竜業合体ドラゴンの強襲~火炎の散弾

作者:沙羅衝

「いやあ、凄いなあ……」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、自分のタブレット端末を確認しながら自分のヘリオンが格納されている場所へと向かっていた。
 ここは万能戦艦ケルベロスブレイドの内部である。ケルベロスたちが島根県隠岐島上空から竜十字島へと向かおうとした攻性植物残党の拠点「攻性惑星」を追撃した所であった。
「でも、万が一ってこともあるからな」
 絹は構成惑星がバラバラに破壊されて、破片が竜十字島へと降り注いでいる事を確認し、自らのヘリオンに搭乗する。
 キッチンにはバレンタイン用にと仕込んでいた、可愛いらしいチョコレートが並んでいた。
「もう、ええ感じやな。で、これを冷蔵庫に……って、ええ!? ドラゴンやて?」
 絹のタブレットには、大きなドラゴンの姿が映し出されている。それも1匹や2匹ではない。竜業合体したドラゴン達が多数地球に到着したのだ。
 ドラゴンたちは破壊された攻性惑星に向かっているようだった。どうやら彼らもまだグラビティ・チェインが枯渇している状態なのであろう。それを喰らって力を得ようとしているのである。
「とにかく……、うちが慌ててどないすんねん。……よし、これで大丈夫や」
 絹がチョコレートをすべて冷蔵庫に入れ、倒れないように固定させたとき、今度は地響きが起きる。
 といっても、ここはケルベロスブレイドの艦内である。地震などではない。ケルベロスブレイドの砲撃が、目の前のドラゴンを破壊した衝撃がこちらまで伝わったのだ。ドラゴンの一部から攻撃が放たれるが、今度はバリアで防ぐことに成功していた。
 その爆炎から、チラリと人影が見える。
「ジェットパックデバイス!」
 攻性惑星から脱出したケルベロス達だ。すかさずケルベロスブレイドが回収できる位置をとる。時間がない。先ほどの遠距離の砲撃はバリアで防いだが、突進は防ぎきれないだろうからだ。
 続々と回収されていくケルベロスたち。そして、全てのケルベロスの回収が完了した直後に、ケルベロスブレイドはそのドラゴンから距離をとった。
 ケルベロスブレイドとドラゴンとの戦闘は、膠着状態に入っていく。
 長距離での攻撃の打ち合いである。ケルベロスブレイドは一気に突撃される事を警戒して、成層圏に入っていく。
 お互いの攻撃は、回避、防御、相殺といった状況が続いていた。
「これは……、何とかせなあかん状況やな。って、うちらに緊急通信!?」
 アイズフォンから受信した通信内容を即座に理解した絹は、ヘリオンから飛び出し、ケルベロスブレイド内部に走っていったのだった。

「みんな、聞いて! 緊急事態や!!」
 絹には珍しい大声である。おそらくほとんどのケルベロスは、聞いたことが無いくらい大きな声だ。絹は自分の声に反応してくれた何人かのケルベロスに、通信の内容を話す。
「さっきのドラゴンの何体かが、竜十字島から離脱して日本に向かって襲撃をしようとしているらしい!」
 その言葉をとっさに理解できたケルベロスが、悪態をつく。ケルベロスブレイドと膠着状態が続いているが故に、日本の防衛が留守になってしまっているのだ。
「竜十字島から飛び立ったドラゴンは、ヘリオンの速度を超える速度で飛翔できるドラゴン11体っちゅう情報や。
 日本に残ってるヘリオンで迎撃しようとしても、速度的には不可能。そんで、ドラゴンがジェットパックデバイスが届かへん高度から市街地を狙って攻撃してしもたら、他のケルベロスが狙われた都市に先回りして迎撃しても、その都市の壊滅は免れへん!」
 このままでは日本にいる住人達が、ドラゴンに虐殺される可能性が高いという試算である。
「何とかならないのか!」
 一人のケルベロスが絹に詰め寄る。
「一つ、作戦が出てる。めっちゃ危険な任務になるけど、やってほしい」
 すると、絹の懇願を受けたケルベロスたちは、力強く頷いた。
「ありがとう。ホンマ、みんなだけが頼りや。
 えっとや、高速で飛翔するドラゴンから人々を守るには、まずドラゴンを凌駕する速度で飛行できるケルベロスブレイドで追撃する。で、追い付いた所で『小剣型艦載機群』をドラゴンと同じ速度で射出する。
