●殺戮という収奪
人々に抵抗する術など無かった。
魔空回廊から現れたヴァルキュリアたちは、それぞれに分かれて地上へと降り立つ。
そして、虐殺が始まった。
市街地の一画……3人のヴァルキュリア達が持つのは、星辰の宿された長剣である。
剣に宿った重力が逃げようとした人々を斬り裂き、原形を留めぬほどに押し潰す。
放たれた星座の力が、犠牲者を絶望の表情のまま氷漬けにする。
その剣を振るう手は……微かに震えていた。
殺戮者達の顔に表情は無く、悲劇を映し出す瞳からは……紅い何かが流れている。
新たな道を示すのではなく……唯、今という道を奪う為に。
英雄としての生を与えるのではなく……唯、今という生を奪う為に。
光の翼を持つ戦乙女たちは、血の涙を流しながら……唯、殺戮を続けてゆく。
●新たなる、蠢き
「城ヶ島のドラゴン勢力との戦いが佳境に入っている最中ですが、エインヘリアルの方でも大きな動きがありそうです」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言ってから、集まったケルベロス達に説明し始めた。
鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したらしい。
「彼はザイフリート配下であったヴァルキュリアを何らかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人々を虐殺し、大量のグラビティ・チェインを得ようと画策しているようなのです」
そのような行いを許す訳にはいかない。
「皆さんには、東京都あきる野市に向かって頂きます」
そう言ってセリカは、更に詳しく状況を説明していく。
ヴァルキュリアを従えている敵は、妖精8種族の1つで、シャイターンと呼ばれる種族のようだ。
「全体の作戦としては、都市内部で虐殺を行おうとするヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破する……という形になると思います」
ヴァルキュリアに対処する班と、シャイターンを撃破する班に分かれて行動することになる。
「皆さんには、ヴァルキュリア達への対処をお願いします」
ヘリオライダーの少女はそう言って、ケルベロス達を見回し頷いてみせた。
ヴァルキュリアは住民を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしているが、邪魔する者が出た場合、その排除を優先するように命令されているらしい。
「皆さんが戦いを挑めば、ヴァルキュリア達が住民を襲うことは無いと思います」
もっともヴァルキュリアへの洗脳は強力で、シャイターンがいる限りケルベロス達に向ける刃に迷いはない。
「シャイターンに向かった班の皆さんがシャイターンを撃破した後ならば、なんらかの隙ができるかも知れませんが……現時点では、確かなことは言えません」
操られているヴァルキュリア達には同情の余地もある、が……放っておけば多くの人々が命を奪われることになる。
「そのような事、絶対に許す訳にはいきません」
阻止する為には……心を鬼にして、ヴァルキュリアを撃破しなければならない。
「シャイターンはヴァルキュリア達を3人ずつに班分けし、市内の各所で虐殺を行わせようとするようです」
そのうちの班の1つ、3人への対処を皆さんにお願いしますとセリカは説明した。
「皆さんに対処して頂くヴァルキュリアは、全員ゾディアックソードで武装しています」
3人とも異なる星辰の剣を一振り携え、武器のグラビティをもちいて戦いを行うようだ。
「武器は同じですが、戦い方は全員が異なるみたいですね」
射手座の剣を持つヴァルキュリアは精確な攻撃を持ち味とし、水瓶座の剣を持つヴァルキュリアは味方の回復を重視して戦う。
そして蟹座の剣を持つヴァルキュリアは常に前線に立ち、味方を庇いながら戦うようだ。
「状況によっては、更に1人のヴァルキュリアが援軍としてやってくる可能性もあります」
