●
辺りに響き渡る女の声は憎悪だけを滲ませている。その怒号に顔を、腹を、叩かれながら、『ヘイズルーン』の三戦士はただ、ただ立ち尽くしていた。
『犯罪女王』エフェメラは形のいい唇を歪めると、親指の爪を噛んだ。腕に巻き付く白蛇が、しゅるりと赤いリボンのような舌を出す。女エインヘリアルの腕にきついてなお胴は太く体は長いのだか、ら、超がつくほど巨大な蛇だ。
「ああ、気に入らない。だって、私は負けたわけじゃないんだから」
事実、エフェメラ軍は巨蟹宮「ビフレスト」跡でケルベロスたちとぶつかり、配下の戦士を五分の一ほど減らしはしたが、まだまだ戦えた。にもかかわらず、撤退したのは――。
(まさか……あの英雄王が倒されるなんてね)
エインヘリアルの王、英雄王シグムンドは逝く直前に最後の命令を天秤宮に放った。
ケルベロスたちに制覇されていなかった神殿、『白羊宮「ステュクス」』『金牛宮「ビルスキルニル」』『双児宮「ギンヌンガガプ」』を、ヴァルハラ大空洞から地上へ転移させたのだ。
これら三つの神殿は、地上に転移するや敗走兵を貪欲に取り込んだ。防衛力、そして攻撃力の強化のためだ。
そういうわけで、エフェメラたちはいま、蒼のビフレストに突入せんと邁進する『金牛宮「ビルスキルニル」』にいる。兵士として召し抱えていた犯罪者たちは、ほぼ金牛宮の守りに取られてしまったが。
女王さまの怒りがひと段落したのを見計らい、体よりも大きな戦斧を携えた戦士がおずおずと前へ進み出た。金髪碧眼の少年は元が奴隷らしく、首や手足に枷がはまったままになっている。
「エフェメラさま、そろそろ鎌倉駅です。僕たちもビルスキルニルから出撃しましょう」
後の悪逆暗殺者と悪逆戦士が、奴隷戦士の案に賛成だと武器を掲げた。
「お前たち、少しは頭を使いな。外で複数部隊のケルベロスたちを相手に戦うよりも宮殿の中に入って来た一部隊と戦う方が、安全かつ確実に仕留められるだろ」
おお、と三戦士はそろって称賛の声をあげる。
「まんまとビルスキルニルに乗り込んできた連中を狭い通路に誘い込んで、挟み撃ちにしてやろうじゃないか」
「さすが、エフェメラさまだ。アタマいい!」
「おとり役はお前がおやり。その枷と鎖がいい感じに脱走者に見せてくれるだろうよ。ケルベロスたちに寝返るフリをして、捕らわれているほかの反逆者たちを助けてほしいとかなんとかいえば、ほいほいついてくるだろうさ」
エフェメラは杖の蛇頭を悪逆暗殺者に向けた。
「お前は逃げだした奴隷を待ち伏せ、殺すふりをして、私たちがケルベロスたちの後ろに回り込むまでの時間稼ぎを頼むよ」
悪逆暗殺者は低い声で御意、と赤髪の頭を下げた。
●
「集まってくれてありがとう。あ、まず、アスガルド・ウォーの勝利に『おめでとう』っていわなきゃね」
ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は集まったケルベロスたちの一人一人手をとって、健闘をたたえた。
ヘリオンの前に戻ると、ゼノは申し訳なさそうに肩をすぼめ、前で軽く両手を重ねた。
「実は、エインヘリアルの残存兵力が、魔導神殿群ヴァルハラの宮殿とともに、地上に出現したんだ。アスガルド・ウォー終結直後、ひと息つく間もなかったわけだけど……これから残存兵力との戦いに向かってほしい」
撃破対象は、第四王子ジーヴァが護っていた金牛宮「ビルスキルニル」。
金牛宮「ビルスキルニル」は、敗残のエインヘリアルの軍勢を吸収し、鎌倉市周辺に出現。蒼のビフレストがある鎌倉駅に向かって進軍を開始した。
青のビフレストは、エインヘリアルの第一王子ザイフリートが、最初の地球侵攻時に使用した『虹の城ビフレスト』の中枢であり、その力を求めての進軍と思われる。
鎌倉と聞いて、ケルベロスたちの目が強い光を放ちだした。
