●大罪竜王討伐指令
しかし、貴様らには驚かされるな、と。薄く笑んで、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を一瞥した。
日本列島防衛戦で、竜業竜十字島を撃破したばかりか、冥王イグニス、第三王子モーゼス、攻性植物の聖王女アンジェローゼ――主立った敵を悉く屠った事を振り返っていたらしい。
「ああ、良くやっていると思う。しかし、いつも通り――追討がある」
最早、戦後の約束ごとのひとつとも言えようが、と辰砂は表情を改め続けた。
ダモクレス勢力こそ宇宙へ撤退したが、ドラゴンと攻性植物は撤退すべき本拠地がない。最早種族としては滅亡に追い込まれている奴らが逃げ込んだのが、ドラゴンに残された唯一のミッション地域、富士の裾野にある『40-5 ラストミッション』地域である。
竜業合体ドラゴンである大罪竜王シン・バビロンは極度のグラビティ・チェインの枯渇状態である――ゆえに、遠からず、この地を発ち、グラビティ・チェイン略奪のために市街地を襲撃するだろうと予測されている。
同時、攻性植物勢力の光世蝕仏、『森の女神』メデインの二体も配下と共に撤退しており、シン・バビロンを支援しようとしている。
此所まで来れば、後はわかるであろう――辰砂は双眸を細めた。
「グラディウスによるミッション破壊作戦を行い――ラストミッションを破壊。敵勢力を纏めて掃討する」
さて、ミッション地域破壊はお馴染みの作戦ではあるが――改めて段取り説明しておく、と彼は言う。
ミッション地域を解放するには、その地にある『強襲型魔空回廊』の破壊が必須である。だが、当然、それは強力な護衛によって守られており、通常通りに挑んでも辿り着けぬ。
そこで、ヘリオンから直接降下する作戦だ。
強襲型魔空回廊の周囲は、半径三十m程度のドーム型のバリアで囲われており――これをグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスで攻撃すれば良い。場合によっては、そのまま強襲型魔空回廊を破壊することすら可能なのである。
グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させる。所持者以外には等しく襲いかかるそれを、護衛者たるデウスエクスも防ぐ事はできぬ。
更には雷光と爆炎によって生じるスモークで姿を隠し、素早く撤退し――グラディウスを無事持ち帰ること。これも重要な作戦の一環である。
「――これはあくまで、普段のミッション破壊の段取りに過ぎん。貴様らには、狙って討ち取らねばならぬ標的がいる……この地に逃げ込んだ、大罪竜王シン・バビロンだ」
そして、この地には――標的となる二体のドラゴン以外にも、戦争から撤退してきた攻性植物も集結している。それら全体に対応するため、今回は複数チームで一地域に挑む特殊な作戦となる、と辰砂は続けた。
「貴様らには、レイリが案内している班と共に、大罪竜王を討伐してもらう。……言うは易いが、という話だな。敵の強さを語るまでもなかろう。心して挑んで貰いたい」
さて、降下後の事だが――彼はひとつ置き、次の説明に入る。
標的へとそのまま仕掛けるような降下はできず、多少の移動は挟まるだろうが――ほど近くに降下できるため、ほぼそのまま、シン・バビロンに挑めるだろう。
ドラゴンの配下に、奴らを守るべく、共に撤退してきたグリードウルフ、ニホニホ・テテイ、ユグドラシルとの一体化こそ至高明王、ドラゴン殺すやつ絶対許さない明王などの姿が確認されている。
少なくないこれらの配下を退けながら、強力なドラゴンを倒さねばならぬ――更には、時間経過で増援が来る、と辰砂は予知を告げる。
無論、配下を全滅させる必要は無いが、極めて厳しい条件での戦いとなるだろう。
「――言うまでも無いが……こちらは既に、ドラゴン勢力を消滅まで追い詰めている状態だ。逃せば甚大な被害が出る事もあるが……この機を逃す必要はないだろう?」
