竜業合体ドラゴンの強襲~憤怒のイーラ

作者:紫村雪乃


 大空を埋め尽くす威容。
 突如現れたそれは神話の存在であった。ドラゴンである。
「あっ!」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は瞠目した。彼女はケルベロスブレイドにヘリオンと共に搭乗していたのだ。
 島根県隠岐島上空から竜十字島へと向かおうとした攻性植物残党の拠点「攻性惑星」は、攻性惑星撃墜作戦に参加したケルベロスによって対空能力を喪失した。そして、万能戦艦ケルベロスブレイドとヘリオンから行われたケルベロス達の一斉攻撃により、攻性惑星は破壊されたのだった。
 これで作戦成功かと思われた時のことである。ケルベロス達の眼前に、突如、多数のドラゴンが出現したのだった。竜業合体したドラゴン達が、遂に地球に到着したのである。
 次の瞬間、轟音が空間を震わせた。万能戦艦ケルベロスブレイドが砲撃を始めたのである。
 砲撃の威力は凄まじく、ドラゴンの一部を撃破した。無論、ドラゴンたちも座視しているわけはない。反撃を始めた。
 雷や炎など、さまざまな破壊エネルギーが万能戦艦ケルベロスブレイドに降り注いだ。白熱する世界の中、しかし万能戦艦ケルベロスブレイドは健在であった。強力無比なバリアがはねのけたのである。
「すごい!」
 思わずセリカは叫んだ。
 その時である。万能戦艦ケルベロスブレイドが動き出した。濃霧のごとく辺りを黒灰色に染める爆煙を隠れ蓑に、攻性惑星から脱出したケルベロス達を回収し、ドラゴンから距離を取るためだ。遠距離攻撃を防がれたドラゴンがケルベロスブレイドに突撃して来た場合、万能戦艦ケルベロスブレイドといえど撃墜は免れないからであった。


「皆さん!」
 緊張と焦りのために震える声をセリカは発した。この時、万能戦艦ケルベロスブレイドはドラゴンたちと慎重に距離をとって対峙しており、ある種の膠着状態にある。
「ドラゴンの一部が、戦場を離脱して日本に向かおうとしています」
 目的は人々を虐殺し、グラビティ・チェインを略奪すること。グラビティ・チェインが充分では無い状態で万能戦艦ケルベロスブレイドと対峙し続けることを避け、早急なグラビティ・チェインの確保を優先したのである。
「飛び立ったドラゴンは十一体。彼らはヘリオンの速度を超える速度で飛翔できるため、日本に残っているヘリオンで迎撃しようとしても、速度的に不可能」
 暗鬱にセリカはいった。懸念はまだあるからだ。そのドラゴンたちがジェットパック・デバイスが届かない高度から市街地を狙って攻撃した場合、ケルベロスが狙われた都市に先回りして迎撃しても都市の壊滅は免れないからであった。
「つまり、高速で飛翔するドラゴンから人々を守るには、ドラゴンを凌駕する速度で飛行できる万能戦艦ケルベロスブレイドで追撃し、追いついた所で『小剣型艦載機群』をドラゴンと同じ速度で射出。これを足場にしてケルベロスがドラゴンを撃破する必要があるのです。危険な任務になりますが、この作戦に参加してくれる方は私のヘリオンに集まってください」
 セリカはいった。
 彼女が担当するドラゴンの名はイーラ。大罪の一つである『憤怒』の名を冠するドラゴンであった。『嫉妬』の大罪であるインヴィディアの主であり、強者こそが優れたものを管理すべきと考えをもっている。故に力なき地球人類がグラビティ・チェインの恩恵を得られている事に絶え間ない怒りを抱いているのだった。
 イーラの武器は爪と尾。爪は近距離攻撃で凄まじい威力を秘めている。尾は近距離範囲攻撃であった。
 さらにイーラは雷と炎も操る。こちらは遠距離範囲攻撃であった。
「乗り込む『小剣型艦載機群』全長約二メートル。対するイーラの移動速度は時速三千キロメートル程度です」
 セリカは告げた。それは恐るべき事実であった。その速度で戦闘をするという事は、三千キロメートルの暴風雨の中で戦うことを意味するからだ。
 その時だ。万能戦艦ケルベロスブレイドが加速を始めた。
「もうすぐ予定地域となります」
 セリカはいった。
「残念ながらヘリオンでは今回の高速戦闘にはついていけません。けれど必ず追いついて回収します。竜業合体ドラゴンはグラビティ・チェインを充分に得られていない為に弱体化していますが注意が必要。魔竜に勝るとも劣らない戦闘能力を持っていますから」
 危険な任務です、とセリカは続けた。
「けれど彼らが都市を蹂躙、多くの人間を殺戮してグラビティ・チェインを略奪すれば恐ろしい事になります。絶対に阻止してください」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
立花・恵(翠の流星・e01060)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)

