音々子の誕生日~土曜日、日曜日、そして猫曜日

作者:土師三良

●音々子かく語りき
 二月某日。
 ケルベロスの一団がヘリポートの片隅で取り留めのない話をしていると――、
「あの……今度の月曜日……予定の空いているかたは……いらっしゃいますか?」
 ――ヘリオライダーの根占・音々子が声をかけてきた。なにやら重い空気を漂わせて。
「今度の月曜日っつったら、おまえの誕生日じゃん」
 と、重い空気に気付かずに明るい声を出したのはヴァオ・ヴァーミスラックス。
「もしかして、パーティーとかのお誘いか?」
「いえ、お仕事を手伝ってほしいんです。正直、そんなことをお願いするのは心苦しいんですけどね。とぉーっても大変なお仕事ですから」
「タイヘンナオシゴト?」
「はい。所謂3Kってやつですね。しかも、厚生労働省が黙ってないレベルのブラック案件です」
「おいおい。おだやかじゃねえなぁ」
 ようやくにしてヴァオも空気の重さを察し、真剣な顔付きをした。
「いったい、どんな仕事なんだ?」
「猫カフェを経営している知り合いに頼まれたお仕事なんですよ」
「ふむふむ」
「その猫カフェにカーペット敷きの土禁エリアが設けられたんです」
「ふむふむ」
「ほどよくあったかい電気カーペットに寝そべったり寝転がったりして猫ちゃんたちとまったり過ごす――そんなエリアですね」
「ふむふむ」
「そのエリアが快適かどうかを調べるという超絶過酷な重労働です」
「ふむふ……え?」
 ヴァオの目がテンになった。
 他のケルベロスたちの目もテンになった。
 グルグル眼鏡に隠された音々子の目はおそらくテンになっていないだろう。
 三十秒ほどの静寂の後――、
「どこがブラックやねん! めっちゃ、ホワイトやないかぁーい!」
 ――ヴァオが大声でツッコミを入れた。
「てゆーか、ホワイトを通り越してゴールドじゃねえか! ようは『ぬくぬくぽかぽかの部屋でだらだらごろごろ過ごす』ってことだろ!?」
「いえ、『ぬくぬく』や『ぽかぽか』や『だらだら』や『ごろごろ』だけじゃありません。猫ちゃんたちがいるので、『もふもふ』という要素もあります」
「天国かよ!」
「それに言い忘れてましたが、報酬は一銭も出ないんですよ。ボランティアという名のやりがい搾取です。まあ、ドリンクくらいはサービスしてくれるそうですが……」
「無料で猫カフェを利用できる上にドリンクのサービス付きかよ! いたれりつくせりじゃねえか!」
「しかも、当日は私とケルベロス以外の皆様は入店禁止となりますので、心ある市民の方々に協力してもらうこともできません」
「貸し切りってことじゃん! 幸せ独り占めじゃん! 本当に無料でいいのか、それ!」
「対ドラゴン戦よりも危険なお仕事だと言っても過言ではないですね」
「いや、過言だし! ドラゴンに謝れ! 今すぐ土下座して謝れ!」
「はたして何人のかたが生き残れるのでしょうか……」
「逆にどうやったら死ぬの? 萌え死にとか尊死とか?」
 ツッコミを入れ続けるヴァオを無視して、音々子は皆にカードを配り始めた。グルグル眼鏡の猫のイラストが描かれた招待状である。
「というわけで、命知らずの皆様の挑戦をお待ちしておりまーす♪」


