ファウンテン・ラブ

作者:四季乃

●Accident
 赤く瑞々しいイチゴにとろけたチョコレートを絡めてぱくりと一口。
 生クリームを加えて溶かしたチョコレートはシルクのように舌触りが良く、鼻腔に抜けるほど芳醇なカカオの香りが肺に満ちていく。一瞬遅れて広がる苺の甘酸っぱさがチョコレートの甘みを程よく緩和させ、身も心も骨抜きにする。
 老若男女、世代も性別も関係なく様々な人たちで賑わうホテルのガーデンは、あちらこちらにチョコレートファウンテンが屹立していた。
 メインを飾るミルクチョコレートに、ミルキーな味わいのホワイトチョコレート、甘さ控えめほろ苦のビターチョコレートに抹茶チョコレートなど様々で、食材もイチゴとリンゴにバナナやキウイ、ブドウを始めとしたフルーツはもちろん、バウムクーヘンやワッフル、マシュマロ、ドーナツなどのお菓子も種類が豊富で、中にはポテトチップスまで用意されている。
 そんな、甘いチョコレートを楽しむ人々の姿を、木々の枝葉から覗き込むモノがあった。いや、正確には「モノ」とすら呼べないほど、それは限りなく小さな、ただ鈍く光る金属粉のような胞子であった。
 花に吸い寄せられるミツバチのようにふわふわと近付いて行ったその胞子は、まるで品定めでもするかのようにしばらく辺りを漂っていたが、ひとつ大きく頷くと、あろうことか中央で一番人気のミルクチョコレートファウンテンにすっぽり飛び込んでしまったのだ。
 次の瞬間、チョコレートファウンテンはあわい光を放ちながら僅かに肥大化すると、あちこちから蔓のような触手を八本ほど生やした。生まれたそれぞれの”手”はテーブルで彩りを放つ食材を鷲掴みにして、ちゃぷちゃぷ自分のチョコレートに浸し、それから――。
「アマーーーーーーイ!」
 呆気に取られてぽかんと開かれた口に、次々突っ込んでいくのだった。

●Caution
「このように、ダモクレス化してしまったチョコレートファウンテンは、会場に居る人たちに”己”を振る舞いつつ……グラビティ・チェインを奪っていったのです」
 微苦笑を零しながら説明を終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の隣では、夏空の青い瞳を空に向けた隠・キカ(輝る翳・e03014)が、はふんと吐息を漏らしている。
「きぃよりおっきなチョコレートファウンテン……見てみたいな」
 そんな姿に、思わず穏やかな笑みを浮かべたセリカであったが、すぐ口元を引き締めると集まったケルベロスたちに向き合った。
 曰くこのダモクレス、攻性植物の胞子によって作り替えられているのだとか。

 全長百センチもある八層からなるチョコレートファウンテンは、会場で一番大きな型だったらしい。それが機械的なヒールで体が作り変えられたことによって、二メートルほどに肥大化しており、本来ならあるはずのない”触手”まで生えている始末。
「攻性植物の胞子が捕り付いたことにより、その触手は植物の蔓のようなものではありますが、根本的には通常のダモクレスとあまり大差はありません」
「いちばん人気のチョコレートファウンテンだったから、想い出がいっぱいあるのかな」
 いわゆる残留意志と呼ばれるもので、もしフルーツやお菓子を手に持った者が目の前に現れると「ドウゾー」と言わんばかりに大人しくチョコレートを付けさせてくれるそうだ。
「隙を突くには十分な時間を稼げそうですが、あまり多用すると敵も察してくることでしょうね」
「チョコレートの弾をうってきたり、液体のまま飛んできたと思えば貫通する槍になったり、武器を色々作るみたいだよ」
 八本の蔓が手足となって絡め取ってくる可能性もある。
 現場はとある高級ホテルのガーデンで、他にもチョコレートファウンテンや白いクロスを敷いたテーブルにガーデンベンチなど障害物が多いので、気になるようであれば隣のガーデンに移動すると良いだろう。幸いイベント会場はホテルの広間に面した場所のため、協力を要請しているスタッフ及び警備員らがすぐさま室内に一般人を退避してくれる手筈になっている。敵の注意さえ引ければそうてこずることもないだろう。
「たぶん、これはユグドラシル・ウォーで逃げ延びたダモクレスたちのせい。きぃたちが食い止めていけば、何かが得られる……かも?」
 キカの言葉に大きく頷きを返したセリカ。
「日々の疲れを癒し喧噪を忘れるための甘い物……そんな楽しみを壊されてしまうのはとても悲しいことです。どうかダモクレス化してしまったチョコレートファウンテンを止めてください」


