ラストミッション破壊作戦~幻想の終焉

作者:つじ

●ラストミッション
「皆さん、先日の戦いはお見事でした!!! 僕はもう本当に感動しましたよ!!!!」
 興奮と感動をそのままお伝えしようと、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)がハンドスピーカー越しの大声でケルベロス達を労う。
 激戦ではあったものの、皆の活躍によって竜業竜十字島は無事退けられ、さらには冥王イグニス、第三王子モーゼス、聖王女アンジェローゼといった名だたる面々まで撃破しているのだから、ヘリオライダーの声も自然と大きくなるというもの。
「素晴らしい戦果でした!! ……とはいえ、皆さんもご存じの通り、懸念点がないわけではありませんよね」
 ひとつトーンを下げて、慧斗が言及したのは、戦いの中で討ち漏らした者達についてだ。撤退した者の内、ダモクレス勢力は宇宙へと戻っていった。しかし、もはや勢力として壊滅し、撤退すべき本拠地を持たないドラゴンと、攻性植物……彼等は、まだこの地球に残っているのだ。
「ですが、安心してください! 居所は掴めていますよ! こちらが、彼等の現在位置になります!!」
 そう言ってヘリオライダーが示したのは、霊峰富士の山麓。そう、誰が呼んだか『ラストミッション』、ドラゴンに残された唯一のミッション地域である。
 ここに逃げ込んだ竜業合体ドラゴン、大罪竜王シン・バビロンは極度のグラビティ・チェインの枯渇状態である為、遠からずミッション地域から出て、市街地を襲撃、グラビティ・チェインを略奪しようとすると予測されている。
 また、攻性植物の、光世蝕仏、『森の女神』メデインの2体もまた、配下と共にこの場所へと撤退しており、竜業合体ドラゴンの唯一の生き残りである、大罪竜王シン・バビロンを支援しようとしているようだ。
「勿論、これを見過ごすわけには行きません! 皆さんにはグラディウスを利用したラストミッション破壊作戦を敢行してもらい、この地域の解放と共に、逃げ込んだドラゴンと攻性植物、そして、このミッションの首魁である『幻想大帝ユーピテル』を撃破していただきたいのです!!!」
 
 戦場となる富士山麓、そして標的が居るであろうその中枢には、強襲型魔空回廊が存在している。例によってその周囲はドーム型のバリアで囲われているので、ヘリオンから降下し、バリアの天頂部にグラディウスを突き立て、強襲型魔空回廊を破壊することが第一目標となるだろう。
「今回は6チームによる同時降下作戦となります! 皆さんがそれぞれに力を発揮し、それを束ねれば、この一回で魔空回廊を破壊することも十分可能な筈です!!」
 グラディウスによる攻撃の威力は、使い手のグラビティの高まりに比例する。強い意思や願い、思いを叫びながら、グラディウスを使用する事で、より高い効果が期待できるはずだ。
「グラディウスによる攻撃が成功すると、余波として激しい雷光と爆炎が生じることが分かっています! これらは、グラディウス所持者以外――この場合は周囲にたくさん居る敵部隊に襲い掛かりますので、それによる混乱の隙を突いて、皆さんは素早く行動してください!!」
 いつもならば、そこで退路を確保し、撤退してもらうところだが、今回は少しばかり事情が違う。
 このミッション地域には勿論、標的となるドラゴン以外にも、戦争から撤退してきた攻性植物が大集結している。残党とは言えその数はかなりのもの、熾烈な戦いになることは間違いないだろう。だがケルベロスブレイドによる予知能力の高まりのおかげか、今回は標的の居るおおまかな位置がわかっているのだと彼は言う。恐らく着陸地点の近辺に標的が居るため、ミッション破壊の混乱に乗じて速やかに接敵し、撃破を目指すという流れになるだろう。
「お分かりかと思いますが、そこは敵陣の真っ只中ですからね! 素早く、そして極力配下と会敵しないよう動くのをオススメします!!」
 それは勿論、ボスとの戦闘においても同じこと。非常に難しい作戦にはなるが、仲間とうまく連携して事に当たれば、決して不可能ではないはずだ。

