聖夜に恨み募らせて

作者:神無月シュン

 クリスマス。家族や恋人、大切な人と過ごす特別な夜。数多くの人々が幸せな夜を過ごした事だろう。
 ――その数日後。
「キャアアアアアアアアアアァア!!」
 マンションの一室に、女性の叫び声が響き渡る。
 声の主の女性は左手薬指を切り落とされ、激痛に床を転げ悶え苦しんでいた。
「ど、どおじ……で……」
 両目に大量の涙を溜め見上げる先には、全身から羽毛を生やしたビルシャナが立っている。
「クリスマスの日に、プロポーズしようと決心していたのに……おまえはよりにもよって、そのクリスマスの日に別れようだなんて!! これは許しがたい罪だ!」
「イヤアアアァー!!」
 ビルシャナは更に女性の左手小指を切り落とす。
「さあ、次はどこがいい? もっともっと苦しんでおくれ……」


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は悲痛な面持ちで、集まったケルベロスたちへ今回の事件についての説明を始める。
「あるマンションで、ビルシャナを召喚した人間が事件を起こそうとしています」
 ビルシャナを召喚した人間は、理不尽で身勝手な理由での復讐をビルシャナに願い、その願いが叶えばビルシャナのいうことを聞くという契約を結んでしまったようだ。
「彼が、復讐を果たして心身ともにビルシャナになってしまう前に、復讐の対象の女性を何とか助け出してください」

 事件の起こるマンションのへ向かうのに、障害になるようなものはない。部屋に侵入するのは緊急の為、扉や窓を破壊して侵入しても構わない。
「戦闘になった場合、ビルシャナと融合した人間は、復讐の邪魔をしたケルベロスの排除を優先します」
 どうやらビルシャナは苦しめて復讐したいと考えているようで、復讐途中の人間を攻撃することはない。
 しかし、自分が敗北して死にそうになった場合、道連れで殺そうと攻撃する可能性がある為注意したい。
「復習に燃えている為か、普通のビルシャナよりも戦闘力が高めです。それと、ビルシャナと融合してしまった人間は、基本的にビルシャナと一緒に死んでしまいます」
 可能性は低いが、ビルシャナと融合した人間が『復讐を諦め契約を解除する』と宣言した場合、人間として生き残らせる事が出来るようだ。
 この契約解除は、心から行わなければならないので、『死にたくないなら契約を解除しろ』といった、利己的な説得では救出する事は行えない。

「ビルシャナと融合した男性も助けられれば良いのですが、被害者女性の安全を最優先でお願いします」


参加者
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)
シーリン・デミュールギア(断罪天使・e84504)
 

