ヒーリングバレンタイン2021~剣の護り

作者:絲上ゆいこ

●モノづくりのまち
「よう、今年も沢山菓子の出回る時期が近づいてきたな」
 レプス・リエヴルラパン(レプリカントのヘリオライダー・en0131)はゆるーく笑うと片目を瞑り、その掌の上に街を見下ろすような風景を映し出した。
 それは奈良県生駒市と大阪府東大阪市との県境に存在する、生駒山からの光景。
 山上に遊園地を有し四季折々の花々と共にハイキングの楽しめる自然公園が存在するこの山は、その遊園地を中心に少し前までデウスエクスの侵略拠点――ミッション地域と呼ばれ周辺ごと閉鎖されていた。
 ケルベロス達の活躍によってデウスエクスの魔の手は払いのけられはしたが、人の手を一度離れてしまった土地に再び人が戻るまでには時間が掛かるもので。
「そういう訳でねっ! 今年も皆で建物のヒールをしてから、バレンタインに向けてのイベントをする事になったのよっ」
 ケルベロスがイベントを行う事で一般の人たちにも、生駒はもう安全だという事を広く伝え地域のイメージアップを図ろうと言う訳なのだと。
 お手伝いに来ていた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)はぴかぴか笑顔で皆へ言った。

●困難を断つ刃
 ――奈良県と大阪府を跨ぐ生駒山ではあるが。
 特に東大阪市は『モノづくりのまち』と呼ばれ、観光として町工場の工場見学が推奨される程、中小製造事業が盛んな工場密度が日本一の街だ。
 そして東大阪には全国に名高い有名な神社も存在しており。
 そこは祭神の神威が岩をも切り裂くほど大きく鋭い事から、石切劔箭と呼ばれているそうだ。
「うふふ。それでねモノづくりの技術と神威にあやかってねっ、目の前の困難を断ち切れますように、って。剣のアクセサリーを皆には作ってもらおうと思っているのよっ」
 宝石や金属等、地元の工場で加工してもらった色んな素材の剣を模したチャームを使って、皆には自由にアクセサリーや武器飾りを作って欲しいと冥加は笑った。
 それは、例えば。
 長く続くデウスエクスとの戦いを、断ち切れるようにと願いを籠めて。
 それは、例えば。
 友人だと固まってしまっている関係を切り裂いて、その先へと進めるようにと願いを籠めて。
「ま、言えばちょっとした御守りだよな。――バレンタインデーの贈り物に悩んでるなら、そういうモノを贈るのも悪くないンじゃないか?」
 なんて。資料をぱちりと閉じたレプスは悪戯げに笑った。


■リプレイ


 見渡す限りの青い空、山下にけぶり広がる白みがかった町並み。
 皆にも奢ったアイスを手にする清士朗の、纏めた黒髪が風に靡いた。
「うむ。景色も空気もいいし、すがすがしいな」
 痛々しい傷跡が残ってはいるが、どこか懐かしい色合いアトラクションの並ぶ遊園地。
 パンフレットを眺める春燕は、サンデーを突きながら小さく唸り。
「何処からヒールに行こうかしら?」
「……ヒールすると、元とは違う物へと変貌を遂げてしまいますよね」
 志苑は紫瞳に憂いを揺らし、袖を口元へ寄せる。
 それは何だか、元の形に申し訳無い気がする、と。
「うーん……元々とてもファンシーですし、もう少し位ファンシーになっても大丈夫なの、かも?」
 早起きをしたエルスは眠たげな瞳で言葉を紡ぎ、清士朗が頷き応じる。
「幻想化は了承の上だろう、それよりも早くに再開したいのだろうな」
「そう、ですか。じゃあ……」
 思い定まったエルスがメリーゴーラウンドへ虹光を灯すと、壊れた馬車はパステル色の雲の馬車へ、馬はユニコーンと翼鯨に変化して。
「ふふ、可愛い癒し系ね」
 まるで夢の様に可愛らしく変化した姿に、春燕は瞳を細めた。
「……うん、悪くない、かな」
 満更でも無さそうにエルスも瞳を瞬かせると、翼猫を肩に乗せたリリィが右手にアイスを掲げて自由の女神ポーズ。
「ファンシーでかわいいじゃない! よし、私も何か増えても気にしなーい☆」
 そうして大きく翼を開くと鈴蘭が甘やかに揺れ、不思議な形の自転車達はみるみるうちに――。
「……泣く子が出ないかしら?」
 春燕が思わずリリィに訊ねる。
「大丈夫、怖くはないわよ」
 リリィはかぶりを振って、断言する。
 なんたって彼等も番犬達の仲間なのだから。
 車輪の代わりに足の付いたミミック自転車を、リリィは満足げに眺めて。
「楽しい変化は……きっと良いこと、ですよね?」
 志苑がおずおずと桜の花弁に癒やしを乗せると、ゴーカートは大きなネズミめいた姿へと変化した。
「……楽しい変化だとは思いますけれど」
 それはどうにも流行り物っぽい姿に見えて。良いのかしらと志苑は首を傾ぐが、リリィはサムズアップ。
「可愛いは正義よ!」
「ええ、バズりそうで良いと思うわ」
 同意を重ねた春燕が癒やしの火花を散らすと、飛行体験アトラクションのゴンドラが箱竜を模して変化した。
「ねえ、男の子に人気がでそうじゃない?」
「きっと大人気ね」
「女の子も夢中ですよ!」
 リリィとエルスがわあと応じる様子に眦を和らげた清士朗は、動物達の寄り添うコーヒーカップへと癒やしを撒く。
「ふむ、……やはり身近な存在に影響を受けるものなのだろうか?」
「あ! あの子レオそっくり!」
 寄り添う動物達が、サーヴァント型へと変化して。
 その中でも翼猫が自らの相棒にそっくりだったものだから、リリィは思わず指差した。
「まあ、看板猫ね」
 春燕がくすくす笑うと、エルスは両手を上げてはしゃぐ。
「みんなすごいです!」
「楽しい遊園地に生まれ変わって、良かったですね」
 志苑も最初の憂いはどこへやら。
 清士朗はすっかり番犬バージョンになってしまった園内を見やって。
「それもまた良し、か」
 なんて、笑った。

