攻性惑星撃墜作戦~食後のデザート、和か洋か

作者:砂浦俊一


「城ヶ島の決戦時に、未確認の魔空回廊の探索に赴いたチームから通信が入りました。『回廊の出口は島根県隠岐島、ここに攻性植物拠点を発見』とのことです」
 シャドウエルフのヘリオライダー、セリカ・リュミエールの話に、集められたケルベロスたちは目を見開く。これは大変な発見だ。
「この発見がなければ一大事でした。と言うのも、拠点の位置を暴いたタイミングで攻性植物側が『竜業合体ドラゴンの到来』を察知したのです。ドラゴン救援のため、攻性植物側は拠点を惑星型に変形させた『攻性惑星』で成層圏へと上昇、そこから竜十字島上空まで移動するつもりです」
 そしてドラゴンと合流して空域を離脱、消耗したドラゴンたちの回復を行い、戦力を増大させる、それが攻性植物側の狙いだろう。
「この『攻性惑星』への強襲が今回の作戦です。ニーズヘッグ無き今、攻性植物の合流を阻止すれば竜業合体ドラゴンもグラビティ・チェインの枯渇で壊滅状態になるでしょう」
 しかし合流を阻止するのも一筋縄では行かないだろう。
 続くセリカの説明は、こういうものだった。
 件の『攻性惑星』は、ヘリオンで接近して有志のケルベロスによる遠距離一斉攻撃で撃破は可能。
 攻性植物側もそれが判っているのか、対策として『攻性惑星』表面に対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』を無数に配備。この防空網がある限り、へリオンは近づくこともできない。
 厄介な防空網だが、隙はある。『攻性惑星』表面で『ウイングスナッチャー』たちの制御を担い、指揮するのは聖王女の側近たち。この防空網の要と言える指揮官たちをピンポイントで撃破すれば、対空攻撃を一定時間止めることができる。
「防空網からの対空砲火はヘリオン以上のサイズは完全に撃墜します。ですが人間サイズであれば、弾幕を避けての突入も不可能ではありません。皆さんにはヘリオンで敵の移動ルートの上方へ先回りし、タイミングを計って降下してもらいます」
 防空網をすり抜けて『攻性惑星』表面にたどり着き、敵指揮官を撃破。その後は有志のケルベロスたちが一斉攻撃を行う――これが今回の作戦だ。
「戦場は日本上空の成層圏です。『攻性惑星』への降下時は、極限まで集中力を高めて対空攻撃を回避し続けてください。『ウイングスナッチャー』は口から『粘液の塊のようなもの』を射出します。これには『捕縛、足止め、服破り』の効果があります。『攻性惑星』自体が重力を発しているため、表面への着地後は地上と同様の行動が可能です」
 無数に配備された敵からの対空攻撃、1回の攻撃でも何百単位の弾幕同然だ。被弾が重なれば着地後の状況が悪化する。回避の失敗は可能な限り避けたい。
「皆さんが狙う指揮官は『果樹園パフェ&果樹園あんみつ』の姉妹です。姉のパフェが洋風デザートを、妹のあんみつが和風デザートを作る、攻性植物勢力のおやつ作り担当です。デザート性の違いから姉妹喧嘩になり、どちらが優れているかを戦いで決めるため出撃してきました。聖王女は、一緒に戦う事で仲直りして欲しい、そういう考えのようです。姉妹の攻撃手段については、こちらの資料を」
 セリカがケルベロスたちに果樹園姉妹の資料を配布する。
 本来なら非戦闘要員の姉妹だが、戦場で指揮を担えるだけの実力はあるのだろう。油断は禁物だ。
「『攻性惑星』の重力圏からはジェットパック・デバイス等で上昇することで脱出できます。味方の一斉攻撃に巻き込まれないよう、指揮官の撃破後は速やかに離脱してください。危険な任務ですが、皆さんの御武運、お祈りします」
 戦場は成層圏。
 ケルベロスたちを乗せたヘリオンが発進シークエンスに入る。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
カルロス・マクジョージ(満月の下でディナーはいかが・e05674)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)

