ラストミッション破壊作戦~大罪竜王《冥罰》

作者:秋月諒

●ラストミッション破壊作戦
「皆様、お集まり頂きありがとうございます」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言うと、集まったケルベロス達を見た。
「日本列島防衛戦、本当にお疲れ様でした。皆様のお陰で、竜業竜十字島を倒すことができました」
 冥王イグニス、第三王子モーゼス、攻性植物の聖王女アンジェローゼとも接敵、倒す事が出来たのだ。
「ゆっくり暫くは休んでくださいね、と言えれば良かったのですが……戦場から撤退した敵の現在地が確認できました」
 ダモクレス勢力は宇宙へと撤退。ドラゴンと攻性植物は勢力としては既に滅亡していると言って良い。撤退すべき本拠地が無い。
「彼らは地球に残っています。向かったのは唯一残されたミッション地域『40-5 ラストミッション』富士の裾野にある地です」
 竜業合体ドラゴンである大罪竜王シン・バビロンは、極度のグラビティ・チェインの枯渇状態となっている。態勢を整え次第、周辺の都市を襲撃することだろう。
「グラビティ・チェインを略奪するために。
 攻性植物勢力の光世蝕仏、『森の女神』メデインの2体は配下と共に撤退しています。竜業合体ドラゴンの唯一の生き残りである、大罪竜王シン・バビロンを支援しようとしているようです」
 これを防ぐ為に、グラディウスを利用したミッション破壊作戦の敢行することとなったのだ。
「ラストミッションを破壊すると同時に、退却してきたドラゴンと攻性植物、幻想大帝ユーピテルを撃破がこの作戦の目的となります」

「ミッション破壊作戦については、既にご存じの方も多いと思いますが説明をさせて頂きますね」
 強襲型魔空回廊には、今回も『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』にて向かう。回廊の周囲は、半径30m程度のドーム型のバリアで囲われている。
「このバリアにグラディウスを触れさせれば良いので、高空からの降下であっても、充分に攻撃が可能となります」
 8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能だろう。
「強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が存在しますが、高高度からの降下攻撃を防ぐ事は出来ません」
 グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させる。この雷光と爆炎は、グラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかるものだ。これは防衛を担っている部隊であっても防ぐ手段は無い。
「皆様には、この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場から撤退を行って頂きます」
 貴重な武器であるグラディウスを持ち帰る事も、今回の作戦の重要な目的となるのだ。

●冥罰
「今回は、このミッション破壊作戦を以て確実に相手を狙います」
 富士山麓のミッション地域には、標的となる2体のドラゴンの他にも、戦争から撤退してきた攻性植物が集結している。日本列島防衛戦の敵残党が合流しているのだ。戦いは、間違いなく熾烈を極めることだろう。
「強敵です、と言うのはきっと今更ですね。ですが、相手が強敵であると分かっているのも強みとなります」
 真っ直ぐにケルベロス達を見て、レイリは続けた。
「脅威に対し、成すべきを成すために。その為の、合同作戦です」
 一つ息を吸って、レイリは向かうべき標的の名を告げた。
「皆様に向かって頂くのは、大罪竜王シン・バビロンです」
 嘗て十二創神『魔竜王』に反旗を翻したこともある、強大なドラゴンだ。かのドラゴンは『魔竜王を越える』ことを望むという。
「大罪竜王シン・バビロンに向かうのは、皆様と、辰砂様がご案内する方々です」
 大罪竜王の他、配下としてはグリードウルフ、ニホニホ・テテイ。そして攻性植物の配下として現れたユグドラシルとの一体化こそ至高明王、ドラゴン殺すやつ絶対許さない明王が確認できる。
「まずは、標的である大罪竜王に比較的近い場所に降下して頂きます」
 ケルベロスブレイドによる予知情報の強化による成果だ。
「こう、頭にどーんと降りて、どかーんと始められないのは残念なんですが……」
 むぅ、と唇を尖らせて息をつくと、狐の娘は顔を上げた。
「移動は少しばかり必要となりますが、標的の位置までは近いです」
 そこに、大罪竜王シン・バビロン達がいるのだ。
 戦場で最初に確認される配下は10体。能力としては勿論ドラゴンの方が強いが、配下は増援が確認されている。時間の経過により、6体、8体と増えていくのだ。
「数を減らすことはできるが、増援は来る、という感じですね。厄介ではありますが、大罪竜王シン・バビロンを無視することもできません」
 待っていてくれる程、容易い相手でも無い。
「難しい作戦となるでしょう。どう戦い、どう連携するか。しっかりと考え、行う必要があります」
 その上で、とレイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「どうか、撃破を」
 この作戦に失敗すれば、竜業合体ドラゴンの襲撃により多くの街が破壊されることだろう。そしてラストミッションは、ドラゴン勢力の最後のミッション地域となる。
「故に、厳しい戦いとなります。何度もこう言ってばかりではありますが……皆様ならば、必ず成せると信じています」
 我が侭を一つ言うとすれば、それはもう元気に帰って来てくださいね、と一つ言ってレイリはケルベロス達を見た。どれ程の無茶であっても、無事を祈るようにして。
「それでは参りましょう。皆様に幸運を」


