●開花
折り畳み式から、板状のスマートフォンへ。携帯端末の主流がそちらに移行して久しい。折り畳み式には折り畳み式の利点があるとはいえ、需要も供給も、当然そちらの方へと流れていく。
店頭に並ぶ。数少ないモックアップすら触られぬままに、型落ち品は前線から姿を消し、やがては『サポート終了』という形で引退を迎えることになる。
――今日はそんな端末達が、とあるショップから運び出される日。まとめてトラックに乗せられた彼等は、倉庫に運ばれ、やがては廃棄されることになるだろう。
その運命を変えたのは、空中を漂う金属粉のような、鈍色の粒だった。風に乗って舞い降りたそれは、積み込まれる前の折り畳み式端末の一つに付着する。そこからの変化は劇的で、機械的なヒール効果により、端末は『携帯』には向かないサイズにまで巨大化した。
さらに、そこから伸びた緑の蔓は、また付近の『同じような者達』に絡みつき、取り込んでいく。蔓の先端に、二枚貝のように変形した端末を据えたそれは、食虫植物の束のよう。一番大きな、牙の並んだ『最初の身体』を天高く掲げ、デウスエクスは誕生を喜ぶように、その無数の口を開閉させる。
「……ええ?」
「何なのこれ……?」
パカパカと、独特の音を立てる口が牙を剥いて、通りかかった人間へと、次々に襲い掛かった。
●パカパカする
「皆さん、携帯端末はどんなのを使ってますか?」
やたら頑丈そうなスマートフォンを掲げてみせて、白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が一同に声を掛ける。街頭アンケートみたいな問いだが、残念ながらこれは仕事の話である。
「今回はですね、古い折り畳み式の端末が、街中でダモクレスになってしまうのですよ」
しかも、そのダモクレスには攻性植物のような特徴も見られる。最近見られる『胞子』によるものと考えて良いだろう。
「放っておけば、このダモクレスはグラビティ・チェインを求めて虐殺を始めてしまうでしょう! けれど、今からならば、被害をゼロにすることも可能なはずです!!」
だから、皆さんぜひ協力を。そう言って、ヘリオライダーは予知した敵の特徴を提示する。
敵の本体は、全長3mほどに巨大化した折り畳み式の携帯電話端末だ。攻性植物と混ざり合い、変形したその姿は、金属製のハエトリグサを彷彿とさせることだろう。また、本体から伸びる無数の蔓の先端にも、小型ながら牙を生やした携帯端末がくっついている。
「主な攻撃方法は、これらの凶悪化した携帯端末ではさむ……いえ、噛みつくと言うべきなのでしょうか? まあそんな感じです!」
伸縮自在の丈夫な蔓は、離れた位置にもその牙を届かせて来るし、場合によっては周囲に残った他の端末を取り込むことで、その身を再生させてくるだろう。
「それからですね、普通のスマートフォンのような、板状の端末を持っているのを認識すると、その方を狙いがちな傾向にあるようです」
やっぱり新しい世代に対する怨みとかあるんですかね、と首を傾げてから、慧斗は一同へと視線を戻した。
「何にせよこの事件は、ユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレス勢力によるものだと思われます。こうして事件を解決していけば、彼らに繋がる何かを得られるかも知れませんね!」
「……とは言ってもね。それも無事に事態を終息させ、帰還した後の話だろう?」
ケルベロスの一人、黒衣の女がそう返す。連中の暗躍も気にかかるが、まずは目の前の事態に集中しなくては。
「何にせよ、罪もない人々が犠牲になるのは見過ごせないね。では皆、共に行こうか」
黒衣の女、キララはそう言って、一行と共にヘリオンへと向かった。
参加者 | |
---|---|
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027) |
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695) |
ベーゼ・ベルレ(ミチカケ・e05609) |
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131) |
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055) |
イルシヤ・ウィール(酷寒・e44477) |
