鉄板焼の街で

作者:寅杜柳

●ころころまるめて
 大阪府大阪市内。
 冬の寒さも大分やわらぎ春の陽気が街並みを温める中、粉もんの激戦区でもある商店街は活気に溢れていた。
 お好み焼き、たこ焼き、明石焼き、その他諸々のソースの焼ける匂い、と出汁の香りは賑やかな街にもよく香り、通りがかる人々の食欲をそそっている。
 そんな商店街の本筋から外れ少し離れた場所に人気のないゴミ捨て場があった。
 粗大ごみがぽつぽつと置かれたその場所は周りの街に押されて窮屈そうで、けれども一時的な大型のごみの置き場所としては十分な広さがあった。
 その広場に置かれたごみの一つ、粗大ごみのシールが貼られた電気式の家庭用自動式たこ焼き機にひょこりと乗る拳大の小さな影、それは鉄板と本体の隙間へと蜘蛛のような足を器用に動かし潜り込む。
 途端、たこ焼き器の鉄板が赤熱しつつ本体が膨張、そしてめきめきと形を整えて、人型サイズのダモクレスが一機完成する。
 頭に帽子のように円形にくぼみのある鉄板を乗せ、左手には規則正しくます目のように窪みの並んだ鉄板を盾のように装着。右腕にはアイスピックのような形状の巨大な針が装備されている。
 ダモクレスはその総身から蒸気を叫ぶかのように吹き出すと、グラビティ・チェインを略奪する為一際賑わう商店街へと歩み出した。

「ダモクレスの事件が予知されたんだけど、ちょっとみんな頼まれてくれないかい?」
 ヘリポート、集まったケルベロスに雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が切り出す。
「繁華街にほど近いゴミ捨て場に廃棄されてた自動式たこ焼き器がダモクレスにされてしまうみたいでね。このままだと繁華街に向かってグラビティ・チェインを略奪する為の殺戮を始めてしまうだろう」
 幸い早めに予知できたからダモクレスが商店街へ動き出す前に阻止する事もできる、そう知香は言う。
「色々他の事件も起こっているご時世だけど人々の平和を守るのもケルベロスの仕事、どうかダモクレスを倒してきてほしい」
 そして知香は資料を開き予知で得られた状況の説明を開始する。
「時間帯は朝、戦場となるのは繁華街に近い裏路地にあるゴミ捨て場だ。ダモクレスが動き出してもすぐに繁華街に直行できるほどには近くはなくて、事前に周囲住民の避難は完了しているから巻き添え等は考えなくて大丈夫だ。ゴミ捨て場自体も冷蔵庫やタンス等の粗大ごみがぽつぽつ転がっているけれど、ある程度の広さはあるから戦闘に支障が出るほどでもないと思う」
 そしてダモクレスについてだが、と白熊は資料を捲りダモクレスの姿らしき絵を示しながら説明を続ける。
「姿は自動式たこ焼き器を元にしてるだけあってか、頭と左腕にたこ焼きの鉄板を、右腕に巨大ピックを装着した人型ロボットの姿をしている。攻撃はダモクレス自身を中心に一定範囲……最大でゴミ捨て場全域の地面から熱を放射させて焼き上げる攻撃と、コードを束ね蛸足のようにして縛り付けてくる攻撃、そして巨大ピックでの目にも止まらぬ刺突があるようだ。地面を加熱する攻撃はムラがあるから全員が一度に巻き込まれることはなさそうだね」
 まあそれ程強くはないようだから油断しなければ問題なく撃破できるだろう、と知香は説明を締め括る。
「そうそう、戦いが終わる頃にはお昼も近いだろうから繁華街でお昼にするのもいいかもね。粉もんが有名で色んな店が鎬を削っているから味の方はどこもかなりイケるはずだよ」
 それじゃ、よろしく頼んだよ! そう知香は締め括り、ケルベロス達をヘリオンに乗せて戦場へと導くのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●再起動するタコ焼き機
 お昼にはまだ早い朝の繁華街。いつもなら賑やかなその街並みの脇の路地をヘリオンより降下した八人のケルベロス達が駆けていく。
 狭い小路、先頭を蛇の尾を器用にくねらせ滑るように進むメリュジーヌはリサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)。
「粉もんの激戦区というだけあって、美味しそうな店が沢山ありますね」
 降下、そして道中に見えた店の看板達を横目に見つつ、帆立貝の髪飾りが特徴的な湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)が呟く。
「たこ焼きは、食べる事は多いのだけど自分で作る機会は滅多にないわね」
「時々無性に食べたくなる時があるのですよね」
 真白きシャドウエルフの雪城・バニラ(氷絶華・e33425)とルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)はそんなやり取りをしつつ周囲を確認しているがどうやら避難は万全な様子。
「粗大ごみにたこ焼き機が出るってのも地域柄かねぇ」
 故郷との違いに厳つい人派の竜人、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)も不思議顔。
「たこ焼き機、面白そうだけど私が持っていても使いこなせずに終わりそうなのよね」
 使い方によっては様々な料理に活用できるそうだけれど、何を作りたいかと言われればぱっと浮かばない。
(「しかし……こんなとこまで入ってくるとか油断ならねぇなおい」)
 内心道弘が警戒しているのはこのような市街地にすらダモクレスが出現するという事。対応を誤れば被害は恐ろしく大きくなるだろう。
「デウスエクスが出てきた以上放っておけねえからな、きっちり退治しようぜ!」
 まだ肌寒い春先の朝の空気も何のその、いつもの軽装な格闘家スタイルの相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が速度を上げ、目的地に向けて歩みを進めていく。