「そうか、同じ速度の足場があれば……」
 絹は頷きながら、自分のヘリオンにケルベロス達を案内すると、ある程度の人数が一緒に来てくれた。絹はその仲間たちの反応に素直に礼を言い、先ほど開けっ放しにした扉をくぐった。
「さっきの話の続きやけど、そういうこっちゃ。等速で動くもの同士は、速度差は関係あらへん。せやけど、その風圧はものすごいことになる。試算では風速800メートルと出てる。その中で戦闘を行うっちゅうことになる」
 とんでもない話だ。超巨大な台風でも、最大瞬間風速は100メートルにも満たないのである。それくらいの超暴風のなかでの戦闘は、全員経験などしたことが無いはずだ。
 少し考え込む仕草をするケルベロスだが、まずは敵の詳細を絹に尋ねた。
「小剣型艦載機群は2メートルくらいの剣や。ケルベロスブレイドに搭載されている武装になる。これを多数打ち出すことになっとるから、何とかそれを足場にして戦うことになる。
 そんでうちらはその11体のうち、『火刑の執行者』サウリールと対峙することになる。向かう先は和歌山県和歌山市。和歌山城には観光のお客さんもおるし、近くにはいろんな施設がある。人はたくさんおる。
 で、肝心の敵なんやけど、サウリールは炎のドラゴンや。その灼熱ともいえる炎が何よりも強くて、強力になる。性格は火のように苛烈。しかもグラビティ・チェインが足りへん状態やから、より狂暴になっとるやろ。燃やし尽くしていくほどに快感を覚えるっちゅう情報もある。
 攻撃の備えとしては、炎の対処がメインとなるやろけど、爪と尻尾の攻撃も当然強いから、気を抜かんようにな」
 そして絹が、それとや……、と付け加える。
「ドラゴンと小剣型艦載機群が日本本土に到達、つまり上陸してしまう時間は……15分になる」
 強力なドラゴン相手に、15分という制限。そして、その戦闘方法も経験したことが無い状況となる。そのことはケルベロスの脳を混乱させた。
「そして、小細工を練っている時間も、あまりない……か」
 一人のケルベロスが、ケルベロスブレイドが加速していくことを感じ取り、自らの武器を確認し始めた。
「もうそろそろ、本格的に加速が開始される。このヘリオンの射出準備もそろそろ開始される。もう、動き始めてる。
 このヘリオンはすぐに置いて行かれるやろけど、みんなの戦闘が終わるころには追い付けると思うから、そん時、また会うで」
 すると絹は冷蔵庫を開け、全員に一口大のチョコレートを一粒ずつ渡した。
「まだたくさんあるで。帰ってきたら、みんなで食べような。とっときのお茶、だすから……頼む」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●音速を超える
『感度はどうでしょう?』
(「大丈夫だ。聞こえる。どうぞ」)
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)の『マインドウィスパー・デバイス』からの通信に、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が骨伝導の携帯トランシーバーで返した。
(「こっちも行けそうだぜ」)
 空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)もまた、骨伝導のインカムで応答する。
 ケルベロスブレイドに設置された『小剣型艦載機群』の射出に合わせて、射出されたヘリオンから飛び降りたケルベロス達は、暴風に煽られながらも大量の足場となるそれに降り立っていた。
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が、ケルベロスチェインで己と足場となる艦載機を結び付け、スパイダーブーツで完全に固定させた。
 ここは地表からは遠い標高にあり、いつもにもまして太陽の光を感じる。そして大気の壁とも言わんばかりの暴風。
「さあー、行きますわー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は、体制を獣が獲物を狙う時のように低く構え、額に上げていた鉄製の覆面とゴーグルを下げた。
