デスバレス大洪水を阻止せよ~女鴉は死を告げる

作者:坂本ピエロギ

『これが地球の海、か……随分と醜い色だな』
 巨大な橋の上で、漆黒の鴉を思わせる死神は呟いた。
 睥睨する先に広がるのは美しい青色を湛えた瀬戸内海と、渦巻く鳴門の渦潮。
 かつて同胞が制圧したミッション地域、大鳴門橋――そこに女死神バズヴ・カタはいた。
 ――まったく、手間をかけさせてくれる。
 ――我等をヒューム・ヴィダベレブングから、こんな僻地に出向かせるとは。
 毒づいたバズヴの目に、微かな苛立ちの色が浮かぶ。
 日本中にあった死神種族のミッション地域――その1つでも無事であったなら、今頃は、もっと素晴らしい景色を眺められたものを、と。
『まあ良い。地獄の番犬どもに死を告げるのも、それはそれで一興だ』
 そうしてバズヴは、背後に控える配下を振り返った。
『デスナイト。儀式の準備は?』
『ハッ、滞リナク!』
 バズヴの言葉に応じるのは、槍と大鎌で武装した白骨の死神兵士達。
 そして彼らが大鎌を向ける先には、十名の市民が集められていた。
 死神が行う儀式のため、誘拐されて来た人々である。
『時間だ。――やれ』
 鎌が振り下ろされ、折り重なる悲鳴がぴたりと止んだ。
 そうして死体が海へ投げ込まれて程なく、鳴門の大渦の中心に現れたのは巨大な穴だ。
 冥府へと繋がるその穴から漏れたデスバレスの海水は、みるみる鳴門海峡の紺碧を淀んだ色に汚し、止め処なく溢れ出ていく。
『……始まったようだな』
 バズヴが見下ろす先、冥府の海は洪水となって地球の海域を侵し始める。
 ミッション地域も、人々の生命も、平和な日常も、一切合切を呑み込みながら。
『ふふ。やはり海とは、こうでなくては』
 地上に溢れていく死の気配を感じながら、告死の鴉は愉快そうに笑った。
 きっと今頃は、他の同胞達も無事に儀式を終えている事だろう。地球の全てが冥府の海へ変じるのに、そう時間はかかるまい。
 その先に待つであろう死の世界は、もう手が届く所まで迫りつつあるのだ――。

「日本列島防衛戦、お疲れ様でした。ですが休んでいる時間はなさそうです……つい先程、死神勢力に新たな動きが予知されました」
 ムッカ・フェローチェは緊迫した面持ちで、ケルベロス達へ話を切り出した。
 先の戦争で冥王イグニスが残した言葉が、早くも現実になったのだと。
「今回、ケルベロスブレイドから得られた予知はふたつあります。ひとつは、死神の拠点と思われる城が兵庫県北部に出現すること。もうひとつは、城から出撃した敵勢力が、死神の旧ミッション地域を襲撃する事です」
 城の名前は《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング。
 デスバレスと直接繋がるこの城は死神勢力の一大拠点であり、今回彼らはその強大な戦力を旧ミッション地域へと差し向けるのだという。
「襲撃は、西日本に点在している6エリアで行われます。足摺岬、比叡山、関門トンネル、和歌山県海南市、北九州再開発地区……そして私達の担当となる大鳴門橋です」
 死神勢力は、これらのエリアで儀式を行い、地上を冥府の海で満たそうとしている。
 対象となる地域のうち半数以上で儀式が成功すれば、西日本全土はデスバレスと繋がり、72時間以内に地球の海が冥府の大海に飲み込まれる。これは予知によって得られた確実な情報であるとムッカは付け加えた。
「皆さんはこれより大鳴門橋へ向かい、儀式を行う死神達を撃破して下さい。敵の出現する時刻と場所は判明していますので、事前に出現場所で待ち伏せを行い、敵出現と同時にこれを奇襲、撃破をお願いします」
 大鳴門橋は、車道と歩道の上下二層で構成されている。
 死神が現れるのは上層の車道エリアだ。ケルベロスは下層の歩道エリアや橋の下部など、敵の目につかない場所で待ち伏せを行う事になるだろう。その後、予知の時刻と同時に襲撃を行い、死神の儀式を阻止する……というのが作戦の流れとなる。
「死神が現れるのは車道の中央。そして誘拐された人達は橋の隅に集められています。儀式は特定の時刻に行う必要があるらしく、それまでは死神が市民に手を出す事はないと考えて良いでしょう」
