デスバレス大洪水を阻止せよ~滅びの呼び水

作者:質種剰


 比叡山。
 かの焼き討ちで知られる延暦寺のある山が、火攻めの次は水攻めの憂き目に遭おうとしていた。
 そんな不吉な未来など露知らぬ一般人は、今日も延暦寺へ参詣しようと、険しい山道を昇っていた。
 比叡山の広い敷地内はそれぞれをバスで行き来できるのだが、この青年は車酔いする性質だから、乗車を避けた。
 多少疲れても山の新鮮な空気を味わいながら歩く方が良い……。
 そんな選択が、青年の運命を分けた。
「標的接近」
 デスナイトを引き連れたオステオが、抑揚のない声でひとこと呟くと、青年の頭部目掛けて巨大な鎌を振り下ろしたのだ。
「殺害完了」
 身の丈ぐらい長く重い刃を持つ、赤い石が禍々しく煌めく鎌を軽々と操って、オステオは青年の遺体を見下ろす。
 青年は、恐らく何が起きたかわからない一瞬のうちに命を落とした。
 ましてや、オステオが『正確にタイミングを合わせて殺害する』ために、いつでも殺せる状態ながらも青年が山の中腹を通るまで数分待ってから殺したなど、思いもよらなかったに違いない。
 程なくして、死体を中心に小さな穴が出現。
 青年の死体は穴の底に吸い込まれるように消失したが、その代わりに、青年を飲み込んだ穴から膨大な量の水が溢れ出した。
 ただの水ではない。デスバレスの水による大洪水である。
 水の奔流は延暦寺どころか比叡山全体をも呑み込み、全てを押し流して破壊していく。
 オステオが直接手を下したのは青年のみだが、大洪水の被害者は彼だけで済むはずがなかった。
 何せ、琵琶湖をすぐ側に臨む比叡山である。
 もし死神オステオの関与を察知できなかったら、この大洪水は琵琶湖の氾濫だと誤解されていたかもしれない。


「皆さん、日本列島防衛戦の勝利、おめでとうございますっ! ほんとにお疲れ様でした~!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が安堵した様子で話す。
「万能戦艦ケルベロスブレイドのおかげでうちのヘリオンの予知も冴え渡っております。それによると……冥王イグニスの言葉通り、死神勢力が動き出したようであります」
 それというのも、かの鎧駅に死神の一大拠点《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングが現れたのだ。
「しかも、同時に西日本へ点在していた死神原因の旧ミッション地域に対して、死神の襲撃が行われることを予知できました」
 死神の目的は、旧ミッション地域を襲撃する死神たちを呼び水にしてデスバレスの海を一気に地上へ出現させ、大洪水を発生させるつもりのようだ。
「これを阻止するためには、呼び水となる死神を見つけ出して撃破しなければならないであります」
 とはいえ、敵が出現する正確な時間と場所も、ケルベロスブレイドによって強化された予知のおかげで確認できている。
「ですので、皆さんはそこへ先回りして潜伏し、死神が現れると共に奇襲を仕掛けて撃破なさってください。よろしくお願いいたしますね」
 万一にも死神たちの出現場所が変化すれば阻止が間に合わなくなるかもしれないので、その点は充分に注意してほしい。
「皆さんに倒していただきたい死神は『オステオ』。配下にデスナイトを10体ほど連れているであります」
 オステオは、自らの身体と一体化した巨大鎌の刃を振りかざして攻撃してくる。
「また、標的へ朽ちて骨になる幻影を見せるグラビティを得意とするであります」
 オステオは強敵とまではいかないものの、何分配下の数が多く、一般人の救出や時間制限があるためにどんな作戦を練るかが重要である。
「オステオとデスナイトの群れが出現するのは、延暦寺東塔と横川、それぞれの本堂から等距離……大体中間地点でありますね」
 死神オステオは被害者の青年をすぐに殺さないので、殺害が行われるタイミングまでに救出、もしくは敵群を撃破してほしい。