不敵に告げた彼は、殲滅を願い――説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
小車・ひさぎ(お願いビーナス・e05366) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206) |
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) |
巽・清士朗(町長・e22683) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
●叫
「かつてこう言った男がいた。遠からざる未来、竜族にすら、我等は勝つと」
巽・清士朗(町長・e22683)が風に黒髪を靡かせて、吟じるような振る舞いに――小車・ひさぎ(お願いビーナス・e05366)をふいっと尾を向ける。耳が落ち着かずに動いているのを隠すかのように、降下しようとハッチに手をかけた。
風がビュウビュウと風が鳴っている――激しい風の音で何も聞こえないだろうことに、彼女は少し安堵する。自分の叫び――素直になれない心から……彼に、叫びをあまり聞かれたくないという、細やかな抵抗は叶いそうだ。
お先に、と。素っ気なく言って、彼女は身を躍らせた。
視界は、見渡す限り緑が広がっている――今は見えないが、忌々しきドラゴンが待っている、樹海。
「カビの生えた古い予知にいつまでも縋って、変わってしまった今から目を背けて――その末路が袋の鼠だなんて、最強種が哀れなもんやね」
ひさぎは静かに息を整えて、グラディウスを水平に構える。それで落ちついたと言えば、嘘になるが――。
「ゲートも、あの島もブッ潰してきた。仇は最期の1匹に至るまで狩り尽くすんよ……うちらは予知にない未来を、紡ぎ上げてみせる!」
共に生きる未来を掴み取るために。
果たして、その思いの幾分かを背負うであろう清士朗もまた空にて。不敵と笑み、柄の先に掌を当て鋒を向け。
「今こそその時――見よドラゴン! 汝らはすでに、無敵ならず!」
目標を瞬きもせず真っ直ぐ見つめ。
「この地球に侵略者の立つべき大地も舞うべき空もありはしないわ。もう何処にも逃がしはしない」
宵闇のような髪を靡かせながら、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)は剣を胸の前で構えた。
「此処で死よりも深い滅びの底へ沈めてあげるわ、侵略者……!」
「逃げ場など与えるものか。望みは一片残らず砕いてやる。ドラゴン共の爪で牙で、裂かれ灼かれた長い歴史を――」
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)はひとつ切って、銀の眼差しを鋭く眇めた。対峙しながら、逃がしてしまった、あの日の雪辱を果たすため。
疼くのは、戦いへの昂揚か、増悪であろうか。いずれにせよ――強く握りしめた剣を無造作に振り上げる。
「今ここで、断つ」
「ドラゴンは仇だ……如何な主張があろうとも許せるものか」
感情の起伏をあまり感じさせぬ、灰の双眸を伏せ。
ティアン・バ(世界はいとしかったですか・e00040)は灰の髪が激しく躍る中で、己の心と向き合う。
「この地球からもう何も奪わせない。最後の一体まで殺してやる――お前達の安息の地など、絶対に此処で壊してやる」
そのために、必要とあらば。
喉の奥に傷が――裂けようとも。血を吐きながらでも。両手で握る剣と共に、振り絞る。
「――アアアァッ」
落ちていく。浮遊感の心地よさと同時に――傷が疼くような、落ち着かぬ感覚が這い回る。
だが、心は決まっている。
「止める。倒す。逃がしはしない」
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)はきっぱりと告げる。遊ぶように、逆手に握った剣を、玩ぶようにくるりと回し狙いを定めながら。
