ラストミッション破壊作戦~終幕の大帝

作者:絲上ゆいこ

「よう、来たか。今日は他チームと組んで貰うちょーっとばかり大変な仕事をお願いするから、よろしくな」
 小さく頭を下げてから口を開いたレプス・リエヴルラパン(レポリスヘリオライダー・en0131)は片目を瞑って、掌の上で資料を展開した。
「さーて改めて、本当に防衛戦お疲れさん。今回も規模が大きい戦いではあったが、無事日本を――地球を護ってくれてありがとうな」
 ケルベロス達の快進撃によって、竜業竜十字島は完全に破壊され。冥王イグニス、第三王子モーゼス、攻性植物の聖王女アンジェローゼという有力なデウスエクス達も撃破された。
 ――しかし激闘の中で、全ての敵を一掃できる訳も無く。戦いの中で討ち漏らしてしまった敵だって、勿論居るものだ。
 そのように討ち漏らされたデウスエクス達の中でも、ダモクレス達は宇宙へと撤退し。
 そして、今回の本題。
 戻るべき本拠地を失っているドラゴンと攻性植物達が、富士の裾野――『ラストミッション』とケルベロス達が呼ぶミッション地域へと逃げ込んでしまったと言うのだ。
「逃げ込んだ敵の中でも有力な敵と言えば、竜業合体ドラゴンの一体――大罪竜王シン・バビロンに、攻性植物勢力の光世蝕仏、『森の女神』メデイン、なンだが……」
 レプスが一度言葉を切ってからゆっくりと瞬きをすると、掌の上が移り変わり。
「ここに集まって貰ったお前達は白鳥沢クン達のチームと一緒に、幻想大帝ユーピテルの対応を頼みたいぞ」
 映し出されたのは、今回の戦争には関わってはいなかった、神像の如き巨体を持つ強力なドラゴン――ユーピテルの姿。
 このドラゴンはグラディウスを富士山麓地へと突き刺し、目的地への一方通行のゲート強襲型魔空回――『ラストミッション』と変えた張本人である。
「っつー訳で慣れてる奴も居るかもしれねェが、グラディウスを一本ずつ持っていってくれ。貴重なモンだから出来るだけ無くさないように持って帰ってきてくれよなァ」
 机の上に並べられた光り輝く小剣を手にとるように、レプスは視線で示す。
 このグラディウスと言う小剣は、普通の武器としては使うことが一切出来ないものだ。
 しかしこの小剣は普通にしていると視認する事すら出来ない強襲型魔空回廊を、視認し破壊する力を秘めている特別な小剣だ。
「他の有力敵は他のチームに対応を頼むが、――シン・バビロンはグラビティ・チェインが枯渇している状態だ、今回手を出さずに放っておけば市街地で暴れ出すだろうし、攻性植物勢力の残党達もその支援をするだろうと予測されている」
 どの敵も地球にとっては明確な敵。
 逃したく無い所だ、とレプスはゆるゆると首を振ってから。
「だからこそ、これだけのチーム数で挑むンだ」
 眦を笑みに和らげると、すこしだけ悪戯げに首を傾いだ。
「さァて、強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢、歩いて行くにゃ大変だが、俺達にはヘリオンが居るだろ?」
 そうして次に切り替えられた資料は、周囲を半径30m程度のドーム型のバリアに囲まれた強襲型魔空回廊のイメージイラストであった。
 ――バリアも強襲型魔空回廊の一部である。
 上空から降下してグラディウスでバリアを突き刺す事で、比較的安全に強襲型魔空回廊への攻撃が果たせると言う訳だ。
「もちろん強襲型魔空回廊の周囲にゃ敵もいるだろうが、予告も無しに突然降り落ちて来たらビックリするだろうな」
 その上グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させ、この雷光と爆炎はグラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかると言うのだから、デウスエクス達だって直ぐに対応する事は難しい事だろう。
「発生したスモークと混乱に乗じて、出来るだけ会敵しないように幻想大帝ユーピテルを探しだして、撃破を頼むぞ」
 ケルベロスブレイドによって強化された予知能力によって、大まかな位置はすでに解っている。それにあれだけの大きな体だ、探しだす事もそれほど難しい訳では無いだろう。
 一番の問題は――。
