ケルベロスブレイド防衛戦~零れ落ちし地獄の王

作者:のずみりん

 兵庫県、鎧駅沖合。
 デスバレス大洪水の阻止に成功したケルベロスたちの前へと出現した出現した『《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング』は今、竜巻の中にあった。
 無数の竜巻が海を逆巻く海域は昼にも関わらず薄闇に包まれ、異界の如き様相を呈していた。
 もはや《甦生氷城》も目を凝らさねば捉えることはできない。
 そして目を向けた者たちは見た。
 嵐の中にうごめく巨大な死神の姿を。
 あるものは巨大な海魔、あるいは揺れ動く虹の竜人、それらと共にある奇怪な炎の如き何か。
 気づいたものがいた。あれは炎ではないと。
 アレは『地獄』だ。
 命を代償に道へと駆り立てる不滅の狂気。
 その具現たる憎しみの王の姿は『ブレイズロード』と呼ばれた。

「皆のおかげでデスバレス大洪水は阻止できた。その結果だろう……兵庫県鎧駅沖に出現した『《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング』と異変、作戦についてこれから説明する」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は記録された無数の竜巻を指し示し、ケルベロスたちへと告げた。
「まず、この竜巻の正体だが……ザルバルクだ。どうやら『デスバレスの大洪水』を起こすはずだった無数のザルバルクが洪水を阻止された結果、《甦生氷城》を無理やり外に出ようとしているらしい」
 ザルバルク……その無限の繁殖力で東京焦土地帯を人類に放棄させた深海魚型の死神。
『デスバレス大洪水』のために用意された戦力は制御を離れ、あのような形を成しているとリリエは言う。
 そして制御を失っていてるのはザルバルクだけではないと。
「今は制御を失っているが、日光を遮るほどのザルバルクと死神たちが地球に放たれれば恐るべき事態になる。我々はただちに『《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング』を制圧しなければならない」
 幸い、ザルバルクの竜巻への対抗手段はある。
 万能戦艦ケルベロスブレイドだ。
「ケルベロスブレイドには合体した『磨羯宮ブレイザブリク』の力には、ザルバルクを剣化させる波動がある。これを使い、ザルバルクを剣化した隙をついて《甦生氷城》を制圧するんだ」
 しかしそれは同時に、ケルベロスブレイドがザルバルク以外、向かってくる強大な死神と対峙しなければいけないという事でもある。
「皆には今回、ケルベロスブレイドの防衛を頼みたい。できるか、ケルベロス」
 待ち受ける死神は強力だが、ケルベロスブレイドの援護もある。何とかなるはずだとリリエは力強く保証した。

 今回の作戦では万能戦艦ケルベロスブレイドの戦闘能力をフルに活用するとリリエは、海域の地図にマーカーを置いた。
「ザルバルク剣化の波動は最大で八キロほどある。ここが《甦生氷城》とすると……ちょうどこの辺りの海域だ。ケルベロスブレイドは、この八キロギリギリのラインでザルバルクを剣化しつつ死神を迎撃する」
 万能戦艦ケルベロスブレイドはその名に違わず、強力な火力、防御力を備えている。
 『金牛宮ビルスキルニル』に備えられた『雷神砲』は大多数の死神を接近前に撃破でき、更に『獅子宮フリズスキャルヴ』の『分解式魔導障壁』により死神の遠距離攻撃は一切通らない。
「皆に頼みたいのはこれらで処理できない相手……『雷神砲』で倒しきれず、魔導障壁の内へと突破を図る強力な死神、具体的にはコレだ」
 リリエが示したのは名状しがたき炎の如き姿。
 四足獣、猟犬のようにも見える炎だが、その姿は都度都度に移ろい揺らいで見える。