 生贄となる市民達は恐怖で怯え切っており、自力で動ける状態にはない。
 そのため、殺害が行われるまでに救出を行うか、死神を全滅させる必要があるだろう。
 死神の数は全部で11体。女死神の『バズヴ・カタ』を指揮官に、デスナイトと呼ばれる兵士が10体揃っている。いずれも相応の手練れだが、ヘリオンデバイスを駆使して戦えば苦戦する事はない程度の戦闘力だとムッカは告げた。
「バズヴ・カタは、あらゆる存在に死を告げると言われる女死神です。妨害の能力に優れ、放置すれば大きな脅威となるでしょう。配下のデスナイトは前・中・後とバランスの取れた布陣でバズヴをサポートしてきます」
 容易な戦いでない事は間違いないだろう。
 だが、ケルベロスブレイドによって強化された予知と、ケルベロス達の力があれば、必ず地球の海を守れると信じている――ムッカはそう言って、作戦の説明を終えた。
「デスバレスの大洪水から地上を守れるのは、ケルベロスである皆さんだけ。死神勢力と、そして冥王イグニスの目論見を阻止するため――どうか確実な遂行をお願いします」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)

■リプレイ

●一
 その日の鳴門海峡には、一際大きな渦潮が巻いていた。
 瀬戸内海と太平洋をつなぐ潮流が描き出す、碧と白のコントラスト。その美しくも力強い景色を、ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)は大鳴門橋の遊歩道である、下層エリアの一角から見下ろしていた。
「凄い迫力だな……絶景っつぅか、若干怖いかも」
 こみ上げる畏怖の心を抑え込み、ヴィはそっと目を瞑った。
 アイズフォンが示す時間情報は、予知の時刻が近いことを示している。もうじきこの大橋には死神勢力が現れ、デスバレスの海を呼び出そうとすることだろう。
「なんとしても止めなくっちゃ、だね」
「うん。攫われた人達もしっかり助けないと」
 出撃準備を終えた叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が、ヴィへ頷きを返した。
 ジェットパック・デバイスの調子は上々だ。死神が現れたら、初手からの全力攻撃を仕掛けてやろう――愛用の喰霊刀『玉環国盛』を手に、蓮は戦場となる車道を仰ぐ。
「地球をデスバレスの海で覆う、か……死神も恐ろしい事を考えたものだよ」
「それだけ必死なのでしょう。形振り構っていられない程に」
 ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)が、相槌を打つように言う。
 先の戦争においてケルベロスに敗退した冥王イグニス。彼と死神勢力が、いかなる意図のもとに今回の事件を起こしたのか、その理由は未だ明らかでないが――。
「各地で戦う仲間のためにも、敗北は許されません。ただ前進あるのみです」
 ローゼスの抱く決意は、巌のごとく不動である。
 そんな彼のレスキュードローン・デバイスは、橋の下部に身を隠しながら、静かに出撃の時を待っていた。月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が操作する同デバイスと共に。
「攫われた市民は10名。私達のドローンがあれば大丈夫とは思いますが」
「そうじゃの。彼らが生贄にされる事態は絶対に阻止せねば」
 朔耶はローゼスに首肯すると、奇襲攻撃を担当する仲間に視線を向ける。
「背中は任せたのじゃ。こちらも救出を急ぐゆえのう」
「ああ、死神どもは1匹残さず沈めてやる」
 そう言って、物騒な笑みで応じるのは狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)だ。
 地獄化した声帯から漏れるジグの声は、苛烈で、激しく、そして熱い。エインヘリアルとの戦争に勝利した後も、彼がデウスエクスに抱く憎悪には僅かの陰りもないようだ。
「待ってろ死神。いずれてめぇらの根城に攻め入って、根絶やしにしてやる」
