魔導神殿追撃戦~ステュクスのホーフンド

作者:秋月きり

「アスガルド・ウォーの勝利、おめでとう。難しい戦いだったけど、みんなのお陰で、アスガルドゲートの破壊という最良の結果に繋がったわ」
 ヘリポートに集ったケルベロス達に向けられたのは、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)による祝辞だった。
 しかし、微笑は一転して真摯な表情へと切り替わる。その意味を、彼らもまた知っていた。
「だけど、エインヘリアルの残存兵力が未だ、地上に残っている。それらは魔導神殿群ヴァルハラの宮殿として出現しているわ」
 故に、その兵力を倒す必要がある。その時こそ、本当の意味でのアスガルド・ウォー終了が訪れるだろう。
「みんなに攻略をお願いしたいのはその内の一つ、第八王子ホーフンドが護っていた白羊宮『ステュクス』よ」
 現在、ステュクスはホーフンド軍と共に東京焦土地帯に出現していると言う。だが、それ以上の動きが無いのだ。
「焦土地帯の最奥で守りを固め、動こうとしていないようなの」
 まぁ、ホーフンドの性格を考えればそれも止む無し、何だろうけどねぇと、リーシャは唇を尖らせる。
 そう、一番の理由は指揮官であるホーフンド王子の性格にある。積極果敢とは程遠い臆病者である為、今の状況で大きな動きをすると考え難いのだ。
「ホーフンド王子軍が首都圏を強襲する軍勢を支援する、いわゆる『補助戦力』であったことも理由みたいだけどね」
 今の戦力では今や、ケルベロス達の拠点と化した磨羯宮「ブレイザブリク」への突入は不可能。だが、指揮官の性格故、一発逆転を狙って吶喊することも行えないと言う状態なのだ。
「とは言え、このまま放置する事も出来ないわ」
 その為、威力偵察、或いは降伏勧告などの交渉を行うチームを派遣することとなった、と言う事だった。
「まず、今回の調査は二班で行う事になるわ」
 その一つが自分の元に集ったメンバーであり、もう一つが望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)の元に集ったメンバーだと言う。
「便宜上、『リーシャ班』と『小夜班』って呼ぶわね。みんなは小夜班と連携しても良いし、別の動きを取っても良いわ」
 なんとも投げやりに聞こえる指示であったが、白羊宮の情報の少なさとホーフンド王子軍の脅威度の低さに起因することが原因だ。
 まして、地上に浮上している宮殿は白羊宮だけではない。他に金牛宮と双児宮が出現しており、そちらの脅威度の方が高いのが現状だ。白羊宮への派遣が二班に限られてしまうのも、致し方ないと言える。
「話を戻すわね。白羊宮が浮上したのは前回、第八王子強襲戦の戦場となった場所――即ち、東京焦土地帯の一角で間違いないわ」
 白羊宮が動き出す気配が無い現在、乗り込みには最適な状況であった。
「周囲を警戒しているホーフンド軍の部隊達をどうするか、と言う問題が残されているけど」
 特筆すべきはホーフンドの娘であるアンガンチュールである。彼女は取り巻きを連れ、警戒活動を行っているようだ。
 ただ、彼女達以外のホーフンド軍はケルベロスを発見しても戦わず撤退するように命令されている様子である。この情報も突破口となるだろう。
「繰り返しになるけど、現状、白羊宮の戦力だけなら脅威は少ない。情報収集、或いは交渉にはうってつけな状況よ」
 本来であれば、それ以外を含めた宮殿の戦力と、双魚宮奪還部隊を合わせた数が東京焦土地帯に現れていた可能性もある。それを止めたのはケルベロス達によるアスガルド・ウォーでの奮闘だ。
「そう、みんなの力で彼らを追い詰めた。だから、交渉が可能な状況にもなってるわ」
 とは言え、もしも交渉を行うのであれば、何を交渉するか考える必要がある。この依頼の難易度の高さが窺えた。
「でも、みんなならきっと、今回も最良の結果を成してくれるって信じているわ」
 だから、と笑顔でリーシャはケルベロス達を送り出す。
「いってらっしゃい」
 添える言葉は、いつもと同じだった。


