竜業合体ドラゴンの強襲~あまねく剣と剛刃の竜

作者:雷紋寺音弥

●終末への序曲
 攻性惑星。島根県隠岐島上空から竜十字島へと向かおうとした攻性植物残党の拠点は、迎撃に向かったケルベロス達の手によって、その対空能力を喪失した。
 万能戦艦ケルベロスブレイドが起動した今、空における地の利はケルベロス達の側にある。粉砕された惑星の破片は摩擦によって燃え尽きながら、竜十字島へと流星の如く降り注いで行く。
 これで、作戦成功か。その場にいる誰しもが、そう思っただろう。
 だが、今回に限っては、安堵するのはまだ早かった。否、むしろ戦いは、これからが本番だった。ケルベロス達の前に、突如として現れた多数のドラゴン。竜業合体により母星を飛び去った最強の戦闘生物群が、遂に地球に到着したのだ。
 長旅で消耗した彼らにとって、破壊された攻性惑星の破片は、またとない力の糧だった。それらを喰らい、力を得ようとするドラゴン達だったが、ケルベロス側がそれを見逃すはずもない。
 万能戦艦ケルベロスブレイドからの砲撃で、瞬く間に蹴散らされてゆくドラゴン達の一角。お返しとばかりに放たれる攻撃も、ケルベロスブレイドの強固なバリアの前には意味をなさない。
 まさしく、無敵の空中要塞。命を懸けて地球を守らんとする勇士達の戦いを瞳に刻みつつ、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロスブレイドよりヘリオンを発進させる。
「こちらへリオライダー、クロート・エステスだ。聞こえるか、ケルベロス達? 今から、そちらの回収に向かう」
 爆風を隠れ蓑に、クロートはヘリオンを巧みに操作し、ケルベロス達を回収した。このまま戦えば、勝てるのではないか。そんなことを口にする者もいたが、クロートは首を横に振りながら、ケルベロス達の回収に専念していた。
「悪いが、それはできない相談だな。確かに、この戦艦のバリアは強力だが……懐に入りこまれて接近戦を挑まれれば、最悪の場合は撃墜されるぞ」
 バリアが防げるのは、あくまで遠距離からの攻撃だけだ。互いに膠着状態になりつつも、成層圏で慎重に距離を取って対峙する二つの軍勢。
 この戦いを制し、地球の派遣を握るのは、果たしてどちらか。史上最大の防衛線が、ここに幕を開けたのである。

●緊急発進指令
 膠着状態の続くケルベロスブレイドの艦内にて、忙しなく響く艦内放送。
 それら全ては、へリオライダー達からの招集依頼だった。グラビティ・チェインの枯渇に業を煮やしたドラゴン勢力の一部が、戦場を離脱して日本に向かい移動を開始したのだ。
「こちら、へリオライダーのクロートだ。敵はヘリオンを越える速度で飛翔するドラゴンが11体。竜十字島へ着陸後、日本の各地を襲撃し、グラビティ・チェインを回収するつもりらしい」
 そのスピードは凄まじく、日本に待機中のヘリオンを総動員しても、速度的に間に合わない。また、ドラゴン達は超高々度から都市部を狙撃して来る可能性もあり、そうなるとジェットパックデバイスを用いても迎撃は不可能だ。
「高速で飛翔するドラゴンから人々を守るには、ドラゴンを凌駕する速度で飛行できるケルベロスブレイドで追撃する他にない。連中に追い付いた所で『小剣型艦載機群』をドラゴンと同じ速度で射出。これを足場にしてケルベロスがドラゴンを撃破する必要がある」
 危険な任務になるが、この作戦に参加してくれる者は、自分のヘリオンに集まって欲しい。そう言って、クロートの説明が終わったところで、次なるへリオライダーから、同様の説明が繰り返されるのだった。

●黒き剛刃
「……さて、緊急の招集に応じてくれ、感謝する。だが、いつものように、のんびり話をしている暇はなさそうだ」
 先にも説明した通り、日本各地を襲撃するために、竜十字島から11体のドラゴンが飛び立った。それらをケルベロスブレイドで追撃し、追い付いたところで『小剣型艦載機群』を射出。飛翔する剣を足場にドラゴンを迎撃するのだが、状況が状況だけに今まで以上の危険が伴う。
「戦場となるであろう空域は、生憎と低気圧が発生しているらしい。高速で飛翔するドラゴンの速度に追従しながら戦うことを考えると、瞬間風速は約800m。足場も視界も不利な上に、少しでもバランスを崩せば、一気に下へ真っ逆さまだ」
