竜業合体ドラゴンとの死闘は膠着していた。
竜十字島へと向かおうとした攻性植物残党の拠点『攻性惑星』が万能戦艦ケルベロスブレイドとケルベロスたち力で滅びた直後に出現した竜業合体ドラゴン達は、そのままケルベロスとの戦闘に突入。
攻性惑星を脱出したケルベロスたちと豪中したケルベロスブレイドは砲撃でドラゴンの一部を破壊し、バリアを展開して遠距離戦を展開。互いに有効打を放てぬまま千日手となりつつあった。
まんじりとせぬ状況が続き、生じた転機は十一の光。
「リリエだ! ドラゴンたちに動きが見えた、ただちに搭乗してくれ、ケルベロスブレイドに帰還する!」
上空でケルベロスたちの拠点を担っていたヘリオンより、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の声が響きわたった。
開かれたサイドドアから飛び込んだケルベロスたちにリリエはヘリオンを加速させつつ状況を説明する。
「ドラゴンたちの動きに予兆が見えた。奴らのなかから、ヘリオンすら振り切る超高速型のドラゴンが日本を奇襲しようとしている」
リリエが予見したものを含め、その数は十一。
ドラゴンたちは『ジェットパックデバイス』でも到達できない高度から市街地を一方的に焼き払い、グラビティチェインを簒奪しようとしているという。
空では追いつけず、先回りしても上空から焼き払われる。これまでのケルベロスの能力では全く太刀打ちできない状況。
「だがケルベロスブレイドの方で対抗手段が見つかったそうだ」
万能戦艦ケルベロスブレイドはドラゴンを凌駕する速度で飛行でき、更にドラゴンに迫れる速度の『小剣型艦載機群』が搭載されていた。
これらを駆使し、ケルベロスブレイドがドラゴンに追い付いたところで『小剣型艦載機群』を足場に攻撃を仕掛ければ、超高速移動中のドラゴンにも対抗できるはずだとリリエは言う。
「気を付けろ、ケルベロス。対抗することはできるが、状況は決してたやすくはない」
リリエのヘリオンが帰還すると同時、万能戦艦ケルベロスブレイドが加速を開始する。その速度はケルベロスといえど無視できるものではない……風速にしておよそ800m。
「私たちの捕捉した『雷霆竜アドヴェルサ』は仙台市に向かっているようだ! アドヴェルサは存在が嵐そのもの! 2mしかない『小剣型艦載機群』は弾き飛ばされないよう、十分注意してくれ!」
風に負けぬよう叫ぶリリエによれば、雷霆竜アドヴェルサは動く嵐そのものであり、弱肉強食の権化の武人という。二本の角は半ばから折れており、右半身を中心に銃創が見え隠れする。
「アドヴェルサはこれら傷をつけた者との再選を臨み、誘っている様子すら見える……だがこれらの傷による影響は微々たるものだ、油断するな」
身にまとった嵐は破壊の化身であり一度巻き込まれれば最後、『炎』を受けたように傷を増やし続けることとなる。
また二つ名通り、全身から放つ魔の雷撃も極めて強力。更に成長することで傷を癒し、受けた状態異常への耐性を増していくことさえあるという。
「……ここまでだな。準備ができたそうだ」
ケルベロスたちにヘリオンデバイスを託し、リリエは口惜しそうに言う。
「『小剣型艦載機群』の速度は私とヘリオンでは追従できん……後から必ず追いつく、追いつくから必ず生きて帰るんだ、ケルベロス」
参加者 | |
---|---|
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
劉・沙門(激情の拳・e29501) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
●雷霆竜との再会
声が届かない。息が荒く、氷粒と化した雲が全身を殴りつけてくる。
「グラビティ以外では死なないとはいえ過酷だな!?」
「でも、この速さなら!」
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)の悲鳴じみた声は『骨伝導式携帯トランシーバー』を通し、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)の耳元にも伝わってきた。
ケルベロスたちが足場とする小剣型艦載機はその用途上、搭乗でなくサーフボードのように上に立つものとなっている。
