魔導神殿追撃戦~ジェミニの狂想曲

作者:小鳥遊彩羽

●魔導神殿追撃戦
「エインヘリアルとの決戦、本当にお疲れ様!」
 エインヘリアルの英雄王シグムンドを討ち取り、アスガルドゲートの破壊に見事成功した、先日のアスガルド・ウォー。その勝利を労いながらも、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は真剣な表情で続く言葉を切り出した。
「でも、エインヘリアルの残存兵力が、魔導神殿群ヴァルハラの宮殿と共に地上に出現してしまった。引き続き激しい戦いが予想されているけれど、どうか皆の力を貸してほしい」
 対応に当たって欲しいのは、第三王子モーゼスが護っていたとされる双児宮「ギンヌンガガプ」だ。
 双児宮「ギンヌンガガプ」は、レプリゼンタ・スルトを残して滅んだとされる『終末の巨人族』の模倣体――ユミルの子のような巨大エインヘリアルを造り出す装置があるらしく、巨大エインヘリアルの軍勢が周囲を固めているという。
 これに加えて、第三王子モーゼスはダモクレスに由来する機械技術を導入し、双児宮の防衛力を強化している危険性がある。
「出現した双児宮は、現在、載霊機ドレッドノート付近で停止している。でも、どうやら宇宙空間に向けて謎の電波を送っているみたいで、何だか良くないことを企んでいるようなんだ」
 勿論良いことであるはずはないだろうけど、と小さく肩を竦めてみせつつ、トキサは話を続ける。
 双児宮の周囲には巨大エインヘリアルの防衛網が構築されており、内部に突入するにはまずこの巨大エインヘリアルを撃破する必要がある。
 幸い、双児宮は今のところ出現場所に留まっており、すぐに動き出すような気配がないため、今回攻略が叶わなくとも情報を持ち帰ることができれば、それらを元に再突入も可能となるかもしれない。
「そして、双児宮を護っている巨大エインヘリアルについてなんだけど……」
 確認されている巨大エインヘリアルは、ユミルの子、獣型巨人、光の巨人の三種。巨大エインヘリアルは数が少ない上に単独で哨戒活動を行っているので、外縁部で一体を狙って撃破すれば、その間隙を縫って双児宮に近づくことが可能だ。
 だが、巨大エインヘリアルは外縁部以外でも歩き回っており、その警戒をやり過ごすための行動も作戦を遂行するために考えなければならないだろう。
「とにもかくにも、まず最初の一体をどれだけ素早く倒せるかにかかってくる」
 まるで病魔を纏ったかのように不浄な肉体や千切れた肉片同士が融合して蘇る、異常な再生能力を持つとされるユミルの子。
 地球のあらゆるものを暴食し、新たな兵を産み落とすと言われる獣型巨人。
 光り輝く星霊甲冑を纏った強大なエインヘリアルである、光の巨人。
 これらの内一体を狙って撃破することで、初めて双児宮へ続く道の最初の入口が開かれる。
 その後も巨大エインヘリアルの警戒を突破し、双児宮「ギンヌンガガプ」を守る『魔獣巨人キメラディオス』を撃破。そうしてようやく双児宮の内部に潜入することが出来るのだ。
 なお、双児宮「ギンヌンガガプ」の所在地は載霊機ドレッドノートの近辺となるため、現地の地形を生かした戦い方も作戦によっては可能だろう。
「……とにかく考えることがたくさんあるから、正直とても大変だと思う。でも、もしも、宇宙に向けて発信している電波で、竜業合体のドラゴンやダモクレスなんかとの交信を目論んでいたりしたら、急いで対処しなければ間に合わないかもしれない。可能ならこの装置を破壊するところまではと思うけれど、詳しいことはわかっていないし、何より無理は禁物だからね。お兄さんとの約束だよ」
 作戦に参加する総チームの数によっては、モーゼス王子を討ち取ることも不可能ではなくなるだろうが、逆に少ないようであれば情報を持ち帰ることが精一杯になるだろう。
「いずれにしても、出来る限りの戦果を期待したいところ。でも、今言ったばかりだけど、くれぐれも無理はしないようにね!」
