「未確認の魔空回廊の探索に向かっていたケルベロス達から通信があったわ」
ヘリポート内の空気に緊張が走る。その切っ掛けはリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の言葉だった。
「魔空回廊の出口は『島根県隠岐島』に繋がっていて、そこに攻性植物の拠点を発見したそうなの」
話はそこで終わりではない。彼らが攻性植物拠点の一を暴いたタイミングで、攻性植物たちは『竜業合体ドラゴンの到来』を察知してしまったようなのだ。
攻性植物たちはドラゴンを救う為、惑星型に拠点を変形。その『攻性惑星』によって『隠岐島』から成層圏まで上昇。そのまま成層圏を移動し、竜十字島上空で到来するドラゴン達を回収しようとしている。
――ここまでがヘリオライダー達が視た予知だ。
「……だから、あの人達の活躍が無ければ、もっと大変なことになっていたわ」
おそらく攻性植物たちの目的はドラゴン達を救助し、そのまま脱出することだろう。飢餓に来る住むドラゴン達の回復を行い、戦力を飛躍的に増大させようとしている物と推測される。
「だからこそ、断じて攻性植物たちの行動を看過する訳にいかないの」
発せられたそれはとても静かな声だった。
「本当にギリギリのタイミングになるけど、この情報のお陰で移動中の攻性植物拠点『攻性惑星』へ、ヘリオンを用いた強襲が可能になったわ」
先の戦いでニーズヘッグが全滅した今、攻性植物との合流を阻止出来れば、竜業合体ドラゴンはグラビティ・チェインの枯渇によって壊滅状態になり得るだろう。
「また、『攻性惑星』そのものも、それ単体であればヘリオンで接近、多数のケルベロス達による遠距離攻撃の集中砲火で撃破は可能よ」
それ単体であれば。
即ちそれを阻む物があると、ヘリオライダーは進言していた。
「そう。攻性植物たちも『攻性惑星』の弱点は理解しているわ。その証拠に、『攻性惑星』の表面は対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』によって埋め尽くされている」
そのウイングスナッチャー達に阻まれている為、現状に於いてヘリオンの接近は不可能な状況だ。
「だけど、この防衛網にも隙があるわ」
それこそが防衛網を制御している8体の攻性植物たちだ。その力から考えて、聖王女の側近であると見て間違いないだろう。
「『攻性惑星』の表面でウイングスナッチャーを制御している彼女たち8体をピンポイントで撃破出来れば、防衛網を一定時間、無力化出来る」
そしてリーシャはタブレットへ映像を出力させる。
映し出された映像に広がるそれは森と言うよりも、小腸内壁などの蠢く柔毛を想起させた。
「ウイングスナッチャーの防壁網は巨大サイズ――ヘリオン程度の大きさの物ならば完全に撃墜が出来る物と推測されるわ。ただ、人間サイズでの乗り込みは流石に想定外のようね。皆なら、ウイングスナッチャーが張る弾幕を回避して『攻性惑星』への突入が可能よ」
作戦はこうだ。
『隠岐島』と竜十字島を結ぶ空域――層域と呼ぶべきか――でヘリオンと共に待機。タイミングを見計らって飛び降りることで、『攻性惑星』に乗り込むのだ。
「勿論、乗り込めば全てが終了と言う訳ではないわ」
ウイングスナッチャーの群れを突破し、敵指揮官を撃破する。それが今回、ケルベロス達に課せられた使命となる。
「つまり……」
誰かが呟き、ゴクリと唾を鳴らす。
『攻性惑星』の移動場所を考えればその指摘は当然起こりうる物だった。
ええ、とリーシャは頷く。
「今回の作戦領域は成層圏になるわ」
空の遙か上空。それが、此度の戦いの舞台だ。
「と言っても、『攻性惑星』の表面は『攻性惑星』自体が発生する重力があるので、地上と同様に行動出来るし、『攻性惑星』が存在している限り、攻性惑星から地球へ落下する、と言う事は起きえないから、そこは安心してね」
そんな物が近くにあれば地球そのものに悪影響を及ぼしそうだが、それが無いのは超常の存在であるが故なのだろう。
「だから、気にすることは、『攻性惑星』に辿り着くこと。それと、対処すべき敵について、ね」
『攻性惑星』への落下突入時は、極限まで集中力を高め、対空攻撃を回避し続ける必要がある。
