●黒薔薇の傀儡師
和歌山県海南市――かつて焦土地帯と化した一帯は、解放より一年の期間を経て、緩やかに復興し、元の町並みを取り戻しつつあった。
輝くような碧と蒼――山と、海と、そのどちらも望めるこの地に。今まさに、不穏な一群があった。
何処かの林の中――怯えを隠さぬ震えた娘がいた。
如何に力を抜こうと、逆に力もうと、歯が鳴るのを止められぬ。ただただ祈るように指を組み、奇跡の訪れを待っていた。
彼女を取り囲むは骸骨の死霊。大仰な盾と剣を備えたものどもが何の感情も浮かばぬ眼窩で、確りと守りを固めている。到底、逃げ出すことなどできそうにもなかった。
そして――娘の傍らには、玲瓏なる美貌をもつ男が、いた。
「最期に眺めるに相応しい、美しい光景でしょう?」
連れてきた娘に、うつくしく笑い、語りかけ――男は時を待っていた。
実際は数分の事であっただろうが、囚われの娘にとっては、人生で最も長い時間だったに違いない。
「さあ、刻限です」
男が告げる。途端、娘の身体が大きくわななく。四肢を括った細い糸が、ぴんと音を立てて、彼女を分割したのだ。
男の表情は一切変わらぬ。無情なる殺害――驚くべきは、その後、娘の亡骸を中心に、起こった現象だ。
娘を中心に、大地に小さな穴が空いたかと思えば、亡骸を引き込み、その底へと収めてしまう。すると、そこから噴き出すように、水が溢れた。
「デスバレスの水よ、生贄を飲み干すがいい――」
男が歌う儘に。
穴より膨大なデスバレスの水が溢れ出し――止めどない奔流が、辺り一帯を押しつぶし、復興した地を容赦なく破壊しながら――死の水で満たすのであった。
●新しき任務
「日本列島防衛戦、ご苦労だった。見事な勝利といえよう」
労いを口にする雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)ではあるが、その表情には緊張があった。
「ああ――冥王イグニスの言葉通り、死神が動き出した」
金眼を鋭く細め、彼は続ける。
予知は連動して、ふたつ。
兵庫県は日本海側に存在する、鎧駅に死神の一大拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが現れるというもの。
そして、西日本にあった死神の旧ミッション地域に対し、死神の襲撃が行われる――というもの。
「奴らの目的は、旧ミッション地域を襲撃する死神達を呼び水に、デスバレスの海を地上に発生させることだ」
つまり、旧ミッション地域を襲う死神を討伐せねばならぬ――幸い、ケルベロスブレイドによって強化された予知により、正確な場所と時間は特定できている。
「よって貴様らは、出現場所に潜伏し、適切なタイミングで奇襲を仕掛けて貰う――ただし。万が一にも予知から状況が変わることがあれば、阻止できなくなるやもしれん。それだけは、忘れるな」
低く警告し、次の説明に移る。
「貴様らに向かって貰う旧ミッション地域は、刑天焦土地帯と呼ばれていた――和歌山県海南市。私が予知でみたのは、山の端だった」
おそらく何処かの寺院に繋がる林の中。身を隠す場所には困るまい、と辰砂は告げる。
「そこに、人質……否、生贄というべきだろう、囚われの娘がひとりいる。その娘の命が儀式の鍵となるようだ。無論、生存したまま救助して貰わねばならない」
死神どもは、どうやら儀式を行う刻限を揃えねばならぬらしく、その場所に陣してから――数分の猶予がある。
その間に、娘を救出し、死神を倒す、という段取りになるだろう。
指揮をとる死神の名は、ジェレミア・グレイ。特徴は、人形遣いと称するが相応しかろう能力――糸を操り、戦う。時に口ずさむ童唄は、人の心に歪みをもたらす。
また、配下にデスナイトが十体いる。純粋に護衛らしい能力を備えた、無骨な兵だ。
指揮官であるジェレミア・グレイの強さは程々といったところだ、と辰砂は言う。圧倒的な強敵ではあるまい、と。
ただ、今説明したように、被害者の娘の救出が必須であること。敵の数が多いことなど――無策で挑める話でもない。