■リプレイ


 マンションの管理人に許可を得て、ケルベロスたちはビルシャナに襲われる女性の部屋に向かって廊下を歩いていく。
「痴情のもつれ、ここに極まれりって奴だねぇ」
 ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)が歩きながらそう呟く。
 男女間のトラブルというものは後を絶たない。時には傷害事件や殺人事件に発展することも少なくない。今回は恨みの末、復讐するべくビルシャナを召喚し融合を果たした男性が相手を殺そうとしている。
「鳥なんかに魂を売る方が一概に悪い……なんて、気持ちは分からなくもないし今回は言えそうも無いわね……」
「確かに気持ちはわからなくもない、けど、それで復讐をしていい理由にはならないと思う。できれば平穏無事に解決したいかな……」
 シーリン・デミュールギア(断罪天使・e84504)と夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)は別れを告げられる側の気持ちも分かると、男性を憐れむ。
 とはいえ、ビルシャナになってしまった以上、人を殺す前に止めなければならない。
「必要な情報はこれくらいかな」
 ステラは『情報の妖精さん』を使い、ネット上にある2人のブログなどの情報を集め整理して皆に伝えた。
 2人の思い出や互いの不満等、説得するのに情報は多いに越したことはない。
「ありがとうございます。流石ステラ様、頼りになりますわ」
 受け取った情報に目を通しながら、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)はステラに礼を言う。
「うーん……これって」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が受け取った情報を見て唸る。
「ええ。これはそういうことですわね……」
 ルーシィドもまた、情報を見終えると複雑な表情を浮かべた。
 それもそのはず。2人のブログなどを見比べると分かるが、2人の恋愛に対する温度差がありすぎた。
 片は相手に入れ込み結婚まで考え、片は彼氏持ちというステータスの為、遊びのつもりで付き合い、プロポーズの気配を感じて、いい相手が見つかったのをきっかけに別れを告げたのだ。
「これは男性に同情したくなるわね」
 シーリンの言葉に皆が頷く。
 同情はするが殺人を許すわけにはいかない。目的の部屋の前に辿り着き、ステラとシーリンは左右の廊下へと別れ『殺界形成』を展開させる。
「これで野次馬も来ないかな」
「こっちの展開も終わったわ」
 2人の言葉を合図にドアを破り部屋へと突入する。
 部屋へと飛び込むとそこには既にビルシャナが立っており、女性へと詰め寄っている瞬間だった。
 ミリムは1人飛びだすと、ビルシャナへと抱きつき女性との距離を開ける。
「まぁまぁまぁ、とりあえず落ち着きましょう。不満はいくらでも聞きますから! ね?」
「あ、貴方たち……誰? え?」
 混乱する女性にケルベロスであることを伝えると、女性は安心した顔をし、すぐにビルシャナを睨みつけた。
「ケ、ケルベロスなら、あの化け物早く倒してっ!!」
「なっ!? ば、化け物だとっ!!」
 女性の言葉にビルシャナが怒り暴れると、抱き付いていたミリムが飛ばされる。
 ミリムは立ち上がると、人差し指を口に添え女性に向ける。『黙っていて』と。これ以上ビルシャナを刺激されては堪らない。
「さ、こっちへ……」
 璃音が女性を玄関へと誘導する。
「おい! その女をどこに連れていくつもりだ!!」
 女性を避難させようとしている事に気が付いたビルシャナは、ケルベロスたちに向かって襲い掛かる。
 ケルベロスたちは女性を背に隠し、迎撃態勢に入った。


「とりあえずまず落ち着きなさいな……。そんなに頭に血が上ってる状態で行動なんてしたら、本当に全てが終わるわよ……!」
「うるさい! 邪魔する奴は全て敵だあああ!」
 シーリンの言葉に耳を傾ける様子もなく、攻撃を繰り出すビルシャナ。
 攻撃を受けつつもミリムは低い姿勢でビルシャナの懐へと飛び込むと、ビルシャナへと組み付いた。
「辛い気持ちがあるなら全て言葉で吐き出してしまいましょう」
 話すまで離れないとばかりに、腕に力を込める。
「その女は、俺のプロポーズを遮って別れを切り出したんだ。俺の気持ちに気付いておきながら、あんな……」
「よしよし……それは辛かったでしょうね」
「大丈夫……人間失恋の一つや二つで全てが終わるようにはできないから……」
 ビルシャナの言葉を聞き、ミリムとシーリンが慰めるように声をかける。
「お前たちに何がわかる! 俺は真剣だったのに、あの女に弄ばれたんだ! 復讐して何が悪い!」
 怒りに任せてミリムを振りほどくビルシャナ。
「怒り、苦しみ、悲しみ、やるせなさ。自分の中で渦巻くそれを抑えきれずに、復讐という方法を考えたのだとしたら、それをまちがっていると、簡単に言うことはわたくしにはできませんわ」
 ビルシャナに声をかけつつ、ルーシィドはミリムの治療を行う。
 治療の邪魔をしようと飛び込んでくるビルシャナに、璃音の飛び蹴りが炸裂する。
「あなたの復讐したいと思う気持ち、わからなくもない。でも、憂さ晴らしのように暴力などに発展させたところで、後に残るのは虚しさだけだよ。ましてやビルシャナという他人に頼んでまで復讐をしようとするのは、なんか違う気がする。そう思わない?」
「復讐さえ出来ればどんな手段でも構わないんだ!」
「さっきから復讐復讐ってそればかりだけど……じゃあその復讐が終わったら、アンタは何をするの……? どこに行くの……? 何を信じて何を持って、何を目指して生きていくの……?」
「復讐が終わったらだって……? ふふっ、その後はこの体は完全にビルシャナ様のものになるんだ。先の事なんてどうでもいい」
 シーリンの問いにビルシャナが鼻で笑った。
「そうなるくらいなら、思いっきり愚痴ったり食べたり飲んだりして、もう過去のことだと忘れてしまった方がよくない? 私や私たちがいくらでもその相手になってあげるからさ」
「そんなこと言っても、お前ら全員同性の味方をするに決まっている。もう女の言う事なんて信じられるものかっ!」
 必死に語りかけるケルベロスたち。しかし、頭に血の上ったビルシャナは全く聞く耳を持ってはくれない。ケルベロスたちは仕方なくビルシャナを弱らせるため、攻撃を続けることにした。