 そして数分とかからずケルベロス達はゴミ捨て場に駆けつけ、こちらに歩み出そうとしていたダモクレスと接触する。
「……これたこ焼き器なんだ……」
 威嚇するような機械音を漏らすダモクレスをどこか遠い目をして眺め呟くオラトリオは源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)。
 ダモクレスの頭と左腕に装着された鉄板は間違いなくたこ焼きを焼くためのもので、そして右腕に構えるのはぱっと見突剣のような巨大ピックだ。
「まあ、自動たこ焼き器といえど日々進化するよね……」
 進化、進化なのだろうか。呆然としながらも瑠璃はそう納得する。
「このダモクレスが美味しいたこ焼きを焼いてくれるのなら歓迎でしたけど」
 ルピナスにとってたまに食べる分にたこ焼きは十分すぎる程に魅力的、けれど彼女の願いは叶わない。
 かつては人々に使われて温かな笑顔を生み出していただろう文明の機械、けれどダモクレス化してしまった今その鉄板が焼き上げるのは住民の命。
 人々にとっての恐るべき脅威となり果てた自動たこ焼き機に瑠璃は憐れみを覚える。
 だから人を殺す前に止める、瑠璃はライフルを構え戦闘態勢を取る。その隣で殺界を形成していたバニラは無表情に武器を構え強化ゴーグル越しに敵を見据えている。
 彼のやや後方、控えめな白髪の青年肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)も黒き鎖をいつでも操れるよう備えている。
「まぁ、ご飯は後回しにして、まずはダモクレスを倒す事に専念しましょう」
 威嚇するようにピック、もとい突剣を構えるダモクレスに麻亜弥は桜の枝をゆるりと構え、
「ともあれ、ダモクレスと化したものは早く倒してしまいましょう」
 前方では、機械腕のデバイスを装着したリサとルピナスが其々戦闘態勢をとった。
「とっとと片付けちまうか!」
 そして道弘がそう呼びかけたのを切っ掛けにダモクレスが地を蹴り、戦闘が始まった。