「僕のヘリオンに乗ってもらう皆さんには、あのミッション地域の首魁である『幻想大帝ユーピテル』が居ると思しき場所に向かって、降下していただきます!!」
 幻想大帝ユーピテル。遥か昔に暴虐の限りを尽くし、魔竜王にさえ叛逆したという暴竜だ。戦闘ではクラッシャーとして、その強大な力を行使してくることだろう。

「レプスさんのヘリオンに乗るチームとは、同じ標的を目指すことになりますので、よろしくお願いしますね!!」
 そう言って、慧斗はケルベロス一人一人に、今回の得物であるグラディウスを配っていった。
「長く厳しい道のりではありましたが、あの強大なドラゴン達をここまで追い詰めたのは、間違いなく皆さんの力です」
 誇らしげに、そして感慨深げに彼は言う。
「ですが、敵も必死のはず。どうか最後の瞬間まで、気を引き締めて挑んでください!!」
 無事のお帰りを願っていますよ! 最後にそう付け足して、慧斗は一同をヘリオンへと誘った。


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)

■リプレイ

●ラストミッション開始
 霊峰富士の裾野へ向けて、ケルベロス達が降下する。眼下に広がるそこは、集うデウスエクスの群れと、魔空回廊によって変わり果てた光景が在った。
 言うまでもなく、この山は日本の象徴、この国の人々にとって深く心に根差した場所であるはず。ここを占領されているという事実が、どれ程の人々に悲しい思いをさせていたか――。
「――ですが、それも今日まで! 返して頂きます!!」
 その叫びと共に、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)の持つグラディウスが強い輝きを放ち始めた。グラビティの高まりと共に、その剣は威力を増す。当然、その一本では足りないが、ここには決意を共にする仲間達が居る。
「こんな私でも、みんなの為にできることがあるはず――」
 風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)は言う。『それ』を証明しなければ、私は私のことが許せない。自分勝手な思いだと、笑いたい者は笑えば良い、けれど。
「だからこそ私は、この一撃に私を賭けるんだ!」
 自分自身を賭けた正直な思いは、煌めく刃に力を与える。
 そして、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は、障壁の向こうの敵達へと意識を向けた。
「あなた、たちが、散々に作り出してくれ、た、人のいない、街、郁、世界……」
 これまでの蹂躙の歴史と、失われたものを思えばこそ、揺らがぬ決意が生まれる。
「散々に奪った、人々の平和と、自由と、未来……切り取られた、その全て、取り戻させていただき、ます……っ!!」
 相手は強靭で、数も多い。しかし、とアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)は見方を変える。
「多くの命を奪い、究極の戦闘種族として君臨してきたドラゴンもここまで」
 絶対王者の如きその勢力も、残すはここに居る限り。この戦いで、終わりにするのだと。
「この国に暮らす人々にとって特別なこの地を取り戻し、私達は新たな未来へ進みます!」
 そう、必ず勝利する。羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)もまた、胸に決めたそれを口にする。
「幻想大帝ユーピテルなんて今更お呼びじゃないのよ! 私達にはたどり着きたい未来があるんだから!!」
 爆発的な輝きを伴い、彼女等は霊峰の上に流星を描く。目指すは魔空回廊、そしてそこを統べる竜、『幻想大帝ユーピテル』だ。
「来たぜ、デカブツ」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は敵を思い、グラディウスの秘めた力を引き出しにかかった。
「ここに居座ンのも今日までだ。てめェもお仲間も喰いつくして、バリアも回廊も取っ払って、見晴らしよくしてやンよ」
 一方の卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)もまた、ドラゴンの残党達へと、その手に握った刃を向ける。
「命ってチップがある限り抗う、嫌いじゃないぜ」
 言うなれば彼等は敗残兵。だがそれでもなお諦めず、戦おうと言うのなら。
「ならコッチもオレの命をチップに大勝負、泣いても笑ってもコレで終いにしようじゃねぇか!」
 決着を迫る最後の勝負。戦端を開く刃に激しい光を乗せて、ケルベロス達は、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は、思いの丈を振り下ろす。
「私達はようやくここまで来た。さあ終わらせよう。これが私達のラストミッションだ!!」

