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旧ミッション地域――比叡山。
古くより信仰対象とされ、全域が延暦寺の境内として名高いこの地に、その日複数の異常は舞い降りた。
証の様に、未知の危機を察した猿や狸といった動物達が、即座にその場から逃げ出していく。
動物達が逃げ出してきた方向に目をやると、映ったのは蒼。次いで、背側に巨大な、宗教的な象徴物にも似た異物を纏った肉感的な少女が浮かび上がってくる。人と怪異を合わせたような蒼の少女……死神『テンフラグ』。
そのテンフラグが、10体程の死神の軍勢を引き連れ、比叡山に現れたのだ。
「信者共よ、赤子をワラワの前に!」
テンフラグが告げると、信者と呼ばれた死神の軍勢が、赤子を連れて前に出る。まだ息がある赤子は、当然状況把握など出来るはずもなく、比叡山にはオギャア、オギャアという泣き声が響き渡った。
「やはりワラワは天才じゃな。用意した赤子が、このように役立ってくれようとは!」
呟くテンフラグは、しかしすぐに赤子に害をなそうとはしない。だがそれは良心からではなく、機を待っているように伺えた。
やがて数分が経ち、テンフラグは赤子を掲げると、その命を手慣れた様子で、当然のように絶つ。
滴り落ちる血。比叡山という立地。それはまるで儀式のようであり――。
事実そうであったのか、ふいに赤子の亡骸を中心に小さな穴が空く。亡骸がその穴に飲み込まれると、代わりに穴から夥しい量の水が溢れ出し、途端に比叡山が大洪水に見舞われた。
比叡山を飲み込んでいく大洪水を見届け、テンフラグは満足げに嗤うのであった。
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「日本列島防衛戦での勝利、お見事でした!」
嫋やかに、かつ笑顔で頭を下げて喜ぶのは山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)。
彼女の言葉に頷き、謙遜し、当然と胸を張るケルベロス達だが、しかし完全に緊張を解いている者はいない。何故なら――。
「……日本列島防衛戦での勝利は喜ばしいですが、皆さんもお察しの通り、そして冥王イグニスの言葉通り、死神勢力が動き出したようです」
ケルベロスにとっては非常に長い因縁のあるイグニスの宣言だ。場にやはり……といった空気が自然と流れた。
「詳細をお伝えしますね。まず、鎧駅に死神の一大拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが出現しました。ここは、デスバレスと直接繋がっており、ユグドラシルのゲートがあった大阪城と、攻性植物の拠点となっていた、島根県隠岐の島の丁度中間地点にあります。敵が拠点とする立地としては、妥当な所でしょう。そして、その出現と同時に、西日本にあった複数の死神の旧ミッション地域に対して、死神による襲撃が行われる事が予知されました」
正確には、北九州再開発地区、関門トンネル、大鳴門橋、足摺岬、比叡山、和歌山県海南市の西日本6地域。
死神の目的は、旧ミッション地域を襲撃する死神達を呼び水に、デスバレスの海を一気に地上に出現させる事。それに付随する形での大洪水を発生させる目論見のようだ。
「これを阻止しなくてはなりません。阻止するためには、呼び水――分かりやすく言いますと、旧ミッション地域とデスバレスを繋げる役割を受け持つ死神を見つけ出し、撃破する必要があります」
幸いにも、ケルベロスブレイドによって強化された予知により、死神が出現する正確な時間と場所を捕捉する事が可能だと、桔梗が胸を張る。
「ですので、皆さんは死神の出現予定位置に潜み、出現と同時に奇襲を仕掛けてください。死神の出現場所が変化すれば、当然阻止も間に合わなくなるため、出現前にこちらの動向を悟られぬよう、注意してくださいね」
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「皆さんに向かってもらう旧ミッション地域は、比叡山となります。比叡山は、ある程度はヒールされているため、かつての戦闘の影響は少なく、幻想化している部分はありつつも以前の姿をある程度は取り戻しています。山中や坂道など、戦闘をするには適さない場所も多くありますが、敵となる死神――『テンフラグ』達が出現する周囲にはお堂もあるため、潜伏場所としては事欠かないでしょう」
