デスバレス大洪水を阻止せよ~葬送のマリア

作者:柚烏

 高知県足摺岬――弘法大師ゆかりの霊地として知られる其処は、かつて死神勢力との防衛戦が行われた激戦地でもあった。
 死せるデウスエクスの軍勢が、津波のように押し寄せてくる光景は、正に終わらぬ悪夢のようであったが――それもケルベロス達の奪還作戦によって、二年近く前に平穏を取り戻していたのだ。
 ――しかし、悪夢はふたたび蘇る。漆黒のドレスを纏った、麗しき死神乙女の姿を取って。
「……人間たちが崇める霊地、か。呼び水となるには相応しい」
 ぬくもり無き唇から零れた声は、やはり冷ややかに辺りへと響いて、少女の心を凍えさせた。恐らくはケルベロス達の勝利を願うため、此の地を詣でたのだろう――恐怖に震える少女の姿は、酷く哀れみを誘うものであったが、現れた死神は眉ひとつ動かさずに剣を取る。
「人を狙うのは、流儀に反するが――」
 ひっ、と息を呑む少女に呼応して、死神の引き連れた骸骨騎士が包囲を狭めた。命を奪うなど容易いことだろうに、何かを待つかの如く機を窺う彼らの様子は、荘厳な儀式に臨むようにも見えた。
「目的の為ならば、その首を落とさせて貰うとしよう」
 ――刹那の刻が、永遠に引き延ばされたかに思えた頃。不意に死神の剣が振り下ろされて、瞬きする前に少女の世界は終わった。
「我は科人に、永久の生を祈らん――ああ、」
 首のない死体を中心に、生まれていくのは小さな穴。やがてその奥に亡骸が沈んでしまえば、其処からは膨大なデスバレスの海水が溢れ出し、瞬く間に岬の一帯を飲み込んでいったのだ。
「永久の、生だ」

 先ずは、日本列島防衛戦の勝利をゆっくり祝いたいところだけど――と前置きしてから、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、予知で知り得た未来について語る。
「どうやら、冥王イグニスの言葉通り……死神勢力が動き出したみたいなんだ」
 兵庫県鎧駅――其処に、死神勢力の一大拠点である『甦生氷城』ヒューム・ヴィダベレブングが出現。それと同時に、西日本にあった旧ミッション地域に対して、死神たちの襲撃が行われることが分かったのだ、と。
「彼らの目的は、この襲撃を呼び水にデスバレスの海を出現させて、地上に大洪水を発生させること」
 冷えた指先をぎゅっと握りしめながら、予知の内容を伝えていくエリオットの表情は、微かに青ざめているようにも見えたけれど。それでも――ケルベロスブレイドによって強化された予知により、敵の出現する正確な時間と場所が確認出来たから、皆にはこの死神の撃破に向かって欲しいのだと言って頭を下げた。
「……敵の出現場所に潜み、出現と同時に奇襲して撃破を行う。それ以外の行動を取ってしまうと、予知の内容が正しくなくなり阻止が不可能になると思うから、その点だけは注意してね」
 ――今回、皆に向かって貰う旧ミッション地域は、高知県足摺岬。其処でケルベロス達の勝利を願って、お遍路回りをしていた地元の少女が、死神の犠牲となってしまうらしい。
「でも、死神は一般人をすぐに殺害はしないから。そのタイミングまでに少女を救出するか、或いは敵の撃破を行うか……作戦が大事になってくると思う」
 エリオットの予知では、少女は足摺岬の突端――海を見渡せる場所で死神に襲われていたと言う。処刑人のような出で立ちをした、その女性死神の名はマリア。配下の死神騎士と共に、躊躇なく標的の首を刎ねる恐ろしい敵だ。
「背後に控えた髑髏の一撃は非常に重くて、同族殺しも厭わないほど容赦がない。デスナイトと呼ばれる配下も数が多いから、タイムリミットがある中でどう動くか……そこは、みんなの判断に任せるね」
 それでも先ずは、デスバレスの大洪水を阻止しなければならない。死者が呼び水となり、浄土に導く補陀落渡海――足摺岬に伝わる伝承を、死神による歪んだかたちで叶える訳にはいかないから。
「――嘆くなかれ。奥に秘められたる力を見いだすべし。さぁ、行こう!」


