花晨孤影

作者:黒塚婁

●啾啾
 梅花の柔らかな香りが、ほんのりと漂う――ある神社の裏山に。
 誰の目にもつかぬよう、ひっそりと、掃除機が棄てられていた。
 何時の頃の物かも判別できぬ程に薄汚れ、野ざらしの体は、あちこちと欠けてもいる。
 当然ながら、誰も寄りつかぬ――誰にも知られぬその場所に訪れるのは、容赦の無い空っ風くらいだ。
 日の光もささぬ、忘れられた処。
 寂しい、冷たい冬山にぽつんと取り残された、ボロボロのそれに――幾星霜振りにか、近づく、小さな影。
 かしゃかしゃと鉄の脚が立てる硬質な音。握りこぶし大の小型ダモクレスが、わしゃわしゃと蜘蛛に似た細い脚を動かして、掃除機に取り付くと、何やらガサゴソとし始める。
 やがて、しんと静まった林に。
 ギュウウウ、と音を立てて、何かが身を起こした。
 二足で立ち上がったそれは――細長いアームを振り乱し、周囲の木々をなぎ倒しながら、神社の方へと、ゆっくり歩き始めた。

●花の栄え、忘れじの片隅
 白梅の時期だ、と雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は興味もなさそうにいう。
「小さな神社なのだが、梅は見事なのだという。ゆえに、密かに客足が増える頃合いだ――然し、それが問題になる」
 否、なくても、問題だが――辰砂は金の双眸を鋭く細め、続ける。
「ダモクレスだ。すぐ近くの裏山に不法投棄されていた掃除機が、ダモクレス化し、グラビティ・チェインを狙って近づいてくる。これを阻止して貰いたい」
「なるほど、シンプルな話だな」
 レオン・ネムフィリア(オラトリオの鹵獲術士・en0022)が感想を告げるに、そう、シンプルな話だと辰砂は頷く。
 戦場となるのは、森の中。
 神社に辿り着く前に倒してしまえば、避難誘導も示唆も不要であろうと、辰砂は語る。
「人々の平穏を密かに守るイメージだな」
「……貴様がそう思いたいなら、そう解釈して挑むと良い。それと、仕事終わりの事は、私も知らぬ。ダモクレスを片付けて貰えれば、他に言うことは無い」
 レオンの言葉を適当に片付け、辰砂はそのダモクレスについて、説明を告げる。
「掃除機をベースにしているが、二足歩行の機械兵風な外見だ。片腕にアームを備え、それを攻撃の起点としている」
 不均衡な形状から、あまり機敏に動く事はできないだろうが、周囲の木々を易く薙ぎ払う力はある。
 注意して挑んで貰いたいとヘリオライダーは警告する。
「日常に潜む脅威は、まだまだ健在という事だ……油断せぬよう」
 確り討伐し――人々が憂いなく、梅を楽しめるよう守って欲しいと、彼は告げ、説明を終えるのだった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●乱行
 光を遮る青々とした森。風はひやりと冷たかったが、風には仄かに花の香が混ざっている。山から流れてくるものと、恐らく、神社から流れてくる梅のもの。
「梅の花が見られる季節になりましたわね」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)が吐息と共にそっと囁けば、
「昔からの神社であれば、かつてこの地に梅の花々を残した人たちも、同じ香りを楽しんでいたのかもしれないねぇ」
 しみじみと柔らかな口調で、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)が頷く。
「最近はこういった風情が都会からは消えて、桜との区別がつかない人もいると聞くが、勿体ない話だね」
 ふっと息を抜くように、ディミックの嘆息する。
 確かに、季節の息吹を感じるには、街にある植物は少ないのかも知れない。
 折角この地まで脚を運ぶ人々のためにも、仕事は果たさねばな、とレオン・ネムフィリア(オラトリオの鹵獲術士・en0022)が帽子の鍔を引いた。
「人々の平穏を影でこっそり守るイメージ……ってなんだかヒーローみたいですっ」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が意気込めば、
「綺麗な梅の花も見たいですし、この場を荒らすダモクレスは早く倒してしまいましょう」
 諾と、カトレアが微笑んで森を見やる。
 暗く影が落ちる奥に、それはいるはず――奥まったところまで慎重に脚を運ぶ。しんと閑かに騒がしい動物の声も届かず、視界に広がるは、不規則な木立のねじればかりだ。
 此所は寂しいところね、と静かな女の声が響く。
「元は人に望まれて造られ、人の役に立った機械が誰知らぬ場所で錆びれていくのは寂しいものね………」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)の言に、彼女に寄り添う銀髪長身の影、アルベルトは少しだけ首を動かす。
 何かに気付いたのか、彼女が問うよりも早く。
 長い耳をぴょんと揺らしてから、カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は橙色の眼差しを、そちらへと向けた。
 騒音が、聞こえた。
 微かな地響きが重なると、愈々、間違いなさそうだった。
「不法投棄された仕返しに、人間をゴミと認識して掃除してきそうな勢いだな? そもそも暴れまわってゴミを増やしているようだが」
 フードの奥で、薄く笑い、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が冷ややかに呟く。
「クク……これ以上ゴミを増やされる前に、ダモクレスをゴミに還してやろう」
 低い笑いと共に向けた視線の先。
 周囲の木々をなぎ倒して、仁王立ちするような、ダモクレスの姿があった。