援軍となるヴァルキュリアは妖精弓を装備し、敵への異常効果と味方への付与を考えた戦法を取るようである。
「妖精8種族のシャイターン……能力は未知数ですが、このような悲劇を起こさせる訳にはいきません」
命を、未来を奪われる者。そして、望まぬ殺戮を行わされる者。
そして……その悲劇を、画策する者。
「敵は強力ですが……皆さんでしたら、きっと何とかしてくれると信じています」
宜しくお願いしますと言って。
ヘリオライダーの少女はケルベロス達に深々と頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
生明・穣(鏡匣守人・e00256) |
望月・巌(にぶんのいちのしんわ・e00281) |
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026) |
フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091) |
祁答院・大和(不動絶刀・e01382) |
パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761) |
ローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948) |
アルストロメリア・ヴァリアントゲイズ(ゼノン・e11227) |
●聖夜の前に
(「全く、クリスマス前に厄介なことになったものだ」)
「しかしレディにあんな涙を流させるとは底が知れるね」
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は呟いてから、軽く頭を振ってみせた。
「ザイフリート王子の方がまだ紳士的だというものだよ?」
そう言って憂いを滲ませた瞳を彼方へと向ける。
視線の先に存在するのは、星辰の剣を手に地上へと降り立った3人のヴァルキュリアの姿だ。
生明・穣(鏡匣守人・e00256)と共に人々を避難させるよう呼びかけると、望月・巌(にぶんのいちのしんわ・e00281)はヴァルキュリア達を阻むように立ち塞がった。
(「チッ、胸くそ悪いぜ……望まぬ殺戮をやらせて高みの見物か」)
「あんたら、そんな事はもうやめろ!」
彼女たちを操る者へと毒づきながら呼びかけるが、その言葉は……ただ、周囲に虚しくこだますだけだ。
「誰かに使われるとか死んでもごめんなんだけど」
(「シャイターンに使われる……か」)
「――ま、ヴァルキュリアも色々あるんだろうな」
祁答院・大和(不動絶刀・e01382)は誰に言うでもなく呟いた。
心を操られ……自身の望まない戦いに身を置き、死せる運命に無い魂を刈る。
(「それは不本意でしょうね」)
「その気があるなら助けてあげるわ」
目の前のヴァルキュリア達に語り掛けるように、フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)が呟く。
「とはいえ好き勝手やらせるわけにもいかないしね。殺戮は防がせてもらおうか」
(「できれば殺したくはない、と思うけどどうなることかな」)
刃を構えながら大和は己に問いかける。
ローザマリア・クライツァール(双裁劍姫・e02948)も、刃を静かに戦乙女達へと向けた。
今回の目的……全てに対し優先されるは、一般人の虐殺阻止だ。
ヴァルキュリアの非殺と撤退は、あくまで可能な限りである。
(「その気がないなら、私達の手を取る未来を拒否するなら」)
「この場できっぱり魂を刈るとしましょうか」
警戒を怠らぬようにしつつ周囲を確認すると、フィオレンツィアは宣言するかのように口にした。
(「血気盛んなやつかと思ってたけど、どうもきなくせーしな」)
「アタシはアタシのやれることをやるぜ」
自分に言い聞かせるように呟くと、アルストロメリア・ヴァリアントゲイズ(ゼノン・e11227)は視線をちらと仲間たちに向けた。
(「うひゃー、強そうなおっさんが多いなぁ」)