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755) |
ルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874) |
●折り畳み式の悲哀
裏路地に降り立ったケルベロス達の前に、攻性植物とダモクレスの合成体がその身を起こす。絡み合った蔓による身体を、蛇の如く擡げて、威嚇するようにその口を開閉させる。
「うわ……めちゃくちゃパカパカしてるっす……」
その隙間から覗く牙の列を見て、ベーゼ・ベルレ(ミチカケ・e05609)が引き気味の声を上げる。傍らのミミックがパカパカし返している様から、挟まれた時の痛みは何となく想像できる。慣れっこ、と言えばその通りなのかもしれないが。
「無念を体現する姿、か……」
不気味なその身の孕む悲哀を感じ取りながら、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)も同様に身構える。同情はすれども、被害を出す前に止める事こそが慈悲なのだろうと心に決めて。
いざ。彼の纏う気配に呼応するように、ダモクレスは牙を剥いた。軽く開いた端末から、パカ、と軽い音が鳴る。が、そこで。
「折り畳み携帯電話かあ。わたし、知らなかったけど、そういうのあったんだね」
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)の言葉に、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)が「え」と目を丸くした。
「そんな……パカパカさんはまだ現役ですよね……?」
このタイプの携帯電話にも新型は出ている。機械音痴、もといそういうのに慣れない人には、これくらい機能を絞った方がわかりやすく……かく言うシアもそれにお世話になっている内の一人。自然と同意を求めるように周りを見てしまうが。
「端末と呼べるものは使ったことがないのですが……」
「私達レプリカントの場合はアイズフォンもありますからね」
イルシヤ・ウィール(酷寒・e44477)と葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)からは「わからない」という返事が届く。
「面白いと思うのよ。わたしも持っていたらムダに開いたり閉じたりしちゃいそうだもの」
「……個人的には、電話するだけなら折り畳み式のガラケーの方が使い易いんですよね」
幸いと言うべきか、うんうんと頷くルイーズ・ロジェ(宵の星・e86874)とベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)からは割と好意的な声が聞かれた。スマホは防水性が低いのも難点ですし、と続けるベルローズだが。
「でも、時代の流れか……スマホ以外の選択肢が激減したんですよね」
「古いものはどうにも、廃れゆくものなのかもしれませんね」
詳しくないながらもイルシヤが頷く。ううん、と額を押さえたシアは、気を取り直すようにして敵へと向き直った。確かに売り場のスペースも隅っこに追い遣られ、数も減り……世の無情を感じざるを得ないのが現実だ。とはいえ、そう。だからと言って人々を害するのは――。
「とにかく、ここで止めさせていただきます!」
「――いざ、参る」
改めて告げて、トレイシスは彼女と共に前衛に立ち、襲い来るパカパカを迎え撃った。
●強制折り畳み
「流星の煌めき、受けてみてっ!」
開戦と同時に高く、閃く流星のように舞い、シルの蹴りがパカパカの巨大な頭部に決まる。衝撃にぐわんぐわんと体を揺らしたダモクレスは、代わりに小型端末の牙で反撃を試みるが、彼女の姿は既にない。蹴りの反動を活かして跳んだシルは、裏路地という狭い地形を生かし、壁を蹴り付けて移動済み。さらにはジェットパックデバイスの空中機動も合わせて、敵を翻弄していく。
逃れていく彼女の身体は、やがて味方の放ったブレイブマインの煙の中へと消えて、その代わりにと前へ出たシアは、爆破スイッチから持参したタブレットへと持ち替えた。
「ほら、どうですかパカパカさん! タブレットですよタブレット!」
む、と敵の注目が集まったのを察しつつ、電源を入れたら、あとは予習通りに指先でツイッとしてやる。