作戦の最大の問題点として、テンフラグがどこからか連れてきた赤子の存在がある。
「この赤ちゃんは、デスバレスとこちらを繋げるための生贄としての役割があるようです。テンフラグ達は生贄を捧げるタイミングを合わせる必要があるらしく、赤ちゃんをすぐに殺害する事はないのが救いではありますね……」
桔梗は、殺害が行われるタイミングまでに赤子を救出、もしくはテンフラグ達の撃破をして、どうか赤子を助けて欲しいと頭を下げる。
「死神側の戦力に関しては、指揮官役のテンフラグの他、【死神軍防衛一般兵】デスナイトと呼ばれる10体程度の配下の存在が確認されています」
指揮官役の死神を含めても、ケルベロスからすれば強調する程の強敵という訳ではないが、赤子の救出の必要や、それに伴う時間制限もあるため、充分な作戦を練って事にあたってもらいたい。
「地上にデスバレスの大洪水を引き起こす……そんな蛮行を見過す訳にはいきません! 今回の作戦を鎧駅に現れた《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング制圧への足掛かりとできれば、デスバレスへの逆進攻の可能性さえ模索できるかもしれません!」
参加者 | |
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水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
知井宮・信乃(特別保線係・e23899) |
アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846) |
アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173) |
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107) |
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「死神出現5分前だよ! マロンさん、救出班の二人に連絡よろしくね!」
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)に告げる。彼らが陣取るのは、テンフラグらの出現する場所を最も容易に見通せ、姿も隠せるお堂の中。時間も、場所も、ケルベロスブレイドによって強化された予知により全て把握済みだ。
「ほんと、すごいよね!」
シルディは事前に相談した内容を振り返り、改めて今の予知能力について感心する。
「舞台が比叡山というのは皮肉ですね。もちろん、デウスエクスにとっての。……鬼封じのための場所、ですか」
知井宮・信乃(特別保線係・e23899)が呟いた。比叡山は、京都から見て鬼門の方角。
「ええ……ならば、私達が死神への鬼となりましょう」
ケルベロスとデウスエクス。そこには既に避けては通れない縁が刻まれている。と、頷くマロンの元に、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)から了解を報せる思念が送られてくる。
「……赤子に限った話ではないが、贄を使った呪わしく歪な儀式は定番だな。…最も、それを行おうなど言語道断……祟るまで……」
一つ目小僧が出る修行道場、おとめの水垢離など。比叡山のお堂やそれに類する逸話は枚挙にいとまがないが、それでもケルベロスが平然としていられるのは、すぐ傍で藁人形を五寸釘で黙々と打ち付ける祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)の存在も大きいだろう。彼女の前では、並みの怪異など裸足で逃げ出すに違いない。
「怪異トカ、祟りトカ、ソレはおいしいノカ?」
首を傾げるアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。だがふいに、その顔に張り付いていた笑みが濃度を増す。
彼女だけではなく、その場全体が沈黙に包まれ、アンヴァル・ニアークティック(バケツがガジェット・e46173)達は隠密気流や螺旋隠れを纏い、気配を消した。
