シャイターン襲撃~修羅道に堕ちるは戦乙女

作者:屍衰

●血の、涙
 刀を振るう。ヒュウッと空気の漏れるような声にもならない音を立てて、首が舞い血飛沫が跳ねた。
「あ……ァ……」
 ヴァルキュリアもまた声とも取れぬ声を上げながら、恐怖に震える瞳で見つめてくる少年をジッと見返す。
 おぞましい光景を見て、それでもなお唇を噛み締め恐怖を殺し、背中に妹を隠す姿。いつもの彼女なら、勇者に相応しいそんな彼に好感を憶えていたかもしれない。如何なグラビティ・チェインの収集が目的と言えども、見逃したかもしれない。
 そもそも、こんな略奪はヴァルキュリアとしての矜持にも、自己の信念にも欠ける。勇者を生み出すことが、自分たちの役目のはずなのだから。
 それでも、刀は容易く振るわれる。そして、二つの生が奪われて、グラビティ・チェインが満ちていく。
「ァ……う……」
 苦悶に満ちたような掠れ声だけを上げる裏腹に、体は動いていく。ヴァルキュリア――ヴァルトルーデは、血を浴び狂ったように淡々と人々を斬殺し続ける。
 しかし、こんな道を望むのが、彼女だったろうか。その答えを彼女は思うことも、持つこともできなかった。
 ただ、彼女にできることは命令通りに人々を殺戮することと、もう一つ。
 虚ろな瞳から、血の涙をとめどなく溢れさせるだけ。
 ケルベロスよ、どうか意思なき私たちを殺して止めてくれ。そう願うかのように。
 
●新たな魔手
 地球は常に狙われている。まさに、それを実感せざるを得ない状況に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は頭を痛めていた。
 だが、このまま手をこまねいているだけは愚策だ。
「お集まりいただき、有難うございます。現在、城ヶ島の作戦も進行中ですが……」
 まるで、間隙を縫うかのよう。今度は、エインヘリアルが動きを見せ始めた。
 鎌倉防衛戦で猛威を振るったザイフリート王子も、敗戦を理由に失脚。代わり、別の王子が地球への侵攻を仕掛けてきたらしい。
 侵攻の内容としては、ヴァルキュリアを従えての襲撃だ。しかし、ヴァルキュリアたちの様子が常とは異なっている。それは強制されているに等しい動きだという。
「演算予知によると、洗脳に近いものを受けているようです」
 そして、そこには新たなデウスエクスの影が浮かび上がってきた。
 新デウスエクス『シャイターン』それが新たな敵の種族。エインヘリアルに滅ぼされた妖精八種族の一つである。
 都市内部で暴れるヴァルキュリアに対処しつつ、シャイターンを撃破することが今回の作戦の大筋だ。
「本任務では、東京都多摩市に現れるヴァルキュリアの対処に当たっていただきます」
 多摩市上空の魔空回廊から現れた十二体のヴァルキュリアは、三体の四組に分かれて一般人の虐殺を開始する。そして、そのうちの一組すなわち三体が相手となるだろう。
 ヴァルキュリアは邪魔者が現れた場合、そちらの排除を優先して行うように命令されていることまでは判っている。ケルベロスがヴァルキュリアに戦いを挑めば、ヴァルキュリアが一般人を襲うことはない。
「ヴァルキュリア三体は、それぞれが日本刀、槍、ゾディアックソードで武装しています」
 順に、攻撃的、支援的、防御的な動きで立ち回る。一体一体と戦うよりも遥かに難度が高いことは確かだ。
 ならば避けるために、戦う以外の選択肢はないのか。
 もちろん、ヴァルキュリアは意思疎通が可能な相手である。説得して手を引かせるという手段も使えたかもしれない。だが、今は。
「残念ながら、今のところヴァルキュリアたちの洗脳を解除する術は見つかっていません」
 都市内部にいるシャイターンが元凶であることは確かだ。存命である限りは洗脳も強固であり、躊躇なくヴァルキュリアはこちらを殺しに掛かるだろう。
 ――それが知己の相手であろうと。
「シャイターンが撃破されれば、何らかの隙ができる可能性もありますが……」
 しかし、それも確実とは言えない。付け入るにはそこしかないだろうが、希望的観測に過ぎない。
 そして、彼女たちを助けることに固執するのは、本末転倒だ。彼女たちもまた、侵略者の尖兵に過ぎないのだから。心を殺し鬼になる。もしもの事態に必要な気概かもしれない。
 そちらの説明に気を取られていたのか、セリカは思い出したように付け加えた。
「一つ、忘れていましたが」
 敵の増援の可能性もあるらしい。一体ではあるが、それでも強敵が増えることには変わりない。これに関しては、注意を怠らず考慮した戦術を考える必要があるだろう。
 説明が終わるも、セリカの表情には憂いの色が浮かんでいる。
「ヴァルキュリアたちも、こんなことを望んでいないのかもしれません」
 もし、救いを見出すのならば。殺してでも止めることさえ望ましく見える。例え、それが悲劇の結末であったとしても。