ウイングスナッチャー群は対空砲撃よろしく『口から粘液の様な塊状の物』を射出して来るようだ。
「この粘液には『捕縛、足止め、服破り』の効果がある。回避に失敗すればするほど、着地後の状況が悪化してしまうわ」
速攻撃破が主目的となる戦闘だ。緩やかに回復する暇が取れない可能性も充分にある。徒に状況を悪化させるべきではないだろう。
「そして、みんなには敵の総司令官――聖王女の使徒フルンドを討って貰います」
それは聖王女を守護する棘を自称する、聖王女の使徒の名だった。
「『フィンブルの聖華隊』を率いていたのも彼女のようね。その長って認識でいいわ」
使用するグラビティは茨と歌に絡む物のようだ。攻守共に強力な相手の為、注意が必要だ。
「もしかしたら、『攻性惑星』の対空攻撃は、対ドラゴンの為に用意されたものかもしれないわね。ある程度の武力が無ければ、ドラゴンは交渉に臨むことすらしないでしょうから、ね」
ドラゴンに向ける為に用意された兵器を掻い潜り、壊滅させなければならない。
これまで以上の困難さが見込まれる作戦に、しかし、リーシャはケルベロス達を信じていると言い切る。それを成せるのは彼らをおいて他にいないことを、彼女は確信していた。
「だから、いつも通り送り出すわ。……無事、帰ってきてね」
いってらっしゃい。微笑と共に彼女はその言葉をケルベロス達に送るのだ。
参加者 | |
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シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653) |
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664) |
●落ちる番犬
びゅうびゅうと風が吹く。
風が吹くということは、空気があると言うことだ。この成層圏に於いて、やはり目の前にある攻性惑星は、文字通り『惑星』なのだと、認識を改める。
(「気持ち悪いデス」)
空へと落下する感覚に、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は表情を曇らせていた。
ヘリオンから飛び立ち、攻性惑星へと自由落下する。作戦内容は理解した。だが、常識と懸け離れた現状に、感覚が追いつかない。
「シィカさん、避けて!」
鋭い言葉はフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の物だ。同時に自身の羽根で空を叩き、軌道を変える。刹那、自身の影を薙ぐ物が居た。
「ウイングスナッチャーめっ!」
それは普段、穏やかな笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)にしては珍しい、荒い声だった。デコイと投げた幾多の植木鉢はしかし、今やただの木片と土塊と化していた。先に彼が名を呼んだ防衛装置――ウイングスナッチャーによる対空射撃によって、四散したのだ。
攻性植物によって生み出された攻性惑星。その表面を草木の如く覆うウイングスナッチャーの量は、おそらく有限だが数え切れない。もはや無限とも言うべき群体だった。
それを自由落下で突破し、地表へと辿り着く。それが、ケルベロス達に課せられた第一の使命だ。
(「困難な任務だけど」)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)は歯噛みの思いで嘆息する。
足が震えそうだった。だが、それを押して進むしかない。この恐怖に打ち勝たなければ、更なる大惨事が待っているのだ。
「レスキュードローン・デバイス! 墜ちました!」
悲痛な声は輝島・華(夢見花・e11960)から零れた。
空中での足場にと展開したドローン群だったが、鐐のデコイ宜しく、ウイングスナッチャーの攻撃の的となったようだ。
「でも、お陰で――!」
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)によって牽引されたヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が叫ぶ。
