●ザイフリート、罠にかかる
東京焦土地帯――旧八王子市の近郊、八王子市郊外の多摩ニュータウン。
その市街地に魔空回廊が開いた。渦を巻くそれを通って現れたのは16体のヴァルキュリアと、そのヴァルキュリア達を率いるシャイターン。
「さぁ、行くがいい、ヴァルキュリアどもよ」
シャイターンは命じる。この周辺にいる者達を虐殺してこいと。
ヴァルキュリア達はその命に従うべく淡々と動き始めた。
しかし、ヴァルキュリア達の前に現れたものがひとり。
黒い星霊甲冑を纏う、エインヘリアルの第一王子ザイフリートだ。
「予知に従い来てみれば……。心優しきヴァルキュリアを操り、意に沿わぬ虐殺を行わせようとは許せぬ」
ザイフリートは一歩踏み出した。それと同時に、周囲のヴァルキュリア達はザイフリートへ反射的に飛び掛かる。
だがザイフリートはヴァルキュリア達の攻撃をすべて避けてみせた。右からの攻撃を身を回転し避け、続く左からの攻撃は槍でいなす。向けられた全ての攻撃を華麗に回避し、ザイフリートはシャイターンへと肉薄した。
シャイターンの間近で振り上げた槍、その一撃は怒りの表れだったのだろう。ザイフリートの一撃でシャイターンは果て、その身はコギトエルゴスムとなり地に落ちた。
すると、周囲にいたヴァルキュリア達の動きが止まる。今まで淡々と動いていたヴァルキュリア達は戸惑い隠さず混乱し、騒ぎ始めた。
そこをザイフリートは一喝する。
「静まれ!!」
響く一声にヴァルキュリア達は身を震わせた。ザイフリートはヴァルキュリア達へと落ち着くのだと声をかけてゆく。
するとヴァルキュリア達の表情に生気が通い始める。
施されていた洗脳が解けたのだ。
「ザイフリート様……!」
「ザイフリート様よ!」
洗脳の解けたヴァルキュリア達はザイフリートの前によくぞご無事でと跪く。その様子をザイフリートは見止め、鷹揚に頷き言葉を紡ぐ。
「お前達には苦労をかけた、だが、このままイグニスの好きにはさせぬ」
そう言い切った瞬間だった。
ザイフリートの周囲で渦巻く空間。いくつもの魔空回廊が開き、シャイターンが次々と出現する。そのうちの一人が嘲るようにザイフリートに視線を投げた。
「まんまと誘き出されたな、ザイフリート。お前のコギトエルゴスムを、イグニス王子に捧げさせて貰おう」
そう宣言し、一足で距離詰め襲い掛かる。ザイフリートへ一撃浴びせながらそのシャイターンは他のシャイターン達へと視線を向けた。
「邪魔なヴァルキュリアどもは、お前達が排除せよ。我らは、ザイフリートの首を取る」
シャイターン達は二手に分かれる。一方はヴァルキュリア達とザイフリートの合流を阻むように動き、残りのシャイターンはザイフリートを囲みゆく。
四方から向けられる攻撃に、ザイフリートは歯噛みした。
「うぬぅ、やはり罠であったか。だが、私はエインヘリアルの第一王子ザイフリート。お前達、イグニスの暗殺部隊風情にやられる訳にはいかぬ!」
ヴァルキュリア達がザイフリート様、と声を上げるがその響きは遠い。
ザイフリートは一人、15人のシャイターン達と対することになる。
●予知
予知の話をしますと、集まったケルベロス達へと夜浪・イチ(サキュバスのヘリオライダー・en0047)は口を開いた。その様子はいつもより固い。
戦場ヶ原・将(フューチャライザージェネ・e00743)さん達が危惧していたように、潜伏中だったエインヘリアルの第一王子、ザイフリートに暗殺者が派遣されたようだ、と。
「暗殺者を派遣したのは、ザイフリート王子に代わる地球侵略の司令官だと思うんだけど、これだけじゃなくて」
この事件以外にも、八王子市の東京焦土地帯を中心として、ヴァルキュリアによる襲撃事件が多数察知されている。
新たな司令官はザイフリート王子よりも、よほど好戦的で恐ろしい敵かもしれないとイチは続けた。
「で、暗殺部隊に襲撃されたザイフリート王子はコギトエルゴスムになっちゃうんだよね、このままだと」
