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「これがケルベロス、そして万能戦艦ケルベロスブレイドの力なのね……」
攻性惑星が破壊されたくさんの欠片が竜十字島へ降り注いでいく。
自らのヘリオンを操りながら、ミケ・レイフィールド(薔薇のヘリオライダー・en0165)は、その様子を艦内部のモニターで確認し畏怖と尊敬の念を込めて呟いた。胸に手を当てて長く長い安堵の息を吐く。
しかし、何だろう。ヘリオンに淡く漂う薔薇の香りも、座り心地の良いクッションも少しも己の心を落ち着かせてはくれない。――何か。何か、嫌な感じがする。
「……ドラゴン!? しかもこんなに、……」
ドラゴンの姿を確認し思わず声が上がる。
1体だけではない。間違いなく複数である。
戦艦はドラゴンの攻撃を受けるも展開したバリアによってダメージは受けていないようだ。攻性惑星から脱出に成功したケルベロスの回収を手伝い、ひとまずヘリオンと共に艦内へ戻ることにした。
「やってくれるわね。……でもアタシたちだって、大人しく引き下がるわけにはいかないのよ……!」
ひとりきりのヘリオンの中。あのクソ―――共が!とドラゴンに毒づいた。
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「良かった、此処にいたのね!」
いつもは冷静に、と自分自身に言い聞かせているミケが息を切らして駆け込んで来る。戦艦にいたケルベロスたちに大きく声を上げた。
「一部のでラゴンが戦線離脱し、日本へ向かってるわ! 目的はもちろん、グラビティ・チェインの略奪。住人を虐殺して奪うつもりよ。竜十字島から飛び立ったドラゴンは計11体。悪いことに、日本からヘリオンで迎撃するのは……」
速度的に不可能、とミケは断言する。
「ジェットパックデバイスが届かない高度から街を攻撃されれば、ケルベロスたちが迎撃に街に向かっても間に合わないわ。でも、このケルベロスブレイドなら高速飛翔するドラゴンにも追いつける! 追いついたところで、『小剣型艦載機群』をドラゴンと同じ速度するから、それを足場にしてドラゴンを撃破を」
これは、告げなければならないとミケが唇を引き締める。
「はっきり言って危険な任務になるわ。絶対に無事で帰って来られる保証は何処にもない。けど、……たったひとつでもいい。あなたに守りたいものがあるのなら、力を貸して。アタシの班はあのドラゴンの一体、ウィミナリス討伐作戦を担当するわ。奴の向かう先は、かの美しき『沖縄県那覇市』。この作戦に参加してくれるケルベロスは、アタシのヘリオンまで一緒に来て頂戴!」
ヘリオンに集まってくれたケルベロスひとりひとりに礼を言うと、ミケは深呼吸をひとつ。そうして作戦について説明を始めた。
「先程言った通り、このメンバーでウィミナリスというドラゴンに当たってもらうわ。艶めいた青い鱗に覆われたドラゴンで、大罪竜バビロンの愛人にして幹部、七罪竜の中で色欲を司るもの。力あるサキュバスを喰らい、同族だけでなく多種族や同性まで魅了する洗脳能力を持っているわ。ただ幸い今回はこの能力は使わず戦うようだから、対策については考える必要はないわね。長く太い尻尾を打ち付ける範囲攻撃や、硬質な爪での攻撃……これは呪術的な防御を打ち破る効果もある。それから、毒を含むドラゴンブレスも攻撃手段に含まれるわね」
サキュバスのひとりとしても許せない、とぐっと手を握り締める。
「2メートル程の『小剣型艦載機群』を打ち出すから、足場はそれを使って頂戴。ドラゴンと接触後、風速800mの暴風雨の中での戦闘になると思うわ。これまでにない大変な環境だけど、皆ならやり遂げてくれるとアタシは信じてる」
ヘリオンを乗せたケルベロスブレイドがぐんぐん速度を上げている。射出前に加速しているのだろう。