「地上にデスバレスの大洪水を起こすなど許せませんが、これを阻止して鎧駅へ現れた《甦生氷城》ヒューム・ヴィダベレブングを制圧できれば……」
 かけらは説明を終えると、ぐっと拳を握って皆を激励する。
「デスバレスへの逆侵攻も可能になるかもしれないでありますから、まずは目の前の危機をひとつずつ乗り越えていきましょうね!」


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
葛篭・咲(珈琲ロマン・e12562)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)

■リプレイ


 比叡山。
 ケルベロスたちは、万能戦艦のおかげで正確に予知できた被害者の参拝ルートへ先回りを試みる。オステオらの襲撃より前に彼を助けるためだ。
「そう簡単に侵攻させるわけにはいかないし、大洪水はしっかりと止めるわよ」
 特別な気流を纏って気配を殺し、青年が必ず通る山道を視認できる位置に陣取るのは氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)。
 後ろで結わえた長い黒髪と透き通るような白い肌が印象的な、鎧装騎兵の女性。
 アームドフォートと自ら調整したヒールドローンを使いこなして戦う現役女子大生だ。
「戦争が終わってから動きがある予感はしていましたが、こうも即座に動いてくるとは!」
 北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は、春の新緑鮮やかな山道に解け込むべく明るい外套を被っている。
 2号機なる仮称のライドキャリバーを駆る地球人の男性。
 レイヴンズコアによって様々な外装を着けて戦うため、その機械的な見た目からよくレプリカントに間違われるのが悩みのタネだそうな。
「以前の勇将や他の死神達の反応からすると、死神達には人間の見分けは殆どつけられないんだろう」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)は、例え一瞬でもオステオたちに被害者だと誤認させられれば隙を作れると考えて、ダウンベストとニット帽を身につけていた。
 実際、8人の中で被害者と背格好が一番近いのは——仲間にすらレプリカント扱いされてしまう誰かを除けば——地球人の成人男性である蒼眞に違いない。
「まあ服装を変えても大した意味は無いかもしれないけど、損もしないし何かの役に立てば儲け物だな」
 囮役としてしかつめらしく呟く蒼眞。ついさっきまでヘリオン内で散々小檻の胸を揉みしだいていたのと同一人物とは思えぬ真面目さだ。
「規模でっかい上に、想定しえないことやってきて凄い……」
 一方。ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は、死神の大規模かつ奇抜な作戦へ思わず感嘆の息を洩らして、ボクスドラゴンのペレへ首を傾げられていた。
「……とか言ってる場合じゃあないんだけどね! 勿論全力には全力で。正面からでも奇襲でも使える手全部使って打ち破るよ!」
 安心させるようにペレの頭を撫でて、自らも気合を入れ直すノーフィア。
 たっぷりと豊かなセミロングの黒髪や赤くつぶらな瞳が可愛らしい、天真爛漫な人派ドラゴニアンの少女だ。
(「見つけた。あのひとが救出対象だね……」)
 そののんびりおっとりした物言いから歳より幼く見られることもしばしばだが、マインドウィスパー・デバイスを駆使して被害者の視認映像を皆へ共有させる手際は熟練者のそれである。
 一行が山の中腹に潜伏し、青年の到達を待つこと十数分。
 ズズズズズ……。
 歩く青年を後方から見下ろす位置、まだまだ寒い山の空気を切り裂くようにして、黒い亀裂が空中に現れた。
 オステオである。予知通りに音もなく青年の背後に張りつき、例の襲撃まではただ尾行を続けるつもりか。