参加者
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
エレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)
マッシャー・ユーディト(蕾の治療士・e87148)

■リプレイ

●海境の果て
 岬から見渡せる海は、余りに広大で。春風と共に打ち寄せる波が、銀砂糖みたいに儚く砕け散る光景を前に、リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)の瞳が物憂げに伏せられる。
「この海の向こうに、浄土がある……そんな信仰があったというのも、分かる気がしますが」
「ええ、ですが……死神が成そうとしている事は、到底楽園とは呼べないでしょう」
 そんな彼女の傍で、微かな笑みを浮かべるエレ・ニーレンベルギア(月夜の回廊・e01027)もまた、その心の裡に悲哀を抱えているように見えた。誰かを救う為なら、自分の身を捨てることも厭わない――そんな決意を抱くまで、大切な存在を喪ったのだと分かる程に。
(「……私達の勝利を願っていた少女が、生贄に」)
 それを呼び水に、デスバレスの海を召喚すると言うのであれば、決して見過ごす訳にはいかない。
「そのような悲劇は、決して起こさせはしません」
 意志を言葉にすることで、改めて気持ちを奮い立たせていくリコリスの向こうでは、他の仲間たちが隠密気流を用い、死神の出現地点近くで潜伏を行っていた。
 ――自分たちも気流を纏えたのなら、もう少し接近しても大丈夫なのだろうけど、と。警戒を続けるオペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)の方も、気流が本人にしか効果が及ばないのであれば、外套で身を隠すなどして少しでも周囲に溶け込めるようにするしかない。
(「成程、大体確認した通りですねー」)
 そんな中、声を潜めて辺りの様子を窺うのは、クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)で。そのまま宝刀へ手を伸ばした彼女に対し、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)が元気よく頷くと、フード奥の瞳を輝かせた。
(「時間との勝負になるけど……行けそう、だね」)
 予め現場の地図や航空写真で、大体の目星をつけた所――岬の周辺では、緑が多いことが助けになりそうだった。そちらの迷彩を用いれば、死神たちが現れた直後に奇襲を掛けるのも十分可能だろう。
(「……大変な任務になりますね」)
 儀式の生贄となる少女を救出し、死神の手に掛かること無く守り切らねば、大洪水が地上を襲うのだ。その責任を思うと、緊張しないなんて嘘だ――とマッシャー・ユーディト(蕾の治療士・e87148)は思う。
(「ですが、今のわたくし達なら――」)
 繰り返し見続けた悪夢のように、もうマッシャーの意志を奪うものは無い。だから、共に癒しの力を振るうべく声を掛けてくれたエレのことを、そっと思い起こしながら深呼吸をした。
(「笑っていれば、絶対大丈夫」)
 それが信条だと言うエレに、少しでも追いつけるように。ケルベロスとしても、良き後輩で居られるように努めながら、マッシャーはドローンデバイスの準備に取り掛かっていった。
(「……さて、頃合いのようだよ」)
 と、其処で――予知で示された刻限に備えつつ、周囲の様子を探っていたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が、ゴーグルの下で優美な笑みを浮かべたのが分かった。ゴッドサイトの能力によって、瞬時に戦場を把握した彼が操るのは、自身に寄生する鎖の如き蔦――諜報と暗殺を司るエルフに相応しく、無駄の無い動きで奇襲を行おうとするアンセルムに、シルも続こうとした所で声が響いた。
「――行こう」
 感情を抑えた透明な声の主は、幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)だけど、その整った貌の下で熱い想いが滾っていることを、翼の伴侶であるシルは知っている。
 そっと一度、手を重ねれば――伝わって来るぬくもりが確かにあって。直後、鳳琴だけに伝わるように、仄かな甘さを含んだ声をその耳元で囁いた。
「琴、行くよ」
 彼女と一緒なら、もっと高く飛べると思ったから。デバイスの力で飛翔しながら、ふたりの拳を死神目掛けて叩きつけてやろう。
(「そう、拳は小さくとも……籠る力と想いは、死神の囲みなんて撃ち抜くから」)
 ――魔空回廊を通って現れた死神たちが、少女に剣を向けるよりも早く。ジェットパックの出力を全開にした鳳琴とシルの拳は、音速を超える勢いで配下のデスナイトに迫っていたのだ。
「そこ、押し通るっ!!」

