魔導神殿改造作戦~双子の鬼たち

作者:雨音瑛

●SETUBUN
 ヘリポートを訪れたケルベロスたちに、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は笑みを向けた。
「ケルベロスの活躍はめざましいな。そう遠くない未来、全てのデウスエクスを撃破し平和を取り戻せると世界中の人々は確信している。——もちろん、私もそう確信している者のひとりだ」
 さて、とウィズは手元の資料に視線を落とす。
「全世界で、一斉に『SETUBUN』を行おうと盛り上がっている。『デウスエクスを撃破して平和を取り戻す』という願いを込めて、な」
 『SETUBUN』——すなわち『節分』は、日本の文化のひとつ。以前に東京で行われた大運動会の影響もあり、世界各国の人々は日本文化にかなり詳しくなっているようだ。
「節分は、鬼を払い福を招く儀式。今、この状況にぴったりのイベントだといえる。それが全世界を巻き込んで開催されるんだ、世界規模で季節の魔力を集めることになるのは間違いない」
 とはいえ、この季節の魔力を死神勢力などに奪われれば一大事になる可能性もある。それを阻止するためには、ケルベロスの手で季節の魔力を使い切る必要がありそうだ。
「季節の魔力の使い道についてだが——アスガルド・ウォーで獲得した魔導神殿の再起動に使うのはどうだろうか? 全ての魔導神殿をブレイザブリクのようにケルベロス側で利用できれば、その戦力は非常に大きなものになるはずだ」
 加えて、世界規模の季節の魔力があればケルベロスの願いを叶える形で魔導神殿を改造する事すら可能と予測されてる。それに、現状ヴァルハラ大空洞から移動させられていない『死者の泉』の扱いについても、季節の魔力を使うことで解決法を探せるかもしれない。
「世界中の節分の儀式は、日本時間に合わせて一斉に行われる。君たちケルベロスには、まずそれぞれの魔導神殿で節分の儀式を行ってもらう。そして世界中の季節の魔力を束ねて魔導神殿に願いを伝え、望む形で再起動を行ってもらうことになる。各魔導神殿の所在地は——」
 ヴァルハラ大空洞に4宮殿。双魚宮「死者の泉」、天蝎宮「エーリューズニル」、「スキーズブラズニル」、獅子宮「フリズスキャルヴ」。
 東京焦土地帯に、磨羯宮「ブレイザブリク」。
 鎌倉市に金牛宮「ビルスキルニル」。
 仙台市に磨羯宮「ブレイザブリク」。
 また、東京焦土地帯の奥地にはホーフンド王子が立てこもる白羊宮「ステュクス」も残っている。
「こちらのヘリポートから向かってもらう魔導神殿は、仙台市にある双児宮『ギンヌンガガプ』だ」
 双児宮は、西側と東側で2つの宮殿が組み合わせられたような形状をしていたが、先の戦いで西側は宇宙へと上昇していった。そのため、残った宮殿の東側で節分儀式を行うことになるのだとウィズは続ける。
「節分儀式の内容だが、双児宮では『お揃いのものを身に着けている2人組が鬼になって豆まき』をする。お揃いのものはバッジだとかマフラーだとかいった小物でもいいし、服でもいいだろう」
 それに、双児宮は周辺の住民も参加しての儀式が予定されているから、どれだけ鬼役がいても多すぎるということはない。
「住民たちと一緒に儀式を盛り上げ、季節の魔力を集めてほしい。よろしく頼む」
 そう言って、ウィズは微笑んだ。


