シャイターン襲撃~紅血のマリオネット

作者:小鳥遊彩羽

 ──東京都小金井市、某所。
 泉の美しい庭園の一角に突如として出現した魔空回廊から出現した、ヴァルキュリア達が飛び立った。
 三体ずつ、四つの方向に分かれて飛んでゆくヴァルキュリア達。
 そして──。

 住宅街の一角に、響き渡る悲鳴や鳴き声。
 逃げ惑う人々の命がヴァルキュリア達の手によって一つずつ摘み取られ、屍の山が築かれてゆく。
 まるで人形のように表情一つ変えることなく、躊躇う素振りもなく淡々と、──けれど血色の涙を流しながら無差別に殺戮を繰り返す、三人のヴァルキュリア達。
 その中に、妖精弓を携えた、亜麻色の髪に蒼の瞳の戦乙女がいた。
 ──彼女の名は、マリアベルという。

●紅血のマリオネット
「さて、城ヶ島のドラゴンとの戦いも佳境に入っているところではあるけれど、エインヘリアルに大きな動きがあったようだよ」
 トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)は、そう言ってケルベロス達への説明を始めた。
 鎌倉防衛戦で失脚した第一王子ザイフリートの後任として、新たな王子が地球への侵攻を開始したらしい。
 エインヘリアルは、ザイフリート配下のであったヴァルキュリアを何らかの方法で強制的に従え、魔空回廊を利用して人間達を虐殺し、グラビティ・チェインを得ようと画策しているとのことだ。
「ヴァルキュリアを従えているのは、妖精八種族の一つであるシャイターンだということもわかった。ここで、シャイターンに操られて街中で暴れているヴァルキュリアに対処しつつ、同時にシャイターンを撃破する必要があるんだけど──皆には、ヴァルキュリアの対処をお願いしたいんだ」

 場所は東京都小金井市。大学のキャンパスに程近い住宅街の一角だ。
 ヴァルキュリアは住民を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとしているが、邪魔をする者が現れた場合には、その邪魔者の排除を優先して行うように命令されているらしい。
 つまり、ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、ヴァルキュリアはケルベロスの排除を優先するため、少なくとも戦いの間はヴァルキュリアが住民を襲うことはなくなるだろう。
「ただ、ヴァルキュリアに施された洗脳は、とても強固なもののようだね。都市内部のシャイターンが健在な限りは、何の迷いも躊躇いもなく、君達を殺そうとしてくるだろう」
 シャイターンの撃破に向かったケルベロス達がシャイターンを撃破した後ならば何らかの隙が出来るかもしれないが、確かなことは言えないとトキサは続ける。
「彼女達は操られているだけだから、同情の余地もあるだろう。でも、ここで止めなければ罪のない多くの人々が殺されてしまうことになる。それだけは、何としても阻止してほしい」
 三体のヴァルキュリアは、それぞれ、妖精弓とゾディアックソード、そして槍を持っている。さらに、状況によっては別の一体が援軍として加わる可能性もあるため、注意を怠らないでほしいとヘリオライダーの青年は言った。
 新たな敵、妖精八種族の一つシャイターン。そして、ザイフリートに代わる新たなエインヘリアルの王子、イグニス。
 その能力は未知数だが、ヴァルキュリアを使役して悪事をなすというのであれば、それを阻止しなければならないだろう。
「……強制的に従わされているとは言え、罪のない人々を己の手にかけるなんて、きっと、ヴァルキュリア達は望んでいないだろう。──彼女達が罪を犯す前に終わらせてあげるのも、優しさなのかもしれないね」
 ほんの少しばかり複雑そうな笑みと共にヘリオライダーの青年はそう締め括り、ケルベロス達へと後を託した。


参加者
苑村・霧架(真銀のフィリニアス・e00044)
エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486)
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
アヤト・ヒノカミ(ノットエモーショナル・e01265)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
エデン・シュルフト(流離いのガンスリンガー・e09929)

