温もりを忘れ

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した工場に、充電式カイロが山のように棄てられていた。
 そこにあったのは、大量にリコールされ、そのまま放置されたモノ。
 リコールされた原因は、発火、黒煙、爆発等々。
 それは、まるで時限爆弾。
 いつ、いかなる状況で、発火し、黒煙を上げ、爆発するのか分からず、事故が後を絶たなかったようである。
 だが、処分に金が掛かってしまうため、工場の片隅に追いやられたまま、放置。
 すべてを『無かった事』にしたまま、工場が閉鎖されてしまったようだ。
 そして、その場所の現れたのは、小型の蜘蛛型ダモクレスであった。
 小型の蜘蛛型ダモクレスは、カサカサと音を立てながら、充電式カイロの中に入り込んだ。
「カイロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、充電式カイロがダモクレスと化し、耳障りな機械音を響かせながら、グラビティチェインを求めて、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「天月・悠姫(導きの月夜・e67360)さんが危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した工場でダモクレスの発生が確認されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが確認されたのは、都内某所にある廃墟と化した工場。
 この場所には充電式カイロが山積みになっており、適切な処理もされず、放っておかれているようだ。
「ダモクレスと化したのは、充電式カイロです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティチェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは充電式カイロがロボットになったような姿をしており、黒煙を上げながら、耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達に襲い掛かってくるようである。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)

■リプレイ

●都内某所
「ドウヤラ、この場所のヨウデスネ」
 パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された工場にやってきた。
 工場は既に廃墟と化しており、油が腐ったようなニオイが、辺りに漂っていた。
 その上、まわりの光を飲み込むほどの勢いで闇が広がっていたため、まるで墓地にいるような錯覚を覚えた。
「まさか、わたしが危惧していたダモクレスが本当に現れるとは驚いたわ。ともあれ、人々に危害が加わる前に倒せるみたいだし、其処は不幸中の幸いかな」
 そんな中、天月・悠姫(導きの月夜・e67360)が、ホッとした様子で溜息を漏らした。
 幸いダモクレスは、まだ誕生していない。
 そう言った意味で、誰かを襲う前に戦う事が出来るため、完全に希望が潰えた訳ではない。
 故に、ここで気を抜く事は出来ないものの、仲間達と協力して戦えば、倒せない相手ではない。
「充電式カイロのダモクレス、でござるか。季節らしいと言うべきかなんというか……。まあ兎に角、寒い季節の温もりというには些か暑すぎる様でござるからな。恨みはないでござるが、打ち砕かせてもらうでござる」
 不動峰・くくる(零の極地・e58420)が警戒した様子で、廃墟と化した工場に足を踏み入れた。
 工場内はカビのニオイに包まれており、大量の埃が舞って、身体に纏わりついてきた。
「資料を読む限り、カイロには電気式のもあるのね。わたしは、落としたりしがちだから、使い捨ての方が使いやすいかも」
 ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)が、自分なりの考えを述べた。
 どうやら、ダモクレスと化した充電式カイロは、バッテリー部分に問題があったらしく、煙を噴いたり、爆発していたりしていたようである。
 そのため、充電式カイロが回収される事になったが、適切な処分が行われぬまま、工場内に放置されていたようだ。
「この寒い季節には重宝して助かりますが、充電式は故障していたりすると、火傷の危険もあったのですね」
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が、事前に配られた資料に目を通した。
 返品が相次いだ充電式カイロは、コストをカットするため、最終チェックを省いていたらしい。
 それが原因で故障が相次いでいたらしく、工場の中には幾つもダンボールが積まれていた。