つまり、ザイフリートの敗北となり、討ち取られてしまうということ。
しかし、これで話は終わらないのだ。
「ザイフリート王子を襲ったデウスエクスはヴァルキュリア達もそのまま討ち取る」
けれど、そこで帰っていくかどうかと言えばそうではないのだ。
イチはその先には防がなければいけない未来があるという。
「一部のデウスエクスはそのまま多摩ニュータウンの住民の虐殺を行う」
それはケルベロスとしては何としても防がないといけないことと続け、襲撃者であるデウスエクスについてイチは触れる。
ザイフリートに送られるデウスエクス、それはシャイターンという。
シャイターンは『タールの翼』と『濁った目』を持つ、『炎』と『略奪』を司る妖精8種族だとイチは説明する。
「ザイフリート王子の戦いを放置するなら、現れたシャイターンの半数が多摩ニュータウンに攻め寄せてくるからそれを迎え撃つ事になるよ」
しかし、ザイフリートとシャイターンの戦いに介入した場合は、より効率的にシャイターンを撃破する事もできる。
「うまくすれば、ザイフリート王子の命を救うこともできるかもしれない。まぁ、救出する義理は無いんだけど……助けたいって思う人は結構いそう、かな」
鎌倉でのことを思えば、助けないことももちろんできる。しかし、助けることによってメリットが生まれる可能性もあるのだ。
うまくやれば、これは情報を得るチャンスにもなるはずとイチは続けた。
「暗殺者を送られた元司令官の第一王子を確保すれば、エインヘリアルに関する重要な情報を得られるとも、思うんだよね」
最終的にどういった作戦をとるかは、もちろんケルベロスさん達の判断に任せる。けれど、多摩ニュータウンの被害を減らせるように作戦を考えて欲しいとイチは戦力についての説明すると続けた。
戦いを行っている陣営は二つ。
まず第一王子ザイフリートとその配下であるヴァルキュリア16体。
現れるシャイターンは全部で30体だが半数ずつに分かれている。ザイフリートを囲む暗殺部隊15体、その他のシャイターン部隊15体だ。
そこへ向かうケルベロスは5チーム、40人となる。
「シャイターンの暗殺部隊は精鋭揃いだけどザイフリート王子が倒れた時点で撤退する。けど、その他のシャイターン部隊はヴァルキュリアをすべて討ち取るまでは戦い続けて、撃破後は多摩ニュータウンに向かっていくんだ」
そのあとは先に示した通りに虐殺が行われるだけだ。
そして、ザイフリートとの間を阻むシャイターン部隊を相手取るヴァルキュリア達は本来の力を発揮できない。それは洗脳が解除された直後で、かなり弱っているからだ。どのくらいの力かといえば、とイチは少し考えて。
「……ケルベロスさん達が一対一で戦っても、倒せるー……かもしれないくらい」
あくまで、かもしれない程度だと言うが、今までのことを考えるとそれは相当な弱体化だ。
状況は圧倒的にザイフリート達に不利なものとなっている。
新たな敵、妖精8種族のシャイターン。その能力は未知数。
そして、新たな――エインヘリアルの王子の存在。
「ザイフリート王子は、鎌倉で派手にやってくれちゃったけど、新しい指揮官よりは、うん。まともだと思うんだよね」
何にせよ、このまま放っておくよりも介入を行うことによって何かこちらに巡ってくる事もあるかもしれない。
「俺はできるかぎりの予知をしたから――ケルベロスさん達」
皆の思うままに、動いてきて欲しいと――信じているから託すよと笑って、紡いだ。
参加者 | |
---|---|
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347) |
ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822) |
リーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926) |