 ――砕けろ。

 八人のケルベロス、そして同時に挑む仲間達の刃がバリアを貫き、魔空回廊を打ち破った。

●突破
 天上で爆ぜたグラディウスによる余波は、炎と雷となって降り注ぐ。音と光、そして衝撃により、敵陣は大混乱に陥った。そんな最中に着地したケルベロス達は、素早く現状把握に努める。
「この爆炎を味方にして、さっさとユーピテルを探さないとね」
 和奈の言葉に頷いて、シアはヘリオンデバイスを起動、通信網を確立する。
「向こうの位置は分かりますか?」
「ああ、少し遠いな」
 シアの問いに、こちらもデバイスを装備した万が答える。別々に飛んだこともあり、他班は少し離れた位置に居るようだ。
「だが、概ね敵の居場所は分かっている」
 降下時、爆炎の合間に見えた巨体の方角をティーシャが指す。そちらへと目を向けたアリッサムは、纏った迷彩模様のマントの合わせを直した。
「では、速やかに参りましょう」
 アリッサムをはじめ、準備をしてきた者達による隠密気流は、既に辺りを包んでいる。泰孝のチェイスアート・デバイスで皆の移動力を増強し、一同は目的の場所、ユーピテルの元へと駆け出した。
 気配を殺し、足早に進みながらも、シアは標的を同じくする他班と情報を共有できるよう努める。向こうは向こうで、順調に動き出せてはいるようだが。
「道中で合流するのは、難しいかも知れませんね……」
 ルートの重なる場所を特定するのは難しい、また、敵もいい加減混乱を脱した頃だろう。
「これはお前達の仕業か!!」
 こちらを発見し、襲い掛かってきたビルシャナの動きに応じて、周りの植物を纏った獣達がケルベロス等に迫る。
「こんな所で立ち止まってられないのよ! 邪魔しないで!」
 ビルシャナの攻撃を受け止めた結衣菜に防御を任せ、アリッサムがそのビルシャナへと拳を打ち込む。無傷である事よりも、まずは目的地へ辿り着くことが重要だ。
「突破するぞ!」
 万の轟竜砲に続いて接敵したウィルマが、降魔真拳で敵を叩き伏せる。力尽きたそれを取っ掛かりに、振るわれた泰孝の巨腕が敵を押し退け、道を拓いた。追い縋るグリードウルフを、ティーシャが射撃で牽制、その間に一同はその場を駆け抜ける。
 追手から逃れつつ前進し、彼等はやがて、神像の如き巨躯、幻想大帝ユーピテルを発見した。
「もう一方の班はご無事ですかしら……」
 気掛かりが残る状況ではあるが。こちらへ向かっているはずのもう一班を探すシアに、泰孝は言う。
「待ってやりてぇところだが、そんな暇はなさそうだな」
 この作戦のはじめ、ヘリオン降下前に弾いたコインを思い出す。出たのは『表』。ならば、確信を込めて。デバイスによる力強い一歩で、泰孝は敵の首魁を捉えられる場所へと踏み出した。
「――まさか、我等がここまで追い詰められようとはな」
 ケルベロス達の姿を認め、ユーピテルは静かに口を開く。本星との繋がりを失い、生き延びた者達もほぼ打ち倒され、魔空回廊さえも破られた。
 だが、この状況でもなお、竜は笑う。守るものが無いのならば、むしろ好都合。
「はっ、面白い、元より生き永らえるだけの生など不要! 歓迎してやろう、ケルベロス共!」
 張り詰めた空気の中で迫る圧力。だが、それを打ち破るように、側面から一人のドラゴニアンが飛び出してきた。奇しくも、タイミングは同時。ギターを掻き鳴らす彼女の声を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」

