シャイターン襲撃～前知の王子抹殺計画

■リプレイ

●炎の邪妖と死の乙女
　魔空回廊が再び開き、シャイターンが出現する。精鋭１５体はザイフリードへと向かい、残る１５体がヴァルキュリア達へと殺到した。精鋭ではないとしても、覚醒直後で精彩を欠くヴァルキュリアには強すぎる敵だ。しかし、２体のヴァルキュリアが危険を省みずに王子の元へと飛び出し、行く手を阻むシャイターン達に集中攻撃をかけられる。
「エレナ！」
「ミーナ！」
　シャイターン達の掌から跳ぶ炎弾に２体のヴァルキュリアは瞬時に燃え、コギトエルゴスムへ還ってゆく。
「そんな！」
「ど、どうしたら？」
　６体になったヴァルキュリア達ただ虐殺されるのを待つしかない。
　その時だった。
「これでもくらえっすー！　グリューエンシュトラール！」
　声は力を発動させる鍵となる。駆けつけたケルベロス達の中でも真っ先に戦場に到着した一団……その中でも最速でシャイターン達に攻撃を仕掛けたのは、うっかり魔法少女となってケルベロスの力を得た地球人の女の子――シルフィリアス・セレナーデ（魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583）であった。手にした魔力を集めたロッドの尖端からキラッな光とともに解放された指向性を持つエネルギーの奔流が敵を飲み込んだ。
「Code N.E.M.E.S.I.S……start up.lock on……Ready,Fire！！」
　ほぼ同時に接敵したマキナ・アルカディア（蒼銀の鋼乙女・e00701）の手から敵の体内へとある種のエネルギーが注ぎ込まれてゆく。
「ぐわっ、貴様何を！」
　不意打ちの様に仕掛けられ傷ついたシャイターンが痛みと怒りにて怒声をあげ、ヴァルキュリア達からケルベロスへと視線が移る。
「義によって助太刀させていただきます」
　そうは言ったが、戦場に駆けつけた筈のレーン・レーン（蒼鱗水龍・e02990）の動きは鈍い。ここでヴァルキュリア達に直接100万の言葉を浴びせるよりも、ザイフリード王子を籠絡するほうが早道なのではないかとの思いが消えないのだ。今ならば、王子ともヴァルキュリア達ともともに同じ敵に向かって共闘出来そうな気がするのだ。
「……でも、ここからだと遠すぎます」
　王子の姿も王子と戦うシャイターン達の姿も見えず、声も届けられない。
「ケルベロスが私達を助けてる？」
「わけがわからないわ。私達は地球の敵、なのに」
　６人のヴァルキュリア達は困惑している。
「ザイフリートさんはご兄弟に命まで狙われて、ヴァルキュリアさん達もシャイターンさん達に操られて、したくもない虐殺をさせられて。こんな、悲しい事、放っておけないです。王子さんや貴女方のお仲間さんを助ける為に……私達の力を使って下さい」
　ゾディアックソードで遠くのシャイターンへ攻撃を仕掛けつつ、アリス・ティアラハート（ケルベロスの国のアリス・e00426）は戸惑っているヴァルキュリア達へと微笑みかける。
「本気なの？」
「もちろんです。この人達を……解放して下さい」
　アリスは強い視線をシャイターン達へと向ける。
「地球にとっては王子達も敵のはず」
「グラビティのせいでおかしくなるのか？」
　ケルベロス達の介入に圧倒的優位だったシャイターン達は動揺を隠せない。そこへニルス・カムブラン（暫定メイドさん・e10666）の正確なバスターライフルによる銃撃が3体のシャイターンの腕や足に命中した。
「わからないのですか？　ヴァルキュリアさん達が困ってるからですっ。困っている人がいたら助けるのですっ、はいけってーっなのです！　あ、ザヴォちゃんはクラッシャーで頑張ってくださいっ」
　当たり前の事だと言わんばかりにニルスは胸を張る。しかし、シャイターン達もヴァルキュリア達も納得しているとは言えない様子だ。