■リプレイ

●鬼
 冬の寒さも何のその、人々の声で賑わう双児宮では「SETSUBUN」イベントが開催されていた。
 お揃いのものを身に着けた鬼役、鬼役へと豆を投げつける一般人やケルベロス。
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)と如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の夫婦は、揃いの青薔薇バッジをつけて鬼役をしている。
 子どもたちに豆をぶつけられながらもとても楽しそうにしている沙耶は、本格的に節分を楽しむのは初めて。そんな沙耶に寄り添う瑠璃が不意に視線を送るのは、姉の源・那岐(疾風の舞姫・e01215)とその伴侶、天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)。二人の腕には揃いのバンダナが巻かれている。
「やっぱり違うなあ。漂う幸せオーラとか」
「オーラの質が違うというか……私達もこういう夫婦になりたいですよね」
 瑠璃の零した言葉に同意を示し、沙耶も義理姉夫婦へと憧れの視線を向る。
 豆を補充しようと親元へ駆けて行く子どもたちを見た那岐は、十六夜の腕を軽く引いた。
「……十六夜さん、2人は欲しいって言ってましたよね?」
「ああ。いつかああいう子供が欲しいね」
 どちらともなく笑みを浮かべる二人。
 はしゃぐ子どもたちを見守る年配の夫婦に気付いた十六夜は、那岐の耳元に口を寄せ、瞬き一つ。
「ああいう風に何時までも一緒に居ような」
「そうですね、いつまでも寄り添っていたいですよね。お互いが年を重ねるまで」
 穏やかなひとときを共に過ごす二人——の、会話を耳にした瑠璃は少し顔を赤らめ、視線を上下左右させながら沙耶へと向き直った。
「僕らもいい夫婦になれるように頑張ろう。こ、子供は……考えてる?」
 うろたえる瑠璃を見て、沙耶はわずかに首を傾げた。
「まあ、結婚して一年も経ってませんし……落ち着いてから考えましょうか」
 穏やかながらもしっかりした姉さん女房は、今年もしっかりリードすることだろう。

「ガオーッ!」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)は、大きく腕を広げて子どもの集う場所へと飛び込んだ。
 シルディの首から下げられた「鬼さん」のプレートは、わかりやすくも可愛らしい。
 共に鬼を務めるのは、オオアリクイさん形態のオウガメタル。お揃いのものは、ピンク色の三角毛糸帽だ。そのてっぺんにはピカピカ光るLEDが取り付けられている。
「みんなー、鬼が逃げるぞー! あの光ってるのが目印だぞー!」
 リーダー格の子どもの声で、シルディへと一斉に豆が投げつけられた。
「ひゃー、降参降参~!」
 頭の上で両腕を振るシルディに投げつけられる豆は、まだまだ止みそうにない。

「まだまだ寒いデスから、あったかくしまショウ、ジェミ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は、自らの首元にあるものと同じ柄のマフラーをジェミ・ニア(星喰・e23256)の首元に結ぶ。
 マフラーを結んだ下から見える翼型の鉱石ペンダントは、エトヴァと色違いでお揃いのものだ。
「ありがと、エトヴァ」
「ふふ、何だか嬉しいですネ」
 白い息を吐く二人は鬼の面を装着し、人々の元へ急ぐ。
「ほら、ジェミ、こっちへ」
 同じ手袋越しに、手を繋いで。駆け出す足先、そのスニーカーも一緒だ。
 双子コーデの二人は、息ぴったりで軽快に駆け回る。
「ほーら、こっちこっち!」
「ふふ、当てられますカ……?」
 繋いでいない方の片手をぶんぶんと振るジェミ、顔の近くで小さく手を振るエトヴァ。柱を利用して隠れ場所を確保しつつ、賑やかすのも忘れない。
「鬼は外ー! 福は内ー! ……うわっ、当たっちゃった!」
「大丈夫デスか、ジェミ——おや、俺も当たってしまったようデス」
 言いながらも、楽しそうに微笑むジェミとエトヴァ。
 すべての人々に良いことがあるように。
 二人は少しだけ目を閉じて、祈るように願った。

 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が纏うのは、金と白の全身甲冑。あとは手にした兜を被れば、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)——こちらは銀と白だ——とお揃いの、エリンヘリアルのような格好になる。
「広喜、とても似合って格好良イ」
「眸もすげえ似合ってる、すっげえカッコいいっ」
 兜越しでも瞳を輝かせているのがわかる広喜の口ぶり。こういったものを着るのが初めて、ということもあるのだろう、いずれにせよ微笑ましい。眸は緩やかに目を細め、兜を被った。
 二人が向かうは、子どもたちのいる場所だ。
「鬼の登場だぜー!」
「当てられるものナら、当ててみルがいイ」
 全身甲冑の二人組を見て、子どもたちはきらきらした視線を向けてくる。
 広喜は時折大袈裟なポーズを決めて立ち止まり、子どもたちの標的となる。
 広喜に向かいがちな子どもの注意を引くように、眸はわざと甲冑の音を立てて近づく。少しばかり驚いた子どもたちは、必死に豆を投げつけてくるのだった。
 豆が大量に当たる音を聞いて、広喜はばったりとその場に倒れ込む。
「やられたぜー!」
「すごイな、敵をやっつけてしまっタ」
 兜を外した眸は、鬼を倒して満足そうな子どもたちを見渡した。
「そっちの勝ち、だな! すげえなー!」
 兜を外して広喜も起き上がり、子どもたちをわしゃわしゃと撫でる。
「楽しいな、眸っ」
 眸に向けられる無邪気な笑みひとつ、と、その後ろのたくさんの笑顔。
 広喜と視線を交わして頷く眸は、思わず双眸を崩した。