参加者
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
彼岸花・深未(特殊巻き込まれ系男子・e01205)
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
シフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)
城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)
 

■リプレイ


 とろけたチョコレートの香りが、舌先から鼻腔に抜けていく。ひとくち噛むと広がるのは熟したキウイの瑞々しくて爽やかな酸味。チョコレートの芳醇な香りと果物の甘酸っぱさをほどよく調和させたひとかけらをじっくりと咀嚼した樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)は、満足そうにひとつ頷いた。
「チョコファウンテンから触手が生えているが、それを緊縛に使わずにチョコで勝負する心意気はプロですな」
 口端についたチョコを親指の腹で拭いながら、正彦は腰に提げていた長物に手を伸ばす。横から割り込んで奪う形になったものだから、あわや口腔火傷しそうになった少年と、ダモクレス・チョコレートファウンテンがぽかんとしていた。
「確かにチョコフォンデュはおいしいですが……それを無理やり食べさせるなんてトラウマになったらどうするんですか!」
 ぷんぷん、といった様子でフォンデュフォークを振り上げるのは彼岸花・深未(特殊巻き込まれ系男子・e01205)だった。蜂の巣を突いたような騒がしさを背に隠し「そんな無礼な輩は退治しなければなりません!」と意気込みのまま、深未はえいやっとマシュマロを一突き。
 その仕草を目にして、ハッとしたように背筋を伸ばしたチョコレートファウンテンが、ぴたりと静止したのを見計らい、ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)はすかさずディップ。
「ふわ、甘くておいし~い♪」
 楽しそうにステップを踏んで美味しさを表現するニュニルと、マシュマロを左右に振ってじりじり後退する深未のあとをダモクレスがついていく。ちゃっかり掠め取ったフルーツの盛り合わせをちらちら見ながら、ニュニルはリボンで腰に括りつけたピンク色のクマのぬいぐるみに話しかける。
「あ~あ、チョコレートコーティングしたら、もっと美味しくなるのにな。ね、マルコ?」
 ここにいるよ! と言わんばかりにギュンギュン上下運動するチョコレートファウンテンが、ニンジンをぶら下げた馬のような従順さでガーデンを進んでいくと、その先で待ち構えていたのはプチカステラの袋をちらちらと振っている隠・キカ(輝る翳・e03014)だった。
「きぃおなかぺこぺこ! チョコフォンデュしたいなぁ。あまいあまいチョコでカステラ食べたいなぁ~」
 かわいらしく身を捩りふんわり髪を広げてアピールするキカに、ふらふらーっとした足取りでダモクレスが近付いていく。その傍らにすすすと近付いたシフカ・ヴェルランド(鎖縛の銀狐・e11532)がバナナを、オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)がフォンデュフォークに刺したいちごを見せつければ「もう我慢できなーい!」とばかりに、最上部からチョコレートが噴き出した。
「……これが、チョコレイト・ファウンテン。甘やかな芳香に夢見心地」
「すごい……大きいね、ファウンテン……。たくさんの人を楽しませて、今もまだ楽しませたいんだね。その気持ちがなくなっちゃう前に、きぃ達がいっぱいおいしく食べるからね」
 白皙の頬に手の平を添え、はふ、と吐息を零したオペレッタの隣で、つよい決意を抱いたキカが夏空の青い瞳をキラキラさせている。そんな二人にうんうんと頷きながらチョコレートにバナナをくぐらせるシフカ。頬張るその表情はずいぶんと和らいで、ひどく幸せそう。
『自分、チョコ食べるの楽しみでここに来てます』
 と言うのは戦闘前に彼女が口にした言だった。好物を前にして嘘を言うのは苦手であったので、事前に告白したのが良かったのだろう。素直に楽しむことが出来たようで、その様子は微笑ましくもある。
 四方八方無邪気に取り囲まれて、ちゃぷちゃぷとチョコレートを絡ませ銘々堪能している様子に、チョコレートファウンテンも何だかご機嫌。
 ――だったのだが、流石に「これは何かおかしいぞ?」と思ったらしい。ピタッとチョコレートの流れを止めてしまった。ケルベロスたちから残念そうな声が漏れる。
「オシマーーイ!」
 と言った叫びを耳にして、チョコレートがけワッフルをじっくりと味わっていた城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)が翡翠の視線を持ち上げる。
「チョコレートファウンテンを食べ……倒すわよ」
 最後の一口をぱくりと頬張った橙乃が、手のひらで回転させた碧雷針を握りしめる矢庭に、横へと小さく滑らせる。瞬間、弾けるような瞬きを散らした雷が眼前に出現。それは正彦たちをはじめとした前衛の身を守る壁となった。オペレッタも前衛の皆に対して「想捧」を紡ぎ始めると、率先して前に出た正彦が彼女らの支援を肌で感じつつ炎纏いし刃を振り被る。
