走って、走って、走りまくれ……!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化したスポーツジムに放置されていたのは、ランニングマシンであった。
 このスポーツジムは、トレーナーのひとりが女性問題でトラブルを起こした事により、会員が激減してしまい、廃業に追い込まれてしまったようである。
 しかも、夜逃げするような形で、オーナーがいなくなってしまったため、室内にあるモノは、ほとんど残されたまま。
 ランニングマシンも、そのひとつであった。
 だが、ランニングマシンは、どうしてこうなってしまったのか、まったく事情を知らない。
 そのため、なぜ誰も利用しないのか、まったく理解していないようだった。
 それ故に、納得がいかず、『何故?』『どうして?』『一体、何が……?』と疑問を投げかける日々を送っていた。
 そんな中、スポーツジムに現れたのは、蜘蛛型ダモクレスであった。
 蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、ランニングマシンに機械的なヒールを掛けた。
「ラ・ン・ニ・ン・グ・マッシィィィィィィィィィィィィィィン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したランニングマシンが、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)さんが危惧していた通り、都内某所にあるスポーツジムで、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にあるスポーツジム。
 ここに放置されていたランニングマシンが、ダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、ランニングマシンです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスと化したランニングマシンは戦車のような姿をしており、手当たり次第に人を乗せて、無理やり走らせようとするようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
東・律(ハリボテの輝き・e21771)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
 

■リプレイ

●都内某所
「まさか私が危惧していたダモクレスが、本当に現れるとは驚きましたね。これも運命なのでしょうか……?」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認されたスポーツジムにやってきた。
 このスポーツジムは、トレーナーのひとりが女性問題でトラブルを起こし、それが引き金となって会員が激減してしまい、廃業に追い込まれてしまったらしい。
 そのため、既に廃墟と化しているが、トレーニング器具などが撤去されず、そのままになっていたため、一見すると休業しているだけのように見えた。
 それだけ、撤去費用が掛かってしまうため、放置したまま売りに出されているようだが、いまのところまったく買い手がついていないらしい。
 そのせいか、廃業した事を知らない者もいてもおかしくないほど、当時のまま時間だけが過ぎていた。
 そのため、念には念を入れて、辺りをウロついていた通行人に、詳しい事情を説明して、安全な場所まで避難してもらう事にした。
「ランニングマシンは健康維持には役立つ便利な機械だと思うけど……。使われないなんて、本当に気の毒な感じね」
 そんな中、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、悲しげな表情を浮かべた。
 もしかすると、ランニングマシンも、同じ事を考えたかも知れない。
 その結果、小型の蜘蛛型ダモクレスを呼び寄せ、ダモクレスと化す事を選んでしまった可能性が高かった。
 だからと言って、ランニングマシンが人々を襲って、グラビティチェインを奪う事を望んでいた訳では無い。
 ただ、昔のように自分の上で人を走らせたかっただけだが、その願いを歪んだ形で叶えられそうになっているだけである。
 そう言った意味で、ランニングマシンも、被害を受ける側ではあるものの、その事自体は阻止できないというのが現実であった。
「最近、ちょっとだけ運動不足だから……戦闘の後で落ち着いたら、近くのジムに登録してみようかしら……。運動着とかも、ちょっと探してみたい……かも」
 エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)が廃墟と化したスポーツジムを見つめ、物思いに耽った。
 どれも、そのまま残っているようなので、会員が利用していたモノや、貸し出していたモノなども、そのまま置いてありそうな感じであった。
 そのため、使えそうなモノを持って帰っても、誰かが文句を言う事もないだろう。
 むしろ、処分するモノが減った分、感謝されるかも知れない。
 そんな事を考えながら、エリザベスが隣人力と凛とした風を使って、何の事情も知らない通行人達を安全な場所まで誘導した。
「それにしても、どうしてランニングマシンが撤去されず、放置されていたんでしょうね? ダイエットにも効果的ですし、いくらでも利用する方法があったと思うのですが……」
 鹿目・きらり(医師見習い・e45161)が、不思議そうに首を傾げた。
 そこには深い理由があるのかも知れないが、事前に配られた資料を読む限り、詳しい事は書かれていなかった。
 だが、状況的に考えて、会員が激減した事で、収入が減ってしまい、他のトレーナー達が辞めてしまった事で借金をしてしまい、すべてのことから逃げ出す事しか頭になかったのかも知れない。
「……律ちゃんの故郷は、何で棄て去られたのかしら? 考えても何もならないし。行えることはデウスエクスが現われたら素早く退治するだけ」
 そんな中、東・律(ハリボテの輝き・e21771)が、誰にも聞こえないようにポツリと呟いた。
 それは単なる独り言。
 放置されたスポーツジムの状態が、自分の故郷と重なってしまったため、つい漏れてしまった言葉であった。
「ラ・ン・ニ・ン・グ・マ・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したランニングマシンが、ケモノにも似た叫び声を響かせ、スポーツジムの壁を突き破り、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは戦車のような姿をしていたが、巨大な蜘蛛のようでもあり、とても不気味であった。