 揃いの狩衣に揃いのお面と、古風な出で立ちなのは端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)と比良坂・陸也(化け狸・e28489)のウェアライダーコンビ。
「いざ鬼やらい! なのじゃ! 行くぞ、陸也!」
「へーい、行くとするかね」
 少しばかり気怠げな陸也であったが、熊耳をぴこんと立てた括が人混みに視線を向けると、口角を少し上げた。大きく息を吸い、吐き出すと同時に出した声は——。
「くっちまうぞぉおおお!」
 陸也の大声に、双児宮に集った人々は一瞬驚いたのち、豆を投げつけてくる。
「くまーっ!」
 と両手を掲げる括へも、容赦なく豆が飛んで来る。ある程度の豆が当てられたのを確認した陸也は、
「ぐわぁあああああ」
 と、よろめきながら後退する。括も、
「やーらーれーたー!」
 なんて呻くように言いながら倒れ混む。と同時に熊の姿に変身して、その場から退散だ。その様子を見て、陸也も狸へと変じ、括を追う。
「民草の子らはたくさんおる、場所を移して楽しませようぞ」
 これぞまさに神出“鬼没”。括の意図を汲んだ陸也は、適度に群れている子どもの姿を探す。
「ちょうどそこに鬼を探している連中がいるぞ」
「よし——くまくまーっ!」
 人型に戻り、子どもたちの前に躍り出る括。同じく人型となった陸也の顔面に、無数の豆が飛んで来る。
「くっ……ひとのこころに悪があるかぎり俺は何度でも現れる——おぼえておくんだな!」
「うーわーあー! なんて強さだー!」
 茂みへと倒れ込む二人は、再び動物の姿へ。
 一瞬の沈黙の後、共犯者のような笑みを交わした熊と狸。獣のままで小さく笑い声を上げ、次の場所へと向かうのだった。

●福
 せっかくのSETUBUNなのだから退治する側もだからお揃いにしたい、と意気込む鉄・千(空明・e03694)はきりっとした表情で模造刀を握り、頭上へと掲げた。
「SETUBUNを意識したお揃いコーデと来たら、これしかないのだ!」
 黒い詰襟、その上には和柄の羽織。同じ格好の影守・吾連(影護・e38006)は、うんうんと頷く。
「最先端の鬼退治コーデだよね! ——わ、千の羽織、パンダが隠れてるの? 面白いね!」
「ちょっと自分を出したいと思って! 竹柄にちょこちょこ潜んでるパンダさんがちゃーむぽいんとなのだ。吾連のは?」
「俺のは籠目文様だよ。うちの家紋で、魔除けの効果があるって言われる柄なんだ」
「ふぉ、籠目で魔除け! 和風だけど魔法感もあるステキ模様だな!」
「ありがとう。それじゃ、人も集まってきてることだし、れっつ鬼退治!」
「よし、れっつ鬼退治! なのだー! ではこれで……鬼を斬る!」
「……って千、刀じゃなくて豆撒きだよ! はい、豆!」
 腰だめに模造刀を構える千に、吾連は豆を差し出した。
「そうだった、豆で倒す、だったな!」
 刀を納めた千は吾連から豆を受け取り、鬼役のいる場所を目指す。
「鬼さん発見、覚悟なのだ! さあ、住民のみなさんも一緒にやろ!」
「今なら後ろから回り込めるよ!」
 住民とも協力し、確実に鬼へと豆をぶつけていく千と吾連。わあわあ、きゃあきゃあと上がる声は、平和そのもの。
「鬼は外の福は内!」
 たくさんの福を招こうと、笑顔で豆を投げつける千。吾連も、彼女の隣でにこにこしながら豆を投げる。
「鬼は外! 福は内! 悪い子はいねがー!」
「うむ! 悪い子は……って、吾連! それはなまはげさんである!」
「——あ!」
 広がる笑いの中、住民たちからも「悪い子はいねがー!」の声が上がるのだった。