(「あれが赤ん坊を生贄ししようとする死神ですか。なんかウミウシっぽいですね。触手とか、触覚とか、色合いとか、たわわで牛っぽい……いや、なんでもないです」)
アンヴァルは、視線の先に出現したテンフラグの一部分を睨むように見ていた自分を誤魔化すように仲間を振り返る。すると、似たような事を考えていたらしいアリャリァリャと目が合い、(「あれがアリャリァリャさんの言ってた相手だね!」)シルディ達、その場全員が状況を把握している事を確認する。
「――信者共よ、赤子をワラワの前に!」
テンフラグの行動をきっかけに、シルディのハンドサインが下る。
(「あと少しで、デウスエクスの脅威のない日々がやってくるかもしれません。その日のために!」)
信乃が気合を込め、ゴッドサイト・デバイスで敵の布陣に異常がない事を確認後、陽動班は即座に襲撃を仕掛けた。
けたたましい音が鳴り響いている。出所は、テンフラグを中心とした一帯に向け、御霊殲滅砲を放つプリンセスモードのマロンが抱く、もふもふサバトくんマスコットから発せられているものだ。
「……祟る。……祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟……」
続けてイミナも最多戦力のDfが陣取る前衛を巨大光弾で薙ぎ払い、蝕影鬼がポルターガイストで周囲の物体を乱舞させる。
「目的のために命を奪ウのはわかルケド死神のクセに命の扱いがチョット雑じゃあネーカナ! 手本見せテやルカラ覚悟すルがイイ!」
凄まじいモーター音を発するアリャリァリャの騒音刃が、テンフラグのブルーの柔肌を切り裂いた。
陽動班は自分達を目立たせる方策をとってくれている。
(「赤ちゃん、あそこですね!」)
その様子を……何よりも赤子から一瞬たりとも目を離さぬにように凝視しているのはルーシィド。そして鬼人の救出班であった。
タイミングを見計らう二人には、テンフラグや配下の動揺が強く感じ取れる。
「何故ここにケルベロスが!?」
「ワラワの聞いていた話と違うぞ!」
「間に合わぬはずじゃろう! まさか、騙されたのか、ワラワ達は!?」
喚くテンフラグの口から漏れ出る言葉を聞き――。
(「どうやら死神共はイグニスか、それに近い者から俺達の介入の可能性はないと聞かされていたらしいな。ケルベロスブレイドの能力がまだ把握されていない証拠だ」)
鬼人は、どうやら現状が自分達にとってよい方向に向かっている事を察する。
そして鬼人らが機を伺っている間にも、陽動班の信乃とシルディが死角から轟竜砲を轟かせ、カッコいいグラフィティを描くアンヴァルが仲間の奇襲を後押しする。
(「今です!」)
そして、完全に死神側の意識が陽動班に向いたのを見計らい、赤子を抱いていたデスナイトから、ルーシィドは赤子を奪取!
「な、なんじゃとー!?? と、取り返すのじゃ――ふんぬっ……!!」
想定外に想定外が重なり、テンフラグ達は状況の変化に追い付く事ができない。テンフラグは瞬間湯沸かし器の如く激昂しかけるが、赤子には絶対に危害を加えさせないためのフォーメーションを敷いた陽動班の攻撃が冷や水となって浴びせかけられる。
「鬼人様、私の背中はお任せ致しますわ」
「任された。その子は頼むぜ。……にしても、地獄の死者が、新たな命を儀式に使う、ねぇ。俺の左手がこいつらの世界とは繋がってない事を祈るぜ」
毛布とカイロをルーシィドに渡した鬼人は槍を構え、慌てて押し掛けてくるデスナイトに、空の霊力を纏わせた越後守国儔で応戦。
ルーシィドが、胸の中で抱えるように、赤子を改造した抱っこ紐で固定する。
(「あまり効果はないかもしれないが、赤子の命のためにやれる事、思いついた事はやっておく!」)
鬼人がバイオガスを散布し、それを合図にルーシィドと鬼人の二人はその場からの一時離脱を試みる。
全速力で駆け、鬼人と赤子を庇い、時には背に傷を負いながらルーシィドはある事を感じる。それは、はじめて触れる赤子の温もりと、柔らかさであった……。
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「………………」
赤子を瞬く間に奪取された事実に、テンフラグは茫然としていた。
「ウチらが贄にされル可能性があルんじゃあネーカ」
口を滑らせた風に告げるアリャリァリャだが、テンフラグは特に反応を返さない。