 酸味が程よい苺を咀嚼しながら、天蓋のアストロノミカに指を掛けたニュニルが遠隔爆破すると、爆発の衝撃でダモクレスの巨体が大きく傾いた。
「戦闘準備完了……では、行きましょうか」
 鎖を両腕に巻きつけたシフカが、目にも止まらぬ素早さで廃命白刃『Bluと願グ』を抜刀、冴え冴えとした一閃を放てば、その斬撃により支えられた本体が真っ直ぐ立つ。多分、ダモクレスに顔が付いていれば目が点になっていただろう。それくらい、ちょっと間の抜けた様子で「あら?」と言った風に辺りをキョロキョロ見渡している。
 それまで上空で戦場を広く見渡していたウイングキャットのクロノワは、くるり一回転。いつ何が来ても怖くないよと、邪を祓う羽ばたきを起こしてみせた。やわらかな風が頬を撫で、やさしさに満ち溢れる。
 両手でお口を押さえてもぐもぐもぐ。急いでプチカステラを食べ終えたキカは、気を取り直して「えーい」とスパイラルアームで突撃。とても少女が突っ込んできたとは思えない衝撃に、おっとっと。酔っ払いのような足踏みをしたチョコレートファウンテンが、何するんじゃー! と背後を振り返り、キカに向かってチョコレートを放出。
 しかし。
「そうはさせませんよー!」
 すかさず、氷河期の精霊を喚び出した深未の吹雪が吹き荒れる。その冷たい息吹は曲線を描くチョコレートを瞬間冷凍させてしまったのだ。しかしダモクレスは本体が熱を発することが出来るため、それは瞬く間に溶けてしまった。
 が、一瞬の隙を作るには十分だった。
「大丈夫ですかな?」
「うん、平気だよ」
 正彦に顔を覗き込まれて、ぱちくり瞬かせたキカであったが、すぐにふんわり微笑する。
「豚さん顔のマチャヒコは初めてでしたか? とにかく行ってみましょー」
 久々に会うためか、いつもよりテンションを上げて、でもそれを誤魔化すようにニッコリ笑った正彦は、剣の切っ先をダモクレスに突き付けたのだが――。
「おやぁ?」
 ダモクレスが静止している。キカと正彦が揃って首を傾げて覗き込むと、どうやらオペレッタがドーナツをそうっと浸しているところであった。どこに隠し持っていたのか、細かく刻んだドライフルーツをぱらぱらトッピングして「みなさまも、どうぞ」と配っている。
(「『これ』はこの時を、待ち望んでいたのです」)
 見上げるほどに聳えるチョコレイトの滝。魅惑の初・チョコフォンデュ。期待に瞳の煌めき三割増。そんなオペレッタの瞳にじぃっと見つめられれば、誰よりも人気のあったチョコレートファウンテンは知らんぷりなぞ出来ようはずもなく。
「程々ガ、丁度イイノヨー」
 アドバイスまで添える始末。
 残留意志が今まさに歓喜している瞬間を見た気がして、ならばその気概を汲まねば、とシフカがバナナを程々に浸す。
「これだけ大きいなら満足いくまで楽しめそうね。カロリーは……動けばいいのよ」
 お裾分けされたドーナツを噛み締めるように胃袋におさめていく橙乃の言葉に、ニュニルがうんうんと頷く。
「あっ、ボ、ボクも食べたいです……!」
 タッ、と駆け出した深未。その手にはフォンデュフォークが握りしめられている。けれどそこにマシュマロはない。ダモクレスは、己に近付いてくるフォークが陽光を照り返してギラリと光ったのを見た。
 瞬間、パシュッと弾丸が撃ち込まれた。深未は回避を試みたのだが、丁度足元に落ちていたチョコレートの残骸に足を取られてしまい、身体ごと大きく転倒する。豪快に滑った深未は、あろうことかチョコレートファウンテン本体へと突っ込んでしまったのだ。
「う、わーー!!」
 慌てて足を引っ掴んでチョコレートから引きずりだしたものの、空気に触れた途端チョコが固まってしまい、ドロドロの跡が目立つ無様なチョコレートの像になってしまった。
「人間ハ、ディップシチャ、ダメ」
「ボクもするつもりなかったです……」
 悲しみのドラゴニックミラージュを解き放ち、自分ごとチョコレートを溶かした深未の寂しい背中に、フッと幽かな笑みを浮かべた橙乃が気力溜めでヒール。
「チョコレートに足元を救われてしまったわね」
「等身大チョコレート、すごかった……」
 キカの指先からあんぐり口を開けたirisが、とろけたチョコレートごとダモクレスをぱくり。蔓ごと持っていかれたことに「イーヤー!」と悲鳴を上げたダモクレスの背後から、今度は距離を詰めたニュニルがスターゲイザーでポコンッと蹴り飛ばすと、本体に付着していたチョコレートが飛沫となって空に架かる。
「フヌヌヌヌ」
「フォンデュなのに強制的に食べさせるのはダメですお、それがお前の敗因なのだお!」
 敵の懐に潜り込んだ正彦が大器晩成撃の一撃を見舞うと、衝撃でくるくるくるっとダモクレスが回転。斬り込んだシフカの刀身にて回転が止まり、目を回している様子の本体にオペレッタがアームドフォートの主砲を一斉発射。
「大丈夫、キミが自分から動き回らなくても皆ディップしてくれるから。安心して鎮座したまえ」
 ふふんと得意気に笑うニュニルの頭上。まだまだ食べるつもりでいるケルベロスたちを見下ろし、吹き抜ける風に清浄を乗せていたクロノワが小さく尻尾を揺らめかせた。