どことなく誇らしげにメニュー画面をスワイプすると、アイコンがそれに合わせてするする動く。機械に疎いシアの理解ではその辺が精一杯ではあるが、敵の気を引くにはそれで充分だったようで。ぱかぱかと威嚇するように牙を鳴らして、巨大な口がシアに向かって飛び掛かった。
「そうはいかないっす!」
喰らいつくそれに応戦したのは、ベーゼの連れたミクリだ。宝箱の蓋を閉じ、外殻部分で攻撃を受け止めたミミックは、その蓋を開く力で敵を撥ね退ける。
「うちのミクリさんだって、ガブガブなら負けてないっすよ……!」
誇らしげにそう宣言し、ベーゼは獣の剛腕を敵の身に叩き込む。蔓が絡み合ってできたその身体が大きく撓み、ばらばらに――。
「え?」
倒した、のとは勿論違う。解けるように分かれた蔓は、爆発的にその身を伸ばし、ベーゼを、そして周囲のケルベロス達を一度に呑み込んだ。するりと、絡みつく蔓の中で妙な感触を覚えたベーゼは、懐に仕舞ってあったスマートフォンが引っ張り出されていることに気付く。
「ああっ!おれのスマ――」
黄色くて可愛いクマ耳付きのカバーに包まれたスマホが、ぱき、と彼の目の前でお辞儀をした。
「ぎゃー!!!」
「えっ、ちょっとやめて!!」
「待ってくださいこれ借り物で、あぁーッ!?」
ベーゼの上げた悲鳴に続き、シルの所持するスタイリッシュなアウトドアモデルのスマホが綺麗に二つ折りにされて、シアは奪い取られたタブレットを取り返すべく翼を広げる。
「うう、おれのスマホが~」
「はぅぅ、買い替えかぁ……高いんだよなぁスマホって……」
ぱかぱかできるようになってしまったクマートフォンをぱかぱかしながらベーゼが嘆きの声を上げれば、シルが溜息混じりに肩を落とす。肉体的なものよりも精神的に効くその攻撃は、当然の如く他のメンバーにも襲い掛かり――。
デコったスマホを叩き折られたキララが悲鳴を上げる横で、かごめは逆に挑みかかるようにして、手にした端末を敵へと突きつけた。
「どうですか? これは板状とは言えないはずですが」
取り出したのは、あるダンジョンで入手できるイジドアの蜘蛛――かごめがわけのわからない数ストックしている蜘蛛型スマートフォンだ。恐らくはパカパカが恨んでいるであろうそれとは明らかに違う形。一瞬、吟味するように敵の牙が止まるが、まあ折り畳み端末でないという判定は変わらない。かごめを締め付けるついでに、四本足の蜘蛛もあえなく二つ折りとなった。
「やはり、こうなりましたか……」
「わかっててやったのか……?」
かごめの呟きに訝し気な表情を浮かべつつ、トレイシスもまた圧し折られた五年目のスマホごと蔓を脱する。あえなく砕けた愛用品が地に落ちるのを無念そうに一瞥した後、彼は敵に向かって堂々と宣言した。
「生憎バックアップを取っていてな――本命は、此方だ」
なんと、こちらは事前に機種変済みである。囮を捨て、最新型のスマホを取り出したトレイシスの姿に、パカパカのパカパカが苛立たし気にパカパカする。
「なるほど、怨讐塗れの凄まじい様相だな……」
敵の抱くその怨嗟、用済みとして棄てられる無念を思いながらも、トレイシスはそれを利用し、攻撃を引き付ける形で動き出した。ケルベロスチェインで描く結界で防御を固めつつ、駆ける。
スマホを手にしたトレイシスと、タブレットをどうにか奪還したシアを盾役として、ケルベロス達は敵に抗う。犠牲になったスマートフォン達の仇を取るためか、攻撃に回る者達の手には若干いつもよりも力が篭っているようで。
「酷い事になっていますね……」
「そんなに大事なものなのでしょうか、あの端末は」
一方、スマホをヘリオンに置いてきたベルローズとルイーズ、そしてそもそもそういうものに縁のなかったイルシヤは、比較的自由に動けていた。多数の負傷者をまとめてカバーすべく、イルシヤはレスキュードローンで味方を支えつつ、結界を張り巡らせていく。そしてゴーグル越しに敵に狙いを定めたルイーズは、弓による攻撃を放ちながらも、中々に恐ろしい姿の敵を注視するよう努めていた。
「まるで猛獣みたいなの……」
激しく動き回る敵に、思わず「もう少し大人しくしてほしいんだけど」と零す。そこで、狙うべき弱点を解析する彼女のためということもあり、ベルローズは敵の足止めに取り掛かった。
イルシヤの張る結界の後方、禁呪の詠唱を終えた彼女は、その場に蔓延る惨劇の記憶を呼び覚ます。
「怨嗟に縛られし嘆きの御霊達よ――」
死者達の残り香が一斉にその黒い手を伸ばし、敵の身体を掴み、地へと組み伏せにかかった。同時に彼等の怨念、怨嗟の声が響き渡り、「ぱ、パケ死……」とか「暗証番号……誕生日はやめよ……」とか「浮気の……証拠に……」とか聞くに堪えない音色が奏でられる。