(「一番の目的として考えられるのは駒の確保……だろうが……いずれにせよ大洪水なんて起こされたら何人が犠牲になるかわからない」)
 薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)も、ノーフィアより送られた映像を受けてゴットサイト・デバイスを覗き込み、被害者を追う形でオステオらが移動しているかを確認。
「死神の企み、絶対に阻止しないと……!」
 被害者と死神の間に挟まる形で両者の監視を続け、なおかつ襲撃場所へ差し掛かるギリギリまで死神に気取られてはいけない——今更ながら想像以上に神経を使う作戦だと緊張を覚えるあすか。
 そのボーイッシュな格好も相まって、時々男性に間違われることもあるゴッドペインターの女性。
 生まれつきグラビティを操る才に恵まれたおかげで潰えかけていた職能を復活させたことから、一族の期待と重圧を背負って育ったらしい。
 いよいよ、青年が横川と東塔の中間へ差し掛かる頃。
「比叡山といえば日本の霊山の一つだったな」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が、ガードレールの奥から颯爽と飛び出して、オステオを守るデスナイトへ攻撃を仕掛けた。
 陶器のように真っ白な肌と漆黒のロングヘアが特徴的な、美形の竜派ドラゴニアン。
 クラッシャー以外の仲間を牽引すべく背負ったジェットパック・デバイスには蝙蝠や竜の模した皮膜の翼飾りがあしらわれて、清廉で誇り高い彼女の雰囲気によく似合っている。
「やれ、そんな場所を死神共の都合良く水没させてたまるか」
 そんなフィストが突撃と同時に繰り出すのは、太く長い尻尾を活かしたテイルスイング。
 デスナイトたちはその剥き出しの肋骨をモロに殴打されて、面白いぐらい吹っ飛んだ。見た目に違わず体重も軽いようだ。
 よって、降下前から殺害時刻を確認して頭に叩き込んでいたフィストの奇襲は成功。
 木立の奥で隠密気流を起こし、じっと息を殺していた甲斐もあったろう。
「番犬?」
 オステオにとってケルベロスの出現は予想外だったらしく、僅かながらも驚いたような声を出す。
「追跡中止。邪魔者排除」
 更には蒼眞が被害者の青年と同じ格好をしているのへ気づくと、単身青年を追おうとしたデスナイトを静止し、ひとまずは8人の殲滅を優先した。
 ケルベロスが介入した以上、青年の追跡へ貴重な戦力を回すのは得策でないと判断したものか。
 同じ頃。
「あの、突然のことで驚かれたと思いますが」
 戦場から被害者を背中で庇うように立って、葛篭・咲(珈琲ロマン・e12562)が優しく声をかける。
 夜の空気に溶け込む髪とそこに咲く白いホタルブクロの花、夜鷹に似た翼が印象的な、オラトリオの刀剣士だ。
 その余裕を湛えた笑みは健康そのものに映るが、実は病がちで、かつてオステオに殺されかけた時も病気の只中だった咲。
 故に、オステオの手による被害者を決して出すまいと、強い義憤を抱いていた。
「はい?」
「俺たちはケルベロスです。あなたが死神に命を狙われているので護衛に参りました」
「え……えーと。ありがとうございます。オレは……ど、どうすればいいんですかね?」
「不安になるお気持ちはよくわかります。ですが、既に仲間が交戦中ですから大丈夫ですよ。ほら、深呼吸深呼吸」
 突然こんなことを言われればパニックになるのも道理だと思って、懸命に言葉を尽くす咲。
「はいっ! すーはーすーはー」
「いきなり襲われる危機は脱したので心配ありませんが、戦闘に巻き込みたくないので、こちらのドローンに乗って一旦安全圏まで下山して欲しいんです」
 そんな相方に付き添って、森光・緋織(薄明の星・e05336)も青年へ説明する。
 ポニーテールにした薄紫の髪とその間から覗く紅い巻き角を持つ、サキュバスの自宅警備員。
 一見明るく見えるが、その実、両親との死別に伴う家庭環境の悪化から長きに渡って自分へ価値を見いだせずにいたなど、他人にはわからぬ屈託を抱えている。