■リプレイ


 薄紅色の髪を叩きつけてくる豪風になびかせ、その少女は迫りくる時を感じていた。この接触は十五分を過ぎれば、どうなろうとも終わりを迎える。
「ふむ、竜業合体ドラゴンがもうここまで来ておったとはのう」
 ドワーフの少女ーーウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)はつけ髭を蠢かせた。
 それからウィゼはあらためて小剣型艦載機にかけた手に力を込めた。姿勢を低くし、少しでも風の勢いを削ぐようにつとめる。
 が、風圧は規格外の激しさであった。小剣型艦載機の速度は音速を超えており、発生するGで意識ごと吹き飛ばされそうだ。常人ならば、とっくにバラバラに引き裂かれていただろう。
「……これでは予想通り声は届かぬな」
 呟くと、ウィゼは同じく前衛の位置にある小剣型艦載機に乗るラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)をちらりと見やった。先ほどから彼は装備の確認に余念がない。
「しかし、音速の世界での戦闘をする羽目になるとは…」
 無論ウィゼには届かないが、ラインハルトは唸った。未だ体験したことのない未知の領域での戦いに、ラインハルトは戦慄を禁じ得ない。そのラインハルトからのびているワイヤーは小剣型艦載機と自身をつなぐ、文字通りの命綱であった。
 とーー。
 見えた、超音速で翔ぶ竜が。
 圧倒的破壊力の顕現。憤怒を冠するドラゴン、イーラであった。
「強いドラゴンだ!」
 叫んだのは女と見まがうばかりに美しい青年であった。動きやすい体操服の上に寒冷地仕様ケルベロスコートをまとっている。さらに酸素供給装置を背負い、特製ゴーグルと腕時計を身につけていた。
 名を平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)というその青年はさらなる歓声をあげた。
「身の震えるような、強いドラゴンだ! 狩りがいのある、強いドラゴンだ! ひゃっはー! 首級置いてけー!」
 刹那、イーラが吼えた。音は置き去りにされるはずなのに、ケルベロスたちにははっきりと聞こえた。
 僭上なり、非力な虫けらども。
 それはイーラの怒号であった。
「うるせえな」
 立花・恵(翠の流星・e01060)が美麗な顔に不敵な笑みをにじませた。装着しているのはゴッドサイト・デバイスであり、イーラの位置を特定したのは彼であった。
「ったく、何に怒ってるんだ? 俺達は随分お前らに勝ってるじゃねーか! お前の言う強者だぜ、定命の人類はさっ!」
 恵は高らかに叫んだ。とはいえ、恵は十分に承知している。
 敵は竜業合体ドラゴン。強敵であった。