■リプレイ


『各員、降下用意』
 機内に流れる操縦席からの音声。
 迷彩服や迷彩マントを羽織ったケルベロスたちは席を立つ。
「ドラゴンへの補給目的に、攻性植物で惑星作って飛ばすだなんてよく思いついたもんだ」
「ここから飛び降りるのって……何と言うか、流石ね」
 戦いの舞台は成層圏。
 開いたヘリオンの後部ハッチから下方を見下ろす相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)の視線の先には、空中移動要塞・攻性惑星。隣のセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)は髪を一本に結び、唇に紅を差す。
『降下開始! 後で必ず迎えに来ます!』
「少し見渡すとー、地球が見えますわねぇー。混乱して酔わないようー、皆様ご注意をー」
「では参りましょう」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)と之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)が先頭を務め、両者が装備したジェットパック・デバイスが仲間たちを牽引する。
 ケルベロスたちを送り出したヘリオンは安全な空域へと離脱していく。
 敵も気づいたか、攻性惑星からの対空攻撃が始まったのはこの直後だ。
「一発だって貰う気はないわ!」
「ええ、誰も傷つけさせはしません」
 無数に配備された対空攻性植物のウイングスナッチャーの弾幕を避けるべく、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)はデバイスから囮のレスキュードローンを飛ばし、ジークリート・ラッツィンガー(神の子・e78718)は味方の加護とするべくジークリート楽団を高らかに謳う。残りの面々は回避に専念する。苛烈な対空攻撃も降下速度を考えれば被弾の機会は一度か二度、そこを全力で避ければいい。
 他チームも降下中だろうが確認する余裕はない。今は自分たちの降下に専念するのみだ。
「目標を捕捉シタ! コッチは防空網がちょっとだけ薄イ!」
「みんな、このルートなら被弾率が少ないよ。これで行こう!」
 ゴッドサイト・デバイス装備のアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)が敵指揮官の位置とルートを割り出し、カルロス・マクジョージ(満月の下でディナーはいかが・e05674)がマインドウィスパー・デバイスでそれを仲間に伝える。
 ケルベロスたちを牽引するジェットパック・デバイスが加速し、針の穴のような防空網の隙間を潜り抜けていく。
 そして――攻性惑星の表面では果樹園姉妹が上空を見上げていた。
「食後のデザート、和か洋か」
 妹の方、果樹園あんみつが銀の匙を撫でた。
「当然、洋」
 姉、果樹園パフェが金の匙をくるりと回す。
「姉さんは昨日の食後を担当したでしょ。今日は私よ」
「あんみつこそ3時のおやつを作ったじゃない」
 姉妹は顔を近づけて睨み合ったが、すぐに上空へと向き直った。
 和洋どちらのデザートが優れているか、白黒つけるためにこの場にいる。姉妹はそのことを思い出す。


 攻性惑星の緑の表面が、降下するケルベロスたちに迫る、迫る、迫り来る。
 醜悪なカエルのようなウイングスナッチャーどもの姿も視界いっぱいに映る。
 ジェットパック・デバイスのビーム牽引が解除され、ケルベロスたちは着地態勢に入る。
「決めるぜ着地! この筋肉に不可能はねえぜ!」
 芝生のような植物に覆われた表面への着地と同時に、泰地はブレイクポージングを決める。目指す果樹園姉妹までは十数メートルほどの距離。降下してきた距離と弾幕の回避によるズレを考えれば誤差の範囲だ。
「対空攻撃は続行っ」
「どちらがより多くのケルベロスを倒せるか……これは私と姉さんの勝負っ」
 ウイングスナッチャーたちに指示を下した果樹園姉妹が、巨大な匙を掲げて駆けてくる。
「パフェのようなドレスにあんみつのようなドレス、どちらも美味しく頂戴しましょうー……紗ァ、貴方へ業火ノ花束ヲ!」
 額から地獄を迸らせたフラッタリーは野干吼を担ぎ上げ、あんみつより先行していたパフェに斬りかかった。両者の得物が激しく激突する中、アリャリァリャは狙いをあんみつに定める。
「ウチはあんみつもパフェも好きだし、ナンナラひとつの器で共存できルと思ウ。姉妹で協力した方がおいしいおやつになれルんじゃあネーカナ!」
 展開する肩と手足の装甲、乱射される小型ミサイル群。
 至近にいたウイングスナッチャーも巻き添えに、あんみつを爆炎で包み込む。
「たとえ味覚が違っても。たとえ姉妹じゃなくっても。たとえ食べる量が違っても? 私はローレと皆を守り通すわ。あなたたちの目標は私たちじゃなかったの?」
「セレスさんがやりたいこと、全力でお手伝いする!」
 セレスティンは味方へサークリットチェインを展開、その彼女へとローレライは祝福の矢を射る。
 跳躍したしおんは、あんみつの直上から太陽光に紛れての一撃。
「昨日いただいた、わらび餅とほうじ茶アイスのパフェは美味しかったですよ」
 その言葉に姉妹の顔色が真っ赤になる。
「和洋折衷……?」
「どちらか片方にしなさいな!」
 優劣を決めたがる姉妹を怒らせるには、充分すぎる挑発だった。
 姉妹は前のめりでケルベロスたちに向かってくるが、連携などまるで頭に無い動き。
「泰地さん、今のうちに受け取ってください」
「姉妹を分断できれば各個撃破も容易いはず……みんな、イメージを送信するよ。この陣形でいこう!」
 寂寞の調べを謳うジークリートの隣で、カルロスは思い描いた陣形を仲間たちへ送信、さらに水晶の輝きが齎す力でBS耐性を付与していく。
 果樹園姉妹も怒りの反撃を開始し、攻性惑星での戦いは激しさを増していく。