●煽動
 掃除機由来だというダモクレスは――やや上半身が大きめで、前傾気味に、長いアームを振るったところから、次の目標へと一歩踏みださんというタイミングだった。
 周囲には、へし折られた木々が、無残な姿を晒しているが、対するダモクレスの頭部には、表情らしい表情はなかった。
「どうして捨てるかねぇ、こんな所に。……SYSTEM COMBAT MODE」
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は人間的なぼやきを零しながら――敵影を捉えるや、すかさずモードチェンジする。
「重力装甲展開」
 戦闘用の――機械的な声音で起動を告げるは、グラビティの防護膜。
 ダモクレスと直接対峙するように立ちはだかったマークの、直ぐ近く。
「はいそこでストップです! ココから先立ち入り禁止ですっ」
 敵へと声をかけ、ミリムはサウザンドピラーの光を、戦場へと放つ。
 星の輝きを宿した魔力の柱が薄暗い木々を幻想的に照らす。明るき力は、影を濃くし――。
 その、木立の狭間を灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は敢えて潜り、猛然とダモクレスへと斬り込んだ。
「不法投棄された掃除機か。理不尽に捨てられた無念、さぞ辛かったろう……だが、だからといって無関係な人々を襲わせるわけにはいかん!」
 発するが儘に、踏み込めば。刃は月の輪郭を描いて走る。
「自由にはさせん!」
 ダモクレスは、アームを掲げて恭介の斬撃を迎え撃つ――鋼と、機体の狭間で火花が散る。彼の刃は頑強な身体を滑り、つなぎ目の、筋のような部分に亀裂を刻みつける。
 同時――ダモクレスの背後で、ふわりと躍るはバラの如き赤い髪。
「月光の如き華麗なる剣術を、見切れますか?」
 曇りを知らぬような美しい刀身は既に弧を描いて、振り下ろされている。
 微笑みを湛えたカトレアの表情すら、見ることは間に合わぬ。脚の関節部を素早く一閃し、彼女は飛び退いた。
 そこへ獣の四肢を更に強化したカロンが飛び込んで、いた。ダモクレスの眼前に飛び出していたが、敵は先の挟撃に気を取られ、完全に無防備を晒していた。
 身のこなしの軽やかさに反し、振り下ろした腕は重く。
 ずんとダモクレスの身体に負荷を叩き込む。
 躍動する仲間達の動きを、見つめつつ――ディミックは敵へと、手を差し出すように。
「在る人が恋しいか、無き人が悲しいか。消えては現れ、望む像はいずこかに――」
 蛍石を媒体にした、幻惑の魔法。
 ふわりと浮かぶ光に、このダモクレスはなんの幻を見るのだろうか。心を持たずとも、ダモクレスとなり得たからには、執着の、思い出の幻影からは逃れられぬ。
 或いは、望みか。
 ディミックはそれを読み取る術はないが。魔法が、ダモクレスの動きを、僅かに遅らせれば。
 へし折られた木々が、敵を縫い止めるように飛来する。
 アルベルトが念を籠めて飛ばしたそれらの影で。
「ああ、駄目よ……掃除機である貴方がこんなに散らかしては」
 ブレスレットから伸びるワイヤーで木々を渡るアウレリアが、砲撃形態へと変じたハンマーを片腕で構え、放つ。
 竜の轟きが空を引き裂き、ダモクレスを捉える。
「そぅら、掃除したければ此方に来るのだな」
 焼けた空気の中を、小柄な影が駆ける。
 外套を靡かせ、ペルが身を翻し――雪さえも退く凍気を纏った、飾り気のない白いパイルバンカーを撃ち込んだ。