「わ、わかりました!」
 青年が素直に蒼眞のレスキュードローン・デバイスへ乗ってくれて、胸を撫で下ろす2人。
 彼らの足首には、かぐらの光の輪——チェイスアート・デバイスから伸ばしたビームを繋いである。万一追っ手が迫ってもこれなら青年を連れて逃げ切れそうだ。


「黒曜牙竜のノーフィアよりオステオと配下のデスナイト達へ。剣と月の祝福を」
 黒曜穿剣"奔る爪のツィルニトラ"の切先をデスナイトへ突きつけて、啖呵を切るのはノーフィア。
 突きつけられた個体が怯んだ刹那、奴の視界は美しき花の嵐に埋め尽くされ、訳もわからぬままに戦闘意欲を奪われていく。
 ペレも主との打ち合わせ通り、蒼炎のインストールを敢行、前衛陣の異常耐性を高めた。
「動きの早さは流石ってところかしら? ついでに、数が重要って事もわかってるわね……」
 かぐらはデスナイトの群れを一気に蹴散らすべく、超加速突撃を仕掛ける。
 ドラゴニックハンマーによる荒々しい乱打が、奴らの体力を削ると同時に隊列をも乱した。
「これが! 俺達の精一杯だッ!!」
 こがらす丸の残霊を召喚して、鴉の脚状に変形させるのは計都。
 彼を自身の右足へ取り込む形で合体すると、増幅したグラビティ・チェインを勢いの増した蹴りによってデスナイトの腰骨に叩きつけた。
 2号機もこがらす丸に負けじと速度を上げて激しいスピンをかけ、デスナイトらの足を轢き潰している。
 蒼眞は、ドローンが青年を麓へ送り届けたのを思念で確認してから戦闘に参加。
「普段はやらないけど、別にやれないと言った覚えは無いな」
 持ち慣れないサウザンドピラーも器用に操り、星の輝きを宿した魔力の柱を顕現。前衛陣の異常耐性を高めた。
 咲と緋織が麓から駆け戻ってきたのは、戦闘開始から数分後。
「援軍確認」
 2人の加勢に気づいたオステオと目が合って、恐怖に手が震える咲。
「貴方には殺させませんよ。絶対に」
 だが、力強く言い放って残菊抄と天穹の導を握り直し、デスナイトへ衝撃波を浴びせた。
(「そうだ。大洪水なんて起こさせちゃいけない、ここで死神を止めなきゃ」)
 相方の言葉へ頷く緋織だが、人々を救いたい思いとは別に、咲の因縁の相手へ対する敵意も自覚する。
 だから普段と違い今は大分やる気らしく、紅く光った両の魔眼でデスナイトらを鋭く射抜いて、内1体へトドメを刺した。
「響け、震え、掻き乱せ……!」
 フィストはメリュジーヌハープを構えて、屈せぬ決意の歌を爪弾く。
 勇壮な調べと共に放った『希望の光』がデスナイトの髑髏を貫き、その命の灯をも掻き消した。
「さあ来いよ、冰魔晶刃の試し切りに付き合って貰おうか?」
 【冰魔晶刃】スティーリアを軽々と振り翳して、ニヤリと笑うのはあすか。
 そのまま高速で振り回しながら斬撃をお見舞いして、デスナイトたちを薙ぎ払った。


 戦いは続いた。
 死神の槍などを駆使してオステオを守るべく抵抗するデスナイトだが、8人の猛攻に次々と数を減らしていく。
 皆が努めて複数の個体を攻撃した甲斐あって、5分もすればオステオを残してデスナイトらは全滅した。
「大切な相方を苦しめた死神を、許してなんておけない……」
 緋織は、ふつふつと湧き上がる怒りを堪えかねた様子で、オステオへPreludeを投げつける。
「この手で一発、ぶちかましてやらなきゃ気が済まないよ!」
 深紅の大鎌が唸りを上げて空を裂き、オステオの右腕を回転しながら斬り刻んだ。
「普段使いとは違う装備ですが、やることに変わりはありません!」
 北斗七星を結んだ形に変じた星辰剣七星を振り翳して、死兆星にあたる箇所からオーラを放つのは計都。
 白い凍気は北極熊のシルエットで宙を駆け抜け、オステオの喉元目掛けて噛みついた。
 2号機も主の意思に忠実に、車体へ赤々と燃える炎を纏って突進。
 豪快な体当たりをぶちかまして、オステオの白い肌へ大火傷を負わせた。
「冥王奴」
 オステオは変わらず涼しい顔のままリブハーケンを放ちながら、奴特有の言い回しで不平を洩らす。