「甘ァーい! ミルクチョコレートの濃厚な味わいの中に続く豊かな香り、そして骨身に染み渡るような甘さなのに、くどすぎない!」
 シャウトでチョコレートの美味しさを表現しているのは正彦だった。撃ち出されたチョコレートの弾丸を物ともせずバクンッと喰らい付いて、しっかりと味わう姿にチョコレートファウンテンがトゥンクとときめいている。
「チョコバレットは美味しいかもだけど、そんな乱暴な仕草で口にしたくはないかな?」
 頬っぺたの内側が痛くなりそうだなぁなんて思いながら、ニュニルが戦術超鋼拳で蔓の触手を真っ直ぐ砕き粉砕すると、ダモクレスの背後から手を伸ばしてワッフルでチョコレート掬っていた橙乃と、最後のバナナを名残惜しそうにディップしていたシフカ揃って頷く。
「でもアーモンドが入ってたら美味しそうですね」
 もぐもぐもぐ。三房もあったシフカのバナナがすっかり跡形もなく消えてしまった。その気持ちのいい食べっぷりにハッとしたキカが、ドラゴニックハンマーを引っ提げたまま串刺しカステラをサッ。
「ファウンテンさん、チョコください!」
「イイヨー」
 キカはチョコをつけてぱくり。アーモンドフレークもかけてまたぱくり。具材と一緒に腰のベルトに括りつけられていた玩具のロボ・キキが、キカの身が美味しさで揺れるたびにゆらゆら揺れている。なんだかキキも楽しそう。
「マシュマロもどうぞー」
 今度は慎重に近づいてきた深未が、マシュマロの皿を掲げていい笑顔。
「この苺、酸味が控えめでチョコによく合うよ」
 とニュニルがくすねた皿を持ちだすと、正彦がフォークに刺した果物をキカに差し出す。
「キウイはほとんど酸味がなくて食べやすかったですぞ」
「ガーデンの緑色したキウイがきらきらしててキレイ!」
「やっぱり甘い炭水化物にチョコの組み合わせは最高だと思うのよね」
「チョコバナナも王道ですが、安定の美味しさですよ」
 橙乃とシフカの会話の横で、ぽふんとまんまるシマエナガが、小さなカステラを差し出されて、あーんと雛鳥の如き反射で頬張っていた。まずびっくりしたように目を真ん丸させ、それから「おいしいです」と頬抑える姿が愛らしい。その様子に微笑んで頷いていたオペレッタが、ふと流れるチョコレートの量が減ってきていることに気が付き、ファウンテンを見上げて小首を傾げてみせた。
「チョコレイト、もっと流してくださいます?」
「ア、ハイ」
 お空の上から様子を見守っていたクロノワは、果たしてこれは時間稼ぎなのだろうか……とヒゲを揺らして蒼穹を仰いだ。真っ青な空だった。