■リプレイ

●ぴーとん
 吾輩は猫である。名はぴーとん。
 本日、この猫カフェに『ほかほかーぺっとエリア』なる場所が設けられた。名前からも察しがつくように(ネーミングセンスについてはとやかく言うまい)電気カーペットに寝転がってリラックスできる場所だ。
 もっとも、リラックスどころか――、
「なんじゃ、こりゃあ!?」
 ――絶叫して卒倒した者がいたりするのだが。
 そいつの名はジェミ・ニア(『なぜ、名前を知ってる?』などという野暮な質問はスルーさせてもらう)。猫たちの愛らしい姿にハートを撃ち抜かれたらしい。『猫は殺傷兵器となりえる』という説が証明されたな。
「ジェミ、しっかりするのデス」
「ああ、エトヴァ……」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエに体を揺すられ、ジェミは蘇生した。
「音々子さんの仰ってた『3K』の意味が判りました。可愛い、構ってさしあげたい……そして、神ってるです!」
「なるほド」
 ジェミの主張を真顔で受け止めるエトヴァ。ツッコミ不在か。
「たまらなーい!」
 あちらでも非リラックス者が叫んでいる。九条・小町だ。その昂ぶり具合はジェミに勝るとも劣らない。『猫は興奮剤となりえる』という説が証明されたな。
「甘噛み、かぷっ! 頭突き、こつん! 舌、ざーらさら! 肉球、ぷーにぷに! なにもかもがたまらない! ふぅ……」
 ひとしきり絶叫した後、小町は額の汗を拭った。
「序盤から三回は死んだわね。残機はいくつ残ってるかしら」
「小町は常に残機無限って感じだけどな」
 クレス・ヴァレリーがのんびりと笑ってる。
 一方、残機無限のチート娘はのんびりどころか再びヒートアップして、ジェミと同じようなことを言い出した。
「猫の3Kというのが理解できたわ。かわいい! 華麗! 神! 芳しい! 気まま! 感謝!」
「それだと6Kだぞ」
「しょうがないでしょ。猫の魅力がたった三つで収まるわけないんだから」
 吾輩の場合、六つでも足りないがな。クールとクレバーという要素があるから……え? どっちもKじゃない? 吾輩、英語は苦手。
「うーん。ぽかぽかですネー」
 幸せそうな呟きが聞こえてきた。声の主はエトヴァ。いつの間にか、寝転がっている。その体には何匹もの猫が乗っていた。
「にゃんこの気持ちが判るかモ……」
 体の上の猫たちを左手で順番に撫でつつ、おいでおいでとばかりに右手を揺らすと、仰向けのジェミがずりずりと這い寄った。同じく何匹もの猫を体に乗せた状態で。
「なんだか、もふもふしマス……」
 寄り添ったジェミの頭を撫でながら、目を閉じるエトヴァ。
「うん。もふもふ……」
 エトヴァに頭を撫でられながら、目を閉じるジェミ。
 仲良しさんたちめ! 爆発しろ!
 あ? あっちで小町も寝転がったぞ。
「この気持ちよさそうな顔がもう……呼吸のしかた、忘れちゃいそう」
 横で寝ている猫の喉を撫でながら、空いているほうの手でクレスの手を掴み、ぐいと引っ張った。
 抵抗することなく、倒れ込むクレス。猫を挟んで小町と並び、川の字の出来上がり。
「音々子が言ってた通り、危険な仕事だな。心が奪われそうになる」
 猫越しに小町を見つめて、クレスはまたもや微笑んだ。
 今度は小町のほうもにっこり……って、貴様らも仲良しさんか! べ、べつに混ぜてほしくなんかないんだからね! 吾輩はクールでクレバーな孤高の猫だし!
「そっちの猫ちゃんもおいで」
 にゃおーん!

●与五郎左
『にゃおーん!』と鳴いて、ぴーとんがクレスたちに駆け寄っていく。チョロい奴だな。
 チョロくない私は人間観察の真っ最中。本日の観察対象はヨハン・バルトルトと終夜・帷と九曜・彗だ。
「もふもふの猫さんにぬくぬくの電気カーペットとは……なんと素晴らしき楽園でしょう」
 人派ドラゴニアンのヨハンはほくほく顔。尻尾を左右に揺らし、カーペットを撫でている。カーペットが毛羽立つので、程々にするように。
「うむ。楽園とは言い当て妙」
 頷いた帷は無表情というか眠たげな顔をしているが、ヨハンと同様にこの『楽園』を満喫しているようだ。
 一方、彗(ちなみにヨハンと同じく人派ドラゴニアンだ)は不安げな様子。
「猫たち、ボクのところに来てくれるかな? 絵の具や油の匂いが服に染み着いているせいか、普段はあんまり寄ってきてくれないんだよね」
「そういえば、彗は猫カフェに来るのは初めてだったか?」
 帷が尋ねると、彗は小さく頷いた。
「うん。一応、匂いがしないように綺麗な服を着てきたんだけど……」
「匂いの対策ができてるなら、後は誘い寄せるだけですね。僕が見本をご覧に入れましょう」
 猫じゃらしを手に取るヨハン。クッションに隠して先端だけを出し、くいくいっと小刻みに動かすと、何匹かの猫たちが突進した。
 もちろん、その『何匹か』の中に私は含まれていない。観察者たる者、観察対象とは一定の距離を保たねばならないのだ。ソーシャルディスタンス!
「手慣れているな、ヨハン。ほら、帷もやってみるといい」
 帷が彗に猫じゃらしを手渡した。
「うん……」
 おっかなびっくりといった手付きで彗が猫じゃらしを操ると――、
「わわっ! 本当に来た!」
 ――猫たちが釣られた。
 もっとも、奴らの標的となったのは猫じゃらしだけではない。
「ちょっと! ボクの尻尾は猫じゃらしじゃないよ!」
 そう、彗の尻尾にまでじゃれついている。
 当然のことながら、今回も私は釣られていないぞ。お尻の辺りがむずむずして、少しばかり前傾姿勢になっているが……しかし、断じて釣られてはいない。ソーシャルディスタンス!
「九曜さん、モテモテですね。終夜さんも――」
 ヨハンが彗から帷へと視線を移した。
 猫じゃらしを操っているわけでもないのに、帷の前には数匹の猫が集まっている。
「――猫さんに慣れてますね」
「散歩の途中で野良猫に出会うことがよくあるからな」
 と、帷が答えている間もヨハンと彗は猫じゃらしを揺らし続けている。
 しかし、私は釣られないぞ……釣られるものか……ソ、ソーシャルディス……にゃおーん!