エピ・バラード(安全第一・e01793) |
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887) |
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093) |
燈家・陽葉(陽光色の詠使い・e02459) |
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
●ザイフリートとの距離
ケルベロス達は二つに分かれた。ザイフリート王子のもとへ向かう者達とヴァルキュリアのものへ向かう者達と。
ザイフリートのもとに向かったケルベロス達はシャイターン達に囲まれている姿を目にする。
「ザイフリート王子生きてたんだね、一度戦った相手を助ける事になるなんて人生わからないね」
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)はその様を見て呟く。けれど今日は、鎌倉の時とは違う。敵ではなく、共闘できれば最善だ。
その一方的にやられている様子に思わずと言ったところか、飛び出した影が二つ。
「……オルタナティヴ!」
白い狼のウェアライダーはシャイターンの一人に冷たき拳を叩き込み、黒髪の男が抜き放った刀を振るい攻撃を仕掛けた。
ザイフリートへと気を向けていたシャイターン達は突然の闖入者に攻撃の手が緩む。
ケルベロスの介入によってシャイターン達は分かれた。こちらへ向かってくる者達と、ザイフリートを囲む者達に。
罠の懸念がありつつも部下の為、渦中に飛び込む心意気を持っていたザイフリートだからこそ今この状況がある。
その心意気を天晴とガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)は思っていた。
しかし過信は己が身を滅ぼす。
(「臣下の身を案ずるならば、動かず耐える事も王の器には必要な事であろう」)
ニヤリと口元を歪め、ガイストは一人戦っているその姿に感心していた。
「一人であの数を相手にするか」
「あそこに割って入るのが先だね」
青い瞳で、星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)はザイフリート近くにいる者達の姿を捕える。
すでに別の隊もシャイターンを引き受ける流れとなっていた。こちらに向かってくるシャイターンもいるがそれらの攻撃を受け流しつつ、その包囲を割って、入りこむ。
「シャイターンに討たせるのは、嫌だね。何とか、守りたい、な」
そう零してリーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)はファミリアロッドの先より炎弾を放った。
続けて、その場を跳ねる弾丸がシャイターンを捕える。それは葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)が放ったものだ。
ザイフリートに対して思う事はあるけれど、今は優先すべき事がある。
包囲が崩れたその隙にセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は星辰宿す長剣でもってシャイターンの一人に達人の域まで高めた一撃を叩き込んだ。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
高らかと響く、騎士の名乗り。セレナが開けた穴をきっかけに、シャイターン達とザイフリートを引きはがす。
ザイフリートへと、説得の言葉を自分たちで届けに行く余裕は――無い。
「任せますっ!」
短く整えられた赤髪に奇抜な服装、機械の四肢持つエピ・バラード(安全第一・e01793)は間を抜けてザイフリートへ向かう者達へ思い託す。
「そっちは頼んだぜ」
ぶっきらぼうにだが一言、応えて傍を走り抜けてゆく者。