「……お前達が向かう場所は敵の本拠地だ、敵はそれこそわんさか居る。時間が掛かればそれだけ不利になるのはお前達だ。……だからこそ、できるだけ戦う敵を減らす作戦を立てて欲しい」
 遥か昔暴虐の限りを尽くし、魔竜王にさえ叛逆したという暴竜。
 対峙する際に配下が大量にいれば、例え精鋭達がチームを組んでいたとしても苦戦をする可能性は否めない。
 出来るだけ敵に見つからないように、できるだけ敵に追いつかれないように。
 素早く移動して、ユーピテルを撃破する事。
 言い切ったレプスは息を呑むと、資料ごと掌を閉じて。
「それに折角コレだけのチーム数で一気に攻撃を行うンだ、強襲型魔空回廊を一撃で破壊する事もきっと敵うだろうよ」
 強い思いを胸にグラビティを極限まで高めて、攻撃に集中すれば或いは――、と。
 双眼でしかと番犬達を見据えた。
「――このミッション地域は、ドラゴン達の最後の砦。ここさえ破壊してしまえば、ドラゴン達との、この永い永い因縁も完全に終わりだ」
 そうしてもう一度頭を下げた彼は、その声音に信頼を籠めて言葉を紡ぐ。
「厳しい戦いになるとは思うが、頼んだぞ」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ジョン・スミス(三十七歳独身・e00517)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
霧崎・天音(星の導きを・e18738)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
リィン・ペリドット(奇跡の歌声・e76867)

■リプレイ


 眼下に広がる霊峰富士の裾野は広い。ここは最後に生まれたミッション地域、『ラストミッション』。
 肩にボクスドラゴンのペルルがしがみついているティユ・キューブ(虹星・e21021)は真珠色の髪を靡かせながら、気持ちを落ち着かせる様に呟く。
「これまで様々な地域が脅かされて来て、その多くの地域を解放する事が出来た」
 勿論、まだ解放されていない地域だって沢山在る。
 ドラゴンが生み出した人造デウスエクス、屍隷兵の被害地域だって全てを食い止められた訳では無い。
 それでも多種族による過去最大の制圧作戦が展開された、この地域を取り戻す事は大きな意味がある。
 これでデウスエクス達も理解する事だろう――グラディウスを利用した強襲型魔空回廊を利用した作戦等、番犬達は物ともしないと言う事を。
「この戦いをもって区切りとする為に、……終わらせて貰うよ!」
 胸を突く強い思いを言葉にしたティユの柄を握る掌に、知らず力が籠もる。
 落下しながらジョン・スミス(三十七歳独身・e00517)は、その地上の姿に喉を鳴らした。
 ――ユーピテルがこの土地に強襲型魔空回廊を展開する際に、立ち会ってしまったのがジョンであった。
 その時ジョンは、光の剣で地を貫く巨大な竜を止める術を持ち合わせて居なかった。
 『生き永らえるだけの生など不要、地球を制圧してから考えれば良い』。
 脳裏に過る、ユーピテルの言葉。
「お前達は絶対的で、……選ぶ事も出来るだろう」
 自らの生を自由に選ぶ事の出来る力。
 普段可愛い男の子を見守る時程に真剣な色を瞳に宿したジョンは、剣の柄を両手で握り直す。
「……だけど。選ぶ事を許されなかったヒトの為に、お前達に結末を選ばせはしないッ!」
 城ヶ島、月喰島、熊本、大阪を始めとする日本各地に――竜十字島。指の数では数え切れぬ程、続く因縁。ドラゴン達との戦いは、いつだって大きな被害が付き纏っていた。
「色んな人の命が消えた……」
 平穏であった筈の学園生活、月喰島の写真。
 屍隷兵となってしまう前の人々の幸せな表情を思い返しながら、霧崎・天音(星の導きを・e18738)は絞り出すように呟く。
「けれどこれでもう、ドラゴンが生み出す悲しみが消える……。それなら私は……」
 剣より増す光は彼女の――犠牲となった人々の痛みを現す様。
 胸裡の奥の痛みは天音をまだ締め付け軋ませる。
 しかし救える命を護る為には、救えた命を失わぬ為には、怯えてばかりいる訳にはいかないのだ。
「これで悲しみも、痛みも! 終わらせる……ッ!」