参加者
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●ケルベロスは往く
 東京焦土地帯。
 東京都八王子市に広がる侵略地の、その更に最奥。そこに浮上した白羊宮「スティクス」は守備を固めていると言う事だ。
「ホーフンド王子に引導を渡しにいくのよね」
「いえ、交渉ですから……」
 道すがら、剣化した道を掻き分けつつ零したローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)の言葉に、愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)の苦笑が重なる。
「やるだけのことはやらないと、ね」
 場合によっては戦闘もあり得ると円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は息巻く。その時は、同じく東京焦土地帯を歩むもう一つの班――担当ヘリオライダーの名を取り、『小夜班』と呼称している――への連絡は必須だ。
「勿論、お付き合いしますとも……」
(「恐らくは危険な試みです……が、それだけに……面白くなってきました……」)
 同意を示す死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)の頬は高揚感の為か、紅潮していた。
(「エインヘリアルの皆さんの気持ちに応えないと」)
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)の士気は高い。譲れない物を互いに抱いている。ならば、それらを是とする道を模索する必要がある。
(「きっと、共生の道はあるはず」)
 夢見星・璃音(輝光構え天災屠る魔法少女・e45228)の瞳は希望に輝き、
「あー。テステス。……問題なさそうじゃな。それではアンガンチュールの引きつけ、頼むぞ。わしらはホーフンド王子相手に全力を尽くす所存じゃ」
 緊張感溢れる声を紡ぐのは端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)だ。彼女の言葉は、独白にしてはしっかりと響く。展開したマインドウィスパー・デバイスを鑑みるに、おそらく小夜班の誰かと会話しているのだろう。
「時間稼ぎだけはしないと、ね」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が視線を向けるのは、白羊宮か、それとも現実か。
 零れ出でた意気込みに、7人のケルベロスは応と、力強く頷いた。

 白羊宮「スティクス」までの道は険しくも、しかし、ケルベロス達にとっては平地も同然だった。
 加え、敵の妨害がないのであれば、散歩と変わらない。
 時折、遭遇するホーフンド王子の哨戒兵隊は戦意が無く、ケルベロスの姿を認めれば即座に逃走してしまう。問題はアンガンチュール達一向だったが、そちらは影も形も無かった。おそらく、引きつけを行う小夜班の功績だろう。
 そして、その足はピタリと止まる。
 眼前には荘厳な神殿――白羊宮の姿があった。

「無事、白羊宮まで辿り着いたぞ。そちらは如何かの?」
 括の問いはしばしの後「それでは、ご武運を、なのじゃ」の言葉で締めくくられる。
 彼女達が白羊宮に辿り着いたと同様に、小夜班はアンガンチュールとの接敵を始めた様だ。
 互いの役割を果たすと誓い、通信を切る。
 既に腹は据わっていた。

●この声が届くまで
「結構多いね」
「そうね」
 リリエッタの独白に、ゴッドサイト・デバイスを使うまでも無いとキアリが呻く。
 視線の先に広がるのは、多くのエインヘリアル達――紛れもなく、ホーフンド軍であった。
「流石、防衛には力を入れるよね」
 納得とめぐみが頷く。
 数にして中隊規模だろうか。拠点防衛へのホーフンド軍の意気込みを窺わせた。
「アスガルド・ゲートを破壊したケルベロス達による追撃を想定している、のでしょうね」
 ミライの台詞は静かに、ゆっくりと響く。
 彼らにとってみれば当然の行為だ。アスガルド・ゲートの破壊が行われたのはつい先日のこと。臆病で名を知れたホーフンド王子が無警戒な訳がない。
 ならば、それを行う防衛部隊の士気は高いだろう。たとえ全滅しようとも、最期まで戦い抜くことは容易に想像出来た。
「こうなると侵入は?」
「無理、でしょうね……」
 ローレライの呟きに刃蓙理が首を振る。
 彼女が用意した闇纏いも、仲間たちが用意した隠密気流も警戒している彼ら――即ち、臨戦態勢の者達に対しては効果を発揮しない。双方とも『非戦闘時に』と言う但し書きがつくからだ。
「双魚宮とは違いますしね」
 璃音から零れたのは、白羊宮と同じ魔導神殿群ヴァルハラの一宮殿の名だった。
 彼の神殿の兵力はヴァルハラの最奥にあった為、敵の侵入なしと油断し切っていた。それ故、急襲は成功したのだ。
 だが、今は異なる状況だ。
「侵入を諦め、交渉に移るべきじゃ」
 それが為すことだと、括が自身に気合いを入れる。
 ここで歩みを止めることは出来ない。自身らの声を届ける相手がいる限り。