●熱気の中で
 飛びかかってきたダモクレスに最初に飛び出したのは瑠璃の紡いだ巨大な霊弾。二足歩行型のダモクレスが飛び跳ね回避する間もなく命中、合わせ麻亜弥がジェットパッカーで加速し飛び込んで、
「攻性植物よ、敵を絡みつけてしまいなさい!」
 手にした桜枝を一振り、すると無数の枝が蔓のように伸びダモクレスに絡みつく。
 更に道弘が様々な色の絡み合う龍のパズルを組み換え龍の形をした雷が出現、動きを縛られたダモクレスに飛び掛かり強烈な電撃を喰らわせる。
「さぁ、貴方に私の動きが見えるかしら?」
 その雷に紛れ死角に飛び込んだ真白き影のエルフが視認すら困難な一撃を見舞うと同時、飛び込んだ泰地が軸足で地を力強く踏みしめ、
「筋力流剛刃脚!」
 丸太のように分厚く逞しい脚でダモクレスを力強く蹴り飛ばす。
 周囲の粗大ごみを巻き込み派手な音を立て転がる機体。だが平然と立ち上がると頭部の鉄板が赤熱、同時周囲の領域が一瞬で火中の如き熱気に包まれ追撃を仕掛けんとした前衛を炙る。
「あっちぃ!」
 地面が熱された余波で裸足の泰地が飛び跳ねる。距離を詰めてなかったからダメージにはならないものの、至近でで受けたならかなりの被害になるだろう。
「大丈夫よ、落ち着いていれば安全だから」
 そんな泰地を他所に咄嗟に前に出て熱を受けていたリサはあくまで落ち着き払ったままに鎮めの風を周囲に吹かせ、更に後方から鬼灯が前衛の足元に描き出した黒鎖の守護陣が熱に拮抗、周囲の熱が和らぐ。
 そのタイミングでジェット加速したルピナスが機体の懐に飛び込むが螺旋の力を宿した掌は左腕の盾で勢いを逸らされる。
 そして無数の部品とコードが連なりダモクレスの左腕を覆う。太くしなるそれはさながら蛸足、薙ぎ払う様に振るわれたそれは接近してきていたケルベロス達を打ち据え、その一部はほどけ打った相手に絡みつき締め上げる。
 その攻撃直後の隙を瑠璃は見逃さない。構えたライフルの引鉄に指をかけて重圧与える強烈な光線で撃ち抜き、同時麻亜弥とダモクレス背後に回り込んだルピナスが蒼海と緑の色の瞳を其々細め精神集中、
「遠隔爆破です、吹き飛んでしまうと良いですよ」
 麻亜弥の言葉と共に頭頂の鉄板周囲の空間が突然爆発、ダモクレスの攻撃を鈍らせる。
 その間に蛸足コードによる呪縛に苛まれる前衛を見、鬼灯が大刀を抜き星座のオーラを放ち前衛を包み込めば彼らを蝕む呪縛が解け霧散していく。
 その向かい、コード束を叩きつけられていたリサが鬼灯に軽く礼をし、体に装着した蒼螺子の力を解放してダモクレスと自身を分つ雷の盾を形成し傷を癒す。
 横に飛び退いたダモクレス、だがその先にはコードの呪縛を振り解いた竜人が赤褐色のライフルを構え待ち構えている。
 ライフルよりの光弾、対応しきれず命中したそれは機体のグラビティを中和する。
 これ以上の追撃を嫌がるようにダモクレスが頭部の鉄板を赤熱させ、再び周囲は灼熱地獄へと変貌する。
 しかしその熱の領域に飛び込む一つの影。狩りを行う虎のように泰地がその腕に装着した手甲を虎爪の如く変形させ手刀を放てばそれは鋭き刃の如く金属装甲を大きく抉り取る。
 更にタイミングを見極めた瑠璃が高速でパズルを組み替え、その全ての面が輝くと同時に飛び出した竜雷はダモクレスに直撃。
「御業よ、敵を鷲掴みにし、その動きを封じなさい!」
 重ねてルピナスが紡ぎあげた半透明の御業が握りしめるようにダモクレスを縛り付ければ、その間隙を見極めたバニラが音もなく熱圏に飛び込み構造上の弱点を正確に撃ち抜く。
 そして淡い青を纏う麻亜弥が飛び込み袖口から暗器を引き抜いて、
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 静かに呟き、目にも止まらぬ速度で振るう。鮫牙の形の暗器がダモクレスの金属質の体に無数の傷を刻み込み、連撃に傷ついた破損個所を拡張していく。
 突剣の反撃をするりと躱し麻亜弥は距離を取る。少しは鈍っているがその攻撃は直撃すれば戦況をひっくり返しかねない程に強烈。
 この戦場で決着させる為にケルベロス達の攻撃は更に加速していく。