「多くの人達が死に絶えてしまう前に、急がないと!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の言葉は、全員の意見でもあった。シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)も頷き、腰をかがめてその速度に体が慣れるのを少し待った。
 そして、小剣型艦載機群が震えだしたと感じた瞬間、今度は前方に吹き飛ばされると思うくらいの減速を感じた。既に音速は超えている。そこから目的の速度まで微調整が行われる。目的はそう、超速度で移動するドラゴンである。
 だが引きはがされそうになる力でも、ケルベロス達の足元は、完全に固定されており、その力に屈することはなかった。
 減速が落ち着いてくる。前方から引っ張られるように感じる重力が落ち着いてくると、速度が無くなったのではないかと感じるが、風圧がそうでは無い事をケルベロス達に伝える。加速、減速が終わる。すなわち、目的の速度に達したという事だ。
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が周囲を確認すると、既に他のチームとドラゴンは見えない。そして、並行するように目の前に現れたのは、巨大なドラゴンだった。
「これまで様々な戦況を経験してきましたし……これぐらいっ!」
 ミリムは小剣型艦載機に対し、両足でバランスを取って立ち上がる。サーフボードのように操り、前後左右上下に動ける事を確認する。そして同じような操り方をしていたシルディとラインを交差させた。
 既に会話はできない。あとは用意した通信手段とハンドサインで伝えていくしかない。
 ギョロリと長いドラゴンの首が動き、炎の様に赤い目をケルベロスに向けた。『火刑の執行者』サウリール。絹の話では、燃やし尽くしていくほどに快感を覚える性格と聞いた。しかし、これから向かう和歌山市でその快感を満たしてやる必要はない。ケルベロス達は武器を構えて、戦闘態勢を取った。

●火炎の散弾
『炎が来ます!』
 レフィナードがそう全員に伝えた時、サウリールの口から炎が周囲に捲かれた。その炎は空中でぐるぐると渦巻き、そして散る。暴風の中ケルベロス達に向かう炎は、まるで散弾の様に彼らに突き刺さった。
(「厄介だな……」)
 ジークリットは己の体に付着した炎を一瞥して、またサウリールに向き合った。
 サウリールの炎は、その性格を反映させたようにしつこく、体にまとわりついていた。
「むい」
 その炎を見て、勇名が爆破スイッチをぽちりと押す。すると、炎を負ったフラッタリー、シルディ、ミリム、マロン、そしてジークリットの背後に爆発が起こり、力を付与する事と共に、付着した炎を吹き飛ばした。だが、それだけではその炎のすべては消えない。それはじわじわとケルベロス達の体力を奪っていくのだ。
 シルディが花びらのオーラで、その炎にすぐ対処して行く事からも、長期戦で不利になっていくからだ。
 ケルベロス達はサウリールと対峙し、すぐに攻撃に入っていっていた。本来ならば強大なドラゴンに対しては、もう少し補助の力を張り巡らせてから攻撃に移っていきたかった。しかし、和歌山市に到達するまでという時間制限がある。その為にはダメージを蓄積させていかなければ、勝機はない。
(「森……」)
 炎を受けた前衛にチェインを張り巡らせながら、マロンはふと眼下に移る山々を見た。サウリールはその森を見て、喉の奥を踊るように鳴らしていたのだ。絹の話から、『燃やし尽くす程に快感を覚えるドラゴン』という情報を聞いた。おそらくは、ケルベロス達の襲撃を受けてもなお、その先に見える快感を頭に描いているのだろう。
 フラッタリーがドラゴニックハンマー『曼荼羅大灯籠』で、ミリムが日本刀『終霊滅絶刀』で同時に斬りつける。だが、その攻撃は空を切る。
 早くダメージを与えたいが、それができないもどかしさが、数分間続いていた。
『焦りますが、焦らずに、手堅くいきましょう』
 レフィナードがチェインをサウリールの首に絡みつかせて、めいっぱい締め上げた。
『出て来て変われ、不足を補え』