「グラビティ・チェインを十分得られていないとはいえ、その戦闘能力は魔竜に勝るとも劣らない。けどここで奴を撃破しないと、那覇市が大変なことになるわ。……皆、とてもいい目をしてるわね。さあ、そろそろ予定地域よ。準備はいい?」
参加者 | |
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エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278) |
ダスティ・ルゥ(長い物に巻かれる・e33661) |
水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
●
酷い風だ。
地上では感じられないような風が、ケルベロスたちの頬や身体を容赦なく叩く。
(「この風じゃ、ほとんど声は届かないですね。近くにいれば何とか……でしょうか」)
紫の髪を風に嬲られながら水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)は思う。わかってはいたが、過酷な環境での戦闘となるのは間違いない。しかしそれも、和奏の決意を揺らがせるには至らない。全員揃って、勝って帰るのだ。胸の前できゅっと手を握りしめる。皆を守りたい、簡単なようで難しい、それが和奏の願いだった。
「きっと大丈夫。……そう思えるんです。みんなと一緒なら」
滑りにくい靴やゴーグル、ハーネスをそれぞれ装備し、小剣型艦載機に降り立つ。
ドラゴンに追いつくまでの僅かな時間、レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)はリボルバー銃に思いを馳せていた。今は持ってきてはいないが、記憶の中にそれは確かにある。終わってしまった時間と今を繋ぐ、大切な形見。レヴィンにとって大切なもの。たとえ長く、その引き金を引くことができなかったとしても。
「ねえねえ、アンちゃん。今私、とーっても……頭かち割りたい気分なんです。こう、かこーんっと」
「環、大丈夫? 大丈夫だよね?」
『人形』を抱き直し自分の頭に軽く手を当てたアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)に朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は薄く笑って見せる。
「まっさかー。そっちじゃありませーん。ドラゴンの方です。ドラゴン。ハッピーエンドを目指しましょうよー。……ね?」
過去に参加した作戦を思い出し、環は風に前髪を乱されつつ気合を入れ直す。
仲間の姿を見遣り、心から溢れた素直な言葉に少しだけ表情を和らげる。
「いざとなったら逃げるなんて奴じゃないといいですが。ええとですね。ところで……」
ダスティ・ルゥ(長い物に巻かれる・e33661)の手が無意識に頬に伸びる。今日そこにあるのは己の肌であって、触り慣れた布地ではない。傍らにいた遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)に目を向ける。ふっさりとした尻尾を揺らし、掌をぐっと握り締め思い切り広げ、くるくるくると人差し指をあらぬ方向へ向けていた。
「え? 方向音痴になる呪いよ。北海道まで迷わせてあげようと思って」
「……歴史に残りそうですね。その迷子。遠野様が言うとそうかもワンチャンあるかもしれないって思うから不思議です」
ダスティは何か眩しいものを見るように篠葉を見た。
息を吸い、吐く。思ったより鼓動は乱れていない。所詮この世は弱肉強食、弱い己は喰い散らかされても仕方ない。しかしその後は、その先は。この世界はどうなってしまうのか。いざという時は暴走を、そう思ったのは一人だけではなかったが。艦載機に乗ったレヴィン に、すれ違いざまにとんっと肩を叩かれる。宜しく頼むよと、そう聞こえた。鏡では決して見られない、底抜けの明るい笑顔で。
●