 その花弁は世界を癒やす。――ドリームイーターに制圧されていた生駒山は復興への活動が進められています。
 幻想的な美しさを、ぜひ直接感じに来て下さい。
「美人が癒やす姿は絵になるな」
「いやランスルーも癒やしなさいよ」
 メッセージを投稿するランスルーに、人の入った現場写真が欲しいと頼まれたなつみは瞳を細めて。
「い、いや、これでなんやかんや癒やしが」
「……それにアナタ、アタシだけ撮ってるでしょ?」
「あの」
「ちゃんとアナタも入らなきゃ、ね?」
 なんて悪戯げに笑ったなつみは彼のスマホに手を重ね、二人並んで写真をぱしゃり。


 イベント会場はそれなりに盛況、番犬達も一般客に混じり――。
 鳳琴はチャームを手に取るとまじまじ眺めて。
「シルはどの剣にするか決めた?」
「折角なら意味を持たせたいなぁ。……館長として燃えるところだねっ」
 尋ねられつつもシルは一つのチャームを摘んだ。
「んー、これかな?」
 二人は聖夜に、一年後の約束を左の薬指へと結わいだ。
 その頃には地球が真の楽園となっていますように。
 幸せを繋いで、願いを結いで、祈りを籠めて。
 鳳琴の作ったアクセサリーは、ピンクゴールドのピンキーリング。
 シルの作ったアクセサリーは、シルバーの懐刀を模したピンクーリング。
「わっ、シルもピンキーリングを作ったんだ?」
「うん、わたしたちの幸せを守る御守りとしてね」
 ――守り刀を意味する懐刀。
 シルは鳳琴の左手を取り視線を交わすと、鳳琴の小指へと指輪を滑り込ませて。
「琴、受け取ってもらえるかな?」
「もちろん、喜んで♪ ……私のも、受け取ってくれるかな?」
 鳳琴もまた、頷いたシルの小指へ指輪を嵌める。
「愛しているよ、シル」
「わたしも愛しているからね、琴」
 二人はぎゅっと抱きしめ合い。――その左手の薬指と小指には幸せの誓いの色が輝いていた。

 小さな木刀チャームとにらめっこ。
 彫刻刀を手にした理弥は、真剣な表情で細く息を吐いて。
「……よしっ」
 黙々と作業を始めると脳裏に過ぎるは、先日の事件の事。
 警察学校に通う生徒が試験のカンニングを発端にビルシャナと成り。
 何とか復讐の誘惑を撥ねのけ人へと戻った彼は、立派な警察官を目指すと言う決意を更に強く固めた。
 ――理弥の夢は警察官である。
 諦めぬ先輩の姿を見て、その気持ちは更に燃え上がった。
 『初志貫徹』と刻んだこのお守りが、困難を斬り拓いてくれますように。
「って、字ィ潰れた!?」
 ――今はまだそれは夢でも。