 空牙が影分身を鎖鎌に変化させて、その首を抉る。すると、レフィナードのチェインがその傷に食い込んでいき、少しだけだが動きを緩めることに成功した。
 ドラゴンは強い。もちろんケルベロス達も強くはなったが、急いては事を仕損じる。
 ジークリットもまたそれを心得ているようで、空の霊力を帯びた日本刀で正確に首を切りつけた。
 猛スピードで滑空するサウリールとケルベロス。既に日本国内の上空に位置しているが、どこにいるかは判らない。チラチラと映る景色が、焦りを生む。
 首のチェインを嫌ったのか、痛みの為なのか、サウリールが空中でのたうちまわる。まだ体力が全然減っていない。そして、再び炎が口から召喚された。
 ゴウと渦巻く炎が向かう先は、後衛である勇名と空牙だった。散り散りになって、炎が宙で一瞬静止し、二人に襲い掛かった。
(「させないっ!!」)
 二人の目の前にシルディが、そしてマロンが小剣型艦載機を炎の軌道にすべりこませて受けた。戦いの序盤の肝である後衛の二人に万が一があってしまっては、少ない時間で撃破することが困難となる。
 超スピードを維持しながら、燃え上がるシルディとマロン。
『無事か!』
 レフィナードの問いに、ハンドサインで応えるが、受けた炎がさらに二人を焼くのだった。

●火竜のいらだち
 シルディとマロンの傷は、何とか致命傷を免れていた。徐々に回復しつつも、サウリールに傷を与え続ける。今はそれしか方法が無いからだ。短い時間であっても、確実さで攻める。そのうち綻びができてくるはずだ。

「オレの邪魔を、するなあ!!!」
 サウリールが目の前のフラッタリーに、巨大な爪を打ち込んだ。フラッタリーはできるだけ乱気流の影響を受けないような位置取りを取っていた。さらには、敢えて視界に入るように動いていた。
 その動きは、もうすぐ自らの欲が満たされるという想いを持つドラゴンにとっては、邪魔でしかなかった。
 その爪は勇名が施したチェインを破壊し、フラッタリーの腹に突き刺さっていく。サウリールの目が爛々と輝き、その光景を少し満足そうに捉えた。
 ただ、フラッタリーは墜ちなかった。ニィと口角を上げ、聞こえない言葉を発する。
『恨ミ辛三妬mI無苦。唯々渇キ、飢ヱ、欲ス。アァ……ョ!……ヨ!焚ベヨ!!クbEヨ!!焔ニ擲テェ――!!!!』
 その発作的で狂気的な動きが、黒い時刻の爪牙を生み出し、眼前にある巨大な爪を掻きむしる。
「ギャァァァァ!!」
 獣の咆哮はその空圧によってかき消されるが、サウリールにとっては思いもしない痛みだったのであろう。
『10分経過しました!』
 レフィナードが全員に通信をかけ、気咬弾を放つ。あと5分であることを、全員が把握する。即ち、ここで引くことは出来ない。
『陽の輝き、春風の抱擁、力強き草木の芽吹き。あふれるその力で彼のものを癒しを!』
 シルディが光の粒子で、勇名がエネルギーの盾をフラッタリーに施す。二人以外は、全員攻撃する事に舵を切り始めた。出来るだけダメージを与え続ける事。それが事を成す為の最終的な行動なのである。
 幸いにして、これまでのこちらの攻撃の効果は良く働いているようだった。当初よりサウリールの動きが鈍り始めていたからだ。
 それは一つの綻びと呼んで良かったのだろう。そして時間的にも、ここしかない。
(「そんじゃ…その存在狩らせてもらうぜ? 悪いが悪く思うなよ!」)
 空牙が氷結の螺旋を放ち、確実に氷を発生させる。そしてその氷の螺旋が大きく発生したと同時に、ミリムとジークリットが己の武器を叩きつけ、突き刺した。
 何事かを言いながら目の前のマロンに向かって爪を振り回し、暴れまわるサウリールだが、攻撃の精度が悪くなり始めている。マロンはその爪を『ゲシュタルトグレイブさん』の石突の部分でコンと払い、その勢いを利用して右の角を貫いたのだった。

●業火を制して
 既に地表は見えていた。急降下とも思える速度が、数分このまま突き進めば、己と地球が一体となってしまう程の速度だった。
『14分!』
 レフィナードがマインドウィスパー・デバイスで叫ぶ。既に総攻撃を開始していたが、そのドラゴンはまだ墜ちない。
「ゴギャァァァァ!!」