やがてケルベロスたちは対峙する。
美しき殺意の塊にして人類の敵、七罪竜ウィミナリスと。
ケルベロスたちを睨むも嘲笑うような色が見て取れる。ドラゴンたる自分が負けるわけはないだろうと。瞳に僅かほども焦りは無い。
『ジェットパック・デバイス』や『レスキュードローン・デバイス』を使っても移動速度が全く足りない。置いていかれてしまうだろう。『チェイスアート・デバイス』も転落防止には使えそうにない。ただ、クラッシャーデバイスなら艦載機に飛び乗ったり移る際の補助として使えそうだ。
ドラゴンが向かう先は沖縄県那覇市。もしも此処で止められなければ街は悲鳴に包まれるだろう。
――タイムリミットは約15分。かちり、とタイマーがセットされる。
艷やかな鱗に身を包みしなやかに尾を揺らし、ウィミナリスは大気を咆哮に震わせた。
それぞれのポジションに散ったケルベロスたちをぐるりと見て、人数の固まった前衛へ毒を含んだブレスを吹きかける。
「この美しい島に、指一本触れさせやしない。海の一雫さえお前にはくれてやらない」
愛する家族のいる場所を、絶対に守る。玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は強く拳を握り締め言い放つ。心の中に熱く熱いものが渦巻くのを、抑えようとも思わない。炎を纏った蹴りをドラゴンの腹に思いっきり叩き込むと、ほぼ同時かというタイミングで猫が尻尾の花冠を揺らし光を放つ。まるで陣内の意思に応えたよう。いや或いは、意思そのもの。
(「ああ、またドラゴン。きっと最期まで立ちはだかるのね」)
エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968)はブレスの直撃を受けながらも凛と息苦しさに堪える。愛を得た竜とかつて愛を失った花と、その視線が一瞬交わり合う。
「ならばアタシも、アナタたちに立ちはだかり続けるわ」
構わない。あの時と同じ思いをするくらいなら。戦えるまで、戦うだけ。エヴァンジェリンの魂は何者にも汚されはしない。
猫を含めた守り手たちはダメージを抑えるが、ただでさえ強力な存在であるドラゴンが攻撃力を重視して戦っているせいで一撃が重い。即座に第二撃が襲い来る。
「……っ、はーい。センセー、そういうのいけないと思いまーす!」
鋭い爪の一撃が篠葉へ届く前に、環がその身体を盾として割り込ませた。
ざっと仲間たちへアンセルムは視線を巡らせる。
唯一の癒し手として今誰をどう回復するべきか。何が最適解なのか。腕の中に抱いた人形は何も応えない。だがその瞳はアンセルムをいつもと何も変わらず見詰め続けている。僅かに口角を上げ、光り輝くオウガ粒子を放ち前衛メンバーの傷を癒やす。
『冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え』
篠葉によって引きずり出された怨霊たちがドラゴンの体躯にまとわりつく。
「早く飛べば私の呪いから逃れられるとでも思った? 呪いはそんなに甘くないのよ!」
嫌がるようドラゴンは身を捩って払おうともがくが無駄なこと。
レヴィンがチェーンソー剣を握り締め振り被り斬る――のではなく直接殴りにかかる。
『絶対に逃がしません。……行けっ!』
ジャマーの二人に続いて和奏も足止めを狙い、浮遊砲台を展開して無数の砲撃を放つ。手数は圧倒的に此方が上、ドラゴンの攻撃を一撃でも逸らせたら旨味は大きい。
声でのやり取りが難しい今、この風の中で音や振動で知らせてくれるタイマーを選んだのは大正解といえよう。4分のタイマーが時を知らせてもまだ余裕がありそうだ。毒のブレスを中心にじわじわと体力を奪い、弱った者には鋭い鉤爪を使い、時折尾で一気に薙ぎ払う。対峙しているのはたった一体とはいえドラゴンは究極の戦闘種族、序盤は押されてケルベロスたちの体力はじりじりと削られていく。
●
『良い気は中へ、悪い気は外へ!』