 追いすがるケルベロスとの接触時、ドラゴンたちの反応はおおむね同じであった。ケルベロスの戦闘力に危機感を覚えた彼らは、目障りなケルベロスを排除して先に進もうとしたのである。
 が、イーラのみ違った。彼は、まさしく憤怒からケルベロスたちを始末しようと考えたのである。
「非力な虫けらども」
 咆哮とともにドラゴンは雷を吐き出した。
 覚悟は出来ている。なんの備えも整っていないが、ウィゼともう一人ーー凛々しく勝ち気そうな少女が、その雷撃を後ろに通さぬと前へ出た。
 爆ぜる雷光が視界を染める。建物であろうと人間であろうと一瞬で消し炭と化してしまうほどの威力であった。
 ウィゼと黒のビキニ姿の少女ーークレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)の肉体がぐつぐつと煮え立った。だが、耐えられぬほどではない。
 瞬間、和の手から鎖が噴出した。空を疾りつつ紋様を描く。治癒と防御の魔法紋だ。
 ほぼ同じ時、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)の手が視認不可能な速度で動いた。放たれたのは礫である。
 が、その礫には機関砲並みの威力が込められていた。被弾したイーラの鱗が弾け飛ぶ。
「ふふん。面白い」
 興味深げにヴォルフは笑った。殺す対象と認めた時、彼の好奇心は疼くのである。
 腕時計をちらりと見やってから円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は攻撃した。
 超鋼金属製の巨大ハンマーを砲撃形態に変形。竜砲弾を放った。アロンはソードスラッシュで攻撃する。
 無限に似た刹那が途切れる。すぐさま、一人の可憐な少女ーー実は十九歳なのだがーーが杖をふるった。
 はじける光の奔流。その中で娘ーーシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の衣服が分解、ふわりと柔らかそうなドレスへと再合成された。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 シルフィリアスが杖の先端をイーラにむけた。
「雷には雷でお返しっす!」
 シルフィリアスのもつ電撃杖が煌めいた。先端から迸る十億度にも達する魔雷がイーラを撃つ。
 その魔雷にかぶせるようにラインハルトは闘気を放った。凝縮されたそれは、凄まじい破壊力を秘めた弾丸と化して飛翔。イーラの肉を穿った。
「宇宙に大気圏に、今度は音速の世界! ケルベロスは退屈しないぜ!」
 サーフィンのように艦載機を操り、イーラに接近。流星の輝きと共に恵は宙に身を躍らせ、蹴撃を叩き込んだ。
「失った命の欠片、少し返してもらうぞ」
 禍々しく鈍く輝く大鎌でウィゼはイーラを斬りつけた。しぶく鮮血から大鎌が命そのものを奪う。
「確かにいただいた」
「ドラゴンなんて、こうだっ」
 クレアの脚が暴風を裂いて光の軌跡を描いた。まだ足止めが必要だと判断した彼女の蹴撃だ。
 が、クレアの一撃は空をうった。舌打ちして、クレアが間合いをはずす。
 その瞬間、ぞくりとクレアの背を怖気がはしった。
 イーラの四つの目が赤光を放っている。本気になった証であった。


