●こころ彩る花模様
「というわけで、今年もこの季節がやって来たよ」
集まったケルベロス達を前に、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はどこか楽しげに告げる。
「二月と言えばバレンタイン。バレンタインと言えば、そう! 恒例の、ミッション地域の復興ミッションだ」
ケルベロス達の活躍により、これまでミッション地域としてデウスエクスの支配下に置かれていた多くの地域を奪還することが出来た。
だが、取り戻しただけで終わりというわけではない。
取り戻した地域で再び人々が平穏な日常を過ごせるようにするためには、他の誰でもない、ケルベロス達の力が必要なのだ。
「今回皆に担当してもらうのは、京都市の中京区。ざっくり言うと二条城がある辺りだね」
ヒールをお願いしたいのはこの辺りだよ、と地図を広げて軽く説明を終えてから、ここからが本題だとばかりにトキサは切り出した。
「皆には辺り一帯のヒールと、手配してある材料の搬入なんかもお願いしたいんだ。博物館の別館にあるホールを会場として借りてあるから、今回はそこで市民の人達も招いて、ハーバリウム作りの体験会をやろうかなって思っているよ」
ハーバリウムとは、『植物標本』という意味が表す通り、ガラスの瓶にドライフラワーやプリザーブドフラワーなどを入れ、専用のオイルに漬けたものだ。簡単に作れる上に手入れもいらず、気軽に楽しめるフラワーインテリアとして幅広く楽しまれている。
こういう感じだよとトキサが取り出したのは、ミモザの黄色が揺れる細長い四角の瓶。
オーソドックスな丸い瓶や角型の瓶をはじめ、電球のような形のものや、ハイヒールの形のボトルなどもある。他にも探せばいくらでも、望む形の瓶が用意されているはずだ。
花に関しても同様で。生花ではないからこそ、異なる季節の花を一緒に詰める楽しさもあるだろう。
「瓶や花材はたくさんあるから、皆も好きな物を作って欲しい。文字通り、世界にひとつだけのハーバリウムをね」
――あなたが選んだ小さな瓶に、あなたが選んだ彩りを咲かせて。
誰かを想って作るのも、自分のためのとっておきを作るのもあなた次第。
チョコレートと一緒にプレゼントするのも素敵かもね、と、トキサは楽しげに笑った。
細長い瓶に、環は細めの蔦と白のヘリクリサムをバランスよく詰めていく。
爽やか重視の白と緑に、飾るのは黄色のレースリボン。
ふと見やるのは、同じテーブルを囲むアンセルムとエルム。
二人から着想を得て作ったのは、ここだけの話で。
(「なんだかんだ、『ずっと一緒』を望んじゃうんだろうなあ……」)
丸くて可愛らしい瓶に、アンセルムは花束をイメージしながら小さな向日葵とカスミソウを詰めていく。
(「……素晴らしいキミ達に出会えた事に、心からの感謝を。これからも、この先もずっと、ずっとよろしくね」)
溢れんばかりの想いと願いも一緒に溶かし込んで、蓋をした瓶に紐を結ぶ。
そして、エルムもまた頭を悩ませながら丸い瓶を彩っていく。
底に青と緑の天然石を並べたら、周りにピンクと紫のスターチスにカスミソウを敷き詰め、ワンポイントに白のガーベラを。
最後に大好きな青いリボンを結べば、エルムが描いた通りの世界が出来上がる。
「エルムのは綺麗な青色だね。天然石もいいな……環は……ふふっ、この蔦はボクがイメージだって自惚れていいかな?」
「……そーですよ、それ以外あるわけないじゃないですかー。エルムさんのは花はかわいいし天然石もなるほどって感じですね!」
柔らかく微笑むアンセルムと、少し照れた様子の環。
二人のやり取りを微笑ましく見やるエルムは、瓶に込めた思いを紡ぐ。
――変わらぬ心、永遠不変。途絶えぬ記憶。それから、出会えたことへの感謝。
「この先に何があったって、僕からはなにも変わりませんし、終わらせたりもしませんからね」
今までも、今も、これから先もずっと、――この友情は、永遠に不滅だ。