 それでも、一目で危険な存在である事が分かるほど、辺りの空気がピリピリとしており、近寄り難い雰囲気が漂っていた。
「ラ・ン・ニ・ン・グ……マッシィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 ダモクレスは耳障りな機械音と共に、ケルベロス達を威嚇するようにして、超強力なビームを放ってきた。
 そのビームは人の形をしたモノが、走っているような感じにも見えた。
「さぁ、行きますよ、サターン。サポートは任せましたからね」
 すぐさま、きらりがウイングキャットのサターンに声を掛け、素早い身のこなしで超強力なビームを避けた。
 そのビームは全速力で駆け抜けるようにして、壁に人型の穴を開けた。
「どうして、こんな事になってしまったのか分かりませんが、そろそろ休みましょう」
 その間に、紅葉がダモクレスに語り掛けながら、月光斬で緩やかな弧を描く斬撃を放ち、ダモクレスの身体を斬りつけた。
「ラ・ン・ニ・ン・グ・マッシィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 だが、ダモクレスは全く怯んでおらず、再び超強力なビームを放ってきた。
「蒸気の盾よ、仲間を護る力となりなさい!」
 その事に気づいた悠姫がスチームバリアを発動させ、動力装甲から魔導金属片を含んだ蒸気を噴出し、ダモクレスが放った超強力なビームから身を護った。
 しかし、人型のビームは最後の悪あがきとばかりに、悠姫をグイグイと押していき、弾け飛ぶようにして消滅した。
「こんな姿……望んでいなかったはず」
 律が複雑な気持ちになりつつ、禁縄禁縛呪で半透明の『御業』を出現させ、ダモクレスを鷲掴みにしようとした。
「ラ・ン・ニ・ン・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時にダモクレスがキャタピラ音を響かせ、猛スピードでケルベロス達から距離を取った。
「地の底へ……」
 そこに追い打ちをかけるようにして、エリザベスがデウスエクスに対する怨念を鎖として具現化させ、呪いの鎖でダモクレスを拘束した。
「ラ・ン・ニ・ン・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その途端、ダモクレスが激しく抵抗したが、生命力をジリジリ奪われているせいで、思うように体を動かす事が出来なかった。
「マッシィィィィィィィィィィィィィィン!」
 だが、ここで倒される訳にはいかないと思ったのか、身体の中に収納されていたアームを伸ばし、呪いの鎖を引き千切った。
「抵抗するのであれば、仕方がありませんね」
 紅葉が諦めにも似た気持ちを抱きつつ、達人の一撃を放って、ダモクレスを牽制した。
「ラ・ン・ニ・ン・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 しかし、ダモクレスは殺気立っており、両方のアームをグリグリ回しながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「……聖なる力よ、天啓よ。私の力となり、敵を貫きなさい!」
 それを迎え撃つようにして、きらりがホーリースナイプを仕掛け、天からの聖なる力を自らの身体に宿し、太陽の煌めき(バトルオーラ)から一斉にビーム状のエネルギーを放って、ダモクレスのボディから伸びた不自然な左アームを消し飛ばした。
「これがあなたの選んだ道よ。……覚悟しなさい」
 その隙をつくようにして、エリザベスが猟犬縛鎖で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
「ラ・ン・ニ・ン・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 そのため、ダモクレスは全く身動きが取れなくなり、耳障りな機械音を響かせた。
「どんな理由があっても、住人からグラビティチェインを奪うために走らせまくるのは到底容認できないわ」
 次の瞬間、律がダモクレスのパンチを避けるようにして、素早く横に跳び、達人の一撃を繰り出した。
「ラ、ラ、ラ・ン・ニ・ン・グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、ランニングマシン型のミサイルを飛ばしてきた。
 それは巨大で、重量級。
 物凄い音を立ててアスファルトの地面に落下すると、爆発して大量の破片を飛ばしてきた。
 その破片が鋭い刃となって、ケルベロス達の身体を切り裂き、大量の血がアスファルトの地面を染めた。
「……癒しの風よ、皆を清めてあげて」
 すぐさま、悠姫がキュアウインドを発動させ、癒やしの風を巻き起こし、仲間達の傷と心を癒やした。
「オーラの弾丸よ、敵に喰らい付きなさい!」
 それに合わせて、きらりが気咬弾でオーラの弾丸を放って、ダモクレスに噛みつかせた。
「ラ・ン・ニ・ン・グ・マ・シィィィィィィィィィィィィィィン!」
 それを振り払うようにして、ダモクレスが再びランニングマシン型のミサイルを発射しようとした。
「これでも、喰らいなさい!」
 その事に気づいたエリザベスが、クリスタルファイアを仕掛け、熱を持たない『水晶の炎』で、ミサイルの発射口を破壊した。
「貴方の命、頂きますね!」
 それと同時に、紅葉が尋常ならざる怪力によって、ダモクレスのコアを引き裂くようにして抜き取り、溢れた生命エネルギーを啜り取った。
「マ・シィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 その一撃を喰らったダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、大爆発を起こして消滅した。
「これじゃ、二度と使えそうにないわね。まぁ、わたし達ケルベロスは普段からランニングよりも、ハードな運動をしているし、ランニングマシンは、またの機会にでも……」
 悠姫がランニングマシンだったモノを見つめ、自分自身に言い聞かせた。
 おそらく、ランニングマシンにとって、望まぬ最後であったが、ダモクレスとかした以上、仕方のない事だった。
「こんな場所……、もう二度と作らないようにしないと……」
 そんな中、律が廃墟と化したスポーツジムを眺め、深く精神集中して心の奥底に刻み付けるようにして、デウスエクス達を殲滅することを誓うのだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月18日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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