二人の展開したデコイとドローンのお陰か、ケルベロス達に届いた粘液弾は少ない。このまま地表へと到達すれば、或いは――。
(「気持ち悪い粘液塗れになりたくないですものね」)
環は真顔で頷く。本心からの言葉だった。
そして、足に衝撃が伝わった。
それは慣れ親しんだものと同じだった。地表へ降り立った時と同様、彼らは攻性惑星へと降り立ったのだ。
「ふふ。やるわね」
既に見えなくなったヘリオンを見上げ、ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)は親指を立てる。
速攻撃破が主目的とヘリオライダーは言った。それはその尽力への賞賛だった。
「何故、あなた達が?!」
焦燥の声が響く。
修道服姿の金髪のオラトリオ。そうとしか形容出来ない敵の真正面が、ケルベロス達の着地地点であった。
●使徒は唄う
歌が響く。
それは聖王女を讃える歌で、死を呼ぶ叫びで、そして敵を仇なす喚び声だった。
歌が響く。
番犬の剣戟は茨を切り裂き、闇を切り裂き、惑星をも切り裂いていく。
「ファレさん!」
「了解、フローネっ! ――どかーんっ!」
枝分かれした茨鞭をくぐり、左右に展開する影があった。
フローネとファレである。
フローネの射出した竜砲弾は無数の茨をブチブチと斬り裂き、同じくして放たれたファレの呪詛は使徒が立つ地面そのものを地獄化。発生した爆撃がその足に食らいつく。
「猛烈な雨にご注意ください、なんてね?」
踏鞴踏む彼女に降り注ぐは無数の刃、そして熱鉄の飛礫だ。
環が喚び出した刃と鉄砂の雨に身体を灼かれながら、フルンドは吼える。
「下がりなさいっ!」
叫びは歌だった。
戦鎚の如き一撃と化した歌声に、環の身体は吹き飛ぶ――それよりも早く。
「それではケルベロスライブ、スタートデース! ロックンロール!!」
「ブルーム。お願いしますわ」
シィカのギター、そして華のサーヴァント、ブルームの前輪が盾と化し、その一撃を防ぐ。
「想いの結晶たる至高の酒杯よ! 汝が根源たる癒やしの力を示せ!」
シィカの歌が響き、華が喚んだ薬液の雨が降り注ぐ。同時に、空へと掲げられたのは鐐の献杯だった。酒精が渦巻き、シィカ達前衛に痕残す粘液の穢れを祓い除ける。明燦もまた、主と共に属性を付与し、穢れの祓いに努めていた。
「特別サービス、この情報はタダで教えてあげるよ!」
フローネとファレが刻んだ道を指差しヴィルフレッドがふっと笑う。
道は穿たれた。無数の茨が蠢きそれを修復しようとも、瞬時に元へと戻る訳ではない。その一瞬こそが即ち、フルンドの弱点だ。
「行きますっ!」
アリッサムの振り下ろした腕が断ち切ったのは、茨とフルンドだけでなかった。断ち切ったのは己の震え。そして、迷いだ。
そう。既に賽は投げられた。今は目の前の敵を倒す。それが自分達に課せられた第二の、そして本命の使命なのだ。
●いばらよいばら
茨が飛ぶ。
それは外敵を打ち破る為。
茨が伸びる。
それは、敵を引き裂く為。
茨が走る。茨が舞う。いばらが、いばらが――。
それは槍だった。穂先の如く伸びた茨をしかし、黒い影は紙一重で躱す。
「残念。それは読めていたよ」
挑発の言葉と共にヴィルフレッドが放ったそれは、氷結の螺旋だった。
修道女姿の敵を絡め、凍傷を刻み込む。
言葉通り、もはや勝敗は読めていた。この10分足らずの攻防で、ケルベロス達もフルンドも全ての手の内を明かしていた。
「もう、歌は響かせない!」
環のチェーンソー剣が音を立て、茨をズタズタに切り刻む。たまらず後退するフルンドに、しかし、更なる追撃の手が掛かる。
「さあみんな、殺っておしまい!」
ファレはどや顔と共に神撃槌の一撃をフルンドに畳み込む。如何にデウスエクスと言えど、超重の質量を受けてはたまった物ではなかった。妙齢の乙女を象った身体は吹き飛び、地面へと叩き付けられる。
「定命種がっ!」
「その定命種に倒されて下さい!」
彼我の距離を詰めたのは如意棒を手にしたアリッサムだった。目を見開くフルンドへ、双截棍と化した如意棒を振るい、白い肌を殴打する。