●破壊
 ダモクレスの反撃は、まさに力任せの破壊であった。眼前で爆ぜた力に、ケルベロス達は引き込まれるような感覚を覚える。浅くも――しかし、確実に、戦場に血の匂いが漂った。
 暴風のように薙ぐアームは樹木程度ならば容易に断てると、既に其れが歩んできた道のりが証明している。
 バスターライフルを構えたマークが立ち塞がる。踵のパイルバンカーで、地面を深々貫いて、肩の盾を差し出すように受けながら。
 すぐに、反撃できるよう銃を肩越しに、向けていた。
「TARGET IN SIGHT」
 低い音声と同時、放たれた魔法光線がダモクレスの胸を貫く。
 だが、それは。衝撃を物ともせず、攻撃の手を止めなかった。烈風と叩きつけられる腕の中へ、アウレリアはアルベルトの援護をうけて飛び込む。
「何もかも、壊してしまいたい――そんな力ね……」
 念で飛翔する木片を隠れ蓑に、怜悧な光を瞳に湛えながら、彼女は囁く。死を冠する黒鉄の拳銃を掌でくるりと回し、グリップとトリガーが収まるや、撃った。
 早撃ちの衝撃が、その攻撃の軌道を変えるということもない。
「それがどうした?」
 ペルが嘲るように、注意を引きつける。相手に言葉や表情はなくとも、此方の言うことや意図は確り伝わっているようだ。
「掃除機の割に何も吸わんではないか。そんな飾りは叩き斬ってやろう」
 言葉通り、彼女は正面から日本刀を合わせる。受けるアームは堅く、刃を軽く食ってもその先までは沈まない――どころか離れる事を許さぬように、押してくる。
 ペルも、純粋な力では劣らぬつもりだが、やはり、少しだけ押し負けた。だが、今は其れで良い。
「その傷口を、更に広げてあげますわよ!」
 側面より駆けつけたカトレアが、空の霊力を叩き込む。斬撃の鮮やかさよりも、正確に既に刻まれた傷をなぞるように叩き込んだことに、その技量を見る。
 すっと、息を吐き。緑の瞳で仲間達の状態を見やり、ミリムは集中を高める。
「今、治しますっ」
 引き出すのは、大地に塗り込められた「惨劇の記憶」――暗い陰りの魔法であれど、それを繰り返さぬような願いを込めて、ミリムは仲間を癒やす。
 更に、ディミックが光の城壁を出現させ、破壊された加護を即座に重ね直す。
「やれやれ、あんまり切り崩されると生態系に影響が出てしまうからね」
 好きにはさせない、と。
 機械を素とするが、全く違う由来の相手を、強く見つめた。
 ケルベロス達からの怒濤の集中砲火を受けて、やや体勢を低く傾げたダモクレスに――視界の限りの、美しき花の嵐が襲いかかる。
「惑え!」
 レイピアが見せる幻影を、恭介が見せつける狭間。
「まだです――」
 古代語の詠唱を終えたカロンが、杖を向ける。ふわりと金の毛並みが、浮かんで輝くように。神秘より紡がれる魔法の光線が、ダモクレスの片足を捉える。
 巨躯の一部が、質感を――冷たく屈強な金属の躰が、削られた疵口から、脆い石に変えられたのなら。
「力とは、破壊のことだけではありません」
 静かにカロンは囁く。
 一手ずつ削っていく。そういう戦い方もあるのだ、と。