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)

■リプレイ

●加速領域
 空へと身を投げれば見えたのは強襲型魔空回廊、その守りたる円形のドームだった。これをケルベロス達は何度となく砕いてきた。
「我こそはドラゴン(肉)ハンター、平和! 永きに渡るドラゴンとの闘争もこれで打ち止め! 負けられない闘いがここにある!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)の叫びにその意思に、剣は光を灯す。
「シン・バビロンよ! その首級この平和が貰い受ける!」
 キィイン、と甲高い音と共にグラビティが高められていく。
「口を開けば魔竜王魔竜王と……あなた、本当は魔竜王が大好きでしょう、シン・バビロン!」
 グラビティを構え、円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は叫んだ。
「そんなに好きなら、あの世に送ってあげるから会ってきなさい!」
 バチバチと雷が刃に這う。高められたグラビティの光がキアリの瞳に触れる。
「あなたのエゴに、地球を巻き込むなっ!」
「もうこの大地に君達の居場所はないよ」
 ゆっくりとニケ・セン(六花ノ空・e02547)はグラディウスを向ける。色々な人達の想いも込めて、グラディウスに触れた。
「これで長い長い戦いもお仕舞いにしよう」
 ゴォオオ、と空が唸るような音と共に力が行く。
「ケルベロスが生命を滅ぼす~って言われたってねえ」
 大弓・言葉(花冠に棘・e00431)は翼を広げた。振り抜いたグラディウスが力を帯びる。
「風が吹けば桶屋が儲かる式理屈じゃ分からないし、そのために地球の人に死ねっていうのも受け入れかねるの」
 言葉は黒き瞳を回廊へと——その奥にある竜へと向けた。
「さっさとこの地球から去ってくれる?」
「本当に……魔竜関連は何処までも碌でもないのが次から次へとウジャウジャと湧いてくるもんだ」
 向かうべき先をヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は見据える。轟々と唸る風を切り裂くように構えた剣が光を帯びた。
「いい加減にあの爺さんみたいな魔竜に縁のドラゴンも此処らで終いにさせてほしいよ」
 終焉の時へ誘うようにヴォルフは力を解き放つ。迫る戦地に渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)が思い出すのは、これまで戦った多くの竜達との死闘であった。
「シン・バビロン、お前が竜業合体による竜達の憎悪の化身なら、今日ここでドラゴンと地球に生きる者との決着を付けよう」
 富士山開放を願う人々の願いと祈りを纏い、数汰はグラディウスを振り抜く。刃を撫でれば、光が力が溢れた。
 ゴォオオ、と走り抜ける力をローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は見た。振り抜いたグラディウスを、その鋒をバリアへと向ける。
「お前に譲れないものがあるように我にも譲れないものがある! それをお前に奪わせない! もういい加減終わらせよう! お前の大罪その死を持って償え!」
 バリアが軋む、罅が走る。砕け散っていく力を前に切り開くための力をローレライは放った。
「全部焼き尽くせ! 骨も残すな! 地獄で後悔するんだな!」
 路が拓ける。空間が裂けていく。キィン、と高く啼いたグラディウスを副島・二郎(不屈の破片・e56537)は真っ直ぐに構えた。
「意地の張り合いか、それもいい。人を守る、それがかつての俺の願い」
 刀身に触れる。その力を高めるように願いを、想いを口に乗せた。
「それに加え、今の俺には、貴様らを倒す意志と、力がある」
 それは覚悟に似ていた。鈍い光が鋒に灯る。この意思を胸に、誓いを手に。束ね、力とする。
「応えろ、グラディウス」
 ——それが、打ち砕く最後の力となった。雷光が爆ぜる。駆け抜けた炎が、8人のグラディウスの力が阻む全てを砕ききれば、決戦の地がケルベロス達の前に広がっていた。