「これは『地獄』、情報によればブレイズロードと呼ばれるもの……らしい」
 リリエも言葉を濁したそれはブレイズキャリバーたちの一部たる『地獄』と同質であり、一説によればデスバレスから零れ落ちた地獄そのものという。
「怒りに呼応して魂に憑り付き仮初めの形を得て、命を代償に一つの道に駆り立てる不滅の狂気……そのように呼ばれるものとすれば、あの姿もまた仮初めのものなのだろう」
 憶測まじりで、あくまでそうであるとしたらだが、と前置きしてリリエはいう。
「だがアレが地獄そのものであるのなら、ブレイズロードの力はブレイズキャリバーの力を、よりプリミティブに発言したものであるはずだ」
 強力といえ、対ブレイズキャリバーと考えればその攻撃は予測しやすい方かもしれない。

「それとこれはブレイズロード自体の問題ではないが、今回の戦闘はケルベロスブレイド周辺……つまり空での戦いとなる。足場として小剣型艦載機群を展開はするが、ブレイズロードも空から飛来するので一応留意しておいてほしい」
 今回はケルベロスブレイドと連携しての戦いという事もあり、戦闘中の援護も期待できる。
 防衛と連携の戦術は生き延びた先の糧にもなるはずだ。
「さすがの冥王イグニスといえど、万能戦艦ケルベロスブレイドの能力は把握してないだろう。一つ今回はこちらから驚かせてやろうじゃないか」
 不敵な笑いでリリエはケルベロスたちに応じてみせた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●イントゥー・ザ・ブレイズ
『LOTOUT, CLEAR FOR TAKE OFF』
「クリア・フォー・テイクオフ、オーライ」
 青葉・幽(ロットアウト・e00321)の体を預ける小剣型艦載機が、艦中央部につき立つ剣冠(ブレイドアーチ)を観覧車のゴンドラのようにを昇っていく。
 発艦システムの機械的な音声に復唱し、鎧装の騎士は嵐うずまく海を睨む。全自動の発艦ナビゲートも最後にタイミングを決定するのは射出される当人だ。
「……発進」
『OK,LET’S GO』
 頂点に達して、数秒。閃光が交錯する空を睨んだ幽の短く鋭い声に、剣冠が小型剣を切り離す。撃ち放たれた矢の如く、ケルベロスたちを乗せた小剣型艦載機は空へと飛び出した。
「目標補足、よく見ときなさい」
 その速度は音速の二倍に超え、瞬く間に襲い掛かる死神たちを『ゴッドサイト・デバイス』の射程に収める。
「予定通り、雑魚は母艦からの火力支援で排除されてる。わたしたちの狙いは……アイツだ」
 最初に捕らえたのは無数の交点。だがそのほとんどはリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)が艦載機と接続した『エアロスライダー』上から観測する間にも、目に見えて消えていく。
「なるほど、言うだけあって大した威力だ」
 キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)も呟くほど、距離をとっての砲撃戦はケルベロスブレイドの圧勝だった。
 ケルベロスたちの背より放たれる『雷神砲』は拡散、偏向してザルバルクやデプスアンガー、死塊といった死神たちを次々に叩き落とす一方、死神たちの決死の反撃は『分解式魔導障壁』にまるで通らない。
「駄目ですね、予想通り」
 だがその中にも例外はある。
 暴風に放熱髪をあおられながらも『多重分身の術』の術を展開するピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)の前方、死神たちが投影される艦砲射撃やミサイルに騙され被害を増やすなか、正面から突っ込んでくる巨大な光。
「筋肉どころか体もねぇのに、なんて野郎だ」
 しっかと『スパイダーブーツ』を踏みしめる相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)も目をむく度胸は、すなわち当たっても問題ないという事。
