攻性惑星撃墜作戦~白衣の演算者

作者:麻人

「攻性植物拠点を見つけたっていう通信があったっすよ! しかもそいつは移動中で、竜十字島の上空で竜業合体ドラゴンと合流する予定だってことがわかったんっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は集まったケルベロスたちに幾つかの情報を告げた。
 まず、この通信は城ケ島の決戦時に未確認であった魔空回廊の探索に向かっていたケルベロス達からもたらされたこと。彼等の決死の探索行がなければ手遅れになっていたかもしれない。
「実は、こっちが攻性植物拠点の位置を暴いたのと同時にあちらさんも『竜業合体ドラゴンの到来』を察知したっす。ほっとけばこのまま成層圏を移動してドラゴン達を回収、回復させながら空域を脱出するつもりっすよ」
 攻性植物拠点が発見されたのは魔空回廊の出口に位置する『島根県隠岐島』。そこから成層圏まで上昇するため、拠点は惑星型に変形して遥か空の彼方へと飛び立ったのだ。

「攻性植物拠点が変形した『攻性惑星』自体は、大勢のケルベロスが力を合わせれば遠距離攻撃をぶつけることで撃破できるっす。移動はヘリオンを使えばいいっすよ。なんとか間に合うタイミングで情報を得られたのが幸いっすね……もうニーズヘッグは全滅してるんで、この合流さえ阻止できれば竜業合体ドラゴンはグラビティ・チェインが枯渇しきって再起不能に陥るはずっす」
 つまり、竜業合体ドラゴンたちにとってはこれが生き残りを賭けた最後の機会ということになる。
「ここで攻性惑星を仕留めて、奴らに引導くれてやりましょう。もちろん、相手もそれがわかってるから本気でくるっすよ。惑星表面には対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』をびっしり配置して近づくものを片っ端から撃ち落とすつもりっす」
 ただし、このウイングスナッチャーの防空網には盲点がある。ヘリオン以上の大きさのものは完全に撃墜できるが、それが人間サイズとなれば命中させることは途端に難しくなってしまうのだ。
「というわけで、皆さんにはヘリオンから飛び降りてウイングスナッチャーの弾幕をかいくぐり、攻性惑星表面にいる有力敵を撃破してほしいっす」
 攻性惑星の防空網を制御しているのは聖王女の側近である8体の攻性植物だ。彼女らを撃破できれば防空網は無力化され、ヘリオンで近付いて遠距離からの一斉攻撃が可能となる。

 ――戦場は成層圏。
 日本のはるか上空、大気と宙を繋ぐ空間層である。
「攻性惑星の表面にいる無数のウイングスナッチャーは『粘液の塊みたいなものを口から射出』してくるっす」
 その効果は『捕縛』、『足止め』、『服破り』。
 回避に失敗すればするほど、着地後のハンデが大きくなる。これを躱すため、攻性惑星への落下突入時には出来うる限りの集中力で対空攻撃を回避し続けなければならない。
「どうやら重力が働いてるみたいなんで、攻性惑星の表面に着いてからは地上と同じように動けるはずっす。例えば、惑星の下側にまわっても落ちるようなことはないってことっすね」
 この班が担当する、撃破すべき指揮官攻性植物の名はケテル。魔術師型の攻性植物である彼は攻性惑星の操舵を担っている。
「攻性植物勢力が使用していた、不完全な魔空回廊を制御してたのもこいつっすよ。竜業合体で地球に到達するドラゴンの時間や座標を計算し、最適なタイミングで合流する為に攻性惑星の表面にまで出てきてる今が倒す絶好の機会っす」

 説明を終えたダンテは肩の力を抜き、これから成層圏へ向けて発つケルベロスを励ますように笑った。
「にしても、危ないとこだったっすよね。攻性惑星に関する情報がなければ、みすみすドラゴンとの合流を許すことになってかもしれないんすから……危険を承知で探索に向かってくれた皆さんのおかげっす」
 彼等の健闘を無駄にしないためにも、攻性惑星はここで止めねばならない。
「司令官攻性植物の撃破が成功すれば防空網が無力化して他のケルベロスを乗せたヘリオンが近付けるようになるっす。作戦の成功、祈ってるっすよ」


参加者
伏見・万(万獣の檻・e02075)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)