 そんな場所で、強敵であるドラゴンと戦わねばならない。敵は弱体化しているとはいえ、なにしろ精鋭のドラゴンである。魔竜に勝るとも劣らない実力を誇っており、甘く見れば全員纏めて返り討ちにされ兼ねない。
「お前達に相手をしてもらいたいのは、その中でも『シュヴェーアト』というドラゴンだな。全身が鋼の塊の如く堅牢で、鱗の全てが鋭い剣になっている」
 シュヴェーアトの武器は、刃だらけの全身を叩きつける力技を始め、鎧を穿つ刃のブレス、敵の血を啜り自らの糧とする刃の鱗、そして魂さえも両断すると言われる必殺の斬撃だ。どれも凄まじい威力を誇るため、単に守りを固めるだけでは、強引に押し切られてしまうかもしれない。
「武人肌のドラゴンだが、それ故に死を恐れない……いや、それどころか命懸けの戦いを楽しんでいる節もあるようなやつだ」
 どんな生物であっても、痛みを感じれば恐怖を覚えて怯んだり、あるいは怒りから隙を見せたりするだろう。しかし、シュヴェーアトに限っては、そんなことは絶対にない。どれだけ己の身が傷つこうと、命が燃え尽きる最後の瞬間まで苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
「そろそろ、予定地域に到達するな……。残念だが、俺のヘリオンでは今回の高速戦闘には追い付けない。だが、必ず追い付いて回収に向かう……それだけは信じて欲しい」
 『小剣型艦載機群』を利用しての戦いは初だが、皆の願いで生まれたケルベロスブレイドの一部。強い想いを忘れずに戦えば、必ず使いこなせるはず。
 ここでドラゴン勢力がグラビティ・チェインを手に入れてしまえば、もう誰にも止められない。日本だけでなく、この地球全てを守るために、皆の命を貸してくれ。
 最後に、そう締めくくって、クロートはケルベロス達を嵐の渦巻く戦場へと送り出した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)
城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●風速800mの世界
 突風が吹き荒れる中、無数の剣が飛翔する。戦艦ケルベロスブレイドより射出された数多の剣は、ドラゴンを追うケルベロス達の足場となって、その力を貸してくれていた。
「……っ! 凄い風圧ですわ!!」
 思わず吹き飛ばされそうになり、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)は、慌てて近くの剣に足を吸着させた。
 風速800m。家屋を薙ぎ倒す台風でさえ、ここまで凄まじい風ではないだろう。もはや、声を出すことさえも難しく、仮に出せたところで、隣の者にさえ聞こえるかどうか。
(「骨伝導喉咽インカムなら、多少は声も届くけど……この嵐じゃ、アラームの音までは拾えないかもしれないわね」)
 高性能のインカムを以てしても、時折ノイズの混ざる状況に、風音・和奈(怒哀の欠如・e13744)の表情が険しくなった。なにしろ、足場の小型剣自体が既に音速を越えて飛行している。音より速く動いているのだから、音が置いてきぼりにされるのは当然だ。
 敵が街を目指している以上、ここで止めなければ被害は拡大するばかり。だが、あまり戦いを長引かせれば、相手は戦闘を放棄して、グラビティ・チェインの回収を優先するかもしれない。
 戦闘可能時間は、おおよそ15分程度であろうとケルベロス達は踏んでいた。だが、この環境ではアラームをセットしたところで音が満足に拾えない。どれだけ時間が経過しているのかは、もう個々人の勘に頼るしかない。
「……どうやら、見えて来たようね」
 城間星・橙乃(歳寒幽香・e16302)が、誰に告げるともなしに呟きつつ指差した。見れば、その先には巨大な刃を全身から生やした漆黒の竜が、凄まじいスピードで飛翔していた。
「よし……行くよ!」
 剣の群れが一斉に竜へ殺到し始めたところで、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が木の葉を纏う。ともすれば突風に飛ばされそうになるが、そこはグラビティの効果でどうにでもなる。