「アレにとりつかれた終わりだ、ここで食い止める!」
「嵐の王の次は地獄の王かね……」
 戦闘空域に加速が緩まるや『アームドフォートMARK9改(アームドフォート)』を展開するティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)へ、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は何とも言えぬ声でぼやく。
「【嵐の王】フリッケンですねぇ。まぁあれが『地獄』とは何ぞやとー、もはや問うまでもありませんわねぇー」
 のフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)ののほほんとした声と、打って変わって激しく燃え上がる脳内の『地獄』。
 それは横目に見るマークからして、いかにも異常な光景だった。
『R/D-5より情報共有。死神個体『地獄の王』と呼ばれる理由は、嵐の王とは異なると推測』
「だろうな。アレが通り名の類で済むとは思えん……SYSTEM COMBAT MODE」
 戦術支援システム『R/D-1』の警告にマークがわかっているとセンサーを赤く閃かせたのと、降り注ぐ炎は同時。今はまだ『分解式魔導障壁』に阻止されるも、阻止限界点を超えればどうなるか。
「言葉なくとも分かりますともー、それではー……嗤ヱ、野干吼」
 炎が向き直る。
 天敵ととらえたか、見えざる繋がりか。
 手にした『野干吼』が狐日の如く炎を纏う様に呼応し、炎もまた姿を変えた。
「これが地獄の……!」
 うわずるピコの声に違わず、それは巨大な一頭の猟犬と化して襲い掛かってきた。

●貪り食らう炎
『対空警報。敵火炎弾の軌道を確認』
「なンだとぉ!?」
 アラートを鳴らすマークの『R/D-1』戦術システムが鳴らすアラートに、身構えながら泰地が叫ぶ。
 地獄の王が猟犬へと変化したのは戦闘のためではない。すぐにケルベロスは思い知らされた。
「あの全てがフレイムグリードか!」
 同じ力を宿すティーシャはその意味にすぐに気づいた。
 それ自体が攻撃であり、すなわち地獄。
「こいつは本格的に理解しちゃならんものかもな」
 キルロイの呟きを前に、変化の余波と見えた炎が嵐と変わり、軌道を曲げる。
「RED EYE ON」
 マークのカメラアイが放つ『RED EYE』の閃光に幾筋が引きつけられ、黒鉄の身を焼く。
 念入りに貼付した『プロテクションラベル』が燃えて剥がれ、庇い立てたアームドフォートの防盾が赤熱する。
「艦載機は多めに飛ばしてもらってるわ、無理せず回避!」
 幽が言う間にも飛び退いた艦載機が数基、火炎に飲まれて姿を消す。
 その性質はケルベロスたちのグラビティと同じドレインだが、地獄の王の力はただただ桁違いだ。
 まだ猶予ある艦載機の一つに『フックショット』をひっかけ、ターザンの要領で彼女は器用に身を避けた。
「避けたら後ろに抜けちまうだろう、がっ……おりゃぁっ!」
 執拗に追いかける火炎に、泰地の腕の『虎爪刃手甲』が斬撃を飛ばして両断。そこでやっと貪欲の炎は燃え尽きる。
 守っていては、追い詰められる。敵の正体すらわからぬ状況だが、それだけは確実に。
「Тэи穣天外、$hI方八法、視得ルワタシノ此ノ景色、伽覧ヨ御覧。煩ワシキ孤之世界!」
 艦載機を踊るように切り替えつつ、フラッタリーは『煩雑世界Bumbleheim』に謡う。
 狂気を持って狂気を制するがごとく、目前の炎の猟犬目掛けて精神をぶつけ、地獄の顎でくらいつく。
「だが地獄の炎とやらは随分ヌルいんだな」
 なんであろうと攻撃が通るなら、まだマシだ。猟犬から爪牙ごとに払い落とされる火炎にキルロイは皮肉を浮かべて突進する。