■リプレイ

●宙にもっとも近い場所で
 成層圏――雲海を超え、視界を遮るものは何もない。星々だけが輝く空にあって、唯一緑色の巨大な球体はひどく目を惹いた。あれなら絶対に見失うことはあるまい。
「それじゃ行くよ! みんな、準備はいいよね?」
「降下5秒前、4、3、2、1、降下開始。SYSTEM COMBAT MODE」
 ――はじまった。
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)とマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)を先頭に列を為して飛び降りてゆく。アームドアーム・デバイスに装着されたスマートシールドが落下の衝撃を殺しつつ、こちらを狙い撃つウィングスナッチャーの着弾を受け止めた。ナインのバーニアが火を噴き、螺旋を描くように攻撃を躱す背中に張り付いた狼――伏見・万(万獣の檻・e02075)が低く喉を鳴らした。彼とジェミ・ニア(星喰・e23256)がジェットパック・デバイスで仲間を牽引することで、彼らは単に自由落下するよりはよほど自由の効く態勢で攻性惑星を目指すことができた。
(「こうして間近で見ると、なんともまぁ壮大なやり方じゃ…………!」)
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)は眼下に迫る惑星の巨大さに目を瞠る。ゴーグル越しに見るそれは圧倒的なまでの存在感を放ち、こちらを拒む。

(「あそこに攻性植物幹部がいるんだ」)
 ジェミはウィングスナッチャーの対空攻撃をかい潜りつつ、ゴーグルで覆った目を凝らした。
(「この機会、絶対に活かす!」)
 あんなものをびっしり用意するくらいだから、こちらが強襲することは攻性植物側も想定済みなのだろう。それにしてもとジェミは改めてウィングスナッチャーの性能に舌を巻いた。
 ジェスチャーでそれを伝えると、湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)が大きく頷く。ゴーグルに酸素供給装置、ブラスター及びスラスター類。他にも様々な装備がこの作戦のために投じられていた。当然、声は通らないしアイコンタクトも難しいがゆえの手信号である。
 響はエインヘリアルに使役されていた頃にウィングスナッチャーの噂を聞いたことがあった。なんでも、攻性植物の対空砲は恐るべき存在であったらしい。はるか下方より打ち上げられる弾幕の数、数百や数千では足りるまい。シルディのシールドが身代わりとなって砕け、燃え尽きながら地上へと流れ落ちてゆく。大気圏の凍えるような寒さもエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)にとってはなんということはなかった。
 ――きまス。
 下がるように手をかざし、自らは踊るように華麗に躱す。仲間たちの居場所はチェイスアート・デバイスの輝きによって見失う心配はない。
「地表まで残り三分の一を切ったのじゃ!」
 唯一、マインドウィスパー・デバイスによってその声を届かせることのできる括がマークからの伝言を全員に向けて告げた。
「了解だよ!」
 夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)は心に念じ、スラスターを発射。器用にレスキュー・ドローンを蹴って、惑星に対して正面を向くように態勢を整える。惑星までの距離が縮まるごと、敵の射角が直上に近づいた。それまで蛇行して弾を避けていたシルディは小さめのいびつな旋回機動に切り替え、細かく弾道を見極める。
「わわっ、すごい弾幕! 使うならここだね!」
 薙ぎ払った際に粘液塗れになったガジェットウィップを投げ捨て、マークも使い切ったブースターを切り離す。
「――ケテル」
 AIが捉えたのは確かに白衣の男、攻性惑星の操縦を担う幹部の姿であった。すぐさま最適な降下地点とコースが算出完了。括を中継し、全員に伝達。
「待っていろ、すぐにそちらへいく」