「遠路はるばるご苦労様だけど、ここにお前達の居場所はないよ!」
「お互い、譲れぬものがあるのならば……我が戦斧に背を向けることはないだろうな?」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の蹴り出した星形のオーラが竜の鱗を削ぎ、そこを狙って叩き込まれたジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の戦斧が地獄の業火を呼ぶ。が、しかし、並のデウスエクスであれば一瞬で吹き飛ぶ程の攻撃を食らっても、竜は平然とした表情のまま、静かにケルベロス達の方へと向きを変えた。
「黒曜牙竜のノーフィアより剛刃の竜、シュヴェーアトに。剣と月の祝福を!」
 ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)が竜の頭を蹴り飛ばし、相棒のボクスドラゴンのペレが、竜の顔面にブレスを吹き付ける。
「まだだ……本命は、こっちだ!」
 そして、続け様に卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)がパズルから放った破壊の女神の幻影が、竜の精神に憑依し抉った。
 相手が何であろうと、名乗りさえ上げない。前口上を叫びながら、一方的に殴る蹴る。
 卑怯者と、笑わば笑え。竜の姿をしていても、相手の本質は武を好む者。故に、卑怯な手段に訴えれば、それだけ矛先を自分に向けられると……そう、泰孝は考えていたのだが。
「……こいつ、笑ってやがるのか?」
 漆黒の竜は笑っていた。剛刃竜の異名を持つシュヴェーアト。全身を覆う刃の数は、今まで彼が様々な異星での戦いにおいて、英雄を食らって来た証。
 それはもはや、武人というよりは修羅の所業に相応しいものだったのかもしれない。
 天空を舞う、漆黒の狂刃。ただ、己の高みを目指すためだけに争いを求めるドラゴンとの、恐るべき死闘の幕が開いた。

●黒き修羅
 全身のあらゆる部位が武器と言わんばかりのシュヴェーアト。その攻撃を反らすべく、泰孝は自ら危険な囮を引き受けていた。
「ほら、どうした? 図体デカい分、攻撃は当てやすいぜ?」
 暴風の中、果敢に蹴りを繰り出すことで、相手の機動力を奪うことも忘れない。正に、搦め手に次ぐ搦め手。正々堂々の戦いを好む武人であれば、確かに嫌いそうな戦い方ではあるが。
「フッ……獲物風情が、足掻きよる」
 多少の傷など何ら意に介さず、シュヴェーアトは刃の鱗を飛ばしてきた。その一枚一枚が、まるで鋭いナイフの如く泰孝を、そして橙乃までも巻き込んで血を啜って行く。
「気を付けろ! 敵は防御の手薄なところを狙ってくるぞ!」
「……それだけじゃない。なるべく……少しでも二人を倒すのに、効率的な動きをしている……」
 敵が最初から中衛に攻撃を集中させて来たことで、ジョルディや和奈は、改めて相手の強大さを悟った。
 怒りに任せて攻撃してくると思われたが、そんなことは決してない。己の追い込まれた状況を冷静に察し、その中で最良かつ、最も相手が嫌がる方法で攻めて来る。
「慌てたら、相手の思う壺ですわね。ここは、慎重に行きませんと……」
 思った以上に傷が深いことを気にしつつ、ルーシィドが泰孝達に輝く銀色の粒子を飛ばした。幸い、攻撃のいくつかはノーフィアや和奈が肩代わりしてくれていたが、それは同時にルーシィドの手が前衛のフォローにまで回っていないことを意味していた。
「こっちは気にしないでいいよ! ペレ、まだいけるよね?」
 自らのフォローはペレに任せ、ノーフィアが花の嵐でシュヴェーアトを飲み込んでゆく。誰かの手を借りることを期待してはいけない。こういう戦いでは、スタンドアローンで立ち回れる者が、少しでも多い方が重宝する。
「まずは、動きを封じた方がいいかしら?」
「ん、了解だよ」
 続けて、橙乃とリリエッタが放った鎖が、幾重にも重なりシュヴェーアトへと絡みついた。ただでさえ高速で動き回るドラゴンだ。少しでも速度を落としてもらわねば、こちらの攻撃も満足に当たらないのだから。
「よし、今だ! 合わせるぞ、和奈嬢、リナ嬢!」