●仕上がり上々
 幾度か灼熱地獄と乱舞するコードが戦場と廃棄家電を薙ぎ払う。
 だがケルベロス達は誰一人倒れていない。強火で攻め立てるダモクレスに対抗するように護り手の足元に守護の陣が輝き傷を癒す。
 鬼灯のデバイスにより高められた治癒能力は、回復に専念する彼の方針もあって十全に発揮されている。
 細剣持つ右半身を前に出し、目にも止まらぬ速度で泰地の足にダモクレスが一閃。腿を突き刺されそのままくるりと掬われた泰地の体が宙に舞うも、彼は持ち前の身体能力で立て直し咆哮で気合を入れ直す。
「雷鳴の蒼螺子よ、仲間を護る盾を展開しなさい!」
 リサの声が響くと同時に泰地の正面に雷の属性を帯びた障壁が展開、更に手早く駆け寄った鬼灯が緊急手術、即座に塞ぐ。赤い瞳は正確にその攻撃と傷の深さを見極めて必要な分を癒している。
 この調子なら囮も不要だろうと鬼灯は判断する。
「逃がすかよ!」
 そして退こうとするダモクレスに道弘は追い縋り敵の行動範囲を強引に絞らせる。
 元より頑健なその肉体、体力には自信がある。
 そこに光弾が飛来、瑠璃の放ったそれが吸い込まれるように命中する。彼の狙いはあくまで本体、敵の攻撃に惑わされる事無く彼自身の役割を果たしていく。それも強烈な攻撃を受け止める護り手の活躍あってこそだ。
 更にバニラが静かに忍び寄り隙を突いて氷結輪を刃のように振るいダモクレスの呪縛を増幅させる。彼女らが敵の力を削ぎ実力を発揮させないようにしている事も優勢な戦況に大きく貢献している。
 体勢を崩したダモクレスに道弘は一本の白い蛍光チョーク、塾講師である故に馴染みある道具を取り出して握り潰す。
「追い込んでくぜ、覚悟しやがれ!」
 そして大小まばらなチョークの破片をダモクレスに向けて投擲すれば一番大きな破片は直撃、のみならず細かな破片も地面に当たり跳ね返って吸い込まれるようにダモクレスへと殺到する。
 居眠り生徒相手に活用している技術、高速戦闘の中で命中したその破片は砕け損傷を拡大し、鉄板ごと満遍なく真っ白に染め上げる。
 ダモクレスが幾度目かの熱波を放ち白粉が一瞬で黒く焦がされる。しかしその熱気の中、飛び込んできた泰地の疾風の蹴りがダモクレスの肩に突き刺さりそのパーツを派手に宙に巻き散らす。
 周囲には拭いきれぬ熱気が立ち込めているが、心頭滅却すれば火もまた涼し。
「螺旋の力よ、敵を内部から破壊してしまいなさい!」
 さらに反対側から加速をつけたルピナスが飛び込み螺旋の力を叩き込む。内部からねじられるような破壊音、けれどダモクレスはまだ倒れない。
 熱波を阻んだリサが鮮やかな電気信号の雷を至近距離から炸裂させダモクレスの動きを一瞬停止する。
 更に緑の清浄なオーラが前衛のケルベロスを包み込むと彼らの傷ついた身体に新たな活力が湧き上がってくる。
「もう大丈夫ですよ」
 鬼灯の癒しの秘術と後押しの言葉、あと一押しだ。
「力借りるよ!! カーバンクル、その魔力にて停止を成せ!!」
 瑠璃が呼びかける。すると彼のの一族が太古に結んだ盟約に従い額に紅玉輝く一頭の霊獣カーバンクルが静かに戦場に降り立つ。
 霊獣が一つ啼き、額の紅玉より紅き光線を放ちダモクレスを照らせば暴走したかのように暴れるダモクレスの動きが一瞬停止する。
 呪縛に抗うようにダモクレスの各部から異音が発せられる。
「最後まで動きたかったんだよね。お疲れ様」
 もう休んでいいよ、とその光景を見た瑠璃が呟くと同時に空と地より飛び込む二つの影。
「その硬い身体を、かち割ってあげるわ!」
 そして高々と跳躍したバニラがゆるやかにウェーブした雪白の髪をぶわりと広げ、霹靂の如く斧をダモクレスの頭上に振り下ろす。円盤型の鉄板に突き刺さったその一撃はダモクレスの頭部を激しく揺さぶり、更に麻亜弥が鮫牙の暗器をダモクレスの足の破損部位に突き立て斬り裂けば機体はがくんと体勢を崩す。
 苦し紛れにコード束が薙ぎ払われようとするがそれを阻んだ道弘が砕いたチョークを感覚に従い投擲、逃げ場を阻むように破片の群れは跳弾し大きく破損したダモクレスにめり込み、大きな隙を作り出す。
「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 黒きエネルギーの剣がルピナスの周囲に無数に生み出され、それが一斉に解き放たれた。
 散弾のように放たれた黒き刃の群れはダモクレスの体を削るように貫いていき、刃の嵐が止まった頃には剣山のようになった動かぬダモクレスの機体だけが残っていた。

