きらきらしてぷるぷるしているアレ

作者:星垣えん

●それは! 宝玉!!
 すっきりと美しいガラス皿。
 その上で、ルビーのように色づいた透明がぷるぷるしていた。
「…………うーん、びゅーてぃほー」
「綺麗っすねー」
「なんつーか見てるだけでも楽しいですよね」
 周囲を囲んでいた者たちが、うっとりと息をつく。
 彼らの視線が集まるもの――それはゼリーだった。まるで宝石のような美しさを放つ姿に、彼らはすっかり心を奪われてしまっているらしい。
 だけどもちろん、正常な精神状態でそうなっとるわけでもない。
「この煌びやかな透明感……にも拘わらずフォルムはぷるんぷるんと流動的で、セクシーささえ感じられる。やはりゼリーこそデザート界の至宝よなぁ……」
 とか皆の輪の中心で語ってるおじさんは、鳥面である。
 うん、いつものやつだった。
 いつものように、ビルシャナが自宅で信者たちと怪しいトークをしてただけだった。
「ゼリーさえあれば他のデザートなんて不要。きみたちはそれを理解してるね?」
「当然っすよ!」
「わざわざ二番三番のものを食べる理由なんて、俺らにはないです!」
「うむ! よろしい!!」
 試すような台詞で信者たちの反応を引き出した鳥さんが、がばっと立ち上がってキッチンへ消えてゆく。
 そして、レストランばりのサービスワゴンをがらがらしながら戻ってきた。
 そのすべての段を埋め尽くす、大量のゼリーとともに!
「さあ、ゼリパ(ゼリーパーティー)だぞぉぉーー!!」
「ヤッタァァァァーーーー!!!」
「ゼリーおじさんのゼリーだぁぁぁーーー!!」
 わーいわーい、と幼子のような歓声をあげてゼリーに群がる信者たち。

 それから彼らが最ッ高の笑顔で、ぷるんぷるんしたのは言うまでもない。

●行くしかあるまいよ!
「というわけで、ゼリーおじさんが現れたんだ」
 なるほどわからん。
 猟犬たちはとりあえず心中でそう言うしかなかった。
 皆をヘリポートに呼んどいて、真面目な顔で意味のわからないことを口走る一之瀬・白(龍醒掌・e31651)に対してそう言うしかなかった。
 ゼリおじって何だよぉ……とか困惑した視線で白の隣をチラチラする一同。
 するとその様子を見取ったのだろう、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が大体のことを説明してくれた。

「ゼリーを至高とするゼリー推しのビルシャナが現れました」
「ビルシャナは民家にこもり、せっせとゼリーを作って布教に努めています」
「このゼリーおじさんを野放しにしてはおけません。皆さんで討伐をお願いします」

 てな感じのことを言ってイマジネイターは猟犬たちにぺこっと頭を下げた。その姿は真剣に仕事をこなすヘリオライダー以外の何物でもない。終盤からゼリーおじさんとか言ってた気がするけどきっと気のせいだろう。
 状況を理解したことを猟犬たちが告げると、白は信者たちについて言及した。
「現場にいる信者たちは十人ぐらいだけど、彼らのゼリー愛はゼリーおじさんほど強くはないみたい。だから機を見てゼリー以外のデザートをすすめてあげれば、きっと目を覚ますはずだよ」
「そうですね。信者たちを正気に戻すのは難しくないと思います」
 白の説明にイマジネイターも首を頷ける。
 で、とてもにこやかな表情で猟犬たちの目を見てきた。
「だから皆さんは遠慮せず、美味しいゼリーを楽しんできて下さいね」
 弁明のしようもなく言い放ったイマジネイター。
 うんまあ、ですよね。そりゃそういう話になりますよねー。
「信者たちを説得するのは彼らがゼリーに飽きた頃がベスト。だから僕たちは慎重にタイミングを見定めなければならない……つまりその間、ゼリーおじさんのゼリーが食べ放題なんだよ!!」
 白くんとか大義名分を得たみたいなことを言おうとして結局文脈がおかしくなってますものね。意識が完全にゼリーに持ってかれてますものね。
「――♪」
 そしてよく見たら百火(ビハインド)はすでにヘリオンに乗ってますからね。ヘリオンの荷室に背筋正して鎮座してますからね。兄よりやる気あるかもしれないからね。
「それでは行きますよ皆さん。どうぞヘリオンに乗って下さい」
「絶対に倒してみせるぞ…………ゼリパ!」
 一同をヘリオンへ誘うイマジネイターの横で、ドラゴニアンが拳を握る。
 かくして、猟犬たちはゼリーおじさんに会いに行くのだった。


