失われた光を取り戻すために

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 発売当時は『太陽のように明るい』と評判だった大型の懐中電灯があった。
 実際に、とても明るく、みんなに愛され、利用されていた。
 だが、それも、今は昔。
 LEDライトの普及によって、大型の懐中電灯の栄光は、地に落ちた。
 元々、重かった事もあり、物置にしまわれてしまう機会が増えた。
 それに加えて、単1電池が4本必要だった事が仇となり、売り場でも敬遠されていったようである。
 しかし、まったく売れず、倉庫の中にしまわれても、大型の懐中電灯は諦めていなかった。
 いつの日か、日の目を見る事を夢見て、決して希望を捨てなかった。
 その願いが通じたのか、小型の蜘蛛型ダモクレスが姿を現した。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、大型の懐中電灯の中に入り込んだ。
「カイチュウデントゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した大型の懐中電灯が、耳障りな機械音を響かせながら、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「天月・悠姫(導きの月夜・e67360)さんが危惧していた通り、都内某所にある倉庫で、ダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある倉庫。
 ここに保管されていた大型の懐中電灯で、ダモクレスと化したようです。
「ダモクレスと化したのは、大型の懐中電灯です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは機械で出来たケモノのような姿をしており、ケルベロス達を敵として認識しているようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)