「モ、モウ出ナイヨ……」
 へろへろのよろよろになったチョコレートファウンテンが白旗を上げた。周りには満足そうに笑みを浮かべたケルベロスが取り囲んでおり、たっぷり食べたから食後の運動をしましょうと言わんばかりに、先陣を切った橙乃を皮切りに四方八方飛び掛かる。
 橙乃の杖から迸る雷が、ファウンテンの頂上を貫くと、最上部のパーツがポーンと飛んでいく。一段小さくなった二段目を貫いたのは、シフカの雷刃突。雷を帯びた高速の突きがまたもやパーツを貫き、破壊する。
 トンと軽く地を蹴って飛び上がったニュニルが、昼日なかでも眩い流星の煌めきを帯び放つスターゲイザーで三段目を蹴り抜くと、
「おいしい時間をありがと、おやすみなさいを言わせてね」
 四段目をだるま落としのように振り抜いたハンマーでキカが吹っ飛ばす。
「ヒイイ、小サクナルゥ!」
 じたばたするダモクレスに向け、ファミリアシュートで五段目を突き崩したオペレッタの傍らで、正彦がスマートリンクした11本のゾディアックソードをコントロール。目標へ飛翔、攻撃させた後に持っている牡羊座の剣により追撃のゾディアックブレイクを叩きこむことで六段目を破壊。
 そして。
「逃がさないもん!」
 くるり、背を向けてタッタカターっと逃げ出したダモクレスに向かい、深未が灰色の息を吹きかけた。ペトリブレスを喰らい、カチンと静止したダモクレスがついに沈黙する。そのとき、ふわりと風が舞った。ヒッと小さく息を呑んだ深未は、顔面スレスレを横切って行った己の息を見送り、額の汗を拭って安堵の吐息を零した。
「この子からは攻性植物の胞子の残滓が得られるかもしれないね」
 ダモクレスの傍らに膝を突いて覗き込むニュニルの言葉に、思案が過ぎる。
 けれど、まず先に。
「一番人気の、あいされた、アナタ。とてもとても、おいしかったです。ごちそうさまでした」
 オペレッタが低頭すると、ケルベロスたちはパチンと両手を合わせて瞼を閉じた。君の献身は忘れない――これはまだ、序章にすぎないのだ。だってイベント会場にはホワイトチョコレートも、ビターチョコレートもあるのだから!
 お片づけはしっかりと。それでいてウキウキな足取りで会場に向かうケルベロスの横顔は、春めいていた陽射しに負けないくらい、きらきらしていた。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月6日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。