●三毛・フジコ
 あたしは世にもレアな雄の三毛猫。でも、心は乙女よ。
 エジプト座りを決めたあたしの艶姿に人間たちもうっとり。ほら、ラウル・フェルディナンドも見惚れてるわ。
「かわいい……」
 ええ、そうでしょうとも。
「このハチワレ」
 ハチワレかーい! そんな小雌(人間的に言うと『小娘』ね)よりもあたしを見なさいよ!
「こっちのふくよかなブチ猫も……」
 あたしを見てってば!
「そっちの悪戯好きそうなサバトラも……」
 見ろや、こらぁ!
「どの子もドラゴン以上の強敵だね。勝てるはずがない」
 ボスキャラ級のあたしを差し置いて、ザコキャラどもを愛でまくってるし! 悔しいー!
 こうなったら、奥の手よ。足に巻いてた尻尾を解いて、ゆらーりゆらりと蠱惑的に揺らしてやるんだから。
「おい、ラウル。おめえもこっちに来て、一緒に寝っ転がろうぜ」
 あらあら。燈・シズネもラウルを誘ってるわね。でも、無駄よ。ラウルはあたしを選ぶに決まってる。このしなやかな尻尾の誘惑に逆らえるわけが……って、よく見たら、シズネにも尻尾がある!? おまけに猫耳までピンと立ってるぅ! 猫のウェアライダーだったの? ずーるーいー!
「これが尊死か」
 とかなんとか言いながら、ラウルはシズネにふらふらと歩み寄り、ばたりと倒れた。で、二人して、ザコ猫どもを撫で撫で撫で撫で……なんなのよ、この仲良しさんたち! もう知らない! ぷい!
 ……と、そっぽを向いたら、別の仲良しさんたちが視界に入ってきやがったわ。千歳緑・豊とバラフィール・アルシクよ。どうやら、豊のほうは猫カフェの初心者みたい。
「犬は飼っているから、つきあい方もなんとなく判るんだけどね。猫というのは勝手がさっぱり判らないな」
「猫は構われるのを嫌いますから、ヘンに意識したりせず、好きなようにさせてあげるのがいいと思いますよ。とりあえず、私たちは――」
 バラフィールがぺたりと腰をおろした。
「――電気カーペットを堪能させていただきましょう。ほら、カッツェなんてもう……ふふっ」
 バラフィールの横では、ウイングキャットのカッツェが体をびろーんと伸ばしてる。
「ふむ。カッツェ君は遊んでくれるかな?」
 豊も腰を下ろして、びろーんに猫じゃらしを差し出したけど――、
「いや、構われるのが嫌いだというのなら、やめておこうか」
 ――すぐに引っ込めた。じれったいわね、もう。
「なにもしなくても千歳緑さんは猫に好かれるような気がしますけどね」
 バラフィールはいつの間にやら猫まみれ。彼女が持ってる猫用おやつが吸引剤として働いたみたい。
「猫は、落ち着いた人を好みますから」
 ふふん。甘いわね、バラフィール。猫はそんなに単純な生き物じゃないわ。豊に懐くような奴なんて、ただの一匹も……って、いたぁー!? 一匹どころか、三匹も群がってるぅ!
「見てくれ、アルシク君! 猫が寄ってきたよ!」
 豊は子供みたいに大はしゃぎしたけれど、恥ずかしくなったのか、こほんと咳払いして真顔を取り繕った。でも、あんまり上手く取り繕えてない。
 半真顔とでも呼ぶべきその表情を優しげに見ながら、バラフィールは微笑んでる。ふん! そうやって二人(&猫多数&びろーん一匹)で幸せ気分に浸ってるがいいわ! ぷい!
 ……と、またそっぽを向いたもんだから、必然的にラウルとシズネが視界にカムバック。あいかわらず、ザコどもを撫でくりまわしてるし。
「毎日が猫曜日ならいいのに!」
 シズネは感慨深げに述懐すると、あたしのほうに目を向け、八重歯を覗かせて笑った。
「そこの三毛もこっち来るかい?」
 にゃおーん!