 トキサはそう言って説明を終えると、ヘリオンの操縦席へと向かうのだった。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

 ――双児宮「ギンヌンガガプ」周辺。
 警戒に当たっていた光の巨人を撃破した一行は、同胞達と共に双児宮の門番である魔獣巨人キメラディオスとの戦いに臨んでいた。
「かなりの防衛戦力でありますね。しかし、突破して侵入してみせるであります! ――まだ倒れるには早いであります! 光よ!」
 激しい剣戟の音が響く中、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)が凛とした声を上げると同時、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)の身体を蒼き癒しの光が包み込んだ。テレビウムのフリズスキャールヴも、顔いっぱいに応援動画を映し懸命に支えてくれている。
「ありがと! 大丈夫、まだまだいけるよっ! ――ラーシュ!」
 マイヤが掲げた手の先から、夜明けの光が物質の時間を凍結する弾丸となって放たれると、すぐさま箱竜のラーシュがボクスブレスを吐き出し、門番への攻撃を重ねていく。
「流石に頑丈だねぇ。でも皆、どうやらあと一息のようだよ」
 三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)の声に、まるで威嚇するように咆哮を上げる門番は、ケルベロス達の猛攻を受け既に満身創痍であった。
 その喉元へ刃を届かせようとしている同胞の背を押すべく、千尋は避雷の杖から光を飛ばし、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)の内に眠る力を呼び覚ます。
「貴方の運命は……皇帝の権限にて、命じます!! ――『止まれ』」
 占いを得意とする沙耶が示すは門番の運命。皇帝が発する権限により動けなくなった門番を前に、神宮時・あお(彼岸の白花・e04014)がそっと唇を開いた。
『……世界を、覆い、隠す、最果てへと、誘う、悲しき、調べ』
 緩く伏せた双眸に祈りを重ね、あおは歌う。
 知覚や感覚を奪い、終焉へ導く――暁光の魔力を乗せた歌声が、門番を包み込む。
 即座に踏み込んだレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)が、地獄化した炎の両腕を飾る巨大な縛霊手から魂を喰らう降魔の一撃を放ち、更に軽やかに門番の懐へ飛び込んだ影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が空の霊力を纏わせた斬霊刀で三度斬撃を刻みつけ、傷口を広げた。
 どれほど傷ついても決して退くことなく、ケルベロス達を睨みつけてくる門番。
 その眼差しを受け止め、リナは静かに告げる。
「門を守るために必死なんだね。でも、こっちも立ち止まってなんかいられないんだよ」
「だ、だめ、ですよ……はい降伏します、とは、いかないで、しょう、けど」
 たどたどしく紡ぎながらも、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は躊躇うことなく紅い輝きを放つ金属糸で門番を縛り上げた。すると、翼猫のヘルキャットがふっくらとした体をぐるんと動かし、ふさふさの尾から力強く輪を飛ばして攻撃を重ねて――。
 ――程なくして。
 同胞たるオラトリオの手により空から降り注いだ無数の光の煌めきが、キメラディオスへ終焉を齎したのだった。

 門を切り拓いたケルベロス達はキメラディオスが移動してきた方向に進み、双児宮の東側の宮殿へ辿り着いた。
 巨大エインヘリアル製造装置の破壊を目的に集まった四つのチームは、それぞれに別れて探索へと向かっていく。