●白衣の演算者
 はるか眼下に地球を望む空の果てで、敵軍の幹部と会いまみえる――ものすごい状況だ、と響は思った。少し心臓がどきどきするが、震えるほどではない。
 それはきっと、心強い仲間たちと居るからだ。
「私、皆さんとならきっと……無事にやり遂げられると信じていますわ」
 エトヴァが頷き、
「必ずや成し遂げましょウ」
 大切な友人達を思い、此処で決着をつけるため。他の班も続々と地表へ降り立ったのか、徐々にウィングスナッチャーの攻撃が鎮まっていった。
「さて、と……あなたには、聞きたいことがたくさんあるんだよ」
 璃音が言い、ケテルが首を傾げた。
「こちらにはない」
「そっちになくてもこっちにはあるんだ! 少し相手になって――」
 ヒュッ、と彼の花が鋭く輝いた。庇ったマークのショルダーシールド表面が一瞬にして焼け焦げる。
「ない、と言っている。お前たちに構っている暇はないのだ」
 ケテルの花は彼の思考を読むかのように自律して動いているように見えた。邪魔されたことが気に食わなかったのか、今度は毒の牙を剥いて唯一近接攻撃が届く場所にいたマークとシルディに狙いを定める。
「ぐ――」
 即座にマークは遠心防御で守りを固め、シルディは見得をきるついでのシャウト。
 ちら、と周りのウィングスナッチャーが上を向いたまま何もしてこないのを確かめる。
「これならカエルくんはひとまず大丈夫そうだね」
「ああ。だが、こやつは強いぞ。無論、持ちこたえてみせるがな」
 このふたりが防御の要であると見抜いたケテルの毒花を蒸気の盾が受け止めた。
「――堪えてください」
 響の分け与える生気が盾の形をとって輝き、
「援護しまス!」
 エトヴァの励ましがマークの身体から毒を排除する。
「聖王女の歌デ、魔空回廊を開き固定しタ? どうやって回廊の制御ヲ?」
「それをお前たちが知ってなんになる」
 ケテルはひややかに言った。
「あの不完全な魔空回廊をこの身で踏破してやったからだよ!」
 一瞬、白刃かと錯覚するほどに鋭い蹴りが璃音の足元から放たれる。掠めた袖が破れるのをケテルは不快げに見つめた。
「お前が?」
「そうよ。聞きたいことはいーっぱいあるんだから。ビルシャナのこととか、暴走者のこととか」
「くどい」
「あっ」
 際どいところで、璃音は花の輝光がもたらす攻撃から身を躱した。
(「この調子じゃ、魔空回廊を何のために用意したのかなんて答えてくれそうにないわね」)
 それはジェミやエトヴァが同じことを聞き直しても同じことであった。ジェミの与えた花嵐を毒花で振りほどき、ケテルは得意げに微笑する。
「そんなにあの魔空回廊のことが気になるのか?」
 ジェミは頷き、声を低めた。
「あの魔空回廊、制御していたのは、貴方? 随分不自然に道を繋いだようだけど色々無理もあったんじゃない?」
「聖王女様の偉業の賜物だ。故に、お前らがその方法を知ったところで意味はない。そう、あのビルシャナ共もいずれは聖王女様に従うことになるだろう。ふふ……はははっ!」
「暴走者の行方は?」
 あまりにも直截な聞き方にケテルは気分を害したように笑うのをやめた。彼にとってそれは不愉快な話題であったらしい。
「不埒な侵入者など、この構成惑星に必要ない」
「それはどういう――」
「ニア、気を付けろ」
 ケテルが不穏な気配を発したので、万は手を伸ばして彼を庇うように進み出た。
「おめぇを無事に返さねぇと、あのガキに怒られるからな。よぉ、魔術師さんよ? あんまし偉ぶってねえでさ、もうちっと愛想よくてもいいんじゃねぇか。せっかく成層圏くんだりまで来てやったんだ、ご褒美くれてもいいんじゃねぇの」
「そうだよ! あれってロキの遺産なんでしょ? コツが有るなら教えてもらいたいな~なんて――っと!」
 シルディは慌てて盾の数を増やし、ケテルの攻撃を凌いだ。
「話は終わりだ。お前たちを排除し、我々は竜十字島に向かう」
「待って!」
 だが、ケテルは攻撃の手を緩めなかった。毒花の放つ輝きはこちらの判断力を奪い、手元を狂わせた。
「なんて、破壊力……!」
 響がいくらガーディアンピラーを配置しても、ことごとく体力を削られていく。とても攻撃にまでは手が回らなかった。
「諦めて去ね」
「いいえ、諦めませんわ」
 きっぱりと首を振り、あらん限りの力を振り絞って仲間たちに生気を分け与える。
「あなたはここで討たせて頂きますわ。覚悟の程はよろしくて?」