「誰だ!」
「「ケルベロスよ」」
 誰何の声に同じ声量で返したのはローレライと璃音であった。
 大剣の刃先を向けるエインヘリアルは逞しく、星霊甲冑を纏う身体の引き締まり具合が、歴戦の勇者を思わせた。
 声に反応し、周囲のエインヘリアル達もまた、得物を構える。その誰しもが目の前のエインヘリアル同様、勇者であることは間違いない。
 だが、それでも。
(「脅威が少ない、か」)
 リリエッタは思う。
 エインヘリアル達は強いだろう。だが、自分達比では無い。
 ここにいる兵力だけが相手であれば、例え戦闘が起きたとしても8人全員の帰還は可能だと感じる。成る程。ヘリオライダーが脅威は少ないと判断するわけだ。
(「とは言え、神殿内部にはホーフンドやユウフラ、親衛隊とかがいるからね」)
 今、対峙するエインヘリアル達だけが全ての戦力とは思えない。よって、強行突破は出来そうになかった。
「貴方たちの主、ホーフンド王子に伝えて欲しいの! ケルベロスが来た、と」
 真摯なミライの声が響く。
 ケルベロス達がベット出来る札は誠実さだ。敵対勢力だろうと、否、敵対勢力であるからこそ、それを欠くことは出来ない。
「しかし、それは……」
 巨銃を構えたエインヘリアルが戸惑いの声を上げる。
 当然だ。つい先日、命のやり取りを行った敵軍が、突如として現れたのだ。その反応は全く以て正しい。
「貴方たちには生きる権利がある。生き延びる義務がある。この星は必ず『定命化』を受け入れてくれる。それがどんな形になるか、貴方たち次第になるけど」
「そうです! 地球を愛してくれる為の助力は惜しまないつもりです!」
 ミライの言葉をめぐみが後押しする。
 それは定命化の誘いであった。侵略者として地球に留まることは難しい。もしも既に重力に魂が引かれ始めているのであれば、定命化が始まっていても不思議では無い。
 差し迫る定命化か、それとも死か。だが、死に向かわないように手助けが出来ると、彼女らは提示する。
「ゲートが閉じた以上、地球との共存の他、貴方たちの生存は不可能よ。……それとも、他のデウスエクス勢力の元に身を寄せるにせよ、利となる手札があるって言うの?」
 其処まで口にし、キアリは首を振る。
「英雄王シグムントの最期を思えば、それは出来ない筈よ」
 彼の老王が誰に責を被せることなく逝ったこと、天秤宮の転移能力を避難の為だけに使用したこと。それを思えば、彼の王の望みは理解出来る。少なくとも交渉を受け入れ、自身らに下ることは老王の意図に反しない筈だと、彼女は告げる。
「地球にはとても美味しい食べ物が沢山あるよ!」
 ローレライからも援護射撃が飛ぶ。定命化にも魅力がある。彼女が上げた食べ物以外にも、人々との語らいや、その優しさに触れることもまた、地球で暮らすことの魅力だ。
「双方に新たな犠牲を生まぬ為に交渉を望みたい」
「無闇に血を流したくないし、私たちはホーフンド王子たちと争いたくないの」
 括は交渉の是を説き、璃音は何れ来る死までの平穏は約束すると告げる。
「あくまでも、話し合いに来ました……」
 刃蓙理の言葉に、大剣のエインヘリアルは「わかった」と頷いた。
 元より、戦う利は彼らにない。今はケルベロス達の言葉を是とするしか無いのだ。
「全て王子に告げよう。少しの間、待って頂きたい」
 敬礼し、踵を返した巨体が神殿の中へと消えていく。
 この声が届けば。
 ケルベロス達は祈るように、その背を見送っていた。