「《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブング……冥府に通じるという、死神の城ですね」
 鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が、仕込み雷杖『朧白夜』を手に呟く。
 デスバレスに通じる居城。冥王イグニスの策謀。
 地球を巡るデウスエクスとの戦いも、いよいよ佳境を迎えつつあるという事か。
 とはいえ、如何なる時も、自分のすべき事は変わらない。
「誰が相手でも全員守りますよ……全ての力でっ」
「そうだな。デウスエクスの犠牲者は、もう一人だって出したくないからな……」
 岡崎・真幸(花想鳥・e30330)が、静かな声で同意を返す。
 ミッション地域であったこの地を解放してから1年と約半年。ようやく平和な日常が戻りつつある鳴門海峡が、今度は冥府の海に呑まれようとしている。中四国を己の縄張りと認識する真幸にとって、それは容認できる行為ではなかった。
「バズヴ・カタ。そしてデスナイトども。……一切の容赦はないと思え」
 これより戦う敵の名前を、怒りと共に呟く真幸。
 それと同時、ヴィが予知時刻の到来を仲間達に告げ、注意を促した。
「皆、気をつけて。そろそろだ」
 ヴィの警告が飛んだ矢先、冷たい気配が周囲を包むのを、その場の全員が感じ取る。
 どうやら、死神達が来たらしい。
 ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)は、ジグのデバイスが照射する牽引ビームを浴びて、ふわりと宙に浮きあがると、
「死を恐れぬ魔術師、儀式を阻止する為に――行くよ!」
 その言葉を合図に、仲間達と出撃を開始するのだった。

●二
 番犬の群れが宙を舞いながら、大鳴門橋の戦場へと乱入する。
 人通りが絶えた無人の道路。そこへ先陣を切って飛び込んだ蓮の視界に飛び込んだのは、10を数える白骨の死神兵士と、指揮官と思しき黒衣の女死神だった。
「バズヴ・カタだね? 覚悟して貰うよ!」
『待ち伏せか……始末しろ、兵士ども。我等に失敗は許されん』
 バズヴの号令一下、隊列を組むデスナイト達。
 そんな彼らを、真幸は上空から睥睨しながら、ただ一言こう告げる。
「この海を、デスバレスの海になど変えはさせん。覚悟しろ」
 冷たい怒りを込めて放つ、時空凍結弾の一射。それが戦闘開始の合図となった。
 凍傷にも構わず指示を飛ばすバズヴ。槍と大鎌を手に応戦するデスナイトの群れ。そこへ一気呵成に攻撃を仕掛ける真幸らの後方を、朔耶とローゼスのレスキュードローンが飛んで行く。生贄に集められた人々を救出するために。
「もう安心じゃぞ。ケルベロスが助けに来たのじゃ」
「あ、あわわ……」
「助けて……助けて……!」
 市民達は恐怖の極みにあるのか、ただ震えるばかりだ。
 それを見たヴァイスハイトは発動した隣人力を駆使すると、市民の少女を担ぎ上げながらそっと語り掛ける。
「大丈夫、必ず助けるから。だから今は僕達の指示に従って」
「は、はい……」
 落ち着きを見せた少女に微笑みを浮かべ、救助を開始するヴァイスハイト。
 その背後では、槍を投げようとしたデスナイトの1体が、ビハインド『テスタメント』の金縛りを浴びて倒れ込む。ならばと大鎌を振り被る別の個体を、玉環国盛を抜き放った蓮が急襲、憑霊弧月の一閃で斬り払った。
『グガッ――』
「残念、通さないからね」
 居合を浴びて悶絶するデスナイトを挑発するように、蓮が笑う。
 その心は、牽制役である自分達へ、敵の意識を1秒でも長く引きつける事にあった。
「……あと40秒くらいが限度、かな」
「そうだね。何とかして耐え凌ごう」
 地獄炎を纏う鉄塊剣を振るいながら、ヴィが頷いた。
 最初は攻撃を浴びるだけだった死神勢力は、既にじわじわと態勢を整え始めている。準備が完了すれば、彼らはすぐにでも反撃を開始してくるだろう。そうなれば、班を分けて戦う自分達が苦戦を強いられる事は間違いない。
「逃がさないよ!」
 負傷した中衛のデスナイトを、ブレイズクラッシュの一撃で葬り去るヴィ。
 そうして視線を向けた先では、ローゼスに抱えられた女性市民が、ドローンへと載せられていく最中だった。
