●竜墜とす『艦(ブレイド)』
羽撃き、誘うは――『星』すら見下ろす天の涯て。
蒼帯びる黒揚羽の翅は、縋るように、片身たるヘリオンと共に見守るしかなかった。
万能戦艦ケルベロスブレイド主砲と多くのケルベロス達が迸らせた勇壮たる一斉砲火に包まれ、バラバラに破壊された攻性惑星はゆっくりと崩落を開始する。
しかし作戦成功を喜び合う暇すら与えず現れたのは、多数の竜。
遂に、竜業合体したドラゴン達が地球への到達を果たしてしまったのだ。
ドラゴン達は、しかし、惑星から脱出中のケルベロスや戦艦には眼もくれずまっしぐらに攻性惑星へと殺到し始めてゆく。
先に予測されていたように光速を超えての移動を終えたばかりの彼らは枯渇状態にあり、星の残骸を喰らう事で力の回復を試みようとしているのだろう。
しかしケルベロスブレイドがそんな隙を見逃す筈もなく。
主砲たる衝角が再び雷轟を撃ち放てば、瞬く間に天の戦列には大穴が穿たれる。
その威力は決して放置できぬものであると身を以って知らされた生き残りのドラゴンらの対応は速く、すぐさま反撃のブレスが浴びせられた。が。
艦中央部から展開された魔導障壁の前にその全てが分解し無効化されてゆく――。
高き天を舞台にして始まった壮大なる攻防の出だしはケルベロスの圧倒的優位。
俄かに乱れる大気、巻き起こる爆風。
それらはすべて攻性惑星からの離脱を果たしたケルベロス達にとっては逆に有利に働き、全回収はすみやかには完了を果たした。
――しかし、重力子は告げる。
艦を守る分解式魔導障壁の弱点……近接ダメージの無効化は出来ない事を見抜かれぬ為にはひたすら大きく距離を保ち続けるしか無い。
防衛態勢を構築するドラゴンの大群を相手にこれ以上の有効打を加えることはかなわず、戦況はほどなく膠着状態を迎えるだろう事を。
そして。
その後にドラゴンが採るであろう乾坤一擲の策を――。
「なれど、それを見過ごす訳には参りません。
私達は、識っています。コードネーム「デウスエクス・ドラゴニア」――『貴女』のその深き同胞愛は蒼きこの星に生きる多くの定命を死へと至らしめるのだと」
艦上へ展開するヘリオンとネイ・クレプシドラ(琅刻のヘリオライダー・en0316)の黒瞳がこの時見据えたものは……。
これより未来(さき)、討つべき深淵湛えた蒼き星竜。
●舞い降りし『海(マザー)』
「ケルベロスの皆さん! 竜業合体ドラゴンの一部が戦場から離脱して地上へ……日本列島へと向かおうとしています!!」
喉が張り裂けんばかりに大声あげて。
少女はヘリオライダーとして新たなる危機の到来を伝え始める。
竜十字島を離れたドラゴンは全部で11体。いずれも超高速での飛翔を可能とする強敵でその速度はヘリオンを遥かに凌駕する。
ドラゴンらは『ジェットパックデバイス』での限界高度をすでに見切っており、到達できない高度から市街地に対して範囲攻撃を行い、グラビティチェインを収奪しようとしているのだ。
地上からケルベロスが迎撃したとしても都市全てを守る事は不可能だろうし、ヘリオンで駆けつけようとしても敵ドラゴンはその数倍の速度で別の都市へと飛翔してしまう為、戦闘に持ち込む事すらできぬまま被害は拡大する一方となるだろう。
「……ですが幸い、この状況を打破する為の手段を皆さんはすでに手にしています!