 ――戦乙女は修羅への道を歩まされる。その未来の結末は、ケルベロス次第。


参加者
ヴィヴィアン・ウェストエイト(バーンダウンザメモリーズ・e00159)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
カディス・リンドブルム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e02140)
如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
林・瑞蘭(彩虹の戰巫女・e15365)
ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)

■リプレイ

●救いを願いて
 光の羽を広げて、戦乙女が空を舞う。金色の髪がふわりと舞う。真っ直ぐに向かう先は、星の糧。命も力も何もかもすべてを簒奪するべく風を切る。
 白磁のような肌に伝う、二筋の涙は紅に染まっていた。そして、その瞳には何も映さない。空虚な瞳は獲物を探すだけ。
「ヴァルトルーデ!」
 ヴァルキュリア――ヴァルトルーデは不意に聞こえた声の方へと顔を向ける。別に、名前を呼ばれたからではない。戦意に満ちたその声に、ただ反応しただけだ。
 下から睨み付けている林・瑞蘭(彩虹の戰巫女・e15365)を確認すると、急降下する。アレは邪魔だ。そう言わんばかりに。
「戦乙女の矜持はどこへ捨てた!」
 その声は届かない。刀を抜く姿が見える。襲いかかり振り下ろされた刀は、月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)の鉄塊剣に弾かれた。
「ハッ。で、修羅に堕ちた気分はどうよ? って、聞こえちゃいねぇな?」
 爽快で快楽に満ちて。それだったら、いっそ良かったのかもしれない。ボタボタと血の涙を零す彼女の心は空っぽの伽藍堂。
 その痛々しさすら感じる姿に、ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)が唇を噛む。前にあった時は微笑んでくれた。勇者を連れて帰れず、落ち込んだような表情を浮かべていた。真剣に勇者を探そうと凛々しさを湛えていた。それが、今はない。
「目を、覚ましなさいよ……!」
 望んでいないのだ、こんな再会は。きっと、同じように微笑みと共に再会できるのだと期待していた、信じていた。でも、それは叶わない。
 そして、応えない。誰が厄介か、品定めするように刀を構えてゆらゆらと動くだけ。
 如月・シノブ(蒼の稲妻・e02809)もまた彼女の姿に、苦い想いを抱いていた。あの時に、伸ばした手を彼女が取っていれば。いや、無理矢理にでも連れ去っていれば。そんな後悔が反響する。救わなければという強迫観念すら憶えるほどに。
「ふん。今更、泣いて。身勝手も良いところだ」
 殺気を吐き捨てながら、ロイ・メイ(荒城の月・e06031)は呟く。泣いてまで救いを乞う姿にもはや面影はない。それを殺せ殺せと、地獄は告げる。地獄が代替している心臓は、憤怒を燃料に燃え盛る。
 それでも、殺さない。仇の同種を前にして、殺せない事実はもはや覚悟に近い。
「俺も気に入らんな。殺してやりたいくらいに」
「何故、君の方が殺意に満ちてる」
 ヴィヴィアン・ウェストエイト(バーンダウンザメモリーズ・e00159)の態度を見兼ねてか、ロイが告げる。胸元に光るドックタグを見て、ロイは一息呼吸を挟む。互いに生きて帰ろうと、誓ったのだ。今はその想いだけを頼りに、殺意は胸に秘められそうだった。
「やぁ、麗しき我らがヴァルトルーデ。移り気ダンテのお出ましさ」
 重くなり始めた雰囲気に、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)がにへらと笑みを浮かべて声を掛けた。本心はすべて笑みの裏側に隠す。それでも、ただ彼女たちを助けたいという想いだけは、誰よりも行動に移してきた。
 だが、返ってくる答えは、重圧を伴うほどの殺意。ヴァルキュリアたちは武器を構えて今にも飛び掛かる体勢を取る。
 戦いまではもう秒読みだ。カディス・リンドブルム(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e02140)は前に立ち、戦乙女の振るう殺意から味方のすべてを守らんと盾を構える。
「我が名はカディス! ヴァルトルーデ、来い! 汝を守るため、我が盾を貫かせはせぬ!」
 武人としては同情しよう。されど、この盾は殺意を拒む。誰も殺させず、誰も殺さずに守る。戦乙女の誇りと矜持を汚さぬためにも。
 その言葉を皮切りに、ヴァルキュリアたちが刀を剣を携えて切り込んできた。