●秘書官との対話
 数刻の後、現れたそれは、美しい女だった。
 漆黒の肌に銀色の髪を持つ彼女を、ケルベロス達は知っていた。
「ユウフラさん」
 ミライが独り言ちる。
 ホーフンドの軍師にして秘書官ユウフラ。それが彼女の名前だ。
 白羊宮の内部から現れた彼女はケルベロス達を見止め、僅かに頷く。
「ホーフンド王子は?」
 ミライの問いに、しかし、答えは無い。
 だが、それが答えだった。
(「ホーフンドはわしらに会わぬ事を選択したか」)
 強く歯噛みをし、括は言葉を飲み込む。
(「考えてみれば、ここで私たちに下る、と言うことは、エインヘリアル軍を裏切る、と同義……」)
 私たちが示した提案は、其処までの価値を、彼が得る利益を示せていただろうか。
 刃蓙理の自問に答えは無い。
 だが、この場にホーフンド王子が現れなかった。それが全てなのだろう。
(「では、何故?」)
 キアリの視線はユウフラへと向けられる。
 交渉決裂ならばケルベロス達を追い返せば良いだけだ。側近であるユウフラが出てきたと言う事は、まだ交渉の余地があると言う事だろうか?
「この場については私が仕切らせて頂きます」
 よく通る声でユウフラが口にする。
「現状、私たちはあなた方の手腕を高く評価しています。先の戦いにおけるヴァルハラ大空洞への奇襲、そしてアスガルド・ゲートの破壊。恐るべき敵だと認識し、故に警戒を解くわけにはいきません」
 ただ、と言葉を続ける。
「あなた方は我々と話し合いの余地があると言いました。ならば、それを続けるべきだと判断しました。その為の場だとご理解下さい」
「それは、条件付きで交渉に応じて良いと言う事かな?」
 璃音の言葉にユウフラは眉一つ動かさず答える。
「そう捉えて頂いて構いません」、と。
(「これは次に繋がった、と見て良いの?」)
 ユウフラの言葉に虚言は見受けられない。ケルベロス達への奸計とは思えなかった。
「まず、一つ。東京焦土地帯に浮上する筈だった双児宮『ギンヌンガガプ』の行方をあなた方は存じていませんか?」
 問いの意図を掴めず、ケルベロス達は顔を見合わせる。答えは知っている。だが、それを口にするべきか否か。
 しかし、意図せず行った沈黙をユウフラは不知と捉えた様だった。
「そうですか」
 失望も落胆も感じさない、淡々とした物だった。返答への期待は無かった、と言う事だろうか。
「現在、英雄王シグムントの崩御に伴い、エインヘリアル軍の指揮権は最高位である第三王子、モーゼス王子に移っています。我々は其処に合流する必要があります」
「それって――」
 口を挟もうとしたリリエッタをしかし、めぐみが口を塞ぐことで制する。今はユウフラの言葉を聞くことを優先すべきだ、と判断したのだ。
 双児宮や金牛宮へケルベロス達が攻め入っている情報など、自身らの立場を不利にするだけにカードに過ぎない。
「ただ、あなた方の意図は汲み取りました。モーゼス王子への停戦提案は私たちが請け負いましょう」
 だが、その為には双児宮の居場所の特定が必要不可欠と言う事だ。
「それを私たちに依頼したい、と?」
 声は震えていなかっただろか。噛みしめるように言葉を発しながら、ローレライはユウフラの目を見る。
「はい」
 首肯の後、ユウフラは次の言葉を紡いだ。
「二つ目。ジーヴァ王子軍――金牛宮『ビルスキルニル』について、です。彼らはザイフリート王子による地球侵攻時の拠点に向けて侵攻する別動隊となる予定であり、東京焦土地帯とは別の場所に浮上している筈です。こちらも居場所を掴みたく思います」
「……」
 何かを言えば墓穴を掘りかねない。そんな予感がケルベロス達を沈黙へと誘う。
 表情は崩れていないか? 冷や汗は掻いていないか?
 だが、そんな彼女らの内心を知ってか知らずか、ユウフラは言葉を続ける。
「立場上、私たちは第四王子であるジーヴァ王子軍へ終結を呼び掛けることが出来ません。よって、彼らへの対応については貴方たちに頼らせて頂きたいのです」
 そこで一度、ユウフラは言葉を句切る。
 そして、形の良い唇が、継続の言葉を形成し始めた。
「先も言いました通り、エインヘリアル軍の指揮権はモーゼス王子にあります。あなた方の意図に対する障害も全て提示しました。これ以上はモーゼス王子と合流後、彼の王子の判断によって行われるでしょう」
「それが、ホーフンド王子が生き残る最上の道だと、貴方は思うのね?」
 眼前の秘書官がホーフンド王子の生存に最も重きを置いていることは理解していた。
 そのミライの問いに、しかし、ユウフラは是も否も言わない。
「そう捉えて頂いて構いません」
(「とは言え、そうなんじゃろうなぁ」)
 ケルベロスに下れば裏切り者の汚名を、だが、戦えば死の影が付き纏っている。ならば、指揮権のある人物を口説くことが最良だと言う主張は理解は出来る。
 そして、提案と現状が大きく乖離していることもまた理解の対象だ。
「以上が私たちの出来る最大限の譲歩案となります」
 話は終わりとユウフラは首を振る。
「ホーフンド王子は何も言ってくれないの?」
 何とか食いつこうとするめぐみの言葉にしかし、
「私に委ねられた。そう告げたつもりですが」
 それ以上は会話をするつもりはないと、にべも無い答えが返ってきた。