万能戦艦ケルベロスブレイドと、磨羯宮の『剣』です!!」
予測された敵飛行速度時速3千kmに対し最高時速5万kmを誇る番犬達の艦で追撃し、追いついたところで『小剣型艦載機群』をドラゴンと同じ速度で射出。
全長2mのこの『小剣』を足場にして並走しながらドラゴンと空中戦を行い、市街地へと達する前に撃破するのである。
「ただし母艦とは異なりこの状態での『小剣』での大気圏内飛翔は、常に風速800m以上の暴風雨に曝され続けることとなります。残された時間は限られておりしかも敵は本星からのドラゴン。それでも……と、言って下さる方は直ちに私達のもとへお集まり下さい!」
ねがい託すため、差し出されたのはか細き指先。
ネイの呼びかけに応えたケルベロス達が向かう戦場は四国。
殺戮の標的に『高知県高知市』を選んで天駆したドラゴン、『ディープ・シー』に対して土佐湾上空から追撃を仕掛け、その上陸を食い止める作戦となる。
「種族の為ならば自己犠牲すら厭わない、母性溢れる気性という事になるのでしょう。とはいえ弱肉強食の最たるドラゴニア本星でそれを貫き通し、戦乱を生き抜いて来たのですから決して侮ってはならない強敵です」
刹那、伏した睫毛を揺らして。
ネイは判明済みの敵データの全てを速やかにケルベロス達へと伝え終える。
「残念ながら私達の羽ではこれ以降始まる高速戦闘についてはゆけません……ですが私達も必ずや追い付き、かのドラゴンを倒し終えた皆さんをお迎えに馳せ参じましょう。
さあ、今こそ――『ヘリオライトよ、光を』っ!!」
参加者 | |
---|---|
大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027) |
草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295) |
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320) |
アンジェリカ・ディマンシュ(ケルベロスブレイド命名者・e86610) |
●
音速を遥かに超えて天翔ける竜へと射出されたのは無数の小剣。
追い縋るそれらは何処かグラディウスを思わせたがそれ自体は兵器に非ず。
本土へと到達し都市を呑み干さんとする『ディープ・シー』という大津波を止める力は、連なり飛ぶ機剣の上を往くケルベロス達をおいて他に存在しない。
魔力に仄光る護盾を押し立てて大きく跳ねたイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は視界すら塗り潰す風雨すらも物ともせず。
武骨な強化ゴーグルに守り覆われた緋の視線の先は、流麗たる曲線を描く蒼。
「おあいにくさま、ディープ・シー。絶対逃がさないから!」
彼我の相対速度はすでにゼロ。
猛り狂う風景ばかりが刻限もろとも刻々と押し流されてゆく狭間、刹那、眼を瞠ったかのような揺らぐ湖水の如き竜瞳。
しかし小剣型の艦載機群を振り切るのは無理と素早く判断するやその色は戦意に染まり、ドラゴンの翼が大きくはためいて空を打つ。
「前列、来るでありますっ!」
咄嗟にクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)の口から発せられた警告は、しかし、暴風圏の只中では魂分けたテレビウム以外に全く届かない。
念話やハンドサインの取り決め等の連絡手段を持たない一行が互いに遣り取りを交わす事は以降ずっと困難を極めたままであった。
傷つき破れた翼膜から放たれた蒼の衝撃波は、それ自体が新たな嵐の起こり。
暴威の一薙ぎに対してボクスドラゴン、テレビウム、そしてヴァルキュリアが居揃うディフェンダーらを中心に耐え凌ぐ。
クリームヒルトは防御姿勢からよどみなく癒術を発動、軋むビフレストの篭手から散布された紙兵が俄かに激しさ増す乱気流を掻い潜りヒールと耐BSの加護とを施してゆく。
そしてフリズスキャールヴの画面部から流れる応援動画がクリームヒルトを魂から奮いたたせてくれた。
「さすがメディックのデバイスだね。すっごいパワーアップ!」
テイカカズラの花弁は捻れ乱れ、されど嵐にも花開く。