●不殺の信念、十七分の死闘
 斬り込むヴァルトルーデの刀に陽光が煌く。ランジと鎌夜の鉄塊剣が害意を拒み、互いに切り結ぶ。数十もの閃きに対して、重々しい斬撃で薙ぎ払う。
「気が済むまで、付き合ったげる! だから!」
「木偶の剣だな! 軽いぞ、ヴァルトルーデェ!!」
 剣を振るい弾き飛ばすと、割り込むようにもう一体が入ってくる。その戦乙女の体には守護の光が満ちいていた。後方から支援するように、前に立つ二人の戦乙女へ魔力の防壁を紡いでいる。
「温いぞ」
 それを食い破るように、ヴィヴィアンが斬り込む。重々しい一撃は守護の力すら断ち切るが、剣を手にした戦乙女は受け流して逆撃を放つ。振るわれる剣閃をカディスの盾が阻み守る。竜の一撃に比べれば軽い。油断はならぬが、それでも十分に受けられるだろう。
 回復しようとする後ろのヴァルキュリアへ、スウが動きに合わせるように爆破へ巻き込む。慌てるように自分を回復したところで、弱まった敵の防御を突きながらロイが攻め立てる。ヴァルキュリアたちも機械のように猛攻を振るい、瑞蘭が傷を癒していく。開始時点、戦況は五分と五分。
 だが、互いに拮抗できていたのは最初の六分。壁になるようにこちらの攻撃を受けていた戦乙女の体が、少しふらつき始めてから変わる。
「チッ、当たらねぇか」
 ヴィヴィアンの拳が空を切る。手を抜く一撃が当たらず、悪態混じりで吐き捨てる。手加減である以上はその分だけ勢いが乗っていない。敵からすれば、避けるのも容易くなる。
 そのまま、剣でケルベロスたちの攻撃を弾いて仲間を守るように動くヴァルキュリアをなかなか倒せず、苦戦は続く。そして、拮抗は徐々にヴァルキュリアたち側へと傾いていく。
 だが、それは強い意志の顕れでもあった。彼女たちを殺すまいとする、信念。
 十二分。逆に、防戦一方となり始めた。
 敵の攻撃を防ぎ続けたカディスはすでに一度倒れ、不屈の意志で立ち上がっただけ。もちろん、仲間を庇い続けた鎌夜とランジの全身にはびっしりと刀傷が刻まれている。ひたすら紙兵を散らし気力を味方へと注ぎ続けた瑞蘭の額には、大量の汗が滲んでいる。攻撃的に立ち回るヴィヴィアン、ロイ、シノブだが、想いが枷となりなかなか当たらない。拮抗しているどころか、相手の回復量が上回っているときさえある。
 十四分。ランジの剣を弾き飛ばし、鋭い踏み込みでヴァルトルーデがそのまま切り伏せた。
 十五分。カディスが幾多もの剣閃を前についに膝を付く。
 十六分。シノブが何とか壁のように立ち塞がっていた戦乙女を地に捩じ伏せるもまだ健在、代わるように鎌夜が剣ごと体を断ち切られる。
 十七分。限界に近い。誰もがそう思った。
 ロイへとヴァルトルーデの刀が奔る。避けようにも鋭い一太刀が腹部を斬り裂く。溢れ出る血を目にして痛みと共に殺意が溢れる。殺そうと反射的に鉄塊剣を振り上げた瞬間、懐のドッグタグが目に入った。
 振るった斬撃に殺意はなく、しかし、故に避けられる。
 手首を返し、そのまま殺し返そうとヴァルトルーデが刀を振り下ろす。
「させるかよ」
 邪魔をするかのように放たれたスウの念動による爆発で刀が弾かれるが、弾かれたまま勢いを乗せて回転しつつ、ロイの胸めがけて刀を突き込む。
「止めろ、ヴァルトルーデ!」
 シノブが制止したその瞬間。ピタリと刀が止まった。

