「節分とかけて、天蝎宮と解きます」
その心は?
「その心は……節分をしましょう、天蝎宮で」
うまいこと言えなかった顔でソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は最近の流行をそう言いだした。
「いえ、ソフィアがやりたいのではありません。今や節分、いえ『SETUBUN』は世界的大流行ムーブメントなのです」
元は古代朝廷の立春を告げる宮中儀式だった節分。
鬼を払い福を招く年中行事として定着していたそれは、先日の東京で行われた大運動会で世界に伝わり、デウスエクスを撃破して平和を取り戻す願いと共に一大イベントと化していた。
西洋の祝祭であったクリスマスが世界規模の祭になったように、あるいはハロウィンがコスプレの祭典となったように、節分も世界に飛び出したのだ。
「突拍子もなく思うかもしれませんが、これはとても素晴らしいのです。ハロウィンやクリスマスを思い出してください。今や全世界を巻き込んだ節分イベントは、世界規模で『季節の魔力』を高めています」
それは過去に利用されようとしたハロウィンやクリスマスと同じ。そして今度はケルベロスの側がそれを利用する番だ。
「世界中の人々は、遠くない未来に、全てのデウスエクスを撃破して平和を取り戻す事ができると確信しています。その思いを死神勢力などデウスエクスに利用させる事は許せません。そこで」
ドン、と力強くソフィアが示すのは先日のアスガルド・ウォーの地図。
「魔導神殿、再起動させましょう」
預かってきた資料を広げ、ソフィアは力説する。
「ブレイザブリクの事は皆さんも記憶に新しいと思います。全ての魔導神殿をあのように、ソフィアたちケルベロスの側で利用できれば戦力を大幅に拡充することができます」
あるいは世界規模の『季節の魔力』があれば、ケルベロスの願いを叶える形で魔導神殿を改造する事すら可能かもしれないし、戦場となった東京焦土地帯の地下、ヴァルハラ大空洞から移動できない魔導神殿について解決方法を探せる可能性もある。
「SETSUBUN、もとい節分の儀式は、日本時間に合わせて一斉に行うそうです。そのタイミングに合わせて魔導神殿でも節分の儀式を行えば、世界中からの季節の魔力を束ねて魔導神殿を再起動できるはずです」
節分の儀式。そうつまり豆撒きだ。
「ソフィアたちが節分の儀式を行うのは『天蝎宮「エーリューズニル」』、ヴァルハラ大空洞に残った魔導神殿の一つです」
ソフィアの差し占めすエーリューズニルは、かつての女神ヘルの神殿であり、生物の骨のような白の外装、神殿の先に百足のように並ぶ無数の尖った巨大な骨が特徴の魔導神殿だ。
調べられた情報によれば先端の無数の骨状の部品による高機動形態『ナグルファル』に変形する機能を持つという。
「場所が場所ですのでソフィアたちケルベロスによるイベントになります。言い換えれば、多少は無茶しても何とかなります」
というわけでと用意されるお面と豆……が、いっぱい。
「豆に当たる転じて福が当たることでもあるそうですが、せっかくなので反撃用を用意しました。一応食用を厳選してますのでご安心ください」
さらりというが、色とりどりのマスの中身はずっしり重い。
目を引くのは五百円玉よりさらに巨大な小豆色の豆。
「これはモダマ、南方由来の世界最大の豆で、日本では海を流れてきたことからめぐり逢いの縁起物とされてます」
その横にあるのは料理でもおなじみヒヨコ豆、ソラ豆。どちらも太々しく、ずっしり重い。
「ヒヨコ豆はその形から、ソラマメは天に延びることから成長、打破に通じます。ソラマメは男らしさ、勇壮さの象徴ともされますね……その、サヤが、その」
わずかに頬を染めたソフィアはそういうわけでと話題を切り替えた。
「鬼も、投げ手も、全力で福をぶつけ合いましょう。その盛り上がりが儀式となり、皆様の願いに沿って魔導神殿を再起動させてくれるはずです」
それは機能を取り戻すことだけでなく改造し、新たな姿や機能を与えることも可能という。
エーリューズニルが元から持つ機能は高機動形態への変形だが、新たな形態を持たせたり、居住性の拡張、有用な施設の設置、果ては他の魔導神殿との合体など考えつく限り何でもありだという。