思えば五年前の鎌倉奪還戦の勝利が機転となり、ケルベロス、いや人類の大反撃が始まったのだ。
因縁深い土地で、再びエインヘリアルと戦う――。
一度は壊滅して、ヒールで復興させた鎌倉市街が壊されるのは忸怩たるものがあるが、人々の命さえ守れれば、街はまたヒールで作り直せる。
「幸いというか、五年前の鎌倉奪還戦で一度壊滅した鎌倉市は、市民の避難訓練が徹底して行われていてね。すでに市民の避難は終わっているんだ」
だから思う存分戦ってほしい、とゼノは今回の作戦概要を話す。
「まず蒼のビフレストがある鎌倉駅で待機。やってきた金牛宮が完全に停止する前に強襲し、内部に突入して制圧。作戦は以上」
鎌倉駅に到達すると、金牛宮は移動形態から停止形態へと形状を変化させようとする。その瞬間が攻撃の好機だ。
形態変化時には、駆動部分や変形部分など、複数の箇所からの突入が可能となるという。ピンポイントで狙った敵と戦う事が出来るらしい。
「うん、実はね、今回かなり詳細な予知を得ていて……みんなには、罠を仕組んでいる『犯罪女王』エフェメラと戦ってもらう」
詳細な予知が出来た理由は、現在のところ不明だ。もしかしたら、制圧した『獅子宮「フリズスキャルヴ」』の影響があるのかもしれない。
「みんなが金牛の右肩の駆動部から宮の内部に入った直後、エフェメラ配下の戦士が助けを求めて駆け寄ってくる。予知ではそのあと、みんなを偽の追手が待つ狭い通路へ誘導するよ。で、二体で臭い芝居を打ったあと、後ろからエフェメラともう一体が襲い掛かってくるんだ。いわゆる挟み撃ちだね」
ゼノはケルベロスたちを拝み、どうか騙されたフリをして、逆にエフェメラをおびき出して欲しいと頼んだ。
「助けを断わっておとりと戦ってしまうと、予知が狂ってエフェメラたちは別の場所のべつのチームを襲う……最悪、逃げてしまうかもしれないんだ。だから、臭い芝居に我慢して付き合って」
誘い込まれる通路はエインヘリアルの巨体に合わせて作られているので、狭いといっても戦えないほどではない。ただ、挟み撃ちにされるので、前後の距離をとることができないので注意だ。
「通路はエインヘリアル兵が二体並んでゆったり歩くことができる幅と高さがある。みんなは余裕で四人並んで武器が振るえるはずだ」
急いで作った資料をケルベロスたちに手渡す。
「ケルベロスたちを通路に誘い込むおとりは、金髪の少年……奴隷戦士。その奴隷戦士を捕まえて殺す芝居をうつのは赤い髪をした悪逆暗殺者。便宜的に彼らを『前』と呼ぶよ。『前』が使う武器やグラビティは資料をみてね」
ケルベロスの後ろに回り込んで襲い掛かって来るのは『犯罪女王』エフェメラと悪逆戦士だ。
「『後』は出口側になる。不利な状況になるとエフェメラは部下を見殺しにして、金牛宮の外に逃げ出すかもしれないから、しっかり対策を練っておいてね」
ちなみに、金牛宮が鎌倉駅で形態変化する理由は、移動形態のままでは止まれないからだ。移動形態は『巨大な牛』の姿で、停止形態は『宮殿型』となる。形態変化中はトールの雷が使用できないから、その点、安心なのだが。
「エインヘリアルが蒼のビフレストで何をしようとしているのかは判らないけど、放置する事は出来ない。鎌倉でエインヘリアルの残党を一気に殲滅しよう!」
参加者 | |
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水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
ステイン・カツオ(砕拳・e04948) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
除・神月(猛拳・e16846) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383) |