「でも、カイロが発火したら、危ないよね。かといって、このまま無かった事にされるとか、無責任にも程があと思うけど……」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が、工場側の対応に疑問を感じた。
 もう少し別のやり方があったような気もするが、返金対応ですら滞っていたため、打つ手なしと言う状況だったのだろう。
「確かに、不良品が相次いだからと言って、『無かった事』にするのは、何とも無責任よね。一番可哀そうなのは、放置された充電式カイロだろうけど……」
 リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)がハンズフリーライトで辺りを照らしながら、複雑な気持ちになった。
「人々を温めるために生まれたはずなのに、このような結果になるなんて……」
 煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)も同じようにランタンで辺りを照らし、悲しげな表情を浮かべた。
 おそらく、それは充電式カイロの本意ではない……はず。
 例え、今はそうであったとしても、それは小型の蜘蛛型ダモクレスによって、歪められた感情である可能性が高かった。
「ジュウデンシキィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化した充電式カイロが、耳障りな機械音を響かせ、暗がりの中から姿を現した。
 ダモクレスは機械で出来たゴリラのような姿をしており、ケルベロス達を威嚇するようにして、激しく胸を叩き、口から熱を帯びたビームを放ってきた。

●ダモクレス
「自然を巡る属性の力よ、仲間を護る盾となりなさい」
 すぐさま、リサがエナジープロテクションを展開し、自然属性のエネルギーで盾を形成し、ダモクレスのビームを真正面から受け止めた。
 それは全身の骨が悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになるほどの激痛と共に、全身が炎に包まれたのではないかと錯覚するほど熱かった。
 だが、自然属性のエネルギーで形成された盾のおかげで、仲間達を守る事が出来たため、大事には至らなかった。
「お主の相手は拙者でござる。なに、ちょっと冷えるかと思ってたところでござるからな。少し暖めてもらおうかと思っていたところでござる」
 即座に、くくるがダモクレスの前に立ち、わざと挑発的な行動を取った。
「ジュ、ジュ、ジュウデンシキィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが、耳障りな機械音を響かせ、高温のビームを放ってきた。
 それと同時に、くくるがスチームバリアを使い、多数の武器を内蔵した巨大手甲型ガジェット『轟天』と『震天』から魔導金属片を含んだ蒸気を噴出し、ダモクレスの放ったビームの軌道を逸らした。
 その影響で高温のビームが床を溶かし、壁にドロドロの穴を開けた。
「あなた自身は、身勝手な人間の犠牲者なのかも知れませんが、罪もない人々を脅かすのなら、容赦はしません!」
 その間に、カナがフォーチュンスターを発動させ、理力を籠めた星型のオーラをダモクレスに蹴り込んだ。
「カ、カ、カイロォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その拍子にダモクレスの装甲が弾け飛んだものの、まったく気にせず体当たりを仕掛けてきた。
「さぁ、この魔導石化弾で、その身を石に変えてあげるわよ!」
 それに合わせて、悠姫がガジェットガンを仕掛け、魔導石化弾を発射した。
「ジュ、ジュ、ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが膝をつき、恨めしそうに耳障りな機械音を響かせた。
 それはダモクレスにとって、屈辱的な事。
 その怒りをビームに変えて、再びケルベロス達に放とうとした。
「カイロだけに冷えれば機能が衰える……なんてコトはナサソウダケド、ヤルだけの事はヤッテみないトネ」
 その事に気づいたパトリシアが間合いを取りつつ、ダモクレスに螺旋氷縛波を放った。
「カイロォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ビームの発射口が凍り付き、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせた。
 それでも、ビームを放とうとしていたが、発射口が凍り付いていたせいで暴発してしまい、真っ黒な煙がモクモクと上がっていった。
「ジュウデンシキィィィィィィィィィィィィィィィィイイ!」
 しかし、ダモクレスは諦めていなかった。