「それっ、鬼は外ー! 福は内ー!」
「そーれ、鬼は外、福は内!」
 水瀬・和奏(フルアーマーキャバルリー・e34101)と水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)は、鬼役の一般人へと勢いよく豆を投げつける。
 顔だけでなく、豆を投げつける動作もそっくりな双子の姉弟である。
「次はあちらの鬼さんに……痛っ!?」
「うん? 何だ……って、あだだだ!」
 後頭部をおさえつつ、和奏と翼が振り返る。視線の先には豆を投げつける中学生くらいの子どもたち、足元を見ると数粒の豆。
 顔を見合わせた姉弟は、一瞬で事態を把握する。
「あの、私たち双子ですけど鬼役では……!」
「待った、俺ら今回は鬼役じゃないから! 趣旨違うから!」
 否定するも、時既に遅し。否定の言葉は「鬼は外」「福は内」の声にかき消され、先ほどとは比較にならないほどの豆が二人を襲う。
「待って、待ってくださいー!」
「わ、和奏ー! 大丈夫かー!?」
 身をかがめながらその場から撤退する双子の姉弟。雨のように降り注ぐ豆は、的確に二人を追いかけてくるのだった。

「ほう、同じ帽子を被ったお前さんたちが鬼か。最初に言っておくが、俺は一切手加減をしない。俺の投げた豆が当たると……穴が空いちまうかもなあ?」
 男の子2人組を前に不敵な笑みを浮かべるキルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)はさらに口角を上げ、続ける。
「というわけで、だ。豆まきのルールに従い、今から目を閉じて10、数える。その間に逃げるがいい。逃げられれば、の話だがな。1、2、3——」
「えっと、そのルールは鬼ごっ——」
「しっ、今のうちに逃げるぞ! チャンスだ!」
 何かをいいかけた子を制して、もう一人は全力で走り出す。
「わ、待ってー!」
「——10、と」
 数え終え、目を開けたキルロイの視界にまず映ったのは双児宮。自らが関与して落としたこの双児宮は、一体どのような願いを受けてどのような姿へと変わるのか。
 しかし、目下の目的は鬼だ。
「一人も逃がさんぞ、鬼め」
 キルロイは彼らの背中目がけて駆け出し、豆を投げつけた。

 霧崎・天音(星の導きを・e18738)は、ちょうど目の前を通った中学生くらいの女子2人組へと豆を投げつける。
「鬼は外……福は内……」
「わーっ、逃げろー!」
 お揃いのブレスレットをした彼女らは、緩やかな速度で走って行った。その先でも、誰かに豆を投げつけられている。
 楽しそうな彼女らを見送って、豆を食べる天音。すると、やけに元気な声が届いた。
「ほら、誰か豆を当ててみろー!」
「まだ誰も俺たちに当てられてないんだぞー!」
「……へえ……そうなんだ……」
 天音は豆を飲み込み、パイルバンカーを構える。直後、2人の少年の間を切り裂くように何かが飛んで行った。はるか遠くで、小さなものが地面にいくつか落ちた音が聞こえた気がした。
 パイルバンカーの先端を下げ、天音は少年たちに向かって呟く。
「次は当てるよ……なんてね」
 無表情な天音。だが、どこか悪戯っぽさが滲んでいた。
「おっ、豆まきおつかれさま、だぜ!」
「ん……ありがとう……」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)の振る舞う恵方巻を受け取り、天音はさっそく口にする。そんな彼女を見て、一般人も恵方巻きを配る泰地に気づき始めた。
「ケルベロスのお兄さん、恵方巻きこっちにもちょうだいー!」
「わたしの分もあるー?」
「おう! たくさんあるから大丈夫だぜ! 豆まきだけが『SETUBUN』じゃないからな、腹が減ったらぜひ食べてくれよな!」
 鍛えられた肉体で、速度を落とすことなく泰地は恵方巻きを振る舞う。
 少し前まで戦場となっていたこの場所には、人々の笑顔が満ちていた。