 ミリムの『にゃいぼう』の一撃が胴を撃つと、ビルシャナの体がくの字に曲がる。
 その隙にルーシィドの『クロユリのドレス』からは光輝くオウガ粒子が放出され、仲間を包み込んだ。
 反撃に出たビルシャナの全身から光が放たれる。強い光が部屋に溢れ、視界を白に染め上げる。
 そんな中、ステラの放った影の弾丸が白を斬り裂いて、ビルシャナへと吸い込まれる。
「ぐ……うぅ……」
 傷口からボタボタと血がこぼれ、呻き声をあげるビルシャナ。
 やり過ぎない様、手加減をしながら璃音とシーリンが攻撃を加えていく。
 ビルシャナの勢いが衰えたのを見計らって、ケルベロスたちはビルシャナへと声をかける。
「その人を傷つけなくても、あなたが楽になる方法はあります。それは……お酒です! お酒を飲んで話したらきっと楽しいですわ?」
「悪い事は忘れて今宵はオールでパーリナイしましょう!」
「お酒なら持ってきたよ? 一緒に楽しもう?」
「お酌ならあたしがしてあげるから」
「……そんな鳥なんかにならなくたって、生きてればもっと良いことだってあるだろうし、良い出会いだってあるかもしれないんだよ……? それでもその可能性を、アンタは捨てるの……? とりあえず好きな物でもたらふく食べて、嫌なことは早く忘れなさいな……」
「ふ、ふふふふふ……。そんなことしても、どうせ彼女と一緒にはなれないんだ……だったら……」
 ビルシャナが倒れそうになるが、足に力を込めて堪えると、じっと女性を見つめた。
「いっそここで一緒に死んでくれえええぇぇ!!」
 女性目掛けて突進するビルシャナ。
「させません!」
 ミリムが目の前を横切るビルシャナの腰元目掛け組み付くと、バランスを崩したビルシャナがその場に倒れ込んだ。
「ステラ様!」
「ルーちゃん任せて」
 ルーシィドの支援を受け、ガネーシャパズルを掲げるステラ。掲げたパズルから竜を象った稲妻が解き放たれ、ビルシャナを飲み込む。
「生命の輝きよ、私に集いて一時の力となれ! ――これで終わらせる! レディアント・ステラ・グラディオ!」
 璃音が掌へと魔力を束ね巨大な虹色の剣を形成すると、ビルシャナ目掛けて振り下ろす。更に手首を捻りもう一撃。
「聞け、終命を告げる鐘の音を……。貴様の死は確定した。朽ち墜ちて死ね……甘んじて」
 超高速で放たれるシーリンの無数の斬撃に、ビルシャナは為す術なく八つ裂きにされ、動かなくなった。
「サヨウナラ……。せめてアンタの来世が、今世よりもより良くなることを祈ってるわ……」


「シルバーブリット、ありがとね」
 戦闘中、女性を乗せ逃げ回っていたライドキャリバーを労うと、ステラは襲われたショックで気を失っていた女性を抱きかかえ、シルバーブリットの上から下ろし部屋のベットへと運んだ。
 手分けして部屋の中の片付けとドアの修理を終えると、ステラとシーリンが殺界を解除する。
 片付けが終わってから数分。ようやく女性が目を覚ました。
「う……ん……」
「良かった。目が覚めたようですわね」
 女性が無事目が覚めたことにルーシィドは安堵した。
「ここは……あれ?」
「もう安心だよ」
 落ち着く様に璃音が微笑みかける。
「あの化け物は倒してくれたの?」
「ええ。ですが――」
 今回の事件の原因について軽く女性に説明をすると、ケルベロスたちは部屋の外へと出る。随分と時間が立っていた様で、深夜の夜風が身に染みる。
「この後どうしようか?」
「せめて私たちだけでも彼を悼んであげませんか?」
 夜風に震えながらミリムがそう提案すると、皆も異論はないと頷いた。
「とりあえず寒いし移動しようよ」
 そうしよう。とケルベロスたちはマンションを後にするのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月5日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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