無邪気な笑顔咲かせた大弓・言葉(花冠に棘・e00431)のパズルから飛び立ったのは蝶々。
羽ばたきが草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295)へと運んだ祝福は、癒しと浄化と覚醒である。
「味方のみんなを倒れさせないためにぶーちゃんもずっと回復おねがいね!」
言葉のサーヴァントであるぶーちゃんからも追って属性インストールが重ねられる。
ぽってりと大きなクマンバチを思わせて愛らしい『彼』は、ぷるぷる、必死に恐怖を堪える仕草を見せてはいたがお願いを叶えるため防御や回復に励んでくれる頑張り屋なドラゴンさんだ。
「どんなに敵が追い詰められたと感じても、私達ケルベロスの闘いは常に瀬戸際。
でも……!」
数々の援護を背に、鮮やかに、降魔の串刺しフロントハイキックを決めたひかり。
(「でも、だからこそ燃える……! ってのは、やっぱ私はバトルジャンキーかな?」)
「ドラゴンって、いっぱい集まっても強いからって少数で行動しちゃうのはけっきょく変わらないんだね」
どれほど強大だろうと浮き駒が相手ならば少しずつ……とは今回の場合は時間が許さないだろうが……確実に弱らせたのちきっと仕留めてみせると可憐に笑うイズナの『紅蝶(カルディナルロート)』はふわりと嵐を泳ぐ。
託されたその指先から真紅の花は咲き零れ、紅艶の蝶が嵐中へと今飛びたつ。
「この戦い、負けられませんわ!」
世界中の人々とケルベロスの祈り込めた『SETUBUN』によって創出された、万能戦艦ケルベロスブレイド。
いきなりの実戦投入という慌ただしい船出とはなったが人類を守る刃とならんという願いにはいかにも相応しい。
アンジェリカ・ディマンシュ(ケルベロスブレイド命名者・e86610)の薄い胸は奥底から昂ぶるばかりだ。
地面よりは遙かに不安定な剣の感触を確かめるように、強く、踏みしめた後。
陣なす聖蹟を流星の煌めきへと変えた少女のスターゲイザーは惜しくも躱される。
一方、竜と剣の飛行についてゆけないドローンは実体化した次の瞬間にはもう遠く置き去りとなっていたがそんな程度で服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)の果敢が挫かれよう筈も無い。
「ぬぁあああああああーーーっ!!」
小剣から小剣を力強く八艘飛びし、輝きを宿し始めた拳をぶん廻して渾身の初撃を叩き込んだがこれもまた呆気なく回避される。
黒翼のオラトリオが今挑む敵は衰えてなお遙か格上、抜群の回避機動を誇るドラゴンだ。
癒し手としての備えのみからの素殴りが通用する相手ではなかった。
「こっちをむけえええええーーーっ!!」
だが、その闘志は折れずそしてただ無為には終わらない。
天に轟くその絶叫と重ねられた攻勢は強大な竜の注意を幾許かそちらへと向けさせて。
そして。
「偉大なる我らが聖譚の王女よ、その恵みをもって我を救い給え、彼の者を救い給え、全てを救い給え……!」
暴風雨など存在しないかの風情でにこやかに微笑湛え続けていた朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)の形相が一変する。
聖王女エロヒムへの狂信を糧に、深く深く。
内なる混沌は激痛とともに昴の全身を侵食を拡げ……。
奔る激痛と恍惚とに心身を浸した彼女は、かの穢らわしきアンジェローゼに与せんとした邪竜の片肢を『恩寵の信蝕(エローディング・グレイス)』の磔刑を以って責め穿つ。
そんな、ある種異様な光景に対しキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は不思議と何処か共感めいた感慨すら覚える。
彼は別に聖王女信者では無いし普段は秘め続けてはいるが、反竜の苛烈さにおいての熱量はさほど相違ない。
ジャマーより創られし星辰の柱は後列5名へあまさず幾重もの加護を与えてくれた。
――さぁこれより先は竜の母たるこの蒼を毀し凍らせ壊せるばかり。
血錆び黒ずんだ鉄梃からじわり滲み出す、地獄。
「これ以上地球に降ろしはしない。一匹、一片たりとも……」
無窮たる衝動きざす空の眼差しは、傷知らぬ防護のグラスの奥へとしずめられたまま。
●