●死を喰らう
 何が――と思う間も無く、デスナイトの一体が骨を砕かれ、そのまま地に叩きつけられた。突如攻め込んできたケルベロス達へ、咄嗟に相手が意識を向けた隙を突いて、鳳琴の手が少女を掴んで離脱する。
「……おや、ここが痛そうですねー」
 ――包囲を崩された残りの騎士が、態勢を整えようとするも間に合わなかった。倒れた騎士の元へ突撃していくクリスタが、魔氷の刃でその傷痕を押し広げていくのに続いて、毒を滴らせるアンセルムの蔦が、そのまま一気に獲物の捕食を行っていく。
「悪いね、そう言う嫌な事は他所でやってくれないかな」
 そうして――瞬く間に配下を仕留めたアンセルムが、冷ややかなまなざしを死神に向けた一方で、少女を託されたのはマッシャーだった。
「後はお願いします、私は死神の方へ――」
「はい、わたくしにお任せください」
 戦闘を続行すると言う鳳琴に頷き、用意していたレスキュードローンへ思念を送る。戦況を見つつ、いざとなったら少女に付き添うことも考えていたが、救出が上手くいった現状、マッシャーも戦いに加わった方が良いだろうと判断した。
(「ドローンの装甲もありますし、万が一何かあっても……この翼があれば」)
 ヴァルキュリアの光翼が持つ感知の力は、出来れば使わないに越したことは無いけれど。ドローンに運搬されていく少女にそっと手を差し伸べつつ、入れ替わるように前へ出たのはオペレッタだった。
「……ありがとうございます」
 ――デウスエクスに遭遇し、死の恐怖から震えたままの少女に向けて、オペレッタが紡いだのは感謝の言葉で。
「アナタの祈りが……こうして、力を授けます」
「……!」
 ケルベロス達の勝利を願い、少女を始めとした世界中の人々が、力を貸してくれていること――その証であるアームドアームを誇らしげに動かしながら、オペレッタの放つ優しい光が星座を描いていった。
「うんうん、ボク達は大丈夫だからね」
「はい、みなさま、同じ想いをココロへともしております」
 先程の死神への対応とは打って変わって、アンセルムも自信に満ちた表情で少女を励まし、絶対に助けると言う意志を示してみせる。そう、無事に帰るのだと――それ以外の結末など、思い描いていないのだと言うように。
「ココ、ロ……?」
「それは『これ』も、おなじ」
 ――嘗て。ココロとは何か、と問い続けた少女が、今はこうして誰かにココロを伝えようとしている。目には見えないその想いの形が、確かに同じであると信じることが出来る。
「ラズリ、出番ですよっ」
 奇襲と同時に召喚した、ウイングキャットのラズリに声を掛けつつ、エレの霊弾がデスナイトの包囲を崩そうと一直線に放たれていった。
 と――いつもは主人の肩が定位置なのに、今までお留守番をする羽目になった彼女は、ちょっぴりしょんぼりしているようにも見えたけど。すぐに気を取り直して、びしっと得意の爪で襲い掛かる姿は、流石しっかり者と言ったところだ。
「ふふ、後で一緒に遊びましょうね」
 顔を見合わせ、ふんわり笑うエレとラズリを前に、残る騎士たちも思うような行動を起こせずにいる。彼らを呪縛し続けるのは、奇蹟を請う外典の禁歌――遠くから響いてくる、そのうつくしくも哀しい歌声は、一途なまでの救済をただ願っていた。
「彼女の世界は、彼女と……彼女を想う人々のもの。利用は、させません」
「……莫迦な。貴様らが何故此処にいる」
 清らかなレクイエムを歌い上げるリコリスに、死神――マリアが怪訝そうに眉を顰めた時。アンセルムの撃ち出した竜砲弾が、それ以上の会話は不要だと言わんばかりに轟音を響かせた。
「随分と自信たっぷりみたいだけど、ボクらが見過す訳ないでしょう……ねぇ?」
 そう言って、己と繋がれた少女人形を愛おしそうに撫でるアンセルムの姿を、理解出来ないと言った様子で見つめるマリアだったが――彼らをどうにかしない限り儀式は完遂出来ないと考えたらしい。
「立ち塞がるのであれば、纏めて始末するまでだ」
 処刑人の剣を片手に、背後に従えた大髑髏へマリアが号令を下せば、桁外れの剛腕が唸りを上げて後列を薙ぎ倒そうとする。だが、高く飛ぶのだと誓ったシルは、その程度のことで挫けたりはしない。
「行っ……けぇ!」
 ――蒼穹棍に灯った紅蓮の炎が、風よりも早く振るわれて死神の群れへ迫っていく。直後、肌を焦がすような熱風が吹き荒れる中で、超加速を得て敵群へ突入したのはオペレッタだった。
(「かならずアナタを、『護り』ます」)
 死神に狙われた少女に、別れ際に掛けた言葉をそっと胸の裡で繰り返しながら――その為に自分が何を為すべきか、オペレッタは思考する。
(「『これ』に、出来ること」)
 ――演算に時折混ざるノイズは、以前ならば『エラー』として排除していたかも知れない。確率では測れずに、明確な数値化も出来ないもの。
(「『それ』は――」)