●大罪の竜
 降り立った地はグラディウスによる煙幕に包まれていた。己の影さえ見えず、伸ばした指先を見失う程の煙幕の中、一行は強化型ゴーグルをつけた言葉の元へと集まった。同じ班の仲間の位置を確認し、
「うん、向こうのみんなも移動してるよ。私達も向かうの」
「あぁ、早いうちに」
 二郎が隠密気流を展開する中、数汰とニケが共にゴーグルをつける。道中ルートも問題は無さそうだ。樹海を進み行けば、ふいに空間が拓ける。
「あれがシン・バビロン」
「——あぁ」
 低く、応じたヴォルフの声が落ちる。緩く上がる口の端は、相手が強敵であるとそう感じたからだ。圧倒的な存在感。七つの頭に、巨大な翼は煙幕の中にあってもよく分かる。そして、そのドラゴンの近くには攻性植物達にビルシャナ達の姿があった。仲間の班があちら側にいるのは確認済みだ。敵がこちらに気がついている気配は無い。
 ——挟撃を仕掛けるなら、今だ。
 行こう、と告げる言葉の代わりに皆で視線を交わし地を蹴る。煙幕を切り裂くように進む娘が流星の煌めきを纏う。
(「地球滅ぼされたら困るしねー。素直に定命化してくれるのが一番だけど、まあ無理そうだし」)
 身を空に置けば、そこで漸くビルシャナが言葉を仰ぎ見た。
「——な」
 だが、もう遅い。
 言葉は明王へと蹴りを落とした。ガウン、と重く決めた一撃に、ぐらりとドラゴン殺すやつ絶対許さない明王が膝をつく。
「——ドラゴン、よ。奴らが……」
 喘ぐようなその声に、風が抜けた。僅か空を仰いだ巨影が七つの頭が、この地に踏み込んだケルベロス達を——見た。
「ハッ、待ち侘びたぞ。ケルベロス」
 広げるは猛き竜の翼。戦場への喜悦を隠すこと無く告げるように大罪竜王シン・バビロンは吼えた。
「我が屈辱、晴らすには相応しき戦場よ」
 咆吼に似た声と同時に、赤黒い炎が戦場に走った。
「来るよー!」
「来る」
 和とローレライの警告が重なった。大罪竜王の炎が地を撫でるようにして向かった先は——後衛だ。
「させると、思うか……!」
 踏み込んだローレライが二郎の前に立つ。は、と荒く吐いた息と共に零れ落ちる血さえ蒸発した。それでも、膝をつくことだけはせずに、ローレライは顔を上げる。
「シュテルネ、回復を守りに」
 ぴょんと跳ねたテレビウムを視界に、二郎は視線を上げる。無事か、と聞く程、野暮でも無い。
「回復を。耐性を紡ぐ」
 指先絡めた紙兵を戦場に展開させる。指先、絡めて組むは陣であれば、前に立つ仲間に加護が宿る。
「我が炎。ケルベロス」
「えぇ。馬鹿にしないでくれる?」
 アロン、とキアリはオルトロスを呼び、巨大な竜を見上げた。臆することなく、猟犬の鎖を展開する。まずは後衛へと。
「みんなに届けるわ」
 淡く零れる光が大罪竜王の炎で受けた傷を癒やしていく。竜の炎は煙幕をグラディウスの煙幕を散らしていた。共に戦う班の姿も見える。
「凍てつけ」
 短く数汰が告げる。氷雪と共に姿を見せたのは氷河期の精霊達だった。ビルシャナ達の腕が凍り付き、動きが一拍遅れる。その一瞬を、ローレライは見逃さない。タン、と地を蹴り、顕現させたのは星形のオーラだ。
「止める!」
 蹴り込まれた力が、ガウン、と重くビルシャナに届いた。一体、崩れ落ちれば大罪竜王の視線がこちらを向く。
「随分と背伸びをする」
「そう何度も言わせはしないよ」
 告げて踏み込んだのはニケであった。流星の煌めきを纏い、仰ぐように見た竜の、頭へとガウンと蹴りを落とす。高い命中率と共に叩き込んだ一撃に、僅かに頭の一つが揺れた。
「我を越えると?」
「お仕舞いにしようと、言っているんだよ」
 着地の先、ミミックがパカッと桐箱を開く。転がった財宝を視界に、大罪竜王を守るべく配下達が動き出していた。