「動くところ、見たいですよね。ソフィアは見たいです」
笑顔でいうと、ソフィアは鬼のお面をすっと自分の額に当てた。
●節分に豆を鬼と打つ
ヴァルハラ大空洞は『天蝎宮「エーリューズニル」』に号砲が響く。リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)の豆バズーカが打ち上げた豆が、威勢よく『SETUBUN』の開幕を告げた。
「ケルベロスオンリーの催しなんてこういう時くらいですね……あら、空牙が先に鬼役です?」
「反撃ありじゃどっちでも変わらん気もするが、雰囲気大事だしな」
準備運動に構えるミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)へ、面をかぶった空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)はさっそく一撒き。
「そら、鬼は内、福は……これ逆だな」
「あはは。次は私が鬼役で!」
全力で飛ぶ。そら豆が飛ぶ。飛び回るのは豆だけではない。
「さぁさぁ、いざ勝負ー!」
「オラリズはやる気満々だ、ねぇ……あたっ」
リーズレットと共に、けだるげに上着を脱ぎ捨てたリーズグリース・モラトリアス(義務であろうと働きたくない・e00926)が飛びあがる。
しかし二人の鬼のビキニ姿へばらばらと打ち上げられる豆の束。
「まぁやるからには負けたくないよね。悪い鬼なら祓っちゃうぞー」
「元より悪い鬼さんは祓われるが運命……で、これはどうすれば勝ちになるのだ? ジャパニーズSETSUBUNとは?」
同じく【GC】の癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)とマルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)は巫女服姿でやる気十分。ボクスドラゴン『りかー』に升を頼み、のほほんとしかし油断なく構える和。そこにふと、首をかしげるマルティナだが。
「二人ともやったな?! ならばこれでどうだ!」
「って、飛ぶとかバズーカとか卑怯……! 普通に痛い!」
答えを待たず、開幕を告げたリーズレットの豆バズーカが重量級の豆撃が襲う。打ち下ろしの直接砲撃は豆の雨を通り越し、もはや滝の勢いだ。
「福をぶつけるイベントだと聞き及んでいたんだが、ここまでサバイバルとは……!」
「えー……節分とは元は季節を分ける意味で行われる立春、また旧暦の祝い事が起源とされていますので、勝敗というものはないのです……が」
淡々と言いながらもぐるりと見まわすピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)。ケルベロスオンリーということもあり既にもう戦いはバーリトゥード、何でもありである。
「よくもやりやがったなー! お返しだぜ」
「むぅぅ、流石に豆でも痛い、よ……」
「サキュリズちゃーん!大丈夫か?!この盾を使って共に乗り切ろう!」
笑いながら繰り出すトライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)の対空射撃にリーズグリースは相方より借りた盾でカバー。
「今です! 生き埋めになってもらいますよ!」
「うぉぉぉぉこれはっ! 流される!?」
すかさず振り上げられるは帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)の豆袋爆弾。担ぐほどの袋から放たれた豆はさすがに空まで届かずも、下方を守る相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)を直撃。雪崩に巻き込んでいく。
「……強いて言えば楽しんだもの勝ち、でしょうか」
「うむうむ。ピコもなかなか本格的よの」
装束に住み着く『なまはげさん』と本格的な鬼役の端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が、ピコのトラ柄ビキニに並び肯定するように反撃のモダマ叩き込む。
これが痛い。
「くっそー! 狙いにくいじゃねぇか!」
「何か問題でも?」