●向かう先に待つもの
 ――此処で確と止めてみせる。括の決意が叡智を呼び、幾何学を散りばめた弾倉が絵柄を揃えた。
「悪いが、お主の企みはここで潰えるのじゃ。仲間たちが繋いでくれたこの道は、わしが護り抜くのじゃ――!!」
 マークのヒールドローンを目印に、その前方へと撃ち込むカーリーの弾丸。速攻で毒花がこちらを向いた。
「よし、わしの方へ来るのじゃ!」
 獣撃拳で迎え撃ち、攻撃を引き付ける。猛攻撃をフル装備で耐えきったマークはドローンの数を増やしつつ、反撃の機会を窺った。
「さて、やっと暴れられそうだぜ!」
 ――ゴォッと万の背後から顎のようなものが襲いかかる。余りにも禍々しく、どこまでも敵を追い詰めし竜の頭部。
「小癪な」
 右腕を食い破られそうになったケテルはとっさに跳びずさった。緑色の血管がどくんと大きく脈打ち、傷が癒される。
「甘いわ!」
「もらった!」
 括と璃音のハウリングフィストがケテルを薙ぎ払った。レイピアを操るジェミの切っ先が葉脈を断ち切り、それ以上の強化を阻む。
「――く」
 はっと、ケテルが息を呑む。
「……私の毒花が、萎れてきている……? まさか、こちらが押されているのか」
「その通りだ」
 マークは内臓された武装パーツを展開、バスタービームを叩き込む。いつしかケテルは最初に戦端が開かれた地点よりもかなりの距離を後退していた。
「なぜだ? 聖王女様の完璧なる計画がどうしてこのような輩に阻まれねばならない?」
「舐めんのもいい加減にしろよ。俺ァな、そうやって人を見下してる奴がでぇっきらいなんだよ!」
 万が体ごと振り回すように回転して喰らわせた紅蓮の竜槌がケテルからその花へと燃え移ってゆく。
「ぐ、あ……!」
「――さよなら!」
 璃音は一瞬だけ躊躇ったが、構わずケテルを斬り捨てた。聞きたいことも知りたいこともたくさんあった。けれどそれ以上に、止めなければならないものがあるのだ。
「でハ、脱出しましょウ」
 ケルベロス達はチェイスアート・デバイスとジェットパック・デバイスを使って速やかに攻性惑星を後にする。マークがパージしたシールド類がウィングスナッチャーの群れに呑まれて見えなくなった。

●新たなる力
「あれだけ激しく攻撃してきたウィングスナッチャーの統制が崩れた……どうやら、他班も幹部の討伐に成功したようですわね」
 響に頷いたシルディは残念そうにつぶやいた。
「でも、一緒に連れて帰りたかったな」
「触れた途端に襲いかかられてしまいましたものね」
「友達になりたかったんだけどなあ――あ!」
「え?」
 シルディと響の視線の先に見える、巨大な戦艦。ヘリオンを伴っていることから味方だと知れる。その突き出した角に雷のようなエネルギーが溜まってゆき、限界まで達した瞬間に反転して射出。同時に戦艦とヘリオンに搭乗して駆け付けたケルベロスたちの一斉攻撃によって攻性惑星はその役目を終えた。
「あれは……?」
 ジェミは身を乗り出し、崩壊する攻性惑星から切り離された光り輝く何かが竜十字島へと降りてゆくではないか。
 周囲では喝采が起こっている。
 勝利に湧き上がる歓声の中から、彼らはさっきの戦艦の名が『ケルベロスブレイド』であることを知った。
「――ジェミ」
「わかってる」
 彼と手を携え、地球の青を瞳に映していたエトヴァは迷いなき眼差しでその名を呼んだ。
「……俺ハこの星ヲ、ひとヲ、愛していマス」
 そして――。
 何の前触れもなく、空の一点に突如として竜業合体ドラゴンの本体が出現したのである。彼らは先を争うように地上へと降下し、崩壊する攻性惑星へと喰らいついた。
「攻性惑星の残骸を喰って、自分のものにしておるのか?」
 括は食い入るようにその光景を見つめる。その時、背後で激しい輝きが迸った。ケルベロスブレイドより放たれた砲撃は竜業合体ドラゴンの群れを薙ぎ払ったものの、それ以上の数のドラゴンが更に虚空より現れる。
 あるものは牙を剥き、あるものは巨大な翼を羽搏かせ、彼らはようやく地球にたどり着いた喜悦とともにケルベロスブレイドへと襲いかかったのであった。

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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