●彼岸に繋ぎて
「な、誰か、私を呼……?」
 混乱したかのように、狼狽するヴァルトルーデ。ロイの目の前にある瞳は、理性の光が灯ったり消えたりしている。
「ロイ、何を呆けてる! 下がれ!」
 再び刀を振り上げていたヴァルトルーデを容赦なく蹴り飛ばし、ヴィヴィアンがロイを掻っ攫うようにして距離を取らせる。地を滑り体勢を整えながら、ヴァルトルーデは左手で頭を抑え。
「あ、う、私、を……今の内に、私を殺せ!」
 そう叫んだ。カタカタと震えつつもこちらに向けている右手の刀と、未だ溢れている血の涙から察するに、完全に洗脳が解けている訳ではないだろう。
 だが、自分を殺せとはそんなこと望んでない。望んでいないから立ち上がる。
「ふ、ざけんじゃ、ないわよ……!」
「けっ、戦乙女の矜持ってのは飾りもんか何かかよ?」
 何とか意識を取り戻したランジと鎌夜が鉄塊剣を杖にしながら立つ。戦うことはもはや不可能だが声を掛けるだけならできる。
「いい加減、目を覚ましなさい!」
 叱咤にも似た声はまだ届かない。
「な、にを迷、って……なら、ば!」
 くるりと、ヴァルトルーデは自分の刀を反転させ、己の胸目掛けて振り下ろす。
 鮮血が飛び散る。
「な。ぜ……」
「そんな風に死なれちゃ、こっちが困るねぇ。まだ、あの日の質問にも答えてもらってないし」
 スウの右腕を血が伝う。骨にまで食い込むほど強く握り締められた刀は止まっていた。
「ほら、こんな所で使われてる場合じゃないだろう? 同胞も王子も戦ってるんだ」
「そうだ! ザイフリート王子も、我らの仲間も命懸けで戦っているのだ!」
「殿、下……ザイ、フリート、様……」
 瑞蘭の声に、頭を振る。
「こんな所で果てるのが、お前の本懐か?」
「世界はお前に生きろと言っている。それでも、死にたいなら引導を渡してやる」
 ヴィヴィアンとロイの声に違うと叫ぶ。こんなところで死ぬわけにはいかぬと。
「ならば、戦乙女の矜持を見せてみろ、ヴァルトルーデ!」
「う、ぁ……うぁあああああ!!」
 瑞蘭の発破に、ヴァルトルーデが頭を抑えて叫び声を上げ膝を付く。
 カラン、と。刀が地に落ちた。
 荒い息を吐きながら、何とかケルベロスたちの方へと顔を向ける。
「感謝、する。瑞蘭。迷惑を掛けた」
 そして、目元の涙を拭う。その瞳から、流れていた血の涙はもう止まっていた。
「後の二人も、助けてやろう」
 盾を支えにして立ち上がったカディスの言葉に、ヴァルトルーデが頷く。
 程なくして、混乱していたヴァルキュリアたちはケルベロスたちの呼び掛けで意識を取り戻した。

 戦々恐々とする二人のヴァルキュリアに対して、ヴァルトルーデが率先してケルベロスたちの前に立ち礼を告げる。
「なぁに、このくらい楽勝さ」
「良かったよ、お前たちを助けられて」
 スウが何でもないことのように手を振って、シノブが胸をなで下ろす。
 踵を返してそのまま撤退しようとしたヴァルトルーデを二人は呼び止めた。
「なぁ、もう一度聞くけどさ。ヴァルトルーデ、お前たちを俺たちに救わせてくれないか?」
 そう言って、シノブがヴァルキュリアたちへと手を差し伸べる。
 二人のヴァルキュリアは何を馬鹿なといった表情をしていたが、ヴァルトルーデだけは違った。ただ、じっとシノブの顔を見る。
「……私たちは敵だぞ? 貴方たちの知っている誰かを殺したかもしれない」
 その言葉に、ロイがぐっと唇を噛み締める。そうだ、アレは地球を狙う侵略者の尖兵。
 だが、シノブから見れば違う。
「それでもだ」
 だから、きっぱりと告げる。
「それとも、これでもまだ俺たちはお前さんの勇者になれないのか?」
 スウがヴァルトルーデの瞳を正面から捉える。
 真剣な表情を見て、ヴァルトルーデは瞳を瞑り、一息深呼吸した。
 ヴァルトルーデの肚は決まっている。
「貴方たちは」
 一拍を置き、そして。