「ディフェンダーとして守るより、このオッサン達に守られたほうが……なんて思っちゃうけど喧嘩師のアタシがそんなんでびびんねーし!」
一人押し問答を済ませると、彼女はそのままヴァルキュリア達へと向き直った。
「見とけよ!」
力強く、挑戦状を叩き付けるかのように、彼女も戦乙女たちに向かって宣言する。
「では皆さん、参りましょうか?」
落ち着いた態度で仲間たちへと呼び掛けながら、穣は位置取りの為に慎重に動き始めた。
それに対するように、ヴァルキュリア達も動き始める。
(「きっと望まない殺戮を命じられて辛いはず」)
「ボク達がババーンと止めてあげるよ!」
パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761)はヴァルキュリア達へと向かって、想いを言葉に込めて、呼びかけた。
「さぁ、全力で掛かってきて!」
●戦い
2人のヴァルキュリアが星辰の剣を掲げ、1人は剣を振るい地に守護の星座を描き出す。
描かれた星座から生み出された光が、前衛のヴァルキュリアを守るように包み込んだ。
そして掲げられた剣から放たれた星座……蟹座と射手座の輝きが、ケルベロス達に襲いかかる。
その攻撃を耐え抜くと、メイザースは力強く己の翼を広げた。
身を飾る彼岸の華のようにあしらわれていたNemesisが、主の左腕に絡みつく。
壮年はその瞳で、敵として立ちはだかる戦乙女たちを静かに見据えた。
先ず狙うべきは前衛として他の2人を守るヴァルキュリア、蟹座の星辰を宿した剣を振るう戦乙女である。
鋭い槍の如く身を伸ばしたブラックスライムが、担手の敵へと襲い掛かる。
それに続くように、穣と巌も動いていた。
「巌ちゃん?」
「おうよ」
穣の言葉に応えた次の瞬間、巌が放った弾丸が星辰の剣を直撃する。
続くように金輪の如き衝撃が、蟹座の戦乙女に襲いかかった。
「蒼き金輪よ、往け」
囁くような穣の言葉と共に、青味を帯びた衝撃がヴァルキュリアを捉え、その動きを封じようとする。
その2人を、先ずは後衛たちを癒すように、ウイングキャットの藍華が清らかな羽ばたきで浄化の力を賦与していった。
短期決戦を意識しつつ、各個撃破を目指す。
ケルベロス達の作戦には、シャイターン班の増援を早期に引き付ようという狙いもある。
アルストロメリアが2人に続くようにして跳躍し、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをヴァルキュリアへと叩き込んだ。
守りを固め攻撃を耐え抜いた戦乙女に対し、大和が間合いを詰めるように踏み込む。
そのまま少年は二刀に帯びさせた霊力を雷へと変化させ、神速の突きをヴァルキュリアへと繰り出した。
パールは仲間たちを奮起させるように戦い続ける者達の歌を奏で、フィオレンツィアは全身を地獄の炎で覆い尽くすことで己の戦闘能力を増幅させる。
竜語魔法を用いてドラゴンの幻影を創り出したローザマリアは、生み出された炎を戦乙女へと向けた。
炎の洗礼を耐え抜いたヴァルキュリアは、星座の重力を剣へと宿し前衛へと向ける。
敵の増援が現れる可能性は、二分の一。
もし現れるのであれば、それまでに蟹座を倒せるかどうかで戦局は大きく変化するだろう。
戦乙女たちの攻撃を凌ぎながら、ケルベロス達は更に攻撃を集中させてゆく。
●貫き、切り拓く道
「貴方達は本当は、心躍る戦いを強敵としたいんじゃないの?」
ヴァルキュリアたちへと呼び掛けながら、フィオレンツィアは宙の一点を指し示した。
ならばその相手は、此処にいる。
「我が意思は何よりも強く、全てを貫く光となる!」
指差した一点に集約された光が、戦乙女の身を貫く。
充分にダメージを与えたと判断したアルストロメリアは、手加減しての攻撃を繰り出した。
少女の攻撃をかろうじて堪えた蟹座は、しかし続くローザマリアの攻撃に耐え切れずに膝を付く。
早期の撃破を可能としたのは、半数以上が攻撃の威力や精度を優先した攻撃重視の陣形ゆえだろう。
もっとも、攻撃手たちの技量……特に威力を重視した者たちの技量が不足していれば、早期撃破は難しかったと言える。