 オトコノコッテコウイウノガスキナンデショ。
 ――男子の夢は番犬か武器屋の二択だと決まっているそうで。
「どんなにするか、もう決めた?」
「ん、耳飾りなら手軽かな、っと」
 ティアンの言葉に応じたギフトは、工具片手に真剣な表情。
 なんたって今日は念願の武器屋開業記念日。……一時間後には閉業してますけど。
 お土産に交換用、仕事は沢山だ。
「じゃあ片耳ずつ一緒に作るとか、どう?」
「それは面白そ、……あ?」
 パキッ。
 真っ二つに割れた金具に、ティアンは長耳をぴゃっと立てて。
 額を突き合わせて相談を終えれば改めて、武器屋開店だ。
 やんやと拍手、直後にぱきん。
「なァー、あんたの店上手くいってる?」
 更に割れた剣に眉を寄せたギフトは、ティアンの手元を覗き込み。
「――なっ!?」
 そのティアンの手元で銀鏡の如く美しい悪霊祓いの聖剣の輝きに、ギフトは息を飲んだ。
「これは聖剣だ」
「聖剣!?」
 ――『悪魔』を引っ掛ける悪戯には良いだろう? と瞳を細めたティアンにギフトは笑って応じ。
「で、これはティアンにくれるもの?」
 銀剣に水滴の連なる、作りかけのイヤカフをティアンは耳に当て。
「あァそうだ。で、手ェ貸してくれるか?」
「いいぞ」
 肩を竦めて、ティアンは応じた。

「何を作るか決めまシタ?」
 どっさり材料の並んだ机の前で、首を傾ぐエトヴァ。
「僕は栞をつくろうかなって」
 カルナは手にした金属プレートをひらひら。
「ふふ、ナルホド。流石の読書家サンですネ」
 眦を和らげたエトヴァに、カルナはこっくり頷き。
「はい、栞なら文庫本にも魔導書にも使えて便利ですしね」
 剣の形に切り抜いたプレートに、雪の結晶模様を透かし彫りにしようか。
 水色のリボンなんて合わせたら、きっと素敵になるだろう。
「ふふー。読書用の剣って魔法使いさんらしいね」
 ジェミはチャームを一つ選ぶと、石やビーズを皿へとたっぷり並べて。
「それでハ、俺はピアスにする事にしマス」
 折角のお守りならば身につけられるように、と。エトヴァも材料を選び出す。
 ――白銀の細身の剣に、空の色を合わせよう。
 柄に翼を宿せば、きっと凜と煌めくだろうから。
 そこに響きだした、旋律。
「……♪」
 それはピンセットを手に作業を重ねるジェミの鼻歌。
 意識する事無くエトヴァも音を合わせ出すと。
 ぱちぱちと瞬きを重ねたカルナが、はたと気付いた様子。
「あ、この歌はもしかして……」
「アア、そうですネ。この歌は」
 それはジェミが剣へと、ステンドグラスのように散らす石。
 薄紅に星を宿した太陽の石、ヘリオライトだ。
 ――ヘリオライトが僕を照らすように。君の未来へ届くように、強く光を放てたら。
 いつの間にか重ねて歌っていた彼等は、くすくすと笑いあい。
 力強い未来の道しるべに、ピアスに宿した空の色。
 未来を照らす、太陽の色のチャーム。
 知恵の象徴たる、雪の栞。
 運命を斬り拓く力、輝く未来へと翔る翼となるように。
 悪いモノを払って、素敵なモノを繋ぐ力を。
 戦いも、日常も、素敵な未来を斬り拓けるように。
 願いはそれぞれ。
 それでも三本の剣を寄せ合い重ねれば、どんな願いだって叶うだろう。