「この星を害した分、その先まで全部、これ以上、一片たりとも奪わせるものか――鎖に囚われ、消えろ」
「これ以上思い上がるなよ、“蜥蜴”共。お前らが同胞のために身を投げ出すように――“犬”だって守るべきもののために戦うんだ」
――そこに、如何なる願いがあれど。奪われ続ければ、此方も牙を剥く。
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は辛く笑って、落下に抵抗するように身体を捻りながら、剣を握る。
そして、諭すような静かな声で、一点を鋭く貫くように。
「お前らを滅ぼすのは、俺たちじゃない。自らの傲慢さだと知れ」
祈るように、剣を抱きしめるように握り、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は目を伏せ囁く。
「大変なこともいっぱいあったけど、運命に逆らって、そして終には――追い詰めたから、もう逃がさない」
かくて開かれた赤き双眸は、深き樹海を見据え。見えざる障壁へ、思いを込めた刃を掲げる。
「未来のためにここで因縁を断ち切るよ――終わらせてあげるから!」
障壁にグラディウスが触れるなり――生じた激しい雷光と爆炎が広がっていく。手応えはあった。
だが――真に果たすべき事は、この先、だ。
●開
樹海に降り立ってみれば――グラディウスの力で、周囲は煙幕に包まれていた。
予め、ある程度の方向の目算を付けていたひさぎの案内に従い、彼らは素早く目標へと駆ける。道中に影のように通り過ぎていったものが、木々なのか、敵であったのか。少なくとも、追い縋られ、囲まれたりはしていないようだった。
――このあたりと思うんよ、ひさぎが声を殺して囁く辺りで。
周囲は煙が立ち籠めた儘だが、隠しようもない、圧倒的な存在感。見逃すはずもない、巨影。
うっすらと浮かぶ屈強な黒竜の輪郭に、ざわめく配下どもの気配――現状、接近した彼らに気付いた様子はなさそうだが。
――向こうも来ているだろうか。
陣内の目配せに、これもまたひさぎは頷いた。
ゴッドサイト・デバイスによる情報から、無事、揃っているようだとゴーグルを外して応じる。
戦いの寸前。彼らは物音一つ立てず、掛かる姿勢を取る。
刹那の沈黙は、動き回る敵の足音をも拾うように。
――アウレリアは対物ライフル型へと変形させたハンマーを構えて、静かな吐息と共に、放った。
「ッ!」
スモークの中を駆け抜けた弾丸は、風を巻き込み唸り、ビルシャナの――ドラゴン殺すやつ絶対許さない明王の肩を貫き、彼方へと伸びていった。
「あ、あぁ、来た――!」
驚きよりも、覚悟を決めたような声を上げて、其れが示唆すれば。
七つの首がまさに全方位を見落とさぬよう傾ぎ、ケルベロス達を睥睨した。
「ハッ、待ち侘びたぞ。ケルベロス」
低い声音が地を揺らす。それが、超越した存在であることを全身で感じる――それが笑いを含むのは、戦いに喜悦を感じるからか。
「我が屈辱、晴らすには相応しき戦場よ」
大罪竜王シン・バビロンは天高く吼え――そのままに、赤黒き炎を吐き出した。
空気が焦げ、地が燃える。スモークさえも焦がし炎は暴れ、視界は鮮明となっていく。
「魔竜王よ見よ! これこそ、我が力。我が炎。大罪竜王シン・バビロンの戦いだ!」
高らかに告げるを、讃えるように炎はケルベロス達を包んだ。
それを――炎の下で剣風が躍り、渦巻いて、退ける。膚が炭化しそうな程の灼熱の中――大剣握る右腕は銀炎を強く滾らせ、レスターは鋭い眼光で竜を見る。
「魔竜王を超えると豪語しただけある気骨と実力――それこそ、おれたちが超えにゃならん相手だ」
浅く笑うと、直ぐに冷徹な表情に戻り、
「――延長戦だ。ケリをつけようじゃねえか」
低く構え、隙無く次に備える。
同じく――攻撃から転じて、咄嗟に庇いに駆けたアウレリアは静かな挑発を飛ばす。