 普段は感情の薄い天音の瞳に、宿る思いの炎。
 ウィンプルを片手で抑えるリィン・ペリドット(奇跡の歌声・e76867)は祈るように光の剣を掌で包み、バリアの奥に蠢くデウスエクス達を見据え。
 彼女もまた胸中で、ユーピテルの言葉を脳裏でなぞっていた。
「今を生きる我々を否定するような言葉は、聞き捨てなりません」
 頭を振ったリィンがひときわ大きな敵影……幻想大帝ユーピテルの姿を認めると、知らず指先に籠もる力。
「今ここで、あなたを倒して見せましょう!」
「ええ! ドラゴンの往生際の悪さもここまでです!」
 落下に空を泳ぐ黒髪、美しく覚悟に揺れる瞳。強く応じた葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)が同じく敵影を睨めつけると、溢れる力に刃が一際大きく輝いた。
「あなた達の命運は、ゲートを破壊した時点で既に決していたのです。――あなたには、生き永らえるだけの生すら許しません!」
 二人は刃先を地上へと向けると思いを刃へと乗せて、大きな大きな声で宣言する。
「富士山は、返してもらいます!」
「本人も長生きはしなくていいみたいだもんね」
 プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は艶っぽい微笑みを浮かべて。空に在っても飛ぶ事を知らぬ翼と尾を、自らに巻きつける。
「ふふ。ドラゴン最後の砦、一撃で壊してすっきりさせちゃおっか」
 グラディウスの刃に甘く口づけしたプランは、掌の中でくるりと柄を握り直して言葉を紡ぐ。
「これで御終いだよ!」
「んうー。でっかい山、とられてみんなきっとカラコロだものな」
 どこかぽんやりとした口調で言葉を紡ぐ伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)も刃を構え。
 彼女はこころが何処に在るかを知らないけれど、その音も、温度も知っている。
 しょんぼりしていたり、冷たくなったり、カラコロと乾いた音を立てている時、勇名はとてもモヤモヤしてしまう。
 だから、今は。
「ぼくのモヤモヤぶつけて、全部かえしてもらう。――ほわほわを、とりもどす」
 皆の思いに強まる光――それはこの班だけでは無い。ここに集まったケルベロス達、全ての光だ。
「全くロックな光景デース……!」
 大きな尻尾と髪をはたはた靡かせたシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は、空中を落ちながら腕を組んで仁王立ちポーズ。
「富士山のロックさは、キミたちなんぞには惜しいのデース!」
 それから彼女はびしっと地上に向かって宣言すると、ふふんとニヒルな笑みを唇に宿して。
「ラストの名の通りに、今日こそが本当のラストデス! お望み通りに最後の一花を咲かせるステージをプレゼントデスよ!」
 肺いっぱいに空気を吸うと、中身を全て吐き出すような大きな声でシィカは叫んだ。
「ボクの歌をーー、聴けぇぇぇデェェエスッッ!!」
 それは番犬達の咆哮。
 もう誰も泣かなくていいように、もうドラゴン達に誰も踏み躙られはしないように。
 強い気持ちを宿したケルベロス達の刃は強い輝きを増し、バリアへと突き立てられた!


 確かな手応えを返したバリアに、光が吸い込まれるように飲み込まれて行く。
「やったデース!?」
「そういうの……フラグって言うよね……」
 シィカの言葉に、天音は瞬きを重ねて。
「いえ、大丈夫なようです。無事バリアは割れたようですね」
「とりあえずは成功ですか」
 かごめが生真面目な表情で確認すると、ジョンはほうと息を吐いた。
 別班とは敢えて離れて、地上へと降り立った番犬達。
 周りを見渡せば先程まで見えていたバリアの姿は確かに何処にも見えず、代わりに稲光と爆炎が降り注ぎはじめている。
 グラディウスを持たぬ敵達は駆け回り、突如の天変地異の襲来に混乱を来しているようだ。
「上から見たでっかいのは、むこうだった。……これも、そう示してる」
「ええ」
 降下時にも見えた影。勇名がユーピテルの居るである方向を指差すと、ゴーグルを下ろしたリィンも頷き。
「爆弾の用意はできてるよ」