強力な攻撃も外れてしまえば意味は無いのだ。
これで、先ず1人。
とはいえケルベロス達の側も、前衛たちへのダメージが蓄積し始めていた。
戦闘不能となった者はいないが、それだけに前衛たち其々に回復できない傷が蓄積する形となっている。
残る2人が星辰の剣に重力を宿し、メイザースを狙って斬り付けた。
その一方、水瓶座の剣の一撃を、身を挺するようしてアルストロメリアが防ぐ。
メイザースも防具に施された力を用いて攻撃の精度を落とし、威力を軽減する。
それでも、破壊の力を完全に殺す事は叶わない。
斬撃が2人の身を、そしてその身に宿された加護の力を切り裂いてゆく。
刃に虚の力を纏わせると、メイザースは簒奪者の鎌を振るって水瓶座の戦乙女へと斬り付けた。
刃に宿った力が傷口から生命力を奪い取り、その担手へと注ぎ込む。
「無罪であれ、潔白であれ――この血塗られた手でも殺戮を防げる事を証明させてもらう!」
呪いを持って断罪する。
自らの血を刀身へと纏わせることで、大和は一振りの深紅の刃を創りあげた。
血に濡れたこの手でも、誰かを救えると信じて。
「――この刀で血路を開く! 斬る!」
総てを切断する深紅の斬撃が、ヴァルキュリアに向けて放たれる。
藍華に浄化の力を揮わせながら、穣は敵に攻撃を見切られぬようにと注意しながらグラビティを用いてヴァルキュリアへとダメージを与えてゆく。
巌もヴァルキュリアの様子を観察しながら攻撃を続け、パールは生きる事の罪を肯定するメッセージを籠めた歌で、傷付いた前衛たちを癒していった。
「来るぞ!!」
戦いの最中、シャイターン襲撃班からの連絡を受けた巌が仲間たちに叫ぶ。
戦いが始まって5分程が過ぎた頃だろうか?
戦線離脱した蟹座のヴァルキュリアが撤退し、襲撃班からの連絡を受け、更に一巡の攻防が過ぎた後で。
妖精弓を手にした戦乙女が静かに、戦場へと舞い降りた。
これによって戦いは、最終局面へと突入する。
●戦いの終わり
剣に宿された射手座のオーラが前衛たちに向けて放たれる。
ヴァルキュリアの攻撃は本来の威力こそ同じだったが、高い精度によって本来以上の攻撃力を持っていた。
もっとも、ケルベロス側の後衛の殆んども同様に、精度を重視した攻撃によってその効果を高めている。
守り手の早期撃退は、彼ら彼女らの奮戦も大きな理由なのだ。
射手座に続くようにして、宙へと浮かんだ水瓶座のオーラも前衛たちに襲いかかった。
癒し手のヴァルキュリアは、自身へのダメージはまだ軽微と判断したのだろう。
本来の威力は大差ないものの射手座とは精度が大きく異なるその攻撃は、ダメージだけで考えれば、強力ではあっても危険とまでは言えなかった。
問題は、回復役として立ち回るその戦乙女の攻撃に、エンチャントを打ち砕くブレイクの効果が追加されている事である。
大和とフィオレンツィアは防具の力を借りて直撃を何とか避け、アルストロメリアも確りと守りを固めてダメージを軽減したものの、前衛たちに賦与されていた耐性の一部がこれによって解除される形となった。
続くようにして、援軍として到着したヴァルキュリアが心を貫くエネルギーの矢をフィオレンツィアに放つ。
防具によって精度を落としはしたものの回避には至らず、心を乱し敵と味方を誤認させる力が彼女の内に流し込まれた。
危険な状態だと判断したメイザースが攻撃の手を一旦止め、フィオレンツィアへと素早く駆け寄る。
「さて、傷を診せて貰おうか?」
禍福呪『占編挽華』(カフクノマジナイ センペンバンカ)
相手の負傷の程度を『騙る』事で敵の傷を悪化させ味方の傷を癒す。
言葉を紡ぐ事で傷と相手の状態にまで効果を及ぼす『騙り部呪術医』の真骨頂だ。
大和も仕切り直しとでもいう感じで心と刃を一体とし、負傷を軽減しながら霊的防護を断ち切る力を刃に宿させた。
「お前が来る事は、お見通しなんだよ!」
巌が素早い動きで銃口を弓使いへと向け、穣も続くように攻撃を仕掛ける。
藍華は耐性を再び賦与重複させようと、邪気を祓う羽ばたきで前衛たちを癒す。