 沙耶のゴッドサイト・デバイスで大まかに味方の位置を把握しつつ、一行は進む。
(「見るからにきな臭い所だねえ……鼻がひん曲がりそうだ」)
 周囲を確りと警戒しつつそうぼやく千尋に、ウィルマがこくりと頷いてみせる。
(「大体、いい感じに、ばらけてます、ね。後、は、どこがうまいこと当たりを引けるか、です、ね」)
 声を出さない会話は、マインドウィスパー・デバイスによるものだ。
 そうして、どれほど歩いただろうか。
 あおがぽつりと、皆へ告げる。
(「……獣の声が、聞こえ、ます。皆様、お気を、つけて……」)
 そして、一行はとある区画へと到着した。
「ここは……っ」
 生臭い空気が満ちる中に広がる悍ましい光景に、リナは思わず息を呑む。
 そこでは、巨大化した猛獣――おそらくはライオンだろうか、顔の周りに鬣らしきものが見える獣が一心不乱に肉片のような物を貪っていた。
 獣が肉を飲み込む度に、少しずつ体の一部が盛り上がっていくのがわかる。
 異様な光景だったが、よく見ればわかることもあった。
「あのお肉みたいなのを食べて、ライオンが大きくなってるみたい。……そういう実験をする場所なのかな?」
「恐らくは。あのキメラディオスの部位であったパーツも、ここで生産されていたのではなかろうか」
 マイヤがこぼした疑問に、レーグルが深く頷く。
 猛獣に何らかの肉片を与えることで巨大化させ、キメラディオスの部位となるパーツを作り出していたのだろう。あるいは、『巨大化させること』そのものの実験を行っていたとも言える。
 いずれにしても、ここで造り出されたパーツでキメラディオスが生み出されたのだろうと想像するのは容易かった。
「酷いことを……!」
 人一倍正義感の強いクリームヒルトが、怒りに肩を震わせる。
 ――その時。食事を終えたライオンが、ぎろりと、ケルベロス達を睨みつけた。
「来ます! 皆さん、気をつけて!」
 沙耶が皆へ知らせると同時、獅子が襲い掛かってきた。
 すかさずクリームヒルトが飛び出し、蒼い光を放つ盾でライオンの牙を受け止める。
 その隙に、左右からあおとマイヤが同時に踏み込んだ。
 ふわり、羽ばたいて舞い上がったあおは、空中から流星の煌めきと重力を乗せた蹴りで獅子を床へと叩き落とし。
「上を向いて、きっと願いは叶うから」
 マイヤの声が示す先、空を眩く満たした無数の星の煌めきが獅子を照らしながら零れ落ちて、永遠の時間に繋ぎ止めるように、ラーシュが吐き出したブレスと共にその身へ浸食していく。
 お見事、と口笛を吹きながら、千尋はエレキブーストでクリームヒルトに癒しと力の光を注ぐ。
(「獣、には、罪は、ありませんから……まあ、怒るのは当然、でしょう、か……」)
 心を研ぎ澄ましながら、ウィルマは思考を巡らせる。
 ――グオオオオッ!
 ヘルキャットが鋭い爪を突き立てた直後、ウィルマが放ったサイコフォースにより、獅子の体が爆ぜる。
 すぐさまレーグルが放った地獄の炎弾が、猛る獅子の生命力を吸い上げていく。
「楽にしてあげるからね……! 風舞う刃があなたを切り裂く――」
 リナが振るった刃から躍り出る魔力の刃。そこに重なる幻術が、魔力を無数の風刃と変えて獅子を斬り裂いた。
「さあ、もう終わりです!」
 沙耶が構えた魔法の杖、もといライフルから放たれた光弾が、獅子の力を弱めていく。
「助けられなくて、守れなくて、すまない……であります!」
 ケルベロス達の猛攻に、巨大な獅子が力なく声を上げながら膝をついた――その時には既に、クリームヒルトは高速演算で敵の構造的弱点を見抜いていた。
「こんな酷いことをする奴らは、ボク達が必ずやっつけるであります! だから、どうか安らかに眠ってほしいであります……!」
 クリームヒルトは獅子を動かす心臓の部分へ真っ直ぐに狙いを定めて――。