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764) |
●
美しく弧を描く古都の海岸線を背に、黄金に輝く巨牛が前脚の膝を折ってゆっくりと体を沈ませていく。
「覚悟はイイか? やつラの三文芝居を楽しんでやろーゼ!」
除・神月(猛拳・e16846)はジェットパック・デバイスを起動させた。
敵は変形中、宮殿を守る稲妻を発生させることができない。この機にケルベロスたちはジェットパック・デバイスを使用して金牛宮に飛行接近、駆動部分に生じた隙間から宮殿内部に潜入した。
「とりあえず、みなさんの移動速度をアップしておくです」
今度はマロン・ビネガー(六花流転・e17169)がチェイスアート・デバイスを起動させて、不可視のビームで全員の足を繋ぎ、全員のスピードアップを図った。
入口でもあり出口でもある駆動部分を振り返った那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)は、差し込む光に輪郭を淡く溶かされた人物に声をかける。
「ねえねえ、いつまでもそこに立っていると挟まれちゃうよ」
「マジか」
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)は、いまもなお変形を続ける駆動部分から急ぎ離れた。
「いくらボクに医術の心得があっても、体が半分にちぎれた人は治せないからね」
「そりゃ大変だ」
摩琴に礼をいい、それとなくあたりを見まわす。
「イカサマするには丁度いい暗さだな」
床近く、といっても人の膝あたり、等間隔で灯された間接照明が果ての見通せない奥までずっと続いている。
「まあ、戦う分には問題ないだろう……て、何をしている?」
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)が床に這いつくばっていた。
「敵の位置なら俺のこのゴッドサイト・デバイスで……」
「はい、それはゼフト様にお願いいたします」
ステインは体を起こすと、顔を通路の奥へ向けた。右手の親指と人差し指をしきりに合わせては離す、をくりかえす。
「もっとも、御覧のとおり通路は一直線……ここから見る限りでは横道もないようですから、金髪坊やとすれ違う可能性は皆無でございましょう」
「じゃあ、なんで。なんで、床に耳をつけていたの?」
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)は、ピンク色の蹄でコツ、コツ、コツと床を鳴らした。
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は、中折れ帽の窪みに指をやって頭から取った。飛行時に乱れた前髪を、手櫛でさっと整える。
「――エフェメラはこの直線通路でどうやって俺たちを挟み撃ちにするつもりなのか。それを調べていたんだよな?」
「御明察。私は床に耳をつけていたわけではございません。床の汚れを調べていたのでございます。ここに機械油が少し、直線状に染みでておりました。いやー、職業柄いつでもどこでもヨゴレが気になっちまう。チッ、クソ下手なメンテナンスクリーニングをやりやがって」
「あ、ほんとうだ。よく見つけたね。さすがプロのメイドさん」
ティフは床の直線を目で追い、首をぐるりと回した。同時にさらっさらの尻尾も一回転したのはご愛敬。
「壁から天井、反対側の壁まで続いて一周しているね。数メートル先に、ここと同じような機械油のあとがあるのかな」
ライドキャリバー『プライド・ワン』に跨った機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が、パチンと指を鳴らす。