 果樹園姉妹は攻性植物勢力のおやつ係。
 スイーツや和菓子で同胞たちの舌を楽しませ、士気を高めるのが本来の役割だ。
 非戦闘員で、他の指揮官と異なり二人一組。それでも防空指揮の一角を任されただけのことはある。姉妹はケルベロスたちに一歩も引かず、戦局は一進一退。
「パフェ特製苺のミルフィーユ、身も心も溶かしてあげるっ」
「あんみつ自慢の白玉ぜんざい、とくと味わいなさいなっ」
 ケルベロスたちはパフェの抑えに回る組、あんみつを囲む組に分かれて立ち回り、攻撃と挑発を繰り返しながら徐々に姉妹を引き離していく。
「甘味は好物だ。甘党だからな!」
「皆が決死の思いで届けてくれた機会、無駄にできないっ」
 パフェが撃った苺型光弾の直撃に耐え、泰地は旋風の如き蹴りを繰り出す。その彼の支援に、ローレライは魔法の木の葉を舞わせて回避能力を底上げする。
「ギヒヒ、喰うカ喰われルカッ」
「Nobiscum deus」
 無数の白玉ぜんざいからの催眠効果をアリャリァリャはシャウトで振り払い、ジークリートは癒しのグラビティを奏でる。
「おっと、僕たちはやられるわけにはいかないんだ……ってね!」
 カルロスが左からあんみつに拳を撃ち込み、右からはしおんの電光石火の蹴打。
 たまらずあんみつは後ずさり、黒蜜から癒しの波動を放とうとする。
 その彼女へと、しおんがこう問いかけた。
「気づいていますか? お姉さんとずいぶん離れてしまいましたよ」
「何を――」
 怪訝そうに眉をひそめたあんみつが周囲を見回す。いつしか彼女はパフェと引き離され、ケルベロスたちに囲まれている。さらに背後にはセレスティン。
「味覚が合わないのは大変よね。スイーツという点では合致しているのに。せっかくの姉妹だもの、頼って頼られてっていう関係は素敵じゃない?」
 粉骨乱舞。
 召喚されたスケルトンゴーストがあんみつの生気を盛大に奪い取り、眩暈を起こして膝が折れたその瞬間をフラッタリーは逃さない。
「舌禍、六根焼灼セShIメ。木灰ノ地味スラ馳走ト成ラN」
 真一文字に振り下ろされる野干吼、刃に乗せられた地獄の劫火が、植物の生い茂る表面もろともあんみつの体を焼き焦がす。
「あんみつ!」
 燃え尽きゆくあんみつの姿にパフェは絶叫した。
 おやつ係の姉妹、どうして心が離れてしまったのだろう。
 パティシエールにはパティシエールの誇りが、和菓子職人には和菓子職人の矜持があるだろう。しかし甘味で同胞たちの日々を潤し、明日への糧とする、そこに違いはないはずだ。
「和風スイーツを極めようとする貴女がいたから、私も洋風スイーツの遥かな頂を目指すことができたのにっ」
 なのに、どうして、どちらが優れているかなんて喧嘩をしてしまったのだろう。
 喪ったものの大きさにパフェは慟哭する。
 哀しみはやがて憤怒に変わり、矛先がケルベロスたちに向けられる。
「……許さない。妹の仇は、姉の私が討つ!」