「そんな頭の固い人達は、さあ……ぺちゃんこにして、あげますよぉっ！」
　エレファ・トーン（メガトンレディ・e15392）はウェアライダーとしての力を解放し、ハラカと共に巨大化した体でシャイターンの前衛達へと飛びかかり、巨大な臀部でもってのしかかった。
「ぐえっ」
「ぎゃっ」
　短い悲鳴をあげてシャイターン達が押しつぶされるが、すぐにエレファが元の姿に戻って退いたため、実害よりは驚きが大きい。その間隙をエレファは逃さない。
「私達はシャイターンだけを倒しに来ました～。ザイフリート王子や東京中のヴァルキュリアを私達の仲間が助けに行っています～。あなた方が大事な方なら誰だって助けます～だから、今すぐとは言いませんが～、仲良く出来るなら、それに越したことはないですから～」
　要領を得ない、理路整然としているわけではない口調だが、それだけに飾りのないエレファの本心がストレートに言葉になっていることがわかるのか……ヴァルキュリア達の位置がケルベロス達へと移動している。と、同時に最初に驚愕から醒めたシャイターン達も手のひらから放たれた灼熱の炎塊や、砂塵渦巻く嵐を召喚して攻撃を仕掛けてきた。
「ケルベロスの援軍ごとひねり潰せ！」
　前に出ていたシルフィリアスが炎に、マキナ、ニルス、レーンそしてエレファが砂嵐に翻弄される。
「すぐに信じられないなんて当たり前よね。でも王子を助ける為にあたし達を利用したらいいんじゃない？　今一番邪魔なのはシャイターンでしょ？」
　灰青色の瞳に足首まである灰桜色の髪、背には立派な３対６翼をもつオラトリア、ジュリア・ファリフィエル（ふんわり娘・e00753）は戦場とは思えない超然とした口調で言いながらも、オーロラの様な光を放って仲間達の傷を癒す。
「……そうね。彼等を利用してシャイターンを倒すしか王子のお力になれる術はないわ」
「シーラは信じるの？　地球のケルベロスを？」
「議論している時間はないのよ」
　３人のヴァルキュリアはシャイターンの攻撃から逃げながらも、互いに意見を探り合う。
「今のままだと、お兄さん……王子様を助けられないのね」
　真っ白な肌に緑の髪、暖かい橙色の瞳の人形に様に華奢で可愛らしい少女、封理・八雲（レプリカントのミュージックファイター・e00549）は胸部を変形させてエネルギー光線を放ちながらも飄々と言う。
「同じようにシャイターンや、操られているヴァルキュリアと戦っている仲間の援護に行けるのね。ギブアンドテイク、対等交渉、持ちつ持たれつ、ウィンウィンなのね」
「あちしらはシャイターンを倒したい、あなたたちは王子を助けたい……今の時点では敵は共通じゃないっすか。後の判断は王子にまかせるとして、この戦闘が終わるまでは手を組んで損はないっすよ」
　八雲とシルフィリアスの背後で喚び出された氷の精霊が炎の邪妖シャイターンとぶつかり合う。荒れ狂う風を受けて話す二人の言葉は態度を決めかねていたヴァルキュリア達の背を押した。
「今だけなら、私達はあなた方と一緒に戦います」
　６人のヴァルキュリア達がコクンと小さくうなずき、槍や弓、剣を構える。
「今だけでも大満足なのね。これでお兄さ……んじゃなくて王子様を早く助けられたら、早く戦いが終わらせられるのね」
　八雲は嬉しそうに踊るようにくるっと廻り、お団子にまとめた髪から伸びる三つ編みも揺れる。
「あなた達は後方からの支援に廻って……」
「いいえ！」
　優しいジュリアの言葉に被せるようにヴァルキュリアは否という。
「王子を助けるのは私達でなくてはなりません」
　八雲のオレンジ色の瞳に似た明るい色の眼をしたヴァルキュリアが誇り高く宣言する。
「そうね～じゃあ、一緒に戦いましょうか～？　ほら、１人ずつペアになるの～」