言いながらも笑顔のトライリゥトに遠慮はまるでなし。ピコもまた涼しい顔で受け流すが、そこに躍り込む影がまた一人。
「ならば俺の筋肉が相手になるぜっ!」
「うわ復活した!? ていうか大して変わんないだろ!?」
「安心しろ、パンツは卸し立てだ。くらえっ!」
仁王立ちに受けてそら豆を降り注がせる虎毛皮一張羅の泰地に、思わずトライリゥトも豆突っ込み。更にミリムと空牙も互いに豆を巻きながら乱戦の場へと飛び込んでいき、あたりはすっかり混沌と化した。
「豆当てられた鬼役も不浄が出ていくといかないとからしいから、とりあえずあたっとけ」
「え?不浄がなんとかって初耳ですけれども!」
言いながらも投げまくるミリム、翔はならばと口を開けて食欲で返り討ちにしようとするも。
「なんの僕の食欲で返り討ちに……いや無理無理、やっぱり無理! こんなんじゃ食べれません」
「おゥ任せとケ! ウチはー鬼!豆オイテケ!」
すかさずフォローに入ったのはアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。ガレキキムチをボリボリとつまみながらの悪食は縁のモダマも育ちのヒヨコもごくりと一息だ。
●節分に福を腹へ食う
「ソフィア殿はご立派ソラマメが見たいでござるか?」
「え……?! その、ち、違いますですカテリーナ殿っ」
山元・橙羽(夕陽の騎士妖精・e83754)とティユ・キューブ(虹星・e21021)が用意している立派な莢付きのそら豆をしげしげと見やるソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)の奇襲を受けることとなった。
「こ、こ、これはど、どのような料理をされるのかとですっ」
「ご立派なのが空を向くからソラマメって言うらしいね? ソフィアは男らしいのがいいのかー……」
「リ、リティ殿まで、あたっ」
ばらばらと降り注ぐリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)にたまらず退避するソフィア。追いかけていく二人をからからと笑い、ティユは橙羽から分けてもらった落花生を追い豆と投げた。
「これは莢ごと焼こうと思ってね。ゆでた方も用意するから落ち着いたらまたおいで」
「あ、イワシの頭と柊の葉はちょっと切らしてたので、これで一つ……」
ポンと橙羽が置いたのはイワシ缶詰とクリスマス飾りの柊。
「たしかイワシは匂いじゃなかったっけ? この匂いだと逆に寄ってきそう……」
「おさかなっ!」
「アリシア、まずは豆撒きですっ。今日のぼくは鬼かりんですよっ!」
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)の声を待たず、飛びついてくるアリシア・マクリントック(奇跡の狼少女・e14688)の姿。
とりなす【番犬部】の仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)にマテを決め込んだアリシアは、『SETSUBUN』を説明されながらも、四つん這いのワイルドスタイルでは少々難しそうだ。
「う~。そうだ!アオーン!」
「うわっ何これ、すごいね」
ならばとドンと取り出されるのは戦車型の「おおかみぶそう」。お座りの要領で座って豆を投げまわる狼少女に瑪璃瑠も応戦を開始する。
「反撃用の豆は、そうだね……ソフィアさん、モダマ、使わせてもらおうかな? ボクたち瑪璃瑠は、兄様との出会いから始まったから」
「なるほど。では瑪璃瑠殿の出会いをっ、あたっ、です」
追いかけられながらも律儀なソフィアにくすりと笑い、瑪璃瑠は巨大なモダマ豆を大きく投げた。
皆にも良き出会いがありますように。
「いや、でも既に皆に出会えていることに乾杯……と言うべきかな?」
「うん……瑪璃瑠も、ソフィアも。追いかけっこ……」
鬼の仮面を気に入った様子の霧崎・天音(星の導きを・e18738)は少し早い桜の花びらを、グラビティに撒き散らしながら追いかける。
かんかんと鍋を叩く音が小気味良く響いたのはその時だ。
「はーい、恵方巻できたよぉ。あ、食べる前は手を洗ってぇ……あ、大丈夫と思うけど、もし怪我したら手当てするから見せてねぇ」