●ぐりぐり君
「にゃーん」
 と、鳴いてるのは僕じゃなくて、名無しのウイングキャット。はしゃぎまくって、いろんなものに体をすりすりしてるよ。まったく、コドモだなぁ。
「にゃーん」
「あーん!」
 名無しにすりすりされて、大弓・言葉が喜びの悲鳴をあげた。名無しだけじゃなくて、普通の猫たちも言葉の周りでくつろいでる。
「どの子もかわいいー! もしかして、3Kっていうのは、『かわいい』&『かいわすぎて帰れない』&『かわいすぎてけったいな顔になる』なのかしら? それは困るのー!」
 困ると言ってる傍からけったいな顔になってるし。
「こうなると、炬燵も欲しくなってくるわねー。そんでもって、猫ちゃんと一緒に炬燵で丸くなったりしてー」
 こ、炬燵!? それって、猫を骨抜きにするという拷問具のことでしょ? やだー! 骨を抜かれちゃうー!
 言葉が拷問具を持ち出す前にダッシュで逃亡だ!
「にゃーん」
 うるさいってば、名無し。
 おっと、よそ見してたら、エマ・ブランにぶつかりそうになっちゃった。肉球ブレーキで急停止。
「素敵なお店だから、口コミサイトに好評価な書き込みをしておこうかな。いい感じのセルフィと一緒にね」
 エマはスマホで自撮りをしてる。その姿から漂う雰囲気が他のケルベロスとちょっと違って見えるのは、セーラー服を着てるからかしらん?
 ちなみにセーラー服というのは船乗りの服のことだよ(僕は物知りなのさ)。きっと、エマも船乗りなんだろうな……なんてことを思ってたら、彼女は僕を見下ろして、にっこりと笑った。
「女子高生としてラストイヤーだから、今日はセーラー服で来たんだ」
 あー、船乗りじゃないんだ。やっぱりね。そうだと思った。ホントは最初から判ってたよ。うん、判ってた。
「にゃーん」
 黙れ、名無し!
 落ち着き皆無の名無しに比べて、主人の玉榮・陣内は静かなもんだ。胡座をかいて微動だにしない……というか、微動だにできないのかな?
「こら、逃げるな。動くな。じっとしてろ」
 と、強ぉ~い圧をかけて、比嘉・アガサが頭の上にミカンを積んでるから。
 陣内だけじゃなくて、寝っ転がってるヴァオ・ヴァーミスラックスのお腹にもミカンが積まれてる。あと、香箱をつくってる猫たちの上にも。人間って、猫の頭や前足にミカンを積むのが好きだよね。きっと、オリンピックの正式種目にもなっている人気スポーツなんだろうな。
 メダリスト候補であろうアガサの技術は実に見事なもので、猫たちは頭のミカンなんか気にせず(気付かず?)うとうととしてる。でも、陣内とヴァオはうとうとじゃなくてビクビクって感じ。『動いたら、アガサに殺される』と思ってるのかな?

 ……実際、殺されるだろうけど。

 おっと、いけない。思わずマジトーン&行間開けで物騒なことを呟いちゃった。
 物騒と言えば、拷問具を求めていた言葉はどうしてるのかな……あれ? いつの間にか、猫に囲まれて寝息を立ててる。
「zzz」
 でも、狸寝入りだってことはお見通し。寝たふりして、猫をおびき寄せようって魂胆でしょ。猫は人間の睡眠を邪魔するのが大好きだからね。
「zzz」
 あえて誘いに乗ってあげよう。顔に近寄って、ほっぺたを前足で踏み踏みぃー。どうだ、どうだー。
「zzz」
 へんじがない。ほんとうにねてしまったようだ。
「にゃーん」
 また名無しが鳴いてる。見てみたら、アガサの前にちょこんと座り、頭にミカンを積んでもらっていた。すごい数のミカン。きっと、アガサの自己新記録だ。
「にゃーん」
 名無しが(ミカンを乗せたまま)ドヤ顔で鳴くと――、
「あっ!」
「ぎゃっ!?」
 ――陣内の頭からミカンが落ち、ヴァオの顔面に激突。もちろん、ヴァオのお腹のミカンも崩れ去った。
 これはヤバい! 二人ともアガサに殺される! ……と、思ったけれど、アガサはもう陣内たちに興味はないみたい。新たなミカンを手にして、僕に呼びかけた。
「君にも乗せてあげるから、こっちおいで」
「ミカンが乗ってるとこ、写真に撮ってあげる」
 エマもスマホを構えてスタンバイ。
 しょうがないなー。記録更新につきあってあげよう。
 にゃおーん!