過ぎ行くその姿を燈家・陽葉(陽光色の詠使い・e02459)は瞳の端に映していた。
本来は助ける義理なんてないのだろうけれど――そう、陽葉の心の内にはあった。けれども。
「助けたいと思ったから助ける、それで十分でしょう?」
そう紡ぎながら陽葉は弓に矢を番える事なく、弦に触れる。
「響け、払暁の音色!」
鳴弦――陽葉が行い響かせた音は聞いた者に退魔の力を与える。
ザイフリートを説得する間、相手にするシャイターンの人数は8体。精鋭揃いの部隊、苦しい戦いとなるのは必至だった。
●防戦
シャイターン8体。それは遠慮無しに攻撃を仕掛けてきた。彼らの攻撃は容赦なく、苛烈なものだ。確実に力量が上の者達との戦い。
割って入ったと同時に、互いの攻撃が交差する。
皆で同じ敵を狙うものの、守りの堅い敵が庇いに入り思うように届かない。
(「エインヘリアルを見ていると何かを思い出しそうな、そんな気が……」)
一瞬、そんな思いよぎるが今は戦いに集中しなければとセレナは眼前へ意識向け、振り下ろされた攻撃を長剣でいなす。
そして踏み込みつつ行う高速演算。それで割り出した弱点へ痛烈な一撃を見舞う。
「昨日の敵は今日の友、ザイフリート様を助けますっ!」
エピは助けることができると、そう信じている。その心は魔法となり、敵に向けられる大きな一撃となる。踏み込んで放つその一瞬に帽子の飾り羽根が揺れる。
続けてチャンネルが顔から閃光放ち敵を煽る。だが敵の前列は半数以上いるようでその効きは悪い様子。
灼熱の炎塊を敵が放つ。その業火をガイストは正面から受けた。その熱さを耐えてガイストは眼前の敵を睨みつける。
「我らは地球へ害をなさぬ者には拳振るわぬが……汝らはそういかぬようだな」
そのガイストの身を、即座に御業が包みこみ鎧となる。それは後方からのユルの支援だ。
(「エインヘリアルと言う種族全てが強硬派である必要はないと思うんだ」)
ザイフリートやヴァルキュリア達との交渉が例え決裂したとしても、手加減して命を取るという決断はしないだろう。
しかし、この目の前の敵は放って置けないものだとユルもまた感じていた。
攻撃に長ける者達が続けて放つのは砂の嵐。幻覚作用もたらすものが襲い掛かる。
前列にいたエピ、セレナ、ガイスト達はそれに巻き込まれる。そしてそれは一人からでなく続けて別の敵からも。
そして放たれた炎弾は次にリーズグリースにも向く。
攻撃を受けているばかりではなく、唯奈は両手のリボルバー銃から弾丸放つ。地に辺り跳ねる銃弾。狙い手としての位置もあり、その精度はまだ半分を切っておらず確実に貫くものだった。
攻撃を仕掛けてくる敵。陽葉は攻撃受けた仲間へ早めに癒してゆく。
祝福と癒しを宿した矢――それは敵の呪術的防御を破る力をも与えるものだ。
「誰も倒させません」
番えた矢、静と動が一瞬交錯し陽葉は迷いなく仲間癒す矢を放つ。
その矢を追うように放たれたのは魔法の光線だ。けれどそれは仲間ではなく敵を射抜くもの。
黄泉の放ったその光線は、敵の身を重くさせ動きを阻害するもの。
「共闘出来れば良いけど」
あちらがどうなっているのかまだわからない。状況が動いた様子はないと黄泉は判断する。
敵の繰り出す幻影と炎の与える影響は治癒しても再び付きまとうもの。それを行動しながら取り払う術を、リーズグリースは前列の皆へと向ける。
「思惑通りにさせない、よ」
雷の壁が皆の前に生じ、それが異常態勢を高める。
その壁より手を伸ばし、ガイストが光り輝く聖なる左手で敵の一体を引き寄せる。その懐へ漆黒纏う右手をすぐさま打ち込んだ。その一撃は連撃となって続く。
どちらも引くことなどない激しい戦いの中、その違和感に気付いたのはセレナだった。
先程、攻撃を向けてきたシャイターンが目の前にいない。どこにと見回す視線の端に、違う動きをするシャイターン。
声をかけるより先にそれは、走り抜けてゆく。混戦の中生まれた死角。