「だが、貴様らにおいて、問題は無いと考えている。ひとつの命を守れば、多くの命が守れる。天秤にかけることすら不要な作戦だ――ああ、くれぐれも、よろしく頼む」
最後にケルベロス達を一瞥して、辰砂は説明をおえるのだった。
参加者 | |
---|---|
大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974) |
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) |
城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
●奇襲
ぬるい日差しに暖まった緑が、生命の輝きを放ち。望む海岸線は穏やかだ。
絶体絶命の危機に瀕しながら、この一帯はとても静かであった。
足下で怯える娘の様子など、歯牙にもかけず、それを死神は涼しい貌で一瞥し、満足そうにしている。まるで、一切の憂いもないかの如く。ジェレミア・グレイは黄金の双眸を細め、滅び行く――或いは生まれ来る、デスバレスの泉を思い、そっと息を吐いた。
――その時だった。
木々が、ざわめく。
彼らは、不審を抱く暇も与えなかった――黄金の輝きが、視界に広がる。翼を広げてデバイスの加速を重ね。
「そこまでだ、死神――!」
強き意志を乗せたオーラの拳を叩き込みながら、アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)が高らかに宣言する。
「我々ケルベロスが、人々を守り抜く!」
彼女の存在に、浮き足立つ時間も与えず、側面より竜砲弾がデスナイトどもを吹き飛ばす。
「まったくもー、デスバレス大洪水なんてさせないんだからね! 洪水だけならともかく……いやそれも駄目だけど、人を生贄にするだなんて許せないの!」
まだもうもうと煙を吐くドラゴニックハンマーを手に、大弓・言葉(花冠に棘・e00431)が翼で羽ばたき、説教をするかのように腰に手をやっていた。
アンゼリカの拳と、言葉の砲撃で――死神と娘を囲むデスナイトどもの隊列が、僅かに崩れた。
そこへ、震えながら――しかし言葉の指示で有無を言わせず――突撃するぶーちゃんと共に、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)が戦列に割って入る。
「お邪魔しますー」
大きな金色の瞳は、敵味方の配置を鋭く見出し、力を高める。
掻き乱された空間に滑り込むは、城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)と、白銀の剣を構えたセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)であった。
橙乃が呪詛を乗せた一刀を、盾に向かって叩き込むと、出来た空間を縫うようにセレナが疾駆した。
「罪の無い人々を生贄に、デスバレスの海で地上に満たす――そのような蛮行、断じて許すわけにはいきません」
凜とした眼差しを以て死神を見据え、一直線に超加速突撃を仕掛ける。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿らを倒します……!」
前に立つデスナイトをひとまとめに蹴散らすように疾駆する彼女らに。
覚醒を促す銀色の粒子を撃ち込んでから、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が嘲笑うように炎を燃やす。
「こちらですよ、死神」
ぎしりと地を踏みしめる甲冑のグリーヴは、炎が揺らめくような形のデバイスが備わっていた。
「まずは我々を壊さないことには、彼女を殺すことはできませんのでご了承くださいね――とくにこの脚があるうちはねえ」
その詳細な全容を、死神どもは知るまいが――。
ああ、と。
冷ややかな吐息が、別の方角から聞こえ、ジェレミアは驚く。