「くっ」
フルンドの口から零れたのは生命を表す紅ではなく、薄橙の液体だった。刹那、オラトリオの外見の彼女が、その実、違う生命であることを悟ってしまう。
「やれやれデース。反骨心はロックと認めても良いのデスが」
だが、それが手を止める理由にならないと、シィカは竜の爪を振るう。斬り裂くは茨。その奥に眠る魔除けの加護だ。
「聖なるかな聖なるかな聖なるかな」
唱えること3度。三度と刻まれた聖句が吹き飛ばしたのは――仲間への盾と割り込んだブルームであった。
氷嵐を孕む言葉に、だが、ブルームは空中で身体を立て直す。
使徒の一撃は強力で、しかし、それでも倒れる理由はない。もはや勝利は紛れもなく、ケルベロスの掌中であった。
故にフルンドの唇は一つの語句を形成する。何故、と。
「何故なのですか。聖王女様! 此処で私が、貴方の棘たる倒れる筈ないのに!」
「――何故、ですか」
呟きは華からだった。
明燦と共にブルームを治癒する彼女はそのまま、真摯な瞳をフルンドに向ける。
「ここに私たちが至ったのは、危険を冒してまでも調査へ行って下さった仲間がいたから」
「あなた達を捉えたのは、その情報を必ず活かすと私たちが決めたから」
今、ここに居ない妹の片眼鏡を握り、フローネが言葉を形成する。続けざま、両手が握ったのは金剛石の戦鎚だった。振り上げ、背部に備えた増幅器を起動する。
「吼えなさい、ダイヤモンド・ハンマー! ――鉄槌!」
響く轟音は、雷神の一撃をも凌駕していた。
咄嗟に両腕を交差し、自身を庇ったフルンドは、その双肢がもはや、意味を為さない物に転じたことを知る。彼女が聞いた轟音は風斬り音、衝突音、そして、両腕が砕かれる破砕音だった。
「そもそも此処に来ることが出来たのも、ヘリオンが成層圏まで到達出来る装備を有したからだが」
故に、この勝利は自身達だけではない。幾多のケルベロスと、そして地球に住む全ての人々がもたらした賜物だと、鐐は言う。
「吼えるな、定命種!」
「己が信念を貫くのに命の長短など関係ない! 相容れぬなら食い止めさせてもらおう、盾たる我が身の誓いをもってな!」
咆哮と共に繰り出されたのは巨大な平手打ち――白熊の巨掌による殴打であった。
跳ね上げられたフルンドはしかし、最後の力を振り絞り唇を揺らす。
「残念デスが、ライブはもう、終わりデスよ!」
それが紡がれる寄りも早く、シィカがギターを掻き鳴らし、同時にケルベロス達が一斉に動いた。
ウィルスカプセルが、斬撃が、砲弾が、獣の牙が、氷結輪が、冷凍光線が、炎が、使徒の纏う修道服毎、その身体を砕き、灼いていく。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
最後に放たれたのは無数の刃と化した花弁だった。
吹雪の如き細かい刃に覆われ、フルンドの悲鳴が響く。白い肌は斬り裂かれる傍から光の粒子へ化し、消えていった。
「――微笑った?」
ただ、ファレの小さな呟きだけが、最後に残されていた。
●それは人類の希望の一撃
轟音が響く。
振り返る空には、青い色が映っていた。その正体が空に浮かぶ地球である事は、8人全員が理解している。
だが、轟音の主はそれではない。それは――。
「ケルベロスブレイド!」
ヴィルフレッドが歓声を上げるのも、無理らしからぬことだった。
その巨大戦艦を彼らは知っていた。
万能戦艦ケルベロスブレイド。季節の魔力と世界中の人々の祈りによって完成した、対デウスエクス兵器の名だった。
「成る程。まさしく今の状況にはうってつけ、か」
感心したように鐐が頷く。攻性惑星を討つのにこれほど迄に適した兵器はあるまい。
8人のケルベロス達が見守る中、ケルベロスブレイドは更なる展開を行っていく。
飛び出したのは無数のヘリオンだった。数はもはや、数えるべくもない。無数の機体が宇宙空間に広がり、そこに載る仲間達の足場と化している。
「脱出しなきゃ」
見惚れている場合ではないと、アリッサムがジェットパック・デバイスを展開する。同じく環もまた同ヘリオンデバイスを展開。自力飛行可能なシィカを除き、仲間達を虚空へと踊らせた。
砲撃はそれと寸分違わず、発せられていた。