　エレファの妥協案は苦肉の策であったが、ヴァルキュリア達に断られないようにするにはどんどん進めてしまうに限る。敵はケルベロス達とヴァルキュリア達が円満に合意するまで待ってはくれない。
「二人一組で一緒に戦うわよ。殺戮を否とし、救った者を救おうとする者達を私達は殺さないし死なせないわ」
「戦場の死は英雄の誉れ……でも、私達は英雄ではない。王子の為に生きて戦う」
　キッパリと宣言するマキナの横に青い髪のヴァルキュリアが寄り添うように剣を抜く。マキナのロットから放たれる雷の力と、剣から放たれた星座のオーラが同じ敵を攻撃する。
「私達もシーラと共に」
　それを見ていた他のヴァルキュリア達も得物を携えてケルベロス達に合流する。
「死に損ないの女達と餌どもが！」
　７体のシャイターン達が襲いかかる。
「くらえ！　ゲヘナの炎を！」
「燃え尽きろ！」
　先ほどの攻撃に参加していなかった３人のシャイターン達が次々に手の平から炎の塊を放ってくる。再び戦場を冥く淫靡な鬼火が交差し、ニルス、エレファ、そしてジュリアへと向かってきた。
「せっかくこっちに来てくれたのにごめんなさいですっ、どーんっ！」
　ニルスは側に近寄ってきたヴァルキュリアを思いっきり突き飛ばした。
「何をす……」
　思わず非難めいた言葉を言おうとしたヴァルキュリアの目の前で、背からゲヘナフレイムを受けた小さなニルスの身体が崩れ落ちる。
「だ、大丈夫ですっ。これくらいなんでもないですっ」
「そんな筈……」
「私には貴女方が罪の無い方の血を好む悪人には見えないので、私達を信じて共に戦ってはもらえるのが嬉しいんですっ。だから大丈夫ですっ」
「……ありがとう、ありがとうございます。ケルベロスの方」
　ヴァルキュリアの、心からの感謝の気持ちがニルスの背に受けた酷い傷を癒してゆく。
「貴方も怪我を……」
「私はディフェンダーですからね～ニルスさんほど酷い怪我は負っていないんですよぉ～だから心配しなくても大丈夫なんですよぉ～」
「べ、別に心配なんて……していませんわ。ただ、敵を倒して貰わないと困るだけなんですわ！」
「ツンデレさんなんですねぇ～」
　エレファはニコニコしながらヴァルキュリアの治療を受けている。しかし、緊迫した声が戦場に響き、事態は一変する。
「ヴァルキュリアさん！」
　ジュリアは自分を庇って燃えたヴァルキュリアに駆け寄った。ルーンアックスを振るい炎と熱をを吹き飛ばし治癒を放つが、真っ黒に焦げたヴァルキュリアの身体にはさほどの変化はない。
「カーラ！」
　遠くでヴァルキュリア達の声がした。
「あなたの名前、カーラさん、なのよね。どうしてあたしを？」
「絶対に勝ってね。いつか……また会いま」
　カーラの手から妖精の弓が離れコギトエルゴスムへと還ってゆく。
「カーラは私達の中で一番傷ついていたから」
「いつも他の子をかばって……」
　５人になってしまったヴァルキュリア達の声がとても遠くに聞こえる。
「これが最後ではない！　始まりだ！」
「皆殺しだ！　それが嫌なら『可愛がってください』と泣いてみろ。一時だけなら生かしてやらないこともない」
　シャイターン達の下卑た笑い声が聞こえてくる。
「ゆるさない、許さないわよ」
　ゆっくりと、淡く暗い微笑みさえ浮かべてジュリアがつぶやきキッと顔をあげる。キラキラと浮かぶ涙に輝く青い瞳がシャイターン達を睨め付けた。
「原子レベルに撃ち砕く！　喰らいなさい超収束荷電粒子砲！！」
　ジュリアがそれ以上何か言うよりも早くレーンの右腕が変形し、荷電粒子フィールドを形成する。左眼に宿る地獄の炎が一際燃える。
「これ以上、ヴァルキュリア達に手出しはさせませんわ」
　激しいビーム照射が後方にいたシャイターン達を直撃する。
「倒したの？」
「いいえ、まだまだこれからですわ！」