●終結
 ダモクレスの躰は既に数多の呪いに縛られて、極めて鈍重な状態にあった。
 それでも。
 追い詰められながらも――淡々と、ダモクレスは力を振った。己の重量をものともせず、軽く跳躍して、ケルベロスに迫り――その重量を生かして、ただ正面からぶつかってくるように、アームを縦に振り下ろす。
 変わらず、平然と身を挺したマークが、肩の長盾で受ける。みしりと重い音がして、その表層が歪むほどの力。守りを固めた彼でさえ、まともに喰らえば、こうだ。
「聖者の癒す教えを授けます」
 伝説の施療院の紋章を空に描き――ミリムが、彼の傷を瞬く間に癒やす。
 輝く銀の髪を揺らして、すかさず振り返る。
 ダモクレスの様子をみれば、既に王手をかけたような戦況であるが。彼女は一切の気を抜かず、仲間の状態に気を配る。
 ワイヤーを巻き上げながら、大地を跳ねたアウレリアが炎と共に蹴撃すれば、恭介が合わせて刀で斬り込む。
 前のめりに受けたダモクレスが片足を突く。機を逃さぬよう、畳みかけるは、ペル。再びパイルバンカーをその膝に叩き込んで、駆動部に追い打ちをかけると。
 更にディミックは背より目が眩むほどの強い光を発し――焼き焦がす光線が、ダモクレスの輪郭を熱波で歪めた。
 傷を狙い、カロンがファミリアロッドを小動物の姿に戻した上で、魔力で射る――散々に痛めつけられた金属の躰が、更に傾ぐ。
「耐えられますか――?」
 逃さず、脚部を狙ってカトレアが斬り込む。鋭い一閃が装甲を貫き。一刀の流れから舞うように、射線を作るべく横へ跳ぶと。
「LOCK ON FIRE」
 マークがアームドフォートの主砲を解放すると、轟くような剛弾が、ダモクレスを吹き飛ばした。
 木々の折れた場所へ――ダモクレスが歩んできた場所へ押し返すかのように。それを彼は、無言で見つめる。
 もうもうと煙が立って、視界はかなり悪かったが、彼らが敵の生死を見誤ることはない。
「まだ立てますかっ!」
 緊張感を眉間に浮かべ、ミリムが注意を喚起した。
 ゆっくりと、それは身を起こし――背にある排気口をブーストで、弾かれたように戦線に復帰すると同時、攻め込んできた。
 アームを一閃する一撃が、空気を震わせる。
 面白い、とペルが笑う。ポンコツなりに、意地があるらしい――口元だけで笑いながら、軽やかに地を蹴った。
「機械なのだ、ちゃんと通電せねばいかんな? 食らえ」
 己の拳に白き魔力で生み出した、白雷――。
 唸るアームへと、正面から挑む。既に、幾度となく見た一挙一動、狙って拳を突き出す事に、何の問題があろう。
「視界を灼き、白き光景を刻み、瞬間に砕けろ」
 白い輝きが戦場を走る。ダモクレスの視界に至っては、宣告通り、白で染まった事だろう――それほどに大きく鮮やかな、雷を。
 アームを破壊しながら、叩き込んだ。
 相手の勢いを削ぐように、マークがガトリングガンを撃ち込む。
 身動ぎすら許さぬ連射で、その場に縫い止め――ダモクレスはまともに受け流すことも敵わず、無残に穿たれた穴から、血液の代わりに煙を吐いていた。
 最早、治療よりも――判断を下したミリムが、白きレイピアを手に、前へと躍る。花の嵐を紡いで、美しき檻に閉じこめ――皆を呼ぶ。
「一気に片付けますよっ!」
 応じ――すっと息を吐いて、集中を高めると、恭介の左目の炎が、大きく膨れ上がる。
「悪しき貴様の命、ここで断ち切る!そして塵一つ残さず燃え尽きろ!」
 掲げた剣に絡みつき、赫と燃ゆるは、地獄の炎。
 その姿勢の儘、彼は疾駆し――渾身と振り下ろす。身を庇うような動作はないが、僅かにそれは肩から彼に当たるような反抗を見せた。
 触れた刃は、柔らかに沈み。
「そのまま燃え尽きろ!」
 彼の言葉通り、炎に包まれる。
 機兵は斬られた腕に、まともに立てぬ脚を、すべてを使って起き上がろうとする。その頭部を、ディミックが黒い宝珠を核とした大槌で、強か打ち据える。進化の可能性を奪い、封じる一撃は。それの頭部を無情に拉ぐ。
 アルベルトの白銀の銃が、それの背で、爆ぜた。
「打ち捨てられ朽ちていく定めとしても……優しい願いで生み出され、人を活かし役に立つ為に在り続けた貴方達が羨ましく愛おしい」
 黒衣を翻し、宙より銃を構えたアウレリアは儚い笑みを浮かべる。
「――だからせめて此処で終わらせましょう。かつての私の様な殺す為の道具に貶めない為に……」
 優しく慈悲を湛えた声音と共に、撃ち出されたのは、疵口を更に抉り負荷を広げる弾丸。
「この弾丸は杭。損壊を穿ち、傷痍を留める、杭よ」
 正確なスナイプは――その体内で、炎と氷、綯い交ぜに暴れ回る呪いを加速させる。
「変幻自在の攻撃、受けてみなさい!」
 カロンはバトルオーラとケルベロスチェインを魔法でこねるように束ねると、ぐにゃりと歪んで混ざり合う。
 融合したそれは、何処までも澄んだ、美しきブルーの鎖。
 魔法の力を備えた鎖は、彼の周辺でゆるく揺らめき――刹那、ダモクレスの躰を貫いていた。
 そこへ、
「その身に刻め、葬送の薔薇!バーテクルローズ!」
 克己とともにカトレアが剣を走らせる。薔薇を刻み込むように剣を躍らせ、止め、と溜めた一突きは――薔薇の花弁を散らすように、爆ぜ。
 ダモクレスを、四散させた。