「なるほど。この通路、完全停止後も区間ごとに動かせて、自由に組み替えられる仕組みになっているのですね」
「ということは、どこかに通路を動かすスイッチのようなものがあるのではないでしょうか?」、とマロン。
神月と真理は互いに顔を見合わせると、壁の上部を探るために体を浮かせた。
すかさず鬼人が止める。
「残念だがスイッチを探している時間はなさそうだ」
全員の視線が、自然と通路の奥へ注がれる。
おーい、おーい、と両手を頭の上で交差するように振りながら、ボロと鎖を纏う金髪の少年が駆けてきた。
「さあ、みんな位置について。三文芝居の幕をあげるぜ」
●
「助けて、ケルベロス!」
全速力で駆けてきた金髪の少年――奴隷戦士が膝から崩れ落ちる。
とっさに真理と神月が左右から脇に腕を差し込んで、床に顔が打ちつける前に抱き留めた。
「一体なにがあったのですか、あなたはエインヘリアルでしょ? それがなぜ、私たちに助けを……」
神月が、なかなかの演技じゃねエか、と目だけで笑う。
ゼフトは上下する奴隷戦士の背中に薄笑いを向けた。
「助けを求めるものに手を差し伸べるのがケルベロスだ。とにかくワケを話してみろよ」
誠実に、なるべく誠実に聞こえるように。せいぜい腐心したが、どうしても声に軽蔑の色が出てしまう。
(「この調子じゃ、棒読みでも分らないだろうがな。それにしても案外マジメか、こいつ」)
演技だと思っていたが、どうやら本当に奥の奥から全速力で駆けてきたようだ。
ようやく上がっていた息が落ち着いたのか、奴隷戦士が顔をあげた。
「ボク……いえ、ボクたちは極悪非道のエフェメラに反逆し、定命化を受け入れるため軍を脱走したんです。でも、そのことに気づいたエフェメラとその手下たちに――」
「あなただけでも助かってよかったです」
マロンの優しい言葉を受けて、奴隷戦士はわざとらしくしゃくりあげ始めた。ひっくひっくとウソ泣きをする。
その間に摩琴は奴隷戦士の周りをゆっくり廻った。
「どこか怪我をしているところ、ない? ボクがすぐ治してあげるよ」
もちろん、治療するつもりなど一切ない。戦いになったらすぐ倒せるように、じっくり観察して弱点を探しているのだ。
そんなこととは露知らず、奴隷戦士はくさい芝居を続ける。
「ありがとう。怪我は……ありません。それよりも、捕まってしまった仲間たちを助けてください! いますぐ戻れば、きっと助けられると思います。お願いします」
奴隷戦士は、青い目にうっすらと涙をうかべて、ケルベロスたちにすがる。
ステインは見た。
(「あらヤダ」)
人と人の間の細い隙間から覗き見して、奴隷戦士がこっそり腰布の下から取りだした、目薬のようなものを注すところを。
(「エインヘリアルのくせにどこでそんな小技を覚えやがった」)
能面顔の下に軽蔑の念を押し込めたメイドの隣で、ティフは必死に懇願する奴隷戦士の姿に哀れに思っていた。
(「予知でネタバレしてるっていうのは恥ずかしいね。わたしだったらいたたまれなくて死にそう……!」)
このまま見続けていると、身悶えだしてしまいそうだ。ティフはカカカッと軽やかに蹄を打ち鳴らして、奴隷戦士の注意を引きつけた。
「もちろんだよ。みんなを助けにいこう、案内して。あ、そうだ。わたしの背中に乗る? ここまで必死に走ってきたから、疲れているでしょ?」
そうするといいです、とマロンがほんわか口添えする。
えっ、と奴隷戦士が声をあげた。意外な申し出に、ウソ泣きを忘れてきょとんとしている。
「ぼ、僕、意外と重いよ? それに女の子に乗せてもらうのって、ちょっと気が引けるなぁ」
重いのは見れば解る。少年ではあるが、エインヘリアルには違いない。身長も体重も、ここにいるケルベロスの誰よりもでかいのだから。
ティフは細い腕を曲げて、力コブを作ってみせた。
「こう見えてわたし、意外と力持ちさんなんだよ。えっへん」