●星を仰ぐ
 シィカの散布した金属粒子が輝く中で、ウィルマは急ぎ周囲に目を遣る。気掛かりなのは、自分たちを追ってきた数体の配下、そして合流した他班を追ってきたデウスエクスの存在だ。隠密行動は概ね上手く行き、敵が集合する前に首魁の元に辿り着けた。しかし道中二班別々に動いたこともあり、それぞれ別の敵を、仕留めきれぬまま引っ張って来てしまっている。
 ともあれ、今はこの状況で最善を図るのみ。ウイングキャットと共に敵との距離を詰めながら、彼女は魔人の力をその身に降ろした。
「では、はじめま、しょう。これが……ラストミッション、です」
「さあ、まんごうちゃん。私達も行きましょう!」
 同様に、こちらは壁役として前に出た結衣菜が、シャーマンズゴーストと共にニホニホ・テテイ等に仕掛ける。少なくともユーピテルを庇おうとする者を減らさなければ、埒が明かないという判断だ。実際その見立ては正しい。が。
「平伏すが良い!」
 天へと向けた、ユーピテルの咆哮。振り仰いだそこに、幻想の星が描き出される。その中でも一際大きな星の環が、輝きを放ち、ケルベロス達の元に光が降り注いだ。それは同じ名を冠する神の振るう、裁きを齎す雷光の如く。
 前衛をまとめて薙ぎ払うような攻撃に、壁役を担う和奈達が対応する。しかしそれでもなお、ダメージは重く。
「皆さん、結界の中へ!」
 鎖による陣を形作るアリッサムの声に応えながら、一同は協力して敵を迎え撃った。
「やれそうか?」
「まあ、時間はかかりそうだがな」
 親玉に対して攻撃は可能か、泰孝の問いに万が答える。命中率を指針に、ある程度の長期戦の覚悟をしながら、泰孝は後衛に向けてオウガメタルを散布した。間に合うか否か、これもまた一つの賭けになるだろうか。
「強敵相手、全員無事かは怪しいしな。機械だし上手く使い潰せよ」
 左腕のジャンクアームを軋ませて、そう呟いた。

「この程度で……私は倒れない!」
「その気概がどこまで保つが見ものだな」
 叫ぶことで和奈が自分の身体を活性化させ、結衣菜がボディヒーリングで前衛を癒していく。ユーピテルの攻撃を凌ぎつつの抗戦は、やはり順調とはいかず。シアのゼログラビトンが植物を纏う狼達を射抜く内に。
「一旦、後ろに……」
「逃がさん」
 前衛の中でも負傷の大きいヘルキャットが、ポジションを移動する前に地に落される。
「……!」
 前髪の下の表情を厳しいものにしながら、ウィルマはサイコフォースを発動、庇いに入った配下の一体を大きく撥ね飛ばした。
「そこだ」
 全体を俯瞰し、待ち受けていたティーシャの轟竜砲が、その一体を射抜く。他班とも協力しながら、彼等は敵の数を着実に減らしていった。