「主星から逃げ戦場から逃げ……その果てに魔竜王を超越できると思っているのかしら」
ひとつの頭が、僅かに反応を見せたが、特にいらえはなく。
「そうして背を向け続けているなら魔竜王を超える前に、私達がお前の屍を超えていくわ」
言い放たれた台詞に、からりとキソラが笑みを見せた。
「魔竜王もナンも。まずはオレらを逃げずに越えてけってね」
挑発混じりに告げ、力を招く。
「ひとつ宜しゅう、」
繋ぐ力を羽搏かせる白き虹帯がふわりと拡散するように広がって、イズナを彩る。
「――星の輝きすら和らげる。美しき梢は冷やすもの」
高まる癒やしの力を重ね、彼女が願い招くは護りの秘宝。透明な結晶が花開くように皆を守る、太陽の光と熱を和らげる氷の楯。
「あなたの炎も、牙も、わたしたちには届かない――ううん、わたしが届かせないから」
先の炎は後衛を襲ったが、イズナを含む回復の要となる者たちは、仲間が盾と庇ってくれた。それに、応えるためにも。
傍ら、猫が空を駆け上がり、竜へと花環を飛ばす。小さな環を竜は気にせぬように堅い鱗で撥ね除ける。
「当たらなくはない、か――いけるか、旦那」
主たる陣内は――オイルライターのトリガーを押し込みながら促せば、色彩溢れる爆風に、応と構えた清士朗は敵陣へ炎の息を吹き付ける。
苛烈な挟撃が、明王どもを苛む中で、アウレリアの伴侶たるアルベルト――白銀の銃から、念を込めた弾丸を放つ。
うちの一体が愈々崩れそうになれば、敵どもが動くよりも、早く――無造作に何かを放り投げるかのように、レスターがオーラの礫を高速と叩きつけ。合わせ、ティアンがカンテラを掲げれば、光の弾丸がぴしゃりと、消し飛ばした。
炎に巻かれた明王どもを余所に、ニホニホ・テテイへとひさぎが照射するは、掌の上に作りし黒太陽から絶望の黒光で、戦列を乱し、灼いた。
●戦
波濤の集中攻撃で癒し手なる明王は直に消え、それと向き合うことになるが――やはり、大罪竜王の暴虐は歴戦のケルベロス達をも苦しめるに充分であった。
清士朗が拍手を打ち、集中を高める。戦場のすべてを意識に溶かし、先を見る、極意。
「唯観る。これぞ鞍御守神道流が極意也――地雷復。詠六十四卦申し奉る――上だ!」
彼の言葉を受け、キソラを庇い――アウレリアがオーラで纏う黒い腕と銃で、牙を受ける。七つある頸が、しなやかな鞭のように薙ぎ飛ばされれば、表情こそ静しいが、彼女は容易く吹き飛ばされる。伴侶を傷つけられた報復と、駆けだした配下へと怨嗟を送る。
呪縛に、ニホニホ・テテイが脚を止めた瞬間を見逃さず、短い呼気と共に地を蹴り出したレスターが音速の拳で殴殺し。
道が開く先、ひさぎが尾を逆立てながら、御業を下ろした。
「花房っ、」
迸った半透明の御業は大罪竜王の首根を抑えんと掴み掛かる。
「おっと」
横から、グリードウルフが牙を剥いて跳びかかって来るを、清士朗が背から起動させた四本の巨大な腕――アームドアーム・デバイスで、押さえ込みながら、庇う。
それを横目で見たひさぎは、特に何も言わなかったが――尾は、少し嬉しそうに左右に揺れていた。
陣内の掌、ステンドグラスがはめ込まれたパズルから、光の蝶が舞い、アウレリアの傷を癒やしていくと、更にイズナが地に描いた守護星座が輝いて、守る。
悠然と彼らを見下ろす大罪竜王へ、キソラが縛霊手の掌より巨大光弾を放てば、その影をティアンが駆り。
「おまえにもあるのではないの、ひとつくらい。」
忘れたくなかった記憶を、傷痕を、幻で、喚起する。そんな光を浴びせれば、竜は表情を険しく顰めた。
無造作な顎と牙の応酬すら、手足が千切れんばかりの威力であり、踏みとどまるは細々しく二人の回復があってこそ――。
時折、煩わしいのか、攻撃の対象は異なるが、概ねの狙いは中衛に定まるようであった。
変わる代わりに守りながら、ドラゴン殺すやつ絶対許さない明王が増援と現れる。
