甘紅

作者:崎田航輝

 春の気配を含んだ風が、穏やかに吹く日。
 優しい陽光の下、甘い芳香を薫らせる園があった。
 それは朝露に艶めく果実が、今まさに旬を迎え始めた――苺農園。食べごろとなった大きな粒を、苺狩りで味わう人々で賑わっている。
 園内にあるカフェもまた人気。
 売られているのは勿論苺を使った品々で――果実たっぷりのパンケーキにパイ、鮮やかなタルトにパフェ、美しいヴェリーヌやミルクレープと、そのどれもが美味で人々に笑顔を運んでいた。
 ジャムにロールケーキ、新鮮な果実にと、お土産もまた揃い踏みで。皆が、訪れた春の恵みをゆったりと楽しんでいた。
 と――そんな農園の奥にある、倉庫。
 薄暗いその中へ、隙間から入ってゆく小さな影があった。
 それはコギトエルゴスムに機械の脚が付いた小型ダモクレス。資材の並ぶ奥へ這ってゆくと――ひとつの投光器に辿り着いていた。
 夜間作業に使われていたものだろう。それ自体は壊れている、古いものだ。
 けれど――小型ダモクレスがその内部へと入り込み……取り付いて一体化。機械の手足を生やし、にわかに動き始めていた。
 それはそのまま野外へと出ると、賑わう人波を見つける。そして己が存在をそこに示そうとするように――眩い光を伴って迫っていった。

「そろそろ、苺が美味しい季節ですね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
「とある農園では、苺狩りも始まって盛況なようですが……」
 そんな中にダモクレスが出現することが予知されてしまったという。
 曰く農園の倉庫に古い投光器があったようで……そこに小型ダモクレスが取り付いて変化してしまうようだ。
 このダモクレスは、人々を襲おうとするだろう。
「そうなる前に撃破をお願いします」
 戦場は農園の敷地。
 ダモクレスが倉庫の方面から現れるところを、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「一般の人々については事前に避難がされますので心配はいりません」
 開けた場所で戦える為、撃破に集中できるでしょうと言った。
 周囲も荒れずに終わらせることが出来るはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利出来たら、皆さんも農園で過ごしていってみてはいかがでしょうか」
 苺狩りに、ケーキやジャムなどの制作体験、カフェや売店など……様々な形で苺を楽しむことが出来るだろう。
「そんな憩いの為にも……是非、撃破を成功させてきてくださいね」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●爽風
「苺狩り、ですか」
 青空に映える紅が、微風に揺れて甘酸っぱい香りを漂わす。
 ひらりと地に降り立ったカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は、そんな苺畑を見つめて声音に喜色を交えていた。
「丁度この季節なら、とても美味しいものが採れそうですわね?」
 今から期待に胸躍る。
 だけに、斃すべきものは斃さねば、と。視線を動かし、奥から現れる敵影を捉えていた。
「――小型ダモクレスは害虫の如く湧いて出てくるな」
 そちらを見据えて、緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)も軽く息をつく。
 それは眩い光を瞬かす――投光器のダモクレス。
 ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は不死鳥意匠の避雷針を握り、戦いの態勢を取っていた。
「……農業用の機械も、格好の宿主ということなのだろうな」
 そしてデウスエクスとなったそれは、宿主の次に獲物を求めて出てきた。
「“食物”に惹かれるのは地球種だけでなく……ダモクレスも該当」
 款冬・冰(冬の兵士・e42446)は観察しながらも、周囲に人々がいないことを最後に確認してから。
「……勿論、その目的達成は阻害」
「ああ、人を襲うというのならば、見過ごすことは出来ない」
 同時、応えたビーツーが避雷針を翳して鮮烈な雷光を迸らせる。その輝きが仲間を覆って護りの加護を齎していった。
 冰も袖中より滑り落ちる柄をつかみ取り、そこに氷の刀身を顕現して。
「――『青星』起動。交戦開始」
 足元にも氷刃を形成して滑走。一息に肉迫して斬撃を叩き込んだ。
 ダモクレスも此方に敵意を向ける。が、そこへ残霊と共に直走っているのがカトレア。
「まだまだ、譲りませんわよ」
 二つの剣閃で刻むのは薔薇模様。『バーテクルローズ』――無数の斬撃の後、最後の一突きで花弁を散らすが爆破を見舞った。
「今ですわ」
「判りました」
 頷いて続くのは、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)。靴を覆う魔力の茨で、風を蹴り上がっていく。
 そのまま宙を舞うよう、くるりと旋転すると――。
「この飛び蹴りを、見切れますか?」
 降下して一撃、棘交じりの襲撃を加えた。
 一歩下がったダモクレスは反撃の姿勢、だがそこへ一瞬疾く迫るのが結衣。大振りに刃を振るい、叩き伏せるような斬撃で無理矢理に注意を引いていく。
 誘われるまま、ダモクレスはそちらへ眩い光を放った、が。
「結衣さんの怪我は――すぐに癒やします!」
 直後、ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)が陽炎の如く魔力を揺らめかている。
 妖しく、そして神々しく煌くのは光が混じり合う魔眼。
 『ディストーション・フェイト』――見つめることで因果律を歪め、その傷が存在する事象ごと消し去ってしまう。
 直後にビーツーのアイコンタクトで、箱竜のボクスが結衣へ白橙色に燃ゆる加護の焔を与えれば、防備も万全。
「ではこちらは、前線を護っておこうかねぇ」
 同時、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)は体勢を低く取り、腕の機巧を細身の噴霧口へと変化させ、暗色の魔力霧を発散していた。
 辺りを微粒子が包むと、ディミックはそこへ超高熱の閃光を照射。瞬時に眩く蒸発させ、濃密な護りの力を含んだ気体を皆へと纏わせてゆく。
 その頃には、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)が攻勢。真っ直ぐに手を翳していた。
 ダモクレスも追撃を試みようとしていたけれど――。
「無駄です」
 紺が言えば、まるで独りでに止まったようにその動作が阻まれていた。
 機械の躰に這い寄るのは、『まつろう怪談』。永劫の停止という悪夢が具現された、闇色の戒めに全身が縛られていく。
 ダモクレスはそれでも点灯部を明滅させようとするが――。
「流石に、目の毒」
 灯りきる前に冰が零距離へ。動力剣を縦横に奔らせ、違わず部品を粉砕してゆく。