 痛烈な一撃を刻み込めば、衝撃により限界を超えたのだろう獅子の体が、砂となって崩れ落ちた。

「このような場所は……あってはならないであります」
「うん、わたしもそう思うよ。兵器にされちゃうなんて、悲しいだけだもの」
 声を震わせるクリームヒルトに、マイヤが想いを寄り添わせる。
 猛獣を撃破した一行は、この区域を破壊してから先に進むことにした。
「向こうに複数の敵の反応がありますね」
「急がねば。嫌な予感がする」
 ゴッドサイト・デバイスを操る沙耶の声にレーグルが駆け出すのを追って、他のケルベロス達も続く。
「その先です、真っ直ぐ!」
 目指していた場所は遠くはなく、どうやら別の方向からも同胞達が駆けつけてくれたようだ。
 集まったのは自分達を含めて三チーム。果たして、そこには――。
「あれは……どう見ても敵、だよね?」
 確かめるようにそう呟いたリナ自身も、首を傾げるばかり。
 先にここの調査を行っていたであろう同胞達と対峙するのは、彼らをそのまま写し取ったかのような姿の――『巨大化した生き物のような何か』。
「みんな、大丈夫!? これは一体、何が起きてるの?」
 はっと我に返ったマイヤが『本物』のケルベロス達へ案じるような声を投げる。
「あぁ、とりあえず生きてる。あれだ、能力コピーされて巨大化された」
 巨大化した彼らと対峙する同胞の一人、軋峰・双吉の答えは、至ってシンプルだ。
 彼らの能力が写し取られ、更に巨大化した敵。
 何故そうなったかを考えるまでもなく、やるべきことは決まっていた。
「取り敢えずあのでっかいそっくりさんを倒せば良いんだね? コッチはアタシらが引き受けるよ!」
 悠然と構えながら告げる千尋に、レーグルも頷いて。
 巨大化した『誰か』の眼差しに気圧されそうになりながらも、あおはきゅっと唇を引き結んだ。
「仲間の姿、を、した敵をこ、殺させる……とは、悪趣味ではあり、ますが……見た目、能力、そ、それだけ、では……」
 ウィルマとしては、目の前の『あれ』らに惑わされる仲間達の姿を見たかったものだが、ウィルマ自身でさえ心動かされない敵を前に、彼らが惑わされるはずはなく。
「どんな姿でも負けないよ。――風舞う刃があなたを切り裂く!」
 連戦の疲れを見せぬ動きで、リナはリコリス・セレスティアのコピーへ狙いを定め、魔力と幻術が織りなす無数の風刃を見舞う。
 手足を切り裂かれた巨大リコリスは、リナの動きを阻もうと時空凍結弾を放った。
 射線に割り入ったレーグルが三発の弾丸を受け止めるも、すぐに千尋が癒しと浄化のオーラをレーグルへ向けて。
「それで、は……よ、よろしくお願いし、ます」
 我関せずの態度を崩さないヘルキャットを横目に、ウィルマは款冬・冰のコピーと向き合っていた。
 ウィルマの手から伸びた紅糸が巨大冰へと絡みつく。
 同時に巨大冰が放ったのは氷のような竜砲弾。冷えた音を連れて放たれた轟竜砲がウィルマを貫くかに見えた刹那、庇いに入ったクリームヒルトが蒼き光の盾で弾き返す。
「見た目と能力だけが同じだけの敵であるならば、ボク達は決して負けないであります!」
 光のない眼差しで敵であるこちらを見つめる巨大ケルベロスは、感情もなく淡々と写し取った能力を行使しているだけのよう。
「偽物が、本物より強いなどあるはずはありません!」
 毅然と告げた沙耶は鳥を模した木槌を振るい、お返しとばかりに巨大冰を轟竜砲で貫く。
 すると、鞘柄・奏過のコピーの手により、戦場に薬液の雨が降り注いだ。
「メディックか。ならば、――奏でよ、奪われしものの声を」
 素早く判断したレーグルはすかさず両腕から地獄の炎を放ち、巨大リコリスへと呪詛を刻みつけた。
「そちらはジャマーと見える。此方の動きが封じられてはかなわぬからな」
 ケルベロス達はまず巨大リコリスから倒すことに決め、攻撃を畳み掛けていく。
(「しかし、……シュールだねえ」)
 仲間達を癒しの力で支えながら、軽く肩を竦める千尋。