 充電式カイロ型のアームを真っ赤に燃え上がらせ、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「こ、これはさすがに当たったら、痛いってだけじゃ済まないね」
 ティフが色々な意味で危機感を覚えつつ、ダモクレスの攻撃を避けるようにして飛び退いた。
 そのたび、ダモクレスが放ったパンチで、床が溶けるようにして抉れ、独特のニオイが辺りに漂った。
「ほらほら、こっち! こっちだよー!」
 それと同時に、桜子が撲殺釘打法を仕掛け、エクスカリバールから釘を生やし、ダモクレスの頭にブチ当てた。
「その固い身体、かち割ってあげるわよ!」
 それに合わせて、悠姫がスカルブレイカーを仕掛け、高々と跳び上がって、ルーンアックスを振り下ろし、ダモクレスのボディにヒビを入れた。
 それはまるで卵の殻のようでもあったが、ヒビ割れた部分から溢れ出したのは白身ではなく、オイルにも似た真っ黒な液体であった。
「カイロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に腹を立てたダモクレスが、狂ったようにブンブンと拳を振り回した。
 その影響で室内の温度が一気に上がり、まるでサウナの中にいるような状態に陥った。
「だったら、そのカイロよりも、熱い一撃をお見舞いしてあげましょう」
 それに対抗するようにして、ミントがグラインドファイアを仕掛け、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
 その炎が荒々しく舞い踊るようにしながら、ダモクレスを消し炭に変えようとした。
「ジュウデンハキィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 だが、ダモクレスは熱に対して耐性があるのか、全身炎に包まれながら、充電式カイロ型のミサイルを飛ばしてきた。
 そのミサイルは床に落下したのと同時に爆発し、ネットリと纏わりつくような熱気と共に、大量の破片を飛ばしてきた。
「大丈夫よ、落ち着いていれば安全だから」
 すぐさま、リサが仲間達の所に駆け寄り、鎮めの風を発動させた。
 しかし、ダモクレスの攻撃は、止まらない。
「カイロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして放たれたのは、先程と同じミサイルであった。
 そのミサイルが雨の如く降り注ぎ、激しい爆発音と共に、大量の破片が刃物となって、ケルベロス達に襲い掛かった。
「拙者の『轟天』、『震天』の力、得と受けるがよいでござる!」
 くくるが腕『轟天』に備えられたグラビティ吸収機構を稼働した状態で、グラビティのボディを引っ掻き、同時にグラビティを吸収した。
「デ、デ、デ、デ、デンゲキィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが激しく痙攣し、大爆発を起こしてガラクタと化した。
「人間の身勝手な理由で捨てられ、デウスエクスの悪事に利用された悲しき充電式カイロさん……安らかに……」
 カナがダモクレスだったモノを見下ろし、その境遇に思いを馳せ、冥福を祈るようにして黙祷を捧げた。
 ……その魂が何処に向かうのか分からない。
 だが、小型の蜘蛛型ダモクレスから解放された事で、その魂も解放された……はず。
 その事を願い、祈りながら、カナがゆっくりと天井を見上げた。
 そこにはダモクレスによって開けられた穴が開いており、そこから一筋の光が差していた。
「コレの元にナッタ小型の蜘蛛型っていうダモクレスの残骸はアリマセンネ。日本全国どこにでもイヤガル上に倒すと消えちゃうからタチが悪い。マキナクロスもよく考えたモンダゼ」
 そう言ってパトリシアがダモクレスの残骸を調べつつ、深い溜息を漏らした。
「ダモクレスと化した後も、危険性って変わらないのかな? このまま放っておいて危ないようなら、きちんと集めて処分できるところに、お願いしておかないとね」
 その事に危機感を覚えたティフが、念のためダモクレスだったモノを拾い始めた。
 既に、充電式カイロの原型を留めていなかったものの、バッテリーと思しき部分が不自然に膨らんでいたため、危険である事は間違いなさそうだ。
 そう言った意味でも、回収しておいて、無駄になる事はないだろう。
「せっかくですから、このあと気分転換に温かいラーメンでも食べに行きませんか?」
 ミントが頭の上にラーメンを思い浮かべ、仲間達を食事に誘った。
「桜子も身体が冷えたから、一緒に行こうかな」
 桜子がノリノリな様子で、ミントの誘いに乗った。
 そして、ケルベロス達はダモクレスだったモノを回収した後、その足でラーメン屋に向かうのだった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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