その速度はおよそ音速の二倍。『スパイダーブーツ』による固定、緊急用の『フックショット』アンカーを駆使して身を留めるケルベロスたちも、なかなかに堪える過酷さである。
「ジェットパックデバイスでもこれは無理だな……気を付けろ、慣性から外れた瞬間吹っ飛ばされるぞ」
「こうでもしないと追いつかないんだから、攻撃の規模が桁違いだぜ」
降着姿勢で艦載機に身をめり込ませ、『姿勢制御用バーニア』を微調整に吹かせるマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)にハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)は思わずと声を上げる。
追撃する敵は恐るべきことに、この速度を肉体のみで出しているのだ。
「前方の雷雲に気圧変化をとらえた。来るよ」
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は『電子戦・連携支援ユニット』上に浮かぶ光点のサイズが徐々に絞られていくのを仲間たちに警戒。
対象の位置情報が縮まっていくとはすなわち、ケルベロスたちが追うドラゴンの位置が絞られ、着々と近づいているということ。
「く……ジェットパックもドローンもダメか。吹っ飛ばされたら終わりだ、気を付けろ」
「ナノマシンも速度では散布困難……譲渡ナノマシンを活性化します。ご武運を」
リティの警告を受け、ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)もすさまじい高速空間を認識した。
とんだ事態だが予測の範疇。あらかじめ仲間たちには布片の形でグラビティ用のナノマシンは配布してある。ピコは意識を集中させ、『多重分身の術』を仲間たちへと発動させる。
突入、霧とかした雲に響く雷鳴。その嵐の主はまさに嵐の中心にいた。
「問題はない。俺の技はすべてを砕く……ドラゴンとて例外なく!」
劉・沙門(激情の拳・e29501)の闘志がブレイブマインを炸裂させる。容赦なく暴風に流れていく色とりどりの硝煙も、彼には戦狼煙のようなもの。
色とりどりの煙幕をかいくぐり、マークの声が戦端を開く。
「目標接近。SYSTEM COMBAT MODE」
「見えたぞ……折れ角二本!」
高まる戦意と言い知れぬ緊張。ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は身をかがめ、小剣型艦載機の上に狙撃姿勢をとった。
「ヌッ!?」
気配にみじろぐ黄金の影を逃さず『カアス・シャアガ』重砲が轟竜砲を吠える。
一瞬置いて炸裂。いや、至近弾!
「来たか、殲滅の!」
「こちらの言葉だ、雷霆竜!」
半身に傷残す金竜……『雷霆竜アドヴェルサ』が身をひねるのに、加速する小剣型艦載機が首を並べる。超音速の空にケルベロスと雷霆竜、それぞれのグラビティが激しく舞った。
●嵐の化身
アドヴェルサの咆哮に暴風域が動き出す。
「WARNING……WINDSTORM COME,WARNING……!」
「くあっ……なんだこりゃぁ……!?」
「離れろ、奴の嵐だ!」
暗雲に包まれ、ティーシャをかばい立ったハインツの『根性Tシャツ』が青白く燃え上がる。ティーシャの声にオルトロス『チビ助』がソードスラッシュで振り払おうとするも、今度はその毛皮にまでもが炎を放ちだした。
「『セントエルモの火』というヤツか……マヒナ、アロアロ!」
「ひゃぅっ! それって、グラビティってこと!?」
すさまじい乱気流の中、マヒナの手を吹っ飛ばされ『特製フック付ロープ』にぶら下がる『アロアロ』をピジョンと彼のテレビウム『マギー』が何とかつかむ。
傾く小剣型艦載機を捨てて跳躍。飛来するアドヴェルサの足先を『駆け寄って思いっきり殴る・改』しつつ、ピジョンは圏外の艦載機へと飛び乗った。
『どうした。我を仕留めるのではなかったか』
「言われずとも、であるがッ!」
その身の炎を叩きつける沙門の『グラインドファイア』にも打ち据えられ、アドヴェルサの体が流れていくが、浅い。
ただその場にあるだけでアドヴェルサは雷と嵐を叩きつけ、ティーシャめがけて電撃を叩きつける。攻めるケルベロスはまとう嵐を突き破らなければならない。この圧倒的な戦力差。