環の生み出すたくさんの猫たちが和奏たちに飛びつき中に吸い込まれるように消えていく。猫たちは身をじくじくと侵す毒を鼠のように捕食し、力へ変換させる。陣内の猫も、仲間が攻撃に専念できるよう、コバルトブルーの翼を羽ばたかせ回復の力を届けた。
(「……任せた方が良さそうだね」)
アンセルムは風の中、青い光を見る。ダスティの持つアラームの光だ。総攻撃の時までは攻撃は他の仲間に任せ、癒し手の役割に集中しようと判断する。続いたレヴィンはチェーンソーでドラゴンの硬い鱗を斜めに斬り付け、付着していた冷たい傷口を広げた。レヴィンや篠葉を中心に少しずつ確実にドラゴンの動きを鈍らせ攻撃力を僅かに下げ、仲間がその傷口を広げては戦闘力を削りとっていく。最初は回避されることもあった攻撃も時間が経過するにつれて命中率を確実に上げていた。
襲い来るドラゴンの爪を和奏は代わりに受け止め振り払う。服が破れ血がきっと赤い糸を引き、豊かな胸の膨らみが僅かに外気に晒される様からレヴィンはぐぐっと視線を引き剥がす。
(「なにぃ!?」)
と唇から漏れた声を誰が聞いただろう。
ウィミナリスがジト目で見ているような気がするが、きっと気の所為だ。多分そうに違いない。どうかそうであって欲しい。
「平気か、和奏」
「……っは、い。問題ありません、レヴィンさん。まだ戦えます」
レヴィンが放った冷え冷えとした光線が消えると同時、今度は艦載機をサーフィンのように乗ってバランスを取りつつ、篠葉がもう一度凍結光線でドラゴンの尾を抉る。
そして波乗りならぬ、風乗りした者がもうひとり。
ワイヤーとブーツで身体を固定すると二メートル程もある艦載機ごとダブルジャンプは難しいが、デバイスの補助があれば何とかなりそうだ。霊力を込めた陣内の斬撃が鱗を攻撃すると炎の勢いが増し、ドラゴンの身体を焼く。
青く美しい鱗が剥がれ何処ともしれぬ場所へ落ちていくのを見て、初めてウィミナリスの纏う空気が変わる。虫のように小さく取るに足らないものだとばかり思っていた存在を、初めて明確な障害物と認識した瞬間であった。その瞳に浮かび上がるのは驚愕と怒りと、そして僅かに生まれた死への恐怖。地球に到達さえすれば勝利を得たものだとばかり思っていたのに、ケルベロスブレイドやヘリオンデバイスを使いこなすケルベロスの戦闘能力は『危機』を覚えるに十分なものであった。
「……怖いですか」
今なら恐らく他の仲間には聞こえてはいない。
ウィミナリスの眼が訝しげにダスティへ向けられる。
「ドラゴンなんて強大な種族が人に倒されるのは。共生の道が無いとすればあとは、生き残る生命体はどちらか一方だけ。……窮鼠猫を噛むとはいうけど兎は何だろう」
普段とは違った真剣な表情には暴走の覚悟さえした強い光が宿っている。光と共にカーリーの女神が幻影となって現れ、ドラゴンを狂わせる。ダスティの攻撃ダメージに加え、氷がドラゴンの身体に薄く広がる。大きく吠えたウィミナリスがダスティとアンセルムへ毒の息で攻撃を返すと、環とアンセルムが一瞬のアイコンタクトを交わす。前衛メンバー中心にオウガ粒子や月の如き力で傷を癒し支援を届け、更にアンセルムの身体を暖かい、けれどふわんと怪しげな色の気が包み込む。飛んで来た咆哮を見ると篠葉がふふ、と笑うのが見えた。 大きなドラゴンの尾が大きく動く。数人を巻き込んで払おうと。足先で微妙に体重移動させレヴィンは艦載機をボードのように操りその一撃を何とか回避する。ひやり、と一瞬嫌な感じに背筋が冷える。
「全くとんでもない速度でとんでもない所を通るわね。せっかちだって言われない?」
花緑青の瞳が青きドラゴンの姿を映し込む。エヴァンジェリンは攻撃を切り替えると黄金の雷を刃に乗せて強力な一撃を喰らわせた。
「さあ、アナタの終わりを導きましょう」
ドラゴンさえいなかったら、己には違った未来があったかもしれない。喪失の痛みはまた鈍く、エヴァンジェリンの中に残り続けている。