●炎獄
「喰らえー! てややー!」
 火花が散り、炎が舞う。焼き尽くされた戦場に、和は新たなる炎を招く。燃え盛る火の玉がビルシャナを焼き尽くせば、零れた癒やしも途絶える。
「Brechen……」
 祈りの言葉をヴォルフは唇に乗せた。それは、朽ち果てた祈り。遥か昔に失われた筈の約束の魔法術を今、展開する。間に割り込んだ配下達の攻撃を受けながらも、力は、最後に残ったメディックへと届いた。
「やってくれるな」
 配下は面倒だが、増援は確定している。殲滅に向かない相手であれば必要なのは対応だ。故に、ケルベロス達は敵に優先順位をつけていたのだ。
「いくよー!」
 剣戟の果て、敵のメディックが倒れた今であれば狙うは大罪竜王。言葉の一撃に竜は翼を広げるが——だが、後ろに退いた所でそこはまだ、言葉の射線だ。撃ち抜き、射貫けば僅かに竜の動きが鈍る。
「続くね」
 ニケも竜砲弾を放つ。高く強く、響く竜の咆吼に似た一撃が大罪の名を持つ竜を喰らえば、重ね紡いだ制約が大罪竜王の動きを鈍らせていく。
「何処まで立つ、ケルベロスよ」
「——最後までだ」
 応じたローレライの砲撃と、数汰の砲撃が重なる。戦場に舞い上がった砂さえ消し飛ばし、舞い上がった葉は、ケルベロスと竜、両者の紡ぐ炎が焼き尽くした。
「6分経過、増援よ!」
 加速する戦場に、キアリの鋭い声が響いた。
 数が増えて厄介であれば、その数、正しく警戒するだけのこと。湧き上がるように姿を見せた増援にニケは小さく瞬いた。
「彼らは——そうか、メディックか。全員」
 回復を行わせる訳にはいかない。迷わず一行はビルシャナ達を狙った。
 戦いは激化していた。大地に互いの血に濡れ、痛みを吐く息で散らす。誰もが傷を負っていた。それでも倒れずにあるのは潤沢に用意した回復のお陰だ。敵の攻撃はどれも重くとも——最初ほどでは無い。敵の足止めは出来てはいた。
(「敵の回復の発動は一度。だが、あちらも全ての傷が癒やせる訳では無い」)
 回復を紡ぎながら二郎は戦況を見据える。敵の回復は厄介だが、こちらの攻撃が届いている証拠でもある。傷は、刻めているのだ。回復不能の傷と共に。盾を担うサーヴァント達は皆、その役割を全うし、倒れた。
(「だが、攻め込むのであれば今、か」)
 ヴォルフは笑う。死線の気配に、殺すに相応しき相手を——大罪の竜を前に。一歩、二歩、叩き込んだ踏み込みで竜の懐深くへ行く。嘆きの名を持つ刃を切り上げる瞬間、頭上が熱を帯びた。狙ってくるか。だが——。
「殺し合いはそういうものだな」
 鋭利な刃が、竜の鱗を裂き裡に届く。それは回復し辛い傷。痣となるそれを刻んだ男を竜の炎が襲った。
「ならば、散れ」
「ヴォルフさん!」
 仲間の声に、回復に首を振るようにしてヴォルフは膝をつく。今は、行けと告げるように。