生贄を捧げる際は、他の儀式場とタイミングを合わせなくてはならない。テンフラグも最低限理解しているのだ。歴戦のケルベロス相手に、殺害するタイミングを合わせる事が現実的ではないと。そしてそれは、奪取されて遠ざかる赤子にも言える事。だが、可能性としてはそちらに賭けるしか希望がないのも事実であり――。
「ワラワの用意した赤子をよくも!!」
「急に弱気になって、自信がないんですね。まあ、無力な赤ん坊を狙うとか、『自分よわっちいんで』って宣伝してるようなもんですよね」
「おのれぇ!」
赤子の消えた先に視線を向けるテンフラグを、アンヴァルが挑発するように嘲笑う。
「……恨むならば恨むといい。……呪わしい場なのだ、怨嗟はあって然るべき」
まるでその怨嗟すら子守歌であるかのように、イミナの白貌は泰然自若。テンフラグの内心を見透かすようだ。
(「この憤慨する様子……テンフラグは儀式の失敗をほぼ確信しているようです。完全な阻止が確認できるまで救出班のお二人には逃走を図ってもらい、それから合流です! 何の罪もない赤ちゃんを贄にはさせませんです!」)
マロンは得た情報を思念で救出班に都度伝え、時空凍結弾を放とうとする。が、彼女に先んじてテンフラグが動き、アンヴァルを赤子殺しの記憶で苛もうと迫った。
「予想はしていたけど、信者を贄にはできないみたいだね。安心したよ!」
シルディがアンヴァルの盾となる。悪辣、残虐な光景が彼の脳裏を埋め尽くすが、自分以外の誰かがこの責苦を喰らうよりも数段ましだ。防具でダメージを抑えつつ、裂帛の叫びを上げ、すぐに【トラウマ】の大部分を解除。
「……ジャマーか。……だが温いな。真のトラウマとはこう刻むのだ。……死神が還るべき場所はデスバレスだけではない。……引ズリ込メ……!」
イミナの凶悪な呪いの力が、黒々とした沼の領域を形成。沼から突き出た亡者の腕が、前衛のデスナイトを捕え、引き摺り込もうと身を縛る。
アリャリァリャの雷刃突がデスナイト一体を粉砕。
それでもなお、デスナイトは数を利して立ち塞がった。同時に、ケルベロス達も赤子の安全確保が済むまで、背を向ける事は決して許されない。
「かつて武士達は、鬼門を恐れるばかりではなかったそうです。覚悟を持って向き合いました。私達もあなた達を恐れません。覚悟を持って打ち払ってみせましょう!」
信乃が、大鎌や槍にも怯まず、氷結の螺旋を放つ。
アンヴァルが、地面に描いた守護星座を輝かせた。
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「……そこだ。……祟り、呪わしく食らえ」
イミナの攻性植物が、オドロオドロしい気配を振りまき、デスナイトに毒を注入する。
「――ッ!?」
だが同時に、反撃とばかりに次々とテンフラグの赤子殺しの記憶に加え、デスナイトによる大鎌の一閃が後衛を攻め立てた。信乃はその半数程を回避し、蝕影鬼も壁役として果敢に前へ出るが、着実にダメージが蓄積もしている。
「……悪趣味ですね……止むを得ませんか! アンヴァルさん、ご無事ですか!?」
脳裏を過る、幾つもの悪夢。無残に失われていく命。泣き声。それらを振り払い、テンフラグに贖わせるため、信乃は一時後退しつつ、分身の幻影を纏って態勢を立て直す。
「大丈夫ですよ。こいつ一本いっときますから。あと3日は完徹できますよ!」
アンヴァルはニカッと笑いながら、ガジェットから取り出した、キンキンに冷えた栄養ドリンク剤を飲み干す。
「特製モンブランを召し上がれ!なのですっ」
マロンが、悲劇の末に生み出された特性モンブランをデスナイトの口に捻じ込み、心神喪失に追い込んだ。
(「初期にいたDf5体の内、3体は撃破。残るデスナイトは中衛に1体、後衛に2体だね! まだ仲間の皆を守り切るには数が多いけど、出来ることをやるよ!」)
そしてシルディは、破剣が付与されたファミリアシュートで、壁役のデスナイトの防御を崩し、そこにアリャリァリャが喉元に喰らいつき、魂諸共に食い千切った。
「おいしい!」
歓声を上げるアリャリァリャ。
だが、朗報はそれだけに止まらない。
「鬼人さんとルーシィドさんが来てくれましたです!」
マロンの言葉を合図に――。
「…刀の極意。その名、無拍子」
遺物を中心に蒼きオーラを放つテンフラグ。その傍らにいた消耗したデスナイトの首が、無駄のない刃の一振りで弾け飛ぶ。鬼人が躍り出ると、死神と共に執拗に後衛を狙っていた猛攻を受け止めた。