●花影
 その亡骸は掃除機に戻る事も無く――バラバラに砕けた。
「ダモクレスに利用された哀れな掃除機……安らかに眠れ……」
 剣を納めた恭介が、短く祈る。
 傍らで――マークが軽く触れるとその殆どは、砂のように崩壊していった。
 その時、何かが転がるように、跳ねて――靴の爪先に触れたものを、アウレリアはそっと拾い上げた。何処のパーツとも解らぬ、小さな破片だ。
 お疲れ様、と。レオンがひょこりと顔を出す。戦闘中の警戒にあたっていた彼は、この場所のヒール修復は任せて欲しい、とケルベロス達に告げる。
 それならば、と。
「神社へと梅を見に行きたいですけど、皆さん時間はありますでしょうか?」
 くるりと振り返ったカトレアが、皆へと誘いをかける。
「せっかくですし、少し花見をしてから帰りましょうか」
 はい、とミリムが応じる。見頃を逃すのは、勿体ないでしょう――誘う微笑みに、異論を唱えられようか。
「レオンさんも梅を見に立ち寄ってみませんか?」
「いいのか」
 勿論、と。即座に返されたミリムの解に、レオンは「では、後で」と嬉しそうに微笑んだ。

「綺麗ですね」
 花の香りを楽しむように、少し鼻を動かして、カロンが天を仰ぐ。長い耳が風にそよぐ――微風が、小さな白い花弁を揺らす。
 仄かな紅のものもあるが、輝くような白梅は、盛りを誇っているようだ。
「このささやかな日常が壊されなくてよかった……」
 恭介の呟き通り――神社は穏やかな空気で満たされ、人々は不安など微塵も知らぬ様子で、思い思いに梅を楽しんでいた。
 ディミックは周囲の景色を一瞥して、双眸の光を柔らかに和ませる。戦いが始まる前、先刻こそ、嘆いてみたものの。わざわざこんなにも、人が集まる事が誇らしかった。
「きっと、この景色は――昔から変わらぬもの、なのだろうねぇ」
 そこに眠るものが、様々変わったとしても。願いや、思いは、きっと不変である。己の浪漫は間違いではないと。
 賽銭箱に賽銭を放り込みながら、ペルは手を合わる。
(「――神に祈るは平和でなく、我にとって愉しい日々をこそ願うのさ」)
 外套の下で目を伏せて。ただ、退屈を遠ざける邂逅を、願った。

 皆とは少し離れた、静かな場所で――アウレリアはアルベルトと、寄り添いながら梅を眺めていた。
 そして、思い出したように、彼女は拾った小さな欠片をその根元に埋めた。これくらいの葬送は、許されるだろう。
「花はこぼれて落ちてもまた次の年には花開く――儚いとされる花の方が機械より余程、永き存在なのかもしれないわね」
 土に還り、再び咲く事は、叶わぬもので――アウレリアはそっと息を吐く。
 しかし、それはひとたびダモクレスとして生を得たのなら。ケルベロス達に死という循環を与えられたのならば――或いは。
 花々の織りなす彩の影に、ひっそりと。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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