ドラゴン様、と口々に唱えるそれらへ、諦めの悪い奴らだ、と憮然と息を零し陣内が、猫へ視線を送る。やりとりは短く、竜へ挑んでいく小さな身体を見送ると、練り上げたグラビティ・チェインをレスターへ向ける。
「これはヌチグスイ。太陽の恵みが、ここにある。」
碧い海と燦々と降り注ぐ太陽のビジョン――根付くもの達の意地を。
開戦より、十一分。更にユグドラシルとの一体化こそ至高明王どもがぞろぞろと戦陣に加わった。
「しつこいっての」
キソラが呆れ声を上げる。大罪竜王は依然威圧的にケルベロス達を見下ろしているが、その身体は回復に追いつかず、生々しい傷跡を無数に刻んでいた。
片や、こちらも――全てを跳ね除ける程の守りをと願うイズナの献身はあれど、やはり竜の力は強大であった。
皆、満身創痍だ。汚れ、疲弊し、気を抜けば倒れる寸前まで、追い込まれている。
「根比べ――いや、倒れる前に倒せ、か」
吐き捨てるように、レスターは言う。既に向こうの班には戦闘不能者がいるらしい。誰も彼も顔には出さぬが――自分達が倒れるのも、時間の問題だ。
ならば、進むまで。
レスターは大剣を担ぐようにして、臆さず踏み込んでいく。
「連れて行ってやる」
剣を振り下ろす動作と同時、右腕の銀炎が竜の巨躯をも括るように燃えさかる。理性を縊る灼熱は――あちらが吹き付けた黒炎と正面からぶつかり合う。
依然、全身の血が蒸発しそうな火力だが、退かず背後を庇いながら――己の牙を、毒として叩き込む。
彼が囲まれぬよう。敵を蹴散らすべく、ティアンの指先が星座を結ぶよう動くや刹那、熱と光が視界の限りに爆ぜた。
立ちこめた煙を利用し、アウレリアが素早く拳を叩き込む。伸びる頸は殴打され制御が効かず、吹き飛ばされた頭へ、アルベルトが銃を突きつけ、撃鉄を起こす。
猫がその目を引っ掻いて逃れると、隙の出来た別の頭へ、清士朗が鋭く一瞥くれる。
「構えろ、ひさぎ」
その一言に、ひさぎは深く頷いて。
壮麗なる黒鞘より、するり覗くは身幅広く直刃調の小乱れ刃に、降魔の力を乗せ。
「爆ぜろ、"凍星"」
ハンマーに御業を下ろし、ひさぎは思いきり振りかぶる。垂直の斬撃に、弧を描く打撃が続き、竜の頭を打ちのめす。
ハッ、笑うような息づかいで、キソラがその様を見つめる。
「アンタらが奪ってきたモン――返して貰う」
喪ったものは、喰らわれた自分自身さえ――元に戻りはしないけれど。全身が痛むのは、現世の痛みか。過去の幻痛か。其れすら、乗せて。
キソラの極限の集中、竜の額が爆ぜ、鱗を撒き散らしながら割れた。
そこへ――守りを擲って仕留めに掛かるべきだと判断した陣内が、空の霊力を帯びた一撃を胴へと捻じ込む。
楔と撃ち込まれた力が暴れ回り、堪えきれず、竜は暴れた。
「凌駕するというのか、この我を……否!」
「いいえ、終わらせる! ――決着を付けてきて!」
イズナが――思いを込めて、最後の鼓舞を送る。
色鮮やかな爆風に背を押され、ティアンは音もなく駆ける。赤と泥で斑に染まった全身は痛み、悲鳴を上げるが無視を決め込む。
やや、先行して。曇ることなく、煌めく金の髪が見えた。
「行こう。全ては、未来の為に!」
発し、ローレライが星辰を抱く刃を振り上げた。竜の鱗を割るような一閃に導かれるよう、ティアンは、この一撃に、すべての力を注ぐ。
「――破壊する。そう決めた」
二度と、何も奪わせぬ。
ナイフを握る白い腕は炎を纏い。それを直に叩き込むように、素早く放った。
強化され、巨大に膨れ上がった炎弾は、轟轟と燃えながら伸び――大罪竜王の胸を貫く。
須臾、沈黙が落ちて。
「汝らが――真に……魔竜、王を……凌ぐもの、か」
絞り出されたのは、賞賛と望郷を孕む囁き。
斯くて大罪竜王は、この地に斃れ。形もなく砂塵と、崩れ去った――。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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