 プランが時限爆弾を仕掛けた車を進行方向とは逆方向に走らせた事を確認してから。
 用意して来た者たちは隠密気流を巡らせ、気配を殺して駆け出した。
 木陰を踏んで、爆炎を抜けて、進む先は――。
「やはり敵がウジャウジャデース」
 眉根を寄せたシィカが呟いた、刹那。
 番犬達へ突如向けられた、強い殺気。
「!」
 振り向けば獣めいた敵――ニホニホ・テテイが、かごめとリィンを真っ直ぐに見つめていた。
 仲間達の隠密気流では隠れきれていなかった彼女達の姿を、獣は目ざとく見つけてしまったのであろう。
「静かにしててね」
 仲間を呼ぶべく吠えようした獣の口を、プランが放った光線は貫き塞ぎ――。
「い、行きましょうっ!」
 慌てた口調のジョンが靴――チェイスアート・デバイスで地を叩くと、仲間達へと向かって移動力を増すビームが伸びた。
「そうだね。見つかってしまった以上、急ごう」
 箱に収めたペルルを抱き寄せたティユは、ちらりと振り返って此方へと駆けてくる敵の数に瞳を細めて。
「んうー。あっちの班も、ユーピテルも、近くにいるしなー」
 先程まで表示されていた位置を思い返しながら、ゴーグルを下ろしたままの勇名も応じた。
「敵が来そうです、……行きましょう!」
 リィンの言葉通り続々と増えだした敵を、振り切るべく、逃げ切るべく。
 番犬達は一斉に、山道を駆け出した。


 敵に追い立てられるように奔馳する番犬達の行く先には、巨大な影――首魁、幻想大帝ユーピテルの姿。
「居た……!」
「確かに分かりやすい姿だね、倒し甲斐がありそうだ!」
 燃える地獄が火花を散らし、天音の言葉にティユが小さく笑い。
「まさか、我等がここまで追い詰められようとはな」
 近付いたユーピテルの鋭い圧を放つ眼は、足元を睨めつけている。
「はっ、面白い。元より生き永らえるだけの生など不要! 歓迎してやろう、ケルベロス共!」
 足元――対峙する仲間達の姿を認めたシィカは、更に駆ける速度を上げるとギターの弦をぎゅわんと高らかに掻き鳴らし。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロールッ!!」
 滑り込みながらピックを高らかに掲げるとオウガ粒子に加護を乗せて、全身をビカビカ輝かせた!
「平伏すが良い!」
 竜が山肌を震わせるほどの咆哮をあげると、頭上に顕現した星が環を纏い。
 次の瞬間には爆ぜるように空を裂いて、稲妻が閃いた。
「歓迎など結構です!」「ペルル!」
 同時に鎖を陣と成したかごめと輝きを繋ぎ星図と成したティユは、仲間達への祝福を重ねながらその身を挺して。
 呼び声に応じキッと鳴いたペルルも仲間達を庇うべく、ぽぽぽとシャボン玉を生み出し前へと躍り出る。
「……ッ!」
 星光をガードに上げたティユの体を強かに貫く雷。
 ジョンはその雷の力強さに、思わずぎゅっと息を呑み。
 蹈鞴を踏んだかごめに向かって、背後より追いついたニホニホ・テテイが狂牙を剥き出す。
「どーん、だ」
「――刃の華よ、命を攫え!」
 弾かれた玉のように飛び込み。
 懐へと深く踏み込んだ勇名は襲い来る敵の勢いを利用して、砲と成った龍槌を喰らわせるように前へと押し込み。
 その背後で右脚をすらりと上げた天音が、円を描くように蹴り上げれば地獄の炎が燃える花の刃となった。
 砲を口内へと叩き込まれ、花刃に裂かれるニホニホ・テテイは、一度地面を跳ねてから転がるように受け身を取り。
「集まってる配下は8体かな」
「奇しくも私達と同じ数ですね、出来るだけ手早く倒してしまいましょう」
 指折り数えたプランが冷たい吹雪を展開すると、ウィンプルを靡かせ踏み込んだリィンはニホニホ・テテイを追走して、その脳天を目掛けて流星の如き蹴りをめり込ませる。
「――はい!」
 周りは全て、仲間も敵も自らよりも強い者ばかり。
 自らが一線を遠のいて久しい事くらいジョンが一番自覚している。
 しかし――自覚しているからこそ、自らの立ち回りを考える事だって出来るもの。
 ならば、後は治療と同じだ。
 足を引っ張らない様に、出来る事を一つずつ。
 仲間達に向かってオウガ粒子を加護と成したジョンは光を瞬かせ、ユーピテルの巨体を見上げて頷き。
「って、わあーっ!?」
 横から突っ込んできた明王と、ニホニホ・テテイに目を丸くした。