シルの手には、ホウオウボクとブルースター。
(「ブルースターは、わたしで。ホウオウボクは……あの子、だね」)
ホウオウボクをブルースターで囲んで――『わたし』で『貴女』を満たす。
いつでも、いつまでも二人、一緒にいられるように。
ただひとりを想いながら、シルは鮮やかな赤と青のリボンを結んだ。
「本当にお花のオイル漬けみたいなのね。こんな素敵なものを作れたら女子力高まりそうよね! よぉし、おねえさん頑張っちゃう!」
さくらもまた、ただひとりの大切な人を想いながら花を選ぶ。
永遠に変わらぬ想いを込めた紅い薔薇を三つ。
羽のような白い花弁と一緒にハートの形の瓶に詰めたら、二人の誕生石――ラブラドライトと桜石をそっと忍ばせて。
最後に、お日様のような黄色いリボンを結べば完成だ。
「お花のオイル漬けって美味しそうな響きですね。エディブルフラワー的な……はっ、いえ、私の女子力をお見せしますよ!」
灯の目を引いたのは、青紫の竜胆の花。
色だけでなく、綴る漢字も灯にとっては大切なポイントで。
そこにドライフルーツの苺を入れて、銀のリボンで結べば完成だ。
ハートのような苺に込めた想いは、幸せで、甘くて。
ほのかな甘酸っぱさも、ちょっとした刺激になる。
それぞれの女子力と、大切な人への想いをめいっぱい詰め込んで出来上がった、とっておきのハーバリウム。
満ちる甘い煌めきに、三人の乙女達はくすぐったそうに微笑み合って――。
それから甘いお菓子を傍らに、甘々なガールズトークが花開く。
カランコエ、アザレア、胡蝶蘭、鈴蘭、カタバミ、ブライダルベール、梔子、ブルースター、シネラリア、そして最後に、ポインセチア。
星の器に色々な花を詰め込んで、メタリックだけどソフトな緑のリボンを結ぶ。
(「今も、これからも、みんなが幸せでありますように」)
沢山の彩りで満たされたハーバリウムに、果乃は満面の笑みを浮かべた。
ハーバリウム作りは、楽しみながらも真剣に。
ミチェーリが選んだのは、フローネの誕生花である桜。
何輪もの桜を丁寧に入れてゆけば、瓶の中で一足早く桜が満開になったよう。
そしてフローネもまた、ミチェーリの誕生花である薄橙色の薔薇のプリザーブドフラワーを選んでいた。
(「この花に合う瓶は……うん、これかな」)
選んだ花がより綺麗に見えるよう、瓶を選ぶのも真剣そのもの。
「ハッピーバレンタイン、フローネ」
「ハッピーバレンタインですよ、ミチェーリ」
リボンで飾り、完成した二人のハーバリウム。
互いを想って作ったそれを、贈り合う。
「とっても綺麗な薔薇……大事にしますからね」
「わあ……ふふ、桜が満開です。ありがとう、とっても嬉しい!」
寄り添うハーバリウム。
二人も寄り添いながら、ふわりと花のような笑みを綻ばせるのだった。
丸みを帯びた瓶に咲くのはピンクの薔薇。
チェレスタは千日紅と白詰草を添えて、白い紫陽花の花弁を散らす。
春の訪れのような優しくてあたたかな色に、重ねるのは永遠の幸せ。
隣に座るリューディガーが作っているのは、オイルに香りをつけたハーバリウムディフューザーだ。
乾燥させたオレンジやリンゴに赤いダリアと小麦の穂を添えて、シナモンスティックやスターアニス、ペッパーベリーを散りばめる。
注いだオイルにバニラのような甘い香りの安息香とスイートオレンジの精油を足して、最後にスティックを挿せば――心地よい香りがふわりと立ち上った。
春夏の花の季節の後。寒さ厳しい冬でも暖かな心が感じられそうな、秋の実り。
エリオットが思い描くのは、海のような深みと安らぎを感じさせる青と白の世界。
「かつては絶望的だと思われていた戦いにも、ようやく決着がつくのですね」
青のミニバラをメインに、カスミソウやラベンダーを添えて。
不可能を可能にした青薔薇は、たゆまぬ努力と夢を諦めない心が実を結んだ奇跡そのもの。