「いや、この場合は腕力じゃなくて脚力を見せるべきだろう」、とゼフトが茶化す。
ここまで無言で見守っていた鬼人が静かに口を開いた。
「真理のパートナーか、摩琴のレスキュードローンか。どっちかなら、男のブライトが傷つかなくていいだろ」
「あ、うん。……パートナーって、もしかしてあのカッコイイ一輪バイク?」
奴隷戦士にキラキラした目を向けられた途端、『プライド・ワン』はさっと真理の後に隠れた。絶対いや、と言わんばかりにヘッドライトの色を赤して、キュルキュル音をたてて車輪を回す。
するとサーヴァントの意思が伝わったらしく、奴隷戦士はしゅんとしょげた。が、すぐに顔を好奇心いっぱいにして『レスキュードローン・デバイス』へ向ける。立ち直りが早い。
「これこれ、この乗り物……最近だよね、ケルベロスが乗りだしたのって。一度、近くでよく見てみたかったんだ。ねえ、乗っていい?」
どうぞ、と促され、奴隷戦士はわーいと声をあげた。
ガキが、とステインがこっそり毒づいた。
嬉々としてレスキュードローン・デバイスに乗る様子に、鬼人も暗いため息をつく。
(「マジで、仲間になりたいのなら、相談にのるんだが、な……。ままならねぇもんだ」)
このまま戯れ続けていたら、相手にその気がないと分かっていても、情が湧いてしまいそうだ。それこそエフェメラの思うつぼというもの。さっさと残りの三体にもご登場願わねば。
「お喋りはここまで。全速で救助に向かうぞ」
『プライド・ワン』に乗った真理と神月が先頭を走り、そのすぐ後を奴隷戦士と摩琴、ゼフト、マロンを乗せたレスキュードローン・デバイスが飛ぶ。
「なんで私らは、ドローンの後ろを走らされているのでございましょう」
ぼやくステインに鬼人がいう。
「俺たちが乗ると定員オーバーするからだ」
レスキュードローン・デバイスの定員は八人。定員は乗る人によって、少なくなったり、多くなったりする。つまり――。
「クソが、無駄にデカくなりやがって」
「エインヘリアルだもんね。仕方ないよ。わたしはかけっこ大好きだよ」
ティフはいたって無邪気だ。本当にいきいきとギャロップしている。
しばらく行くと、奴隷戦士があっと声をあげた。
「止まってください、危険です。前に悪逆暗殺者がいます!」
「彼は敵なんだよね?」
「はい、敵――って、なんでスピードをあげてるんだよ?!」
摩琴は奴隷戦士を無視して、前を走る真理たちに霊エネルギーで作る不可視の鎧をまとわせた。
「危ないだろ! 止めろ、止めろーっ!」
立ち上がろうとした奴隷戦士を、ゼフトとマロンが抑え込む。
「危ないのはお前だ」
「そうですよ、座って見ていてくださいです」
そうこうしているうちに、驚愕に目を見開く悪逆暗殺者がぐんぐん迫ってくる。
「はい、どーん! です」
まず、『プライド・ワン』に跨った真理が、無駄に反復横跳びしてフェイントをかける悪逆暗殺者をみごとに捉え、はねた。
ヨロリと立ち上がったところへ今度は、奴隷戦士たちを乗せたレスキュードローン・デバイスが最高速度で突っ込んでいく。
悪逆暗殺者とドローンが接触した刹那、マロンたちは奴隷戦士を前へ蹴り落とした。
「うわー!」
「うおー!」
二体は団子になって通路を転がった。
「わー、たいへんだー」と摩琴が抑揚のない平たい声でいう。
「やめろ、悪逆暗殺者!」
ゼフトは明らかに面白がっていっている。
「卑怯だゾ、いますぐ人質を離セ」
神月にいたっては、あからさまに笑っていた。
「――あ? え? い? うん? お、おう。こいつを殺されたくなかったら、そこを動くな!」
悪逆戦士は顔に乱れかかる前髪をバサーッと乱暴に払いあげると、鼻血を垂らす奴隷戦士の首に腕を回し、刃の先を喉に突きつけた。
「くそっ、救えなかったか……!」
膝をガクリと落として悔やむ(フリ)ゼフトに、敵味方全員で「はやい、はやい」と突っ込みを入れる。