 先のフラッタリー、そして今猟犬の姿へと突き立てた『根無草』のサーベルから『断罪の劫火』が吹き上がる。
 その彩は複雑で、ある方角は艶やかな炎の赤、また同時に禍々しい鮮血の赤黒い炎。
 だが共通するのは、それがかの奇怪な炎の猟犬を侵食し、切り崩しているということだ。
「半端だなぁ! てめーも穢れてみるか、あぁ!」
 さる螺旋忍者より継承した泰地の『穢れの波動』がサイコフォースと共に炸裂し、地獄の火勢を一気に減じさせる。踏みしめたスパイダーブーツが音鳴らし耐える。
 かの敵の真相は読めない。だがケルベロスの力は依然として有効だ。
「効果あり。であれば、倒せない敵ではない」
 あらかじめ戦場に撒かれたナノマシンが引き起こした『ブレイブマイン』、ピコの声が極彩色の爆発を伴って、仲間たちを勇気づける。
「メディカルドローン、治療を完了。これより支援に……いや」
 だがリティが『メディカルドローン』を配置し援護に回ろうという矢先。
『慄き、憎め』
 声が響き、炎が弾けた。
 火炎弾を操る猟犬は解けるように掻き消え、再び姿を変える。
「……前言撤回、治療体制を強化する」
 リティは『特務支援機用潜入武装』のスカートを抑え、後方の剣型艦載機にぴょんと飛び乗り、新たな姿を見た。
『怒りとは、憎しみゆエ』
 変わる炎が次に取る姿は猟犬の顎にあった。

●地獄たる因子
 地獄が形どる巨大な顎が食らいつく。
 引きずり千切れた地獄がまた、フレイムグリードと化して空域を襲う。
「ケルベロスブレイドはっ!」
「まだ耐えられる、問題ない」
 ディフェンダーたちの防御を抜けた火炎弾を『バスターライフルMark9』で受けるティーシャの危惧へ、キルロイは魔導障壁を指し示す。
 レプリカントに思うところあれ、戦場で表に出すほど狭量ではない……何より、今の安堵はそう長く続かないとわかっているから。
「頼むから俺たちを巻き込んで爆発してくれるなよ……!」
 一人足りない。
 勢い増す炎をグラビティブレイクで払いながら、キルロイは皮肉交じりに唸る。
 足りない一人は今、地獄にいる。奇妙な言い方だが、内より外に向かう攻撃をかばい続けているのだ。
「Тэи穣天外、$hI方八法……」
『天上天外、四方八方。嗚呼、視得ル……』
「視得ル……視得ル……ワタシノ此ノ景色」
 大顎の王がかみ砕こうとする。
 フラッタリーの地獄が食らいつき返す。
 身にまとう『幽玄の千紫万紅』が裂け、姿が消え、咲き散るは幻惑の花。
「あぁもう、何がなんだってのよ!?」
「『Don’t think』……くわえて『Don’t feel』かな」
 浮かび見える影だけでも壮絶な光景に『Eurypterid Mk-Ⅱ"Pterygotus"』のスラスターを旋回軌道させながら、幽はバスターライフルを叫びと共に連射した。
 考えるな、そして感じるな。
 マインドシールドを展開したリティの推察と忠告は、およそ的を射ているのかもしれない。
『エネルギー反応増大、理論不明。火力増大、理論不明。グラビティチェインに動きなし……』
「QUIET」
 定命の者のみが有する危険感覚がマークに戦術システムを停止させる。わかる必要はない、ただ火力をぶつけ破壊するのみ。マーク『DMR-164C』ライフルとキルロイの『酔芙蓉』、大小二つの銃口が放つバスタービームとフロストレーザーが合流し、ピコから付与された百戦百識陣の破剣を増大させて地獄を切り裂く。
 かすかにフラッタリーの姿が見えるも、一瞬の事。
「インフェルノ・ファクター! させるか!」
 左足の地獄が燃え盛るさまにティーシャは即座に状況を察した。地獄の王たるゆえんだろうか、干渉しあうかのように地獄を通して伝わってくる感覚が告げている。
「デウスエクリプス!!」
 真下へと飛び降りると同時、テレサ・コールの残霊よりジャイロフラフープを預かり、換装。