「信用失墜」
 それは、今現在煮え湯を飲まされているケルベロスに対してでなく、何故か冥王イグニスへの唾棄のようだ。
 よほど、イグニスが大洪水作戦は必ず成功するとでも請け負ったのか——もしかするとケルベロスの邪魔が入らぬよう何らかの対策を講じていたのかもしれない。
「特に大小へ拘らないが、Gカップの量感の前には骨の幻など薄い薄い」
 蒼眞は何やら不穏なことを呟いて、自らが朽ちて骨になる幻を振り切ろうと必死になっている。
 勿論心の持ちようひとつだけで催眠を跳ねのけられる保証は無いが、戦意を保つには必要な奮起なのであろう。
「一体何を思い出しているのかしら……」
 仲間が何を想像しているか察したかぐらは半ば呆れつつも、慣れた様子で小型治療無人機の群体を指揮する。
 対象の動きを制限しないよう超小型に改造されたドローンたちが、次々と後衛陣の体や武器へ取りついて、攻撃の精度を高めた。
 その一方で。
「……なんの!」
 中衛のノーフィアもまた、何度か頽れる幻骨を食らっていたが、骨になる幻を誰よりも前向きに捉えていた。
「軽くなった分、速度上げてくよ!」
 実際に肉が削げ落ちたわけでもないのに——削げたら削げたで普通は嫌なはずだが、素晴らしいポジティブ発言である。
 そんな彼女が立体的に見せる魔法陣で構築した球体も、漆黒の超重力場にオステオを引き寄せる。
「不覚」
 オステオが必死に抵抗すればするほどに肉が引きつれて、まるで引き千切ったような傷痕を残した。
「おっとペレありがと! 助かるよっ」
 ペレはペレでせっせと蒼い炎をインストールし、主の怪我を治そうと奮闘中。
「確率は二つにひとつ。さあ、どっちが本物か、当ててみな!」
 あすかは宙に向かってサラサラと自らの分身を描く。
 二方向から放つ息の合った連携攻撃がオステオの腹部へ激痛をもたらし、加えてインクに戻った分身の残滓まで貼りついた。
「妖精の丘に繋がれしクー・シー、女王の命を待つ番犬よ! 疾く獲物を噛み伏せよ!」
 と、緑色の犬の妖精を喚び出すのはフィスト。
 牛ほどの大きさをした犬はみたび猛々しく唸り声をあげると、稲光のごとき速さでオステオの脇腹に食らいついた。
「すみませんね。今日は俺、体調良いし仲間もいるんですよ」
 咲は力強く言い切って、半透明の『御業』をけしかける。
 巨大な手のひらの形に広がった御業はオステオの胴をを鷲掴みにして、ギリギリと締めつけた。
「依然」
 遂に地面へ墜落したオステオ。
「十一箇所同時進行」
 苦しそうに振り絞った声からは奴の意地が感じられる。
「半数洪水……目的達成」
 そんな他の死神頼りの負け惜しみが、オステオの最期の言葉だった。
 死神同士、横の繋がりが強くないことは同盟を結んだ経験からもわかるだけに、勝ち誇るオステオの声が余計空々しく響く。
「咲が言ったろ? オレたちには仲間がいる。みんな12か所全部を阻止できたに決まってるよ」
 緋織が幾分落ち着いた物腰で言い返した。
「あはは、良かったです。食い止められて」
 その隣りで、咲は流石に腰が抜けたのか、へなへなと地べたに座り込んで笑う。
 ともあれ、8人はすぐに下山、被害者とならずに済んだ青年へ事の次第を報告した。
「また何かが出ないとも限らないからな、送ろう」
「お気遣いは有難いですが、俺、シャトルバスは酔うもんで、歩くつもりなんですが……」
「なに、スカンジナヴィアの山並み、その麓で暮らした身だ。ご心配なく」
 フィストはそう請け負って、青年を横川の本堂まで送り届けるべく歩き出す。
「ジェットパックは悪くなかったが、やはり山は歩きが良い」
 かくて、延暦寺を抱える比叡山もそこから臨める琵琶湖も、日頃の静けさを取り戻したのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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