 ケルベロス達の攻撃はイーラに届いた。が、それが綻びを産んだかまではわからなかった。
 油断はできない。ケルベロスたちは、皆、本能的に悟っていた。がーー。
 イーラが素早く身を翻した、そう認識したのは転回を見届けた後。それの四肢が獣のように跳ねていた。
 来る。
 クレアはアームドアーム・デバイスで艦載機に身体を固定させ、組んだ腕で爪を受けた。凄まじい衝撃にクレアが吹き飛ばされる。いや、アームドアーム・デバイスのおかげで吹き飛ばされはしなかったが、艦載機は木の葉のように空を舞った。クレアの意識が一瞬何処かへ飛ぶ。
 クレアの意識がもどったのは、脳内で彼女を呼び戻す声が響いたからだ。誰の声かはわからなかったが。
「ま、まだだ!……あぁっ?」
 クレアが愕然たる声を発した。とてつもないダメージを受けたために、身につけた武術着ビキニが耐えきれず、引きちぎられてしまったのである。
 現れたのは真っ白で瑞々しいクレアの裸身であっあ。が、それを気にしている余裕はクレアにはなかった。
 そして、声。
 それは和の声であった。真なる自由の気風が暴風すらはねのけてクレアを癒やす。
 するとキアリがバスターライフルをかまえた。敵のグラビティを中和し弱体化するエネルギー光弾をイーラに叩き込む。アロンは地獄の瘴気をイーラに浴びせかけた。
「ーーすごいものだな」
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)がふむと頷いた。冷静、というよりも冷徹な彼の視線は先ほどからイーラの動きをスキャンしている。
 でかい図体でありながら、動きはケルベロスよりも速い。が、捉えられぬことはなさそうであった。
 それよりも、やはり威力であった。直撃を食らった場合、下手をすれば真っ二つにされることもあり得るだろう。
 そう判断したヴォルフは脚を跳ね上げた。流星と化したオーラが唸り飛ぶ。が、光流はむなしく流れすぎた。
「その背を切り刻んであげますよ!」
 ラインハルトが猛々しく吼えた。その周囲に展開するのは彼の魔力と血によって生み出された真紅の剣だ。
 イーラがぎらりと睨んだ。刹那である。
 暴風すら切り裂いて複数の鮮血剣が疾った。さすがのイーラも避けえず、真紅の剣風が憤怒竜の背を削っていく。
 引かず、出過ぎず。元の位置取りの儘、恵は思念を凝らした。座標軸固定。
 次の瞬間、イーラの身が爆発した。何が起こったのか、わからない。いや、ケルベロスたちのみわかっていた。恵は思念のみにて標的を爆破することが可能なのだということを。
 その時、爆煙をくぐり抜けるようにクレアは距離を縮めている。
「さあ、思いきりいくよ!」
 風を斬る、バールの音。裸身のまま、軽やかな身のこなしから放たれるエクスカリバールの一撃は衝撃波を生み、憤怒竜の超硬度の鱗を粉砕した。
「見たか、怒れる竜よ。お前が見下した非力な者たちの力を!」
 ウィゼのナイフが閃いた。しぶく鮮血に半顔を朱に染めながら、しかしウィゼは可憐である。
 同じ時、タイミングをはかってシルフィリアスは髪を翻らせていた。
 その髪の束の先端部分には異様なものがあった。牙の生えた口だ。
 牙がイーラを捉えた。瞬間、イーラがぐいとひく。態勢を崩しながら、しかしシルフィリアスはマジカルロッドでイーラを撃った。
 爆発する光。顕現した魔力塊がイーラに激突、幾重にも織り成した魔法陣を展開した後、憤怒竜の身を灼いた。
「まだまだ行くっすよー!」
 シルフィリアスが叫んだ。
 誰一人、怯むこと無く。次々とケルベロスたちは挑みかかった。
 イーラが日本列島に到着するまで、あと十三分。


 イーラの尾がしなった。とてつもない破壊力がケルベロスたちを襲う。
 すぐさま反応した和が治癒を施した。同時にキアリがアイスエイジインパクトで、アロンはソードスラッシュで反撃した。
 おかしな動きはないと判断。ヴォルフは迅雷の刺突を放った。
 残り八分。

 ラインハルトの刃が舞った。魂を喰らう降魔の一撃にイーラの身が震える。
 わずかにタイミングをずらせ、シルフィリアスは稲妻を放った。続けてクレアが叩きつけたエクスカリバールが再びイーラの呪的防護ごと鱗を粉砕する。
 残り五分。

「さすがにきついのう」
 イーラを切り裂いて戻ってきた大鎌を掴み取り、ウィゼは荒い息をついた。
 満身創痍。すでに和の回復だけでは追いつかなくなっていた。
「けれど逃げ出すわけにはいかないぜ」
 ケルベロスの肩は多くの命を担っているから。恵は何者もかわし得ぬ一撃を放った。
 残り三分。