 小剣型艦載機を蹴り、跳躍する。かの地獄の感覚がどうなっているのか知らないが、泰地が光源としてケルベロスブレイドより発生させた剣型の光の進路場を跳ぶティーシャへの反応は明らかに遅れた。
「とらえた、幽!」
「最大戦速で突っ込む!」
 ジャイロフラフープが切り裂いた地獄への傷口、リティの叩きつける殺神ウイルスがその回復を遅らせるなか、幽は迷わず飛びこんだ。

●逃ガサ亡イ
「アフターバーナー点火!」
 尾を引くスラスター光を反射し、装着された『Shield of Independence』防盾が彼岸花の紋章を輝かせる。
 フラッタリーが内より庇い、戦う地獄の中枢へと飛び込む彼女の『フルヴェロシティ・マニューバー』は地獄の王にも捕らえられない。
 圧倒的早さと『Oath of Knighthood』にまとった意志が地獄を拒絶する。
「母艦に砲撃支援要請! リティ、彼女に回復!」
「もうやってる。メディカルドローン、支援対指定を集中。医療術式及び薬剤投与、支援開始」
 幽は戦友を押し出しながら雷神砲の閃光とすれ違い、燃え上がる空を飛び抜ける。
 露わな肌も汚れ、なお地獄に焼かれ続けるフラッタリーをリティの『メディカルドローン』が治癒していく。
「耗ハ也、失苦Shiテモ、善イ物ヲ……」
「フラッタラーさん。まだ『地獄』は残っています」
 癒しを振り払い飛び込みそうなフラッタリーだが、ピコは彼女が押し出された元を指して告げた。
「まったく、しぶとさは地獄なだけあるな」
「BUT……!」
 うんざりと叫ぶキルロイだが、彼の『ジェットパック・デバイス』に引っ張られたマークが撃ち続けるバスタービームがブレイズロードを揺るがしていく。
 ついにはピコの『多重分身の術』が作り出す虚像にも、炎の塊は明確な回避の仕草を見せた。
「戻りやがったぜ!」
 履いた『格闘技用トランクス』をパンと打ち鳴らし、泰地が快哉を上げる。
 飛び掛かるブレイズロードは、ほつれ、猟犬の姿へと戻っていた。
「あと少しです。ナノマシン予備も使い切りました。散布分より回収開始……」
 ブレイブマインを炸裂させ、ピコが宣言する。
「ああ、脳が疼く――されど」
『曼荼羅大灯籠』を振り上げたフラッタリーの声は驚くほど静かだった。
「刀の欠片ある限りは、私は未だ在るのでしょう」
 グラビティブレイク。
 地獄ではなく、純粋な破壊力そのものと化したグラビティチェインが炎の猟犬の頭を吹き飛ばす。
 握りしめた石灯篭の取手からつつ、とおちる鮮血は故郷からの『刀の欠片』が漏らしたもの。
「逃ガサ亡イ」
「殲滅する……!」
 インフェルノ・ファクターで増した火勢ほとんどを失ったブレイズロードへダメ押しと叩きつけられる、ティーシャの『デウスエクリプス』。
 二度目となるジャイロフラフープの投擲が、地獄の炎を縦に割った。
『溶ケル 焼ケ落チル……』
「っしゃぁ! 後はこれで!」
 大きく飛びあがった泰地の空中展開。踏みつけるような落下蹴りと同時にサイコフォースが炸裂する。
 同時、フラッタリーのサイコフォースもまた残る地獄の王の半身を打ち砕いていた。
『あらゆる、事象ガ……不明瞭に……』
「食らいつけ、ましたかねぇー?」
 飛び散ったブレイズロードの炎はもはや一つに戻らない。
「私たちににとって、地獄なんていつものこと。そんな笑えない脅しより、地獄は地獄らしく……地の底に墜ちていた方がいい」
「Soゥ、ですねぇー。地獄は地獄らしく」
 消えさるブレイズロードはリティの声に、フラッタリーにも答えない。
 ただその燃え尽きる地獄の幾分かが、ケルベロスたちの地獄にかかり、僅かだけ燃えあがって消えた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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