そんな青薔薇の花言葉が『不可能』から『夢叶う』へと変わったように。
「みんなの夢が叶う日が来るのね。これからもずっと幸せに……」
微笑むチェレスタにエリオットは頷く。
自分達の戦いと人々の祈りが報われる日は、そう遠くはないはずだ。
そして、瑠璃のように深い青に祈りを重ねる。
――絶望が希望へと変わり、平和と安らぎが訪れることを。
彼女にはあたたかな色が似合うから。
「上手く出来るといいんですが……気持ちだけは負けないんですけどね」
遊鬼は橙色の花を中心に暖色系の花を織り交ぜ、差し色として赤い花を散りばめる。
一方のセルショが容れ物として持参したのは、何と、ウイスキーの空瓶だ。
「角瓶だから安定感あるし入れやすいわね」
鼻歌交じりに青いネモフィラやピクシーデライトを入れて綺麗に整えていくセルショ。
そうして出来上がったハーバリウムを、互いにチョコレート(セルショからはウイスキーボンボンだ)を添えて贈り合う。
「セルショ……これまでもこれからも愛してるな」
「こちらこそ、これからもよろしくだわ」
セルショから遊鬼へはもう一つ、戯れのように触れるキスの贈り物。
大きなチョコレートと一緒に、愛を込めて。
桃恵が瓶に詰めるのは、髪と同じピンク色のイングリッシュローズ。
(「可愛いし、花言葉は『笑顔』でドクにぴったり♪」)
それだけでも可憐な華やかさがあるけれど、折角ならばと隣を見やれば――気配に気づいたレッヘルンが顔を上げた。
「どうしましたか、桃恵」
レッヘルンの手元の小瓶には、桃と赤のクレマチス。
そして小瓶の周りには、愛する妻と娘をイメージしながら選んだ花達が笑みを綻ばせていた。
「あのね、ドクが選んだお花も一緒に入れたいなって思って」
「それなら――……」
――今日は夫婦水入らず。
今までのこと、これからのこと。
想い出話に花を咲かせながら、かけがえのない『家族』のために、二人はそれぞれの小さな世界を彩ってゆく。
「ロロくんハッピーバレンタイン! ロイスさんから贈り物だよー」
ロイスが差し出したのは、チョコレート色のリボンが結ばれた角柱の瓶。
英字のラベルがアクセントの、ナチュラル系でアンティークなハーバリウムだ。
色の濃いペッパーベリーとカスミソウ、ユーカリがバランス良く配置され、金色のスケルトンリーフがアクセントになっている。
「はいはいハッピーバレンタイン。僕からはこれをあげる」
一方、綺麗で素敵で可愛いお花のハーバリウムを物凄く期待されたロコは、桜形のタグと水色のリボンで飾られた、香水瓶のような繊細なデザインのボトルをロイスの前へ。
底に散らばるのは黄緑のガラスカレット。
モーヴピンクの紫陽花と白桜が揺らぐ世界に、コットンパールが瞬いて。
綺麗で素敵かはさておき、そこそこ可愛らしく――出来ただろうかとロイスを見やれば、何だか呆気にとられたように瓶を見つめる姿があった。
「……え、そういうのくれるの? いや、もっと適当なのがくるかと……」
「何その反応。不満だったなら回収するけど」
「いやいやいや貰う! 嬉しいですありがとう!」
がしっと腕の中にハーバリウムを抱え込んだロイスに、ロコは僅かに瞳を細めて微笑んだ。
「……冗談だよ。僕もこういう感じは好きだな。綺麗に作ってくれてありがとうね」
六角柱の瓶に、まずは猫じゃらし。
カスミソウに桜、ピンクの星花を詰め込んで。
猫好きのシキにとって大事な猫の要素に加えたのは、これまでに関わった物語で出逢った花。
シキはふと、傍らで花を選んでいる娘を見やる。
「そういえば、フィエルテの花は……サザンクロスっすかね?」
娘の髪に咲くのは、星のような淡い桃色の花。
「そうです、お星様のお花ですね」
「南十字星、昔船乗りが目印にしたって聞いた事あるっす。そんな名前の花っていうのも素敵っすね」
嬉しげに綻ぶ笑みに、シキも微かに瞳を緩めて。
それから、シキは最後の仕上げにそっとラメパウダーを散りばめる。