●願い
 鬼を払い福を招く「SETSUBUN」の儀式を終え、季節の魔力が集まってゆく。束ねられた魔力にケルベロスたちの願いが重なり、双児宮は姿を変えて行く。
「ふぉ、足が生えたぞ! それもたくさん!」
 千が双児宮を指差す。千が願ったのは「移動できる足が生える」こと。
 双児宮に生えた複数の足はまるで昆虫のようだ。双児宮は、その足をいっせいにワサワサと動かしながらどこかへと移動を始めた。
 移動先に気付いたのは、シルディだった。
「移動先はドレッドノートの方角かな? 地球に残されて……ドレッドノートはずっと見てきた地球をどう思ったかな? 今までのボクの声は届いていたかな? ボクたちの友だちになってくれたら良いんだけど……」
 シルディは、祈るように胸元で手を重ねる。
「無理強いはできないけど、ドレッドノートも一緒に地球を守ってくれたら嬉しいな」
 ドレッドノートへと隣接した双児宮は、脚部を切り捨てた。その反動を利用するようにして、双児宮は跳ね上がる。
「さあて、ここからどうなるか……星辰の考え方にて双児宮に照応する身体部位は肩から手にかけて、であるそうな。……おお、腕型へと変形したのじゃ!」
 括が、小さく拍手をする。
 腕型となった双児宮はドレッドノートの部品などを取り込み、失われた半身を補っているようだ。そうして、双児宮の姿はさらに変わってゆく。
「この形は……航空母艦だろウか……?」
 眸がぽつりと呟いた。彼の願いの一つは、地球が戦場となって被害を受けるのを防ぐことであった。
「今後は宇宙で戦うことも増えそうですし、母艦になってくれると嬉しいですね」
 双児宮を見守る沙耶。もし双児宮が航空母艦となるのであったら、完成はもう間もなくだろう。
「あれは居住区、かな? 一般人の避難用に使えそうだね」
 瑠璃が指差す広大なエリアは、彼の願ったことでもあった。
 どうやら、ひとまず双児宮の変化は終わったようだ。
 吾連は大きく息を吐いて、航空母艦となった双児宮を見上げる。
「あとはどんなことができるんだろうね。検証とかテスト、できるといいな。これだけ大きいなら、皆の想いも乗せて一緒に戦えるようになったらいいな」
「ああ、何かの機会に機能を試したいところだ。戦争時のエネルギー源としても使えないだろうか」
 十六夜の言葉に、キルロイがうなずく。
「それなら、ヘリオン整備、治療、補給などの拠点機能も期待したいところだ」
「攻撃、整備、治療、補給ときたら……防御も……。地球を守るバリア……あるといいな……」
 母艦をじっと見て、天音が呟いた。
「ついでに螺旋大伽藍の制御なんかもできるといいな!」
 腕組みをしてにかっと笑う泰地。
「母艦なら、探索機能なんかも期待できるかもな」
 陸也は目を細め、片割れの双児宮探索もできるといいんだが、と付け足した。
 そこに反応したのは、和奏だ。
「神殿の片割れ、見つけ出したいですね。もし、この神殿にいたモーゼス王子がダモクレスと何らかの関わりがあったのなら……」
「うん。居場所を割り出せば、何かありそうだしね」
 和奏の言葉を続けるように話す翼の目には、確かな決意が宿っていた。
「こんだけでっかいなら、都市や戦場とかの広範囲をヒールできそうだよな! たとえば焦土地帯や地球の傷みてえな!」
 普通のヒールでは直せなかった場所を直して、またヒトが住めるようになれば、と願った広喜だ。そんな期待をせずにはいられない。
「グラビティ・チェインの供給もできルといいデスね。デウスエクスには、非戦闘員の方々や、友好的な者もいル……アスガルドの民とモ共存の道を探したイ」
 エトヴァが、レリ王女や白百合騎士団と関わって感じたことでもある。
「戦うだけじゃなく、お話も大切だものね」
 傍らのジェミが、エトヴァに笑みを向ける。
「僕らも、もとは星から落ちてきたのだもの。皆の幸せの助けになるように、変わると良いなって思う」
 ジェミはエトヴァの手を握り、航空母艦を見上げた。

 ケルベロスたちは、東京方面へと動き出した航空母艦を見送る。
 母艦はやがて東京焦土地帯へと到着し、姿を変えた他の宮殿と合流した。
 既に到着していたのは、獅子型の獅子宮、白い毛玉の白羊宮、帆船型の処女宮、骨型の天蝎宮、剣の磨羯宮。
 航空母艦となった双児宮に続いて、牛の金牛宮が到着すると、宮殿たちは骨格のようになって繋がり、ひとつの形を取り——宇宙船、となった。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月2日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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