攻撃を受け続ければ回復しきれないダメージは溜まっていく。だが回復に手を割けば割く程に火力は削がれてしまう。ケルベロスたちが立てた作戦は制限時間のある中で確実に撃破するという目的において非常に優れたものであった。それぞれがやるべき役割を理解し迷いなく実行し、街を守るという目的の為、ひとつの生き物の如くドラゴンを追い詰めていく。「退きはしないか、……だがそれは俺も同じだ。譲れないんだ。絶対にな……!」
身体に残る毒がじわ、と鈍い痛みを生む。その痛みさえ邪魔だと陣内は四肢に力を行き渡らせた。ドラゴンの硬質な鱗を打ち砕くその一撃、――威狩ノ虎をドラゴンの心臓狙って叩き込んだ。
●
断末魔が高く響き、そうして細く消えていく。
艦載機は戦闘終了後ゆるやかにスピードを落とし、停止した。
ダスティは持っていたアラームが赤い光を放っているのに気付いた。後少しかかれば、回復を捨てて文字通り総攻撃にかかるところだったのだと知る。緊張が解けて危うく落ちそうになるのを和奏が受け止め、そっと座らせる。
「す、すみません」
「いえ。ヘリオンが迎えに来てくれるまで、時間がかかりそうです。ちょっと休憩しましょう」
守りきったのだ。その実感を胸に和奏は安堵の息を吐く。大小様々な傷は負っているし立っているのかせ精一杯な仲間もいるが、意識を失うような大怪我をしている者はひとりもいない。
「次はきっと、ドラゴン勢力を完全に滅ぼすような大きな戦いになるんじゃないかと思います」
「だとすればモーゼス王子の双児宮も……衛星軌道上で確か確認されてましたよね。あっちも高確率で、というか必ず参戦して来るでしょうね」
張り詰めていた糸が緩むように感じたのはアンセルムも同じ。ヘリオンの速度からいって1時間程度だろうか。それまで大人しく待つしかない。小さな少女人形の髪を指先で直そうとするが途中で止めた。指先についた血を丁寧に服の端で拭ってから、彼女の髪をゆっくり整える。とんっと同じ艦載機に環が飛び乗り、無事を喜んだ。
「強かったー。けど、勝てない相手じゃないってわかったね、アンちゃん。この瞬間がその証拠だよ」
「あぁ、そうか。……確かに、そうだね。出発した時から、誰も欠けてない」
「ふっふふー、呪いがちゃーんときいたみたいですね。あのドラゴン、今頃時の狭間を彷徨ってますよ」
大きな狐耳を揺らし、足を投げ出して艦載機の上にぺたりと座り込む。人差し指を唇に当て、僅かに口角を上げながら篠葉が言う。
「対ドラゴン戦か。相手にしなきゃならないのは双児宮だけじゃない、死神勢力もだ。あいつら、死者の泉を狙ってくるぜ」
清々しいまでに力を尽くしたレヴィンは、目を閉じて大きく息を吐き、胸いっぱいに空気を吸い込む。生きている。勝ったんだ。そんな熱い勝利の余韻がまだ消えない。
少し休んで呼吸と身体の熱が落ち着いた頃、エヴァンジェリンが陣内に尋ねる。
「あなたのサーヴァント、名前は何ていうのかしら」
「……猫だ」
「え?」
「名前はない。その、ないんだ。……何といえばいいか」
「ううん、いいの。アタシも上手く言えないケド、それがあなたらしいと思って」
何か答えが胸にすとんと落ちたような、妙に納得した様子のエヴァンジェリンに陣内が視線を留める。春の暖かな陽だまりのような感情が心に広がった。そっと思い出すのだ。記憶に残るあの人も、天使の翼を持っていたと。
視界の向こう、ヘリオンが此方へ飛んで来るのが見えた。ケルベロスたちは勝利を胸に、次々に乗り込んでいく。
ケルベロスたちと猫と、誰が欠けても同じ瞬間、この結果は得られなかったに違いない。無数の可能性の中から、皆の知恵と力で未来はしっかりと掴み取られた。
だが。これはドラゴンとの前哨戦に過ぎない。
最終決戦の日は、間近に迫っている。
作者:成瀬 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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