 怒りと涙で顔をぐしゃぐしゃにしたパフェが、猛烈な勢いで襲いかかってきた。
 回復役はサーヴァントのシュテルネとアルバリドラに任せ、ケルベロスたちも総がかりで立ち向かう。しおんがきらきらハンマーを、ジークリートがきらきらドリルをパフェへと叩きつけた。しかし彼女の足は止まらない。
「自分独りで僕たち全てを倒そうって勢いだ……!」
「だが討たれるわけにはいかない!」
 跳躍したカルロスの浴びせ蹴りに続いてローレライはアームドフォートを斉射、さらにフラッタリーの斬撃がパフェを炎で包む。
 両脚の痺れにパフェは転倒して地面を滑る。
 肌もドレスも黒焦げ、それでも彼女は金の匙を杖に立ち上がり、渾身の苺型光弾を撃つ。
「できれば仲直りさせたいと思っていたの。本当よ? だって、これがあなたたちにとって最後の戦いになるのだから――後悔も、容赦もなしよ」
 光弾はセレスティンが張り巡らしたケルベロスチェインによって阻まれる。そして泰地の虎爪刃手甲が金の匙ごとパフェの体を切り裂き、アリャリァリャが突撃した。
「ダイ、コン――おろーし!」
 おやつ係の敵に手向ける、炎と重力が織りなす至高の一皿。名物・大魂颪焼。
 全身を焼かれながら、パフェは天を仰いだ。
「ねえ、あんみつ。今日のデザートは私と貴女、どっちが作る……? ううん、2人で一緒に、作ろっか……」
 パフェが燃え尽き、司令塔の姉妹を失った周囲のウイングスナッチャーは沈黙していく。

 任務は成功、後は味方の一斉攻撃が飛んでくる前に脱出だ。
「ここの土と植物……何か情報が得られるでしょうか?」
「では、わたくしも少々」
 しおんとジークリートは惑星表面の毬藻のような塊を手早く採取すると、仲間たちとともにジェットパック・デバイスに牽引されて急上昇する。このエリアのウイングスナッチャーは無力化されている。降下時と違い、撃たれる心配はない。
「おやぁー? ヘリオンとは違いますわねぇー?」
 惑星の重力圏から出る間際、フラッタリーが見たのは、急速接近する巨大な空中戦艦の威容だった。
 その名はケルベロスブレイド。
 人々の願い、祈りが魔導神殿群ヴァルハラに注がれて誕生した万能戦艦。
 今回の作戦開始後に完成したケルベロスブレイドの、これが初陣だった。
 ケルベロスブレイドは射程に攻性惑星を収めると同時に、多数のヘリオンを展開。そして攻性惑星めがけ、ケルベロスブレイドからは極太の雷撃が、艦またはヘリオンに搭乗のケルベロスたちからは一斉攻撃が放たれた。
 無数の光の筋は攻性惑星へと吸い込まれるように飛んでいき、直後に惑星は爆散する。
 破壊された攻性惑星は粉々に崩れながら竜十字島へと落ちていく。
 ケルベロスブレイドの強大な力に、誰もが快哉の声を上げ、勝利を讃え合った。
 だが、喜びは束の間。
 何の前触れもなく、突如としてケルベロスたちの眼前に無数のドラゴンが出現した。
 ケルベロスたちは言葉を失う。攻性惑星の崩壊を見ていたのに、瞬きをしたら、恐ろしい数のドラゴンが現れていた。そうとしか形容できなかった。
「竜業合体ドラゴンの本隊……か?」
 泰地の視線は、崩れゆく攻性惑星にドラゴンの群れが喰らいつく光景に注がれていた。ケルベロスたちが惑星表面に降り立っても、ウイングスナッチャーに対空攻撃続行の指示が出たのは、これらドラゴンへの牽制のためだったのかもしれない。
 ドラゴンの群れに向けて、ケルベロスブレイドから再度の一斉攻撃が放たれる。
 再び巨大な爆発が起こり、何匹かのドラゴンが力尽きて攻性惑星とともに落下していく。
 だが、ゲートを破壊され、数多の同胞を犠牲に地球に辿り着いたドラゴン達は、それで諦めようともしない。
 ドラゴンの群れは巨大な顎を開き、ケルベロスブレイドに向けて殺戮の雄叫びを上げた。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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