万華鏡のようにきらきらと煌めく彩りに、シキは満足げに頬を緩めた。
「ねえねえ、ミモザの入ったその瓶は、トキサが作ったもの?」
そっと首を傾げるアリシスフェイルに、トキサはにっこりと頷いてみせる。
「折角だからもう一つ作ろうかなって」
やけに張り切った様子で作業に入った青年を横目に、アリシスフェイルは丸みを帯びた瓶へ、白いデイジーと山吹色に染めた千日紅を。
寄り添わせるように込めた霞草は、漂う夜を思わせる深い青。
それから、山吹色と濃藍、二つのリボンを手に取った。
(「……どちらがいいかしら。いっそのこと両方?」)
――どちらでも、きっと喜んでくれるだろうけれど。
想像しては胸の裡に灯る熱が、頬を赤く染め上げてゆくのを感じていた。
「奏くんのはめっちゃ可愛いんだが?」
愛する旦那様こと奏から差し出されたハーバリウム。
二人の家に似た形のガラス瓶は、黄色い向日葵とハンドメイドの小さな人形達で満たされていた。
(「……だ、大丈夫だよな? ちゃんとモラと響は踊ってるように見えるし、俺がリズにハートを贈ってるように見えるよな?」)
思わずまじまじと覗き込むリーズレットに、奏は内心焦りを滲ませながら、矢継ぎ早に口にする。
「テーマは俺達の日常。花選びは、察してくれ! 分からなかったら後で教えるっ」
「凄いな?! 私達の日常……嬉しいな♪」
リーズレットの瞳がキラキラと輝くのを見て、奏はようやく胸を撫で下ろした。
「私はね、これ!」
そうして、奏へと差し出されるのは――ブルースターをメインに、カスミソウとハート型のリーフが浮かんだハーバリウム。
結ばれたタグに添えられたメッセージに、奏は緩く瞳を細める。
「種族花のハーバリウムとかちょっと自己主張激しいかもだけど、これが一番良いかなって思って」
リーズレットの髪に咲く花と、瓶に浮かぶ花を交互に見やり、頷く奏。
「なるほど、ブルースターか。まるでリズそのものを貰ったかのようだね。ありがとうな」
更にハッピーバレンタインと渡されたチョコレートに、リーズレットの表情が驚きから喜び、そして幸せそうな笑顔へと変わった。
「チョコまでとかどんだけ用意が良いんだ。幸せ過ぎる! 奏くん、だーいすき!!」
「――俺も愛してますよ、奥さん」
出来上がったものを、とりかえっこ。
互いに贈るために作るのであれば、より一層気合いにも磨きがかかるというもの。
フィーといえば赤いリンゴの果実。
けれど、瓶に詰めるには流石に大きいから。
まあるいリンゴみたいな瓶に、ティアンはリンゴの花と赤い木の実や紅色の葉を詰めて。仕上げに、彼女が扱うグラビティをイメージした、虹色に染めたカスミソウをはらりと散らす。
瓶に赤いリボンを結んで――完成だ。
フィーが選んだのは、上下がぷっくりと膨らんだ砂時計型の瓶。
白い花弁を集めて細いリボンで結び、その上に主役である白い蓮の蕾を乗せれば、白いドレスを纏った少女の姿が浮かび上がるよう。
下段に敷き詰めたクリスパムの絨毯に少女を座らせてユーカリで飾り、そして上段には星の砂をイメージしたミニカスミソウを散りばめる。
瓶に生成りのトーションレースをリボンのように結び、貝殻のチャームを付ければ――。
「じゃーん! 出来た!」
それは海と底にも、空と水辺にも見える――小さな箱庭。
「この蕾、ティアンに見立ててくれたのか?」
「ティアンも僕の色で作ってくれた? 超かわいいー! すっごい好き!」
喜びいっぱいの笑顔を覗かせるフィーに、ティアンもまた上機嫌に長い耳を揺らしていた。
円柱の硝子瓶に、鏡花は白いヘリクリサムとカスミソウを入れていく。
花を束ねる時のように見栄えを意識し、鮮やかな緑の葉で彩りを添えて。
一方、傍らの最中はラベンダーや紫陽花などの紫の花を集めては、見様見真似で丸形の細瓶に詰めていた。
けれど、同じ初心者でも、やはり植物と言えば鏡花だと思うほど。
ハーバリウム作りが初めてとは思えぬ手際の良さに感心していたら――目が合った。