「さあ、貴女で最後です。乱暴になりますが舌を噛まぬよう!」
「乗り遅れた者はおらぬな? よし、離脱せよレスキュードローン!」
 二機のドローンが市民を載せて、大鳴門橋を離脱していく。
 牽制役のジグは、それを見送る間さえ惜しむように、渾身の流星蹴りを敵へ浴びせた。
 ジェットパックで加速したスターゲイザーに頭蓋を蹴り砕かれ、中衛のデスナイトがその場に斃れる。
「死神ども、地獄に落ちる準備は出来てるな?」
 飛来した槍に体が凍てつくのも構わず、狂笑を浮かべて死神勢力と対峙するジグ。
 死神の目論見など知った事ではない。デウスエクスがいるならば、それは例外なくジグにとって滅ぼすべき存在に他ならないのだ。
 奏過はそんなジグらの隊列を雷壁で包み、保護の力を付与していく。
「本番はここからです。皆さん、全力で行きましょう!」
 金属製の靴型デバイスで戦場を駆けながら、仲間を支援する奏過。
 対するバズヴは、飛び去って行くドローンに一瞥を投げると、その全身を冷たい闇で覆い始めた。力なき羊達が逃げたなら、目の前にいるケルベロスを生贄に捧げればよい――そう判断しての事であろう。
『……全ては、デスバレスの為に』
 デスナイトの鯨波で氷を溶かし、攻撃準備を完了するバズヴ。
 一方、救助を終えて駆けつけたヴァイスハイト、朔耶、そしてローゼスもまた、仲間達と共にバズヴら死神勢力と対峙する。
「デスナイトの残りは、前衛4体と後衛3体か。……頑張らないと」
「うむ。中衛を排除できたのは、幸いと思いたいのう」
 紙兵散布の発動準備を終えたヴァイスハイトに、朔耶が攻性植物を掲げながら頷いた。
 回復支援の準備は万全。そうしてローゼスはゾディアックソードを手にケンタウロス座の加護を敷きながら、高らかに告げる。
「赤き風はここに戻ったぞ! もはや貴様らに勝ちは無い!」
 これより始まるは、命をかけた戦いだ。
 負ける訳にはいかない。退く訳にもいかない。
 然らば、今――臆す敵をこそ蹂躙せよ!

●三
 大鳴門橋を舞台に、激突の火花が舞い散る。
 バズヴはケルベロスを並ならぬ強敵と見做したらしい。デスナイト達に指示を飛ばすと、一気呵成の猛攻に転じてきた。油断も慢心も排した全力の攻めである。
「支援は引き受けました。皆さんは攻撃に集中を!」
「リキ! 敵を瘴気で包んでやるのじゃ!」
 対するケルベロスもまた、一歩も譲ることはない。
 ローゼスの描く守護星座の保護が、朔耶の攻性植物が実らせる黄金の果実が、被弾の集中する前衛を集中的に回復していく。ヴァイスハイトは彼らに交じって紙兵を散布しながら、戦況を静かに俯瞰した。
 毒、炎、氷、そして破剣。敵の攻撃はいずれも脅威そのものだ。
 ならば、それを上回る回復で対応するのみ。
「ヴィさん、今!」
「了解だ!」
 紙兵の力で氷を溶かしたヴィが、地獄炎の火球を生成する。
 狙うは後裔、朔耶のオルトロスが放った毒気を浴びた1体だ。
「これ以上……やらせるか!」
『グッ――』
 生命啜る炎弾がデスナイトの1体を屠り、その躯を灰へと変える。
 一方の蓮は、バズヴの盾となって立ち続けるデスナイトを呪怨斬月で切り飛ばした。
「雑兵に用はないよ。退いてもらおう!」
『調子に乗らぬ事だな、ケルベロス』
 1体また1体と数を減らしていく死神勢力。バズヴはなおも冷静さを崩す事なく、黒羽の鋭刃を放ってきた。それを浴びて服を破られたヴィの体を、奏過は即座に薬液の雨によって回復していく。
「妨害特化の敵……何とも厄介なものです」
「ああ。全く洒落にならねぇ」
 ジグは竜尾で前衛のデスナイトを薙ぎ倒しながら、内心で舌を巻く。
 バズヴは火力こそ高くないが、状態異常の付与が極めて厄介だ。更に破剣付与も相まって面倒この上ない。そうして失われた保護の力を、ローゼスは、朔耶は、再び回復支援で付与しながら、隊列を支え続ける。
「辛いか、チビ。……もう少しだけ耐えてくれ」
 属性インストールで支援してくれる箱竜を励まし、真幸はエアシューズで加速した。
 既にデスナイトは前衛の2体を残すのみ。暴風を伴う回し蹴りが荒れ狂い、直撃を受けた1体が断末魔の悲鳴を上げて絶命する。