参加者
リーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)
七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
柄倉・清春(ポインセチアの夜に祝福を・e85251)

■リプレイ

●ここをキャンプ地とする的な
「うーんゼリーうまい」
「これならいくらでも食べれそうっす」
 ありふれた民家の居間で平和にゼリー食ってる鳥と信者たち。その中にもうシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)が混じってるけど今は気にしないでおこう。
 なにせ、すぐガサ入れがあったのだから。
「どうもどうも! 通りすがりのゼリー警察よ!」
「な、なにぃ!?」
「ゼリー警察だと!?」
 勢いよくドアを開けて突入してきた七星・さくら(緋陽に咲う花・e04235)に慄いた顔を向けるゼリー信者たち。ノリノリである。
「何の用だ。国家の犬め!」
「決まっているじゃない。きらきらでぷるぷるのゼリパだなんて、ゼリパだなんて……わたし達も混ぜなさいっ! じゃないと死刑!!」
「罰が重い!!」
 ノリ良く応じてきた鳥が、さくらの茶目っ気ある脅迫に軽快にツッコむ。
 悪徳。悪徳警官以外の何物でもなかった。
「そんな暴挙が許され――」
「はーい、荷物置くからそこ場所開けてねー」
「ぐああーーっ!?」
 怒れるおじを遮ったのはエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)が操るドローン・デバイス。調理器具や食材を運んできたエヴァリーナはゼリおじを吹っ飛ばして空いたスペースにするっと収まった。
「うん、準備万端♪」
「これでゼリパを楽しめるわね!」
「じゃんじゃん食うっすよ」
 あげく普通にわいわいし始めるエヴァリーナ、さくら、シルフィリアス。
 信者たちは焦燥に駆られた。
「なし崩し的に占領されている!?」
「なんとかしなくては! 奴らをどかすんだ!」
「じゃあお前らの席をいただいとくわ」
「ふぁっ!!?」
 立ち上がった信者たちの席を容赦なく奪いとる柄倉・清春(ポインセチアの夜に祝福を・e85251)。悠然と脚まで組んだ男は信者らが二人がかりでもビクともしねえ。
 さらに――。
「喉ごし爽やかなスイーツが恋しい季節にゼリパだなんて、やるじゃないか」
「ああっ、また知らない男が!」
「果物の入ったゼリーが良い、な」
「こっちは知らない女が!」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)とリーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)もしれっと椅子取りに成功していた。早業。
「僕たちの席がぁ……」
「人ん家のリビングを占拠とか……マナー知らずすぎるよぉ!」
 信者らを慰めつつ真っ当なことを言う鳥。
 恐らくこの場で最も常識人――そんなおじさんの肩を、エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)と陽月・空(陽はまた昇る・e45009)は後ろからトントン。
「大丈夫です、大丈夫ですよ」
「うん、大丈夫」
 ゼリおじを宥めるように繰り返すエルム&空。
 繰り返しながら、エルムはお腹をさすり、空は持参した保存容器を見せた。
「ちゃんとお腹の容量はカラにしてきてますので、大丈夫です!」
「残ったゼリーをお土産に持ち帰る準備もバッチリ出来てるから、安心して」
「ハハハ、こやつら」
 悪気の欠片もない二人の表情に、ゼリおじはもう乾いた笑いを発するしかなかった。