そして嵐はただそこにあるだけではない。
「この嵐……成長しています」
『如何にも!』
ピコの分析を誇らしげに肯定するアドヴェルサ。
切り離した小剣型艦載機へ嵐の炎が襲い掛かる。『母のユニット』を展開して飛び移ろうとするも、電撃のブレスがからめとり、直撃。
『む……?』
だがこちらも手応えは浅い。
「投影ダミー、効果確認。切り返します」
「今度はそちらが受ける番だ。内蔵兵装ロック解除、放電ユニット起動」
攻撃を受けナノマシンへと還るは、ピコの『多重分身の術』の一つ。
アドヴェルサの攻撃にわずか作った隙を、リティの『電磁施術攻杖』から伸びた『ライトニングウィップ』が打ち据えた。
嵐にのたうち、さながら自然の落雷のように閃く電撃鞭はアドヴェルサを捉え、その鋭さ増す動きを打ち砕いていく。
『やりおる!』
「また嵐だ、くるぞ!」
『敵攻撃パターン解析、重力装甲に反映』
だが今度はやらせない。ハインツの構えた『Heiligtum:zwei』ライオットシールドの強化装甲に、マークの『重力装甲』が重なって嵐の化身を受け止める。
業を煮やしたアドヴェルサが咆哮と共にブレスを吐き出す、瞬間。
「いけ、沙門!」
「言われずとも!」
電光をさかのぼるゼログラビトン弾が横顎を強かに打ち、雷霆竜をひるませる。
相打ちティーシャのダメージも甚大だが、今そこから立ち直る暇は与えない。
飛び出したミミック『オウギ』が武装具現化したエクトプラズムを叩きつけ、稼がれた時間に沙門は目前を揺れ飛ぶ艦載機を奪う。
「いったぞ、俺の技は全てを砕く。八方天拳、六の奥義! 毘沙門天!」
沙門が放つは八方天拳でも最もダイナミックとされる奥義『毘沙門天』。その鍛え上げた膂力は気功をもって、かの竜業合体ドラゴンさえも跳ね上げる。
驚愕する間もなく、巨人の踵が如き気功の足が構えと共に、上空より叩き下ろされた。
●超越電流
『グゥゥゥっ!』
雷霆竜の角が宙を舞う。
叩き込まれた『毘沙門天』の踵に押され、アドヴェルサの高度がグンと落ちる。身に待とう嵐の衣がケルベロスたちの元を離れ、空域は一時の青空を得た。
「仙台まであと五分ない! 立て直すよ!」
「攻撃リソースを確保して、最後まで倒れちゃダメだ」
マヒナのオラトリオヴェールが嵐の残した炎を吹き消すなか、リティは接続した『エアロスライダー』を切り離し、急角度で艦載機からダイブした。
吹き上げる風にカットバックターンの要領で切り返し、突入。突き込んだ『対艦戦用重力鎖鋸剣』が風を払い、続く仲間たちを援護する。
「逃げる敵は手負いの獣だ、トイ、トイ、トイ……あと一歩頑張ってこうぜ!」
生み出された突入路をいち早く飛ぶティーシャへ、ハインツが『激励の鬨《蔦》』を投げかける。厚さを増す暴風圏の摩擦炎が纏う蔦状のオーラと相殺し、黄金の光をまき散らした。
ほぼ直角に降下する中、ティーシャの眼下でアドヴェルサが加速する。
「この期に及んで逃げを選ぶか……いや!」
「まぁそうだよねぇ!」
ティーシャが考えを振り払うのと同時、アドヴェルサの巨体がバレルロールする。半周をひねり込みつつ放たれる電撃のブレスに、ピジョンおもわずと声を上げた。
『角の礼は果たす!』
「すまない、マギー!」
一撃目をかわし、あろうことかターンして戻ってくる電撃の吐息。テレビウム『マギー』が身を挺して庇うなか、艦載機から飛んだピジョンが残像剣をもってアドヴェルサを突き刺す。
「く……後は頼んだよぉ……!」
突き刺さるフェアリーレイピアも、そう長くはもたない。嵐と振り回される翼に押され、ピジョンの体が跳ねのけられる。
ティーシャがテレサの残霊とジャイロフラフープを受け取るのを確認しつつ、流される身が突然に引っ張り上げられた。
「お返し、ありがとう」
「おかげでわかったよ。ワタシたちとドラゴンは強いけど、強いから勝つわけじゃない……力を合わせることで、この星をワタシたちは守ってきた」
「例え敵が強大でも、諦めるって選択肢はなかった。だから今ここにいるんだぜ!」
だから、勝てる。
マヒナの声を継いだハインツの力強い断言がライオットシールドを叩き込み、竜鱗を飛ばす。
一瞬の怯みに、ティーシャの『デウスエクリプス』が体ごと叩きつけるよう、アドヴェルサへと放たれた。