●お昼時の粉もん街
 警官達へ討伐完了の報告を泰地と道弘が行う間、僅かにあった戦闘による被害を手分けしてヒールするケルベロス達。
 完了する頃にはお昼も近い時間帯、ソースの焼ける香ばしい香りに甘い匂いが薄らと漂ってきている。
「お昼ご飯には丁度良い時間ね、私はたこ焼きが食べたくなって来たわ」
「だいぶお腹が空いてきましたね、私もです」
 ヒールを終えたバニラが一息ついて商店街の方角を見遣り、蛸の気配に惹かれたのか海の色合いの麻亜弥もお昼を楽しむ気満々である。
「さあ食べ歩きに行くか!」
 戻ってきた泰地。鍛えに鍛えている彼の腹は底知らず――という訳ではないのだろうけども、この街の名物を楽しむには十分。
 地獄で心を補っているが故に普段は他人に積極的に関わる事に苦手意識はあるが滅多にない機会、たまにはこういう日もあっていいだろうと控えめに鬼灯も同行する事にした。

 日常の賑やかさを取り戻した繁華街、ソースによく焼けた生地に薬味の香りがそこかしこの店から漂っている。
 すっかり心はたこ焼き気分なルピナスとリサ、バニラと麻亜弥もどこにしようか迷う程。当然ここで帰る等という選択肢はない。
 賑やかな出汁の芳醇な香りが漂ってくるのは明石焼きの店だろうか。歩きながら五感で周囲を探る道弘の目に止まったのはネギ焼きの店。最初はそこに決めて、次も悩む必要はなさそうだ。
 やや寒く感じる中、瑠璃は偶然同じ店を選んだ鬼灯と共にたこ焼き屋に入り、カウンター席で早速味わってみる。
 口に広がる柔らかさにソースの香ばしさ、そして蛸足の食感は流石粉もんの名所と言われるだけある。鬼灯の方も少し緊張が解れている様子。
 折角だからと瑠璃は家族の分も追加で頼んでみる事にする。
「回転焼きに今川焼、大判焼き……」
 一方、大判焼きを頬張っているのは泰地。一通りの名物を抑えたのだけれど、それでもまだ味わっていない粉もんは多い。
(「せっかくだし土産も買っときてぇな」)
 あっさりした味の粉もんを楽しむ道弘は歩きながらガイドブックを広げ文字の妖精さんで手早く情報を収集。
 故郷の生徒達への土産は手堅くいきたい所。お好み焼きとたこ焼きをセットにしたもの等もあるのかと人に教える身であれど悩むことはあるのだ。

 そんな風に。
 守った賑やかな街の味わいを十分楽しみ、ケルベロス達は帰路へと着いたのだった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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