●決着
 細かな破片を零しながら、ダモクレスは倒れ込む。
 それでも宿った本能のままに立とうとするその姿に、紺は静かに見つめていた。
 夜間も働く人々の為に、暗がりを照らし続けていたもの。それが人々の心に影を落としかけない事態を招こうとしている。
(「何とも――因果な話です」)
 けれどそんな未来をこそ、阻止せねばならないから、と。
「怖い思いはすぐに終わらせましょう。農園の方以外にも、せっかくこの場を訪れた人々もたくさんいることですから」
「そうですね。皆が楽しみにしてるんですから」
 ネフティメスもこくりと頷いて、ダモクレスへ視線を向け直す。
「その邪魔をしちゃダメですよ」
 その言葉にも、しかしダモクレスは敵意を返すように走り込んでくるだけ。故にカトレアは、凛と刃を構えてそこへ立ちはだかっていた。
「そちらがその気なのでしたら――私達も退きはしませんわよ」
 厳然と、されど美しく。
 走りながら月弧を象る斬撃を滑らせ、ダモクレスの体勢を崩してみせる。
 そこへ杭打ちを振りかぶるのが、高く跳んでいたミント。目を引く蒼の色彩から、極低温が生み出す氷片を輝かせながら。
「雪さえも退く凍気で、凍えてしまいなさい」
 瞬間、放つ零下の杭で、ダモクレスの足元を貫き縫い止める。
 同時に奔っていた冰が、三撃。
 雪崩の如く、冬付きの如く、そして氷華を散らすが如く。冷厳に、鋭く、冷酷に、一息に刃を振るった。
「……冬影「乱れ雪月華」――」
 名を呟く頃には、その氷の刃が自壊して。ダモクレスの手足もまた斬り落とされている。
 ダモクレスはそれでも熱線を放つ。だがディミックが受け止めてみせれば――。
「すぐに、癒そう」
 ビーツーが杖先を振るいながら、その軌跡に鮮やかな雷光を閃かせていた。
 『雷撃癒流』――織りなされた稲妻は、烈しさよりも優しい暖かさに輝いて。ディミックを纏うと共に自浄機構を活性させ、傷を修復させてゆく。
 ネフティメスもそこへ獄炎の蛇腹剣を踊らせて、焔と雷で魔法円を描きながら守護と治癒を兼ねていた。
「これで大丈夫です」
「ありがとう」
 応えたディミックは攻勢に移って『爆ぜる血玉髄』――鉱石を媒介にフレアを爆ぜさせて、敵の躰の一部を溶解させる。
 ダモクレスはそれでも這って突進を試みる、が。冰の傍に顕れた白い犬の如き粘体生物が――冰の服を咥えて引っ張り回避させた。
 ぽん、とその背に一度手を当てた冰は、そのまま前を指して。
「反撃開始。……食べてよし」
 呼応したそれは飛びかかり、敵の躰を噛み砕いてゆく。
 罅割れていく機械を見ながら――照らすべきは余人の先行きであれと、冰は思う。
 その心は、紺も同じ。
 何よりも、投光器がもたらす光は、最後まで誰かのための役立つものであってほしいと願うから。
「ここで終わらせます。誰も殺させなんて、しません」
「ああ」
 そっと応える結衣も、焔を刃に渦巻かせて見据える。
「お前も、役目を終えたなら大人しく眠っていたいだろう」
 声に敵意が無いのは、それが人類の仇敵ではなく、元の罪なき機械へ向けた言葉だから。
 刹那、振るう剣撃は砕破<滅亡の旅路>――命の脈動を破滅の連鎖で塗りつぶす連閃で、死へと導いてゆく。
 瓦解するダモクレスへ、紺も耀く焔を放射。眩く、鋭く、その生命を焼き尽くすように砕いていった。