吹き荒れる空の下、その漣の音は確かにケルベロスの耳へと届いた。
儚くも清き光をたゆらせながら押し寄せる――『光漣・茫』。
耐性の合致が味方し、護り手たるクリームヒルトは半ばを引き受ける防波堤と化す。
「相手は強敵でありますが、しっかり皆様を護りきって勝利するであります!」
「よくぞ参った! と言いたいところじゃが、一目散といった有り様じゃのう」
からりと竜母の浅ましさを一笑に付し無明丸はメディック本来の役割へと戻る。
共に回復を担う仲間への声掛けが阻まれるのならば阻まれぬ距離まで近付けば良い。
彼女はごく単純に、ほぼ肩触れ合う程にまで言葉との距離を詰めるという物理的解決法を実行に移していた。
前列には彼女が揺らめく極光の幕を、言葉は後列を引き受けメタリックバーストを。
ぶーちゃん謹製インストールはここまでBS耐性が付与されていないクリームヒルトへと注がれる。
主の回復を感知したフリズスキャールヴは応援動画で自らをキュア回復し、ヒール分担はスムーズかつトントン拍子に効率化が図られる。
戮殺にと飛び立つ翼の飛行速度を勘案すれば、キソラの故郷は目と鼻の先も同然。
(「……ぜってぇにココで止める。殺す。逃がさない」)
轟と振り下ろされた『お気に入り』は同族の為にと竜自身が刻んだであろう古傷を容赦なく抉り、硬きその竜鱗すらも砕き割る。
剥き出しの肉めがけてすかさずスターゲイザーを浴びせたのは昴とひかり、ほぼ同時。
真摯に教義を求道した結果としてのセクシィ衣装に身を包む昴の褐色肌と、興行として……以上に、私生活の充実を反映し艶好く完熟を増すばかりの肢体を包む、お馴染みダイナマイトなゼブラストライプの競演。
「断罪の時来たれり、万魔とその軍勢を率いる悪徳の王を倒す為に我と誓約せし者よ――」
命中精度を高まるアンジェリカが朗々と諳んじたのは『滅びも穢れもなく万魔を絶つ神鳴の魔剣(アームドレゾナンス・ティルフィング)』発動の為の詠唱。
音響魔法陣より放出された斬閃は、荒れ狂う大気もろともに竜の片翼を貫く。
「万能戦艦に名を与えた者として、世界とケルベロスブレイドに恥じぬ戦いを!」
輝ける竜鱗からは無数の水泡が沸き立ちその全身が俄かに綺羅星の光彩を帯びる。
ヒールグラビティが初使用されたとはいえ星竜はいまだ悠然。
残体力に危機感を抱いたというよりは術力強化が狙いなのだろう。
ダメージとヒールの更なるクリティカル率上昇は脅威ではあるが、一方で、ケルベロスにとっても立て直す好機の到来。
「くっ、一刻も早く術アップ効果をブレイクしたいところですが……」
焦るアンジェリカ自身にブレイクの活性は無く。
「わはははははははっ! まっこと残念じゃがこちらはまだまだヒールで手一杯じゃ!」
早く殴りに突っ込んでいきたくてウズウズしている本心を隠そうともしない無明丸だとて戦況バランスを推し測ってのガマンの真っ最中。
ブレイク可能なのはともに前衛を担うひかりとぶーちゃん、そしてメディック2名であるが後者3名は現在、治癒が最優先。
「あと数分、ううん数十%ってトコロかな」
そして、ひかりの眼力はまだグラビティブレイクを振るう準備が充分には整っていないと弾き出していた。
唯一のクラッシャーである己の無駄打ちこそがこの短期決戦下で最も避けるべき事態と肝に銘じながら闘うひかりは機を見定め……その2分後に有言実行を果たすのであった。
死闘は続き、時計が7分経過を告げた頃には此処まで奮戦を続けた2体のサーヴァント達が相次いで脱落。
デバイスに増強された体力で持ち堪えるクリームヒルトのみが盾として前線支えるも、敵は後列を狙い定めてゆく。
うねり渦巻く蒼から降り注いだ霹靂は、真っ直ぐに、アンジェリカを襲う。
衝撃のあまり超音速の空へと吹き飛んだ華奢な躰は続けざま浴びせられた容赦無い再攻撃の前に力尽き――。
「アンジェリカ……ッ!」
小剣型艦載機の縁から滑り落ちるようにして、遙か眼下、海原めがけて彼女の姿は小さく遠ざかっていった。
無論どれほど高空から墜落しようとケルベロスである彼女がグラビティ以外のダメージを負う事は決して無い。
身動き取れぬ重傷状態のまま戦場の剣が峰に留まらせ続けるより、多少強引にでも速やかに離脱させた方がアンジェリカの身の安全はずっと保証されている。
