●ユーデリケは十五歳になったのじゃ!
ユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)、今年で十五歳になる少女。
「わしももうオトナなのじゃ! いや、もともとオトナのレディじゃけども!!」
そうかなぁ。
「というわけで、わしは徹夜をしたい! オトナって感じじゃろ? 悪いことじゃけど……」
もじもじもごもごと恥じらいつつも、ユーデリケは夜通し起きて遊ぶということをしてみたいようだ。
「でも、一人で徹夜してもちっともつまらんというか、寝ちゃいそうじゃから、一緒に夜を明かしてほしいんじゃ」
あと、素敵な夜の過ごし方を教えてくれたら嬉しい。とユーデリケは顔を綻ばせる。
一応、大きなホテルの一室を借りてあるけれど、夜は長いから、部屋の中で過ごす方法も外で過ごす方法もどっちも体験したって時間に余裕はあるはずだ。
ユーデリケは徹夜をしたことがないから、襲い来る眠気を覚ます方法も、教えてあげると喜ぶだろう。
●宵の口
キングサイズのベッドが鎮座するホテルのスイートルームに集ったケルベロス達に『十五歳のお誕生日おめでとう!』と口々に祝われ、ユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)は面映そうに笑って礼を言った。
「ふひひ、ありがとうなのじゃ。そしてわしの徹夜パーティーにようこそなのじゃ~」
「今日は朝まで徹夜のパジャマパーティー?」
とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が尋ねるとおり、今日は十五歳という『オトナになった』ユーデリケがちょっとワルいこと……つまり徹夜をするための集いだ。
「パジャマパーティー? 徹夜をする会はそういう名前なのか!」
またひとつ賢くなった、とユーデリケは何度もうなずいた。
「リリは暖かいきぐるみパジャマを着てきたよ」
「ふむぅ。ナノナノの形をしておる。かわいいのう。わし、そういうのも着たいのう」
くるりと回ってみせるリリエッタに、かわいいものに目がないユーデリケは目を輝かせる。
そういうユーデリケも、パフスリーブとレースとリボンがたっぷりついた夢かわいいベビーピンクのパジャマ姿である。チュニックくらいの丈のトップスに、膝下できゅっとリボンで絞ったボトムのセット。ちょっと肌寒いのでピンクのカーディガンも羽織っている。
でも、着ぐるみパジャマとは可愛らしさの種類が違う!
リリエッタは実はナノナノ好き。大好きなナノナノを模したフード付きのふわふわパジャマはとっても愛らしい。
「ユーデリケさんは十五になるんだね。私が定命化したときの年齢は確か十六だったから、そのころを思い出したり思い出さなかったり!」
とジェミ・フロート(紅蓮の守護者・e20983)がデウスエクスからレプリカントになった頃に思いを馳せつつ彼女を見ていると、
「ふふふ、私が十五歳の頃はすでにして、最強の淑女でありましたからして、ユーデリケさんも、もう立派なレディですね」
と隣の華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)がうむうむと頷きながら、しゅぽんと何やら瓶の栓を抜く。
しゅわしゅわと音を立てる赤い液体を瓶からワイングラスに注いで、灯はユーデリケに差し出した。
「オトナの世界へようこそです!」
「えっえっ、こ、これはもしや……」
ユーデリケがグラスと灯を交互に見やると、灯は得意げに告げた。
「そう、これは…………苺のソーダです……!」
周囲の面々がちょっとホッとする。まさかのアルコールではなかった。
「ソーダか!」
「そう、夜中に甘いおやつをもりもり食べて炭酸を飲む。危険すぎて子どもにはオススメ出来ません、ええ!」
真夜中のジャンクな食。とってもワルである!
「ふぉおお……」
禁断の誘惑にユーデリケの目の輝きも一層増す。
「む、おやつ?」
「はい! お主も悪よのう、というわけで、山吹色、もとい黄金色のお菓子です!」
と微笑むエルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)が大きな荷物を解く。
「自家製マフィンにドーナツに……他にも沢山! 灯ちゃんのえんじぇりっくな苺ソーダとのコンビネーションもバッチシです!」
「わああ……!!」
甘いお菓子! いい香りのシュワシュワ苺ソーダ! かわいいパジャマ!
ユーデリケは夢いっぱいの光景に胸をときめかせる。
「て、徹夜って楽しいのじゃ……! これを食べつつ、お話をする感じかの?」
「いやいや、お話だけが夜の過ごし方じゃないっスよ」
●夜更け
ちっちっちと指を振って、ハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)が歩み寄ってくる。
「自分は、夜の過ごし方を一つプレゼンするっスね! ……ズバリ、筋トレっス!」
「き、きんとれぇ!?」
夜にやるものなのか?! とユーデリケは目を白黒させる。
「全く、今日もハチくんは修行おバカですねぇ……」
エルトベーレがジットリとハチを見る。
「ぐっ、おやつ大魔神に言われたくねっスよ!」
困惑するくらいおやつをもってきたベーレに言われたくないとハチは口をとがらせた。
「夜を楽しむのは素敵な心がけね」
援軍に現れたジェミがブイサインをしながら、笑顔で言う。
「私もハチさんと共に筋トレを教えてあげましょう。腹筋の割れたいいレディになりましょうー!」
「って、これは皆で筋トレする流れです!?」
運動は苦手なベーレが眉を寄せると、ジェミは首を横に振ってみせる。
「汗を流した後のおやつ食べ放題とか私達の女の子に響きませんか? そう、夜の甘いもののために生きている!」
というジェミの言葉に灯が飛びついた。
「おやつが美味しくなるなら、運動もちょっと頑張りましょう。よろしくですジェミさん!」
おっ。とハチが次々賛同者が現れて驚き半分喜び半分と頬を緩める。
「な、なるほど……空腹は最大の調味料とか聞いたことあるのじゃ」
夜ふかしに筋トレとは予想外だったユーデリケもようやく思考が追いついてきたようだ。
「リリエッタもせっかくじゃし、どうじゃ?」
ユーデリケがリリエッタに手を伸ばす。
「しかたないですね。お友達と過ごす時間は特別だから、翌日の筋肉痛だって格別の思い出になると思う私です!」
ぐっと拳を握り、エルトベーレも立ち上がった。やる気満々だ!