「また初夏に大量発生する海月の様に死神が湧いてきたのね、性懲りも無い事……地球の海も人の命も汚い手に掛けるなど許しはしないわ」
黒鉄の拳銃を構えたアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が、彼らの脚を留めるように広く牽制の銃弾を散蒔いた。彼女を助けるように、彼女の伴侶たる銀髪のビハインド――アルベルトが、近くに居たデスナイトを金縛りで縫い止める。
出来た空間を、すかさず埋めるのは。
「もうひとつ、贈り物だ」
漆黒のライフル銃を二挺構えたゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)が巨大な魔力の奔流を撃ちだし、戦場を分断する。
ジェレミアへ向かうの攻撃のすべては、デスナイトが状況に混乱しながらも、彼を庇う形で肩代わりしていた、が。
アウレリアとゼフトが、既に躰を――娘と、死神の間に割り込ませていた。
●逃走
事前に配置は完全に把握しており、デバイスで怒濤と踏み込んできたケルベロスの策は、綺麗にかかった。だが、それ以上に――死神どもは、驚愕を隠せずにいるようだった。
「ケルベロス……何故、此所に」
ジェレミアは訝しげに呟く。それは問い掛けではなく、自問に似ていた。
間に合わぬといっていたではないか――そんな囁きを聞き咎めるものもなく。
慌てて隊列を組み直そうとするデスナイトよりも早く、眉をひそめながらも、反撃の糸を伸ばす――無論、娘を取り返すために。
その糸を断ち切るように、アウレリアがナイフを振るう。囚われの娘と、ゼフト両者を庇いながら、離脱を促す。
「もう大丈夫、その方と共に逃げて」
白い貌が浮かべた穏やかな微笑みに、娘は青ざめた儘、ぎこちなく頷いた。
「さあ、こちらへ。俺はあの死神なんかより貴女を優しくエスコートしよう」
ゼフトは手を差し出し、膝を折り――視線を合わせて、優しく囁く。
「大丈夫さ。貴女の涙を拭う手伝い、俺にさせてほしい」
女好きの本領発揮といおうか、流し目を送ることに、何の躊躇もない。娘は彼の顔をしげしげと見つめながら、勇気を奮い立たせるように、その手をとる。
(「だけど俺、既婚者だからな……」)
あまり調子の良いことばかり口にせぬよう、密かに心に刻み。
そんな男の密かな決意など露知らず、アウレリアは仲間に目配せを送れば、任せてと言葉が指を立てた。
無論、死神が、黙って見逃すはずはない。
「おまえ達――逃してはなりません」
デスナイトに命じる死神の声を遮るは、やはりケルベロスであった。
「冥王の目論見通りにはさせないさ――地球にはケルベロスがいる……さあ、黄金騎使がお相手しよう」
アンゼリカは言うや、素早く何かを投擲した。
敵どもの進路を遮るように、光の戦輪が弧を描く。
合わせ、踏み込むセレナの斬撃は鋭く――僅か走った疵に上へと振り下ろした剣が、圧倒的な力で構えた盾ごとデスナイトを叩き潰した。
「生贄だなんて、時代錯誤も甚だしいにも程があるとは思いませんか」
崩れゆく骨の合間から、切っ先をジェレミアに突きつけて。セレナが問う。
死神は表情を歪めた。笑みに似ていたが、今は笑っている場合ではない。彼の指示に従うデスナイトは、まだ娘を追おうと、進路に立ち塞がるケルベロスを薙ぎ払おうと突進する。
踏み込んでくるなら、狙い通り。
「猛吹雪にご注意ください、なんてね?」
環が軽やかに歌い、地雷のように忍ばせておいた喰らった魂を、竜巻上に吹き飛ばす。吹き上がる烈風はデスナイトを斬り裂く。
骨の躰に刻みつけられた小さな疵は、すべて小さな氷を纏い。
たちまち、ラーヴァが放ったミサイルが戦場を待って、次々と爆ぜていく。
その間に――ラーヴァより預かったデバイスの力で加速したゼフトは、悠々と去って行く。アウレリアの薙ぎ払った木々が倒壊して、土埃の向こうへと、まさに消えゆくように。
少なくとも、儀式にはもう間に合うまい。死神は苦々しい表情で呟く。
「く、――鎧駅の軍師殿に報告せねば……」
「余所に気を取られている場合かしら?」