「……この辺の惨劇、偏ってませんか?」
「なんでだろうね……」
わかんない、と首を横に振りながら、キララもまたそこから力を取り出し、癒しの力へと変え始めた。
●逆パカ
裏路地にて続く戦闘は、手持ちの端末でダメージをコントールするという作戦が上手くいき、ケルベロス達が優位に進めていた。
そんな中、パカパカに追われる仲間の様子を見て、かごめの頭脳が閃きをもたらす。
「これは、もしや……」
逆転の発想。スマホを持っているから狙われやすいというのなら――。
「――折り畳み式端末を持っておけば、仲間扱いされるのでは??」
「ははあ、一理あるね」
顎に手を遣ったキララが「妙案かも」と乗って来たのに頷き返し、かごめはこんなこともあろうかと用意しておいた折り畳み端末を手に、迫り来るパカパカの一つに向き直った。牙を剥く小型端末の群れの前に、自らの携帯を差し出し、ぱかぱかと開閉。すると、自らによく似た端末を前に、小さいパカパカ達が動きを止めた。
「え!?」
庇いに入ろうとしたシアが驚愕する。それが上手くいくのならば、折り畳み携帯愛用者である彼女も、同じような手を使えたのでは? 味方にそんな衝撃を与えつつ、かごめは攻撃を止めた敵へと文字通り歩み寄る。が、ダモクレスの中で「まあそれはそれとして敵だし」と結論が出たのか、かごめは頭をがぶりとやられた。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌ててイルシアとシアが救助に走り、エクトプラズムのか鉤爪と日本刀が、かごめに噛みついた端末の蔓を切り飛ばす。しかしながら、当のかごめの方は、特に驚いた様子もなく。
「やはりダメでしたか」
「ですよねえ」
納得半分残念半分、シアが溜息を吐いてそれに応えた。花の襲「残菊」、薄青の光で味方を癒す彼女に合わせて、同じく前衛のトレイシスが殺神ウイルスを散布、不良在庫を取り込み再生を図る敵へと妨害を加えていく。
「このまま、畳みかけたいところだが……」
そうして彼が視線を向けた先には、アタッカー、ベーゼがスマホをもう一度握り締めていた。割れて砕けた愛用品。だがそこに詰まった思い出は、割れることなく彼の胸の中にある。
「おれにはわかるっす……まだ、おれのスマホは……負けてなんてないんだ!」
その心に火をつけて、うおお、と雄叫びを上げたベーゼは、二つ折りにされたスマホで思い切り殴り掛かった。彼の腕力と思いを乗せた一撃は、敵の本体をヘコませて。
「ここからは、全力で行くからねっ!」
そこに、薬指の指輪を輝かせてシルが切り込む。戦況、そして敵の状態を確りと把握していた彼女は、そこで最適な攻撃方法へと切り替えた。口火を切るのは魔力砲撃。『天翔双翼姫』、シルと鳳琴のコンビネーションにより、砲撃と掌打、青い翼と赤い翼が飛び交い、ダモクレスは成す術もなく後退し始めた。
「好機ですね、追い詰めましょう……」
「トラウマを刻み込んで差し上げます」
ベルローズの放った緑の粘菌が広がり、敵の頭部を包み込む。さらにかごめの放ったジグザグミサイルがそれをさらに広げていった。へばりつく緑のそれの中で、ダモクレスは馬鹿でかいスマホの群れに襲われ、『サポート終了』と唱え続けられる悪夢に囚われる。
そうして、敵に自傷の傾向まで見られたところで、敵を観察していた彼女が口を開く。
「――どうかな、そろそろ狙えそう?」
「これは……パカ狙いタイムかも知れないっすね……!」
ルイーズの問いに答え、ベーゼはミミックに攻撃を控えるよう指示を出す。ここから必要になるのは精密かつ強力な一撃。それを踏まえ、ケルベロス達は揃って援護に動く。自然と高まる緊張感に、ルイーズは密かな笑みを浮かべた。
「……わあ、どきどきワクワクしちゃうの☆」
しかし、敵の動きが鈍ってきているとはいえ、未だ狙うには『邪魔』が多いのは見て取れる。
「小さいのはこちらで引き受けましょう」
そう申し出たかごめは、ルイーズ等と逆方向へと駆けつつ、隠し持っていたスマートフォンを敵へと向ける。同列のキララもその後に続いて。
「いくつ携帯隠し持ってるんだい、かごめ君――って四つ折りはやめてーッ!?」
そんな悲鳴を他所に、かごめは殺到する小型端末をスパイラルアームで迎撃していく。蔦の波がそちらへと流れたこともあり、敵本体までの道が、ルイーズの前に開いた。