●甘紅
 香りと共に、穏やかな賑わいが満ちてゆく。
 番犬達は周囲をヒールした後人々へ無事を伝え、平穏を取り戻していた。今では苺狩りも再開され、農園は和やかな空気だ。
 ビーツーもまたボクスと共に敷地を歩み始めている。
 元より甘味の好きなビーツーにとっては、眺めるだけでも静かに心躍る場所。中でも興味を引いた、ジャム制作体験に参加する事にした。
 ログハウスの一角で、使用するのは勿論採れたての苺。
「新鮮な果実で作るジャム、良いものが出来そうだ」
 趣味としてもたまに洋菓子作りをビーツーとしては、その完成が楽しみで。つまみ食いを狙うボクスを時折制しつつ……まずはヘタを丁寧に取ってゆく。
 それから鍋に入れて――。
「砂糖は、これだな」
 種類のある中から、果実に親和性のあるフルーツシュガーを選択。風味を強く残したいため、量は控えめにして……煮始めた。
 鍋は二つ。一つにはバニラビーンズを入れ、フレーバー付きにするためだ。
「良い塩梅だな」
 そうして他の人の物も眺めつつ……真剣に、煮詰める感覚を掴み。適宜レモン汁を入れ、アク取りをして――瓶に移して粗熱を取り完成。
 冷やしてから、味見すると――。
「上手く出来たな」
 プレーンの方は果実感がよく残っており、フレーバー付きの方はシナモンも入れたため甘くふくよか。
 ちょっと食べたボクスも、満足げな面持ちだったから――それをお土産にして、ビーツーは歩み出した。

 優しい芳香の香ってくるカフェへ、紺は立ち寄っていた。
 座るのは苺畑と草花を望める、テラス席。木造りの床に柵、椅子にテーブル――温かみのある眺めの中で、頼むのは――。
「苺のタルトとコーヒーを」
 やってきたタルトは、艷やかな紅色が美しくて、心を惹く色合い。コーヒーはほんの少し深めのローストで香り高い一杯だ。
「美味しそうですね」
 そっと微笑んでから、紺はまずタルトを一口。甘くコーティングされた果実と、快く砕ける生地がとても美味。
 コーヒーを頂くと、やわらかい苦味が、苺の甘味と相性抜群だ。
 それにほっと一息つきながら――紺は本を広げて読書をする。
 風にはまだ少し、冬の残り香があるけれど。照らしてくれる日差しは温もりを感じられて、心地よく。
「草花も、生き生きしているようですね」
 ふと外を眺めて、色鮮やかな自然に瞳を細める。
 果実、日差し、翠の景色。
 全部が優しい季節の恵みだからこそ、こんなひとときが愛おしく感じられて。
「とても、良い場所ですね」
 そんな実感と共に、紺は美味しく、のんびりと。麗らかな春の始まりを過ごしてゆく。