言葉がジェレミアを狙って放った矢は、盾を構えながら突っ込んでくるデスナイトが受け止めた。
長い溜息を吐いて――死神はケルベロス達へ、強い殺気の滲む視線を向けた。
「もう良いです。おまえ達――木偶は木偶なりに、私の盾となりなさい」
●盾
デスナイト達に盾を叩きつけられぶーちゃんは弾かれるように空を漂った――同じく、環は。気力を溜めて、ただ耐える。
「届けギフト!」
四色のハートが舞い踊り、ぶーちゃんを中心に四つ葉を作る。
「大丈夫? 朱藤ちゃん――あ、まだまだ頑張って、ぶーちゃん!」
二人にそれぞれ言葉が声をかけると、その差にぶーちゃんがふええと震える。そんなやりとりに、にこっと環は笑みを返して、敵を見据えた。
セレナが超加速突撃で蹴散らした敵を、アンゼリカが、広げた翼から聖なる光を放って罪の影を深める。
負傷の度、盾を翳して庇い合うそれらへと橙乃が槌鉾を叩き込み、更に砲撃形態へと変形させたハンマーを抱えた、ラーヴァが続く。
戦場を割るような轟砲が、足止めどころか、盾ごと吹き飛ばしていく。
「おや、効き目がありすぎましたかねえ」
ラーヴァが挑発すれば、
眉を寄せながら、ジェレミアは歌を紡ぐ。美しくも何処か歪んだ邪声であるが、それでデスナイトの疵は癒えていく。刻みつけた戒めも、幾分か薄められてしまう。
「大丈夫ですよ、まだまだありますからねえ」
ラーヴァは、けろりと零してみたものの――ケルベロス達の思う儘には運ばぬ様子で。状況は彼らに優勢であるが、巧く指揮官を狙えずにいた。
環とぶーちゃんが揃って攻撃を退けるも、鬱陶しく詰めてくるそれらを引き剥がせずにいた。言葉が援護に加わりつつ、ジェレミアを狙うも、これも盾を一掃せねば、思う通りには進まなさそうだ。
アンゼリカとセレナの攻撃は苛烈だが、それをあちらが守りに徹することで、紙一重で凌いでいる状態――。
尤も、被害者の救出は既に成している。状況でゆけば、此方が勝っている。足りぬは一気に形勢を傾ける手数であるならば、直に解決する。
「慌てず、片付けてこ!」
言葉が手を叩いて皆を鼓舞する。
そうですね、と環が笑んで、構えを直した時。
彼方より、乾いた銃声が数発、響いた。
デスナイトどもが数体、銃弾に頭部を撃ち抜かれたように、ぐらりと揺れた。
そこへ、オウガメタルを纏った男が強く地を蹴り、一息に距離を詰める。そちらへの警戒を怠っていたデスナイトを一体、掴みかかるように、殴り飛ばした。
砕けて崩れた死神の盾を、容赦なく踏み抜いて、ゼフトが振り返れば、ジェレミアはますます不機嫌そうな表情を顕わにした。
「お待たせしたかしら……?」
傍らのアルベルトと共に、銃口を確りと敵に向けた儘――両者を一瞥したアウレリアは、微笑んで。
「あの娘さんは手筈通りに隠れて貰ったぜ」
ゼフトが帽子の影より不敵な笑みを覗かせ、救出完了を報告した。
●反撃
糸を引き千切るように、環がナイフを振るう。死神が操る細い糸は、軽く触れるだけで、生気を吸い上げられるような感覚を伴い、皮膚を裂く――オーラを湛えた身体は、薄く走った朱色の疵をすぐに覆い隠し、癒やす。
デスナイトどもが息を揃えて突っ込んで来るのを、アウレリアが引き寄せ、拳を振るう――旋回する鋭利な一撃が、その骨の顔面を破壊し打ち破れば、その無防備な背へと剣を振り下ろそうとする一体をアルベルトが念を籠め放った弾丸が貫く。
すかさず、ひとすじの魔法光線がデスナイトの盾を貫通していた。ゼフトが薄く笑うと、その横を駆け抜けたセレナが、跳躍する。
周囲は、再度ラーヴァが仕掛けたオウガ粒子で輝き、この覚醒した意識下において、敵を捉えれば――如何に無造作な一振りであれ、外さぬと、いとも易く斜めに切り伏せる。残る敵は、脚を振り上げたアンゼリカが蹴り砕いた。
「脆すぎるね……さあ、残りは」
天光色の大きな瞳を瞬かせ、残る敵を見やる。
デスナイトの援護を務める二体を残して、すべて廃した。ジェレミア・グレイは不機嫌を隠さず、表情を曇らせていたが――戦意は失っていないようだ。