 動きの止まったところへ狙いを定め、ジョルディが叫んだ。和奈とリナも、それに合わせて頷くと、それぞれにハンマーの柄を構え。
「これで……」
「……吹き飛んじゃえ!!」
 ジョルディの放ったアームドフォートの砲撃に合わせ、上下左右からの十字砲火! 戦場に散らばる無数の剣を足場にできるからこそ可能な、3次元的な立体機動戦法だ。
「や、やった!?」
 想像以上の大爆発が起きたことで、リナが思わず目を丸くして叫んだ。が、しかし、相手は究極の戦闘生物。果たして、その程度で倒れるような軟弱な肉体はしておらず。
「ウ……ォォォォッ!!」
 両目を赤化させて、シュヴァーエトが爆風の中から飛び出してきた。その咆哮は内なる怒りを呼び覚まし、巨大な口の奥から多数の刃となって吐き出され。
「ちっ……! ちょいとばかり、引き付け過ぎたか!!」
「まったく……冗談じゃないわね、本当に……」
 刃のブレスに巻き込まれ、落下して行く泰孝と橙乃。防御に優れた間合いに立っているわけでもないのに、敵の攻撃を……それも、範囲攻撃を引き受け過ぎたツケが回ったのだろう。
「くっ……ダメだ、ビームが届かん!」
「このスピードでは、ドローンも直ぐに戦場から離れた場所に置いていかれてしまいますわ……」
 果敢に仲間達を救出しようとするジョルディやルーシィドだったが、彼らの奮闘も空しく、二人は戦場から叩き出された。時間にして、正に一瞬。この凄まじい風と嵐のスピードに、少しでもついて行けなくなった者は、その場で切り捨てられるという厳しい戦場。
「皆、しっかりして! 戦いは、まだ終わってないよ!」
 未だ健在なシュヴァーエトを前に、仲間達を鼓舞するノーフィア。
 そう、あの恐るべき竜は未だ闘志を失っていない。全身から生えた無数の刃は、かなりの本数が欠けてはいたが、それでも戦いを止めようとはしない。
 残り時間は、もう半分を切ったであろうか。明らかに焦燥感の見える持久戦。互いの血で互いの身体を染める修羅の戦場は、未だ混迷の渦の中にあった。

●黒竜は二度死ぬ
 二人の仲間が脱落したことで、ケルベロス達は一転して窮地に追いやられていた。
「なんて……やつなの……。これだけ攻撃して……まだ倒れない……」
 幾度となく刃に斬り刻まれ、和奈の身体はボロボロだ。身を挺して他の者を庇えば庇うだけ、その消耗も激しくなる。
「ごめんね、ペレ。後は、わたし達に任せて……」
 限界を迎えて箱の中に戻ってしまったペレを、ノーフィアは箱越しに優しく撫でた。
 だが、感傷に浸ってばかりもいられない。完全に息の根を止めるまで、シュヴァーエトは決して戦うことを止めはせず、一人でも多くの敵を食らい、その糧にしようと荒ぶるのだから。
「……ルー、力を貸して。もう、時間があまりないから」
「リリちゃん? でも、わたくしの計算では、まだ時間は……」
 何かの決意を秘めたリリエッタの言葉に、一瞬だけ戸惑いを見せるルーシィド。暴風の音に遮られてアラーム音こそ聞こえていないが、戦闘時間には、まだ少しばかりの余裕があるはず。
 それにも関わらず、リリエッタは力を貸せと言った。恐らく、ここで仕留めるつもりなのだろうが、功を焦れば却って仕損じることもあるわけで。
「……いえ、わかりましたわ」
 それでも、無策でリリエッタが賭けに出るとは思えず、ルーシィドは全てを親友に委ねることにした。
 いや、本当は、彼女も気づいていたのかもしれない。戦いの中、どれだけヒールを繰り返しても、癒しきれない傷は蓄積して行く。ましてや、敵は恐るべき攻撃力を誇るドラゴンだ。一度に蓄積する負傷や疲労の割合も高く、このままでは削り殺されてしまうのは明白だ。
 戦いの時間は有限だが、それ以上に有限なのは仲間の命。制限時間? そんなものは、単なる目安だ。アラーム音の有無に関係なく、この場で共に戦っている仲間が、全て倒れたらその時点で終わりだ。
 もはや、互いに言葉を交わす必要もなかった。どの道、この距離まで近づかねば、この暴風ではインカムを使っても雑音交じりの会話しかできないのだから。
 互いに手を重ね、リリエッタとルーシィドは魔力を循環させて高めて行く。いつしか、その力は一発の魔弾を生み出して、彼女達の手の中で収束し。