●
されどよく連携し、耐え凌いだケルベロス達はやがてこの劣勢すら跳ね返す。
その決め手となったのはキソラが降ろした星光すらも凍てつかせる薄闇へと重ね、イズナが奔らせた氷滴したたる樹槍によるジグザグスラッシュだ。
「えへ☆ ……もう逃げられないからね」
氷ダメージの増大のみならず敵機動の飛躍的な低下を招いたこの一撃が、戦いの天秤を、完全にケルベロスの側へと傾けたのだ。
そして時計が残り4分を告げたタイミングに合わせ、舞台は整ったとばかりひかりが自身最大の必殺技『アテナ・パニッシャー』を解禁する。
「まだそんなに老け込んでないよ! オバサン、アンタと違ってね!」
『……その輝きもまた定命に有るかぎり儚き泡沫に過ぎません。せめても未来照らす永遠とお為りなさい』
長大な竜の首筋へと潜り込んで組み付いた体勢から、初めて発生した会話。
言葉遣いこそ穏やかで丁重だが要するに今ここでぶっ殺してやるからさっさとグラビティチェインを寄越せという宣告に過ぎず。負けじと燃え上がる闘志。
刻限まで後僅かと警告する振動が幾つもの時計から同時に発せられ始める。
眼前の巨敵を討つ。その目標自体はほどなく達せられる点はもはや疑い無い。
だが――その戦果は戦いの場が海上で収まるうちにもぎ取らねばケルベロスにとって勝利とは呼べないのだ。
「囚われろ、禍檻ノ棘雨へと……」
竜の亡びを望むキソラの念はその周囲に吹き荒れる暴風雨にすら伝播し、母たる大いなる蒼海は、癒しの星泡届かぬ禍の檻へと没する。
終極近付く闘争を前に、遂にはメディックすらも治癒役をかなぐり捨て攻撃にと加わる。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
「はるばる宇宙を渡ってきた苦労を考えるとちょっと気の毒だけど……かといってやっぱり手加減なんてできないから倒されてね!」
無明丸が時空凍結弾を撃ち放ち、言葉はその獄腕からブレイズクラッシュを解き放つ。
深淵なる『慈愛』の底に、只の一つたりとて人命呑ませはしないと番犬達は吼え猛り、
そして。
『嗚呼……枯渇さえ癒やしてあげられれば……竜業果たした若く強き仔らの勝利は揺るがぬ筈でしたのに』
「アンタのその勘違いした血塗れの母性、天に舞い戻った女神の“断罪の斧”が今ここで断ち切ってあげるわっ!!」
竜救わんとする星海の慈母と、人守らんとする地獄の番犬と。
これほどに肉薄しその力と力を戦わせようとも、永遠の漸近線。決して交わる事は無い。
いまや古傷よりも広く体表を覆い尽くすに至った蒼氷からは、はらりはらり、無数の欠片を振り撒いて。
地球が誇る『絶対女帝』が豪快なラリアットからフィニッシュを叩きつけた先は、高知を遠く臨む土佐湾の大海原。
●
かくて討伐完了の後、急減速を開始した小剣型艦載機はケルベロス達を乗せたまま四国・桂浜へと着陸する。
そのまま数十分、一行は無事アンジェリカを回収したヘリオンとの合流を待った。
「竜退治の出迎えが龍馬像だなんて気が利いてるね♪」
「……そっかぁ? つーか、本隊ドラゴンの大部分はまだ竜十字島だからなァ……」
観光名所を無邪気に指差すイズナにへらりと応じつつ。
細められたキソラの眼は既に、次なる竜との戦場へと向けられていた。
(「だがアイツらもすぐにまた滅ぼしてやる。これ以上何も呉れてやるつもりは無い」)
「聖なるかな、聖なるかな」
新年以降、その狂信に拍車かかった昴にとって。
事もあろうに『聖王女』を名乗る攻性植物残党は赦し難き罪人達。
攻性惑星の撃墜後は竜十字島へ逃れたらしいアンジェローゼだが何らかの重要な秘密を握る可能性も高い……などという理性的な判断など現在の昴にはちらとも浮かばぬ。
最大級の冒涜には、聖名のもとに最大級に惨たらしき死あるのみである。
「聖なるかな、聖なるかな。聖王女よ、時空の調停者よ……」
敬虔なる昴の祈りは、透みわたる讃美の歌声にのせて海を満たしてゆく。
混沌の淵に波立つ波紋は――ただ、漣々と。
作者:銀條彦 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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