「これで、残るデスナイトは1体。一気に行くよ」
 ヴァイスハイトは紅と黒の銃身を合わせ、長大な2丁銃を召喚。
 銃口に顕現した魔法陣の中央から、紫色のオーラをまとった弾丸が射出される。
「儀式を成功させるワケには行かないっ!」
 『破錠せし2丁の魔銃』――その一射は最後に残ったデスナイトを穿ち貫き、跡形もなく消滅させると、仲間と共にバズヴへの一斉攻撃を開始していく。
「回復は任せよ!」
 朔耶はオウガメタルに思念を送り込み、粒子に変えて飛ばす。
 同時、レガリアスサイクロンをバズヴめがけ放つヴァイスハイト。唸る疾風を立てながらエアシューズが死神の脇腹へめり込み、破剣の力を跡形もなく破壊した。
『おのれ……っ!』
 追い詰められていく事に焦燥を覚えたか、バズヴは告死の囀りを奏過のいる中衛に放つ。ヴィはそれを即座に庇い、ブレイズクラッシュの一撃をもって反撃とした。
『ぐうぅっ!』
「行けっ、今だ!」
 炎上するバズヴ。そこへ奏過がオウガメタル『鬼瓦』を纏い、鋼の鬼となって迫る。
「そろそろ、決着と参りましょう!」
 振り上げる戦術超鋼拳。服を破り取られるバズヴ。
 そこへ更なる追撃となって放たれたのは、ローゼスの『Aimatinos thyella』だ。
「誇りと栄誉を賭して、その首頂戴する!」
 赤い風に乗って、星辰を宿した剣の一閃が煌く。
 立て続けに蓮が放つ憑霊弧月をがら空きになった胴に浴びたバズヴは、己の最期を悟ったのだろう。どす黒い血を撒き散らしながら、最後の力を振り絞るようにして、
『我等が斃れようとも……同胞が儀式を為せば、我等の勝ちは決まる』
「無駄だ。どこに現れようと、俺達ケルベロスが止めてやる」
 真幸はそう言って、『蛇の王』を召喚した。虚空から現れ出でるは、鱗に覆われた巨躯。その視線でバズヴを切り裂きながら、真幸は告げる。
「生きてる奴らも死んでる奴らも、海も橋も島も、お前らには渡さねえ。……幕引きだ」
『馬鹿な……冥府の海が現れなければ、行き場を失ったデスバレスがどうなるか……!』
 初めて恐怖の色を浮かべるバズヴに、ジグはただ一言。
「死神なんだ、一回死んでんだろ? ならこれから死のうが構わねぇ、なあそうだろ?」
 全身に怨念を憑依させ、怪物の如き姿に変じたジグが吼える。
 死神を滅殺する、その純粋な意思を込めて。
「おら嗤えよ。これから面白いもん見せてやるってんだからよぉ……沈めぇ!」
 そうして殴打を浴びて、バズヴの身体が灰へと変じていく。
『く……こんな、ところで……』
 その言葉を遺し、バズヴ・カタは跡形もなく消滅した。

●四
 そうして、大鳴門橋には再び平和が訪れようとしていた。
 奏過は負傷した仲間の治療を終えると、重傷者を出さずに済んだ事に安堵の息をつく。
「先ほど、市民の皆さんも無事が確認されました。これで一安心ですね」
「そうだね。これでまた、この地にも日常が戻ってくる」
 ヴィは眼下に広がる鳴門の大渦を見下ろして、静かに微笑む。
「作戦成功。……勝てて良かった」
「ええ。他所の戦場も、無事であると良いですが」
 ローゼスもまた、渦潮を眺めて呟く。
 死神を倒し、市民の安全を確認して数分。海は今もその青さを保ち続けている。
 冥府の海があふれ出す最悪の事態は避けられたらしい。それは即ち、橋の外で戦う仲間達もまた、死神勢力との戦いに勝利したという事だろう。
「死神との決着も、近いのかな……」
 鳴門の大渦を眺めながら、ふとヴィは考える。
 エインヘリアルとの戦争を制し、竜業合体のドラゴン勢力を倒し、残るデウスエクス勢力はあと僅か。彼らとの戦いを終えた後、自分や大事な人達、そしてこの惑星には、果たしてどんな未来が待っているのだろう――と。
(「世の中には、僕の知らない事がまだ沢山ある。例えば、この綺麗な海のように」)
 もし叶うのなら、戦いの後に訪れるのが平和な世界であるように。
 そう祈りを捧げて、ヴィは仲間達と帰還の途に就くのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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