「 ―――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 暴風の中、放たれるは荊棘の魔力を込められた弾丸。その一撃がシュヴァーエトの腹を貫いたところで、同時に空を翔けたのはリナの投げた魔槍だった。
「放つは雷槍、全てを貫け!」
 雷鳴が、一筋の閃光となって黒き竜の身体を穿つ。元が刃の塊だけあって、シュヴァーエトの肉体は、リナの放った電撃を良く遠し。
「残念だが……ここがお前の墓標だ!」
 背部のスナイパーキャノンを展開し、ジョルディが猛る竜へと狙いを定める。
「1&3! ターゲットロック! 貴様の墓標……その身に刻んで地獄へ墜ちろ! Funeral! Reverse! Cross! …Fire!!!」
 頭部、そして胸部へと、計三発の銃弾を叩き込む必殺連撃。さすがに、これは効いたのか、不屈の修羅も奇声にも似た悲鳴を上げた。
「その弾痕を墓標に……眠れ!」
 衝撃を殺しきれず、真っ二つに裂けるシュヴァーエトの肉体。これで、今度こそ終わったか。誰もが勝利を確信したが、しかしやはり、敵は人知を超えた存在だったということだろか。
「オォ……ウォォォォッ!!」
 下半身を失い、上半身だけになりながら、それでもシュヴァーエトは最後の力を振り絞って飛翔した。
 あんな身体で、まだ動けるのか。驚愕するケルベロス達だったが、ここで止めねば待っているのは人々が竜の餌食になる地獄の未来。
「このまま行かせるもんか……! 絶対に……絶対に……!!」
 荒れ狂う竜の頭に組み付き、和奈は硬化した拳で幾度もシュヴァーエトの頭を殴り飛ばした。それでも止まらないシュヴァーエトだったが、さすがに今まで程の冷静さはなかったのだろう。
「我黒曜の牙を継ぎし者なり。然れば我は求め命じたり。顕現せよ、汝鋼の鱗持ちし竜。我が一肢と成りて立塞がる者へと突き立てろ、その鋼牙!」
 待ち構えていたノーフィアが、自らの肘から先を竜の頭部へ変えて、シュヴァーエトに食らいつかせた。
 さすがに頭を噛み砕かれては、不死身の竜も形無しだ。その身から多数の剛刃を生やした漆黒の竜は、今度こそ絶命して遥か彼方の海へと落下して行った。

●嵐は過ぎて
 雲を抜けて下へ降りると、そこには見渡す限りの大海原が広がっていた。
 シュヴァーエトが都市部へと辿り着く前に、なんとか無事に撃破できたようだ。誰もいない海の上で倒せたのであれば、戦闘の余波による被害も気にすることはないだろう。
「どうやら、迎えが来たようだな」
 やがて、現れたヘリオンを見て、ジョルディが言った。気がかりなのは、途中で落下した泰孝と橙乃の二人。ケルベロスはグラビティ以外ではダメージを受けないはずなので、落下の衝撃で死んだとは考えられない。
 とにかく、今は少しでも身体を休めることが先決だ。迎えのヘリオンに誘導され、小型剣から飛び移るケルベロス達。ようやく、中の座席に腰を下ろすと、果たしてそこには落下したはずの二人が待っていた。
「よう! その様子だと、あの竜は無事に倒せたみたいだな」
 全身に酷い怪我を負っているにも関わらず、泰孝は飄々とした様子で仲間達を出迎えた。橙乃も橙乃で、とりあえず勝てたのだから良しとばかりに、負傷も気にせず微笑んでいる。落下して離脱したことにより、無防備な状態で敵の追撃を食らわなかったことが、却って彼らを再起不能の重傷から遠ざけてくれたとは皮肉な話だったが。
「言っただろう? 必ず迎えに行くってな」
 そちらを信じているからこそ、こちらも覚悟を決めて後を追うことができる。結果として、離脱した二人も回収でき、誰も欠けることなく帰還できた。
 そんなへリオライダーからの言葉を耳にしつつ、戦艦へと凱旋して行くケルベロス達。
 だが、これはほんの始まりに過ぎない。真の脅威は、直ぐにそこまで迫っている。
 竜業合体。恐るべき戦闘生物であるドラゴン達の集合体。彼らとの最後の決戦は、この程度では済まない激戦になるはずだと、誰もが胸の内に予感していた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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