セレナは気付いたが、それを阻む前に敵からの攻撃が向けられた。それを受けて動きが遅れる。
けれど戦っているのは一人ではない。前列にいたエピも気付いており、防ごうとしたがシャイターンはそれも予想の内とばかりにひょいと擦すり抜けたのだ。
「行かせないよ!」
不意打ちがあるかも知れないと注意していた。しかし、同等以上の相手を戦う中で行く手を完全に塞ぎ切ることはできなかったのだ。
ユルは氷結の騎士を星降る金符と星墜つ銀符の力を借りて一時召喚し向かわせた。その一撃を受けつつも、シャイターンは走りを止めない。
その姿に意識がもっていかれるが、しかし。
「こっちの相手もしろよ!」
敵側から一人を先へ送る為に、協力するように後列へと幻覚作用をもたらす砂の嵐が吹き荒れた。
後列に向かうそれをエピとチャンネルが防ぐように立ち、受ける。
「相手は一人だよ! 大丈夫!」
エピは砂嵐振り払って、ぱっと後ろを振り返る。
(「誰かを守ろうとする力ってとっても強いんです!」)
それはザイフリートも、自分たちも変わらぬはず。
攻撃受けた唯奈は今まで口にしていた棒付き飴を噛み砕いた。攻撃を受け、自らの体力削られ面白くなってきたとばかりに浮かべる笑みは、獰猛なもの。狙い外さないと撃ち放つ。
あの敵を追う事も出来るが、ここを守る人数が減れば7体を抑え込む事は難しい。
敵が向かった先には仲間もいるのだ。ザイフリートへの説得がどうなっているのか、今はわからないが守る意志をもって集ったのだ。必ず守ってくれると信じる事ができる。
今できるのはここにいる残る7体を、これ以上あちらへ行かせない事。
●助け
敵の攻撃を凌いで続く戦いは5分間――どうにか保たれている状態だ。敵も回復を行い倒す決定打がない。だが敵の力を確実に削いではいる。
「ひゃひゃひゃ! 覚悟しな!!」
シャイターンが振り上げた剣には星座の重力がかけられていた。真正面から振り下ろされるそれをセレナが真正面から受けるべく構えた時だ。
「願いと祈りを心に宿し! 未来の扉を今開け! ライズアップ!」
だが攻撃を受けるよりも早く、仕掛けてきた敵が薙ぎ払われ消滅する。
突然の事にセレナは瞬くが、すぐさま状況を皆が理解した。
救援――それはザイフリートのもとへ向かった仲間達が駆け付けたのだ。彼らが参戦したという事は説得が無事成されたという事。先ほど抜け出し、逃した敵も倒されたという事だろう。
「仲間のフラグ、守りに来た!」
敵2体がまず引き離される。さすがに不利と思ったのかもう1体がそちらへ向かった。
半数のシャイターンを救援に来た隊が引き受け、戦線の状況が変わる。
その事実は今まで耐えていた事に意味があるという印。
敵対する意思はないと伝える事ができたのだろう。黄泉はそれに良かったと、表情は変わらぬが思う。
そして残る敵へと視線向けた。
対するのは3体。攻撃力に比重を置いた者達ばかりだ。一撃が深く入れば、攻撃重なっている前列の者は倒れる可能性はゼロではない。
だからこそ確実に。
黄泉に召喚される半透明の御業――それは攻撃を察してかわそうとする敵を迷いなく捕え鷲掴みにする。
ここで誰か、倒れるわけにもいかない。ユルは回復すると告げて。
「我が魔力、汝、合戦の申し子たる御身に捧げ、其の騎馬を以て、我等が軍と、戦場の定石を覆さん!」
クレジットカード型のシャーマンズカードをばら撒いて、ユルが一時召喚するのは非業の死を遂げた武将のエネルギー体。騎馬に乗りし駆ければ、傷癒すと共に、勝利の為に士気あげる加護を。
「半数なら勝てます」
ユルの呟きに、誰もがそう強く思った。
相手の手数が減る――それはこちらの攻勢が勝るという事だ。
ガイストは邪魔だと、己の陣笠に手をかけ放り投げる。
「――推して参る」
透徹たる冰心、冴えた剣閃、太刀風を劈いて生まれ出るは翔龍――鋭い爪牙が敵の喉首を喰い千切り斬り捨てんと敵へ向かう。正面からそれを喰らった敵は呻き声を漏らした。