●ゼリパ!
 民家はゼリーと椅子を巡る熱き闘いの舞台となっていた。
 わけもなく!
「ぜりー、きらきら、ぷるぷる……おじさんすごーい!」
「ふふふ。これとか自信作」
「いちごぜりー!!!」
「いいですね、春ですし」
「たくさんあるよ」
 ゼリおじと猟犬たちは何だかんだ和やかにやっていた。さくらも右院も鳥さんとテーブル越しに向かい合って苺ゼリー食っとるからね。
「ぷるぷるぜりー……ぷるぷる……」
 さくらなんて一口食べるたびに1歳ぐらい退化してるからね。もうそろそろ語彙が『ぷる』だけになってもおかしくないからね。
「そういえば最近は桃のようなフレーバーの苺もあるとか。もしかしてそういうゼリーも……?」
「あるよ」
「ではそれをお願いします」
 右院とかもう普通にゼリおじの常連客になってるよ。踏みこんだ注文も気兼ねなくできるぐらい馴染んじゃってるよ。
 信者たちは、悔しげに拳を握った。
「俺たちが注文する暇がないよぉ……」
「あるものを食えばいいっすよ。あの人たちもずっとオーダーし続けるわけじゃないっす」
「シルっち……!」
 隣から慰めてくるシルフィリアスの優しさに涙ぐむ信者たち。彼らにシルっちとまで呼ばせるとかシルフィリアスは何なんですかね。
 だが、信者たちは彼女を歓迎しきっているわけでもなかった。
「この葡萄ゼリー美味しいっすね」
「――♪」
 ぱくぱく紫ゼリーを食べてるシルフィリアス……の髪の毛も、うごうご蠢いてゼリーをひと飲みしてるから。
 もうほんと意思があるかのように、幾つかの髪束が好き好きに飲んでる。
「いやおかしいだろォォ!!?」
「ゼリーのプルプルと果肉の食感も良い、ね。大きな葡萄がジューシー」
「果汁がたっぷり感じられて、おいしい」
「お前たちも平然と食わないでぇぇぇ!!?」
 シルフィリアスの横で脇目もふらず葡萄ゼリーをもぐもぐしてるリーズグリースと空に、信者らが泣きつくような顔でツッコんだ。
 しかしまあ、リーズグリースも空も気にするわけがないので。
「あれはマスカットかな。食べてみよう」
「こっちには、林檎味」
 目を引かれたゼリーを取っては、ぷるんと口に入れて静かに味わう二人。聞く耳がないし幸せそうで邪魔しづらいしで信者たちは諦めるしかなかった。
「何を言っても無駄か……」
「まあゼリー食って落ち着こうぜ」
 気を取り直してゼリーの山に手を伸ばす信者。
 ――が、ない。
 あったはずのゼリーの一山が消失していた。
「あれ? ここに集めといたのに」
「おかしいねー? なんでなくなったんだろ?」
 信者に同調したのはエヴァリーナである。
 首を傾げてるのを見るに本当に不思議がっているらしい。
 自分の周りに大量の空きカップを散乱させてるけど、ガチで不思議がっているらしい。
「いや明らかにお前が食いやがっただろうがァァ!!」
「こいつ一人でぇ!!」
「でもなくなったなら頼めばいいよね! おじさーん、全種50個ぐらい追加で! あと等身大鳥さんゼリーも食べたーい作ってー!」
「反省がゼロッ!!」
「仕方ないなぁ。5分待ってて」
「おじさんも甘やかさないでー!?」
 エヴァリーナが無茶ぶりしたり信者がツッコんだりおじさんが快諾したりとなんかもう何が起こってるかわかんねえ食卓。
 そんな食卓の一角で、清春がガタっと立ち上がる。