ここまで激しいぶつけあいになるとは予想外だったと隠れていた風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が広げられた節分料理を前に皆を呼ぶ。
定番の煎り豆に、茹でたそら豆、ひよこ豆。莢付きの焼きそら豆はバリバリと皮をむけば、ほっくりと豆が飛び出してくる。
「切っちゃダメ、なんだよね」
「つながった縁を飲み込むんだよ……んぐっ」
そしてもちろん忘れてはいけない恵方巻。子供の腕ほどある太巻きに天音がどう行こうかと考えるなか、がぶりと太巻きにかぶりつく瑪璃瑠。
「みんなよく頑張ったよな!」
「リヴィンズさんも、強敵でした」
広げた『多重分身の術』をマフラーに回収したピコもトライリゥトと健闘を称えあう。
和気あいあいと盛り上がる魔導宮殿で誰もが季節の魔力の高まりを感じていた。
始まりは、クライマックスは近いとケルベロスの誰もが思った時だった。
●福は集まり形となる
それは投げられた福豆が芽吹くような不思議さだった。
「花が……花だよね、アレ。百合の花」
「ちょっと怖い……でも、綺麗」
瑪璃瑠の上ずる声にに天音はそう印象をつぶやいた。
骨の白は白百合の白へ。それはかつて美しく、はかなく散った騎士たちへの追悼なのか。
花開くように変化した骨格が開き、姿を変えていく。
「開いて、閉じた……可変式? 名前は……アマテラスとか」
「いいね、かっこいい!」
「閉じた状態はシールドマシンか掘削のようにも見えます。強襲用に役立ちそうですね」
天音の名付けに瑪璃瑠もその様をのぞき込む。ピコも言うように成程、変化した機種部は蕾状に閉じれば円錐型のドリルのようであり、開けばバリアの発振器のようにも見える。
その予想された機能はまだ確認が必要だが、その本質には十分に活躍してくれるだろうとピコは予想する。
「動かし方は……内装の確認が必要ですね」
「うむ。ゆーは何しに突撃となりのエーリューズニルでござる!」
マイクのようなかじりかけの恵方巻を手に、カテリーナはいざと開けた正門を潜り抜けた。
「疲れた、ね……ふかふかで暖かいベッドと枕……あっ、ん、マッサージチェア気持ちいぃ」
「サキュリズちゃん、まだ落ちるには早いぞ! スノーマシンもあったぞー!」
レクリエーションルームへ声を弾ませるのは【GC】の二人。SETSUBUNの疲れをチェアのマッサージに委ねるリーズグリースへ、リーズレットが起こしてみせるのはスノーマン型の降雪機。季節問わずに雪を作り出すそれは景色の色どりはもちろん、料理や工作にも多彩に活躍してくれるかもしれない。
「こっちは温泉だぜ! ナグルファルとか神話的に最悪の縁起もんだけど、いい具合に反転してくれてるな」
「大食堂とホールもありますよ! なんだか温泉宿みたいになってますねー」
苦悶と死の反対だけに極楽気分なのだろうか? 施設を見回るミリムはふと思いつつ、空牙の誘いに温泉の脇をにぎわす足湯へと足の疲れを沈めてみる。
「気持ちいいーっ……なんだか疲れが抜けていくみたいですよぅ」
「案外、本当に癒してたりしてな」
もし本式に重傷などへも効果があるならヘリオンデバイスを使えない時など頼りにできるだろうし、ケルベロス以外にも多大な恩恵がある。
「普通の医療施設も……うん、揃ってるね」
そして勿論、普通の医療施設も和が見て十分なものが揃っているのだ。
「うむ。いざという時の一般人の保護シェルターとしても十分だ。懸案点は動力ぐらいか」
「ビルスキルニルで雷を起こせたそうです。あれを設備のエネルギーに利用できませんかね?」
設備の充実は素晴らしいがこのぶんではフル稼働させるには出力が不足するかもしれない。
マルティナの心配に橙羽がスマートフォン片手に応える。
試してみなければわからないところだが、もし外部に動力を借り受けられることではじめて動作するような施設も存在するのかもしれない。
●アンドック、ケルベロスブレイド
「このパーツは分離できそうだね。艦載機のように使えそうかな」
「あまり見ない形状ですけど、コクピットは何処だろう……」
リティと翔が変化した骨状部品を調べていた時、異変は起こった。
「このアームさ、格闘戦に使えないかな。ヴァルハラパンチで全てを打ち砕け! なーんて」