■リプレイ

 地に降り立つ、三体のヴァルキュリア。
 彼女達が真っ先に捉えたのは、他でもないケルベロス達の姿であった。
 強い意志の宿る眼差しで戦乙女を見やる戦士達。
 その姿に惹きつけられるように、ケルベロスを排除すべき敵と定めたヴァルキュリア達が動き出した。
 先んじて動いたのはゾディアックソードのヴァルキュリア。
 掲げられた剣から放たれた牡牛のオーラが前衛を襲い、さらに槍を携えた乙女による突撃が重なった。
「出逢いとは、最良のもので叶うとは限りませんのね」
 星剣と槍、二人に同時に狙いを定めて光線を放ちながら、エニーケ・スコルーク(麗鬣の黒馬・e00486)は哀しげに、つい先日、束の間の邂逅を果たした亜麻色の髪のヴァルキュリアを見やった。
 亜麻色の髪のヴァルキュリア──マリアベルは、見知った顔もあるはずのケルベロス達を前に、他の二人と同様に感情の灯らない眼差しを向けてくるだけだった。
「望まぬ殺戮に手を染める前に食い止めましょう」
 それが、今の自分達に出来ることであり、為すべきこと。
 ──『彼女』とは、また逢う気がしていた。
 けれど、こういう形では逢いたくなかった。
 悲しげな笑みを払うように呼吸を一つ、苑村・霧架(真銀のフィリニアス・e00044)は大きく踏み込むと、身の丈よりも大きな鉄塊剣を振り抜いた。
「操られているからといって、虐殺を許すわけはいかないんだ」
 横薙ぎによって生み出された、霧架の確かな意志を宿したかのような旋風が、ヴァルキュリア達に叩き付けられる。
(「姑息な者によって罪のない者達の想いを汚される……許せるものじゃないな」)
 レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)は、かつて己が囚われていた時の記憶を想い出しながら、ヴァルキュリア達を魔力と深い哀れみを秘めた瞳で見つめる。
「また逢ったね、マリアベル」
 叶うならば違う形で逢いたかったと、そう思うのはレイも同じ。
 槍の乙女へ狙いを定め、エデン・シュルフト(流離いのガンスリンガー・e09929)は目にも留まらぬ速さで引き金を引く。
「望む戦いなら相手になるさ。けれど、望まざるなら……救いたいって思うのさ、俺達はね」
 ──助けに来たと、そう言うのは気取りすぎだろうか。
(「多くは聞くつもりはないよ。言えないから、言わないのだろうしね」)
 けれど、出来る限りの誠意は見せたいと思う。
 彼女達が自由になるまで、倒さないようにすることで。
(「……勇者とは、何を意味するのでしょう」)
 アームドフォートの主砲を解き放ちながら、アヤト・ヒノカミ(ノットエモーショナル・e01265)は胸中で独りごちる。
 ヴァルキュリアとは幾度か邂逅を果たし、時に戦いを重ねたが、未だにわからないことも少なくない。
 例えば、彼女達の行動。例えば、彼女達が探し求める『勇者』という存在。
 その答えに少しでも近づければいいと思いながら、アヤトは警戒の視線を巡らせた。
(「マリーさん……止めてあげないと」)
 幼くも優しい少年に助けを求めていた彼女が、殺戮を望んでいるとは思えないから。
 過日の邂逅を思い返し、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は決意を新たにする。
「第五王子イグニスだぁ? ヴァルキュリアを無理矢理使役するたぁ、やり方が気に食わねぇ。──その思惑……ぶっ潰してやる」
 蒼い地獄の炎を踊らせながら、神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が吐き捨てた。
「レンちゃん、いくよっ!」
 煉の背中へ向け、鈴が翼に似た形状の弓を引き、祝福の矢を放った。
 淡くやわらかな妖精の祝福を感じながら、煉は左の手のひらに右の拳を打ち付ける。
「おら、いくぜ! 烈震……グラビティシェイキングっ!」
 振り抜かれた右手の先に渦巻く重力の螺旋が、振動波となって星剣と槍、二人の戦乙女へと炸裂した。
「行くよ、霧架さん! 気力溜めだッ! とりゃー!」
 アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)が、霧架へとジャスティス力──もとい気力のオーラを放ち、鈴のボクスドラゴン、リュガがレイへと癒しの力を秘めた蒼い炎を放つ。
 惜しみなく注がれる癒しの力。それを見出したマリアベルは、アルレイナスへと狙いを定め追尾の矢を放った。
 ヴァルキュリア達の頬を、血色の涙が伝う。
 シャイターンの撃破に向かった同胞達からの報せがあるまで、彼女達を倒さずに耐え抜くと、ケルベロス達は決めていた。
 ──ヴァルキュリア達の心にこの想いが届くかまでは、わからなかったが。