●生命の萌芽
 奇襲が上手く決まり、初手で敵に大きな損害を与えられたのが幸いだった。配下の守りも崩され、更にリコリスの呪縛が堪えたのもあって、数の多さで強引に押し切ることは、もう死神たちには出来ないだろう。
(「それでも、慎重に行かなければ」)
 しかし此方も、いざと言う時に動けないのは困る。麻痺を操るのは向こうも同じで、マッシャーは仲間たちの浄化を第一に考えて治療術を施していく。エクトプラズムで肉体を作り上げ、傷を塞ぐ処置を行いながら――エレの方は光の粒子も織り交ぜつつ、味方の覚醒も支援しているようだ。
「今度は、……凍って!」
「はい、絶望してくださいー」
 吹雪の精霊の力によって、辺りを氷河に変えていくのはシルで。更に、黒き太陽を具現化したクリスタが絶望の光を浴びせていき、敵群の足取りを鈍らせていった。
 ――おっとりしているように見えて、意外と容赦の無い彼女の戦いぶりに、何だか頼もしさを覚えながら。シルが目配せをした所で、空を舞う鳳琴が一気に急降下を仕掛けて、また騎士の一体に止めを刺していったのだった。
「大分、数は減らしたみたいですが――」
 次々に配下を倒されていくマリアだったが、それでも黒棺に此方を封じ込めるべく、攻めの姿勢を崩さない。だが――決して自由にさせたりはしないと、牽制を行うのがアンセルムだ。
「ほら、余所見をしている暇はないよ」
 ――魔術によって変容した蔦を大蛇と化し、仮初の毒牙を以てその力を削ぐ。後方から狙い澄ました一撃を放つ彼に続き、リコリスの方は配下を上手く弱体化させており、各個撃破のし易い状態へと持っていった。
「……だが、貴様の首なら落とせるか」
 彼女の立ち位置ならば、マリアの剣も届く。近距離攻撃の標的として狙われたリコリスを守ろうと、クリスタやオペレッタも庇おうと動いたが、彼女たちもこれ迄の戦闘でだいぶ消耗していたのだ。
「ここは通さないですー、と言いたい所なんですけどねー……」
 万華鏡のように煌めく氷結晶の加護により、痺れに苛まれることは無くなったが、何かの拍子に強烈な一撃を貰ってしまえばクリスタとて危ない。
「すみません、距離が……」
 エレやマッシャーも回復に動いてくれているが、単体を癒す強力な術となると厳しい。天青石の煌めきが、盾となるクリスタ達にも届けばいいのだが――それもエレと同じ列にしか効果が及ばないのなら、使える力で何とか回すしかないだろう。
(「死したその瞬間、死者の時は止まる」)
 ――己の首を落とそうと振るわれる、マリアの剣。永遠の生を祈ると言う処刑人の言葉を思い返しながら、リコリスが縋ろうとしたものは、何であったのか。
(「亡くなった大切な人達を置き去りに、私の時間だけが進んでいく」)
 彼岸花が赤く染まる中、鏡像に呑まれた騎士へ撃ち出したのは、時空を凍結するオラトリオの弾丸。こうして戦い続けて、その中で自分の時も止まる事を――それだけを望んでいた筈なのに。