　ヴァルキュリアに答えつつ、レーンは素早く次の攻撃に備えて体勢を立て直す。敵後列では光に焼かれはしたものの、まだ立っているシャイターン達の姿が見える。
「ヴァルちゃんもザヴォちゃんも一緒に戦うのですっ。あいつに決めたのですっ！」
「ヴァルちゃん？　まぁ呼称については後ででいいでしょう」
　涙を振り切ったヴァルキュリアはニルスとそのサーヴァト『ライドキャリバー』のトライザヴォーガーとともに身構える。アームドフォートの主砲から放たれる一斉掃射と光を宿した強烈な槍、そして激しいキャリバースピンがシャイターンを足止めしつつ穿ってゆく。絶叫を遺してシャイターンは倒れ……死んでいった。
「散開しろ！　一匹ずつ屠ってゆくのだ！」
　味方の死に驚き怯えたのか、後方からの言葉にシャイターン達が味方同士の距離を離し、戦場広く散ってゆく。
「あ～ニルスさん達と同じ感じで敵を攻撃しようと思ってましたのに～」
　ほんわかと残念そうな雰囲気を出しつつも、エレファはこちらへ向かってきたシャイターンへと身構える。
「お前達も燃やしてやる！」
　嗜虐に浮かれたシャイターンとヴァルキュリアの間にエレファが割って入り代わりに炎をその身に受ける。
「このくらい熱いうちにははいりません～」
　ヴァルキュリアの治癒と相まって武装化したオーラが一際輝き、エレファの拳が確実にシャイターンの無防備な腹へ綺麗な一撃を決めてゆく。
「ぐわっ」
　悲鳴をあげてシャイターンが吹っ飛び倒れる。
「私達の全力であなた達と戦ってあげる。ヴァルキュリア達も治療はあたしに任せて戦って。絶対に全員倒すのよ」
　後方のシャイターン達もジリジリと前に詰めてくるのを冷静に見つめながら、ジュリアは持てる全てを力を治癒のオーロラへと変え仲間達を包み込む。
「私は貴女方も、貴女たちの大切な方も、ザイフリートさんも助けたいです」
「わかってくれたこと、絶対後悔させないのね。だから負けないのね」
　アリスの捕食モードに変形したブラックスライムと八雲の――過去に縛られず前だけと見て未来へと突き進む雄々しき――歌が前衛のシャイターン達へと襲いかかる。けれど、さほど大きなダメージは与えられない。
「悔しいけど、強いのね」
「精鋭ではなくてもこの強さなんて……」
　八雲とアリスはチラリと別の方角を見る。王子へと向かった精鋭と戦っている者達は無事でいるのだろうか。
「あちし達と一緒に戦ってくれるっすか」
「もちろん！」
　光の魔法陣から可愛くポーズをつけたシルフィリアスの雷ととシーラの光が左右から一体のシャイターンを攻める。エレファ、マキナやニルス、レーン達もヴァルキュリアと二人一組となってシャイターンへと立ち向かい、その全てへとジュリアが力強い治癒の力を放ってゆく。
　６体のシャイターンと６組のケルベロス＆ヴァルキュリアの混成チームの戦いは一進一退の攻防を続け……そしてとうとう最後の１体をシルフィリアスとマキナの雷光が焼く。
「今っす！」
「ジュリア！」
「狂うほどの良い夢を……」
　幻想の白い花が戦場を舞う。美しい甘く危険な夢を見た……それを最期にシャイターンがこときれる。
「ありがとう」
　生き残ったヴァルキュリア達が謝意を告げる。ジュリアが３つのコギトエルゴスムを手渡すと、涙を流しながらもう一度ありがとうと言った。

作者：神南深紅	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月24日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 18／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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