●この声が届くなら
「結局、交渉は失敗と言うこと?」
「ホーフンド軍の現状を把握出来た。だから、偵察だけならば果たせたわ」
 リリエッタに返事するキアリの言葉は重い。
 重いのは言葉だけでは無かった。白羊宮とユウフラに別れを告げ、東京焦土地帯を歩くケルベロス達の足取りは重く、サーヴァント達にもそれが伝染したかのように、遅い歩みとなっていた。
「双児宮はどうなってるだろうね?」
「金牛宮も、です」
 めぐみの言葉に璃音が続く。
 せめて、ユウフラ達との交渉が再開出来る状態で止めてくれれば。
 縋るように祈るが、それも難しいことを彼女達は知っていた。
「難しいよね」
「はい。そうですね」
 ローレライの呟きに、ミライのしゅんとした声が重なる。
 次回に繋ぐことが出来た。それは事実だ。
 ただ、その繋ぐ条件はもはや破綻している。それは、希望が途切れたのと同義だった。
「小夜班に連絡を取らんとな……」
 だが、バラフィール達にどう伝えた物か。ありのまま報告する以外、方法は無いと理解しているが、それでも気が重い。
 はふりと零れた括の溜め息の深さが、ケルベロス達の心境の総意でもあった。
「人類の叡智を……むむ……」
 返却された手土産を見ながら、刃蓙理は唸る。王子の身辺を考えれば受け取るわけにいかないとユウフラに断られた小包を抱えた彼女は、いつかわかり合える日が来ればいいのに、と思ってしまう。
 その日の到来を、願ってやまなかった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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