パールは急いで仲間たちの負傷状況を確認すると歌声を響かせ、異常を浄化する癒しの力を前衛へと向けた。
肯定の歌は重複した催眠の効果を完全に打ち消すには至らなかったものの、その効果が軽減された事もあってフィオレンツィアは平静を保ち、地獄の炎で身を包むことで傷を癒し力を高め、更に与えられた耐性を用いて催眠の呪縛を軽減する。
巌と穣の動きを見たアルストロメリアも標的を弓使いと定めると、一気に距離を詰め音速を超える拳の一撃をヴァルキュリアへと叩き込んだ。
ローザマリアも同じように目標を定め、二刀一対の斬霊刀に己が力を注ぎ込む。
精製された物質の時間を凍結する弾丸が、弓を構える戦乙女に向けて放たれる。
前衛たちが戦線の維持を優先し、ヴァルキュリア側が水瓶座も攻撃に回った為、戦況は一時的にヴァルキュリア達の側が攻撃を重視する形となった。
異変が起こったのは……戦闘不能者を出しながらもケルベロス達が態勢を立て直し、弓使いを手加減攻撃によって戦線離脱させた直後である。
もう1人が倒されれば……戦闘不能ではなく、殲滅に移らねばならない。
最後の前衛となった大和を狙おうとした射手座の刃が、振り降ろされようとした時だった。
描かれた水瓶座の力が大和へと注がれ、傷を癒しその身に守護の力を施してゆく。
「違う! 私達が、望むのは……っッ!?」
何かを叫ぼうとした戦乙女が身を震わし、何かを抑えこむように片手を頭に添える。
その場の全員が何かを確信した次の瞬間。
それを肯定するかのように、襲撃班からの連絡を示す音が巌の耳へと飛び込んできた。
●今は別れを、未来を願って
「大丈夫だよー、ボクは君達とちょっとお話してみたいだけなんだよー」
戦いを終えられるのなら、傷を癒してあげたい。
そんな想いを抱きながら、パールは懸命にヴァルキュリア達へと話しかけた。
「だから武器をしまってー……ね? きっとザイフリートさんも待ってるよー」
敵意を感じさせない彼女の態度ゆえか、戦乙女達の態度に更に揺らぎが生まれる。
「貴方達を縛る鎖はもう無いわ。どう? 私達と一緒に来ない?」
フィオレンツィアも受けた傷の痛みを全く滲ませない表情で、彼女たちに呼びかけた。
「望む未来を見せてあげるわ」
そう言って表情をほどいてみせるが……ヴァルキュリア達は武器は降ろしたものの、戦いの態勢までは解かない。
「嫌々だったならこれ以上闘う理由もないんだし、帰ったほうが良いぜ」
戦いは何とか回避しようと考えて、アルストロメリアは声をかけた。
「戦意の無い者を追うつもりはないよ」
メイザースもそう口にしてから、つけ加えた。
「退くならば仲間も連れていくといい」
そう言って膝を付いた弓使いの方に視線を向ける。
撤退の意志を見せないというのならば応戦しか道は無いが、敵の意志が揺らいでいるのであれば……
「この殺戮が貴殿らの望まないものであるのなら退いて欲しい」
巌は真っ直ぐな言葉で呼びかけた。
そして、叶うならザイフリート王子の手助けを。
「あなた方が今為し得ることは何かを考えよ」
穣も問いかけるように、戦乙女達へと言葉を紡いだ。
涙の理由、本当の主は誰なのか?
想いの籠められた幾つもの言葉が彼女たちから戦意を奪い、3人のヴァルキュリアは戦いを望まぬ事を示すように距離を取る。
それでも今は未だ、その顔に浮かぶのは……澄んだ意思ではなく、深い困惑だけだ。
だから……
「これが本当にアンタ達の奉じる女神サマを護り得る最善の手段なのかしら?」
空へと舞い上がる彼女たちに、ローザマリアは問いかけた。
「アンタ達を洗脳、使役までした連中が女神サマの身の安全を保証してくれると、どうして言い切れるの?」
手を取り合う事が叶わなくとも、構わない。
唯、彼女らが……自身の意志で、己が道を歩めるように。
そう願って、オラトリオの少女は……離れてゆくその背を、見送った。
作者:メロス |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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