すぐさま飛来した別の機体の下部に左手で掴まり、右手で虚空に円を描いた。
「ターゲット」
 低く響く彼の声とともに、描かれた円の中から走狗が姿を現す。
 光る五つの目、一本の棘を持った長い尾、地獄の炎から生まれた獣が黄泉戸喫の全身を駆け巡る。その牙で、その棘で、その尾で、黄泉戸喫の心身を苛み、動きを封じる。
「陛下、露払いはお任せを」
 降下しながら薙ぎ払われるファルゼンのチェーンソー剣。胴体が切り裂かれ、触腕も落とされ、ぐらりと横倒しに黄泉戸喫の全身が傾いた。
 黄泉戸喫の残った目と視線が重なり、エクレールの口元には笑み。
「哀れな死神よ、嘆き悲しむ死者たちよ。せめて、雷電皇帝たる余の稲妻で眠りにつかせてやろう!」
 黄泉戸喫の眼球に叩きつけられる、全力全開の音速の拳。
 降下の勢いも加わり、エクレールの体は黄泉戸喫の内部を破壊しながら突き進む。
 共に戦う仲間たちにも、ケルベロスブレイドの艦橋からも、それは黄泉戸喫に天から稲妻が落ちたように見えた。
 死者たちの顔が一斉に悲鳴を上げる。断末魔の絶叫が響き渡る。
 反対側から突き出たエクレールが仲間たちに回収された時、黄泉戸喫自身は息絶えていた。死者たちの呻き声も、徐々に弱々しくなり、聞こえなくなっていく。
 巨体が海へ落ち、大きな水柱が上がる。
「ああ、パパとママが見える……ケルベロスさん、ありがとう……」
 黄泉戸喫が波間に消えゆく時、幼い子の声をケルベロスたちは確かに耳にした。
 これを最後に、死者たちの声は聞こえなくなった。
「元ダモクレスとしてはどれだけの感情をぶつけてもらえるか楽しみでもあったんだけどね。……これほどとはね。彼らのために、祈ろう」
 そう呟いて豊は瞳を閉じる。
 仲間たちも祈りを捧げる。
 海よ、死者たちに安息を与えてくれ。彼らの魂が救われるように。
 時を置かず、他の防衛班も巨大死神の撃破に成功したのか、歓声が聞こえてくる。
 空を厚く覆っていた雲の隙間から、陽光が海上に差し込む。
 何本もの光の筋、そのうちの1本が黄泉戸喫の没した海面を照らし出す。
 波間から天へと続く光の回廊。
 ケルベロスたちは、死者たちの魂が天へと昇っていくのを見た気がした。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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