「連城さん。好きなお花をひとつ、教えてくれませんか」
呼ばれた名と投げられた問いに、最中の瞳が瞬く。
「菊……ですかね。薊野さんは?」
慣れ親しんだ花の名を紡ぎ、返すのは同じ問い。
「僕は……そうですね。――あなたが選んでくださった花なら、どれも好き、……というのは、答えになるかな」
ふむ、とその瞳を覗き込むように見つめ、最中は瓶に藤の花弁を降らせていく。
鏡花は仕上げに橙の小振りな洋菊を咲かせて、封をした瓶に黄色い紐を結び。
そうして――。
「――僕からのプレゼント、です」
口元が緩む代わりに、ふわり、と。
咲うように、花が揺れた。
「……有難うございます、お返しも受け取って頂けますか」
最中は柔く笑みながらも、差し出した手はほんの少しばかり遠慮がちに。
紫色のリボンで飾られたそれは、控えめで言葉少なの、けれど素直で心色鮮やかな――君色の贈り物。
――二人で作る、ただ一つの世界。
猫型の瓶に、星色の花。
まるで花を咲かせるように幾つもの想い出話を紡ぎながら、これと決めたのは円柱型の瓶。
花に託して描き出すのは、共に見た、永遠に移ろう空の彩り。
朝焼けにはゼラニウム、青空にはブルースター。
黄昏を彩るミモザと金木犀は、掛け替えのない記憶の欠片。
夜空に選んだファセリアは、ラウルも初めて見る花だった。
相槌を打ちながら彼の指先の動きを追いかけていたシズネは、かつて共に見た花や色に嬉しくなってがたりと机を揺らしてしまったりもして。
そうして、たくさんの空色を降らせて閉じ込めた――二人だけの、特別な空。
「……やっぱりこの空色が好きだな。君が、俺の心に咲かせてくれた色だから」
笑み燈し、ラウルは黄昏の彩に指を伸ばす。
それは、シズネにとっては一番身近な、シズネの世界を映す色だ。
「シズネはどの空が好き? ……答えはわかってるけどね」
何だかこそばゆくて尾を揺らしていたら、ラウルがそんなことを言うものだから。
「……おいおい、分かってるなら言わせるなよなあ」
シズネが求めて止まぬ色。
それは、今もシズネを映して悪戯に笑む、薄縹色を想わせる青い空。
小さな瓶の中に紡ぎ出す世界。
花を選ぶ志苑を横目に、蓮はふと目に留まった花をそのまま手に取った。
丸い底のある小瓶に桜とカスミソウを浮かべ、紺色のリボンを添える。
志苑がよく身に着けている桜と、彼女を彩る雪を重ねた白いカスミソウ。
雪舞う中に綻ぶ桜は、志苑のイメージによく似合う。
紫のライラックと薄紅色のベゴニアのプリザーブドフラワー。
花の姿が綺麗に見えるように整えながら少しの飾りを足して蓋をし、志苑は青紫のリボンを結ぶ。
まるで水中花のような花標本に閉じ込めたのは――花と、いつからか心に芽生えていた想い。
志苑は顔を上げ、真っ直ぐに蓮を見つめる。
「蓮さん、私にとって貴方は大切な方です」
けれど、その感情につける名を志苑は知らなかった。
だから一緒に探したい――そう告げてからちょうど一年。
「きっと、もっと早く答えは出ていたように思います。遅くなりましたが、きちんとお伝えしたく思います」
――好きです、と。
それは、蓮がずっと待ち望んでいた言葉。
「……っ」
だというのにあまりにも不意に告げられたものだから、蓮は不覚にも頭の中が真っ白になってしまった。
「……蓮さん?」
きっと、とても彼女に見せられない顔をしているだろう。
蓮はぎこちなく視線を逸らし俯く。
そうして、そっと――志苑の手を、握り締めた。
作者:小鳥遊彩羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月13日
難度:易しい
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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