「このヨーグルトゼリー……美味すぎねえか!?」
 ハッと目を見開き、汗すら浮かびそうな感じの清春。
 ゼリおじのゼリーが大層美味かったらしい。ヨーグルトの酸味と甘味のバランスにナタデココの食感が合わさったそれは衝撃の味だったみたい。
「ゼリーって作るのは簡単だけど自分でやるとちょい安っぽい味になっちまうんだよなぁ……おいコラ鳥野郎!」
「えっ!? なになに!?」
「オレも調理場に入るぜ……手元見せろや!」
「なんか怖い! 目が怖いよぉ!?」
 清春に絡まれながら、調理場へ消えてゆく鳥さん。金髪男に手元をガン見されながらの作業は相当気まずいだろう。でもゼリおじはプロだしたぶん大丈夫さ。
 むしろ気がかりなのは、椅子に取り残された黒電話(テレビウム)のほうさ。
「――」
「何も言われてないなら帰っていいんじゃないっすか?」
 手持ち無沙汰感がパない黒電話に、蜜柑ゼリー食いながら帰宅を促すシルフィリアス。
 対して黒電話がかぶりを振ると、同じく柑橘ゼリーを味わってた右院がハッとする。
「そういえば任務でしたね」
 忘れていた。
 完全に忘れていた顔である。
「まあ信者がゼリーに飽きるまでは、急ぐ必要もないですか」
「そうっすね。こっちも仕事できる状況じゃないっす」
 右院に頷いたシルフィリアスが、ちらりと視線を斜向かいに移す。
 そこには――。
「これも美味しい……こっちも美味しい……忙しいですねシュネー……!」
「――!」
 テーブルに並ぶゼリーの数々を次々と食べて、ファミリアのもふもふシマエナガちゃんと全力ではしゃいでいるエルムがいた。
 完全に心を奪われている。スプーン片手にぷるぷるゼリーを食べ続ける彼の目には、もうそれしか映っていないだろう。ゼリーを啄んでは興奮した様子で主人を振り返るシュネーはカワイイ。
「あ、これお持ち帰りしたい……」
 とか呟いてるし、仕事ができるわけもないエルム。
 右院は食べかけのゼリーをぱくり。
「とりあえずエルムさんが正気に戻るまでは待ちますか」
「あ、鳥が戻ってきたっすよ」
「みんなー。ゼリー追加だよー」
 サービスワゴンとともに戻ってきた鳥が、新たなゼリーを供給する。
「エヴァリーナちゃんの等身大ゼリーね」
「やったー!」
 鳥人を模したでっけえゼリーに駆け寄るエヴァリーナ。
「こっちはさくらちゃんの虹色ゼリー」
「ぷるー!」
 七層のタワーっぽいゼリーにとてとて歩いてくるさくらはもう手遅れだ。
「こっちは空くんのフルーツポンチだよ」
「ありがとう、鳥さん」
 ちゃっかり注文していたらしい空は、ボウルに詰められたフルーツポンチを受け取って目を爛々とさせている。
「おじさん! 等身大ゼリーおかわり!」
「早くね!?」
 エヴァリーナがまたやったので調理場にとんぼ返りのおじさん。それを見送りつつ空はリーズグリースと一緒に冷たいフルーツポンチをむぐむぐ。
「やっぱり、ゼリーで包んだ果実がいい感じ……」
「うん、いろんな果実が楽しめて、美味しい」
「え、何ですかそれ。僕も食べていいですか! これをあげますから!」
 耳ざとくフルポンを察知したエルムが、ひっそり作っていたクラッシュゼリーソーダを掲げながら小走りでやってくる。シュネーとか食い過ぎてちょっと丸くなってない?