 頬を血の涙で染めながら、ヴァルキュリア達は何の迷いも躊躇いもなくケルベロス達へと襲い掛かってきた。
 数の上では八対三。しかし彼女達は操られながらも巧みに連携を取り、僅かな隙を逃すことなく攻め立ててくる。
「氷の花盾……皆を守ってっ!」
 鈴が編み上げた空間が、氷花の盾となって前衛に癒しと守りの力を齎す。
 ヴァルキュリア達の攻撃は、主に前衛の五人に集中していた。
 列攻撃と、ディフェンダーよりも守りの力の少ないクラッシャーを標的とした単攻撃が繰り返され、着実に削ぎ落とされてゆく前衛陣の体力。
 ゾディアックソードと槍を持つ二人の一撃が重く伸し掛かる。
 しかし、ヴァルキュリア達の体力もまた、ケルベロス達の手によって削られていた。
「そう簡単に、やられてたまるかよっ!」
 獣化した手足に蒼い炎を集め、高速かつ重量のある一撃を星剣の乙女へと放つ煉。
「さすがに強いね。でも、ボクは絶対に諦めないって決めたんだ」
 アルレイナスの気力溜めだけでは追いつかず、霧架がサキュバスミストで自らを癒す。
 アヤトのアームドフォートから幾筋ものレーザーが放たれ、二人の乙女を貫いた。
「……増援は、まだのようですね」
 戦いが始まってから既に五分以上は経過していたが、アヤトが見上げた空の先、敵の増援が現れる気配は未だない。
 エデンが心を研ぎ澄まし、乙女の槍に不可視の力で衝撃を与える。空気を震わせるほどの魔力を秘めた咆哮はエニーケのものだ。
 死角へと踏み込んだレイは、ヴァルキュリアへと一振りのナイフを突き立てる。傷口から噴き出した返り血が、失われたレイの体力を僅かながら補った。
 鈴とボクスドラゴンのリュガ、そしてアルレイナスは、戦いが始まった時からこれまでずっとメディックとして仲間達を癒し続けていた。
 メディックに身を置いた彼らの懸命な、手厚い癒しの壁があったからこそ、ケルベロス達は辛うじて持ちこたえることが出来ていたと言っても過言ではない。
 ――少しだけ残念だったのは、アルレイナスのジャスティスヒーリングは射程が近距離のため、メディックについた今回は同じ後衛の列にしか届けられず、彼が前衛を癒すには単体の気力溜めしか手段がなかったことだろうか。
 ヴァルキュリアの命まで奪うことがないよう、ケルベロス達が少しずつ手加減攻撃へと切り替え始めた頃──それまで拮抗していた戦況に、僅かな綻びが見え始めた。
 癒しと守りの手が届くよりも先に、ディフェンダーとして槍の抑えに回っていたエデンが、繰り出された穂先に貫かれとうとう膝をついたのだ。
「望む戦いでないなら、退いてくれると嬉しい、さ……」
 届けたかった言葉を残し、そのまま意識を失うエデンを、感情の灯らぬ瞳で見下ろすヴァルキュリア。
 それも一瞬。槍の戦乙女の眼差しはすぐに、まだ健在な他のケルベロス達へと向けられた。
 やがて、戦闘開始から十分を少し過ぎようかという辺りで、戦局に新たな変化が訪れる。
 ――空の彼方に見えたのは、こちらへと飛来する一つの影。
「増援のヴァルキュリアが、いらっしゃったようですわね」
 エニーケが確かめるように呟き、残る仲間達も頷く。
 ルーンアックスを携えた新たなヴァルキュリアが、戦場へと舞い降りてきた。