「あとちょっとっす~」
「さあ、とどめを刺してあげましょう」
「お願いします!」
ベーゼの放つエネルギー球が武器を握る手に力を与え、ベルローズの読み上げた断章が思考精度を、シアの展開した金属粒子が五感をそれぞれ先鋭化する。
「隙が出来ました!」
「ああ、後は任せる」
イルシヤに続いてトレイシスがロッドから雷を迸らせ、敵を打ち据える。電撃はその身の硬直を誘い――。
「そこが最大の弱点、なんでしょ? 真っ二つにしちゃうのよ」
『神の眼』の名を冠するゴーグルを通し、敵を捉えたルイーズは、皆から集められた力を一身に宿し、砲と化したドラゴニックハンマーの引き金を引いた。
「行けー!!」
放たれた竜砲弾は唸りを上げて、彼女の狙い通り、敵の口の中に着弾。爆ぜる炎と音色を伴い、砲弾はそのまま上顎を撥ね飛ばした。
「――!?」
悲鳴を上げる暇など無い。跳ね上げられた上顎は下顎と遠く離れ、連結部分が軋みを上げて、一瞬の後に弾け飛んだ。
逆向きに開き切った大口を晒し、ダモクレスがゆっくりと倒れていく。
●サービス終了
引き付けていた小型端末達が、揃って地に落ちる様を見て、かごめは事態の終息を察知する。
「無事、終わったようですね」
武器と一緒に、囮にしていたスマートフォンを仕舞って、彼女は仲間達の方へと目を向けた。
「皆のおかげで上手くいったよ☆」
「ああ、見事だった」
ありがとう、とお礼を言うルイーズに、トレイシスが頷いて返す。
「しかし痛々しい姿だな。やらかした記憶が蘇るぞ……」
逆向きに開き切れば、それはもう致命傷である。引き千切れた可動部から火花を散らしながら、パカパカは力無く地面に倒れていた。
「二つ折り携帯には世話になった時期もあるのだがな……」
今ではスマートフォンの中でも世代差が存在するのだから、時の流れとは無情なもの。かつてを思い返すトレイシスに、現役パカパカユーザーのシアが続く。
「パカパカさんにだって、良い所が本当に沢山あると思うのです」
頑丈だとか、タッチパネルと違い操作系がシンプルだとか、色々と。そしてそれゆえの決意を胸に、シアは消え行くダモクレスへと弔いの言葉を贈った。
「私はパカパカタイプが残っている限り使い続けます。ですからどうか、安心してお休み下さいませ」
「ああ、どうか成仏してくれ」
「しかし、面白い外見なのに強かったなぁ……」
しみじみとそう呟いて、シルはスマートフォンを手に取り――それが残骸と化していた事に気付く。
「……あ、携帯ショップよっていこうっと」
「おれもそうしたいっす……できれば新しいのを……」
パカパカできるようになってしまったクマートフォンをパカパカと動かして、ベーゼは溜息混じりにそう続いた。ミクリさんはそのパカパカが気に入っているようだが、このままではスマホとして使えないので仕方がない。
「そう言う事でしたら、俺も――」
携帯電話、スマートフォン、そういったものを持ってみようかとイルシヤは言う。とはいえ、何が良いかなど見当もつかないので。
「キララさん、一緒に選んでもらえませんか?」
それから、使い方の相談用に連絡先も。そう続ける彼に、キララは快く頷いた。
「それは構わないとも。けれど……」
言って、手元のスマホに視線を落とす。へし折られたそれも、気に入っていたんだけど、と呟いたところで、ベルローズがそこに指を添えた。
「それでしたら――」
こうすれば良いのでは? そうしてヒールを施されたスマホは、何だか厳つい形になりながらも再生する。試しに電源を入れれば、元通りの画面が立ち上がった。
「おお、ちゃんと起動したよ、ありがとうベルローズ君……!」
「キララさん、この待ち受けは……」
「え、これはその……か、かわいいだろう?」
しー、と口元に指を立てて、誤魔化すように、彼女はベルローズを修復作業の続きに誘った。
「――それにしても、新機種はさくさく動く。素晴らしいな」
「いいなあ、わたしのも早く来ないかな」
すっかりヒールの終わったそこで、ルイーズはトレイシスの手元から上空へと視線を移す。今日の成果を、活躍を、早く自慢してあげたい相手が居る。ヘリオン、というよりそこに預けたウサギさん型のスマホを待って、彼女は降りてくるそれに目を凝らした。
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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