その敵の上へと炎弾が見舞われる。リーズグリースが放ったそれを受け、敵は生きた蛇を生み出し、それを喰らい傷を回復する。
しかし続く攻撃が癒した分を上回り敵の力を削いでゆく。
この戦いに手を出さず、漁夫の利を狙う事もできたのだがそうしなかった。デウスエクスを皆殺しにしたいわけでなく、地球の人々を守るために戦っている。それは互いを守ろうとするザイフリート達と似たような気持ちだとセレナは思っていた。
互いを守ろうとする王子達と似たようなものだと、そう伝えるためにも。
「まず……ひとり……!」
騎士としてあるセレナ。配下を守る上の者には好感が持てる。ザイフリートにはそうであるがこのシャイターンらにはそれが感じられない。
セレナが騎士として、そして地球人として高めた技量をもって一撃。それを受けた敵は限界を超え消えてゆく。
今は回復する必要はないと判断して陽葉は攻撃の態勢をとる。火の神の名を付けた和弓に沿う矢。連射より精密な一矢で打ち抜く方を陽葉は好んでいた。
そして今放つ矢はまさにそれ。素早く番えた矢は迷いなく敵を貫く。
「あたしはムズカシイことはよくわかりません。でもでもせっかく地球まできたんですから!」
温泉にも入らずお寿司もラーメンも食べないなんてダメです! それをザイフリートに伝えるためにもここで負けるわけにはいかない。エピはミサイルポッドを出し、敵へ大量のミサイルを浴びせてゆく。
「変幻自在の『魔法の弾丸』……避けるのはちーっと骨だぜ?」
見えざる何者かに操られているかの如く、不思議な機動描く弾丸が唯奈の元より放たれた。
ケルベロス達は狙いを同じ敵へ絞り、戦い終わらせるために畳み掛ける。
●道は開け
最後のシャイターンが倒れ消えてゆく。半数引き受けた方も戦いは終わっている様子だ。
同時に皆の視線が一斉に向いたのはもう一方の隊。そこにはザイフリートが救援に駆けつけており、無事な姿が確認できた。
「行こうよ」
そう言って最初に歩み始めたのはユルだ。青く長い髪と戦いで少し汚れた愛用の白衣の裾が翻る。
その足は歩みから徐々に駆け足へ。
「ザイフリート様は王子様ですから、イケメンでしたら結婚も視野に入れてあげます! ぜひぜひお顔を拝見しなくては……っ!」
ぴょんとエピが飛びあがり、たっと走り始めればチャンネルも後をてててと続く。
そんな様子に少し笑って、唯奈も進む。鎌倉の際、顔を合わせたことがあるが自分の事を覚えているか尋ねてみようと思いながら。
「折角の縁だから、大切にしたい、よ」
美味しいものを一緒に食べれば、仲良くなれると思いながらリーグリースも。
彼らの様子を見る限り、敵対はしていない。雰囲気は和やかそうで、話はできそうだと陽葉は思う。
「そうだ、クリスマスって知ってるかな」
誘ってみようと陽葉は思う。そうすれば、自分たちの在り方を知るきっかけにもなるだろう。何か考えもまた、新たに生まれるかもしれない。
黄泉もゆっくりとそちらへ。ダンジョンで出会ったヴァナディースや、予知で見た人馬宮ガイセリウムの事を聞いてみようと思いながらだ。
「……どこかな……」
甘い物を食べると落ち着く。ザイフリートにもとセレナはどこに入れたかとチョコレートを探していた。
それを見つけるのと同時に、行こうと押される背。その手はガイストのものだった。
ええとセレナは頷いてザイフリートの方へ。
守り、勝つ事ができたがそれはザイフリートがこちらからの声に応じたからでもある。
「――助けに来たが、助けられもしたのか」
ガイストはそう呟いて、最後にゆっくりと仲間たちの集う方へと歩み始めた。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 25/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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