 ルーンアックスのヴァルキュリアは着地したその足で高々と跳躍し、前衛陣よりも守りが手薄だったエニーケの頭上から斧を振り下ろす。
 もとより防戦のつもりでいたとはいえ、三体を相手にしているだけでも優勢とは言い切れなかったところに、新たに加わった一体。
 援軍として現れたヴァルキュリアの存在は、拮抗を崩されつつあったケルベロス達にとって十分に脅威となりうるものだった。
 だが、ここまできて諦める者など、誰一人としていない。
「どんな困難が待ち受けていようとも、僕達は絶対に諦めないよ!」
 ヴァルキュリアの手痛い一撃を受けたエニーケへ、すかさずアルレイナスが気力のオーラを飛ばす。
 それまで最初の三体に手加減攻撃を行っていたケルベロス達は、新たなヴァルキュリアへと狙いを切り替えた。
 最初の三体にそうしたように粘り強く制約を重ね、味方には力の限り癒しを施し、めまぐるしく戦場を駆け巡りながら来たるべきその時を待つケルベロス達。
(「みっともないですわね……わかり合えるはずの相手に乱暴を働くなんて」)
 ヴァルキュリアの攻撃を受け流し、エニーケは自分に言い聞かせるように胸中で呟く。
 巡らせた視線が捉えたのは、いつか見惚れた鎧姿。それを纏う乙女が携える――。
「っ、危な……!」
 そう、エニーケが注意を喚起すると同時に。
 前衛陣への攻撃の合間を縫ってマリアベルが弓を引いたその先には――鈴の姿。
 咄嗟に鈴の前に身を挺した煉が、矢に貫かれ。
「お前ら、あんな奴らに良いように操られてんじゃねぇよ……っ!」
「──レンちゃん!」
 悔しげに吐き捨てられた声と共に、煉がその場に倒れ伏す。
「……着信です!」
 その時、アヤトのアイズフォンに着信が入った。
 それは、市内でシャイターンと戦っていた同胞達からの、シャイターン撃破の一報。
「……シャイターンが、撃破されました!」
 アヤトの声が、戦場に響き渡ると同時に。
 目の前のヴァルキュリア達に、『異変』が生じた。
「――っ、いけません、このような戦いなど……!」
 マリアベルが、ルーンアックスのヴァルキュリアへと矢を放つ。
 何かに抗うように振るわれたゾディアックソードは、ケルベロス達を癒す星を描き出した。
 仲間を攻撃し、敵を癒す。言うなれば催眠状態に似ているだろうか。
 ヴァルキュリア達を襲う突然の異変。それこそが、シャイターンが撃破されたという確固たる証であった。
「……っ!」
 レイへ繰り出された槍の穂先が震え、上手く狙いを定められずにいる。
 ――彼女達も、混乱しているのだとわかった。
「お前達がシャイターンに操られているのは知っている。ヴァルキュリア達が解放されるように俺達も協力は惜しまないよ」
 己に向けられた槍を掴むように手を伸ばし、レイは目の前のヴァルキュリアへと向ける。
「お前達の主が囚われているというのならそれも助ける。……だから、戦う手を一度止めて欲しい」
 昔の自分を見ているようで、とても辛い――レイは共感と同情の念を込め、真摯に想いを紡いだ。
 ヴァルキュリア達を見つめながら、エニーケもまた声を上げた。
「自らの魂に背き、信念を汚させるような行為など。貴女達にはさせません」
 ヴァルキュリア達に聴こえるようはっきりと、そして、動じさせることのないように穏やかな響きで。
 彼女達の矜持を傷つけまいとする、想いを込めて。
「貴女達は自分達の目的があるとはいえ、人間の意思を尊重してくださいました。今度は私達が貴女達の意思を護る……そのためなら、貴女達の勇者になっても構いません」