●戦乙女の進む路
「――私たちの勇者だ。私は貴方たちに付いていこう」
 そう告げた。
「る、ルーデちゃん、正気!?」
 ケルベロスたちが声を発するより前に、もう一人のヴァルキュリアが声を上げる。無理もないだろうか、敵地同然の場所へ向かうと仲間が言い出したのだ。洗脳から解いてくれたのは感謝するが、その程度でと言うヴァルキュリアへゆるりと首を振る。
「私たちを殺した方が楽だったはずだ。それでも――」
 血に塗れ傷付くことも厭わず、ヴァルキュリアたちの命を最優先してくれた。殺さずに戦うことがどれほど厳しい戦いだったのかは想像に難くない。事実、目の前に立つ彼らは夥しいまでの傷を負っている。そう、命を掛けて自分たちを救ってくれたのだ。
 だから、ケルベロスたちを信じてみる。
 当の二人はまだケルベロスたちへの警戒を解ききれない。自分たちに死という概念を突きつけてくる存在に、そう簡単には向き合えない。
 渋面を作る二人にヴァルトルーデは背を向けると、後ろから溜め息が溢れた。
「君たちも、どう? 一緒に来ない?」
「……軟派も大概にした方が良いわよ、ケルベロスさん」
「ありゃりゃ、フラれちゃったかな、こりゃ」
 ヘラヘラと軽薄を装うスウの言葉に、ヴァルキュリアは軽口を叩いてやんわりと拒絶する。
 そして、そのまま光の羽で宙に舞い、二人は彼方へと飛び去っていった。
 振り返れば情が残ると思ったか、ヴァルトルーデは振り返ることもなく、そのまま刷いていた刀を外しケルベロスたちの目の前で跪く。
「勇者よ。我が身命に誓って、貴方たちと共に戦おう。我が身は貴方たちに委ねる、だから」
「違うだろ、ヴァルトルーデ」
 最後まで言い切る前に、シノブが制する。顔を上げたヴァルトルーデの前に、改めて手が差し伸べられる。
「こういう時は、ただ『助けてくれ』って言うだけで良いのさ」
 ――もう、君は俺たちの仲間なんだから、と。
「あ……そう、か。そうだな」
 どこか、ふっと肩の荷が下りたような表情を浮かべ、しっかりと両の手でシノブの手を握る。
「どうか。どうか、私たちを、姫を、殿下を、助けてくれ、頼むっ!」
「えぇ、友の頼みを断るなんてことしません」
「任せとけ」
 ヴァルトルーデの懇願に、瑞蘭とシノブが快諾する。
「色々、話たいことはあるけど」
 それよりもと。
「俺はシノブ。如月・シノブだ。お前の名前は聞いていたけど、俺の名前は言ってなかったし」
 ついでだから、このまま自己紹介でもしながら帰ろうかと告げて、ロイの方を見る。渋面を作りつつも、ロイは律儀に答えた。
「ロイだ。……正直、お前たちのことは好きになれん」
「たち? ん、まさか、誰か親しい人を選――」
「それ以上、囀るな。それとも、その口を縫い合わせて欲しいのか?」
「す、すまない。悪気はなかったんだ」
「失言には気を付けろ。こいつにも色々あるし、お前は立場が立場だからな」
「あ、あぁ」
「ヴィヴィアン。ヴィヴィアン・ウェストエイトだ」
「以後気を付けよう、ヴィヴィアン、ってアイタっ」
「何、肩肘張ってんのよ! 私はランジよ。とりあえず助けたのは貸し一つだからね」
「えっ。そ、そうだな。うむ、私にできることなら何でも」
「って、真面目に受け取りすぎ!」
「ケッ、良い子ちゃんにも程があるだろよ? 俺は月神・鎌夜、ま、よろしく頼むぜ?」
「改めて、林・瑞蘭です。これからは、よろしくお願いしますね」
「スウ・ティーってもんですよ。どうぞ、よろしく。いやー、苦労した甲斐があるってもんですよ」
「うむ。一件落着だな。俺の名はカディス。何、後は俺たちに任せると良い」
 お互いのことを話しながら、彼らは帰途に着く。
 戦乙女は修羅の道から下りて、頼れる者に寄り添うように歩み行く。
 ――未来を、ケルベロスに委ねて共に。

作者:屍衰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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