 楽しい楽しいゼリパは、そっからも小一時間続きました。

●ところで仕事なんだよ
「んー。さっぱりした美味しさだよなぁ」
「でも……なんか足りなくね?」
 ゼリーを食っていた信者たちの、手が鈍りはじめる。
 それを見て取ったシルフィリアスは、すすっと横に並んだ。
「わかるっす。甘いものばかりだと飽きるっすよね」
「あ、あぁ……」
「おじさんには言いづらいけど……」
「そこでポテチっす」
「!?」
 そっと、袖の下みてーに袋をちらつかせるシルっち。
「いいのか……? これは裏切りじゃ……」
「知らないんすか。ゼリーの甘みにポテチの塩分が加わることでより味が引き立つっすよ。つまりこれはゼリーを美味しく食べるためっす」
「な、なるほど!」
 小声でひそひそするシルっちと信者。なお鳥さんは調理場で頑張ってるので声を潜める必要はまったくない。
「私からもおすすめがあるよー」
 密談に加わってきたエヴァリーナが、皿を差し出してきた。
 乗っているのは、温かな香りを昇らせるフォンダンショコラやホットケーキ。
「皆、お腹冷えてない? ほら、チョコソースがとろーりのフォンダンショコラだよー。ぜんざいを混ぜてる和風ホットケーキもあるよー」
「こ、これは!」
「甘い香りが! 甘い香りがー!」
 ぐぐっと胃袋を掴まれた信者たちが唸る。
 そこへさらに畳みかけたのは、さくらと空だ。
「……ぶっちゃけ、ゼリーってお腹に溜まらないと思うの。ぷるぷるしてるだけで食べた気がしなくて……やっぱりスイーツってお腹にガツンとこないと!」
「わ、和菓子!」
 と語りながら、饅頭やら桜餅をテーブルに並べるさくら。そしてその延長線上に空はどでかいバケツプリンをどんっと置いた。
「こんな背徳的なものを……!」
「僕はプリンがおすすめ。ゼリーとはまた違ったぷるぷるだし、フルーツを盛りつけたりアイスを乗っけたりするのにも罪悪感が沸かない」
「確かにアレンジは利くけどカロリーとか凄そうな……」
「ばかやろう! 美味しいデザートは砂糖とカロリーで出来ているんだよ!」
 躊躇う信者へ握り拳を見せつけるさくら姐。なんという頼もしさ。数分前まで『ぷる』しか言えない2歳児だったとは思えません。
「あぁ、手が勝手にぃ!」
「……辛抱たまらん!」
「お、おまえたち待てぇ!」
 次々とスイーツに手を伸ばすゼリー信者たち。未だ信仰を捨てずにいる者たちが制止しても、彼らはどんどん脱落してゆく。
「ゼリーを捨てるとは……」
「ゼリーもいいけど、紅茶とチーズケーキのティータイムも良い、よ」
「ぬ!?」
 強情な信者の横へ移動したリーズグリースが、洒落た小皿に乗ったベイクドチーズケーキと温かな紅茶をさりげなく彼らの前へ。
 同時に、自らもはむっ。
 リーズグリースの眠そうな目が、いっそう蕩ける。
「紅茶の香りと茶葉に合わせた味付けのチーズケーキの組み合わせは絶品、ね」
「美味そうに食いよる……!」
「では俺からもこれを」
「ああっ、いい匂いが!」
 信者を悶絶させたのは、逆サイドから右院がそっと出してきたガトーショコラ。重厚な色合いを魅せるそれを一口食べて、右院はにっと口角を上げる。
「ぷるぷるを掬うのも飽きたでしょう? 小麦粉系の食べ応えととチョコレートの濃厚さで気分転換、いかがですか?」
「くうっ! 卑怯な!」
 お腹を押さえ、かすかな抵抗をする信者たち。
 けれどそんな彼らの前で、エルムはおもむろに、持参した紙袋(ドライアイス入り)からアイスクリームを取り出した。
「それは……?」
「おうちで作ってきました。まずはこれ単品で楽しみますね」
 ぱく、とひと掬いのアイスを頬張るエルム。
 それだけでも頬が落ちるような美味しさである。だがこれで終わりではなく、エルムは皆の披露したスイーツを手元に寄せると――。
「ま、まさか!?」
「こうして、こうして、こうです!」
 ガトーショコラに、バケツプリンに、はたまたエヴァリーナの隠し玉アップルパイにもアイスをまるっと添えるエルム。
 甘味に甘味が合わさったその姿は、神々しいの一言。
「こうして味わうこともアイスはできるんです!」
「映えが……映えがすごいよぉ!」
「あぁ、映えがすげえ……そして俺からは映えまくる『クリームぜんざい』をすすめてやる!!」
「ちょ、調理場に籠ってた人だ!」
 アイスで陥落寸前の信者たちの背後へ現れたのは、調理場でゼリおじのすべてを見学してきた清春だった。見学ついでにぜんざいも作っていた彼は「借りるわ」とエルムのアイスを引き寄せ、濃厚クリームのドームを作る。
 で、それを崩して餡とまぜまぜ!
「や、やめろぉぉーー!?」
「アイスがゆっくりとろけながら餡に絡む官能的な食感! 餡の奥ゆかしい甘味をアイスが際立たせて……和と洋のハーモニーが口のなかで広がるんだわ、これが!!」
「耐えられん……耐えられんんんっ!!」
 苦悩していた信者たちが――負けた。

 そうしてお仕事を済ませた猟犬たちは、裏でせっせとゼリーを作ってくれていたおじさんをサクッと殺り、余ったゼリーと持ち寄ったスイーツでうっきうきの二次会に突入したそうです。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年4月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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