■リプレイ

●都内某所
「まさか、わたしが危惧していたダモクレスが本当に現れるとは、びっくりね。まぁ、被害が出る前に対処できて何よりだわ」
 天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は仲間達と共に、ダモクレスの存在が確認された倉庫にやってきた。
 倉庫のまわりは空気が冷たく、異常なほど静まり返っており、まるでそこだけ時間が止まっているような感じであった。
「太陽のように明るい懐中電灯、ですか。明るければ良いというわけでは無いと思うのですが、このメーカーは違っていたんでしょうね」
 そんな中、綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が、何処か遠くを見つめた。
 それだけ御客からの要望が多かったのかも知れないが、売り上げにはまったく繋がらなかったようである。
 それでも、メーカー側は、『需要がある……絶対にある!』と自分に言い聞かせ、大量の懐中電灯を倉庫に眠らせているようだ。
 しかし、結果は散々。
 万が一、売れたとしても、その大半が物置の奥で眠っていたため、口コミで売り上げが伸びていく事も無かったようである。
「懐中電灯は、あまり使う機会がないですけど……。単一電池が4本とは、これまたとんでもない電気を使いますね」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)が、事前に配られた資料に目を通した。
 一応、謳い文句に偽りがないほどの明るさがあったものの、いざと言う時に電池が切れていたり、家に予備の電池が無かったりしたため、役に立たない事が多かったようである。
 それは所有者側の問題でもあるのだが、無駄に重い事も祟って、デメリットばかりが目立っていたようだ。
「その上、大き過ぎる上に、重くて持ち運ぶのにも一苦労だったようですね。これなら扱いやすい懐中電灯が選ばれても仕方がないのかも知れませんね」
 鹿目・きらり(医師見習い・e45161)が、複雑な気持ちになった。
 おそらく、御客達も同じような結論に至り、懐中電灯の購入を躊躇ってしまったのだろう。
 こうなってしまうと、誰が悪いとも言えなくなってしまうのだが、ダモクレスと化した以上、放っておく訳にはいかなかった。
「懐中電灯も大型になっちゃったら、扱いにくいし、重いし……。やっぱりコンパクトなサイズがいいわね」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)が、自分の考えを述べた。
 御客達も同じような考えが多かったため、結果的に倉庫は在庫の山。
 それでも、メーカー側は懐中電灯が売れることを信じて、保管を続けているようだ。
「いよいよダモクレスとの決戦も間近のようだし、ここで頑張っておかないとね」
 ティユ・キューブ(虹星・e21021)がダモクレスの攻撃に備え、ゆっくりと倉庫に近づいていった。
「カイチュウデントゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した懐中電灯が、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破って、ケルベロス達の前に現れた。
 ダモクレスは機械で出来たケモノのような姿をしており、身体からイボの如く無数の懐中電灯が生えていた。
 それと同時に、身体から生えた懐中電灯が、太陽の如く光って、ダモクレスの身体を包み込んだ。
「こうなってしまった以上、人々に被害が加わる前に、防がないといけませんね」
 その光から目を逸らしつつ、紅葉が自分自身に言い聞かせながら、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
「デントゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その視線に気づいたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせながら、超強力なビームを放ってきた。
「……私の魔力よ、仲間を護る盾となりなさい!」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを発動させ、自然属性のエネルギーで盾を形成した。
 その盾はダモクレスが放ったビームを防ぎ、光の雨に変えて辺りに飛び散らせた。
「カイチュウデントウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 だが、ダモクレスはまったく諦めておらず、再び超強力なビームを放ってきた。
 それが巨大な光となって、再びケルベロス達に襲い掛かった。
「これじゃ、何も見えないわね。何か明かりを遮る事が出来ると良いのだけれど……」
 即座に、悠姫が物陰に隠れ、困った様子で溜息を漏らした。
 ダモクレスは手当たり次第に辺りを照らしているため、近づく事さえ困難だった。
 しかも、身体から生えた懐中電灯のせいで、ダモクレスの身体がハッキリと見えないため、遠距離から攻撃するのも難しかった。
「それなら、心の目で……。まあ、当たるかどうか、やってみないと分からないけどね」
 ティユが、ゆっくりと目を閉じ、精神を統一させながら、轟竜砲でハンマーを『砲撃形態』に変形させ、竜砲弾でダモクレスに攻撃を仕掛けた。
 しかし、目を閉じた状態でも眩しく、狙いを定める事が出来なかった。
 それでも、覚悟を決めて突っ込み、何とか攻撃を命中させた。
 その影響もあって、先程と比べて光が弱まり、ぼんやりではあるものの、ダモクレスの姿を確認する事が出来た。
「行きますよ、サターン。サポートは任せましたからね」
 それに合わせて、きらりがウイングキャットのサターンと連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「私達も行きますよ、ネオン! 共に頑張りましょうね!」
 その後に続くようにして、玲奈がボクスドラゴンのネオンに声を掛け、一気に距離を縮めていった。
 その気持ちに応えるようにして、ネオンが属性インストールを発動させ、自らの属性を玲奈に注入した。
「カイチュウデントゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが狂ったように、鋭い鉤爪を振り回した。
 それが懐中電灯の光を浴び、見えない刃となって、ケルベロス達に襲い掛かった。
「まるで、カマイタチですね」
 その攻撃を喰らったきらりが、ルナティックヒールを発動させ、満月に似たエネルギー光球を傷ついた仲間にぶつけ、傷を癒すと共に凶暴性を高めた。
「この鎖で、貴方を締め付けてあげますよ」
 その間に紅葉が光の弱い場所に回り込み、猟犬縛鎖で鎖を操って、ダモクレスを締め上げた。
「カイチュウウウウウウウウウウウウウ!」
 その途端、ダモクレスが狂ったように暴れ、鎖の拘束から逃れようとした。
 しかし、暴れれば暴れる程、身体を締めつけ、余計に動く事が出来なくなった。
「いくよ、ペルル。無理をして、怪我をしないようにね」
 その隙をつくようにして、ティユがボクスドラゴンのペルルに声を掛け、スターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをダモクレスに炸裂させた。
 それに合わせて、ペルルがボクスタックルを仕掛け、ダモクレスを転倒させた。
「カイチュウウウウウウウウウウウウウ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、怒り狂った様子で起き上がろうとした。
 だが、鎖の拘束からも逃れられていなかったため、文字通り手も足も出なかった。
「氷の属性よ……、爆発せよ!」
 それと同時に、玲奈がボルトストライクを仕掛け、自らの拳でダモクレスを殴りつけ、氷属性の爆発で追い打ちを掛けた。
 その拍子に、ダモクレスの右アームが凍りつき、まったく動かす事が出来なくなった。
「その硬そうな身体を、かち割ってあげるわよ!」
 その間に、悠姫がスカルブレイカーを仕掛け、高々と跳び上がり、ダモクレスめがけてルーンアックスを振り下ろした。
「カイチュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスの左アームが宙を舞い、アスファルトの地面に転がった。
「デ、デ、デ、デントウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それを目の当たりにしたダモクレスが、耳障りな機械音を響かせながら、次々とミサイルをぶっ放した。
 そのミサイルは次々と地面に落下し、眩い光を放ちながら、勢いよく弾け飛んだ。
「こ、これは、さすがに……」
 その光と衝撃から逃れるようにして、きらりが壊れたブロック塀の後ろに隠れ、気力溜めで自らを癒した。
「大丈夫よ。傷は浅いわ。みんな、落ち着いて」
 そんな中、リサが仲間達に声を掛けながら、鎮めの風を発動させた。
 そのおかげで仲間達は取り乱す事なく、心を落ち着かせる事が出来た。
「さぁ、この弾丸でその身を石に変えてあげるわ!」
 一方、悠姫はガジェットを『拳銃形態』に変形させ、ダモクレスめがけて、魔導石化弾を撃ち込んだ。
「デントウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時に、ダモクレスの身体が石化し、思うように動く事が出来なくなった。
 それでも、最後の力を振り絞るようにして、再びミサイルをぶっ放してきた。
 しかし、まったく狙いが定まっておらず、ケルベロス達にはまったく当たらず、まわりにあったブロック塀や、アスファルトの地面を破壊した。
「これで終わったと思ったら、大間違いですよ。この呪詛で汚染されてしまいなさい」
 その隙をつくようにして、玲奈が凶太刀でダモクレスを刺し貫き、刃から伝わる呪詛で魂を汚染した。
「月光の如き刀の舞を、ご覧あれ」
 続いて、紅葉が舞い踊るようにして距離を縮め、月光斬で緩やかな弧を描く斬撃を繰り出し、ダモクレスのコア部分を切り裂いた。
「デントウウウウウウウウウウウウウウウ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、悲鳴にも似た機械音を響かせ、真っ黒なオイルを撒き散らした。
「……これで、終わり」
 そのオイルを全身に浴びながら、ティユが星纏一槍(スターダンサー)を仕掛け、キラキラと輝く星の輝きを纏い、自らを『光の槍』に変えてダモクレスに突っ込んだ。
「カ、カ、カ、カイチュウウウウウウウウウウウウ!」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔にも似た機械音を響かせ、爆発と共に大量の破片を飛ばして、真っ黒な煙を上げた。
「どうやら、終わったようね。それじぉ、周囲を軽くヒールで修復しておこうかしら」
 リサがホッとした様子で、辺りを修復し始めた。
 ダモクレスは二度と動かない。
 懐中電灯も、二度と光らない。
 それが少し悲しく、何処か虚しく思えた。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月22日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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