 エニーケの言葉に、ヴァルキュリア達が目を瞠る。
「……あなた達の目的は、虐殺でしたか? ……本当に?」
 本来の自分を取り戻して欲しい。その一心で、アヤトは語りかける。
「……今のあなた達についていく勇者は、存在しないでしょう。……自身が何を行っているか、よく考えてください」
 ヴァルキュリア達が、何かを堪えるように唇を引き結んだ。
 ケルベロス達の声が、想いが、少しずつ響き始めているのだろう。
「僕の持つジャスティス力は僕の中の正義の力!」
 気力のオーラを放ちながら、そう、力強く声を上げたのはアルレイナスだ。
「君達が持つ力はなんだい? 自分の中にあるその力の根源を、ちゃんと胸を張って言えるかい? ……何の為にその力を揮っているのか、解っているのかい?」
 正義を信じ、悪を厭うアルレイナスではあるけれど、今回のヴァルキュリア達のような――悪になりきれない相手に対しての情を持ち合わせていないわけではない。
「今の自分が……自分の正義を、信念を持っていると言えるのかい?」
 ゆっくりと諭すような彼の言葉に、ヴァルキュリア達の表情が、幾許か落ち着きを取り戻し始めたように見えた。
「わたしは、貴女を殺したくありません」
 そう言って、鈴が一歩前へと歩み出る。
 その声は、マリアベルへと向けられていた。
「貴女が死んだらきっと透くんも悲しむと思うから……お願いします、引いて下さい」
「……あの時言った台詞を、もう一度言うよ。キミと争うつもりはないよ、と」
 霧架もまた、マリアベルへと呼びかける。
「キミは、透クンを連れて行こうとした時もボク達が引き止めるのを待ってくれたよね。だからこんなことは望んでいなかったはず、だよね」
 戸惑うように動きを止めたマリアベルへ、ゆっくりと近づいていく霧架。
「──大丈夫。ボクが、ボク達がキミ達を護ってあげるから。だから、本当の声を聴かせて……」
 霧架の真剣な眼差しに、マリアベルが瞳を揺らす。
 張り詰めていた空気が和らいだのを、ケルベロス達は感じた。
「ありがとう、ございます。――でも、今は」
 ヴァルキュリア達がそれぞれの武器を収め、代わりに翼を広げる。
 戦いが、終わったのだ。
「――行ってしまわれるのですね」
 エニーケが静かに問う声に、小さな頷きと、心を覆っていた雲が晴れたような穏やかな笑みが返る。
「助けて下さって、ありがとうございます。……もう、大丈夫」
 シャイターンの洗脳は、完全に解けたようだ。
 そして、深く礼をしたヴァルキュリア達は静かに舞い上がると、彼方の空へと消えていった。

 倒れたエデンも煉も、幸いにして傷は深くなかった。少しの時間があれば、意識を取り戻すだろう。
 もし、援軍が来るのがもう少し早かったら。ヴァルキュリアに異変が生じるのがもう少し遅かったら。被害は、もっと大きくなっていたかもしれない。
 シャイターン班の健闘が、シャイターンの撃破が迅速だったことがこちらの被害の軽減に繋がったのは、間違いない。
 ケルベロス達は、ヴァルキュリアが去った空を見つめる。
 彼女達の行く先はわからない。
 けれど、救うことの出来た命――無事であって欲しいと願わずにはいられない。
「また、逢えるかな」
「……ええ、きっと」
 そう願うように呟く霧架に、エニーケがそっと微笑んで頷いてみせた。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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