「わぁ、沢山の苺が実っていますわね」
 人々で賑わう苺のハウスへ、カトレアは入るところ。
 一歩歩めば、視界に広がるのは沢山の紅達。朝露に耀くそれは、目に眩しい程で……訪れる人々も楽しげな賑わいを織りなしている。
 ミントもまたカトレアに続いて入場すると、その壮観に目を凝らしていた。
「どれも美味しそうです」
「ええ。採り甲斐がありそうですわ」
 ふふ、と。
 カトレアが上品に微笑むと、ミントも淡い表情の中に少しだけ楽しげな色を浮かべて。早速一緒に、苺狩りをスタートする。
 まず左右に見えるのは、食べ頃を強く感じられる、大きなサイズの果実達。
「とても大粒ですわね」
「そうですね」
 こくりと頷くミントは、それをぷちりと採ってみる。
 苺は食べ放題、籠に収まる範囲で採り放題でもある。なのでまずはそれを口に運び――かぷりと一口。
 すると快い歯応えと共に、果汁が溢れてきて。
「ん、美味しいです――」
「では私も」
 それを見てわくわくとしたカトレアもまた近くの苺を採って実食。食べごたえがあるばかりでなく、瑞々しい甘さと快い酸味があって。
「凄く美味しいですわ」
「向こうのはまた、別の苺みたいですよ」
 と、ミントが指す先にあるのは、ここのものよりはサイズの控えめな苺達。
 けれど近くに歩んで見つめてみると――濃紅の色が美しく、張りのある表面が煌めいているようで。
「まるで宝石の様ですね。凄く綺麗です」
「味も気になる所ですわね?」
 カトレアが言うと、ミントも心同じく。少し二人で見合ってから、目の前の粒を採って頂いてみた。
 すると、こちらは先刻のものより滑らかな舌触り。それでいて、強い甘みと凝縮された風味が唯一無二だ。
「こちらも、採っていきましょう」
 カトレアの言葉にミントも頷き、先の品種に続いて良さそうな粒を一つ一つ、籠に入れていく。
 さらに奥では、酸味の強めな品種に、白に近い色合いが可愛らしい品種も見つけて。これだと思った粒を採り、最後には籠いっぱいになっていた。
「カトレアさん、沢山採れたみたいですね」
 その言葉に、カトレアは籠を持ち上げてみせる。
「ミントも、沢山採れましたでしょうか?」
「ええ」
 応えるミントもまた、自分のものを示す。
 摘まれたその色と香りに、幸せな気持ちを感じながら。
「是非また、来たいですわね」
 カトレアが言えば、ミントも頷いて――そこから歩み出していった。