 刹那。シアの放ったエネルギー光弾と、ティーシャの竜砲が獣を撃ち重ねられ。
「あ、……ありがとうございます!」
 ジョンはぺこりと頭を下げる。
 ――配下の数は決して少なくは無い数。
「何処まで耐えられるかな」
 何処か楽しげに告げ、星の瞬きを散らすユーピテルの一撃は重い。
 しかし、番犬達は決して一人では無い。
 連携を重ね、他班と協力し、番犬達は着実に敵の数を減らしてゆく。


「この飛び蹴りを、見切れますか!?」
 リィンが地を蹴って一気に間合いを詰めると、流星めいた蹴りが竜へと叩き込まれた。
 配下達を全て地へと沈めようやくユーピテルへと拓いた道、重ねた加護は強大な敵へと攻撃を届かせる事も適っている。
 しかし。
 そこに届くまでに掛かった時間は長く、刻み重ねられた疲労は色濃いものだ。
「はっ、……はあ……ッ」
 肩で息をするジョンの視線の先には、これ以上継戦する事が敵わず倒れたペルルの箱。
「ぼくのモヤモヤで――ぎゃりぎゃりで、がりがりー、だ」
 勇名はなかよしに離れ離れになって欲しく無い。
 だからこそ戦闘不能状態になってしまった者を見る事は、心苦しい事だ。
 こころのモヤモヤのままに丸鋸の刃を幾つも生み出した勇名に合わせて、シィカがギターの弦を激しく掻き鳴らし。
「ドラゴンライブはまだ終わってないのデース! さあ、アンコールまで! ロックンロールッ!」
 彼女は歌う、歌う。
 世界を癒やす歌を、世界を変える歌を!
 バックステップを踏んで敵の雷を避けながら星の輝きを指先に宿したティユは、幾度も庇ったことで満身創痍のかごめへと星光を癒やしの加護として。
「そろそろ引導を渡されたくなってきたんじゃない?」
 プランは唇に指を寄せると、投げキッスをする様に。
 放たれたアメジスト色の光線は竜の肩を貫き。
 重ねて仲間の放った光弾が叩き込まれて炎に焼かれて、屈折した光線がもう一度体を貫ぬこうとも、竜が後ろへ引くことはない。
「力の差も理解出来ぬとは、哀れなものよ」
「ええ、そうですね。なんと行ってもドラゴン達の最後の作戦の間もこの地で『生き永らえるだけの生』を謳歌されて居ただけあって、――随分と優しい攻撃ですしね」
 挑発を口にしたかごめは、チェインを構えると肩を竦めた。
「ハッ、口ばかり達者なようだな」
 幻想の星光を宿した竜敵だって、それが挑発だと理解している。
 だからこそ彼女へ、狙いを変えたりはしない。
 ――星光が真っ直ぐに向かう先に立っていたのは、ジョンだ。
「……この、程度……ッ!」
「かごめさん!」
 強引に前へと割り入ったかごめが膝をつくと同時に、駆け寄ったシィカは彼女を退避させて。
「やはり、口ばかりか。……死ぬが良い」
 肩を竦め返したユーピテルは、環を纏った幻想の星を再び頭上に宿し。
 意を決したように敵を睨めつけたジョンは、その眼を瞬かせて頭を振った。
 自らを守って倒れた者の、足を引っ張ったままで良い訳は無いのだから。
「私は生きて帰ります、――診ている患者を放り出すなんてできませんから!」
 睨めつける眩い光は、麻痺の力を宿し。
「はっ、この程度で……!」
 それは強い種族であったからこその慢心だ。――番犬達は力を合わせて戦う事でその力を何倍にもする者達だと言うのに。
 ジョンの瞳に宿された麻痺の力は一瞬、竜の動きを止めて。
「でも、もう幕の引き時だよ」「このチャンスは、逃しません!」
 ティユの振り放った竜槌が輝く環を凍結させると、重ねて放たれた攻撃。リィンの爆破は雷を生む『環』を打ち砕き。
「な……っ!?」
 狼狽した竜の声。
「これで終わりだよ!」
 守れなかった人々、竜への恐怖、竜への思い。
 感情を螺旋力へと託した天音は膂力の全てを振り絞って、炎と冷気を宿すパイルバンカーが竜の腹へと捩じ込まれ……!
 斯くして。――最後の竜は、ゆっくりと富士の裾野に倒れ伏す。

 ジョンは思うのだ。
 ……めちゃくちゃ疲れたのに、何故今日は夜勤なのだろう、と。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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