 とは言え共に数々の激戦を潜り抜けてきた同胞達の、手心のない写し身の強さは確かなもの。癒し手としても、一瞬たりとも気を抜ける瞬間はないと千尋は確り心得ていた。
 マイヤの音速を超える拳が巨大リコリスの動きを完全に停止させたその時、あおは既に巨大冰へと意識を切り替えていた。
 星の尾を引く蹴りに重力を絡め、巨大冰の動きを鈍らせる。そこへ踏み込んだリナが振るうのは空の霊力を帯びた刃。傷跡を正確に斬り広げ、より確実にこちらの攻撃を当てやすくすることが狙いだ。
「――皇帝の権限にて、命じます!!」
 先程門番の運命を見定めた沙耶が、今度は巨大冰の運命を示し。皇帝権限により身動きが取れなくなった巨大冰は、そのまま糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
 巨大奏過がオウガメタルを鎧の如く纏った時には、既にレーグルがその距離を零として。
 放たれた拳が偽りの魂を喰らい、在るべき場所へと還していった。

「終わった……? ううん、まだみたいだよ!」
 息をつく間もなく、リナが奥に繋がれた死骸を指差す。
 それこそが巨大エインヘリアル製造装置の要である巨人ユミルの死骸であり、先程戦った巨大ケルベロス達もそこから生み出されたのだという。また、先の実験場で戦った獅子に与えられていたのも、無限に再生を繰り返すこのユミルの肉だ。
 そのユミルの死骸が大きく震え出し、フリズスキャールヴの顔の画面に大きな『!?』が映し出された。
「おや、今度はアタシらをコピーしようってのかい?」
 怪訝そうに眉を寄せる千尋の側で、あおが控えめに首を横に振り、クリームヒルトが声を上げた。
「大きくなればより皆様を守れるでありましょうが、敵では意味がないのであります!」
 巨大化すれば文字通りの要塞だろう。一瞬真顔になったクリームヒルトに、千尋がその意気だと思わず笑って。
「うん、そんなことは絶対にさせない。みんなで攻撃しよう!」
 マイヤの声にあおが小さく頷き、時空凍結弾を放つ。
「――参る」
 レーグルの地獄の炎が踊り、沙耶のフロストレーザーが突き刺さる。リナの刃が稲妻の力を死骸へ巡らせ、クリームヒルトが高速演算で見抜いた核となる場所へ痛烈な一撃を叩き込む。
 そして――。
「アタシは、生きる。たとえアンタの魂を命の糧にしてでも――なんてね?」
 千尋は右腕部に搭載されたレーザーブレードユニットから形成された光刃を振るった。カワセミやコマドリの囀りに似た独特の駆動音が鳴り響き、光刃が纏う暗緑色の炎が、亡骸に残された魂を侵食していく。
「――さようなら」
 虚空へと手を伸ばし、ウィルマは告げる。
 すると彼女を取り巻く空間が歪み、開かれた地獄から蒼い炎を纏った巨大な剣が引き摺り出されて。
 その一振りが、ユミルの死骸を抉るように切り刻んだ。
 更に同胞達の手によって、炎や氷、暴風が舞い――。
 やがて、その場にいた全員の攻撃によりユミルの死骸は跡形もなく蒸発した。
 これで、巨大エインヘリアル製造装置がその役目を果たすことはもうないだろう。
「お、お疲れ様、でした。今度こそ、我々の勝利、です」
 ウィルマの声に頷いたマイヤが、皆へ振り返る。
「目的も果たせたし、敵が来ないうちに撤退しよう!」
 だが、その直後――。
「……っ、地震!?」
「ここも危ないです、急ぎましょう!」
 遠い所で何かが崩れるような轟音と大きな衝撃に、一行は急いで双児宮を後にする。
 その衝撃こそ、双児宮の二つの宮殿が『切り離された』時のものであり。
 切り離された西側の宮殿が宇宙へ向けて飛び立っていったことを知るのは、まだ先の話である――。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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