「ぐっ、お、お主らがワラワの前に再び姿を現したという事は……!」
「はい。赤ちゃんは、ヘリオンデバイスにて召喚したレスキュウドローンで離脱させて貰いました。鬼人様がルートを調査しておいて下さったおかげでもありますねわね」
ルーシィドが、全面の信頼を寄せていた仲間達に視線を向ける。彼女と幾多の戦場を潜り抜けてきたアリャリャ、アンヴァル、シルディ達は、今作戦における最大の朗報に、しかし互いに当然とばかりに微笑みで返す。
ルーシィドの大自然の護りが、シルディを癒した。
「後はてめぇらを始末するだけだぜ。赤子の命に直接触れて、てめぇらへの怒りは増してるんだ。覚悟しろよ?」
仲間が完全の体勢を整える間を生み出すべく、鬼人が緩やかな弧を描く斬撃を放ち、果敢に攻める。
シルディが素早くトラウマを解除し、マロンもオーロラの光で一気に勝負を決めるための準備を。
ケルベロスの一気呵成の攻撃が続き、テンフラグを庇う前衛の排除に成功。
「ギヒヒヒ、その下品ナ身体を切リ刻ンで、ペシャンコにしてヤルヨ! オークのメスは珍しいカラ、おいしく食べテ供養してヤル! ダイ、コン――おろーし!!!!」
「決して、決して他意はありませんが、お付き合いしますよ、アリャリァリャさん!」
コンビネーションでアンヴァルが描いたグラフィティを力に、アリャリァリャがテンフラグに猛烈な勢いで連撃を加える。巻き上げられた砂塵は、さらに粉塵爆発を引き起こした。
「だ、誰がオークか!? ワラワをあのような汚らわしい存在と同一視しおって!」
炭化しかけた四肢の苦痛に悶えながら、テンフラグは起死回生の一手を探っている。
「――歪な儀式を行う貴様は……やはりワタシ達からすれば似たようなもの。敗れた蝕影鬼の分まで、祟らせてもらうまで……!」
しかし、テンフラグの負傷の色が当然色濃い。バッドステータスを解除する術がなく、その生気に満ちた豊満な青い肢体は増殖したパラライズにより縛られていた。イミナの達人の一撃が直撃する。
「あの子の未来のためにも!」
信乃のドラゴニックハンマーから轟竜砲が火を噴いた。
「胸糞悪いてめぇとも、もうオサラバだ」
空の霊力を帯びた鬼人の振う業物が、テンフラグの命を削り取る。
「アリャリァリャ様、彼女にトドメを!」
ルーシィドのゴッドグラフィティが、さらに火力を高める。
テンフラグは『死』の恐怖に慄いた。
ケルベロスと遭遇する可能性の低い作戦だったはずなのに……! と。
「……捕まえたぞ。祟祟祟祟祟祟祟祟祟……!」
しかしその足は動かない。イミナの操る攻性植物によって注入された毒により、既に虫の息でしかないのだから。
「ウチが喰っテいいのカナ!? 天ぷらとかイイんじゃあネーカナって思ウ! それじゃあ……いただきまス!」
哄笑、殺意、好意、戦闘欲、食欲。アリャリァリャの小柄ながら鋭利に錬成された全身から溢れ出したそれらはテンフラグを圧倒し、猛烈な連撃と爆炎が、テンフラグを物言わぬ肉塊へと変える。
見届けた鬼人は静かに、希望のロザリオに手を添えた。
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「この小さな子の命を救ってくれてありがとうございます」
解除された自身のデバイスに、ルーシィドが心からの感謝を。ベビーベッドに寝かされた赤子は、すやすやとした寝息を立てている。それを見守る彼女の表情は、どこか母性を感じさせるもの。
「わあ~、やっぱり赤ちゃんかわいいね!」
シルディもまた、そのあどけない寝顔に目を蕩けさせていた。
「この子の保護をお願いしないといけませんね。出来れば母親が見つかってくれればいいのですが」
生後間も無く鹵獲されたマロンとしては、家族の居所が分からない状況に気が気ではない。その辺りは、既に彼女と鬼人が中心となり、要請済みだ。
「助ける事が出来れなによりです」
「怪我もなく、元気そうですね」
信乃とアンヴァルも安堵を。
イミナが少し離れた場所から静観している。
「……」
アリャリァリャは戦利品を回収すると、いつもの笑顔のまま、赤子を見つめていた。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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