操り糸をふわりと漂わせ、ケルベロス達を睨みつけ、次の指示を発する。
同時に駆け出すデスナイトへと、ぶーちゃんが頭から突っ込んでいく。
「その調子です」
臆病な彼を鼓舞するように環は言い、ナイフの刀身を軽く傾げて、敵の恐怖を写し取る。
「どんどん行くわよ!」
邪魔だったものが廃された事で、言葉はにっこりと微笑みながら、番えた矢の先より、物質の時間を凍結する弾丸を放つ。
狙いは、違わぬ。
弾丸が真っ直ぐに死神の腕を貫くと、その膚を亀裂のように趨りながら凍り付かせる。
片や、攻撃を凌がれたデスナイトは、橙乃の一刀で耐性を削がれ、至近距離から加速したセレナが蹴散らす。
すかさずアンゼリカが輝く剣を投擲して、巻き込んだ。崩れゆく骸を蹴り上げるように、ゼフトが帽子を押さえながら疾駆する。
死神は糸を――正面へと放ったが、それをアウレリアが敢えて、受ける。
「さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな。」
死神の元まで瞬時に接近したゼフトは、その額へと銃口を突きつけた。
ごりと、銃身がぶつかる事も厭わず、彼は銃を押しだしながら引き金を引く――爆ぜる一撃を、死神は後ろへ跳躍しながら、避けるが。
「おっと、何が見えたのかな――いや、今も、見えているか」
そう笑う男よりも背後で。
ぎしりと重い鋼を軋ませ、ラーヴァが弓を引く。重く巨大な機械仕掛けの脚付き弓にて、限界まで引き絞り放たれた矢は。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
高く高く、中天を、駆け――焔を伴う軌跡は、やがて降り注ぐ炎の滝となる。
何処へ逃げようと、無意味と言わんばかりに。
死神に降る炎と熱が、刻みつけられた呪を深め、暴れるように燃えさかる。
「くっ……」
追い詰められたジェレミアへ、静かに剣を向け、セレナが告げる。
「どうやら、死すべき運命だったのは貴殿だったようですね」
「ふ――私が死に……この地を抑えたところで。他の土地で儀式が成功すれば、よいのですから」
負け惜しみではあろうが。彼はそれを真実、信じているようにそう応えた。
軽く頭を振って、彼女はそれをも否定する。
「他の場所での儀式もきっと皆さんが止めてくださる」
きっぱりと放たれたセレナの言葉に、ジェレミアは心底不服――いや、驚きを滲ませた後、悔しそうな表情を浮かべた。やはり、全くの想定していない事態であるらしい。
然し、迫る剣閃は、内心など汲むはずもなく。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
発したセレナが眼前に迫っていた。魔力によって高まった身体能力によって繰り出された一閃は、夜空に浮かぶ月の如く。
死神の身体が派手な血飛沫を上げて、傾く。
「最期に眺めるに値する、美しい光景でしょう? ――貴方には過ぎたものだけれど、ね」
アウレリアがリボルバー銃を構え、微笑に皮肉を乗せた。
「氷獄の底へ沈みなさい……。」
撃ち込まれた磁気冷凍特殊弾が貫いた死神の身体の部位は爆ぜて、氷の華を咲かせた。
畳みかけるは、目の眩まん程の輝き。
「究極の光を、今、打ち込んでやるっ!」
光を帯びた翼を広げたアンゼリカが、光状のグラビティを収束させた両手を、死神へと突き出す。
「この光の中、消え去るがいいっ!」
動けぬ男の半身が、光に溶けて、消える。
それでは許さぬとばかり、地獄の炎を纏う矢が、輝きの中を貫き追いかけてきた。無事な肩を貫き灼く、言葉の一矢に合わせ――環の仕込んだ地雷が発動する。
「この綺麗な、死の海に侵されていない景色を見ながら死ねてよかったですねー」
最後に告げた環は。邪気のない笑顔に、見送られながら。
無残に引き裂かれ――死神は消えていったのであった。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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