 揃いの若葉色のお守り袋には刃先を丸めた剣を封じ、――切れない刃は切れない良縁。
 二人の未来と世界の明日を包んで、緑が萌み、花実が咲きますように。
「ははっ、若葉マークな夫婦のオレたちには洒落が効いてっかもな」
「……ワタシは誰かと共に暮らすことも初心者で御座イマスカラ……」
 清春の言葉に薄く色づく頬。
 小さく瞳を細めたモヱはかぶりを振って、そのまま御守りの飾り結びを丁寧に整える。
「デスガ。これできっと待ち受ける困難にも、打ち克てる事デショウ」
「ははっ、オレもだよ。――誰かと一緒に暮らすのは初めてだ」
 顔を上げたモヱの空の色の瞳。彼女の染まった頬、小さな変化に気づける事が誇らしくて。清春はその視線を真っ直ぐに逸らす事無く、さり気なく彼女の掌を握る。
「――困難の先にある、もっともっと多くの喜びを一緒に、ね」
「……ええ」
 その掌を握り返したモヱが柔らかに眦を和らげたものだから、清春はにんまりと笑った。
「さってと、モヱちゃん。――石切劔箭にも行った事があるんだろ?」
「はい、近場で御座いますし、改めて参拝にも参りマショウカ?」
「うん、案内してもらっちゃおーかな」
 結ばれた縁が、ずっと続きますように。
 未来を誓って、未来を祈って。

 めびるの手捌きと比べると、難航している作業に眉を寄せる敬重。
「老後の趣味とかには良いのかもなあ……」
「今を諦めないで、敬重くん!」
「まあ、二人も来ていたのね!」
 そこに冥加が声を掛けたものだから、ぐにっと歪む敬重の手元。
「みょうがちゃん、久しぶり! ね、あのときの金魚さん、ちゃんと元気してるよー」
「ふふ、嬉しいわ」
 めびると冥加が笑い合う横で、敬重は金具と向き合い真剣な表情。
「って、あっ敬重くん!?」
「はは、精一杯がんばるからね……」
 そうして。
 めびるだって誰かを守るための剣を持っている――彼には自分の剣を渡したい。
 桃色の石を飾った刀身に麻布と赤い紐で二重叶結び、チャームを付けたカフスボタンをめびるは笑顔で差し出して。
「これは『めびるのかみさま』からの預かり物だからね、敬重くんのことも守ってくれるよ!」
「そっか。なら恥ずかしくないようにちゃんとしないとな」
 なんてカフスを付けた敬重が贈るのは、銀の剣に桃花をあしらったブローチだ。
「えへへ、似合う? どう?」
「可愛いけれど、今度はもっとうまく作らなきゃな」
「はわ、老後に?」
「もう少し早めにね」
 この剣は自分にとって大切なものになる。確信めいた気持ちと共にめびるは笑った。

 困難を斬り裂いて、彼が戦いという闇に飲まれないように、先へと歩めるように。
 彼の髪を思わせる赤紐でチャームを結いだら。
「……できました」
 大切な道標たる彼へ贈るお守りを何とか完成させた達成感に、紺は息を吐く。
 手先は器用とは言えないがそれでもガッツで完成させたお守りだ。誰かに披露したいけれど、お守りは見せびらかすものでも無いだろうなんて――。
「うふふ、出来たのっ?」
「わっ、あ、遠見さん!」
 兎の耳は良いもので、耳を揺らして冥加は笑う。
「ね、見せて見せて」
「わあ、……そうですね」
 少し位ならば、良いかもしれない。

 材料の立ち並ぶ机の前で、ヴァルカンはさくらを見やって。
「我々が作るのならば――やはりソハヤノツルギと大通連のような、夫婦刀だろうか?」
 生い立ちも、出自も、種族さえも。ヴァルカンとさくらは、何もかも全てが違う。
 それでも出会い、絆を深め、睦み、愛し合い。
 並んで歩いて、温かな日溜まりで抱くふたりの未来を契ったのだ。
「夫婦、刀ですか?」
 染まる頬を掌で覆ったさくらはヴァルカンを見上げ。
「ああ。比翼連理の詩になぞらえて……龍と天使の片翼を抱く刀なんてどうだろう」
「なんだか響きはくすぐったいけれど……」
 目がひとつ、翼がひとつ。雄雌が一体とならなければ飛べぬ比翼の鳥の如く。
 確かに二人は離れがたく、――最早離れる事など出来ないだろうと思えるもの。
「わたし達にぴったりね」
 あの日、あなたが絶望の鎖を断ち切ってくれたように。
「ああ、おあつらえ向きだろう?」
 ――どんなに困難な道でも、この刀で道を斬り拓いて。
 未来に羽ばたく翼で、また一体と戻れるように。
 紅の龍と桜の天使の片翼が絡み合った刀は、首飾りとしていつだって胸元に。
「ふふ、ヴァルカンさん。――甘い甘いチョコレートは、あとでゆっくりと、ね?」
「ああ、期待するとしよう」