●死闘
 ようやく道は拓けた、といったところか。事前に決めていた数の配下を打倒し、一同の狙いはついにユーピテルへと向かう。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
「天ばかり仰いでいては、足元を掬われますよ?」
 強敵を切り崩すなら、まず狙うべきは足元だろう。万の放つ『百の獣影』が喰らい付くのと同時に、シアが幻の花でその心を縛る。敵の動きを鈍らせていく狙いに合わせて、泰孝は回復手段の阻害にかかった。
「テメーを蝕む一本場。さあ、どこまで伸びるかね?」
 『狂奔連荘』、楔の如く撃ち込まれたそれは、猛毒を以って敵を蝕む。
「ユービテルだかユーピテルだかしらないけど……!」
 その間にも続くユーピテルの攻撃を、結衣菜達は身を呈して防いでいた。力尽きたシャーマンズゴーストの分も、と駆けた彼女は、幻想より来る星屑を、その一身で受ける。「止めてみせる」という決意の証明か、彼女が膝を付くことはなかったが。
「クウ君! オウガ粒子を集中散布!」
 意識を飛ばし掛けている結衣菜に、急ぎ和奈が回復を施す。
「大丈夫ですか!?」
 アリッサムもカバーに回り、持ち直すが。これを繰り返していては、やがて決壊の時が来るだろう。可能ならば、その前に――。
「しぶてぇな……!」
 幾度目かの攻撃。無理やり敵の傷口を抉りながら、泰孝が毒づく。その呟きが、契機となったわけでもないだろうが。
「今、なら……!」
 当てられる。確信の籠った声と共に、ウィルマが蒼炎を纏う巨大な剣を、地から引きずり出す。力任せに振るわれたそれは、ユーピテルの身を確実に切り裂いた。そう、今ならば威力に物を言わせた攻撃も当てられる。反撃の糸口を掴んだと、そう思えたところで。
「良い一撃だが、それで勝ったとでも?」
 反骨こそが彼の持つ相。高らかに吠えたユーピテルは、再度渾身の稲妻を放った。強力な一撃をその身で受け止め、和奈の身体が衝撃に揺れる。だが、凄まじい威力のそれを受けてなお、彼女はさらなる一歩を踏み出した。
「どこを狙っているの!? あんたが攻撃して良いのは私だけだ!」
 地を蹴り、もう一度仲間を庇う。さすがに彼女もこれが限界、けれど視界が闇に落ちつつある中、思う。自分は役に立てたのか、まだ出来ることがあるのでは? 歯噛みする力すら残っていないことを口惜しく思いながら、膝を付いた。
「その強さは流石だけどね、アンタも往生際が悪いんだよ……!」
「貴様こそ、いい加減に悟るが良い。これが力の差だ」
「ええ、ええ。それでも、私達は抗うのです」
 とどめを刺しに動いたユーピテルを、シアの放った光弾が貫き、グラビティ中和効果で押し留める。個体としての力量差など承知の上。だがそんな戦いに、ケルベロス達は幾度も勝利を収めてきたのだ。無駄な犠牲などありはしない。
 獣の如き姿勢で駆けた万が、蹴りの一撃で敵を炎に包む。ウィルマもまた、それに続いて鎖を敵へと絡みつかせるが。それを引き千切るような一撃、そして舞い踊る雷に打たれ、彼女もついに膝を付いた。
 ――ああ、そんな。一人、また一人と倒れていく仲間の姿を、アリッサムは胸を締め付けられる思いで見る。元来争い事の苦手な彼女は、こうならぬようにと努めてきていた。だが、そんな彼女の思いを一顧だにせず、戦いは続いていく。
「前衛の皆さんは私が!」
「ええ、ならこっちは任せて!」
 結衣菜さんも倒れぬよう気を付けて。そう声をかけ合いながら、アリッサムは展開した紙兵で前に立つケルベロス達を守護する。勇気の表し方は人それぞれ、これ以上の犠牲を出さぬようにと手を尽くす彼女に、結衣菜も呼応する。『翠緑の恵み』、森の持つ力の顕現、魔法の木の葉が傷を包み込んで、戦い続けるための力をそこに。
「――きっと、勝てるわ」
 少なくとも今は、そう信じて。

「ここで負けるわけには行きません!」
 敵は、そしてドラゴンという種族の現状はほぼ詰んでいる。しかし、ここでケルベロスが破れれば、少なくとも近隣の人々に被害が及ぶだろう。そんなことはあってはならないと、改めて決意を胸に、シアがフロストレーザーで敵を射抜く。そして、その思いはまた、彼も同じ。
「私は生きて帰ります、――診ている患者を放り出すなんてできませんから!」
「はっ、この程度で……!」
 手負いと言えど、相手は暴虐を極めし竜の一柱。ジョン自身、その牙を届かせるのは難しいと悟っていた。だからこその、この攻撃。広く放たれた両目の輝きがユーピテルを照らす。貫くことはかなわなかったが、そこに込められた麻痺効果によって、竜の身体が、幻想に描かれた星の巡りが、一瞬だけ停止した。
「今だ」
「止めてみせます……!」
 ティーシャのデウスエクリプスが放たれ、ここが正念場だと悟ったアリッサムの炎弾が、雷を生む『環』を打ち砕く。
「な……っ!?」
 無防備になった敵へと向けて、万は砲と化したドラゴニックハンマーの引き金を引いた。
「こいつで終わりだ、デカブツ」
 彼の手元からの轟竜砲、そしてその反対側に位置した天音の一撃がユーピテルを穿つ。
 これが、竜を討ち、幻想を砕く最後の一手となった。
 ――神像と見紛う雄々しき巨体が、富士に座した最後の竜が、ゆっくりと倒れ行く。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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