「勝手に殺さないでよ、もう」
鼻血小僧の一言で、ふわっ、と場の雰囲気が緩んだ瞬間、通路がごとりと音をたてて動いた。
●
きっちり通路の幅分、通路ブロックが離れた。できた奈落にスポットライトが当たり、ごうぉん、ごうぉんと音をたてセリがあがってくる。
「えっ、後ろから! 挟み撃ちだなんてまさか!」
マロンが渾身の演技で慌てふためく。
「おーほっほっほ! 引っ掛かったね、ケルベロス」
『犯罪女王』エフェメラと、兜を深くかぶった悪逆戦士が現れた。
「はっ、エインヘリアルが揃いも揃って挟み撃ちかよ。古強者が聞いて呆れるぜ」
ステインはガネーシャパズルを組みかえて、怒れる女神カーリーの幻影を悪逆戦士の前に投影する。
「そんな手で手柄を取ろうなんざ考えてるから、ラザニアパンに及ばねえんだよ!」
「くっ! お前たち、やって――」
エフェメラが言い終える前に、女神の逆鱗に触れて狂った悪逆戦士がステインに突っ込んでいく。
「あぶない!」
ティフが庇いに入った。
鬼人はすばやく三歩前へ進み出ると、腰をすっと沈めた。悪逆戦士とすれ違いざまに、居あい抜きで太い腱を半月切りする。
悪逆戦士は腕を前に投げ出して、顔から倒れた。
「なにしてんだい、とんま!」
エフェメラは白蛇の杖で悪逆戦士の後頭を叩いた。パコンと音をたてて兜と髪の毛が外れる。
まさかのズラ!?
現れた禿頭にスポットライトの光がピカリと反射して、ティフの目を射抜いた。
「まぶしーい!」
音速を超えた前脚の蹄が悪逆戦士をぶっ飛ばす。
そこにラザニアパンの笑い声がけたたましく響いた。
――あはははははっ!
「こ、この笑い声は、まさか!?」
「ケルベロスに大人気、ラザニアパン人形です」
マロンが頭を押しつつ可愛がると、また通路に笑い声が響いた。
「あんた、この妙に旨そうな名前の奴に嫉妬してるのか?」
こめかみに青筋を立てたエフェメラを、鬼人が流星の蹴りを放って威嚇する。
「うるさい! 奴隷戦士、悪逆暗殺者、やっておしまい!」
それまでケルベロスたちの後ろに突っ立っていた、奴隷戦士と悪逆暗殺者が武器を構えて襲ってきた。
同時にエフェメラも鬼人の罪を盗んで心にトラウマを植えつける。
ゼフトは奴隷戦士が振り降ろした魔斧をかわした。
「お前らの手違いでそのまま本当に逝っちまえば良かったのによ」
足払いをかけて転ばすと、そのまま反転。両手に構えたバスターライフルでエフェメラたちを撃つ。
「ぐっ……おのれ!」
お返しとばかりにエフェメラの巨大な白蛇が毒の霧を吹く。
ステインが稲妻を飛ばして足止めし、毒を受けながらも真理が『プライド・ワン』を駆って悪逆暗殺者を倒した。
報復の応酬が激しさを増すなか、摩琴は懸命に仲間を治療して戦線を維持する。ティフも黄金の果実をばら撒いて、みんなにつけられた穢れを払う。
ケルベロスの猛攻に悪逆戦士が倒れ、ついに奴隷戦士も倒れた。
「ちくしょう、なんでこんなことに!」
エフェメラが白蛇の杖を振り下す。
鬼人は無造作に峰で受けて肩口に流し、無拍子に杖を返えすと、そのまま片手薙ぎの斬刃を放った。
『刻め!』、とステインがどす黒い悪意の塊をぶつけて傷口を広げる。
胸に黒い血の華を咲かせた犯罪女王がよろめく。
(「『犯罪女王』、もっと狡猾で悪い人かと思ってた。ちょっとだけ、話しをしてみたいけど……」)
摩琴は愛銃・銀のコルトパイソンPPCカスタムをホルスターから抜いた。
『撃ち抜け! High Speed Specter っ!!』
血の華が散華し、エフェメラは奈落に落ちて消えた。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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