●ガタム・タムラ
 野良猫のボスという前歴を持つ俺様にこんな場所は似つかわしくねえよな。
 だって、緊張感ゼロだもんよ。あっちではエマが写真を撮り続けてるし、そっちではミカン積みを終えたアガサが猫たち(頭上のミカンをまだキープしてる奴もいる)と一緒に安眠中と来たもんだ。
 そして、こっちでは――、
「ほかほかカーペットで猫チャンでゴロゴロだってぇーっ!?」
 ――ピジョン・ブラッドが騒いでやがる。
「そんなことしたら、僕のこのチャコールグレーのシャツと黒いスラックスが毛まみれになってしまうじゃないか! 暗い色は毛が目立ってしまうというのに! あぁーっ! 想像するだに恐ろしい!」
 おまえのテンションのほうが恐ろしいわ。
「しかーし! ケルベロスとして、この身を捧げよう! それがノブレスオブリージュ!」
 ノブレス階級のピジョンが仰向けに寝っ転がると、たちまちのうちに猫たちが集まり、我が物顔で腹の上に乗っかった。当然、ピジョンの服は毛だらけ。『想像するだに恐ろしい』という状況が現実のものになったわけだが、幸せそうな顔をしているように見えるのは気のせいか?
 そんな主人を放っといて、テレビウムのマギーが根占・音々子に近付き、カード付きのプレゼントを差し出した。
「『happy birthday いつもありがとう』」
 と、カードに記されていたメッセージを音読した後、音々子は一礼した。
「こちらこそ、ありがとうございますー」
「誕生日おめでとう」
 そう言って、五嶋・奈津美も音々子にプレゼントを渡した。
「お祝いとご招待のお礼を兼ねて、抹茶のパウンドケーキを焼いてきたの」
「わー! ありがとうござひまふぅ」
 お礼の後半部がおかしくなってるのは、さっそくケーキを頬張り始めたからだ。ちなみに音々子が羽織ってる肉球模様のカーディガンもプレゼントだぜ。送り主は向こうで寝ている言葉。
「礼を言うのはこっちのほうだ。この『対ドラゴン戦よりも危険なお仕事』とやらのおかげで、皆が笑顔になれたからな」
 アラタ・ユージーンが音々子に告げた。自分の言を証明するかのように笑顔を見せながら。
「音々子が迎えた新しい一年も沢山の笑顔がギュッと詰まったものになるといいな」

 エマに続いて、奈津美も写真を撮り始めた。もちろん、被写体は猫たち。そして、その猫たちと積極的に戯れるウイングキャットと、戸惑い気味に対応しているウイングキャット。前者は奈津美の、後者はアラタのサーヴァントらしい。
 シャッター音が響く中、猫もケルベロスも思い思いに遊んだり、居眠りしたり……あいかわらず緊張感ゼロだぜ。
 だが、こういうのも悪くねえな。
 悪くねえなぁ。
「緊張の糸がとろとろに溶ける感じは確かにドラゴン以上の破壊力かもな」
 アラタが俺の顔を覗き込み、耳の付け根のあたりを掻いてくれた。うーん、きもちいー……ヤベえ。俺としたことが、顔が緩んじまったい。
 まあ、いいか。アラタの顔も緩んでるしな。さっきまで撮影していた奈津美もいつの間にやら眠り込んで、無防備な寝顔をさらしている。それに他のケルベロスたちも。
「音々子、カフェの人、そして、猫たち――その全部! 全部に! 心からありがとう!」
 顔を緩ませたまま、アラタは『全部』に語りかけた。
「明日からまた頑張ろうな!」
 じゃあ、頑張ってもらうために愛嬌たっぷりの鳴き声をサービスしとくか。
 にゃおーん!

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月5日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。