『ぬぅっ!』
「残り一つ……もらう!」
「TARGET LOCK.FORTRESS CANNON ON FIRE」
翼をマントのようにまとい拮抗するアドヴェルサ。その激突の横を縫うようにマークの『XMAF-17A/9』アームドフォートのフォートレスキャノンが、ピコの螺旋氷縛波と共に炸裂する。
拮抗を崩す。
「切り裂け! デウスエクリプス!」
増大する電撃と嵐を押し切り、二基一対のジャイロフラフープが雷霆竜の肩を裂く。
傷口から爆ぜる電流。吹き出す嵐も勢いを減じたように感じられた。
●『殲滅』せよ
『おのれ!』
すさまじい嵐が空一面を薙ぎ払う。
アドヴェルサの全身から巻き起こる黒雲と雷鳴は、空が割れるが如く。
『寒冷適応装備verカチカチ』をも引き裂く暴風をくぐり、落下するティーシャの体が『フックショット』に引っ張り上げられる。
「いけるか?」
「皆まで訊くな」
暴風雨をものともしない『骨伝導喉咽インカム』から沙門の声が短く確認。
ティーシャの不敵な笑いに、激情の拳は鬨を上げる。
「全員突撃だ!決めに行くぞ!」
仙台上空まで残り三分弱。沙門の声と共にアドヴェルサの横面を殴り飛ばすブーストナックルが最終攻撃の開幕を告げた。
暗雲のなか、あらぬ方向に向いた首を戻すドラゴンだが、その喉元には食らいついたミミック『オウギ』の姿。
もがく頭を今度は上から、殴り飛ばすココナッツの連打。
「頭上注意、だよ?」
「いやぁそれはいくら注意してもかわない……って!」
マヒナの『ココナッツフォール』を軽口で流しつつ、続くピジョンは『白銀の螺子』を鱗の間隙へとねじ込んでいく。
「頼むよ!」
「任され……ろっ!」
ケルベロスチェインを巻いた右手の竜爪撃が、ピジョンの差し込んだボルトストライクの布石を一気にねじり込み、炸裂させる。
『届かぬわ!』
「届かせる!」
炸裂するエレメンタルボルトに、くいしばるアドヴェルサから漏れ出す嵐の力。
残り少なくなった艦載機の足場にマークは脚部『LU100-BARBAROI』のヒールバンカーを打ち込んでこらえ、背の『XMAF-17A/9』アームドフォートと『DMR-164C』アサルトライフルをつるべ打ちに連打。
爆発の連鎖が嵐を何度目か削り取る。
「嵐の防御が途切れました。ここに決定打を打ち込めれば……」
痛撃に雷のブレスが荒れ狂い舞う。宙を舞いながら速射モードの『フォートレスキャノン』を体に沿わせて連射するピコ。
言葉通り、火力が足りない。再生する竜翼の被膜を千切り、嵐の復活を食い止められても、倒しきるには更なる一撃が要る。
「任されたよ」
飛び込んだのはリティの姿だった。『対艦戦用重力鎖鋸剣』を振り上げ、艦載機を捨てて飛び上がる。
「これは戦うために生み出された、私の仕事だから……もししくじっても、待たせてる人が居る者や、一緒に帰る人が居る者は、その人達が悲しむ選択はするなよ」
覚悟を決めたような声の表情は見えず、リティが飛ぶ。
展開した『グラビティシールド』が電撃をはじき、減衰し、なお身を焼く。ヘリオンデバイスの力がなければ、およそ猛攻には耐えることも、一撃を決めることも困難という強さ。
それでもリティは大上段からズタズタラッシュで飛び込んだ。巨大なチェーンソー剣がうなじを突き刺す。
『ゴアッ!? グ……!』
「ぐ、あ、あと少し……」
「いいだろう……だがここは私の番だ」
手が離れそうになるなか、持ちこたえる彼女に応えられたのはティーシャだった。
「これで、決着だ!」
『我が負ける、そういうか……!』
脚部の『Iron Nemesis改』を叩きつけるようなグラインドファイアの回し蹴り。
それがリティの支える『対艦戦用重力鎖鋸剣』を跳ね上げ、アドヴェルサを両断する。
傷つき汚れた首が飛ぶ。
「やれた……のか?」
叩きつけられた鈍痛にティーシャとリティはどちらからとなく周りを見渡した。
既に巻き起こる嵐はなく、残された艦載機から見上げた先には、仙台の青空が広がっていた。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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