ケルベロスブレイドの角から迸った電撃は攻性惑星そのものを打ち砕き、燃やしていく。ヘリオンやケルベロスブレイドの甲板から放たれたグラビティはウィングスナッチャー毎攻性惑星を灼き、表面にヒビ割れを発生させていく。
その一斉攻撃に攻性惑星が耐えられる筈もなかった。
「これで終わり……かな?」
砕けていく攻性惑星を視界に収めながら、環が呟く。
流石に成層圏とは言え、何らかの魔法的な影響か。崩壊し、零れ落ちた惑星の欠片が空気の摩擦熱で燃え尽きることはなさそうだ。おそらく、下方に浮かぶ竜十字島へと流星群の如く、降り注ぐのだろう。
「これで、攻性植物の目論見は打ち砕いた……かな?」
「それは」
華の呟きに、フローネは頭を振る。
攻性惑星の撃破で、ドラゴンとの合流は防いだ。それは事実だ。だが、倒した数体の司令官――とりわけ、使徒と自称するフルンドの撃破が後々、どのような影響を与えるのか。それはまだ判らない。
それに懸念はまだあった。
「……それが微笑の意味、ね」
地面へと落ち行く巨大な欠片を見送るファレから唾棄の言葉が零れる。
その欠片は大きく、その質量もあれば地面へと叩き付けられ、砕ける運命にある。それが、通常の欠片なら。
「まさか!」
驚愕は誰のものだったか。
それが白色の光に包まれていなければ、ただの惑星の欠片として、見落としていたに違いない。
角がざわつく。羽根がざわつく。何より肌が粟立つ。
その光が、聖なる物だと気付いてしまったが故に。
そして、身体からの訴えは、それだけではなかった。
「終わってなかった、デスね」
首筋を襲う感覚に、シィカが顔を上げる。
その衝動に駆られたのは彼女だけではない。8人全てが、そしてサーヴァントである明燦やブルームですら、見上げるように宇宙空間へと視線を傾ける。
答えを知るより早く、吹き荒れた衝撃破が彼らの身体を吹き飛ばしていた。
●それは最強最悪の
視認とは、網膜に光が飛び込んできた現象を意味する。
つまり、光より速い物を視認することは、如何に超人であれどケルベロス達には不可能であった。
それでも、今まで、そのような不足な事態は発生しなかった。
光速以上の速度を出す物など、如何に規格外のデウスエクスと言え、存在しなかったからだ。
だから、それらは超常存在であるデウスエクスの中の、それ以上の規格外の存在であったのだ。
衝撃波の後、次に聞こえたのは咆哮だった。
その声で思い知った。自身ら、そしてそれらは既に大気圏内に突入し、声が届く空間にいるのだと。
「空間転移? 違う――」
空中で体勢を立て直しながら、環は呟く。
それらは、その手段を喪った集団だ。そいつらのゲートはケルベロス達が破壊したから。
「そんな」
空を見上げ、アリッサムは言葉を失う。気を張らなければガチガチと奥歯を鳴らしそうだった。
彼奴らは現れた。
想像を絶する距離を、知りうる速度を超えた超速度で飛来し、この場所へ。
彼奴らは吼えた。
生きとし生くる物全てを凍らせる咆哮を。それだけの力が彼らにあった。
彼奴らは唸った。
飢えと渇きによって。仲間を喰らい、自尊心や誇りを喰らい、彼奴らはやってきたのだ。
「ドラ、ゴン?」
空に現れた固体最強のデウスエクスの名を、ファレが絞り出す様に呟く。
「ここは、行かせません」
「デスよ」
それでも仲間の盾になろうと、鐐とシィカが両手を広げる。
刹那。
ドラゴン達は牙を剥く。
それが向けられたのは空を飛ぶケルベロス達――否、落ちていく攻性惑星の欠片達だった。
「攻性惑星を……食べてる?」
フローネは唖然とそれを見下ろしていた。
そう、ドラゴンは食べることで成長する個体だ。だがそれでも。
華は独白する。この光景が予想出来た物なんて、いないだろう、と。
「攻性惑星そのものを栄養にするなんて……」
そして、動いたのはドラゴン達だけではなかった。
空に浮かぶケルベロスブレイドもまた、その角を、砲塔を、蠢く群れへと突き出す。
再度、轟音が空へと響いた。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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