「……けれど」
「足掻くか、最期まで」
 リコリスの瞳に宿る意志を感じ取ったのか、マリアの喉が微かに鳴った。定命者の悪足掻きだと、嗤ったのかも知れない――でも。
「全ての命は海から生まれ、いつか海に還るもの。……けれどその海は、デスバレスの海ではありません」
 顔を上げ、凛と背筋を伸ばして『誰か』の為にこの力を使うのだと、リコリスはマリアに向かって宣言した。そろそろ儀式の刻限も迫っている――なりふり構わず、少女の元へ向かう恐れもあるなら、とオペレッタの爪先が宙に踊り出る。
(「刃が迫るなら突き飛ばしてでも、阻止を」)
 舞台へ羽ばたいていく少女の姿が乙女に変わると、緩やかな髪が波打って、ヴェールのように辺りに広がっていった。解き放たれたマリオネッタ――その回路を動かすのは、愛しみと言う名の感情であり。
「……『これ』に出来ること。少女とみなさまへの刃を一撃でも多く受け、一拍でも永く立ち続ける」
 グラビティ・チェインと共鳴を起こしたその力は、オペレッタの傷を忽ち癒して、彼女の願い通りに戦場に立つだけの活力を取り戻させてくれる。
 ――作戦の為の、歯車であろうとする姿。デウスエクスとケルベロスと、過去と今と。それは何も変わりがない様で明確に違うのだと、オペレッタは言う。
「『これ』がそうすると――そうしたいと、決めたのです」
 無垢な蕾の咲初めのように、巣立つように変形を遂げた彼女の指先では、ころころと駆けるこいぬ座が生まれてマリアを氷牢に包んでいく。
 そう、数の多い配下を全て倒してしまえば、あとは彼女だけだ。アンセルムによってじわじわと追い込まれていたマリアは、その身を炎と毒に蝕まれながら――尚も彼によって、新たな傷を刻まれていた。
「琴と二人で作った、新しい力……簡単に防げるとは思わないでっ!」
 六芒精霊収束砲により魔力を撃ち出すシルと、輝く龍を纏って掌打を繰り出す鳳琴。それぞれが持つ最大の一撃を共に放ちながら、追撃に備えて青と赤の翼がふたりの背に広がっていく。
「今こそ見せましょう。これが絆の……一撃ですっ!」
 ――反動を抑えつつも、駄目押しの砲撃で跡形も無く死神を消滅させる。それはまるで嵐が過ぎ去ったことを高らかに告げる、灯台の光のようでもあった。

 デウスエクスとの戦いが終わらなければ、伴侶との生活もままならないけど――少女に「大丈夫」と声を掛けに行くクリスタを見送りながら、そっと手を絡めた鳳琴とシルの薬指ではふたつのリングが輝いていた。
「二人でなら、どんな事も……」
「どうか、最後まで」
 ――約束と永遠。そのふたつに誓いを立てて、遥かな高みを目指していこう。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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