 細鎖に銀刀と蒼花が揺れて、リコリスは瞳を閉じる。
 余りに無知であった、あの日の事。
 幸せに満ちた日になる筈であったのに。
 薬指に輝く銀色。それはリコリスの罪だ、リコリスの罰だ。
 婚礼の日。自らが助けたデウスエクスによって婚約者を――村を殺められてしまった。
 だからこそ『他の誰か』の幸福を守る為に、この命と力を使うと誓ったのに。
 リコリスは今も左手の薬指に誓っている、愛している。
 ならばこのブレスレットは、何だろうか?
 胸裡で疼く、『今』死んで欲しくないと願う人。
 この感情は――違うもの。
 そうでなければ、私は。

「そうだな……、私はキーホルダーでも作ろうかな?」
 チタンの日本刀チャームを三日月がひょいと摘まむと。
「なるほど。では私も神威にあやからせて頂きましょう」
 レフィナードもそれに倣って、日本刀を模した素材を手に。
 ――この地から脅威は去った。
 ならば今日はこの地の良さを伝えるが為。
「……ううん、どこかに赤を入れたいな」
「三日月殿は赤の印象がありますしね、――赤い石を埋め込むのはどうでしょう?」
 鍔と刃を組み合わせながらレフィナードは、三日月へアドバイスをひとつ。
「器用なだけあって、アドバイスも的確なようだ」
 口角を擡げて笑った三日月は柄に埋め込んでみようか、なんて赤い石を摘まんで。
「そう言えばルナティーク殿はどのような形したんだ?」
「私は鍔をメディスンホイールの様にできたらと……。ああ、刀身部分に刃紋の代わりに星座を模した模様を刻むのも面白そうです」
「鍔の形や刃紋まで拘るとは、流石だな」
 彼の言葉に感心した様子で三日月はまた笑い。
 ――刃は断ち切るモノだ。
 長く続く戦いも、断ち切る様に願いを籠めて。
「……いや。これは願う事では無く、自分たちの力で成し遂げる事、か」
 ゆるとかぶりを振った三日月は、きゅっと刃を掌で握り締めた。

 何となく大昔に使っていたナイフの事を、思い出したものだから。
 瑞樹は記憶を頼りに、素材を選ぶ。
 黒い刃の大振りなナイフ。凄く丈夫だったよな。
「……うーん、少し寂しいかな」
 チャーム自体は完成したが、なんとも味気無く見えて瑞樹は瞳を眇め。
 あの頃は他にも――。
「あぁ、そうだ」
 山吹色と白色で組紐を結わいで、根付けのように。
 そうして完成したのはスカーフの色合いと模様に似せた組紐に、黒いナイフが揺れるストラップ。
「うん、これでいい」
 お守りとはまた違うかもしれないけれど。
 俺にはコレで十分、と瑞樹は紫瞳を細めて。

「目の前の困難を断ち切れるように、かあ」
「素敵な願いを託せるお守りのようだね」
 シズネがパーツを選ぶ横で、ラウルは空色の眦を和らげ。
 二人は今、同じ疑問を心根に宿していた。
 ――自分が断ち切りたい、困難とは?
 シズネはあの日のお願い以来、困難だと感じる事が減っていた。
 何故だろうかと、ううんと唸るシズネ。
 ラウルはそんなシズネを盗み見て、長い睫毛を瞬きに揺らす。
 困難に立ち向かう時、乗り越えた時。傍らに居てくれた、大丈夫だと思わせてくれた。
 ラウルは改めて思う――彼は明日をくれた大切な人なのだと。
 この関係に名前を付けるとしたら、彼を友と呼ぶには余りに近すぎて。
「……!」
 そこでシズネは、はっと思いついた様子。
 ――そう。
 ラウルが自らにとっての剣なのだろう、と言う思いつきに目を丸くする。
 なんたって作っていた武器飾りも自らの得物を作っていた筈なのに。
 知らず洒落たような意匠を付けていた。
 これじゃ、まるで。
 知らず零れた笑みを隠しもせず、シズネはラウルに訊ねる。
「なあ、おめぇはどんな願いを込めたんだ?」
「……まだ秘密だよ」
 柔い笑みの返事――キミの人生に深く踏み込めるようと願った事なんて。

 ああ。黎明と黄昏色が銀古美の剣柄に輝いて。
 これじゃ、まるで――キミの色だ。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月13日
難度:易しい
参加:27人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 9
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