 そしてサウリールは、最大ともいえる咆哮を上げた。三度吐き出される炎。幾度喰らったのだろうか。そうケルベロス達は感じた。この炎の熱量そのものが、このサウリールというドラゴンの存在を肯定するものなのかもしれない。
(「でもよ……!」)
 空牙が最後尾から見る、炎は先ほどのものとは違うことに気が付き、ドラゴニックハンマー『異装旋棍【銃鬼】』を握って、さらに空高く舞い上がった。
(「相手が悪かったってことだぜ!!」)
 サウリールの炎は、ケルベロスに撃ち放たれる瞬間に掻き消えていた。幾度となく与えていたダメージが、サウリールの喉元を襲い、炎を生成しきることができなくなっていたのだ。
 空牙は上空から真下に向けて加速し、一気にサウリールの頭を【銃鬼】の銃身で殴りつける。
 長い首が地に向けて垂直に伸び切ると、そこにはジークリットとレフィナードが待ち構えていた。
『風よ……風の刃にて逆風をも斬り裂き、悪しき竜を打ち倒せ! 烈風!!』
 ジークリットが刀身に集中させたグラビティ・チェインを感じつつ、下段から上段に振り上げると、そこから生じた風が刃となり、首を切り裂いた。
 弾けるように首が暴れる。その暴れる首にも、レフィナードのパイルバンカーがぴたりとゼロ距離に付けた。そして杭を打ち込む。すると、その装甲ともいえる鱗がぼろりと剥がれ落ちていった。
(「さあ! 死して地に堕ちなさい!」)
(「ここが、勝負所だね!」)
 ミリムとシルディが宙で踊るように交錯しあい、集中を開始した。既に小剣型艦載機の操作は、自らの体の一部と思えるくらいとなっていた。
『裂き咲き散れ!』
 ミリムが終霊滅絶刀で牡丹を描く。その描いた先はレフィナードが露わにした皮膚である。そしてシルディもまた、ドラゴニックハンマー『まう』を寸分違わずに力いっぱい打ち込んだ。すると、遂に首からドラゴンの血が噴き出したのである。
 明らかなる致命傷だ。しかし、まだこのドラゴンは終わっていない。
(「最後までっ!」)
 シルディがそう思って下がった時、勇名からミサイルが生成されていた。
『うごくなー、ずどーん』
 勇名の放ったミサイルが、サウリールの翼に着弾する。そのカラフルな火花は酷く統一感が無いが、翼がズタズタになっている。これでサウリールの動きが、ガクリと落ちた。
『奥ゆかしいお菓子さんです!』
 マロンが巨大なドラゴンの直上から、栗饅頭に似た小型爆弾を降らせて爆発させた。この追撃がさらなる追い打ちとなる。
「紅蓮ヲ裂カセyO。空ノ暴君ヲ地ノ底二繋ギ止mEヨ」
 最後にフラッタリーが、その幾度となくみた顔面の前に小剣型艦載機を進めた。前かがみになり、両腕を広げる。凶悪な黒い地獄の爪が満たされる事を求めて震えて伸びた。
 一振り。そして二振り。腕を振るうと、そのたびに角、牙、うろこが飛び散っていく。しかし、フラッタリーはその手を休める事はない。全てをはぎ取りきるその時まで。
「グ……アぁ……」
 そして終には、サウリールの目の光が途絶え、空中でバラバラに分解されるように消えていったのだった。

 小剣型艦載機の速度が徐々に落ちていった。任務は成功したのだ。
 気が付くと、少し小高い山の上に城が見えていた。和歌山城である。
 暫くすると、絹のヘリオンも見えてくるはずだ。
「なんとか……なった、ね」
 えへへと笑うシルディに。んうーと勇名が伸びをして答え、ミリムがほっとした顔を向けた。
 小剣型艦載機から和歌山市内の人々が見えた。あのドラゴンをここに到達させなくてよかったと心から思う。
「凱旋という感じではありませんがー。良かったのではー、ないでしょうかー」
 フラッタリーがいうと、空牙は和歌山市上空を旋回する小剣型艦載機に、バタリと寝ころんだ。
「絹さんのヘリオンが見えてきましたね」
 数刻が経過したころにマロンがそういうと、レフィナードも頷いた。
「さあ、とっておきのお茶と、チョコレートのおかわりだな」
 ジークリットはそう言って、出発の際にもらったチョコレートを口に入れた。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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