「ではまず、腕立て伏せから行くっスよ!」
ぱっとハチは床に伏せ、腕を立てたので、他の女子もそれに倣う。
●真夜中
ということで始まった筋トレだが、早々にエルトベーレがへばった。
ユーデリケも暑くなったのでカーディガンを脱ぐ。
「ふぃ~、効くのぅ……疲れたのじゃ……」
「きゅうう……。ハチくんは……今日の主役と……キュートな仲間達のために……、あったかリッチな……飲み物とか買ってきてくださいね……!」
大きなベッドに身を投げ出し、エルトベーレは息も絶え絶えになりつつも、ハチをパシらせようとする。
「ハチは、私の分のドリンクもよろしくです!」
灯もすかさず手を挙げた。
「そうっスね、我儘ベーレはともかく、ユーデリケには、運動後も最高の時間を過ごしてほしいっス! 必ずや、熱々のうちにご所望の飲み物を持ち帰るっスよ!」
ハチは嫌な顔ひとつせず、走るための準備運動をしたあと、ドヒュンと外へと駆け出していった。
「それじゃあ、さっそくお楽しみのベーレのお菓子タイムにしましょう。久しぶりで美味しいー! 幸せですー!」
灯はすかさずマフィンを手にとり頬張りだした。
ジェミとエルトベーレで他の面々にもどうぞどうぞとお菓子を配り、ハチを待たずにお茶会が始まった。
「むむ、やっぱりちょっとお腹をすかせてから食べるとおいしいのじゃ。む? リリエッタそれは?」
もふもふとドーナツを食べつつ、ユーデリケはリリエッタが何やら取り出したのに気づいた。
「夜ふかしするならゲームと思ってね。こんぴゅーたげーむはたくさんでやるのは難しいからね、リリはトランプを持ってきたよ」
トランプならいろんな遊びができるからね、とリリエッタはトランプを切る。
「ふむ。幸い、ここには人数もおるしの! よかったら皆で遊ばぬか?」
「賛成です!」
「いいわね、何をしましょうか」
「もぐもぐ……んぐ、もちろん私も参加しますよ!」
エルトベーレ、ジェミ、灯も反対する理由がない。
全員大きなベッドに上がって、円座になる。もちろんソーダやお菓子も一緒にベッドにつれてきた。
「じゃ、ババ抜きから……」
「ただいま~……って、あっ! 楽しそうなことを!」
リリエッタが札を配り始めた頃、手にいっぱいドリンクの袋を持ったハチが戻ってきて、あんぐり口と目を開けた。
「ハチもやるかの、ババ抜き」
ユーデリケが尋ねると、一も二もなくハチは頷き、
「もちろんっス! 自分もやるっス!」
スライディングするように、輪に加わった。
時計回りにさくさくと札をもらってはペアを捨てていき、手札が減っていく。
「ユーデリケは分かりやすいね。こっちがババみたいだから、もう一枚の方をもらうね」
「む、むむぅ。なぜじゃ……」
リリエッタが上がったので、ババを持っているユーデリケは不服そうに手持ちの札を何度も切った。
ババ抜きの次は、神経衰弱、七並べ、大富豪……。
●明け方
こくりこくりと船を漕ぎだしたユーデリケに、リリエッタはハチが用意したドリンクの袋からブラックコーヒーの缶を取り出して、差し出す。
「にがいコーヒーを飲むと眠気が覚めるよ。もうひと踏ん張り」
と二人で缶と缶を軽く打ち合わせてから、封を開けて、ぐいっと一息。
「うにゅぅ、苦いのじゃぁ」
眉を寄せ、ユーデリケはごまかすように甘いチョコクッキーを頬張った。
夜も深まり、もはや朝のほうが近い時間帯。少しずつ疲れもあってか皆の口数が減ってくる頃。
ぺらり、ぺらりとトランプをめくりながらジェミが言う。
「今日集まったメンバーとは思えばずぅっと長いお付き合いなのよね。オトナにはまだまだなれない私だけど素敵な縁に恵まれたなーって本当に感謝しかない、です」
「ふふ、大人でも、そうでなくても皆と過ごす時間はきっと、特別で格別なのです」
しっとりと灯が応えるのを見たユーデリケが何やら考え、そしてニヘと笑った。
「ふむ。……またこういうのやりたいのぅ」
「ふふ、『また』の約束、この先もいっぱい重ねたいっスねぇ!」
ハチだけ変わらずの元気さで大きくガッツポーズをしてみせる。
その勢いに目が覚めたか、エルトベーレも笑顔で両方の拳を握ってみせた。
「はい! この先もずーっとお友達です!」
朝日が昇ってきて、部屋に自然光が入ってくる。
「やったね、徹夜成功だよ」
リリエッタがパチパチと手を叩く。
「お、おおー。やり遂げたのじゃ。ふああ……終わってみると、なんだか……眠い……のじゃぁ」
こてんとベッドに転がって、ユーデリケはすうすうと寝息を立て始めてしまった。
そっとジェミがブランケットを掛けてあげる。
「また、集まりましょうね」
灯がそっと囁くと、ユーデリケは嬉しそうに夢の中で笑った。
作者:あき缶 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月16日
難度:易しい
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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