「それ、直すのか?」
「はい。壊しっぱなしもかわいそうなので」
 結衣の言葉に頷いて、ネフティメスが首から提げるのは……ダモクレスだったものの欠片を紐で結んだもの。
 他の部位は朽ちてしまったが、これだけでもペンライトくらいにはなりそうだった。
「そうか」
 なら本望かも知れない、と。結衣は思ってから、視線を前に戻す。
 その先にあるのは甘い香りを薫らせる――カフェ。
「今日は楽しいイチゴカフェ~♪」
 と、ネフティメスも改めて結衣の隣に並ぶと楽しげに、舞踊でも舞うかのように。
「美味しいものいっぱい食べていきましょうね~♪」
 微妙に時期のずれたひなまつりのメロディに乗せて歌いながら、そこへを目指して歩み出してゆく。
 何しろ苺は「フルーツといったらこれ」と言えるもの。ネフティメス自身も勿論好きだから……足取りも声音も上機嫌だ。
 結衣もその姿に、表情を仄かにやわらげて――共に店内へ。苺モチーフの内装の中、メニューを広げた。
「ここはネフティメスの好みそうなものばかりだな」
「ええ、本当に!」
 ネフティメスは耀く瞳をくりくりと動かしつつ、あれやこれやと品を選び始める。
「パフェに、タルトに、イチゴオレも! 結衣さんは何にします?」
「俺は別にどれでも……いっそ苺そのままでもいいが――」
 覗き込んでくるネフティメスに応えつつ、それでも強いて選べば、と結衣はミルクレープを注文。
 品がやってくると早速、共に実食。
 ネフティメスはタルトをはむり、パフェをあむり。甘やかな果実に新鮮な果実、さくさくの生地にクリームやアイスを味わって。
「美味しいです~!」
「そうか。……お前を見ているだけでも退屈しそうにないよ」
 幸せそうに、美味しそうに。目まぐるしく表情を移ろわす対面の姿に、結衣はそんな声を零す。
 ただ、自分もミルクレープを食べると……濃密な甘さが中々に美味だった。
「これも美味いぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
 結衣が皿を差し出そうとする、と。ネフティメスは少々迷ってから対面の席を立って――ちょこん。結衣の隣に移ってきた。
「こっちの方が食べやすいので!」
「ああ……」
 では、とネフティメスがあーんと口を開けると……結衣は些か眺めてから、「まあいいが」と掬って差し出す。
 ぱくりと食べたネフティメスは満足気に。
「とっても美味しいです!」
 それから自分のも、と、また少し結衣に寄りつつ、今度は結衣に食べさせてあげる。そんな遣り取りを、何度か繰り返していくのだった。

 冰は制作体験の一角にて、ケーキを作り始めていた。
「…………」
 まずは材料を混ぜ、泡立てる。
 それから色合いや粘度に注意しつつ、薄力粉を加えて生地にしてゆく。
 参考となるレシピはあるけれど、大事なのは今見ている状態や感触。レプリカント用のアプリケーション通りに作る料理とはわけが違った。
「……おそらく、あと少し」
 呟きつつ混ぜ、オーブンで焼いて。
 クリームを泡立てるのも難しかったけれど、その試行錯誤も楽しむように。粗熱が取れた生地にクリームと果実の層を作り、表面もデコレーションして。
「一応形は整ったが、客観的な視点が必要」
 きょろきょろ眺めると、そこに通りかかる巫山・幽子を発見。
「丁度良かった。ユウコ、味見を要請」
「良いのですか……?」
 ケーキに少々瞳を輝かせた幽子に、冰が頷くと……幽子は早速はむりと味見。
「……美味しい?」
「美味しいです……。生地はふわふわで、甘くて……」
「良かった。冰も賞味開始……ん」
 すると、それは市販品には及ばずとも、確かに美味で。
「完璧でなくとも、糧になればそれが最良」
 その経験をしっかりと記憶するように、共に暫しケーキを味わっていった。

 カフェのテラス席へと、ディミックは座るところ。
 自身の体躯を鑑みて、周囲を傷つけないようにと苺狩りは遠慮していた。ここでスイーツの一つでも頂いて、その美味を享受するつもりだ。
「では、おすすめを頂こうかねぇ」
 メニューを見つつ言うと、やってきたのはパフェ。新鮮な苺が沢山乗っていて、何とも色鮮やかな一品だ。
 ふむ、とディミックはそのひと粒をそっとつまみ、改めて見つめる。苺は、小さな株の小さな果実だけれど。
「宝石のようにうつくしいのだねぇ」
 畑でも見たけれど、観察するほどに芸術品のようでもある。
 そしてここまで育てるのに手入れを欠かせぬ繊細さ。昼夜を問わず世話が必要な点は、まるでお姫様だ、と。
「そういったところがが「かわいい」モチーフとして用いられるのかな」
 呟きつつ、そんな果実やクリームを食べてみつつ。紅茶も頂いて、長閑な空気の中でゆっくりと過ごしていった。
 それからお会計を済ませてカフェを出ると――。
「お土産を買っていくのも悪くないねぇ」
 その足でお土産コーナーへ。
 ジャムに、ロールケーキに、果実そのものに。旅団の若い子に持って帰ろうと両手いっぱいに調達して……農園を後にしていくのだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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