制御ブロックでは、やっぱ、こういうのはロマンだよな? と笑うトライリゥトが、巨大な可動アーム状に変化した部位を動かしていた。
戦闘用としては少々ぎこちないが、どう使えるのか動かしてみるのは大事だと操縦系を触れていくのにカテリーナも負けじとコンソールを叩きまわって見せる。
「うむ、サソリの毒針だけに尾の部分に超強力な主砲とかつけられていたら、フレキシブルに可動してなかなかに強力かつ死角のない兵器になるやも」
「そうそう、砲撃戦も大事だぜ。ヴァルハラビーム! ヴァルハラミサイル! エネルギー充填120%……うぉっ!?」
ある種のお約束をトライリゥトが叫んだ瞬間、エーリューズニルが揺れた。
「神殿の脚部が動いている! 制御室、何が起こった!?」
「わからねぇ! 俺たちが触れてたのはアーム部分だけのはずだぜ!?」
突然の事態に錆次郎の声も往年の色を帯びて叫ぶ。
元衛生兵といえ、士官教育を受けた幹部の冷静さがそこにはあった。
「ティユだ。それらしい隠し部屋を見て回っているけど何も……いや、ここは女神ヘルの神殿だった。エインヘリアルでは用がなかったろう、死に関わりのある……死神への対策か何かが再起動した可能性は?」
「死神!?」
拾ったものを使うからです――歪む景色に錆次郎はそんなSFの言葉を思い出す。
「まさか、これは宇宙船……!」
気づいた時、エーリューズニルの外には青空が広がっていた。
「ワープ!? ワープしたのカ!? 次元を掘削ゥ!?」
アリャリァリャの喜び跳ねる声が元気に響く。
一瞬にしてヴァルハラ大空洞にいたはずのエーリューズニルは、東京焦土地帯の中心にほおりだされていた。
「みんな無事だね?」
「あ、あぁ。俺は筋肉あるから平気だが……気圧や重力の制御機能も付いているのか? 他の誰も怪我はないぜ」
「よし……冷静に聞いてほしい。今のはエーリューズニルの機能じゃなさそうだ、いやエーリューズニル『だけ』ではないだな。みんな、外を見るんだ!」
突然の事態に倒れた仲間たちを助け起こす泰地は、神殿内を飛ぶリティの通信に外を見て驚愕した。
謎の白い毛玉は……白羊宮ステュクスだろうか?
どこか愛らしさのあるライオン型はおそらく獅子宮『フリズスキャルヴ』、更にその中には双魚宮『死者の泉』までもが格納されているらしい。
更には女性的な面影ある帆船、処女宮『スキーズブラズニル』、一つの剣と化した磨羯宮『ブレイザブリク』、載霊機ドレッドノートを接続し航空母艦へと変化した『双児宮』。そして……。
「牛? 牛ぃぃぃぃー!?」
最後に牛が、金牛宮『ビルスキルニル』が広がる焦土地帯を突進してきた。
「なにあれかっこいい? アリシア、これって」
「『おおかみぶそう』だ! アオーン!」
集結する魔導神殿にかりんが思い浮かべたものを、アリシアは遠吠えと共に叫んだ。
エーリューズニルが変わる。
魔導神殿群が変わる。
「そうか……骨とは。エーリューズニルの力とは!」
「ど、どういうことでしょう、括殿?」
得心した括の快哉に、ソフィアは目まぐるしい変化に問いかける。
魔導神殿群へと分離したパーツが抱き着き、アームユニットが掴んで結合する。
人は骨に死を連想するが、生における骨の本質は別にある。
「骨とは元来“繋げ、支える”役割を果たすものなれば。その骨で構成され、変形機能を願ったのなら……それは」
骨組み、骨格。
分かたれた魔導神殿群を一つの巨大宇宙戦艦へと繋ぎ合わせるのに必要不可欠な要素。
それこそがエーリューズニルに授けられた力の集約。
「縁結びのご利益が、この役割を暗に示しておったとは……ソフィアもなかなかの策士じゃのぅ?」
「そ、そうだったのですか……!」
ぽんぽんと背中を叩く括に、ソフィアは上ずった声を上げていた。
その日、東京焦土地帯に誕生した巨大戦艦は託された願いの元に名付けられた。
『ケルベロスブレイド』
と。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年2月2日
難度:易しい
参加:21人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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