 時はどちらの味方であったか。
 刻一刻とイーラは日本列島に近づきつつあった。が、同時にイーラの体力も確実に削り取られている。イーラの不幸は回復手段をもたぬことにあった。
 時は流れる。掌から砂が零れ落ちるように。そして、その時は訪れた。
 最終攻撃の合図。これでイーラを斃せなければ、代償は数十万という人々の命であった。
「ええい、忌々しい番犬どもめ」
 イーラは吼えた。が、彼とても満身創痍。ケルベロスたちの実力を認めぬわけにはいかなかった。
 だからこそ、斃す。ドラゴンの矜持にかけて。
 のたうつように頭を振って、イーラは猛った。身を返しながら放つ、雷の奔流が如き爪の一閃。
 爆発的な衝撃にクレアは退った。正確には、押し込まれる。
 肉は裂け、骨は砕けていた。内臓もどうなっているかわからない。脳裡を占める激痛を言葉に言い表すのは難しかった。
 が、苦痛の中でクレアは笑んだ。立っていられるなら、きっとまだ戦える。だから、折れない!
「クレアくん!」
 客観的に己がどんな状態かクレアにはわからなかったが、刹那も待たせず、和が癒しを繋げた。一切無限の気がクレアの傷を修復する。
 臀部より狐の尾の如き形状の金色の炎を発生させ、キアリは、その炎の尾をイーラへと絡みつかせた。
 イーラの身を焼くと同時、燃焼を介してイーラの生命力を奪い取る。さらには、その生命力を自身へと還元。
 アロンはイーラに接近した。口に咥えた神器の剣で攻撃する。
 続くのはクレアである。
「さぁ、行くぞ! これが銀鬼の力だぁっ!」
 絶叫とともに、クレアは全裸を叩きつける暴風にさらした。
 次の瞬間、クレアは銀光を放った。それは銀の角であった。咄嗟にイーラはかわそうともがいたが、銀角はそれを許さない。ミサイルのごとくイーラを追尾、その身に突き刺さった。何度も、何度も。ひどく残酷な業であることは確かであった。
 ほっ、とヴォルフは感嘆の息をもらした。見事な追尾攻撃だ。が、追尾攻撃ならヴォルフも負けてはいなかった。
「何処まで逃げてくれますか?」
 ヴォルフは攻撃を放った。イーラがかわす。が、攻撃は軌道を変えイーラを追い詰めた。暗殺者の針のように。
「あと少しじゃ」
 イーラの残り体力か。それとも日本までの距離か。おそらく両方だ。
 鋭く斬り込んだ、ウィゼの手にはナイフ。禍々しいそれは、技巧によって輝く。閃いた斬撃で、ウィゼはさらにイーラの傷を切り裂いて、広げた。しぶく鮮血は風に吹かれて消える。
「ええい、まだか!」
 闘気を解放。空を蹴るように一瞬でイーラに肉薄すると、恵はT&W-M5'キャッツアウェイクの銃口を血まみれの竜身に押しつけた。
 零距離での射撃。これでは逃れようはない。
「一撃をッ! ぶっ放す!」
 もれでるマズルフラッシュが空を灼いた。撃ち込まれた弾丸が内部で爆発、イーラの身もまた爆ぜる。
 がふっ、とイーラが血を吐いた。が、まだイーラは死なない。日本までは、あとわずかであった。
「遠距離では火力が出せない…相手に取り付いてみます」
 叫ぶなり、ラインハルトはイーラに接近。瀬に刺さったままの鮮血剣を足場に、一気にイーラの頭部まで駆け上がった。
「憤怒竜、墜ちるべし!」
 ラインハルトの喰霊刀がたばしった。イーラの首から鮮血が噴く。
 が、まだだ。イーラの虐殺への飛翔は続いている。
 がーー。
 ラインハルトから前方に視線をむけようとしたイーラの目は、カラミティプリンセスを突きつけているシルフィリアスの姿を捉えている。
「おのれ、番犬!」
「これで終わりっす! グリューエンシュトラール!」
 イーラの咆哮と願いを込めたシルフィリアスの絶叫が重なった。
 疾る白光は祈りであったか。撃たれた竜は墜ち、海面に激突して果てた。見届けた恵が銃をジャグり、ホルスターにぶち込む。
 日本まであと十三キロ。戦いは終わった。


「音速世界での戦闘って、言葉はカッコいいですが…ひたすら大変でしたね」
 回収に来たヘリオンのキャビンでラインハルトは重い溜め息を零した。頷いたのはヴォルフである。しばらくの間、戦いは真っ平であった。
 が、和はまだまだ元気なようで。
「やっったー!」
 和が快哉をあげた。
「ドラゴン肉、ゲットだぜ! よーし、帰ったらみんなにこの取れたてのドラゴン肉でステーキを作ってあげるね!」
「ドラゴンはうんざりなのじゃ」
 ウィゼが大袈裟に顔をしかめてみせた。

 一つの戦いの終わり。しかし、それは新たなる戦いの始まりでもある。
 ケルベロスブレイドと竜業合体ドラゴンの決戦は、もうそこまで迫っていた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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