●冥罰
 加速する戦場にて、吐き出される竜の炎は明らかにその威力を落としていた。動きもそうだ。
(「あと少しだと思える」)
 ならば、だから、とニケは思う。
「ここで止めよう」
 穿ち放つはオーラの弾丸。ガウン、と一撃が届けば竜がこちらを向く。ほう、と落ちた声は、高い命中力と共に重ね紡いだ力への賛辞か。
「重ねたものだ。ケルベロスよ」
 瞬間、竜の牙が後衛を浚った。衝撃に、ニケが膝をつく。ニケさん、と響いたキアリの声に首を振った。
「俺は、いいから。みんなに……」
 攻撃は届いている。竜の動きも最初よりは鈍い。回復不能な傷も増えている今であれば——狙うは、大罪竜王シン・バビロンのみ。
「行って」
 ——行け、とヴォルフも言った。誰もが、行くべきは今であると分かっていた。
「11分、増援が来るわ!」
 血濡れの時計を振るって、キアリが声を上げた。瞬間、衝撃と共に意識が揺れる。
「これ、って」
 は、と息を吐いたキアリに、あぁ、と二郎が頷く。唇を噛むようにして顔を上げた男が「ビルシャナだ」と告げた。
「クラッシャー、このタイミングで来るか……だが」
 きつく拳を握る。痛みで焼かれようとも流れ落ちる血の先は、青暗い混沌の水だ。
「これ以上、何一つ失わせはしない」
 指に紙兵を絡める。血と水に触れた紙兵に二郎は数多の願いを込め、放つ。癒やしは後衛へと。は、と息を吐いて言葉は弓を引き絞る。
「いくよ」
 番えた矢に籠もるは心を射貫く力。零れる光と共に一撃を言葉は放った。ヒュン、と鋭く矢は竜を射貫く。硬い鱗程度では阻めはしない。
「これ、は」
 僅か、大罪竜王が身を揺らす。流れた血よりも己の中に生まれた困惑に、き、と言葉を睨む。
「貴様……!」
「シンバビロン、お前の憎悪を、全てをぶつけて来い。俺達はそれを上回り地球を守り切る!」
 キィンと高い音を一つ残し、数汰の背に展開されるのは時流変転の魔方陣。
「狂え、時の歯車」
 渾身の力と思いを込め、一撃を叩き込んだ。吹き荒れる力が大罪竜王の傷を深くしていく。流れる血が増し、ぐらり、と竜は身を揺らす。
「これは……な」
 その時であった。大罪竜王の頭上に一冊の本が顕現したのだ。それは和の全知識。
「今! 必殺の時! その首級置いていけー!」
 ガウンと、重い一撃が——和の知の全てが、竜を打った。その重さに鱗が弾ける。頭のひとつが、ぐらりと落ちる。
「ドラゴンの最強の称号は、ドラゴン・ウォーの敗戦でとっくに地の底よ」
 増援の明王達を置いて、キアリは大罪竜王を見据えた。
『あなた、本当は魔竜王が大好きでしょう、シン・バビロン』
『あれこそは我が越えるべき唯一の竜であるだけだ』
 そう吼えた時、まだ大罪竜王の傷は多くは無かった。だが、今はもう傷を晒し、その動きも鈍くなってきていた。ケルベロス達とて無傷では無い。だが——今、この瞬間こそ、全力で向かうべき時。
「最後のドラゴンの片割れ、大罪竜王シン・バビロンの死を以って――長かったケルベロスとドラゴンの戦いに、真の終止符を!」
 残る全ての力を集めるようにして、キアリは猟犬の鎖を展開する。前に行く仲間達へ回復と盾を描く。
「凌駕するというのか、この我を……否!」
「いいえ、終わらせる! ――決着を付けてきて!」
 炎熱の花が咲いた。仲間を鼓舞し、進ませる力が背に立つ。イズナの声を耳にローレライは駈けた。
「行こう。全ては、未来の為に!」
 最後の加速。腕が軋み、血濡れの腕に、それでもと刃を握る。竜の咆吼を耳に、その影を踏む。三歩目、叩き込んだ最後の踏み込みは音を消し——星辰を抱く刃を抜く。
「まだ我に挑むか」
「——あぁ。お前に何一つ奪わせない!」
 さぁああ、と金色の髪が揺れた。ドラゴンのひとつと視線が合う。口元零れた熱に——だが、構わずにローレライは刃を振り上げた。それは影の如き斬撃。龍の硬い鱗が割け、僅か身を傾ぐ。その姿を見据え、刃をきつく握ったのはその炎を見たからだ。
 少女の解き放つ地獄の炎が——駈ける。竜の咆吼さえ焼き尽くすように空を照らす炎弾が大罪竜王の胸を貫いた。
「汝らが――真に……魔竜、王を……凌ぐもの、か」
 ぐらり、と竜が揺れる。一拍の後、零れ落ちたのは肺腑を絞るような声であった。そこにあるのは望郷であったか、賞賛であったか。諦観ではあるまい。大罪の名を持つ竜は、僅か空の彼方を仰ぐように息を零し崩れていく。
 斯くして、大罪竜王シン・バビロンは富士の地にて倒れた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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